理想幹に辿り着いた。この土を踏むのも二回目かと浩二は思う。
あの時は希美を救い出すのが目的だったが今回は望である。
黒いマナは消えていた。ジルオルが消し去ったのか南天神が消し去ったのか……
もしくは自然に霧散して大気に解けたのかは解らない。
遠くから轟音が聞こえてくる。
それと同時にここまで伝わってくる永遠神剣の力の波動。
「ジルオルとイスベルは未だ交戦中か……」
サレスが顎に手を当てて呟く。
そして『天の箱舟』と『旅団』の永遠神剣マスター達を見た。
「今回の敵はジルオル……すなわち、世刻望だ。
……それでも、オマエ達は戦えるか?」
そう問いかけると、皆は力強く頷いて戦えると意思を示した。
殺すための、奪うための戦いではないのだ。
護る為の、助ける為の戦いであるなら迷うことは無い。そして、必ず出来ると信じていた。
「詮無き事だったな……」
サレスは微笑を浮かべながら、準備運動している浩二を見る。
その前には薙刀が突き刺してあった。
傍目にも凄まじい力を放つ、反永遠神剣『反逆』と呼ばれるヒトのツルギが。
「よしっ」
浩二は薙刀を地面から抜いて柄を地面に立てて持つ。それから、ユーフォリアの方を見た。
「そんじゃ俺らは一足先に行くか」
「はいっ。また飛んで行くんですね!」
「そうだな。飛んで行こう」
浩二はニヤリと笑うと『反逆』に力を籠める。
それと同時に体がふわりと宙に浮かび上がった。
「わっ!」
ユーフォリアが驚いている。同じように皆も驚いていた。
「やっぱりな……理論的にはできると思ったんだよコレ」
浩二は、自分の周りの重力を調節して飛んでいるのである。
正確には飛んでいる訳では無い。重力と反重力を上手い事調整して浮かんでいるのだ。
ベルバルザードの『重圧』の力を見てきた浩二は、
彼を倒す為にはどうしたらいいか? というのを考えると同時に、
自分がベルバルザードだったら、どうするだろうかと言う事を考えてきた。
その時に思ったのだ、重力を操れるなら飛べるのでは無いだろうかと。
ベルバルザードがどうして空を飛ぶことをしなかったのかは解らないが、
自分なら絶対に、飛んで上から攻撃をしてやるのにと思ったものだった。
―――たが、真実は異なる。
ベルバルザードも自分の神剣の特性を知る上で、空を飛ぶ事は考えた。
高みより低きを狙うは兵法の常道であるのに、ベルバルザード程の兵法者がそれを考えない筈が無い。
考えて、試してみたが飛べなかったのである。
単純に重量の方向を変える事ぐらいならできるが……
重力の付加とエネルギーの割合などを微調整して、空を飛ぶというのは並大抵の技術では無いのだ。
おそらくベルバルザードが生きており、この光景を見たならば、
そんな事を出来るのは、永遠神剣のマスターの中でもオマエだけだと笑うであろう。
普通の永遠神剣マスターであるならば、マナエネルギーを魔法などの力に変換するのは上手いだろうが、
エネルギーを何処にどう伝えるかなどは考えない。そんな技術は必要ないからだ。
しかし、浩二にとってはエネルギー伝導は必須スキルであった。
なにせ『最弱』という神剣の武器は、エネルギー伝導による強化しかなかったのだから。
エネルギーの伝導及び伝達は、永遠神剣マスターならば出来て当然の基本スキル。
そこから魔法や超常能力に変換するのが、普通の永遠神剣マスターの戦いなのだ。
しかし、浩二の神剣だった『最弱』に出来たのは、その基本だけ。
なので普通ならば鍛えることが無い、エネルギーの伝導及び調節を磨きぬいたのである。
『最弱』の形を変えて、隅々まで力を行き渡らせるなんて事をできたのもそれ故だった。
「フム……ユーフォリアみたいに推進力で飛んでいるのではなく、
俺の『飛行』は、あくまで重力の方向に引っ張られているだけだが……
重力で引っ張られる方向を変えてやれば、好きな方向に浮かんでいける。使えるな。コレ……」
重力のかかる方向を変えてやり、空中で様々な方向に引っ張られてみる浩二。
一通り飛んでみて地面に着地すると、薙刀の先をソルラスカに向けた。
「うおっ!」
それと同時に空中に浮かび上がるソルラスカ。
「はっはっはっは。人間ラジコン!」
ソルラスカの周りにかかる重力を、色々な方向に変えてやり、
さながらラジコンヘリのようにソルラスカを空中に飛ばす浩二。
物凄いご機嫌そうな顔であった。
「てめっ! いい加減にしろや!」
「あっ!」
オモチャにされていたソルラスカは、神剣の力を解放して浩二の『重圧』の力を跳ね飛ばす。
しかし、空中でそんな事をしたら通常の重力に戻るわけで―――
「うわああああああああ!!!」
―――当然のように落ちるのであった。
「―――ハッ!」
落ちてきたソルラスカが地面に激突する前に、落下地点に反重力を展開させる浩二。
そのおかげで、ソルラスカの体は地面スレスレの所でピタリと止まった。
勢いを完全に消した所で、展開させた反重力を消してやる。
「危なかったな。ソル」
「ああ。悪ぃ……助かったぜ―――って、おまえがやったんだろ!」
「悪い悪い。ちょっと試してみたかったんだよ。ゴメン!」
パンッと両手を合わせて拝むような仕草をする浩二。
それを見たソルラスカは、仕方ねーなと言って頷いた。
「なぁ、サレス」
「……何だ?」
「俺とユーフォリアが先行するにしても、目的地は一緒なんだから……よければ途中まで送るぜ?
俺の神剣力を使えば、理想幹の中をせかせかと走り回らんでも、目的地まで飛んでいけるみたいだし」
「できるのか?」
「ああ」
ジルオルが居ると思われる理想幹中枢までは、かなりの距離がある。
しかも、歩いて行くならば転移装置を使っていくつもの島を通過しなければならないのは、
以前にココへ来たときに経験済みだったので、浩二の言葉は渡りに船であった。
「ならば頼もう。あの時のようにミニオンの妨害はないだろうが、
浮き島をいくつも経由しながら、走ってあそこまで行くのは少しばかり骨が折れる……」
「よし、それじゃみんな。俺から半径5メートル以内に寄ってくれ」
そう言って浩二は周囲の重力がかかる方向を操作する。
それと同時に皆の身体が浮かび上がった。
「うわっ……もう、私達にいけない所は無いわね。
世界の移動は希美ちゃんの、ものべーにやってもらって……
現地での移動は、斉藤くんにこうやって飛ばしてもらえばいいんだから」
浩二の右隣に浮かんでいる沙月がそう言うと、浩二は苦笑をする。
「敵が居ない事が前提ですけどね。俺一人ならともかく、これだけの人数を浮かばせて移動する場合、
下から魔法でも撃たれたら、回避運動がとれずに、みんな仲良く撃墜されますので」
「それは、私達が魔法を使って相殺させればいいんじゃないの?」
「あ、なるほど」
自分は飛行と操舵で、他のメンバーは砲手。
そう考えれば、この力は隙が無い随分と使える能力なのかもしれない。
中枢部が近づいてきた。浩二はここまで来ればいいだろうと判断して全員を地面に降ろす。
「こんな所でいいかな?」
「十分だ」
「んじゃ、サレス。俺とユーフォリアは一戦ぶちかましてくるわ」
「ああ。ある程度弱らせてくれれば、後は我々が何とかする」
サレスの言葉に頷く浩二。そして『反逆』の力で空に浮かび上がった。
『悠久』に乗っているユーフォリアの隣に並ぶと、互いに頷きあう。
「行くか!」
「はいっ!」
そして二人はジルオルとイスベルが、戦っていると思われる場所に飛んで行く。
そんな浩二とユーフォリアを見つめるサレス。彼らが世界を根底から揺るがすほどの風になるのか、
水面に波紋を広げるだけの風で終わるかのか、それはまだ解らない。
しかし、この時間樹における最強の神であるジルオルを打倒する事ができたならば、
分子世界に住む全ての存在は、時間樹に君臨する真の神にして、
創造主であるエト・カ・リファの支配から脱却する事も出来るかもしれないと思うのだった。
「マレビト来たりて風が吹く……か」
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「はぁ、はぁ……はぁ」
汗が顎を滴り落ちる。目に写るのは双剣を構える破壊の神。
浩二は、すり足で一歩前に出た。その瞬間にジルオルの目がギラリと光る。
「―――っ!」
来る。そう思った時にはジルオルの姿が眼前に迫っていた。
振り下ろされる永遠神剣『黎明』を薙刀で弾き返す。
切り返しをする暇も無い、次から次に放たれる竜巻のような斬撃。
刀身からは凄まじいマナの奔流。一撃、一撃が全て重い。
反永遠神剣の特性でマナの増幅力は遮断しているのだが、
単純な斬撃の破壊力だけで、抗体兵器を破壊する程のジルオルの斬撃を受け止めていると、
まるで自分が削岩機の前にでも立っているような感覚に陥ってくると浩二は思った。
「―――フッ」
ジルオルが笑った。そして、次の瞬間には後ろに飛んでいる。
このまま押し切る事もできただろうに何故だと思った瞬間には、眼前を青い閃光が奔って行った。
ユーフォリア。永遠神剣『悠久』に飛び乗り、押されている浩二を援護しようと突っ込んできたのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
浩二は肩で息を吐いた。
ジルオルは離れた場所に立ち、神剣を構えて見下ろしている。
「大丈夫ですか。おにーさん」
『悠久』から飛び降りたユーフォリアが、駆け寄ってきた。
「すまん。助かった」
「私も一緒に戦いますか?」
先ほどからジルオルと正面から打ち合っている浩二を心配してユーフォリアは言うが、
浩二はチラリとユーフォリアを一瞥すると、微かに首を横に振る。
「大丈夫だ。とんでもなく早く、重く、鋭いけど……防げない程じゃない」
浩二はそう言ってユーフォリアの申し出を断わったが、
それは、彼女ではジルオルの斬撃を受け止めるのは無理だろうと判断しての事だった。
ユーフォリアの戦闘スタイルは、一撃離脱の繰り返しであり、
正面から刃と刃をぶつけ合うような戦いは不得手である。
「でもっ」
彼女自身、それは自覚している。
しかし、ジルオルと打ち合うたびに消耗していく浩二を見かねたのだ。
「ほう。俺の攻撃を防げない程では無いと……中々に言うではないか」
浩二とユーフォリアの話しが聞こえたのか、ジルオルが口を挟んできた。
皮肉るような笑みを浮かべている。浩二はニヤリと笑みを返した。
「破壊神の名は伊達じゃねーなジルオル。大した力だよおまえさん。
ここまでの斬撃を繰り出すヤツは見たことねぇ。だが……それだけだ……」
「何っ!?」
「強いヤツほどそうなのかな? 俺が倒したエターナルもそうだった。
ゴリ押しの力押しで突っ込んでくるだけなら、ケダモノと一緒じゃねーか」
―――ビシュンッ!
浩二は薙刀を振り払う。そして、腰を落として構えを取った。
「どいてろユーフォリア。そこにいたら……潰れるぞ?」
「あ、はい!」
ユーフォリアは頷いて浩二から離れる。それと同時に、浩二の周りの大地がボコッと埋没した。
大気が震えている。目には見えないが、浩二の周りに凄まじい重力が発生している事は解る。
ジルオルがくっと目を開いていた。
「はあああああああああっ!」
雄叫び後に浩二が大きく一歩前に踏み出すと地面が揺れる。
今までの雰囲気とはまるで違っていた。身に纏うマナの奔流が尋常ではない。
ジルオルは、斉藤浩二の認識を、多少は手強い敵から強敵へと認識を改める。
「ハハッ―――ハハハハハハハ!!!」
笑う。まさかコレほどの敵が居るとはと。
「面白いッ!」
笑い声と共に、ジルオルのマナも膨れ上がる。
ゴウッと風が吹き、最強の神たるに相応しい圧倒的な波動が身体から放たれる。
「……っ!」
二人の様子を見ていたユーフォリアは、まるで次元が違うと思った。
今までの戦いは二人とも本気ではなかったのだ。
ジルオルが本気ではないと言うのは、何となく解っていたが……
浩二がそれに匹敵するぐらいのマナを纏っている事に驚きを隠せなかった。
『ユーフォリア』
そんな彼女に、浩二の神剣『反逆』が呼びかけた。
「は、はい」
『本気を出すつもりが無いなら下がっていなさいな。
今の貴方ではマスターの邪魔にしかなりませんわ』
「え?」
戸惑うユーフォリア。自分としては本気でやっているつもりなのだ。
「あ、あの……私―――」
そう言おうとした時、浩二は咆哮をあげて跳んでいた。
迎え撃つようにジルオルも双剣を構えて跳んでいる。
「はああああああああっ!」
「うおおおおおおおおっ!」
気合と気合がぶつかり合った。
浩二の『反逆』とジルオルの『黎明』がぶつかり合った瞬間、突風が吹く。
打撃音は理想幹中枢の建造物をビリビリと揺らす。
「チッ!」
「速さは互角か……ならっ!」
空中でぶつかり合った二人は、地面に足を突くと、同時に大地を蹴って突進した。
斬撃と連撃が、鈍い金属の音と共に響き渡る。
浩二が五月雨のように放つ音速の突きを、ジルオルは双剣で捌いている。
「おらららら!」
しかし、傍目には浩二がジルオルを押しているように見えた。
浩二が優勢に運んでいる訳は、二人の得物の差である。
双剣を武器にするジルオルに対して浩二は薙刀。
ジルオルが浩二に攻撃をくらわせるには、槍を掻い潜って懐に飛び込まねばならないのだ。
剣で槍に立ち向かうには、相手の倍以上の技量が必要だと言われている。
そして、幾多もの激戦を潜り抜けてきた斉藤浩二の技量は並ではない。
「小賢しいわっ!」
「うおっ!」
しかし、ジルオルの膂力は、技などものともしない圧倒的なパワーを誇る。
「くっ!」
浩二の薙刀はジルオルの双剣に跳ね上げられた。
同時に大地を蹴るジルオル。浩二の薙刀の間合いはおよそ二メートル。
それぐらいの距離はジルオルにとっては目と鼻の先のような距離である。
一瞬で懐に飛び込まれる浩二。
「終わりだ!」
そして『黎明』の斬撃が浩二の胴を薙ぎ払おうとした瞬間―――
―――ゴッ!!!
「ぐはあっ!」
ジルオルの方が吹き飛ばされていた。
勢い良く地面を転がるジルオル。途中で手をついて跳ね起きる。
そして、殴打された頬を手の甲で拭いながら浩二を睨みつけた。
「剣を得物に、槍を相手にする時は……懐に飛び込んでしまえばいい。ま、理屈だわな……」
浩二は振りぬいた構えのままジルオルを見つめている。
しかし、振りぬいたのは刃先では無く柄の方。
ジルオルが懐に飛び込もうとした瞬間。石突をくらわせたのである。
「けど、そんな事は100年以上も前から言われてるんだよ。
それを補う技の一つや二つは開発されてるってーの」
そして、石突はベルバルザードが得意とした技の一つである。
「人間の技。槍術も侮れんだろう?」
「フン。この俺に戦いの講釈か? 偉そうな事を言うでは無いか」
血の混じった唾を吐き捨てるジルオル。しかし、その表情は歓喜の笑みに染まっていた。
自分を相手にここまで戦える男の存在が嬉しいのだ。イスベルを追い詰めた所にやってきた新手の敵。
始めは雑魚が追いかけて来たのかと鼻白んだものだが、面白くなってきたと思う。
「……本気で行くぞ」
ジルオルは双剣を重ね合わせて大剣にすると、剣が輝きを放つ。
―――その輝きは『浄戒』の力。
オリハルコンネームさえ削り取り、世界の理を断ち切るとまで言われた必殺の一撃である。
それも、望が絶に対して使った時の比ではない、星さえも消滅させてしまえそうな力の波動を放っていた。
『マスター。踏ん張りどころですわよ』
「わかってる」
反永遠神剣『反逆』の言葉に頷くと、浩二は薙刀を横に構えて薙ぎ払いの体制をとる。
敵は最強の神で、そこから繰り出される一撃は神さえも屠る必殺の一撃。
だが、そんな圧倒的な力を前にしても浩二に焦りはない。何故なら乗り越えられると信じている。
「なぁ……反逆……」
『何ですの?』
「不思議だな。怖くねぇんだよ。今までなら、竦んでしまって身動き取れなくなって……
ガクガクと震える足を、強がりとハッタリで誤魔化して来たけど……」
『…………』
「……今は、もう何も怖くない……俺は、俺を信じられる。
……勝てるって、負けないって。
俺に―――斉藤浩二に出来ない事なんて何も無いんだって」
積み重ねてきたモノをぶつけよう。
培った技術をぶつけよう。そして、想いの全てをぶつけよう。
―――嘘はない。
今なら自分の全てを信じられるから。この場所に立つまでに経験した全て、努力の全てを信じれるから。
嘘や虚勢で見栄を張らずとも、今の自分は強いのだと胸を張って言えるから。
「俺達の力は、絶対を否定し、運命を打倒する力……」
破壊神の繰り出す『浄戒』と言う名の無に消す力を前に、
浩二は心気を澄ませて目を閉じる。
『故に、わたくし達の前に……』
『反逆』は謳う。不可能なんてある訳がないと―――
「はああああああああっ!!!!」
ジルオルの雄叫びと共に、大地が揺れ、風が叫び声をあげていた。
嵐の真ん中にいる破壊の神は、目の前に立つ矮小なる存在を睥睨する。
繰り出されるは破壊の刃。南北天戦争で数多の神々を屠ってきた最強の一撃。
「我が必殺の一撃をもって無に還れ!」
それが光の刃となって放たれた。全てを消し去る白い輝きと共に浩二と『反逆』に迫る。
そのまま浩二を飲み込もうと『浄戒』の一撃が眼前まで近づいた時―――
「『 あらゆる奇跡は自然に還る! 」』
重なり合う浩二と『反逆』の言葉と共に、反永遠神剣の刃が白い光を切り裂いた。
霧散していく『浄戒』の力。浩二は薙刀を振りぬいた姿勢のまま固まっている。
ジルオルは信じられないモノを見たように目を見開いていた。
「ククッ……ハハハハ、ハハハハハハ!!!」
しかし、すぐに我を取り戻すと額に手を当てて笑う。
楽しそうに、嬉しそうに、自分の放つ最大最強の一撃が防がれたというのに破壊の神は笑い声をあげる。
「まいった。ククッ……貴様と言うヤツは、ホントにな……」
笑うジルオルを浩二は無言で見ていた。
それから反永遠神剣『反逆』の刃を地面に突き刺して座り込む。
そして、身体を大の字にして寝転がった。
「はあっ……」
空を見上げて溜息を一つ。それから呆れたような顔でジルオルを見る。
そして、生も根も尽き果てた声でジルオルに言葉を投げかけた。
「……これで、満足か?」
「ああ」
浩二の言葉に頷いてジルオルも、大剣を地面に突き刺して空を見上げる。
「……何時から気づいていた?」
「ん~~? 始めから……かな?
だって、おまえ殺気はあるけど敵意と悪意がねーんだもん……」
むしろ、楽しそうであると言うのが本音だった。
「ほう、その違いによく気づいたではないか。
オマエ以外の仲間たちは、誰一人として気づく事は無かったぞ?」
正確にはナルカナだけは気づいていたのだが、ジルオルはそれを知らない。
写しの世界で自分に襲い掛かってきた、世刻望の仲間たちの顔を思い浮かべるジルオル。
浩二は、よいせとか言いながら上半身を起こして胡坐をかいた。
「要因は色々とあるぜ?」
「聞かせてくれるか?」
「まず一つ。俺はオマエが出てくる現場を直接見ていない。
望がオマエに変わって行く様を見ていないので、感情的にならずに済んだ。
二つ目。伝聞で聞く破壊神ジルオルとオマエが違いすぎる。
無慈悲で冷酷な破壊神サマにしては、写しの世界で絶やサレスに攻撃されたにも関わらず、
誰一人として殺す事無く立ち去っている。
三つ目。これが確信になった決め手なんだが、最初に言った通り……
殺気はあれども、敵意と悪意が無い」
「―――まて。普通は殺気をぶつけられたら敵意と悪意だと思うだろう?」
ジルオルがそう言うと、浩二はニッと笑った。
「戦士が立ち塞がるものには殺意を向けるのは当然じゃないか。
障害になるモノを払いのけようとするのは習性みたいなモンだろ?」
「ククッ。なるほど、戦士としての習性……か」
「後、オマエと戦ってるときの感覚が、俺の知ってるヤツと戦った時と似てたんだよ。
こっちは命懸けで戦ってるっつーのに、オマエは俺が攻撃を返すたびに嬉しそうに笑いやがって」
「ははっ。仕方なかろう。目覚めてから俺が相手にしてきたのは雑魚ばかりで、
些か気が立っていた所でもあったしな」
「それじゃ、満足したなら望に代われ。
俺はともかくとして、俺の仲間達はジルオルよりも世刻望をご指名だ」
「フッ―――辛辣な事をあっさりと言ってくれるではないか。
俺も望も同じ存在であるのに……俺は不要で、望は必要だと言われる身にもなれ」
怒った様に言うジルオルに、浩二は生温い視線を向ける。
「ああ……そりゃキツイわ。俺なら泣いてしまいそうだ」
「だろう?」
自分がもしもジルオルの立場ならどうだろうかと想像して言うと、
ジルオルは、だろうと聞きながら浩二にむかって指をさす。
そして目が合うと、顔を見合わせて同時に噴き出した。
「―――プッ」
「―――クッ」
噴き出した二人は、我慢の限界だと言わんばかりに二人で笑いあうのだった。
「「 ハハハハハハハハ!!! 」」