世刻望と、破壊神ジルオルの魂を乗っ取った南天神イスベル。
『天の箱舟』と『旅団』のメンバーが、固唾を飲んで見守る中。
二刻近くに及んだ二人の戦いも、佳境を迎えようとしていた。
「イスベルーーーーーーーッ!!!」
世刻望は飛び込むように『黎明』の切っ先を向けて跳躍した。
同じ顔。イスベル。自分からジルオルをもぎ取っていった神。
「うおおおおおおっ!!!」
―――ドスッ!
「ゴ……ブハッ!」
心臓に神剣を突き立てた。イスベルの吐血が顔にかかる。その顔は憎しみに歪んでいた。
望は睨み返してイスベルの腹部に足を当てると、無理矢理に神剣を引き抜いた。
抜くと同時に鮮血が舞い、ぐらりと身体が崩れかかる。
「せあああああああっ!」
「ぐうっ!」
望は、そこに下から切り上げる様な袈裟斬りを放った。
手ごたえと共に『黎明』を持ったイスベルの左手が宙に舞う。
「ハッ!」
望はそれに飛びつくように跳躍して、奪われた双剣をつかみ取る。
右手と左手。左右にツルギ。永遠神剣第五位『黎明』
かつては破壊の象徴でもあったツルギ。そして、今は―――
「いくぞッ!」
―――大切な人を、仲間を、弱き人達を護る為のツルギ。
「俺の力は全てを消し去る浄戒の一撃!」
迸る気合と共に望は双剣を重ねた。それは閃光と共に一振りの大剣となる。
マナが身体中から噴き出して、波動が唸りをあげていた。
ツルギが光る。刀身から光が立ち上り、天にも届かんばかりの白き光の剣となる。
「ノゾム!」
レーメが傍にいた。自分の顔を見上げている。
頷いた。レーメの顔が歓喜に染まり、頷き返してくる。
もう自分は迷わない。もう自分は立ち止まらない。
「いくぞ! レーメ!」
「うむっ!」
受け止めたから。ジルオルの想いも、願いも……全部、受け止めたから。
相容れないと思っていた前世の俺は……やっぱり俺でしかなくて……
たとえそれが、間違ったやり方だったとしても―――
大切な人の為に戦ったジルオルの想いは、穢れたモノなんかじゃないのだから。
「消え去れえええぇぇぇ! 虚ろなる残照よぉぉぉッ!」
「神名を砕け! ネェェェーーーーム!」
「ブレイカアアアアアァァァァァッ!!!!」
天にそびえる光のツルギが振り下ろされる。
その一撃は、殺すのではなく消滅させる力『浄戒』の刃。
圧倒的なマナの力と、暴風のような風を纏い―――
「ぎゃああああああああああ!!!!」
―――幾百千の時を彷徨い続けた怨念を、跡形も無く消滅させるのであった。
「はぁ、ぜっ、はぁ……」
荒い息を吐く望。大剣を地面に突き立てて……
それを杖代わりにして、かろうじて足っている。
「……ハハッ。ボロボロ……だな……望」
声が聞こえた。望は反射的に声の方を見る。その先に居たのは自分であった。
服は所々に破れており、怪我の無い場所なんか一つも無いのに、それでも彼は声を出したのだ。
「ジルオル!」
駆け出す望。しかし、全力で『浄戒』の力を使い、
消耗しきっていた望は足をもつれさせて転んでしまう。
それでも望は地面を這って、もう一人の自分の元へと進んでいく。
「まだ……荒削り、だが……一応は『浄戒』の力……を、
使いこなせるように、なった……じゃないか―――ゴホッ!」
「おい、死ぬな! 死ぬなよジルオル!
俺、まだおまえに教えてもらいたい事が沢山あるんだ!」
「……ハハッ……死ぬわけじゃ―――ない。
……俺は、オマエだ……いつでも、オマエと共にある」
「ジルオル!」
手を取った。ボロボロの、傷だらけの手であった。
「……望……死に、心を惑わせるな……
オマエが、一つだけ……俺に劣る所があるのだとしたら……それだけだ。
―――ゴホッ、ゴフッ……ぐぅ……」
「おい、もう喋るなって!」
「……いいから、聞け。完璧な存在なんて……いないんだ。
おまえが、どれだけ戦おうとも……救えないモノは、少なからず……でてくる。
……だが、そこで立ち止まるな。今までの自分を、否定するな……
全力で挑んだ結果なら、それを……受け入れろ。
倒れてもいいんだ。無様でも、不恰好でも……立ち上がれる限り、負けじゃない……」
「……ああ。ああ。わかったよ。ジルオル!」
「悲しみに……押しつぶされるな、怒りに流されるな……
……俺の間違いを、戒めに……オマエは辿るな―――ガハッ! ゲホッ!」
ジルオルの体が消えかかっていた。望が握っていた手の感触が無くなる。
「ジルオル!」
「……さぁ、望……俺を吸収しろ。消えて無くなってしまう前に……」
穏やかな顔だった。全てをやりきったと言う様な満足した顔であった。
もしも自分が果てるとき、今のジルオルと同じ顔ができるのだろうか?
「……ああ」
ゆっくりと手をジルオルの胸に当てた。
力が流れ込んでくる。ジルオルの記憶、想いと共に……
「信じる道を行け……それが、どんな道であろうとも構わない。
……ただ、貫き通せ―――それだけ……が、俺の望み―――だ……」
―――ジルオル。
神名を消す力『浄戒』を用いて、数多の分子世界を駆け抜けた男。
破破壊神の二つ名で呼ばれた、時間樹最強の神が望んだ願いは……ただ一つだけ。
何も無い場所から自分を連れ出してくれた少女の為―――
確固たる意思を持ち、自分の道を歩める存在でありたいという……
ちっぽけで、ありふれたものであった。そして、生まれたのが世刻望。
後に永遠神剣を巡る戦いの主役の一人として、第一位永遠神剣『叢雲』を手に、
自らの信念をかけてエターナルとの戦いに身を投じ……、
数多もの外宇宙を駆け巡る事になる少年だった。
「ああ。解ったよ……俺は立ち止まらない。
振り返らない。信じた道を歩き続けるよ……
オマエの想いと願いは……ずっと一緒だ……ジルオル。
もう一人の―――俺……」
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「そんじゃ、次行くわよー!」
「ううっ、ドキドキだよぉ……」
沙月が高らかに呼び上げると、ルプトナが拝むように手を合わせて呟いた。
他のメンバー達も、それぞれに期待と不安が入り混じった表情をしている。
全ての戦いを終えた『天の箱舟』と『旅団』のメンバー達は、帰路の途中にあった。
目的地は写しの世界。理想幹からだと三日ぐらいの移動距離だ。
そこで、彼等は親睦会という名の暇つぶしをする事になったのだった。
参加しているメンバーは、サレスを除いた永遠神剣マスター達とナルカナである。
始めはただのお喋りであった。
ジュースを飲みながら菓子を摘む程度の、ささやかな催しだったが……
ソルラスカが何と無しに、みんなでゲームでもやらないかと言ったのが事の発端であった。
しかし、ゲームをやると言ってもこの人数だ。
箱舟の休憩室には希美やルプトナが持ち込んだカードゲームやボードゲームが数あるが、
流石に十人を越える人数でやるゲームなど無い。
となると、レクリエーションみたいな遊びになる。
そこで希美が、それなら『いつ、どこで、だれが、なにをした』をやらないかと言ったのである。
もっとも『いつ』の項目については削除してある。今やらなければ面白くないからだ。
ルールをざっと説明すると、皆は理解を示し『どこで』の札と『誰が』の札。
『何をした』の札に、それぞれ好きな事を書いて、三つの箱に投入する。
「それじゃ、まずは『どこで』の札からー! えいっ!」
沙月が『どこで』の箱に手を突っ込んで札を引く。
その札には『ソルラスカの部屋で』と書いてあった。
「ふうん。ソルの部屋で……ねぇ」
沙月はそう言って『誰が』の箱をカティマの前に差し出す。
カティマはどれにしましょうかと言いながら、札を引いた。
「えっと、絶が……と書いてあります」
「―――なにっ!?」
絶びっくり。まさか初回からお鉢が回ってくるとは思わなかったのである。
他のメンバーは少しだけホッとした顔であった。
「それじゃ次は最後の『なにをした』ですね」
カティマは隣の席に座っているナーヤに渡す。
ある意味一番美味しい箱が回ってきたナーヤは、気合の入った表情で箱に手を突っ込んだ。
「これじゃっ!」
ナーヤは気合と共に札を引く。書かれていた札には……
「なになに? えーっと『そんなの関係ねぇ! を朝までやり続ける』だそうじゃ」
「―――なぁっ!」
いきなりとんでもない組み合わせになった事に、絶はびっくりを通り越して仰天である。
合わせてびっくり仰天の絶。沙月が腹を抱えて爆笑していた。
ネタの意味が解る望や浩二、希美も大笑いしている。
哀れ、暁絶は『ソルラスカの部屋で、そんなの関係ねぇ! を朝までやり続ける』事になったのである。
勿論みんなで見に行った。絶は腰を曲げて、拳を地面に突き出しながら、
そんなの関係ねぇ! をやり続けている。みんな笑った。ナナシはハラハラと泣いていた。
「いやぁ、もういきなり凄いの来たなぁ、おい!」
休憩室に戻ると、テンションが上がって来た浩二が言う。
ソルラスカは複雑そうな顔をしていた。
「……なぁ、俺……暁絶がアレをやってる横で、今日は寝なければならないのか?」
「目覚ましに丁度いいじゃないの」
「って、おい! それ以前に寝れないっての!」
ニヤニヤと笑いながら言うタリアにソルラスカが叫ぶ。
次に行われたのは『トイレで、沙月が、希美にアイアンクロー』であった。
トイレから叫び声が聞こえてきた。みんな笑った。
「うう~っ、酷い目にあったよぉ~……望ちゃ~ん」
涙目になってる希美を、望が苦笑しながらよしよしと頭を撫でている。
そして、次の組み合わせが『倉庫の中で、みんなが、十八番を熱唱する』であった。
みんなですし詰めになって倉庫に入ったが、入りきらなかったので、
何人かが廊下になったが、みんなで持ち歌を熱唱した。歌い終えると、みんなが笑っていた。
………本当に、楽しい時間であった。
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写しの世界。物部学園のある町の神社の境内。
倉橋時深は月を見上げて立っていた。
「昔から……」
気がつけば風が止んでいる。
近づいてくる存在に向かって、時深は鷹揚の無い声でポツリと呟く。
「月の光には人を狂わせる力があると言われています。
それは民間の伝承にも、狼男や吸血鬼という類の形で伝わっていますが……」
はぁっと溜息を吐く時深。そして、やれやれと首を振った。
「新しい都市伝説の誕生ですかね? 夜の神社に現れる真っ裸の女。
どうせならそのマントと、僅かばかりの装飾品も外せば、
現代に蘇る原人という事でスクープに出来るのに。
これじゃ、ただの痴女でしかないじゃないですか?」
そう言って時深が視線をくれた先には、白いマントだけで裸体を隠す、赤い髪の女がいた。
「あら? それでは、その女が神隠しを行うとすればどうかしら?」
「なるほど。地方ローカルの妖怪ぐらいとしてはいけますね」
くすくすと時深は笑う。
「でしょ? 私も捨てたものじゃないでしょ? ウフフフ……」
そんな時深に女は微笑を浮かべながら近づいていく。
足音もなく、非常にゆっくりと、だが確実に。
「……一つ。聞いてもいいですか?」
「どうぞ? 巫女さん」
「貴方―――消えたのではないのですか? 赦しのイャガ」
時深が女の名前を告げる。
すると、女は一瞬だけキョトンと呆けた顔をしてピタリと止まる。
それから、なるほどと言いながら首を何度か縦に振った。
「……へぇ、消されたんだ。私……
そっか、そっか。だから貴方、私を知っているのね?」
他人事のように言うイャガに時深は怪訝そうな顔をした。
しかし、その顔を浮かべたのは一瞬で、すぐに無表情になる。
「残念ながら貴方を消したのは私ではありませんよ?」
「そう。でも、どうでもいいわ……私が今、興味があるのは貴方なんですもの」
「やれやれ。月夜の晩に美少女と踊る相手は、美少年と相場が決まっているんですけどね……」
はぁっともう一度溜息を吐く時深。そんな彼女を見ながら微笑むイャガ。
止んでいた風が再び吹き始める。
「フフッ―――」
「はぁっ!」
それと同時に二人の身体も風となっていた。
―――ギィン!!!
ぶつかり合う二つの神剣。共に小太刀程の長さの永遠神剣。
しかし、その刀身に籠められたマナは尋常なモノではない。
ぶつかりあう金属音の後に、大気が爆発するような轟音が響いた。
大地が震えている。風が叫んでいる。
時深とイャガがぶつけあっているのは、第三位と第二位の永遠神剣。
時深の『時詠』とイャガの『赦し』である。
エターナルどうしの戦いは、それこそ伝承や神話になるような凄まじい戦いであった。
「なりふり構ってないですね。赦しのイャガ。
見境なしの力押しと、無理押し、ゴリ押し―――
裏でコソコソとしてばかりの、どこかのコアラも大嫌いですけど、
貴方みたいに突撃ばかりしてくる人も好きになれませんね!」
「あらあら。お気に召さないようでごめんなさいね。
でも、美味しそうな貴方を見てたら、我慢できなくて……」
鍔迫り合いになると、時深は左腕を『時詠』から離した。
その左腕には小さな光の粒子が集り始めている。
イャガは本能的に危機を察して後ろに次元跳躍をした。
―――ビュオンッ!
それとほぼ同時に振り下ろされる白銀の閃光。
その閃光は次元をも切り裂かんばかりの一撃であった。
「―――っ!」
完全に回避したと思ったのに、膝がバッサリと斬られているイャガ。
赤い血がどくどくと流れて地面を染めていた。
「うっふふふふ」
イャガは笑う。そして、しゃがみ込んで傷口を艶かしく舐める。
それだけで傷は完全に塞がっていた。
「永遠神剣を二本も持ってるなんて凄いわぁ、貴方……
ぞくぞくしてきちゃった……ふふっ、うふふふ……
いいわぁ……もっと見せて、貴方の力―――そして、私を楽しませて」
「やれやれ、存在自体がギリギリなのに……
それ以上に危ない発言を重ねるのは、やめてもらえないかしらね。ホント……」
時深は右手に永遠神剣第三位『時詠』左手に同じく第三位『時果』を構える。
短剣と長剣の二刀流。本来ならば永遠神剣を二つも持っているだけでも異端であるのに、
彼女はそれを二つ同時に出現させ、使って見せている。
斉藤浩二は永遠神剣の力を、反永遠神剣の力に昇華させるという奇跡をやってのけているが、
倉橋時深がやっているのは、二つの異なる力を同時展開するという奇跡である。
「……蘇ったというなら、再び消えなさい。
ここは……貴方がいて良い場所じゃないのだからっ!」
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写しの世界に戻ってきた。見慣れた風景が飛び込んでくると、
『天の箱舟』と『旅団』のメンバーは箱舟の屋上に出て外の景色を眺める。
「とうちゃーく! いやぁ、疲れたねぇ」
「無事に帰ってこれて、何よりですー」
ナルカナが伸びをしながら言うと、ユーフォリアが笑う。
「てゆーか、俺、まだまだ暴れたりねーなぁ」
「そうですか? 僕も『天の箱舟』に合流したのは最後の戦いだけでしたけど……
暴れたり無いとは思いませんよ。やっぱり平和が一番です」
ソルラスカは物足りないと難しい顔をして、スバルは苦笑を浮かべている。
「ねぇ、この後はみんな離れ離れになっちゃうの?」
「それぞれの事情によるじゃろう。それに、急いで今後を決める事は無い。
時間樹を脅かす脅威は全て無くなったのじゃから」
ルプトナの言葉にナーヤが諭すように言う。望はその言葉に頷いた。
「そうだな。ゆっくりと考えよう……
世界に平和は戻り……時間は、これから沢山あるんだから……」
その時であった。地の底から震えるような轟音と共に、世界が揺らいだのは。
「―――なんだ!?」
揺れているのは地面だけではなかった。
たとえるなら時空がぶれている。世界のあらゆる方向から激しい力の流れを感じるのだ。
「ここに来て次元振動だと!?」
サレスが叫ぶ。その間も世界は揺れており、轟音を響かせていた。
「自然発生したにしては規模がでかすぎる!
何者かが意図的に引き起こしているんだ」
「それは……まだ敵がいると言う事ですか?
この時間樹を脅かそうとする敵が、まだ―――」
絶の言葉にカティマが叫ぶ。
揺れる世界。空を飛んでいるものべーの上にいる望達でさえ、揺れを感じているのだ。
地上に住む人々の驚きは、彼等の比ではない。家が倒れているのが見えた。
ビルから飛び出してくる人の群れ。だが、地震は収まるような気配が無い。
「とにかく出雲に戻ろう! 情報を集めるんだ!」
「そうね、誰の仕業か解らないんじゃ手の打ちようが無いものね」
望が言うと、ヤツィータが頷く。皆の視線が希美に集まった。
「ものべー。出雲に! 全速力でお願いね」
希美の声にぼえ~と答えるものべー。
『天の箱舟』と『旅団』のメンバーは、急いで出雲に向かうのだった。
「まだ収まらないな……この揺れ」
箱舟の会議室。浩二は窓際に立って下の世界を見下ろしていた。
あれから出雲に急いで戻り、環や時深が待っているだろう社にはサレスとナーヤ。
それにナルカナが向かった。地震で危ない所を全員で降りていく事はあるまいと言う配慮であったが、
待っている自分達は気が気でない。みんながイライラと不安そうな顔をしていた。
「おまたせっ!」
「皆、集っておるか?」
そこに事情を聞きに行っていたナルカナ達が戻ってくる。
ナルカナが扉を開けた瞬間。全員が視線をそちらに向けた。
「サレス! この振動はなに? 何が起こってるの?」
「落ち着け沙月……今それを説明する」
咳払いするサレス。
「端的に言ってしまえば、この揺れは神が世界を破滅させ、我々を滅ぼそうとしているのだ」
「神って……北天神も南天神も、もう……全部倒したんじゃ―――」
「違うわ!」
望の言葉を遮るナルカナ。彼女はホワイトボードに手をバンッと叩きつける。
「自分達で神を名乗る、あんな紛い物の神なんかじゃない。
今、この世界を滅ぼそうとしているのは正真正銘の神。
この世界の創造神エト・カ・リファよ! コイツが時間樹の初期化を始めたの!」
「せ、世界の創造神……」
「エト・カ・リファだぁ?」
希美は驚いており、浩二は怪訝そうな顔をしている。
サレスが以前に何処かでその名前を言っていた気がするが、
自分達にはあまり関係の無い話だろうと思って、特に注意を払わなかったが、
創造神なんて大したモノが本当に出張ってきたのだ。
「初期化って、オイ……それじゃ、俺達はどうなるんだよ?」
「消えるに決まってるでしょう。数多の分子世界もろともね!」
「マジか!?」
凄い事になってきたと思う浩二。
「まて、オイ待て。ちょっと待て……何故だ?
何の理由があって創造神は世界を初期化しようとしてるんだ?」
「そんなの知らないわよ。それこそ本人に聞くでもしなきゃ」
なるほど、ごもっともだ。しかし、そういう事なら―――
「よし、そんじゃ神にツッコミいれに行くか。世界が滅んでしまう前に」
「そうですわね。いくらこの時間樹の生みの親とは言え……
子供を殺していい道理はございませんわ」
浩二の言葉に『反逆』が頷く。
「まぁ、あんた達はそう言うと思ったわ……」
反永遠神剣とそのマスター。
絶対を否定するヒトの想いが具現化したツルギと、運命に抗う少年。
「一応言っておいてあげるけど、あんた達が今まで見てきた世界。
今まで戦ってきた存在の全ては、エト・カ・リファから発生したものよ?
エト・カ・リファが居なかったら、この時間樹さえ無かったんだから」
「だからどうした? それが何だってんだ?
おい、暁。出番だぜ。俺の代わりに練習した台詞を言ってくれよ」
浩二が流し目で絶を見る。絶は浩二の意図を悟って苦笑した。
「そんなの関係ねぇ―――だろ?」
絶がそう言うと、皆が一斉に吹き出す。それがいつか笑い声になった。
「……まったく、浩二……おまえってヤツは―――」
望は呆れたような顔をする。そして、今までの事を思い出して笑ってしまう。
ずっとそうだったのだ。斉藤浩二は、普通なら尻込みする所を、
全てなんて事は無いというように言ってしまう。
未来の世界で『浄戒』の力について悩んだ時もそうだった。
確かに、先頭に立って引っ張ってきたのは自分なのかもしれない。
だが、支えていたのは浩二なのだ。
斉藤浩二は崩れない。誰もが絶望に膝をついてしまう時も、一人だけ立っている。
負けるものかと、不可能なんてあるものかと叫んでいる。
「……ナルカナ。俺達は立ち向かうよ。敵がどんなに強大でも諦めない。
……なぁ、みんなもそうだろ? だって、俺達には―――」
「「「「 出来ない事なんてないんだから!!! 」」」」
声が揃う。浩二は笑っていた。つられてみんなも再び笑い出す。
神に挑むは、出来ぬことなどないと、不可能などないと、
何の根拠も持たずにひたすら前に進む愚者の群れ。
最強のキングに勝てるカードは、ナイトでは無くフール。
一人一人では力ない愚者であれども、
揃えばキングを玉座より引き摺り下ろす革命のカードとなる。
扇動するのは、神などおらぬと嘲笑う一人のピエロ。
時間樹を巡る戦いは、ついに最後の時を迎えようとしていた。
「ふ………ふふふふふふ!!!」
幾たびの世界、数多の時空を駆け巡り、
押し寄せる運命を撥ね退けてきた少年と少女達の物語―――
「あはははは、あははははは!!! うん。うん!」
その全て―――
「頼もしくなったわね、あんた達! やっぱりあんた達といると飽きないわ!
よっし。それじゃ、一発しばき倒しに行ってやりますかー!」
「「「 おーーーーっ!!! 」」」
―――聖なるかな。