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No.2521の一覧
[0] THE FOOL(聖なるかな)【完結】[PINO](2008/06/11 17:44)
[1] THE FOOL 2話[PINO](2008/01/13 19:13)
[2] THE FOOL 3話[PINO](2008/01/14 19:09)
[3] THE FOOL 4話[PINO](2008/01/15 20:00)
[4] THE FOOL 5話[PINO](2008/01/16 20:33)
[5] THE FOOL 6話[PINO](2008/01/17 21:25)
[6] THE FOOL 7話[PINO](2008/01/19 20:42)
[7] THE FOOL 8話[PINO](2008/01/22 07:32)
[8] THE FOOL 9話[PINO](2008/01/25 20:00)
[9] THE FOOL 10話[PINO](2008/01/29 06:59)
[10] THE FOOL 11話[PINO](2008/02/01 07:15)
[11] THE FOOL 12話[PINO](2008/02/03 10:01)
[12] THE FOOL 13話[PINO](2008/02/08 07:34)
[13] THE FOOL 14話[PINO](2008/02/11 19:16)
[14] THE FOOL 15話[PINO](2008/02/11 22:33)
[15] THE FOOL 16話[PINO](2008/02/14 21:34)
[16] THE FOOL 17話[PINO](2008/02/19 21:07)
[17] THE FOOL 18話[PINO](2008/02/22 08:05)
[18] THE FOOL 19話[PINO](2008/02/25 07:11)
[19] THE FOOL 20話[PINO](2008/03/02 21:27)
[20] THE FOOL 21話[PINO](2008/03/03 07:13)
[21] THE FOOL 22話[PINO](2008/03/04 20:01)
[22] THE FOOL 23話[PINO](2008/03/08 21:11)
[23] THE FOOL 24話[PINO](2008/03/11 07:13)
[24] THE FOOL 25話[PINO](2008/03/14 06:52)
[25] THE FOOL 26話[PINO](2008/03/17 07:07)
[26] THE FOOL 27話[PINO](2008/03/22 07:36)
[27] THE FOOL 28話[PINO](2008/03/26 07:27)
[28] THE FOOL 29話[PINO](2008/03/23 19:55)
[29] THE FOOL 30話[PINO](2008/03/26 07:18)
[30] THE FOOL 31話[PINO](2008/03/31 19:28)
[31] THE FOOL 32話[PINO](2008/03/31 19:26)
[32] THE FOOL 33話[PINO](2008/04/04 07:35)
[33] THE FOOL 34話[PINO](2008/04/04 07:34)
[34] THE FOOL 35話[PINO](2008/04/05 17:25)
[35] THE FOOL 36話[PINO](2008/04/07 18:44)
[36] THE FOOL 37話[PINO](2008/04/07 19:16)
[37] THE FOOL 38話[PINO](2008/04/08 18:25)
[38] THE FOOL 39話[PINO](2008/04/10 19:25)
[39] THE FOOL 40話[PINO](2008/04/10 19:10)
[40] THE FOOL 41話[PINO](2008/04/12 17:16)
[41] THE FOOL 42話[PINO](2008/04/14 17:51)
[42] THE FOOL 43話[PINO](2008/04/18 08:48)
[43] THE FOOL 44話[PINO](2008/04/25 08:12)
[44] THE FOOL 45話[PINO](2008/05/17 08:31)
[45] THE FOOL 46話[PINO](2008/04/25 08:10)
[46] THE FOOL 47話[PINO](2008/04/29 06:26)
[47] THE FOOL 48話[PINO](2008/04/29 06:35)
[48] THE FOOL 49話[PINO](2008/05/08 07:16)
[49] THE FOOL 50話[PINO](2008/05/03 20:16)
[50] THE FOOL 51話[PINO](2008/05/04 19:19)
[51] THE FOOL 52話[PINO](2008/05/10 07:06)
[52] THE FOOL 53話[PINO](2008/05/11 19:10)
[53] THE FOOL 54話[PINO](2008/05/11 19:11)
[54] THE FOOL 55話[PINO](2008/05/14 07:06)
[55] THE FOOL 56話[PINO](2008/05/16 19:52)
[56] THE FOOL 57話[PINO](2008/05/23 18:15)
[57] THE FOOL 58話[PINO](2008/05/23 18:13)
[58] THE FOOL 59話[PINO](2008/05/23 20:53)
[59] THE FOOL 60話[PINO](2008/05/25 09:33)
[60] THE FOOL 61話[PINO](2008/06/02 18:53)
[61] THE FOOL 62話[PINO](2008/06/07 09:36)
[62] THE FOOL 63話[PINO](2008/06/05 20:12)
[63] THE FOOL 64話[PINO](2008/06/11 17:41)
[64] THE FOOL 最終話[PINO](2008/06/11 17:42)
[65] あとがき[PINO](2008/06/11 17:42)
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[2521] THE FOOL 56話
Name: PINO◆c7dcf746 ID:f980d33e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/05/16 19:52






創造神エト・カ・リファの所へ向かうのは明後日という事になった。
ナルカナとサレスの見立てでは、時間樹が初期化されるのは三日後だという事なので、
万全の準備をしてから乗り込もうという事なのだ。

しかし、浩二は準備だけなら今日一日もあれば十分だと思っていた。
それが二日と多く尺を取ったのは、サレスの気遣いだろう。
創造神エト・カ・リファがいる場所は原初といい、この時間樹が始まった場所でもある。
そこへの座標はジルオルの記憶と想いを受けついだ望が知っているそうなので、
ものべーで行けるだろうが、帰ってこれる保障はどこにも無いのだ。

今、全ての精霊回廊にはマナの嵐が吹き荒れている。
片道行くだけでも、ものべーが持つかどうか賭けなのに、往復の移動などができる訳が無い。
故にみんなも解っていた。一日の猶予は、気持ちの整理の時間だと言う事を。

「マスター」
「何だ、反逆?」
「マスターは、最後の休暇を誰かとは過ごされませんの?」

箱舟にある斉藤浩二の部屋。
椅子に座って、希美に借りた小説の下巻を読んでいる浩二を、
彼の神剣である『反逆』は呆れたように見ていた。

―――最終決戦の前日である。

ゲームや小説とかなら……確実にラブロマンスが繰り広げられているだろうこの日に、
何が悲しくてこの男は、部屋で小説を読んでいるのだろうと。
きっと『最弱』も草葉の陰で泣いているだろうと。

「おいおい。休日をどう過ごそうと俺の勝手だろ?」
「……むぅ」

雰囲気に流されないのは浩二の長所ではあるが、空気読めよと『反逆』は思う。
このままでは浩二は、今日という日を、ただ部屋でゴロゴロして過ごすだろう。
それを何とも思っていないのも、また腹立たしい。

「マスター」
「……何だ?」
「わたくしと散歩にでも出かけませんこと?」
「おう。行って来いよ」

気の無い返事が返ってきた。額に怒りマークを貼り付ける『反逆』
彼女は、すたすたと浩二の所まで歩いて行くと、小説を取り上げた。

「ぬあっ、何をする!」
「………散歩について来なさい」
「いや、だから……行きたいなら―――」
「これは誘いではありません。命令です」

いつものですわ口調ではない、有無を言わさぬ冷たい声であった。

「ふぅ……オーケー」

浩二は仕方ないと言って溜息をつくと、浅見ヶ丘学園の制服の上に白い羽織を身に纏う。
それから『反逆』と共に廊下に出ると扉を閉めた。

「さて、それではマスター。
浜辺にでも言って、思い出なんかでも語り合いましょうか?」

「この辺に浜辺なんてねーよ。つーか、思い出もクソも……
おまえと出会ってから10日も経ってないんだが?」

「……くっ」

少女の顔が苦虫を噛み潰したようなになる。

「では、下の街に降りて公園にでも……」
「今は地震が止まってるけど、きっと先の震災で避難してきた人で溢れかえってるぜ?」
「……くっ」

定番の場所は全て塞がれている。しかし、彼女は諦めない。
挫けない。何故なら彼女は絶対を否定する神剣の化身であるのだから。


「こうなったら奥の手ですわ。屋上……そう、屋上ですわ!」


屋上―――


それは、昔から現在に至るまで、王道ともお約束とも言われてきたラブロマンスの金字塔。
最終決戦の前という特別な日には、フラグを全て満たしたヒロインが居なければ、
決して立つ事が叶わぬ聖域である。

「……まぁ、いいけど」

浩二が頷いたので『反逆』は顔をパッと輝かせた。
この日に浩二の隣に立つ女の子が、自分であると言うのは些かつまらないが……
それでも誰も居ないよりはマシだろうと、前向きに考える。

屋上には青い空。やがて太陽が沈みかけ、夕陽をバッグに寄り添う男女。
うん。悪くない。そんな事を考えながら『反逆』が屋上のドアを開けると―――


「……あれ? おにーさん達も洗濯物を干しに来たんですか?」


―――洗濯ロープと物干し竿に……
服が干されている屋上という、素晴らしい光景が広がっていた。

「んしょっと……ゆーくん。もちあげてくれる?」
「クルル」

ユーフォリアは籠一杯の洗濯物を、物干し竿にかけている。
そんなロマンスの欠片も無い、そんな所帯じみた屋上の光景に……
『反逆』は両手と膝をがっくりとつくのだった。




「………あんまりですわ」





************************





斉藤浩二は壁に背を預けて屋上の床に座り込み、空を見上げていた。
両隣には浩二を挟むように『反逆』とユーフォリアが座っている。
洗濯物を干し終えたユーフォリアは、一仕事終えて疲れたのか、
暖かな日差しの陽気に誘われたのか解らないが、こくりこくりと舟をこいでいた。

「なぁ、反逆……さっき、ここに来るまでに俺達はまだ出会ったばかりで、
語る思い出などないと言っただろう?」

「おっしゃりましたわね。真実だとしても無礼な物言いですわ」
「悪かったよ。拗ねるな……その代わりと言ってはなんだが、俺の話を聞くか?」
「それは……是非、お聞きしたいですわね」

浩二がそう言うと『反逆』は嬉しそうな顔をした。
人が誰かに自分の事を知ってもらおうとするのは、その人に好意を持っているからだ。
嫌いな人間にはそんな話をしない。それに、斉藤浩二は好きな人間と、嫌いな人間―――
どうでもいい人間をきっちりと線引きする。その彼が自分の話をしてくれると言う事は、
自分は少なくとも好きな部類に入ると言う事だから。

「そうだな……それじゃ、俺が始めは……
世刻望の事を嫌いだったと言ったら……おまえ、信じるか?」

「今のマスターから見れば、そんな風には見えませんけど……そうでしたの?」
「ああ。俺は望の事が嫌いだったよ―――」

斉藤浩二は人より優れた才能を持っている。勉学も運動も人並み以上にできた。
そして、処世術も心得ていたので、最初のクラスでは中心人物であった。
だが、学年が一つ上にあがり、世刻望や永峰希美、それに暁絶と同じクラスになると、
クラスの中心人物の座はあっさりと世刻望に奪われる。

それが悔しいとは思わなかったが、何故だとは思った。
自分の方が優れているのに、世刻望に劣るところなど何一つとしてないのに……
それどころか、ヤツとは違って自分はクラスに受け入れられるように、
気を使って馬鹿なフリして道化まで演じているというのに……

―――いつも話の中心にいるのは世刻望。

好き勝手やっているのに、クラスの連中からは妬まれず、恨まれもせず、
永峰希美や斑鳩沙月という学園のアイドルまでもはべらせている。

世刻望が自分に何かをした訳では無いが、そのようなヤツを好意的に見れる訳は無い。
なので浩二は、暁絶や森信助という望の友人とは親しくしていたが、
世刻望その人には、クラスでの用事でもない限り話しかける事は無かった。

「今になってしみじみと思うよ。あの時―――俺の傍に『最弱』が居てくれてよかったって……
でなければ、俺は……アイツを、望を……目障りなヤロウだって……
潰しにかかっていたかもしれないからな」

浩二は人身を掌握する術と、どうすれば勝てるかという計算を弾き出せる才を持っている。
もしも自分があの時、潰しにかかっていれば、望を学園から孤立させる事はできた筈だ。

沙月や希美の好意を持っている学園の連中を煽ってやるだけでいい。
浩二には処世術で得た人脈がある。そして、学園の主要人物は全て抑えてある。
沙月を除く物部学園の生徒会メンバー。各クラスの中心的人物。
そして、様々な部活やクラブのリーダー的存在。
物部学園の生徒ならば、男女問わず浩二は彼等と繋がりを持っていた。

「頼まれれば部活の助っ人に出たり、生徒会の仕事を手伝ったり……
コンパをしたいって男子連中がいたら、何とかコネや伝手を使って相手の女の子を捜してやったりと、
色々と駆け回っていたからな。ただの学生だった頃は……」

その時の苦労が、今の浩二の事務能力に繋がっているのである。
企画、運営、管理という能力については、物部学園が誇るカリスマ生徒会長・斑鳩沙月も、
斉藤浩二には敵わないと認めていた。もしも、この戦いに巻き困れず、学生のままであったなら、
来年の生徒会長は浩二であったかもしれない。彼にはそれだけの能力がある。

物部学園が異世界に飛ばされた後も、浩二の高い事務能力はいかん無く発揮されている。
学園の意識を一つに纏めるために、露天風呂を作るというレクリエーションを提案して団結力を高めたり、
クラスのリーダー役の生徒とも親密に話して、学園で事件が起こらない様に尽力していた。

精霊の世界で、ロドヴィゴと密かに話をとりつけて、その手の店などに連れ出した辺りは、
斉藤浩二の真骨頂であろう。異世界の住民と渡りをつけて、企画から実行に移せる人間はそうそう居ない。
その浩二が、世刻望を潰そうと攻撃していたら、彼の学園生活は終わっていただろう。

「サレスがマスターを買っているのも、そういった類の才能ですものね。
マスターは、組織のナンバー2としては得難い人材ですわ。
足りないモノは、持って生まれたカリスマという才能だけですもの」

けれど、そんなモノは努力で埋められる。そして、浩二は努力する事を嫌がらない。
倒れてもへこたれない。不屈の闘志で立ち上がってくる。
才能と天稟に恵まれた浩二が、誰よりも努力して、勝てるまで挑んでくるのだ。
味方にすればあらゆる面で心強いが、敵に回せばこれ以上に嫌な相手はいないだろう。


「……望が嫌いだった理由。今なら解るけど……俺は、アイツが眩しかったんだ。
けど『最弱』はいつも言っていた。人と自分を比べることに何の意味があると。
人を羨んで、足を引っ張ろうとする努力をするくらいなら、
自分がそれ以上になって見返す努力をしろって。
いつも……俺が道を間違えそうになる度に、そう言ってたよ……」


態度で、あるいは言葉で―――


『最弱』は浩二の行動に直接口出しする事は無かった。
口出しする事があったのは彼女をつくれという軽口ぐらいのもので、
他は何をしても「相棒の好きにすればええ」と言っていた。

けれど、自分が人を妬んだりして、陥れてやろうと考えると、
それでいいのか? と態度や言葉で表してきた。


「……俺に……できない事なんて、無い―――」


今やそれは、斉藤浩二の口癖である。
だが、始めに浩二がその言葉を口にしたのは『最弱』に対してだった。
自分が人を羨んだり、妬んだ時に『最弱』が―――


『ふーん。さよか。ええんとちゃいます?
でも、相棒……人を羨むっちゅー事は、自分がソイツ以下だと、自分で認めてんのと同じやで?
……はぁ、まぁ……でも、それでええんとちゃいます?
世の中には逆立ちしても、絶対に勝てへんヤツはおんねん。そう言うこっちゃろ?』


こんな事を言って―――


「うるせぇ。バカヤロウ! できるよ! できるに決まってるだろ!
俺がアイツに劣るだと? ふざけんな! 俺に出来ない事なんて無いんだよ!」


―――自分がこう言い返したのが始まりだ。



自分で最下位『最弱』を名乗るハリセン風情に挑発されて、
その通りだと認めてしまうのがシャクだから、反発したのが始めなのだ。
そんな事を言われる自分が惨めで情けなくて、もう二度とそんな事を言わせるものかと、
半ばムキになって叫んだのだった。

「つーか、あのヤロウ……今になってよくよく考えてみると、
十分に俺という人間を操ってるじゃねーか。
何がマスターに精神干渉する事の無い反永遠神剣だっつーの」

浩二は憎まれ口を叩くが、その顔は笑っている。
『反逆』は、改めて浩二と『最弱』の絆が、どれだけ深いものであったのか知った。

「マスターは……マスターは本当に……
『最弱』の事が好きだったんですのね……」

「ハハッ。そんな訳あるかよ……あんな弱っちい神剣―――
魔法も超状能力も何も無い……馬鹿馬鹿しいフォルムのクソ神剣……
おまえのが、よっぽど俺の神剣として相応しいよ。
……強くて、力もあって、魔法も……使える……っ………俺に、相応しいスペックの―――」

雫が、ぽたり、ぽたりと落ちていた。
浩二は自分の頬に手を当てて不思議そうな顔する。

「……あれ? 俺、何で……」
「―――っ!」

たまらなくなって『反逆』は浩二の顔を自分の胸に抱き寄せた。

「泣きたい時は泣いてもいいのですわ。
それで、マスターを馬鹿にする人なんて……ここにはいませんもの……」

それが引き金となったのか、浩二はぼろぼろと涙をこぼして嗚咽を漏らすのだった。


「……なぁ、おい」


それからしばらく経って、泣き止んだ浩二は『反逆』に膝枕をされながらポツリと呟く。

「なんですの?」

「おまえ、さ……本当に俺がマスターでいいのか?
こう言ったらなんだけど、エターナルとも遣り合える神剣のパートナーが……俺でいいのか?」

「はい。わたくしを使っていいのは、従えていいのは……斉藤浩二だけですわ」
「今も手元に『最弱』があったら、おまえを選ばないだろうヤツでも?」
「わたくしも、マスターにそこまで想われるくらいの神剣になりますわ」
「―――アホだろ? おまえ」 
「フフッ。そうかもしれませんわね……」

「永遠神剣と反永遠神剣。二つの力を併せ持つ奇跡の神剣。
おまえのマスターになりたいと思うヤツなんて……
それこそ、星の数ほどいるだろうに……」

「そんな、誰もが羨むわたくしを前にしても『最弱』の方がいいと言う、
馬鹿なマスターが使う神剣ならば……アホなぐらいで丁度いいのではございませんこと?」

少女はそう言って笑う。少年も、つられたように笑った。

「……アホめ」
「バカめ」
「……反逆」
「はい」

「……俺に……おまえの力を俺に貸してくれ……
俺の世界、俺の大切な人達を護る為に……俺の描く夢を叶える為に」

「イエス。マイ・マスター。わたくし―――反永遠神剣『反逆』は、
貴方の前に立ち塞がる壁の全てをこの刃で斬り伏せ、障害があれば重圧で砕き……
マスターに降りかかる、ありとあらゆる理不尽なる力を否定しますわ」

神剣とマスター。心が通い合うというのは、こんなのを言うのだろうと、
薄目を開けて浩二と『反逆』の話を聞いていたユーフォリアは思った。

「ところで、マスター」
「何だ?」
「さっきから狸寝入りしているこの娘にも、マスターの話を聞かせたのは何故ですの?」
「……ああ」

ビクッとなるユーフォリア。それからムニャムニャとか呟いて、
自分は寝てますよーとアピールするが、浩二は小さく笑い『反逆』は呆れるような顔をする。
雰囲気に居た堪れなくなった彼女は、ガバッと体を起こして謝った。

「すみません。盗み聞きするつもりは無かったんですー」
「知ってるよ。最初からおまえが寝てなかったのも」
「へ?」

謝るユーフォリアに浩二が苦笑を浮かべる。

「誰にも聞かれたくない話なら、それこそこんな所でする訳無いだろう?」
「まぁ、それもそうですわね」
「でもでも、良かったんですか? 私なんかが、おにーさんの話を聞いちゃって」

「誰か一人ぐらい……俺以外にも『最弱』の事を知っているヤツが居て欲しかったんだ。
存在はすれども、マスターに恵まれず……今まで世に出る事も無く……
俺と出会うことで、やっと反永遠神剣として、名乗りを上げられたと思ったら……
そのマスターが不甲斐ないヤツだったばかりに、僅か2年ばかりで消える事になった神剣の事を」

「おにーさん……」

神剣の名を冠する存在としては、信じられぬ速さの退場であっただろう。
この時間樹が出来るよりも、遥か昔から存在する永遠神剣の歴史と比べたら、
反永遠神剣『最弱』は、一瞬にも満たない期間、この宇宙に名乗りをあげたに過ぎない。

けれど、エターナルであるユーフォリアに『最弱』の事を知ってもらえば、
たとえ僅かの間であろうとも、その存在は確かに居たのだと永遠に残るのだから……

「オマエには、つまんない話だったかもしれんが……
できる事なら、覚えておいてくれると嬉しい。アイツは『最弱』は、確かにここにあったのだと」

浩二はそう言ってユーフォリアに頭を下げる。
ユーフォリアは微笑んだ。そして、しっかりと頷く。

「はい。覚えておきます……私、忘れません……
また、更に記憶喪失になっても……それだけは絶対に覚えています」

「……感謝する」
「あは、ゆーくんも覚えてるって言ってます」

ユーフォリアがそう言って笑うと、
浩二はそう言えば彼女の神獣は『最弱』をやたらと気に入っていたなぁと思い出す。

「なぁ、ユーフォリア。よかったら、おまえの神獣を出してくれないか?」
「え? いいですよ」

気軽に頷いてユーフォリアは永遠神剣第三位『悠久』の神獣。
双子竜である『青の存在』と『光の求め』を出現させる。
浩二は、ホワイトドラゴンの方に近づくと、不思議そうにしている『光の求め』の鼻面を優しく撫でた。

「ごめんな。おまえ……『最弱』の事を気に入っててくれたのに……」
「クルル……」
「おまえも、覚えておいてやってくれよな……」
「クルッ」

浩二には『光の求め』が何を言ってるのか解らなかったが、
たぶん、わかったと答えてくれたような気がして、もう一度鼻面を優しく撫でるのだった。

「……マスター」
「あん? 何だ、反逆……」

「あんまりそっちのホワイトドラゴンばかり構っていると、
わたくし達の神獣ガリオパルサが、嫉妬して暴れますわよ?」

「おおう」

それはいかんとばかりに『光の求め』からバッと離れる浩二。
その様子が可笑しかったのか、ユーフォリアと『反逆』は、くすくすと笑うのだった。





*******************************





「……なぁ、ナルカナ」
「ん~? な~に~?」

世刻望が呼びかけると、ナルカナは気だるそうな声で返事をした。

「一つ聞いてもいいか?」
「どうぞ~?」
「何でおまえ、俺の部屋に住んでるわけ?」

ナルカナが自分の部屋によくやって来るのは前からだったが、
ジルオルと自分が統合されてからは、殆ど住んでいるような状態になった。
彼女が自分の部屋に戻る時は、寝るときだけである。

「だって望。あたしの面倒みてくれるんでしょ?」

それを言ったのはジルオルなのだがと思う望。
しかし、そんな野暮な事は言わない。
彼が引き受けたと言う事は、自分が引き受けたと言う事なのだから。

「…………」

そんな訳でナルカナが一日の大半をココで過ごすからなのか、
理由はどうだか知らないが―――

「カティマ。あれやろ? トランプ」
「いいですよ」

―――何でだろうか?

「望ちゃん。クッキー焼いてみたんだけど……」
「何? クッキーじゃと?」
「希美ちゃん……それ、私も手伝ったんだからね」

希美と沙月と、カティマとルプトナ。それにナーヤも常駐するようになった。
自分を入れて、8畳の部屋に人間が7人。人口密度高すぎである。

「むぅ……吾とノゾムの憩いの場が……」

レーメもいれると8人だ。
ナルカナに飲み物を持って来てと言われて、厨房に向かった時。
すれ違ったタリアが汚いものでも見るような眼で自分を一瞥していった。
絶は苦笑し、サレスは呆れており、ソルラスカはポンと肩に手を置いてサムズアップ。

「良かったわね~望くん。ここにいる男連中は、こんなのばかりで」

そう言ってヤツィータにニヤニヤと笑われた時は、穴掘って埋まりたくなった。
人には鈍感とよく言われたものだが、流石に今の状況は理解している。
自分だって男だ。女の子に思いを寄せられて嬉しくない筈がない。

だが、これはどうなのだろう? 人としてどうなのだろう?

そんな事を望は考える。考えてしまう。
少し頭を冷やそうと思って、気配を殺して廊下に出た。
それから渡り廊下を歩いて二階に上がり、休憩室のドアを開ける。
すると、そこには暁絶がサマになる格好で、スバルと一緒に紅茶を飲んでいた。

「あれ? 望くん」
「……どうした望? またパシリか?」

望は黙って二人が向かいって座ってるソファーの所まで歩いて行くと、スバルの隣にドカッと座る。

「パシリじゃない。ただ、ちょっと気分転換」
「そうか」

微笑みながら絶は席を立つ。

「お姫様達のお相手は嫌になったのですか? 世刻望」
「別に、嫌になった訳じゃないよ。ただ、ちょっと疲れたんだよ」
「まぁまぁ、望くんも怒らないで」

ナナシに嫌味っぽい事を言われて、少しだけムッとする望。
そんな彼を宥めるようにスバルが言う。そこに絶がポッドとカップを持って戻ってきた。

「望。砂糖とミルクはどうする?」
「両方。心持ち甘めで」
「了解」

絶が自分の紅茶を用意してくれる。望は礼の言葉を告げると、それを一口啜った。

「さて、愚痴があるなら聞いてやるぞ?」

「まさか。愚痴なんてあるわけ無いだろ。
俺は、今の自分がどれほど恵まれているのかは知ってるよ。
正直に言って嬉しいよ。こんな俺なんかを皆は好きでいて居くれるんだから」

「なら、何でそんな悩むような顔をしている?」

「どうすればいいのか解らないんだ……
皆の事は好きだけど……好きだから―――」

誰も傷つけたくないと思う自分はヘタレ野郎なのだろうかと嫌悪する。

「……フム。なぁ、望……」
「何だ?」

「もしも、誰も傷つけたくないから、誰も選ばないとか考えているなら、
それは間違いだとハッキリと言ってやる」

「間違ってるのかな……俺」
「ああ。間違ってるな」

腕を組んで頷く絶。

「みんなの事が好きで、傷つけたくないなら、いっそ全部選んでしまえよ。望」
「―――ブッ」

とんでもない結論が返って来て望は紅茶を噴き出した。
それからゴホゴホと咳き込んで、何を言ってるんだという目で絶を見る。ニヤリと笑っていた。

「ちょっ、絶、おまえ……何を無茶な事を言ってるんだよ!」
「ほう? どこが無茶なんだ?」
「皆を選ぶって、そんな―――」

望がそう言いかけた時、絶はクックッと笑っていた。

「なぁ、この程度が無茶だというのなら、オマエが今までやってきた事は何なんだ?
俺に言わせれば、そっちのハードルの方が高いぞ?
なにせ、この時間樹を護る為に、神と戦ってきたんだから」

しかも、彼の理想は力なき者達を守るという、単純明快にして果ての無い大きな理想である。
それを叶える為の努力と比べたら、精々が10人以下の女ぐらいをものにするぐらい、
何ほどのものであろとうかと絶は思うのだ。

「なし崩し的に参加する事になったこの『天の箱舟』だが……
俺は、このコミュニティーを気に入っているよ。
おまえ達の為なら、命を懸けて戦うのも悪くないと思えるぐらいにな」

「望くんは、何よりも困難な道を歩もうとしている。
そんなキミが、ううん―――そんなキミだからこそ、誰よりも幸せでなくてはいけない」

絶とスバルが笑いながら言う。

「それにな、望……身近な人間の7~8人を幸せにできないようなヤツが、
力無き人達の全てなど護れるものか。なぁ?」

「そうですね」

何だか最もらしい事を言われているような気がするが、望の顔はやはり晴れない。
けれど、話す前よりはずっと落ち着いた顔になっていた。

「……サンクス。少しだけ気がまぎれたよ」
「なら、待たせているお姫様達が、怒り出す前に戻ってやれ」
「あはは……うん」

苦笑して休憩室を出ていく望の背中を見つめながら、絶とスバルは噴き出す。


「ククッ。プッ―――人事だからって、俺達も無茶苦茶言うよな?」
「あははは。ええ。でも……」
「アイツが苦労することで、この居心地のいい場所が護られるなら……」
「それも已む無し―――って事ですね?」


望の姿が完全に見えなくなると、二人は声を上げて笑い出すのだった。









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