「……さん……に……さん」
誰かに呼ばれて居るような気がした。
「おにーさん! おにーさん!」
「交代しますわ。ユーフォリア」
揺すられている。誰だと思った時には、頭に強い衝撃が走っており、
斉藤浩二は頭を抱えて転げ回った。
―――ガスッ!
「ぬおおおおおおおお!!!」
「あ、起きました」
「だから言ったではありませんの。そんな風に揺するだけじゃ起きないって」
胸を張って踏ん反りかえっているのは、遊牧民のような服を着たポニーテールの少女。
その隣では、青い髪の少女がはわわわとか言いながら目を丸くしている。
反永遠神剣『反逆』と、ユーフォリアであった。
「―――ってーな! コノヤロウ! 何するんだ!」
頭を押さえながら浩二は立ち上がる。
しかし『反逆』は怒鳴られようとも、そんなのは何処吹く風と言わんばかりだ。
「マスターがいつまでも寝ているので、蹴ってあげたのですわ」
「寝ている人間の頭を蹴るとか、オマエは鬼か!」
「はいはい。文句は後で聞きますから、
まずはお立ちになってくださいな。話はそれからですわ」
仕方ないので浩二は立ち上がる。そこで、やっと異変に気づいた。
「……あれ? ここは? それに皆は?」
「全滅しましたわ」
「んなっ!?」
浩二は目が飛び出るぐらいに驚く。
よほどのショックだったらしく、何も言えずに口をパクパクさせていた。
「―――嘘ですわ」
「ぶうううううっ殺すぞ! コノヤロオオオオオ!!!」
浩二は『反逆』の頭をがしっと鷲づかみする。
そして、アイアンクローをくらわせた。少女の頭がミシミシと軋む。
「いたたたたたた! ギブ! ギブアップですわ! マスター!」
「……なぁ、反逆……」
「な、なんですの!?」
「俺はな……最も嫌いな事が三つあるんだ……
おまえも、俺の相棒なら覚えておけ……な?」
笑みを見せる浩二。しかし、目は少しも笑っていない。
「舐められる事、利用される事、おちょくられる事の三つ……
ああ、後は大切なモノを貶される事……これを加えて4つ。
これさえ気をつけていれば、基本的に怒らないから……冗談はソレ以外で言おうな?」
「わわわ、わかりましたわ。き、肝に銘じておきますわ!」
ユーフォリアは、以前に自分がくらったコメカミグリグリの刑よりも重い、
アイアンクローの刑を受けている『反逆』を見て、あわわわと言っている。
浩二は『反逆』から手を離すと、凄く優しく、そして怖い目で彼女を見た。
「……ユーフォリア。説明……してくれるよな?」
「は、はいっ!」
直立不動になるユーフォリア。なぜかビシッと敬礼までしている。
それから彼女は、浩二が飛来する二つのエネルギーを消し去り、
その反動で地面に叩きつけられて気絶した後の事を話した。
創造神エト・カ・リファが現れ、全員に『滅び』の神名を刻んだ事。
そして、ナルカナが『叢雲』の力で、全員の『滅び』の神名の侵食を止めた事。
その後に一人で原初に向かったであろう事。ユーフォリアは身振り手振りを加えて浩二に話す。
「なるほどな……『叢雲』の力では『滅び』を消す事はできないが、
その代わりに時を止める事で体を阻む侵食を止めたわけか……」
「はい……」
ユーフォリアが頷くと、浩二は立ち上がる。
「それで、その時を止められた皆は何処にいるんだ?」
「え?」
「だから、ナルカナの力では『滅び』を消せなくても……
俺の力―――全ての理不尽なる力を自然な形へと戻す、
反永遠神剣の力ならば、皆にかけられた『滅び』を消してやれるだろう?」
「―――あっ!」
「それとも、望が暁にやった見たいに『浄戒』で消してしまったか?」
治せることを前提で話ている浩二に、ユーフォリアはしまったと言う顔のまま固まっている。
「……あ、あの……おにーさん……」
「どうした?」
すみませんと、前置きして喋り始めるユーフォリア。
「その……望さんと、沙月さんを除いて……他の皆さんには、
一足先に写しの世界へと戻ってもらっちゃいました……」
「なんだとおおおおおおおお!!!」
皆を帰したと言うのにもビックリだが、帰れる手段があった事にビックリである。
「どうやって?」
「……せ、説明しますね」
ユーフォリアが言うには、ナルカナが去った後に一番最初に目覚めたのは自分で、
どうしようとオロオロしていたら、倉橋時深から連絡があったらしい。
例の、次元を超えて会話できる永遠神剣を使って。
そこでユーフォリアが今の状況を説明すると、命に別状はないとはいえ、
戦闘不能になった皆を原初に置いておくことは危険なので、
時深の判断で、皆を一足先に写しの世界に戻したそうだ。
それを可能としたのは時深の持つ永遠神剣『時果』の力。
彼女が作り出した細い回廊を使い、ユーフォリアが皆を運んだのである。
「……おまえ、時深さんに何て言ったんだ?」
「えーと。自壊の神名を刻まれたみんなが、ナルカナさんに眠らされていますって」
「………俺。刻まれてないけど?」
絶対を否定する反永遠神剣を持つ斉藤浩二には、神名という強制力は通用しない。
エターナルであるユーフォリアにさえオリハルコンネームを刻む事のできる、
創造神の戒名も、彼にだけは通用しないのである。
「俺が寝てたのは、あくまで物理的な衝撃による気絶だぞ?」
「そそ、それは勿論知ってます。だから、おにーさんだけは起こしたんです」
「なぁ、ユーフォリア……おまえのさっき言った説明だと……
時深さんは俺も『滅び』を刻まれて昏睡してるように聞こえるよな?」
「そ、そうですね……」
「……で? 俺は、ただ気絶しているだけだと知っていたユーフォリアは……
そんな誤解されるような説明をしたんだ? どうして一番最初に俺を起こさなかったんだ?」
「ううっ……それは……」
厳しい口調ではないが、詰問するような浩二にユーフォリアが俯いて黙り込んだ。
そんな二人の様子を見ていた『反逆』は、ふっと溜息をついて浩二の前に出る。
「マスター」
「何だ? 反」
―――ピシャン。
「おぶっ」
何だと呼びかけた時には、浩二は『反逆』にビンタをされていた。
「……な」
「……自分では気づいていらっしゃらないようなので、
わたくしが言って差し上げますが……今のマスター……最低ですわよ」
「何だと!」
「ユーフィーの思い遣りに気づきもしないで……
彼女はマスターに気を遣ったのですわ。
傷つき、倒れているマスターの手を煩わせたくないと……
これぐらい自分一人でもできるのだから、やらなくちゃって……」
「―――っ!」
浩二は息を呑む。そして、俯いているユーフォリアを見た。
「マスターが仰られた事ぐらい、わたくしも気づいていましたわ。
わたくしが目を覚ましたのは、ユーフィーが他の皆様を運んでいる最中でしたけど……
あえて止める事はしませんでしたわ。言ったのは、世刻望と斑鳩沙月は最後にしろと言ったぐらいで」
「……何故だ? おまえ、気づいていたなら―――」
「確かにわたくしの力で『滅び』を消す事はできますわ。
でも、消せるのは『滅び』という神名だけ……
それによって削られた体力とマナは、一朝一夕に回復するものではございませんもの」
すなわち彼等から『滅び』を消しても、戦闘不能状態である事に変わりはない。
それなら浩二が、今ここで力を使って全員の『滅び』を消すよりも……
力を温存してエト・カ・リファにぶつけた方が良い。
エト・カ・リファさえ倒せば、創造神によって刻まれた神名を消す事ができるのだから。
「世刻望と、斑鳩沙月を残したのは彼らだけ『滅び』により、
力を奪われる事が殆ど無かったからですわ。わたくしの判断は間違っていまして?」
「……いや」
浩二は悲しそうに俯いているユーフォリアを見た。
彼女は、自分が遠慮無しにぶつけた心無い言葉に傷ついている。
確かに、彼女の行動はベストでは無かったかもしれない……
だが、いつもの浩二であるならば、彼女の想いを酌んでやる事もできた筈だった。
役に立ちたいと、少しでもみんなの力になりたいと言う、彼女の穢れない想いからした選択を……
頭から間違いであると決め付ける事は無かった筈である。
「……………」
浩二は天を仰ぎながら、自分はダメなヤツだなと思った。
『最弱』や『反逆』というパートナーがいてこそ、辛うじて道を踏み外さないで居られている。
「……ごめんな……ユーフォリア……酷い事を言ってしまって……」
アレは他人が言うのならまだしも、
自分だけは口が裂けても言ってはいけない台詞であったのだ。
「ち、違います……おにーさんは……ひっく、悪く……ないです……
だって、っ……ぐすっ……私が……」
確かに自分が言った事は正論だろう。だが、世の中正論が全てでではない。
この『天の箱舟』というコミュニティーの中で暮らす間に、そう思った筈であったのに……
ピンチになると、今回のように余裕を無くして理詰めで考えようとしてしまう。
「……悪い。悪くないで言うのなら……
ベストな判断をとれなかったオマエは確かに悪いんだろうな……でも、それは俺もだよ……」
「違います! おにーさんは―――」
「ユーフォリアはただ、選択を間違えただけだが―――
俺はおまえの想いを踏み躙ったんだ……」
「違います! わ、私が……え?」
浩二は泣いているユーフォリアの頭に手を置いて撫でる。
「もういい。自分を傷つける事は無い……」
泣いている彼女を見て、抱きしめてやりたいと思った。
しかし、彼女を抱きしめるのは自分の役目じゃない。また自分であってはいけない。
―――何故なら、自分は酷く汚れている。
考え方が何処までも冷たい、冷酷で冷徹な自分が心の中に居る。
そんな自分では、純粋な心の持ち主とでは釣り合わない。
……だからだろう。
自分がいつまでも特別なヒトを作らなかったのは。
『天の箱舟』のメンバーも『旅団』のメンバーも心は穢れていないのに……
自分だけが汚かったから、無意識の内に避けていたのだ。
利己的で自分勝手でしか無かった自分の心を、仲間達は随分と洗ってくれた。
信じる事の強さを知った。信頼される事の嬉しさを知った。
みんなのおかげで、黒が灰色になる程度には変われたと思う。
白にも黒にもなれない中途半端な色だけど、それでも灰色である今の自分は嫌いではないから。
『始めは強制されて連れてこられた場所だとしても……
ここでの生活、出会い、過ごした日々は、意義のあるものだったと思っている。
だから、この時間樹を護る為に戦う想いに、一片の曇りはないつもりだ』
思い出すのは、先日の夕刻に屋上で聞いたサレスの言葉。
あの時そう言ったサレスも、今の自分と同じ気持ちであったのだろうか?
全員が白い心の『天の箱舟』と『旅団』の中で……彼だけに感じていたシンパシー。
それはきっと、サレスだけが自分と同じで灰色だったから。
だから、彼とは近いものを感じたのだろう。
「もう泣くな。おまえは判断を間違えたが、俺はヒトとして間違えた。
それを反省して、後悔はしないでいよう。二人で間違いを謝って終わりにしよう。
その後に二人で立ち直ろう。できるな……ユーフォリア?」
「……はい」
彼女は強い。そして、これからもっと美しくもなるだろう。
ユーフォリアという名の花は、外見の美しさだけでなく……
しっかりと芯の通った心の強さを持つ、極上の大輪になる事であろう。
「ごめん。ユーフォリア」
「ごめんなさい。おにーさん」
二人で頭を下げあって、顔をあげると笑いあう。
出合った時から変わらない向日葵のような笑顔。
浩二はこの花を抱きとめるだろう男に、大事にしろよコノヤロウと心の中で呟くのだった。
「やれやれ……世話の焼けるマスターですこと……」
二人のそんな様子を、反永遠神剣の化身である少女は笑ってみていた。
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「……ナルカナっ!」
世刻望が目覚めると同時に叫んだ言葉がそれであった。
彼を起こそうとしたレーメが引っくり返っている。
「……何やってんだ、アイツは……」
上半身だけを起こして辺りをキョロキョロと見回している望と、
彼の足元にポテッと倒れているレーメを見て、浩二が呟く。
「望くん……その起き方は酷いんじゃない?
レーメがびっくりして、引っくり返ってるわよ?」
「目が醒めたようで何よりです。望さん」
沙月は呆れたように、ユーフォリアは嬉しそうに、目覚めた望の所に歩いていく。
「……あれ? 浩二と沙月先輩と……ユーフィー? 他の皆は?」
辺りを見回していた望は、浩二達に気づいて問いかける。
浩二は座ったままの望の所に歩いて行くと、自分も胡坐をかいて座った。
「説明してやるよ。あれから何があったのかを……な」
「……あ、ああ」
望より先に目覚めた沙月には、もうしてやった説明を浩二は繰り返す。
ナルカナが去った後の事―――
すなわち、ユーフォリアが戦闘不能になった皆を、時深の協力を得て写しの世界に還した事を。
そして何故かは解らぬが、望と沙月だけは『滅び』によって崩壊する速度が遅く……
戦闘不能になるまで体力とマナを奪われていなかったので、
浩二が『反逆』の力を使って刻まれた『滅び』の神名を消してやった事を説明してやる。
「……そういう事、か……」
「ユーフォリアは外部存在のエターナルであり、
エト・カ・リファの強制力が薄いので、戦闘不能にならなかったと言うのは理解できるんだが……
おまえと沙月先輩は、何で戦闘不能にならなかったんだろう……」
「いや、そんな事を言われても……」
「ああ、そう言えば望も外部存在だったな……
―――ん? でも、それだけじゃ沙月先輩の説明がつかないよな?」
浩二はその理由を追求しようとするが、思い当たる理由が無い。
沙月が入っていなければ『外部存在だから効き難い』で説明がつくのだが……
「俺には神名を刻めないから、無事なのは当然として……
ユーフォリアと望は、外部存在だから効き難いという理由で説明はつくんですけど……
沙月先輩は何の理由があって無事なんでしょう?」
「あ、そう言えば―――」
浩二が沙月に問いかけると、ユーフォリアも何故ですか? と言う顔で沙月を見る。
「え? な、何でって言われても……」
思い当たりの無い沙月は返答に困る。
その顔を見て、やっぱり思い当たりは無いんだなと浩二は思った。
「まぁ、いいか……無事なもんは無事で」
同じ特別でも、沙月だけ特別に酷いのと比べたら100倍マシなのだから。
「……まぁ、と言う訳だ望。天の箱舟&旅団連合も、今はこのとおり4人だけだが……
……これからどうするね? 後はナルカナに任せて俺達も帰るか?
もしくはここで、ナルカナが帰って来るまで待ってるか?」
答えは解っているが、わざわざ尋ねる浩二。
「ナルカナを追いかけるに決まってるだろ!
アイツ……自分さえしっかりしてたら、時間樹が初期化される事は無かったかもなんて言いやがって……」
「そうね。私も行くわ。ナルカナにばっかポイントを稼がせておくのも気に入らないし」
望が答えると沙月も頷く。浩二はニヤリと笑って立ち上がった。
「よし、それじゃあ行くか……ここにはお前がいて、俺が居て……沙月先輩とユーフォリアもいる。
たとえ傷だらけの襤褸だとしても、まだまだ『天の箱舟』は沈んじゃいないのだから」
「行きましょう! ここには居ない、みんなの想いを風にして……」
「まだまだ、海原に漕ぎ出せるものね」
浩二の言葉をユーフォリアと沙月が繋ぐ。
後は、キャプテンである望の言葉を待つだけであった。
「よし、行くぞ! 天の箱舟―――出発進行!」
「「「 おう! 」」」
高らかに宣言する望の言葉に、神剣のマスター達は走り出す。
目指すは原初の最深部であった。
***************************
「……この気配……このマナ……
ああ、なるほど……さっきのは、てめーらの仕業か……」
最深部へと続く転移装置の前。
そこには二つの巨体が並んで待ち構えていた。
『この気配……エターナルですわ……』
「なるほど。どーりで強化ミニオンを入り口付近に集中させている訳だ。
前衛は強化ミニオン軍団。中間地点は砲撃。最終地点はエターナル。これが原初の護りか……」
それを前にして浩二は、先ほどあの核爆弾のような攻撃をぶっ放してくれた存在の正体を知る。
立ち塞がる二つの巨体。まず一つは、鳥のような足と、白と黒の四つの翼。
獅子の様なたてがみに、人間のような腕を持つ魔獣――原初存在・激烈なる力。
そして、もう一つは姿形は基本的に人間なのだが、大きく違うところが二つある。
それは右腕が氷の柱のようなモノで出来ている事と、首から上が無い事である。
無くした首は、右腕で無造作に掴んでいる狂戦士―――原初存在・絶対なる戒。
この魔獣と狂戦士こそが、創造神エト・カ・リファの眷属にして原初を護る盾であった。
「なぁ、望……」
「何だ? 浩二」
ちなみにナルカナはこの魔獣と狂戦士に襲われていない。
何故ならエト・カ・リファは、彼女が追いかけてきたら、自らが引導を渡すと宣言していたから。
「古今東西の過去から現在……そして、未来にも伝わるであろう、
お約束の台詞を今から言うから、しっかりと聞いてくれ」
しかし、通すのを許可されているのはナルカナだけで、
浩二や望達はエト・カ・リファのいる最深部に行く事を許可されてはいない。
かと言って、ここで時間を食うわけにはいかないのだ。
それでなくとも、先に行ったナルカナとは随分と離されているのだから。
もしかすると、もうエト・カ・リファと交戦しているのかもしれない。
ならば、こちらが取る手は一つだけ―――
「俺に任せて先に行け」
そう言いながら浩二が、反永遠神剣『反逆』を薙ぎ払った。
「浩二……」
「安心しろ。俺は負けねーよ……俺を誰だと思ってるんだ?」
「……誰でも無いわよね?」
言えば必ずツッコミをいれられる台詞を言って、薙刀を構える浩二。
彼の周りから風が吹き始めていた。
「沙月先輩。ユーフォリア……望を頼む……」
「斉藤くん。いくらなんでも一人じゃ―――」
「俺が一人? やだなぁ、沙月先輩……2対2ですよ」
浩二が笑いながらそう言うと、彼の隣にシュウンという音と共に赤い巨体が現れる。
「なぁ? ガリオパルサ」
「グルルルル……」
神獣ガリオパルサ。暴君の名を頂くレッドドラゴン。
反永遠神剣『反逆』の神獣にして、斉藤浩二にとっては忘れられない男から受け継いだパートナー。
「それに、俺は『最弱』の想いも背負っている。あれぐらい何ともねーよ」
声はもう聞こえずとも『最弱』はきっと自分を見守ってくれている。
彼は一人であるとは思っていない。自分と『反逆』とガリオパルサと『最弱』の4人なのだ。
故に、数の上では敵を上回っている。斉藤浩二は本気でそう思っているのを、望達は感じていた。
「……解った。ここは任せる……」
「望くん!?」
「望さん!?」
この無謀なる戦いを望が認めるとは思ってなかった沙月とユーフォリアが、
驚いたような目で望と浩二を交互に見る。
「望くん。いいの? 斉藤くんは確かに強くなったけど……
たった一人であの化け物二人を相手にするのは―――」
沙月は、あの魔獣と狂戦士には全員で挑んでも勝てるかどうかは解らないと思っている。
故に浩二だけを置き去りにするのは、彼を死なせるのと同じだと言おうとした。
しかし、その瞬間に浩二が身体中から放った爆発的なマナの大きさに目を見開く。
「これでも俺……負けると思います?」
赦しのイャガと戦った時も、あの核爆弾のような攻撃を消し去った時も凄いと思ったが、
今の浩二の放つマナと闘気の強さを見たら、天と地ほどに違うと思った。
赤く輝くマナは、目の前に立つ二人の化け物に匹敵している。
すなわち、今の彼はエターナルと互角に戦えると言う事に他ならない。
反永遠神剣『反逆』は、かつて自らを屠った上位神剣に対抗する為に生まれたツルギである。
『最弱』が理不尽にツッコミをいれるハリセンなら『反逆』は理不尽を粉砕する薙刀。
絶対なる者に反逆を―――
たとえ一度は敗北して地に塗れ様とも……
死の底から再び立ち上がり、猛然と反旗を翻すのだ。
「さて、ご理解が頂けた所で……今から道を切り開く。
みんなには、振り返る事無く駆け抜けてもらいたい。
……大丈夫。こいつ等が後から追いかけてくる事は無いから……」
「……それだけじゃないだろ? 浩二」
「ああ……もちろんだ。こいつ等を始末してから俺も行く。
エト・カ・リファのヤツをボコにする楽しみ、俺にもとっておけよ?」
「善処はするから、すぐに追いかけて来いよ」
そう言って『黎明』を向けてきくる望。
「―――おう」
浩二は苦笑しながら望の剣に薙刀の柄をぶつける。ガキンと音が鳴った。
「さーて、ガリオパルサ! 反逆の狼煙を上げるぞ!
首なしねーちゃんと、キメラ野郎に灼熱のブレスを食らわせてやれ!」
浩二の言葉に答えるようにガリオパルサが飛び上がる。
そして、上空から二人のエターナルに向けてブレスを吐いた。
「はあああああああっ!!!」
浩二はそれに合わせるように飛んでいる。
そして、ブレスをかわした魔獣と狂戦士に、重力波を叩きつけた。
「今だ! 駆け抜けろっ!!」
その雄叫びを背に、望と沙月が疾風のように駆けて行く。
そこで違和感に気づく浩二。見ると、ユーフォリアが立ち止まったままであった。
「ユーフォリア………」
「お叱りなら後で受けます。でも、私も戦います!」
ハッキリと決意した瞳で言うユーフォリアに、浩二は小さく溜息をつく。
浩二とユーフォリアは今、その間に二人のエターナルを囲んだ格好である。
「一応言っておくが……今まで戦ったどの敵よりも強いぞ?」
「解ってます!」
強い意志の篭った瞳であった。
そんな瞳を向けられた浩二は思わず苦笑を浮かべて薙刀を構える。
「ったく……仕方のないヤツだ」
浩二の言ったその言葉に、ユーフォリアは笑顔を見せた。
いざとなったら、やるだけやって転移装置を壊してやればいいと考えていたのを改める。
彼女は自分がそんな風に考えていたのを察して残ったのだろうか?
「必ず勝つぞ!!」
「はい!」
原初の守護神。激烈なる力と絶対なる戒。
それを迎え撃つのは絶対を否定するツルギを持った、運命に抗う少年と……
絶対なる宿命を背負ったツルギを持つ、運命の少女の挑戦が始まった。