自分のカードはジョーカーである。
斉藤浩二はそう言った。トランプにおけるジョーカーの扱いは様々だ。
代用品。何にでもなれるカード。エースカードさえも封じれるカード。
しかし、たった一枚ではマヌケなピエロの描かれたクソの役にも立たないカード。
だが、ポーカーというゲームにジョーカーのカードは無い。
本来なら正規のカードだけで挑んだであろうこのゲームに、ジョーカーを加えたのは世刻望。
斉藤浩二は思う。このバカヤロウがいたからこそ、
本来ならば手札に加わらぬジョーカーが手元にあるのだと。
自分は、本来ならここにいるような人間じゃない。
そう―――
世刻望というバカヤロウがいたからこそ、
斉藤浩二は永遠神剣の戦いに巻き込まれる事になったのだ。
彼と出会わなければ、自分は今も元の世界で『最弱』と共に
永遠神剣の戦いから背を向けて暮らしていただろう。
世刻望というバカヤロウが、あまりにも馬鹿な理想を抱くから、
自分は何を血迷ったのか知らないが『天の箱舟』なるコミュニティーを作った。
世刻望というバカヤロウが、自分を同じバカヤロウにしたからこそ、
自分は原初なんていう場所にいて、こんなクソッタレと戦っているのだ。
「ならば、世刻望が集めた『想い』を形に変えてやるのが……
ヤツの手札のジョーカーである俺の役目だ……っ!」
反永遠神剣は人の想いが具現化して出来たツルギである。
「本来―――想いに形などありはしない……」
『反逆』というツルギは、ベルバルザードに託された『重圧』という永遠神剣が、
斉藤浩二の想いにより反永遠神剣となったツルギである。すなわち、オリジナルではないのだ。
反永遠神剣のオリジナルとは『最弱』と名乗っていた、紙で出来たツルギである。
では、紙の特性とは何だろうか? 浩二はすでにその答えを出している。
「故に、我がツルギに定められし形はあらず……」
浩二の手に握られた『反逆』が光り輝いていた。
そして、ここは幾多もの想いが集う場所。
世刻望が連れてきた仲間の想いが集う場所。
「その想いを形に変えよう。集いし想いを刃に変えよう……」
激烈なる力と、絶対なる戒を破った時。
浩二はすでに反永遠神剣の真の力を使っていた。想いを形に変えるという事を。
光り輝き、形を変えた己がツルギを構えを取る浩二。
「……っ……何?」
完全に別の形に変化した浩二の神剣を見て、イャガは信じられないと言う顔をしていた。
何故なら、浩二の持つ神剣の形が変化したからだ。
知っている者が見れば、その刀の名前をこう呼ぶであろう。
永遠神剣第五位『暁天』と……
「……さて、行くぞ。叢雲の力さえも取り込んだ……自称最強のエターナル。
おまえが最強を謡うのなら、俺達の想いを全部砕いて見せろ!
―――おまえにぶつける意思が、ここには10人分はあるぞ!
暁と希美とカティマと、ルプトナにナーヤ!
サレスにタリアに、ソルラスカにスバルにヤツィータ!
貴様に抗おうとする想いが、この場には少なくともこれだけある!」
『暁天』の形をとる『反逆』をイャガに向けて突きつけて猛る浩二。
「テメェが……最強を謳うなら―――っ!
俺達を、越えてから謳いやがれえええええええ!!!」
刀を振るえば神速の抜刀術がイャガの髪を掠め、ランタンを掲げれば巨大な火炎弾が放たれる。
光の矢を放った。見えない攻撃をモーニングスターで叩き潰した。
間合いを開けられたら、浩二は神剣を靴に変えて音速の速さで追いかけて蹴りを放った。
爪を突き立て、大剣を振り下ろし、風の薙刀を横に払う。
本のページを投げつけた。手負えば槍を掲げて回復した。
「―――っ!」
イャガは困惑する。まったく特徴が掴めない。
近づいても、距離を置いても、すかさずそれに対応した形の神剣を手に持ち、
止まる事の無い連続攻撃をしかけてくる。
「何よ……」
ある訳がない。想いなんていうものを形にしてしまう……
こんな、デタラメな神剣などがあって良い訳がない。
自分が相手にしているのは誰なのだ? 何人を相手にしているのか?
目に見えているのは一人なのに……
複数人の永遠神剣マスターを相手にしているような感覚に陥るのは何故なのだ。
「何なのよ……一体何なのよ……」
しかし、イャガにとって数は問題ではない。
たとえ数億の軍勢であろうと、自分ならば飲み込める。
問題なのは、飲み込んだ力は中に取り込んでもなお、反抗の意思を示してくるこの力だ。
「……私は、みんなが幸せになれるようにがんばってるのに……
何で……何で、邪魔をしようと、刃向かおうとするのよ―――っ!」
永遠神剣『赦し』は、生きとし生ける全ての者が、抱える全ての業を許す為に生まれた神剣である。
誰しも何らかの罪を抱えている。罪を抱えるという事は心が痛い事。
世界には他者がいるから傷つけてしまうのだ。自分以外の誰かがいるからこそ罪になるのだ。
もしも世界にいるのが自分だけならば、何かを壊して罪になるだろうか?
誰かを傷つけたりするだろうか? 答えは否。
世界に自分しかいないのなら、自分が自分の行いを許せばそれは罪と言わない。
故にイャガは、全てを自分の中に取り込もうとする。
みんなが自分の中で一つになれば、誰も罪を犯すことがないのだから。
それこそが、完全なる赦し―――
「貴方はああああああああああっ!!!!」
だが、視界に写る少年の形をした『何か』が放つエネルギーは、
全身全霊でイャガの『赦し』を否定してくる。
「……うるせーよ………勝手な事を、理不尽に押し付けるな……」
いらない。そんなモノはいらない。許してくれなんて頼まないと。
自分は自分であり続けたいと叫んでいる。
「オマエがどんな正義を持とうと勝手だが……
それを俺達に、理不尽に押し付けるな……
―――何様のつもりなんだっ! テメェはあああああああ!!!!」
*******************************
「ナルカナっ!」
世刻望は、イャガの中から脱出すると、立ち尽くしている少女の傍へと駆け寄った。
イャガは浩二が抑えている。何がどうなってるのかは知らないが、
『天の箱舟』と『旅団』のメンバーの神剣を次々と出現させるという方法で。
「……そっか、みんなもここにいるんだな……
ここで、一緒に戦ってくれているんだな……」
眼前で展開される神秘的な光景に、望はポツリと呟いた。
絶対なる存在に抗おうとする力。たとえ一人一人では敵わずとも……
手を取り合って、協力して挑もうとする姿。
敵の力が10で、自分の力が1ならば、同じ想いをもった1の力を重ねよう。
たとえ1であろうとも、それが10あるのならば互角なのだから。
世刻望には、皆の想いを集める力があるが、束ねて率いる能力が無い。
斉藤浩二には、束ねて率いる能力があれども、皆の想いをあつめる力が無い。
どちらも、一人では完全な強さを持つ者には及ばなくとも。
二人で組めば完全なる強さだって越えられる。
「―――望っ!」
「すまん。ナルカナ! 遅れた!」
「……っ、本当よ……いつも、遅すぎるのよ………」
「それについてはジルオル共々に謝る。ごめん! けれど―――」
謝罪の後に、けれどと言って言葉を繋げる。
潤んでいる少女の瞳を見た。望はその瞳をしっかりと見つめる。
本当に待たせた……
ジルオルであった時から考えれば、どれだけの時を待たせたのであろう?
それでもナルカナは待っていてくれた。
自分が彼女の事を忘れてしまっても、待ち続けてくれていた。
「これからは、ずっと一緒だ……」
「え?」
「契約しよう。ナルカナ―――」
「………本気で言ってるの? ねぇ、望……
あたしは……来てくれた事だけで嬉しいよ。
自分の事を思い出してくれただけで十分だよ……」
自分と契約すると言う事は、ナル化存在となる事を意味している。
マナを食らい、神剣宇宙のマナ存在から唾棄されるハグレになる事だ。
「~~~っ!」
望は、自分の頭をガシガシと掻き毟った。
自分としては、一大決心をしての告白であったつもりなのだが、
彼女は自分の言葉を、この場の雰囲気とかテンションに流されて言ったモノだとでも思っているのか。
気持ちを言葉に表すというのは大変な事だ。
こういう時には、自分も浩二のように想いを流暢に語れる喋りの才能があればと思う。
しかし、残念な事に世刻望にはその才能は無い。
仕方ないので、自分らしく行こうと望は体当たりでいく事にした。
「ナルカナっ!」
「―――っ!」
目を反らしているナルカナを正面から抱きしめる。
そして、顎を持ち上げてキスをした。すると勢いがつきすぎて歯が当った。
ガチッとマヌケな音が鳴って、二人でいててと言いながら口を押さえる。
「……何をやっておるのだ……」
世刻望の神獣レーメが、望の肩にちょこんと座って、肩をすくめていた。
浩二とユーフォリアと沙月が、イャガと交戦中でソレを見ていなかったのが僥倖であろう。
見ていたら、きっと皆笑っていただろうから。
「……っ……っ……ちょっと! 何するのよ! 痛いでしょうが!」
「す、すまん!」
「あーーーーー! もうっ! 本当に望は、あたしが居てあげないとダメダメなんだから!
女の子にキスの一つもできない男なんて、この宇宙一心が広い私が貰ってあげなきゃ、
きっとだーれも、見向きもしないわね!」
踏ん反り返って言うナルカナに、レーメは心の中でそんな事はないだろうと思う。
少なくとも、ナルカナが望を要らぬ言えば、
じゃあ私がと言って手を上げるだろう女性を5人は知っている。
「……ははっ。じゃあ、頼むよ……ダメダメな俺の傍にいてくれよ。ナルカナ」
しかし、望は目の前で踏ん反り返っている少女のそれが、
喜びを隠すための精一杯の強がりだと知っている。
「……世刻望は求める。永遠神剣が第一位の力を……
俺を神剣の主に認めるならば、応えろ『叢雲』ッ!」
手を翳して求める望。それ見たナルカナは、一瞬だけフッと笑って表情を引き締めた。
「我、神剣『叢雲』の化身たるナルカナは応える。
世刻望を我が主と認め、その使命と共に汝に力を授けよう……
これより汝の名は『叢雲』のノゾム―――
我と共に神剣宇宙を駆け、永遠を歩むものとなれ!」
ナルカナはそう言って望の顔を見た。首を縦に振る望。
「叢雲を成す根源よ、我が血肉となれ!」
ナルカナの宣言と共に、望は自分の身体がナルに侵食されていくのを感じていた。
そして、世刻望という存在が消えていく事を……ナル・エターナルになる事を。
だが、それが不快だとは思わない。この力はナルカナそのものであり、
イャガが吸い込んだような不純なモノではないのだから。
「……馬鹿だよ。望は……こんな、ハグレの主になって、
今までのモノを全部捨ててしまおうと言うんだから……」
「俺が馬鹿だって事は十分に理解してる」
「でも……私は……そんな馬鹿が、大好きだよ……望」
「……ああ」
頷いて答える望の前で、ナルカナの身体が輝き、光の後に一振りの剣が浮かび上がる。
そのツルギこそ永遠神剣第一位『叢雲』
かつて理想幹でこのツルギを握った時は、仮契約のマスターでしかなく、
本来の力を抑えているとナルカナが言っていたが、
この本来の力を発揮する『叢雲』を前にすると、確かにその通りだと望は思う。
『ん? 望―――なんか勘違いしてるみたいだから、一応は断わっておくね』
「何だ?」
『私の力、まだこんなモノじゃないよ。
あくまでここにある『叢雲』は……
ツルギの意思である、あたしだけの力で構築したモノなんだから』
「これでかよ!」
『今は急場だからね。本当なら望には、
真の力を取り戻したあたしを握って欲しかったんだけど……』
「―――いや、これでいい。これで十分だよナルカナ……」
もともと最強の力など求めていないのだ。
一人ぼっちであった彼女を支えられる場所に居て、
理不尽に暴威に晒される、力無き人々を護れる力があればそれ以上は望まない。
今以上の力を求める日が、いつかは来るのかもしれない。
けれど、今はこれだけの力があれば十分だ。
何故なら自分は一人ではないのだから……
「行こう! ナルカナ! 戦いを終わらせるぞ!」
『あたし達の帰る場所。護らなきゃね!』
望が力強く呼びかけると『叢雲』もそれに応える。
永遠神剣第一位のエターナル『叢雲』のノゾムは、
一筋の光となって仲間達の待つ場所へ駆けるのだった。
********************************
「―――っ!」
「なっ!?」
「え?」
一筋の光が横を駆け抜けて行った。
光が駆け抜けた後にはイャガが目を見開いて固まっている。
「……え?」
見開いた目をゆっくりと下ろすイャガ。
そこには自分の左腕が落ちていた。
「終わりだ……赦しのイャガ……この時間樹から消えろ……」
光が駆け抜けた先から少年の声が聞こえてきた。
振り返る。大剣を横に構えて自分を睨みつけている少年。
「望くん……?」
「望さん……?」
その少年が持つツルギは、凄まじいまでの波動を放っていた。
全身から溢れ出してるマナの光が半端ではない。
「……そっか、それがおまえの道か……」
浩二は、その姿を見て複雑そうな顔を浮かべた。
「―――望っ!!」
しかし、すぐに表情を引き締めると叫ぶように呼びかける。
「押さえを頼む。俺は、イャガを消し去る力を集める」
「おう」
浩二の言葉に頷き、ユーフォリアと沙月とアイコンタクトを交し合う望。
三人がイャガに向かっていくと、浩二は反永遠神剣『反逆』を薙刀に戻した。
「さぁ、行こうか……反逆」
『ええ……』
「時間樹に住まう、全ての生きとして生ける者の想い……
絶対なる力を否定する力は、ここにあるのだから」
浩二は静かにそう呟くと、刀身を赤い光で輝かせる。
『たとえ一つ一つは取るに足らない、ちっぽけなものだとしても……』
「集めれば、それは巨大な力を破る、大いなる風となる」
虚空に向かって、ゆっくりと薙刀を振るう。
心気を済ませ、集った思いを刀身に引き寄せるかのように。
「戦おう。矢尽き、刀折れ、全てを無くしたとしても……」
『立ち向かう心は、何よりも尊いものだから』
一振り、一振りと、浩二が薙刀を振るうごとに光が大きくなっていく。
『抗おう。たとえ立ち塞がる壁が大きくとも……』
「越えられぬ壁など無いのだから」
不思議な感覚であった。自分の身体が自然に動く。
言葉に魂が宿って言霊となっていく。
「我がツルギ―――反永遠神剣」
『理不尽なる暴威に抗う想いから生まれた『想い』のツルギ』
刀身に纏った光が、凄まじい輝きを放っていた。
嵐をその手に掴んでいるかの感覚がある。波動の螺旋が原初を包む。
浩二は深く腰を落として、横薙ぎの構えを取った。
「でええええい!!!」
望が振り下ろした『叢雲』の斬撃が、イャガの『赦し』を弾き飛ばした。
「沙月先輩! ユーフィー!」
そして、バッと後ろに飛びずさる。イャガの目が大きく見開いていた。
ありえないと。何故だと。どうして自分が……
「我がツルギに宿りし想いと―――」
『永遠神剣の暴威を前に、空しく散っていった魂が集う時―――』
目を爛々と輝かせ、浩二の目がイャガを完全に捕らえている。
「『 あらゆる奇跡は自然に還る! 」』
そして、叫びと共に反永遠神剣を横に薙ぎ払った。
赤い光が巨大な壁となってイャガに迫る。
それが攻撃や技であったのなら、逃げるか防ぐかできたであろう。
しかし、想いからは逃げられない。
「―――っ!!!」
目の前に迫るソレを前にして、イャガは頭に電撃が走ったかのように思い出した。
かつてソレが自分を消し去った力である事に。
「うわああああああああああああっ!!!!」
ナルを取り込み、エターナルを越える力を得た女は絶叫した。
恐怖に引き攣った顔で、無我夢中になって、
ナルを身体中から噴き出して、死にたくない。消えたくないと抗おうとする。
「―――っ! がっ!」
「あああああああああああああ!!!」
イャガの放った黒い光が、赤い光を押さえ込むように展開された。
エネルギーとエネルギーの押し合いになる。イャガの絶叫は、獣があげる断末魔であった。
それは生きたいと、存在していたいと、ここに在りたいと……
生物の本能と言う純然たる想いの力。
「押し返すつもりか―――っ!!!」
浩二の反永遠神剣の力は『想い』である。
想いは魔法や攻撃に貫かれる事も、消される事も無い。
だが、同じ『想い』の力をぶつける事は可能である。
「ああああ! あああああああああああ!!!」
斉藤浩二の放った『想い』は、この時間樹に住まう全ての生きとし生ける者の想いである。
しかし、ナル・エターナル『赦し』のイャガは、たった一人でそれを受け止めていた。
「コノ―――ヤロウがああああああああ!!!」
負けてたまるかと歯を食いしばる。
しかし、浩二が懸命ならイャガは必死である。
何故ならこの力によって消されたら、イャガは『永遠』である事さえも否定されてしまうのだから。
「嫌! 嫌っ! 嫌ああああああああああああああ!!!!」
イャガは、もう形振り構っていなかった。
どんな危機でも崩さなかった微笑など、もう欠片も残っていない。
必死の形相で、恐怖に震えながら―――
「―――くっ! ぐはあああああ!!!
―――反永遠神剣が放った時間樹の『想い』を耐え切ったのであった。
「はははっ―――あははははは! アハハハハハハハ!」
「………嘘だろ……オイ……」
「やった! やったわ! アハッ、アハハハハ!!!」
「………たった一人の意思で、時間樹の想いを相殺しやがった……」
力を押し返された反動で吹き飛ばされた浩二が膝をつく。
辛うじて薙刀を突き立てて倒れ伏すのは堪えているが、
彼がもう満身創痍である事は間違いなかった。
「……これが、エターナルの力……か」
「フフッ。ほんと、貴方には驚かされてばっかりだったわ……」
「………」
「でも、私の勝ち。貴方は私に勝つことが出来なかった」
「………そうだな。俺はおまえに勝てなかった……
出来ないことなんて無いと言いながら、無様なモンさ……笑えよ」
「嘆く事はないわ。貴方は特別に可愛がってあげる……
さぁ、私と一つになりましょう……その力、その想いは私が全部受け止めてあげる」
妖艶な笑みを浮かべて浩二に手を翳すイャガ。
力の全てを使い果たした浩二に、それを抗う術は無い。
だが、浩二はそれでも笑っていた。口元をニヤリと吊り上げて笑っていた。
「なぁ、アンタ……何か勘違いしてるだろ?
俺はおまえに負けた。それは認めるよ。けど―――」
浩二がそう言いかけた所で、イャガは浩二に翳していた手を引いて身を翻した。
「なっ!?」
そこで見た。信じられない光景を。
圧倒的な力の塊。大気を振るわせる光の柱。
「―――勝負は俺達の勝ちだっ!」
浩二の言葉を繋げるように、その巨大な力の塊を手にした少年が叫んだ。
世刻望。永遠神剣第一位『叢雲』のマスター。
彼は、イャガが浩二の反永遠神剣とのぶつかり合いをしている時に、
叢雲をかざして、この攻撃を準備していたのだ。
「うおおおおおおおおおおっ!!!!」
振り下ろされる『叢雲』の一撃。
稲妻の柱のような斬撃がイャガの頭上に振り下ろされる。
「………っ!!! このおおおおおおおっ!!!」
それでもイャガは諦めない。
浩二の放った、時間樹に住まう生きとし生ける者の想いを乗せた一撃を、
防ぎきったばかりの所に、続けて振り下ろされるその攻撃を受けてもなお、
生き残ろうと執念で叢雲の力を押し返そうとする。
「我がツルギに宿りし、生きとし生ける者達の想いよ………」
肩膝をつきながら浩二が『反逆』を翳した。
それと同時に望の後ろに希美やカティマやルプトナ達。
『天の箱舟』と『旅団』の神剣マスター達の姿が浮かび上がる。
「なっ!?」
それは、今まで斉藤浩二を押していた力であった。
絶対なる存在に抗おうとする想い。彼女たちは『叢雲』を握る望の手に、一人ずつ手を置いていく。
一人が手を重ねるたびに、イャガを押す力が強くなる。
「その全て―――」
その光景を見て少年は唄う。静かに、鎮魂歌を歌うように。
望の気合に合わせる様に、運命を否定する少年が唄った時―――
「うおおおおおおおおっ!!!」
「―――聖なるかな……」
原初神剣の刃は、猛り狂うナルを纏いながらイャガを肩から両断するのであった。
「う、ぐ……ああああああああああああっ!!!」
イャガの断末魔が響き渡る。両断された身体が消えていく。
ナル存在となった彼女は、マナの粒子となり世界に還る事はない。
やがて、イャガの姿は完全に消え去り、原初に静寂が訪れるのだった。