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No.25220の一覧
[0] サトリのリリカルな日々 (リリカルなのは オリ主)【sts編変更、修正しました】[kaka](2011/08/16 01:01)
[1] 第一話[kaka](2011/08/16 00:25)
[2] 第二話[kaka](2011/08/16 00:26)
[3] 第三話[kaka](2011/08/16 00:27)
[4] 第四話[kaka](2011/08/16 00:28)
[5] 第五話 前編[kaka](2011/08/16 00:32)
[7] 第五話 後編[kaka](2011/08/16 00:34)
[8] 第六話[kaka](2011/08/16 00:35)
[9] 第七話[kaka](2011/08/16 00:36)
[10] 第八話[kaka](2011/08/16 00:37)
[11] 第九話 A’s[kaka](2011/08/16 00:39)
[12] 第十話[kaka](2011/08/16 00:40)
[13] 第十一話[kaka](2011/08/16 00:41)
[14] 第十二話[kaka](2011/08/16 00:41)
[15] 第十三話[kaka](2011/08/16 00:42)
[16] 第十四話[kaka](2011/08/16 00:44)
[17] 第十五話[kaka](2011/08/16 00:45)
[18] 第十六話[kaka](2011/08/16 00:46)
[19] 第十七話[kaka](2011/08/16 00:47)
[20] 第十八話[kaka](2011/08/16 00:48)
[21] 第十九話[kaka](2011/08/16 00:48)
[22] 第二十話[kaka](2011/08/16 00:49)
[23] 第二十一話 A’s終了[kaka](2011/08/16 00:49)
[24] 第二十二話 sts編[kaka](2011/08/16 01:02)
[34] 第二十三話[kaka](2011/08/25 01:16)
[35] 第二十四話[kaka](2011/09/14 02:37)
[36] 第二十五話[kaka](2011/09/14 02:35)
[37] 第二十六話[kaka](2011/09/25 22:56)
[38] 第二十七話[kaka](2011/10/13 02:00)
[39] 第二十八話[kaka](2011/11/12 02:02)
[40] 第二十九話[kaka](2012/09/09 22:02)
[41] 第三十話[kaka](2012/10/15 00:10)
[42] 第三十一話[kaka](2012/10/15 00:09)
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[25220] 第十三話
Name: kaka◆0519be8b ID:ee322f37 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/16 00:42

「……なんで、なのはちゃん達とみんなが戦ってるん?」

 はやては茫然として俺たちに声をかけてきた。
 その様子に、全員の動きが止まる。

「……なんで、なんでなん」

「……はやて」

 ……ハハッ、このタイミングではやてを連れてくるか。なるほど。ギル・グレアムはもう俺達が蒐集を完了させるのは不可能だと判断してしまったのだな。
 それにしても、猫達を自由にさせすぎたかな? まさかはやてを戦いの場に連れてくるなんて……
 もう、これ以上は引き延ばせない。
 状況は想定していた中でも特に最悪だ。これから自分がしようとすることを考えると、吐き気がしてくる。
 それでも、作戦を実行するしかない。
 そう思うと張り詰めていたものが一瞬だけ緩み、俺は膝をついてしまった。

「希君!」

「「「「希(君)!!!!」」」」

 そんな俺に騎士たちは一斉に駆け寄ってきた。
 高町たちも、それを止めようとはしなかった。

「大丈夫か! 希!」

「シャマル! 治療を!」

「ッ!! これは!」

「どうした! 希は平気なのか!」

 シャマルは俺に治癒魔法をかけながら驚いていた。
 能力使って脳内リミットを外していたせいで体がやばいことになっていたのだろう。
 しかし俺は治癒を受けつつもはやてを見つめていた。
 はやても俺に駆け寄ろうとしていたが、リーゼ姉妹によって車椅子を抑えつけられていた。

「放して! 希君が!」

 その声を聞いたヴィータがハッとはやての方に向き返り、リーゼ姉妹を見るとそのまま二人に襲い掛かった。

「はやてに何してんだー!」

 ヴィータはアイゼンをラケーテンフォルムに変形させ、渾身の力でハンマーを振り下ろす。
 しかし、それはアリアのシールドに阻まれてしまった。

「なっ!」

 渾身の力で防御ごと破壊しようとした攻撃をいとも簡単に止められてしまった事に、ヴィータは驚愕する。
 その隙をロッテは見逃さず、瞬時にヴィータの懐に入ると拳を腹部にたたき込んだ。

「グァ!!」

 ヴィータはその威力をまともに受け吹き飛ばされてしまう。
 そして、持っていた闇の書を落とし、アリアに奪われてしまった。

「ヴィータ!」

 はやてが叫ぶがアリアの攻撃はこれで終わりではなかった。アリアは奪い取った闇の書を開き、魔法弾を飛ばしてさらなる追撃加える。
 すると魔力弾を受けたヴィータは光に包まれ、そのまま闇の書に吸収させられてしまった。
 騎士たちの目が驚愕で見開かる。目の前の光景が信じられないようだ。
 だが、それでも油断なくすぐさま戦闘態勢をとった。

「ヴィータ!!」

 アリアははやての叫びを無視して俺たちの方に向き直り、ロッテが他の騎士たちに向かって襲い掛かってきた。

「希! 下がっていろ!」

 シグナムはそう言って前に出るとリーゼ姉妹に斬りかかった。
 シャマルとザフィーラは俺を庇う様に前に出る。

「何者だ貴様ら! ヴィータに何をした!」

 シグナムの叫びに、彼女らは答えない。シャマルとザフィーラは二人を警戒しつつ、俺の傍を離れようとしなかった。
 俺はそんな二人の手を取り

「えっ」

「希?」

 大量の感情をぶち込んだ。

「「あぁっ!」」

 それに耐え切れるわけもなく、二人は崩れ落ちてしまう。
 その二人をゆっくりと近づいてきたアリアに渡すと、二人もまた闇の書に吸収されてしまった。

「のぞ……み?」

 シグナムは信じられないといった様子で動きを止めてしまう。
 その隙をロッテが見逃すはずもなかった。

「ぐぅ!」

 かろうじて防御はできたが威力は殺せず、シグナムは地面にたたきつけられてしまった。
 俺はそれに近づき、シグナムの頭に手を置いた。

「…………」

 俺は無言のままシグナムに能力をかけようとした。
 その刹那、俺の顔を見たシグナムはフッと笑い

「……そうか、後は任せたぞ」

 と言い残して意識を失った。






 シグナムも吸収した闇の書は光だし、主たるはやての元に飛んで行った。
 蒐集が完了したのだ。

「希君、これは……」

 はやては悲しみに満ちた声で俺に問いかけてきた。

「闇の書は完成した。後は八神はやて。お前が起動させるだけだ」

「! だめ! はやてちゃん! 闇の書を起動させたら」

 突然の展開について行けず、先ほどまで固まっていた高町たちが阻止しようと叫びながら接近してきた。
 それをリーゼ姉妹が止める。

「はやて! それを起動させたらはやては!」

「起動させろ。八神はやて」

 テスタロッサの声を無視して、俺ははやてに言う。

「俺はそのためにお前に近づいた」

 嘘だ。

「闇の書を完成させ、目的を叶えるために」

 大嘘だ。

「だから早く、起動しろ。今までの俺の献身を無駄にするな」

 闇の書を起動させるためだけに、はやてを傷つけている。

「それに、闇の書さえ起動させれば、お前はすべての苦しみから解放される」

 その事実が、自分の身を裂くようにつらい。

「辛いことは忘れ去り、幸せな夢を見ることができる」

 ヴィータを、シグナムを、シャマルを、ザフィーラを犠牲にした俺がそんなことを感じる資格なんてないのに。

「だから、早く、起動させろ」

 はやてを傷つけているのは俺自身だというのに。






「…………わかったわ」

 時が止まったかのように感じた、長い沈黙の後、はやては顔を伏せてつつ答えた。

「だめ! やめて! はやてちゃん!」

「はやて!!」

 その答えに、高町とテスタロッサは止めようと必死になって叫び声を上げる。

「ごめんな、なのはちゃん、フェイトちゃん」

 しかし、はやては聞き入れてはくれなかった。

「二人のお願いでもこればっかりは聞けへんわ」

 そう言ってはやては顔を上げ

「こんな辛そうにしている希君のお願い、聞かないわけにはいかんからな」

 俺に笑顔を向けてきた。

「だから、希君はそんな顔せんでいいんよ」

 天使のような、慈愛に満ちた笑顔を。

「な、なにを……おれ、は」

 何を、言っている? 何故、こんな俺に笑顔なんか……もう俺にはそんなもをを受ける資格なんかないのに。

「うん、無理せんでええ。事情はわからんけど、希君の気持ちくらいは分かるから」

 はやてはそう言って俺の手を握る。

「俺、は、はやてに、酷いことを、言っているのに……」

「そんなんウソやってことぐらいわかる。どんだけ一緒におると思ってんねん」

 崩れそうになる俺にやさしい言葉をかけ続ける。

「だからな、一人で抱え込まんでえんよ。私が一緒に背負ってあげるから」

「は、や、て」

 俺は、俺は酷いことをしているのに。
 これまでの生活を否定して……俺のことまで大切だと言ってくれた騎士たちを騙して……はやての大切な家族を奪って……こんなことはやてが望んでいないと知りながらもはやてを助けるためだと言い訳をして……こうなってしまったのも全部俺のせいなのに……なのに!
 俺はあふれ出る涙を抑えることができなかった。

「うん、大丈夫。大丈夫やから」

 はやては俺の涙を指で拭うと、そのまま闇の書に手を伸ばした。

「信じとるから。希君のこと」

 そう言い残し、はやては闇の書を起動させてしまった。








 起動した闇の書ははやてと共に浮き上がると、光に呑みこまれた。その輝きが収まると、中から黒い衣を纏い、漆黒の羽をはやした銀髪の女性が現れた。

「……なぜだ、希。なぜこんなことを……」

 ……こいつが、闇の書の管制人格か。
 やはり以前感じたとおり、騎士たちを通して俺達の生活を覗いていたのだな。
 だから、こんなにも悲痛な思いを心に宿して……

「もう……戻れない。私は時期に意識をなくす……その前に……お前だけでも……」

 その言葉の続きを口にすることはできなかった。
 管制人格の心は膨大な憎悪と恐怖に呑みこまれていく。
 以前、表面だけ触れることのできた、闇の書のバグ。
 それに意識がすべて呑みこまれてしまった時、管制人格に残ったのは破壊衝動だけだった。

「っ!」

 管制人格は黒紫色の魔力球をつくりだし、一気に魔力を解放した。
 それによって辺り一帯を魔力波が襲う。
 一瞬は早く気付くことができたがそれをかわすことは叶わず、俺は吹き飛ばされてしまった。

「希君!」

「希!」

 高町とテスタロッサが叫びながら、吹き飛ばされた俺を受け止める。
 すでにリーゼ姉妹は戦線を離脱し、どこかへ行ってしまった。
 おそらく……

「希、大丈夫!」

 テスタロッサが心配そうに俺に聞いてきた。
 ……俺はお前達を殺そうとしたというのに。

「……平気だ、爆発の瞬間に後ろに飛んで威力を殺した」

 ダメージはゼロではないが。それでも動けなくなるほどではない。
 第一今は能力使って大量にアドレナリン出しているから痛みはほとんど感じない。

「なんでシールドを張らないんだ! それにバリアジャケットも! 死ぬ気か!」

 共に合流してきたユーノ・スクライアに治療をされながらも怒鳴られてしまった。
 それよりも、こいつまで俺の心配をしているなんて……

「仕方ないだろう。できないのだから。俺は魔導師じゃないからな」

「なっ! そんなバカなっ!」

 俺は隠す意味もなくなってしまったのであっさりと正体をばらす。
 高町たちは信じられないと固まっていたがあいにく今はそれどころではない。

「もう治療は十分だ。お前達はできるだけ周りに被害が出ないように闇の書を抑えることに専念してくれ。あれは後でなんとかする」

「待って! なんでそんなことが!」

 高町の制止を無視して無理やり離れる。
 彼女達は追いかけようとしたが

「っ!!」

 そこに闇の書による無数の魔力レーザーが降りかかった。
 無論俺にもそれは届いていたが、軌道はすでに読んでいたのであっさりとかわしながら彼女達との距離を広げていった。

「待って! 何をするつもりなの!」

「今だけ好きにやらせてくれ。終わったら全部教えてやるし、俺のことなら好きにしてくれてかまわないから」

 それと、償いも。
 そう呟いた俺は一直線にある場所へ向かう。
 そこには姿を消していたリーゼ姉妹がいた。背中にある人物を隠して。

「ギル・グレアム!!」

 俺は咆哮しながらそいつに向かって突進した。
 魔法で姿を消しているが確かにそいつはそこに居る。そいつの心の声がそこから聞こえる。
 今回の事件を引き起こした黒幕。
 はやてをこんな目に合わせることとなった元凶。

「貴様のせいで!!」

 リーゼ姉妹が主人を守ろうと俺に攻撃を仕掛けてきた。
 しかし、その攻撃は先ほどとは打って変わって鈍く、簡単に避けられ、さらには俺に横を抜けられてしまった。

「っ! どうした! アリア! ロッテ!」

 ギル・グレアムは不測の事態に思わず声を出してしまった。
 その方向目掛けて俺は飛び上がり、ひざ蹴りをかます。

「うっ!」

 ギル・グレアムはそれを避けることができず、やむなくシールドを張った。
 そのことで姿を消す魔法が解除され、奴は姿現わしてしまった。

「っ!! グレアム提督!!」

 その姿を見て、意識を取り戻したばかりの執務官とアースラクルーたちが驚きの声を上げる。
 正体がばれたことにギル・グレアムは一瞬苦悶の表情をしたが、すぐに俺に攻撃を仕掛けようと魔力弾を形成してきた。
 しかし、俺はすでに先ほどのシールドを足場にしてグレアムの上に飛び上がっていた。
 そのまま重力に任せて彼に踵落としを仕掛ける。

「なめるな小僧!」

 しかしこれもシールドで止められてしまう。そこに先ほどの魔力弾が飛んできた。
 やばい。
 俺は緊急回避のため、シールドにかけている足の力のベクトルを変え、横に飛び退いた。
 なんとか魔力弾をかわすことはできたがそのまま地面に落ちてしまった。
 グレアムとの距離が遠のく。その上二度も生身でシールドにぶつかってしまったため足のダメージが大きい。
 まずい。
 そこにリーゼアリアの攻撃が降り注いできた。

「邪魔をするな! それが……世界のためだ!」

 ギル・グレアムは苦渋に満ちた声でそう叫ぶと、呪文詠唱を始めた。
 はやてを闇の諸語と永久に封印するつもりだ。
 そんなことさせない!

「世界がどうした! そんなもののために俺たちを巻き込むな!」

 そんな俺の叫びに目もくれず、ギル・グレアムは詠唱を続けた。
 その横でリーゼアリアが闇の書の攻撃から主人を守り、リーゼロッテが俺に攻撃を仕掛けている。
 ロッテの攻撃を何とかかわすことはできているが上空に位置するグレアムへの攻撃手段を失っていた。
 高町たちもなんとか俺の加勢に来ようとしているが闇の書に阻まれて近寄れない。


 そうこうしている間に、詠唱が終わってしまう。
 最後に、俺の方を一度だけ見、辛そうな顔をしながらも

「闇の書よ! 永久の眠りにつけ!」

 そう叫んでギル・グレアムの封印魔法の詠唱が完了した。
 だが、俺はその瞬間を待っていた。

「リーゼ姉妹!」

「「はっ!」」

 俺の叫びに反応し、先ほどまでグレアムを守っていたアリアが闇の書を庇う様に前に出る。

「なっ!」

 そのことに驚き、魔法を放つのを一瞬躊躇している間に俺と戦っていたはずのロッテがグレアムの所まで飛び上がり、発動中の封印魔法に殴りかかった。

「にぃっ!」

 瞬間、耳をつんざくような破裂音が周囲に響き渡る。
 封印魔法は暴発し、周囲に冷気を振りまきながら三人まとめて凍結させてしまった。
 一番離れていたアリアは右半身を一番近かったロッテは全身を、そしてギル・グレアムは顔と右腕の一部を除いたすべてを。
 そんな彼らが飛行を続けられるわけもなく、三人は墜落してしまう。
 そこに俺は足を引きずりながら近づいていった。

「貴、様、何を、した」

 息も絶え絶えになりながらギル・グレアムは俺を睨みつけてくる。
 最後の応用能力。
 頭に触り、記憶を探り、情報を密に入れ込むことで脳をある程度自由に操ることができる。いわゆる洗脳だ。
 負荷はキツイがこの能力が最も効果が高く、そして最も非人道的だ。
 これを初めてリーゼ姉妹に触れたときに仕込んでおいた。俺に対して本気の攻撃ができないように。そして俺がリーゼ姉妹と叫んだときにギル・グレアムの邪魔をするように、と。
 無論、こんなことをバカ正直に話すつもりはない。

「貴様に教えるつもりはない」

 そう、吐き捨てるように言うと、俺はギル・グレアムの頭に手を置き、感情を流し込んだ。
 それも、先ほどのとは違う。徹底的に悪意と憎悪、嫉妬妬み嫉みなどの人の負の感情のみを煮詰めたものを送りつけた。

「っ!!!」

 その衝撃にギル・グレアムは苦悶の声すら出す事も出来ず痙攣し、そのまま昏倒してしまった。
 ……終わった。
 後ははやてを呼び戻すだけだ。


 俺は再び、闇の書と向き合った。






 はやてを呼び戻す。
 それにはまず、はやてに触れる必要がある。
 特に、頭ならば確実にはやてを呼び戻せる自信がある。
 しかし、それでもしばらくの間、触れ続けなければならない。
 それは今の状態では厳しいだろう。俺が触れている間、暴走した闇の書に呑みこまれてしまったはやてが大人しくしているはずもない。
 そんなことをしていたら、簡単に殺されてしまう。何せ俺の防御力は紙も同然なのだから。
 いや、それ以前に足を怪我した今の体の状態でははやてに触れることすら難しいだろう。
 だが、やるしかない。
 そのためだけに、俺は友人や家族を犠牲にしてきたのだから。




 暴走体は今、高町たち魔力保有者に狙いを定めて攻撃している。
 これはチャンスだ。今のうちに近づけるだけ近づいてやる。

「待て! 危険だ!」

 こちらに何とか飛んで来ていた執務官の制止を振り切り、俺は一直線にはやての元へと駆けていった。
 しかし暴走体はすぐさま俺に気付き、同時に大量の魔力弾を撃ち込んできた。
 魔力弾一つ一つの威力は低く、精密性も悪い。
 それでも、非魔導師の俺には十分すぎる威力を持っている。
 さらには精密性が悪いことも俺にとってはいいように働かない。
 相手の思考を読むことで通常より一足早く攻撃を避けれているというのに、これでは普通にかわしているのと大差がない。
 おかげで思う様に距離を縮められずに居た。

「くっ!」

 そもそも、スピードが違う。
 俺が苦労して詰めた距離も簡単に引き離されてしまう。
 その上相手は飛行をしているのだ。俺の届かない上空に逃げられてしまったら手も足も出ない。
 ……この状況はすでに詰んでしまっているといってもいいかもしれない。
 そんなネガティブな考えが頭をよぎり、疲れもあったせいで一瞬思考が鈍ってしまった。
 そこに容赦のない広域魔力波が襲ってくる。

「しまっ!」

 やばい! 反応が遅れた! 避け切れない!
 せめてもの抵抗で防御姿勢を取ったがこんなことは意味がないだろう、と頭の片隅で冷静な自分が言う。
 もう、終わりだ、と。






 しかし、その魔力波が俺に届くことはなかった。






 そいつは、ピンク色のレーザー砲によってかき消されたからだ。








「希! 大丈夫!」

 高町の砲撃によってできた道を使い、テスタロッサが俺の元までたどり着いた。
 そのまま俺を抱きかかえその場を離脱し、高町とスクライアの所まで運ぶ。

「ユーノ! お願い!」

「わかってる!」

 すぐにスクライアは俺に治癒魔法をかけ始めた。
 その間、高町と使い魔、執務官で暴走体からの攻撃を防ぐ。

「ユーノ君! 希君は平気なの!?」

「直撃はくらっていないから大丈夫なはずだけど……」

 戦いながらも高町は俺のことを気遣ってくる。テスタロッサも心配そうに俺を覗き込む。スクライアは必死で治癒魔法をかけてくれるし、使い魔もこちらに攻撃が来ない様に暴走体の注意をひきつけている。執務官だってまだ頭が重いはずなのに……なぜ……
 ……あぁ、そうか。

「ともかく、いったん安全な所に避難させないと……」

「……いや、まだだ。まだやることがある」

 その言葉にスクライアは睨みつけながら怒鳴り返してきた。

「何を言ってるんだ! そんなボロボロな体で!」

 そうだ。俺の体はもう騙しようがないくらいにボロボロだ。治癒魔法をかけたところで焼け石に水だろう。もう、一人で何かするのは不可能だ。
 だが

「確かにもう碌に動けないだろう。だから頼む。力を貸してくれ」

 俺にはまだ力になってくれる友人がいた。
 こんな異常者の俺を心配してくれる心やさしい友人が。
 愚かにも俺は、そんなことにすら気付いていなかった。
 自分の心を隠し、人の気持ちを無視して、ただ、ただ、たった一人で何とかしようとして……

「都合のいいことを言っているのは分かっている。だが……頼む。はやてを助けたいんだ」

 俺は初めて、友人たちに対して本心を吐露した。
 嘘いつわりのない、純粋な気持ちを。

「……何か、いい方法でもあるの?」

 テスタロッサが俺に真剣な表情で訊ねてくる。
 俺は即答した。

「ある」

「…………わかった。何をすればいい?」

 思い悩んだ末、テスタロッサは俺の願いを聞き入れてくれる気になったようだ。

「フェイト!」

 スクライアは驚いて反対しようとしたが、テスタロッサの意思は固かった。

「希はできないことを言う人じゃない。それに今のままじゃ誰も助からない」

「そう……だけど」

「それなら私は、希に賭ける」

「…………」

 スクライアは黙り込んでしまった。
 その間に俺はテスタロッサにやってもらいたいことを話す。

「テスタロッサ。俺をはやての元まで連れて行ってくれ」

「今のはやての元へ? でも、その後どうするの?」

 当然の疑問として、テスタロッサは訪ねてきた。
 ……言うしかない。

「触れることさえできれば今は闇の書の深部に居るはやての意識を浮かび上がらすことができる。その後、闇の書の意思を封じ込める」

「そんなことが?」

「できる。俺は『普通』ではないから。先ほどの戦いを見ていただろう? あれを応用すればできる」

「……わかった。信じるよ」

 そう言うとテスタロッサは再び飛ぶために準備を始める。
 攻撃を搔い潜るためにバリアジャケットもソニックフォームへ形態を変えた。

「……わかったよ。僕も協力する」

 スクライアも渋々ながら納得してくれた。
 俺が簡単に作戦を伝えると念話でそれを全員に伝え、いよいよ作戦は開始された。

「いくよ!」

 俺はテスタロッサに抱えられながら、暴走体のもとへ飛び立った。
 愚かな俺を信用してくれている心やさしき友人達のためにも、絶対にはやてを呼び戻してみせる。




「広域拡散魔法、2時の方向にまっすぐ進め」

「了解」

 現在、テスタロッサには攻撃を集中して受け止めてもらっている。
 その間にあることを他の皆にはやって欲しかったからだ。
 テスタロッサの負担は大きいが、その分俺が暴走体の動きを先読みして指示を出しているのでまだ被弾していない。

「爆散型固定魔法。7時の方向5メートル上昇後ストップ」

「了解」

 翻弄するように動き回る俺たちに暴走体もだんだんと痺れを切らしてきた。
 そしてついに大技を発動させる。
 空中に無数のスフィアが形成され、それに尋常じゃないほどの魔力が集中していく。

「これは!」

 テスタロッサの驚きも無理はない。
 無数のスフィア軍の一つ一つからスターライトブレーカーが発射されてきたのだから。
 それも、自分目掛けて。
 だが俺はこの時を待っていた。
 暴走体が大技を出してくる時を。

「高町! 今だ!」

 俺の合図を受け、高町たちは一斉に暴走体へバインドをかける。
 普通のバインドなら簡単に解かれてしまったかもしれないが今高町たちが掛けているのはテスタロッサが稼いでいる時間に皆で魔力を練り込んだ特別製のバインドだ。
 その上暴走体は大技を出したばかり。
 これならば少なくとも30秒近くは時間を稼げるはず。
 スターライトブレーカー群の対処は簡単だ。
 威力や数が多いところで、当たらなければ何の意味もない。その上この手の魔法はイメージをはっきりとさせなければ放つことができないので俺にとっては最も避けやすい部類に入るものだ。
 勝負を焦った暴走体の明らかな失敗だった。
 こうして俺とテスタロッサは攻撃を搔い潜り、暴走体の所までたどり着いた。

「希! お願い!」

 俺はテスタロッサから飛び降り、暴走体の頭に触れることに成功した。


 すぐさま、能力を使いはやての意識を探す。
 ……はやては今、夢を見ている。
 とてもとても、幸せな夢を。
 このまま、夢を見ていた方がいいのではないかと思うほど、はやては幸せそうだった。
 だが、だめだ。
 それはしょせん夢だ。
 そこの家族は本当の家族じゃない。
 そこの友人は本当の友人じゃない。
 はやてはそれでいいのかもしれない。
 でも、俺はそんなの嫌だ。
 単なる独りよがりなわがままかもしれない。
 それでも俺がはやてと一緒に居たい。
 そんな偽物ではなく、この俺が。
 だから、帰って来てくれ。
 はやて!!




 しかし、俺の説得は途中で終わりを告げることとなった。
 予想以上に早くバインドを引きちぎった暴走体によって吹き飛ばされてしまう。
 そこに、魔力砲が迫ってきた。
 空中で身動きが取れない。
 避けることは不可能だろう。
 高町たちがなにか叫んでいる。
 俺は……失敗してしまった。





 はやて…………



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