【Sideシグナム】
希が本局に行って1カ月がたった。
この頃になると私たちはもうアースラではなく自宅待機に代わっていた。
主はまだ精密検査やリハビリのために病院に居るがうまくいけばあと一週間ほどでこちらに帰ってこれるようだ。
主も自宅に帰ってくるのをとても楽しみにしていると言っていた。
ただ、それでも少し元気がないようなのはやはり希からの連絡が全くないからだろう。
ヴィータもツヴァイも以前なら文句を言っていたのに最近ではそれすらいわなくなってきてしまった。当初は遅くても二週間という話であったのに……
待つことしかできないのがもどかしくて仕方ない。せめて、手紙の一つでも送ってきてくれればいい物を……
今日もそんなことを考えながら家でテレビを見ていると、玄関のチャイムが鳴った。
こんな時間に珍しい。
高町たちだろうか? 最近は元気のないヴィータ達を気遣ってよく家に来てくれるからな。
「はいは~い、今でま~す」
そう言いながら出て行ったシャマルを見ながらそんなことを考えていた。
だがそれは違った。
そのことが、シャマルの声ですぐにわかった。
「希君!!」
そう、確かに聞こえた。
その瞬間、同じようにテレビを見ていたヴィータとツヴァイがソファーから飛び起き玄関に走っていった。
同じように、洗濯物を干していたリインとザフィーラもそれを中断して玄関に急ぐ。
そう言う私もすぐさま玄関に向かっていた。
そして、そこで見つけた。
約一カ月ぶりに一ノ瀬希が私達の元に帰ってきた。
「ただいま、みんな」
一つの大きな覚悟を持って
【Sideヴィータ】
「すまなかったな、帰ってくるのが遅くなってしまった」
「まったくだぜ。はやての奴、すげー寂しがってたんだぞ」
「あぁ、本当にすまなかった」
そうやってあたしが拗ねた様に言うと希は困った様に笑いながら謝ってきた。
まったく、笑い事じゃねーっていうんだよ。こっちがどれだけ心配したと思ってんだ。
そんなことを思いながらも、あたしは上機嫌になっているのが自分でもよくわかった。
だってやっと希が帰ってきたんだ。仕方ねぇだろ?
「まったく、ヴィータちゃんは素直じゃないですね。ちゃんと自分が寂しかったって言えばいいじゃないですか」
「うるせー、寂しがってたのはお前じゃねーかツヴァイ。あたしはそんなに寂しがってねーですよーだ」
「ホント、素直じゃないですね~」
ツヴァイはまだ呆れ顔で何か言ってるけどあたしは無視することにした。
いいんだよ別に素直にしなくたって。恥ずかしいだろ。
それに、素直にしなくても希はちゃんと分かってくれるんだから。
「それで、なんでこんなに帰ってくるのが遅くなってしまったのですか? 主はやてにはもう会ったのですか?」
「……いや、はやてにはまだ」
その答えにあたしは驚いた。
てっきりもうはやてには会っているのかと思っていたからだ。
はやてよりも先にあたし達に会いに来るだって?
希にしてはあり得ない。
「先にお前達に話しておきたいことがあって、な」
そう、リインに答えた希はなぜかとても悲しそうな表情をしていた。
この時のあたしには希の覚悟なんてちっともわかっていなかった。
【Sideシャマル】
「話したいこと?」
「あぁ、そうだ。お前達の処分について」
それを聞いた私たちは少し身構えた。
希君の様子がいつもと違い、とても悲しそうだったからだ。
彼がこんな表情をしているなんて。
そんなに悪い結果だったのだろうか? それともまさか……
「三年間の保護観察処分だ。嘱託魔導師となり、管理局に奉仕活動及び次元世界での各種ボランティア活動を行えば期間は一年に減る」
「……あれ? そんなもんかよ」
「あぁ、それだけだ」
希君の報告を聞いたヴィータちゃんは拍子抜けしたような声を出していた。
ツヴァイも似たような様子だ。
想像以上に、私達の刑は軽かった。
だけど私にはまだまだ安心することなんてできない。
「お前は、違うのか?」
シグナムも同じような危惧をしていたのか問い詰めるように希君に聞く。
そう、これを聞かなければまだまだ安心はできない。
希君は今「お前達の」と言った。
もし自分も同じ刑ならばそんなふうには言わないはずだ。
つまり、私たちはまだ希君がどうなるかはまだ聞いていない。
そう言われてヴィータちゃんもツヴァイもハッとしたような表情になった。
私達の刑は軽すぎる。
もしかしたら、希君が罪を一人でかぶったせいかもしれないのだ。
いや、それならまだいい。
もし、あの時お父様が言っていたような状況になっているとしたら……
嫌な予感がこびりついて離れない。
「俺か……俺の判決は……」
息をのんで、希君の答えを待つ。
その答えは……
「罪なし。今回の事件で、俺は裁かれることはない」
私にとって、最悪の予想のものだった。
【Sideザフィーラ】
「裁かれない、だと? どういうことだ?」
私は呆気に取られながら希に聞いた。
てっきり私達の刑が軽いのは希が一人で罪をかぶってしまったせいではないかと思ったからだ。
しかし、それは違っていた。裁かれないとはどういうことだ?
シグナム達も困惑気味だ。
そうしているうちに、希は詳しい説明を始めだした。
「今回の闇の書事件に、俺は関わっていないということになった。そもそも俺は魔導師ではないからな。元々関係性は薄いと思われていたようだ。そこでギル・グレアムの力を使って色々と行動した結果、俺の罪は帳消しとなったんだ。そのせいでこんなに帰ってくるのが遅くなってしまったがな」
「そう、だったのか」
そうか、希はだからこんなにも帰ってくるのが遅くなってしまったのか。
さんざん私達が言ったから、自分だけが罪を被るような真似はしないでくれたのだな。
よかった。
その時私は心底ほっとしていた。いや、私だけでなく、シグナムやリインフォースもホッとしていたようだった。
しかし、シャマルだけは違っていた。
顔を青くして、絶望的な表情をしていた。
いったいどうしたというのだ?
「? どうかしましたか? シャマル?」
そのことにリインフォースも気付き、声をかけたがシャマルは答えなかった。
代わりにデバイスを起動させ、なんと希に突き出し始めた。
「シャマル!! いきなり何を!」
シグナムが驚き声をかけるがシャマルはそれを無視して、青い顔のまま希を睨みつけている。
他のみんなも突然の出来事に面食らって何もできずにいた。
無論、私もなにが起こっているのか理解できていなかった。
「何を……したの? いえ、何をするつもり?」
そんな中、ただ一人希だけがすべてを理解しているようで、悲しそうな顔をしていた。
「……そうか。父さんか。さすが父さんだ」
「質問に答えて!」
叫びながら、シャマルは泣きそうになっていた。
一体、何が起きているというんだ?
それは、希の答えによって明らかとなった。
「……お前達の元から消える。もう、家族としてここに戻ってくるつもりはない」
私には希が何を言っているのか理解できなかった。
ただ、この時私の守りたかったものがすでにどうしようもなく傷つけられてしまっていたことに気付いていなかった。
【Sideリインフォース】
「……なぜ?」
「簡単な話だ」
シャマルが崩れ落ちそうになるのを必死で我慢しながら気丈に聞くと、希は淡々と話し始めた。
「俺の能力のことが管理局にばれた」
私は、衝撃で混乱した頭のままそれを聞く。
それが、いったい、どうしたというのでしょう?
しかしそれを聞いたシャマルの衝撃は大きかった。希に突き出している手が、震えている。
「組織として成り立っているものに俺の能力がばれると言うことがどういうことを意味するか分かるだろう? シャマル」
「…………」
シャマルは答えない。
いや、声が出ないようだった。
それを見た希は、私達の方を見て、説明を始めた。
「人の心を読む力。それは情報戦において圧倒的な力と成り得る。本来、口を閉ざすことで守っている様々の情報を簡単に入手できるのだから。機密情報が駄々もれだ。そして、管理局には外に出してはいけない機密情報なんて腐るほどあった」
そう説明する希の声は、酷く沈んでいた。
「そんなところの中枢に俺は入ったんだ。局としては、俺が機密情報の多くを手に入れてしまったと考えている。それだけで、俺は安易に外に出してはいけない存在となったよ」
……確かに希の能力は脅威的だ。それがばれてしまった以上、管理局は希を好きにさせはしないだろう。
だが、それだけではないはずだ。
いくら局が希を縛ろうとしたところで、希なら抜け出そうとしたはずだ。
主はやてがいるかぎり。
それをしようとしないということは……
「無論、それだけではない。中には、監視だけだはなく排除しようと考える強硬派もいた」
あぁ、やはり。
「管理局だって清廉潔白な組織ではない。大きな組織だからな。中には後ろ暗いことをやっている者だっている。そういう輩にとって、俺は脅威以外の何物でもない。何せ自分のやっている悪事がすべてばれてしまうのだから」
私にはわかってしまった。
「逆に言えば局と敵対している組織からしたら俺はのどから手が出るほど欲しい存在となるだろう。何せ敵の急所が丸わかりとなる存在だ。どんな手段を使ってでも、手に入れようとするはずだ」
希がなぜ私たちから離れようとするのかが。
「普通の局員にしたっていい顔はしないだろう。誰だって勝手に心など覗かれたくはない。しかも俺の能力は魔法ではないからこちらが使用しているかは分からないんだ。恐怖しかない」
私達のためだ。主と私たちを、危険から遠ざけるため。
……しかし
「だからと言って局から抜けることもできない。抜けてしまった瞬間、俺を拉致監禁、もしくは抹殺しようとする輩は爆発的に増えるだろう。だが、局内にいる限りはそこまでひどく狙われたりはしないはずだ。基本的に管理局は正義の機関だからな。今の俺は管理局に縛られているのと同時に、守られてもいる」
……しかし
「……要するに、俺の能力は闇を呼びやすい。それがばれてしまった以上、例え局内にいたところできっとこの先さまざまな輩に狙われるだろう。その前に……」
「ふざけるな!!」
シグナムが叫ぶ。
そうだ。
こんな話認められるわけがない。
それに
「それでお前は、お前はどうなるというのだ! 我々から離れたところで、お前が狙われるの事に変わりないではないか! それを我々に見過ごせと言っているのか!」
「そうだ」
そういった希の声は、酷く冷たかった。
「今のお前達の力では、俺の敵には敵わない。量が、違いすぎる。いつかきっと倒れてしまうだろう。それと」
私たちを突き離すような、酷く冷たい声。
「勘違いをするなシグナム。お前の主は俺じゃない。はやてだ。はやてを守るのに一番いい方法を考えろ。情に流されず、主を守るためなら何であろうと排除しろ」
「しかし!」
「はやてちゃんが許すわけがないわ」
それでも食い下がろうとするシグナムを制し、震えた声でシャマルが言う。
「決して、はやてちゃんがそんなことを受け入れるはずがない。希君が何を言おうと、はやてちゃんは希君について行くわよ。だからそんなことしようとしたところで、はやてちゃんを傷つけるだけよ」
しかしそれすらも希には想定内のことだったらしい。
更に最悪な展開を私達に向かって宣言する。
「そうだな。だから俺ははやての記憶を消す」
「え?」
「はやての俺に関する記憶はすべて忘れさせる。それができる力を、俺は持っている」
私は絶句した。
それは……つまり……主はやての中から自分が消えるということだ。
それが希にとってどれだけ辛いことか……
「……ウソだろ、希」
ヴィータが消え入るような声で言う。
「本当だ」
「ウソだって言ってくれよ!!」
しかし希は聞き入れてくれない。
「……嫌です。私は嫌です……お願いです希……そんなことしないでください」
「……ツヴァイ。もう、決めたことだ」
ツヴァイが泣きじゃくりながら懇願するが、やはり希は聞き入れなかった。
「なぜ、ですか? なぜ一人でそんな道を歩もうとするのですか? なぜ私たちを頼ってくれないんですか!? 希!!」
私は気が付いたら叫んでいた。
悲しくて、苦しくて、悔しくて。
そこで初めて希は顔を伏せてしまった。
そして、小さな、絞り出すような声で答える。
「それは……俺が弱いから……」
本当に弱弱しい、今にも壊れそうな声だった。
「俺は弱い。だからお前ら全員を守れない。はやてを守りきることもできない。俺は弱い。だからお前達に寄りかかることができない。はやてが俺のせいで危険な目に会うかと思うと、胸が張り裂けそうになる。お前らが俺のせいで死んだりしたらと思うと、怖くて怖くて仕方がないんだ。だからお前達の気持ちを無視してまで、お前達から離れようとしてしまう。だから自分の気持ちを殺してまで、はやての前から消えようとしてしまう。だから俺は、弱くて、弱くて、弱い、ただのガキだった」
希は、肩を震わせて、涙を流すのを堪えていた。
「せめてもう少し俺に力があれば……せめて、もっと早くお前達に能力のことを話すことができていればこんなことにはならずに済んだかもしれないのに……」
そこに居たのは、いつもの堂々とした頼りになる希ではなく、一人のか弱い小学生だった。
私にはもう、これ以上何も言えなかった。
「すまない、お前達にばかり辛い思いをさせて……だがもう、決めたことだ。俺は実行する」
そう言うと伏せていた顔を上げ、私達に悲しみに満ちた視線を向けた。
「だから、せめて、お前達の記憶も消してやる。今の俺にはそれができてしまうからな。あの戦いで、どうやら脳に耐性ができたのか最終能力の負荷率が減ってしまったようだから」
その言葉に私達が身構える横で、希は自嘲気味に笑いだした。
「ふふっ、いっそ無くなってしまえばよかった物を……」
希は言いながら一番近くにいたシャマルに手を伸ばした。
「嫌!」
シャマルはその手を拒否しながら一歩下がると、そのまま希にバインドを仕掛けた。
だが、希はそれをかわしてしまう。
「……大人しくしていてくれないか」
「嫌よ! こんなこと絶対に間違ってる! はやてちゃんが希君のことを忘れるなんて、そんな事あっていいはずないじゃない!」
シャマルはそう叫びながら再び希にデバイスを向けた。
縛りつけてでも、シャマルは希を説得する気のようだ。
それを見た希は顔を伏せ、黙って一歩シャマルに近づいた。
その希にシャマルがもう一度にバインドを仕掛けようとした瞬間
「待て」
今まで黙っていたザフィーラが間に入り、二人を止めた。
「ザフィーラ! 邪魔しないで!」
「……少し、待ってくれ」
ザフィーラはシャマルにそう言うと希の方を見る。
「……希、お前は間違っている。こんなことしたところで、お前は幸せになれない」
「知っているよザフィーラ。それでも、俺はやる」
「…………そう、か」
希の答えを聞いたザフィーラの顔は、普段の彼からは想像もできないほど悲しみに満ちていた。
そして、震える声で希に頼む。
「なら、せめて、私達の記憶までは奪わないでくれ。頼む」
「ザフィーラ! 何を!」
シャマルはそんなザフィーラに喰ってかかったがザフィーラは首を振るだけだった。
「……説得が通用する段階であったなら、希はこんなことは言わない」
そう言われたシャマルは、ショックを受けた様にその場にへたりこんでしまった。
そうだ。
私にもわかってしまった。
私達には希を止めることができない。
希がどれだけの主はやてのことを愛しているのかを知っているからこそ、希がどれだけの覚悟を持ってこんなことを言っているのかがわかってしまう。
それは、たとえ何をしようとも希が考えを変えないだろうことを私たちに思い知らした。
今ここで止めようとも、希は主はやてに会えば必ず記憶を消す。
記憶が消えた主はやてに私達が希のことを思い出させたところで、再び彼は主の記憶を消してしまうだろう。
それは希に再び心を引き裂くような作業をしろと言っているのと同義の行動だ。
もう、私達に、止める手段は…………ない。
自分の無力さに涙が出る。
なぜ私が生き残って、希が主はやての元から消えねばならない? どうして?
その事ばかり、頭の中をぐるぐる廻る。
「……覚えていたところで、辛いだけだぞ」
「それでも、覚えていたい」
ザフィーラのそれに続く様に、ヴィータが絶望的な表情のまま希に懇願しだした。
「……あたしも、嫌だ。忘れたくない。……忘れたくないよぉ。あたしにとって、はやてと、希と共に過ごした時間は一番大切な宝物なんだ。だから、だからぁ……」
ヴィータはそのまま泣き出してしまった。
希はそれを見て、辛そうに顔を歪ませていた。
シグナムも気付けば涙を流していた。
「頼む、希。主には決して言わないと誓うから。頼む」
そういいながら頭を下げるシグナムを見て、希はついに私たちから顔を背けてしまった。
「……………………わかった」
やっとのことで希は思いとどまってくれたが、それでも主はやての記憶を奪うことに変わりはなかった。
希は私たちから顔をそむけたまま、最後通達を行う。
「だが、やる事に変わりはない。今から、はやてに会いに行く。最後の時間だ。記憶を残す代わりに、二人だけにしておいてくれ」
そして、そのまま家から出ていこうとする。
「……ごめん、みんな……はやてのことを、守ってくれ」
最後にそう言い残して、彼は私達の前から姿を消した。
私には、何もすることができなかった。
【Sideツヴァイ】
希が部屋を去ってからだいぶ時間が過ぎた後、私たちははやてちゃんのいる病院に向かいました。
その間、誰ひとり言葉を発する人はいませんでした。
ただみんな、涙を拭いて、はやてちゃんの前で普段通り振舞えるように必死で悲しみを隠して……
病室に着くと、はやてちゃんは一人眠っていました。
そこに希の姿はありません。
きっと、もう……
だけど、私には怖くて皆に確認することができませんでした。
みんなも、何も言いません。
しばらくすると、はやてちゃんが目を覚ましました。
「主、目が覚めましたか」
「ん~、なんやみんな来とったんか? ごめんなぁ、いつのまにか寝てもうてたわ」
「……いえ、私達も先ほど来たばかりですので」
「そっか」
シグナムがいつも通りの対応をしていましたが、はやてちゃんは違和感に気付いてしまったようです。
「どうかしたん?」
しかしみんなの口は重く、だれもはやてちゃんに答えようとしませんでした。
だって本当のことなんて言えないから。
希の覚悟を踏みにじるなんてこと、私にはできないから。
するとシャマルが私達の処分について話し始めました。それではやてちゃんは私達の様子に納得言ったのか、すべて聞き終わると
「ん、分かった。それじゃあ、みんなで頑張ろうやないか。大丈夫。シグナムも、ヴィータも、シャマルも、ザフィーラも、リインも、ツヴァイも、そして私も。家族全員で力を合わせて罪を償っていけばええよ」
そういって私たちに笑いかけてくれます。
でも、この中に希の名前はありません。
「……それだけなのかよ、はやて」
ヴィータちゃんが絞り出すような声で問いましたが、はやてちゃんはキョトンとしています。
「いや、もちろんなのはちゃんとかフェイトちゃんとかの力を借りることはあると思うけど。この問題に関しては私たち家族のことやからな」
「そう……か」
……やっぱり、もう……希は……
そう言ったヴィータちゃんの目にはみるみる涙が溜まっていきました。
頑張って耐えようとしていましたが、ついに我慢の限界が来てはやてちゃんに抱きついて泣き出してしまいました。
「……ごめん。ごめんなさい、はやてぇ。あ、あたしたちの、せい、で」
それを見ていた私も我慢しきれず、涙があふれてきてしてしまいました。
同じように、シャマルとお姉ちゃんも泣いています。
「はやてちゃん、はやてちゃん……」
「ごめんなさいはやてちゃん。本当に、本当に……」
「主はやて……すみません、私には……」
更にはザフィーラまでもが顔を伏せ肩を震わせています。
「……主、すみません……私には……守り切れなかった」
それを見て困惑するはやてちゃんをシグナムが抱きしめました。
その目には、かすかに光るものが流れていました。
「……主、私は、騎士としての誓いを守れなかった」
みんな耐え切れずに泣いています。
泣かないように頑張ったのに……もうどうしようもなく悲しくて……どうして……こんなことに……
「大丈夫、私は大丈夫やよ」
はやてちゃんの慰めの声が悲しくて、その日私たちは涙が枯れるまで泣き続けてしまいました。