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No.25220の一覧
[0] サトリのリリカルな日々 (リリカルなのは オリ主)【sts編変更、修正しました】[kaka](2011/08/16 01:01)
[1] 第一話[kaka](2011/08/16 00:25)
[2] 第二話[kaka](2011/08/16 00:26)
[3] 第三話[kaka](2011/08/16 00:27)
[4] 第四話[kaka](2011/08/16 00:28)
[5] 第五話 前編[kaka](2011/08/16 00:32)
[7] 第五話 後編[kaka](2011/08/16 00:34)
[8] 第六話[kaka](2011/08/16 00:35)
[9] 第七話[kaka](2011/08/16 00:36)
[10] 第八話[kaka](2011/08/16 00:37)
[11] 第九話 A’s[kaka](2011/08/16 00:39)
[12] 第十話[kaka](2011/08/16 00:40)
[13] 第十一話[kaka](2011/08/16 00:41)
[14] 第十二話[kaka](2011/08/16 00:41)
[15] 第十三話[kaka](2011/08/16 00:42)
[16] 第十四話[kaka](2011/08/16 00:44)
[17] 第十五話[kaka](2011/08/16 00:45)
[18] 第十六話[kaka](2011/08/16 00:46)
[19] 第十七話[kaka](2011/08/16 00:47)
[20] 第十八話[kaka](2011/08/16 00:48)
[21] 第十九話[kaka](2011/08/16 00:48)
[22] 第二十話[kaka](2011/08/16 00:49)
[23] 第二十一話 A’s終了[kaka](2011/08/16 00:49)
[24] 第二十二話 sts編[kaka](2011/08/16 01:02)
[34] 第二十三話[kaka](2011/08/25 01:16)
[35] 第二十四話[kaka](2011/09/14 02:37)
[36] 第二十五話[kaka](2011/09/14 02:35)
[37] 第二十六話[kaka](2011/09/25 22:56)
[38] 第二十七話[kaka](2011/10/13 02:00)
[39] 第二十八話[kaka](2011/11/12 02:02)
[40] 第二十九話[kaka](2012/09/09 22:02)
[41] 第三十話[kaka](2012/10/15 00:10)
[42] 第三十一話[kaka](2012/10/15 00:09)
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[25220] 第二十話
Name: kaka◆0519be8b ID:ee322f37 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/16 00:49
 はやてたちと別れてから数時間、俺はようやく管理局本部に到着した。
 局員の物が俺の局内での行動制限などを話しているのを適当に聞き流しながら俺は建物内の様子を何となく眺めていた。
 しかし、異世界とはいえ特に俺のいる世界と大差ないな。
 多少近代化は進んでいるようだが。
 特に面白そうな場所はなさそうだ。
 はやてもいないし。
 さっさと用事を終わらせて帰りたいものだな。
 そんなことを考えていると、俺は説明をしていた局員にとある部屋まで案内された。
 ……フン、嫌な奴に会わなければならない。

「一ノ瀬容疑者を連れてまいりました」

「入りたまえ」

 俺を連れてきた管理局員が畏まって挨拶すると、奴は偉そうに返事をした。
 中に入ると車椅子に腰かけ、リーゼアリアを後ろに携えたギル・グレアムがいた。

「御苦労。君は下がっていていい」

「はっ」

 言われた管理局員が退室し、部屋には俺とリーゼアリア、グレアムの三人が残された。
 沈黙が流れる。
 アリアは気まずそうに眼を伏せている。
 グレアムも一度俺を見た後は目を瞑り、眉間にしわを寄せていた。
 俺はそんなことは気にも掛けずに、体を伸ばしていた。
 こいつらが今どんなふうに思っているかなんて、とっくに知っている。
 だからと言って何かをする気も言う気もない。せいぜい罪の意識に苛まれればいい。
 しかし、まだ本調子とは言えないから少し疲れたな。
 車椅子は慣れたが。
 そうやって俺が奴の存在を無視している間、沈黙が続いた。
 その重苦しい沈黙を破ったのはグレアムだった。

「……一ノ瀬君。私は」

「言いたいことと言わなくてはならないことを一緒にするなよ、ギル・グレアム。お前の言いたいことなんて俺は聞きたくないし、お前との会話すら俺は気分がよくない。言わなければならないことのみをさっさと言え」

 しかし俺はグレアムの言葉を、俺はばっさりと切り捨てた。
 俺は奴の謝罪など聞きたくもない。
 そんな意味のない行為に付き合うなんて御免だ。
 するとグレアムとアリアは辛そうな顔をし、何かに耐えるように声を絞り出した。

「……わかった。君の今後の予定だがまずは精密検査を受けてもらう」

「精密検査だと?」

「あぁ、そうだ。アースラでも受けてもらったがそれよりより高度なものだ。何せ君は一週間も眠り続けていたんだ。万が一があったら大変だ」

 なるほど。
 アースラの医療施設では俺が昏倒していた理由がわからなかったから、無理にグレアムが入れたのか。
 余計なことを。
 俺の原因なら分かっているというのに。
 それなら俺ではなくはやてにやって欲しいものだ。

「その後、査問会に出てもらう。そこで闇の書事件と君自身のことを詳しく説明して欲しい」

「査問会、か」

「そうだ。そこでの君の態度や事件の経緯によって、君達の刑が決まる」

 俺の態度と事件の経緯、か。
 事件の経緯自体は十分に情状酌量の余地はあるとの話だったな。
 つまり、後は俺が大人しくしてれば罪が軽くなる可能性が高いということか。

「私は……今回の事件では当事者側だから出ることはできないが……無論、できる限りの力は尽くすつもりだ」

「そんなことは聞いていない」

 しかし素直な態度をとることに問題はないが、闇の書を正常化したことについてはどう誤魔化すかな?
 さすがに能力のことは話せない。
 局としてもそのことには興味を抱いているはずだし……
 まぁ、どうとでも誤魔化せるか。
 最悪、最終能力については説明しなければならないかもしれないが……
 要は心を読むことができることさえばれなければいい。
 それならば、ただのレアスキルとして扱われるだけで済む。
 そこまで重要な価値を見出すこともないだろう。
 問題ははやてたちを助けるための交渉方法だな。
 なるべく早く終わらせてみんなの所に帰りたいものだ。
 あぁ、早くはやてに会いたい。


 と、俺はこの時まではこの時暢気にもそんなことを考えていたのだった。





 グレアムとの話し合いが終わった後、俺はすぐさま管理局が誇る医療施設で精密検査を受けた。
 さすがに近代化が進んでいるだけあってその検査の精度とスピードは素晴らしいものだった。
 まぁ、魔法技術も取り入れているので当然か。
 しかし、ここの医療技術も取り入れることができればはやての足はもっと早く良くなるな。後でグレアムに医療関係の専門書を用意させよう。
 俺の診断は滞りなく進められていった。
 アースラ内の検査でもわかっていた事だが俺の怪我は肉体の酷使による筋肉の断裂や靱帯の損傷などで、個々の医療施設を使えば簡単に直せる程度のものだった。
 心配していた脳への損傷もまるでなかった。
 いや、しかし、ここまで何にもないなんて思わなかった。
 能力障害だって予想以上に早く治ってしまったし。
 むしろあの後能力の精度が上がった気がする。
 まだすべて使ったわけではないので分からないが。
 本当、異常だ。こんな力がお手軽すぎる。
 まぁ、はやてたちが受け入れてくれたからいいんだが。
 最後に、血液採取と全身のスキャンを行い、俺の精密検査は終了した。
 後は最後の結果を待つだけだ。






「ではこれから、査問会を始める」

 精密検査の結果を待つ間、ついに査問会が始まった。

「被告、一ノ瀬希にはロストロギア、闇の書の無断使用および民間人への魔法攻撃の指示、魔導生物の違法な狩猟、殺人未遂の容疑がかけられている」

 査問会には、管理局のお偉方が何名も集まっていた。

「この査問会ではその経緯及び容疑者のもつレアスキルついて話してもらう」

 みな、俺のレアスキルに興味があるらしい。
 管理局を長年悩ませていた闇の書を収めたというレアスキルだ。
 当然、気になる。
 どうにか自分の利になるように使えないかと考える者もいた。

「容疑者はこれから我々がする問いに嘘偽りなく答える様に」

 そんな中俺は平然と周りの様子を観察していた。

「なお、今回の査問会では証拠物件として……」

 すでに能力は発動済みだ。
 周りの奴らがどう考えているかなんて手に取るように分かる。

「時空管理局本局次元航行部隊第八番艦 アースラの記録を使用する」

 しかし、今のところ印象はあまり良くないな。
 態度では反省しているように見せているんだが……
 どうも闇の書に対する印象が最悪すぎるらしい。
 艦隊を一つ潰してしまった事が大きいようだ。
 事件の経緯を知らずにせいかもしれないが。
 だが、普通にやっても情状酌量の余地があると判断してくれる奴が半分くらいはいそうだな。
 後は、うまくやってできる限り罪を軽くすることにしよう。




 査問会は進み、アースラの記録映像がすべて流れ終わると、ついに俺への尋問が始まった。
 まず初めに、俺が事件に関わった経緯を問われた。
 俺はそれにはなるべく相手の同情を引くように演技をしながら、しかし真実を話した。
 本音を言えばここではあまりはやてとの関係を知られたくはない。
 万が一俺に敵ができた時にはやてが狙われてしまう可能性が上がるからだ。
 だが、無理をしてまで隠すことでもない。
 どちらにせよ管理局に加担することとなれば俺とはやての関係などすぐにばれてしまうだろうからな。
 なら、今は素直に喋った方が同情を引きやすいだろう。
 そう考え、話していたのだが……
 状況に変化が起きた。
 話しの傍らで聞いていたが、精密検査の最後の結果が出たらしい。
 その結果がどうもおかしいようだ。通常ではありえない様な数値が一つ出てしまったようだ。
 それを担当医が過去のデータを使い、調べている。
 そして、驚愕した。
 俺のデータが過去のある男との身体データと一致してしまったからだ。






 その男は、ある能力を持っていた。


 魔法とは違う、ある能力を。


 そいつは俺と同じ能力を持つ、世紀の大犯罪者だった。








 その男は今から80年前、現れた。
 まだ管理局が成立する前、そいつは管理されることを嫌って局に一人敵対していた。
 初めは、局側もたかが一人に何ができると侮っていたらしい。
 しかし、実際は違った。
 そいつはその能力を使い、局の裏をかいた作戦や、局の黒い部分を利用し民衆を扇動するなどして、局を追い込んだ。
 最後はその男を重大危険人物と認定した局の物量に負け、捕まってしまったが。
 だが、その男は死ぬ間際にとんでもない爆弾を残していった。

「俺はお前達の闇をすべて知っている。お前らはいつか必ず罰を受けるだろう。それだけのことをしてきた。いつか、俺と同じ能力を持つものが現れた時、それがお前達の最後だ。そいつは俺と同じように貴様らの闇を知り、俺と同じように貴様らを裁こうとするはずだ。それまで、せいぜい日々怯えて過ごすがいい」

 と。
 その言葉に危機感を覚えた管理局は今まで、その男の身体でデータを保持してきたのだった。








 ふざけるな、だ。
 俺は局を裁こうなどとこれっぽっちも考えていない。
 確かに能力で調べてみたら黒いところもあったがそんなもの巨大な組織ならば必然的に出てしまうものだ。
 そもそも、俺からしたら別に管理局が度を越して腐っていたところではやてたちに害なさなければ放っておく。
 しかし、向こうはそうは思わないだろう。
 管理局からすれば、あの予言は恐怖そのものだ。
 いや、それがなくとも心を読む能力を持った者が局内に侵入してしまった事自体が問題だ。
 局内には、機密情報が山ほどある。
 俺を局内に入れてしまった事によってそれが流出してしまったと考えるだろう。
 それだけで、俺はここから出られなくなる。
 いや、それだけじゃない。
 中には俺を殺しに来る者もいるはずだ。
 そのくらい、この能力は周りにばれてしまうと危険なものなのに……
 俺はかつてないほど焦っていた。
 どうする? 今ならまだ気付いたのは担当医だけだ。そいつさえどうにかしてしまえば……いや、だめだ。身体データが残っている。それも消さなければ意味がない。だがどうやって消すと言うのだ? 早くしないとデータなどいくらでもばらまかれてしまう。いや、それ以前にここから抜け出さなければどうにもならない。しかしどうやって抜け出す? ……無理だ。入口には監視の魔導師がいる。今の俺にそれを突破する力なんかない。だがそれでは……
 いくら考えたところで、解決策などなかった。
 精密検査を受けたところで、もう、詰んでいた。
 担当医によって結果が上層部へと送られる。
 当然、その情報はこちらにも流れてきた。
 査問会内にどよめきが走る。
 この結果が議長によって公開されると、皆の心には、嫌悪や恐怖、焦りや欲望などの感情が渦巻きはじめた。

「……この情報に、偽りは?」

 そう聞く議長の顔もひきつっていた。

「……ありません」

 もう、隠し通せない。
 たとえ今俺がここで否定したところで、説得力などかけらもない。
 データ上で、結果が出てしまっているのだから。
 そちらの方が、信用度は高いはずだ。
 俺の肯定の言葉を聞いたお偉方が、一気に議論を始めた。
 やれ拘束すべきだとか、やれ保護すべきだとか、やれ危険な力は管理すべきだとか。
 言い方は違えど、誰も局から離すつもりはないらしい。
 もう、終わってしまったのだ

「議長」

 俺が言葉を発したことで、この場にいる全員がびくりと反応する。
 それを無視して、俺は自身の要求を述べた。

「俺の罪を帳消しにし、八神はやてとヴォルケンリッターの罪をできる限り軽くしてほしい」

「なっ!」

 その要求に、議長ははじかれる様に反論した。

「できるわけがなかろう! 何を言っている!」

 だが、俺には考えがあった。
 そもそも、手段さえ選ばなければできる算段はもともとあった。
 そして、今はもう手段を選んでいる状況ではない。

「司法取引だ」

「司法取引、だと?」

「そうだ。この取引に応じてくれるのであれば、俺は現在拘留中の他の次元犯罪者達からそのすべての情報を奪い、局に報告することを約束しよう。そうすれば、捕まえることのできる次元犯罪組織の数は劇的に増えるはずだ」

「それは……」

 心が揺れた、か。

「それだけじゃない。その後も、管理局に貢献してやる。犯罪調査において、俺の能力の有用性は言うまでもないだろう?」

 この誘いで、この場にいる局員の大多数がこちらに傾いた。
 危険な力だが、その分有用性は高い。
 そして、何人かは既に気付いていた。
 危険な俺を縛る方法がある、と。
 だが、まだ議長は渋っていた。

「しかし……このようなこと独断では……」

「ならばまずは一カ月、局に奉仕しよう。その期間内にどうするか決めろ」

 俺のこの譲歩にも、まだ議長は決めかねていた。
 だが、心はだいぶこちらに傾いたようだった。

「……やはり独断では決められん。この様な重大なスキル保有者が来るとは想定外だった。この問題に対処するために、一時査問会は中断する」

 こうして、査問会は一時中断され、俺は別室に移された。
 その間に数時間の議論が行われ、ようやく判決が決まった。
 結果は、俺の要求通り。




 この瞬間、俺がはやてとの元の生活に戻ることは、二度とできなくなった。




【Sideグレアム】

 査問会の終わりを待つ間、私は気が気ではなかった。
 できる限りの手は打った。
 査問会の議長には情に厚く、公平な人物を選んだ。
 なるべく私だけが罪を被るような事実を織り交ぜた報告書も作らせた。
 傍聴に来ている幹部達にも配慮し、彼らの恐怖心をなくすためにも主たる彼女ではなく一ノ瀬君を呼んだ。
 しかし、私のせいで起きた事件の後始末をまだ年端もいかぬ少年に追わせてしまっているという事実は変わりない。
 彼は私を許す気はないようだった。
 私の謝罪を、聞くことさえ拒んだ。
 ……それでいい。
 私は許される資格などないのだから。
 今思えば、謝罪することすら彼に対する侮蔑だったのかもしれない。
 心のどこかで、許して欲しいという気持ちがあったから、そんな恥知らずなことをしてしまったのではないかと思う。
 私は、許されるべきではないと言うのに……




 こうして待っていると、ついに査問会が閉会したとの知らせを受けた。
 すぐさまアリアと共に一ノ瀬君を迎えに行く。
 しかしおかしい。
 何故だか騒ぎになっているようだ。
 何かあったのだろうか?
 彼が何かするとも思えないのだが……
 そんな不安を胸に一ノ瀬君に会いに行こうとすると、武装局員に止められてしまった。
 何故だ? 彼は容疑者とは言え非魔導師の子供だぞ。そもそも、なぜ武装局員が出てきている?
 そう思い、その武装局員に事情を聴き、私は驚愕した。
 そんな……まさか彼がそこまでのスキル保有者だったとは…………
 そして同時に、私は自身の失態に気がついた。
 まずい! そのようなスキル保有者を、私は局内に入れてしまった!
 これでは彼女達の罪どころの話ではない!
 それ以前に、一ノ瀬君が局から出られなくなる!
 私はすぐさま武装局員に一ノ瀬君に会わせるように頼み込んだ。
 早くからをここから逃がさなければ、私は彼女達から彼を奪ってしまうことになる!
 しかし武装局員は私の願いを聞き入れてはくれなかった。
 そこで私は一旦その場を離れ、すぐさまアリアに一ノ瀬君の拘留されている部屋まで侵入するよう命じた。
 一分一秒が惜しい。
 まだ間に合う。
 今なら緊急で配備された武装局員の数が少ない。
 この情報が広がりきる前に逃がすことさえできれば、彼ならば逃げ切れるはずだ。
 そう考えた私が逃走経路を手配するために動いていると、アリアからの通信が届いた。

「アリアか! 一ノ瀬君の部屋には無事侵入できたのか!」

「はい、お父様。でも……」

「ならばなるべく見つからない様、22番停泊所まで来るんだ。そこに次元船を用意する」

「お父様、あの……」

「最悪、見つかってしまった時は攻撃を許可する」

「待て」

 私が急いで指示を出していると、通信の相手がアリアから一ノ瀬君に代わった。

「一ノ瀬君! 早く逃げなければ君は」

 そして、とんでもないことを言い出した。

「俺は逃げるつもりはない。もう、無理だ」

 それに驚き、反射的に反論してしまう。
 この時の私は、冷静でなかったのだろう。

「なっ、何を! 今ならまだ君なら!」

「……俺一人で逃げてどうする。一人で逃げたところで、意味はない」

 私は恐怖に囚われていた。

「一人でなら逃げることも可能だろう。逃亡生活だって、この能力さえあれば簡単に捕まることもないはずだ。だが、そんな事をしたらはやてはどうなる?」

 これ以上、罪を重ねる恐怖に。

「俺は先ほどの査問会で、すでにはやてを大切にしている事を喋ってしまった。俺が逃げれば、局の連中ははやてを餌に俺をおびき出すだろう。そんなことはさせられない。だから俺は残る」

 私の責任で、子供たちの運命を捻じ曲げてしまう恐怖に。

「し、しかし……」

「そんなことより、お前にはやって欲しいことがある」

 だが、いくら恐怖したところで、すでに手遅れだった。
 現状でもう、私は彼の人生を捻じ曲げてしまっていた。

「やって……欲しいこと?」

「あぁ、そうだ。それさえすれば、俺はお前を許してやる」

「!!」

 彼の残酷な要求を聞いた瞬間、私はそれを悟った。

「俺はすでに管理局に服従を誓っている。その見返りに、俺の罪を帳消しに、はやてたちの罪を軽くしてくれるように頼んだ。それでも、この先俺は様々な輩に狙われるだろう。それほどの能力を持っている」

「……その連中から、君を守れ、と?」

 それは、まるで死刑宣告のようだった。

「違う。だから俺ははやての中にある俺に関する記憶をすべて消す。彼女との関わりを、断つ」

 衝撃が走る。
 そんな……だって彼は彼女を守るために……命を賭して戦ったというのに……

「だが、それでははやてたちの罪が軽い理由がなくなる。その辻褄合わせのために、はやてたちの罪が軽いのはすべてお前の働きによるものだということにしろ」

 言葉が、出なかった。
 彼の要求は残酷すぎる。
 こんなもの、私に自分を殺せと言っているようなものだ。

「書類その他の記録は、こちらで改竄しておく。お前はただ、はやてに礼を言われるだけでいい」

「……そんな……私には……」

 そんなことは……できない。そんなこと……
 しかし、彼の要求は私の逃げ道を失くしていく。

「できない、と言うのなら誰かほかの人間にその役目を押し付けるだけだ。どちらにせよ、はやての記憶を消すことに変わりはない」

「……しかし……他に方法が……」

「あるのなら提示してみろ」

「……わ、私が君たち全員を」

「無理だ。全員を守ることは不可能だ。襲い掛かってくるであろう敵の量が違いすぎる」

「だ、だがヴォルケンリッターと協力すれば」

「貴様はこの上家族まで危険にさらせと言うのか?」

「そ、それは……」

 私が何かないかと必死に考えている間に、彼は最後通達をしてくる。

「時間がない。最後だ。やるのかやらないのかだけ決めろ」

 ……これは、罰だ。
 大人の都合に、子供を巻き込んでしまった事への、罰。
 私には、この要求を受け入れる以外の選択肢など、残っていなかった。



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