【Sideなのは】
はやてちゃんの夢の第一歩、機動六課がついに始動を始めました。
戦力は充分、むしろやり過ぎなくらいの人員を集め、私は絶対にうまくいくものだと思ってました。
だけど……
現状は芳しくありません。
六課立ち上げから一カ月、まだ一つも眼に見える成果を上げられていないからです。
原因は一つ。
一ノ瀬希特別捜査官。
彼がレリックの回収を、こっちの手が伸びる前にすべて行ってしまうからです。
初めはただの偶然かと思ったけど、彼は明らかに狙ってレリックを回収しています。
それならとはやてちゃんが合同捜査の要請をしても、断られ、情報提供もしてくれないみたいです。
おかげで私たちはレリック専門部隊として立ち上げられたにもかかわらず、まだ一つもレリックを回収できていません。
おかげで六課は今、かなり立場が悪いです。ただでさえ風当たりが悪かったのに。
早くも存在意義を見直して、解散させた方がいいのではないかという声も上がっているようです。
はやてちゃんが頑張っているから今のところは大丈夫みたいだけど……
この状況が続けば、当初の予定だった運用期間の一年が大幅に削られそうです。
何でこんなことになっちゃったのかな。
せっかくはやてちゃんの夢が動き出したと思ったのに。
ロングアーチのみんなも不安がっています。
一ノ瀬捜査官に眼をつけられて。
一ノ瀬捜査官。
彼は私たちと同期ぐらいで、年齢も同じくらいのはずなのに、私達とは全く違った道をたどり、全く違った評価を受けてきました。
曰く、管理局の悪魔。
その類稀なる能力とすぐれた情報収集力を使い、狙った獲物は必ず、無慈悲に潰すといわれています。
事実、彼のせいで権力を失った人間は大勢います。
そんな彼を刺激しないように、ある程度好き勝手できる今の特別捜査官という地位まで用意されたほどです。
そんな彼に、眼をつけられてしまったのです。
初めこそみんな負けないように一致団結して頑張ろうといっていたんだけど……
情報を得るスピードが違いすぎて、話になりません。
本当に一人でやっているのかと疑いたくなるほど広範囲で、的確にレリックの場所を探り、迅速に回収してしまいます。
こちらがやっとの思いで見つけたレリックも、出動までの間に先回りして回収されていたというのも一度や二度じゃありません。
もう、ロングアーチのみんなは完全に自信喪失しています。
本当に、なんでこんなことになっちゃったのかな。
とはいえ、私達も何もやっていないというわけじゃありません。
六課のもう一つの目的、新人の育成の方は順調に進行しています。
みんな素直で吸収が早くて、教えがいがあります。
レリックの方がうまくいっていないので、実は今のところこの新人教育が六課の生命線になっていたりします。
変な重荷になっちゃうといけないから新人たちには黙っているけど。
そして今日は、ようやくみんなの新デバイスを渡す、記念すべき日です。
みんなに新デバイスを披露すると、眼を輝かせて喜んでくれました。
みんながんばってくれてるし、これでもっと強くなってくれるといいな。
そのままシャーリーとツヴァイと一緒に機能を説明していると
一級警戒態勢のアラートが鳴り出しました。
「グリフィス君!」
「はい! 教会本部からの出動要請です!」
私がグリフィス君に確認をとると、すぐさまはやてちゃんからの通信が入ります。
「なのは隊長、フェイト隊長、グリフィス君。こちらはやて」
そのままはやてちゃんは状況の説明を始めました。
どうやら、このまま出動となりそうです。
「いきなりハードな初出動や。みんな、行けるか?」
「「「「はい!」」」」
「よし! いいお返事や。こっちの不手際を押し付けるようで悪いんやけどこれはチャンスや。みんな、頼んだよ」
「「「「はい!」」」」
そう、これはチャンスです。
まだ一ノ瀬捜査官の手が伸びていない、レリックを回収し成果を得るチャンス。
なんとしてでも、成果を得て見せる。
【Sideキャロ】
現場に到着すると、なのはさんは列車の対応を私たちにまかせて、飛行型ガジェットの対処に向かってしまいました。
正直ちょっと不安です。
私の力が、暴走して、みんなを傷つけてしまうんじゃないかって。
強すぎる力は災いを呼ぶ。
村長に言われてしまった言葉が頭をよぎって。
そんな私の様子に気付いたエリオ君が、手を握ってくれました。
……うん、大丈夫。
いつも通りやれば、きっと大丈夫だから。
だけど、実戦は予想外の事が起きるもので。
私達の前に、新型ガジェットが現れてしまいました。
私はすぐに応戦しましたが
「フリード! ブラストフレア!」
その装甲にフリードの攻撃ははじかれ
「はぁー!」
エリオ君の刺突も同じで、装甲の厚い敵に攻撃が通じていません。
さらに
「AMF!?」
「こんな遠くまで?」
広範囲のAMFのせいで私のいる後方まで魔法が打ち消されてしまいました。
近くにいるエリオ君の魔法も当然、消されています。
「エリオ君!」
「っ、大丈夫!」
そんな状態の中、エリオ君は新型ガジェットの攻撃を受けてしまいます。
ど、どうしよう? エリオ君は大丈夫だって言ってるけど、明らかに押されてる。
でも、AMFが展開されてる状況で私にできることなんか……
そんな時、突然一機のヘリが崖の上から現れました。
同時に何かがそのヘリから落ちてきます。
あれは?
「っぐあ!!」
「っ! エリオ君!!」
私が一瞬そのヘリに気をとられてるうちにエリオ君がガジェットに吹き飛ばされていました。
エリオ君は壁に激突し、すぐには動けないようです。
そこにガジェットが腕を伸ばして止めを刺そうとしています。
危ないっ!
そう思った私が反射的にその間に飛び出ようとした時
「邪魔」
そんな声が聞こえたかと思うと、それから人が、凄い勢いで降ってきました。
その人はそのまま伸びていた腕を踏みつけ、破壊してしまいます。
そして、着地と同時に飛びずさり、エリオ君を抱えると私の隣まで飛んできます。
その、突然の応援にあっけに取られ、私はすぐには声が出ませんでした。
でも、すぐに正気に戻り
「あ、あの、ありがとうございます!」
と、お礼を言ったんですが……
その人はガジェットを睨みつけたまま、こちらに何の反応も返してくれません。
え、えっと、こういう時どうしたらいいんだろう?
確か、この人って……一ノ瀬捜査官?
「……っち、遅かったか」
一ノ瀬捜査官はそう苦々しげにつぶやくとやっと私達の方に顔を向けました。
「……仕方ない、こいつらも使うか」
ひと通り私たちを見定めると、一ノ瀬捜査官はそう呟きました。
……えっと、なんだろう? 私、何かしちゃったかな?
と、若干混乱していると彼はいきなり
「確かに強すぎる力は災いを呼ぶことはある。しかしそれも使い手次第だ。貴様が恐れず正しくその力を使う事ができれば、それは仲間助けることもできるという事を忘れるな、キャロ・ル・ルシエ」
と、私に向かってはっきりと言いました。
そんな事を突然言われて、私は更に混乱してしまいます。
え? なんで、この人がこの事を?
などと、一瞬思ったのですが……
私には驚いている暇さえありませんでした。
「まぁ、どちらでもいい。後はお前が決めろ」
そう言って一ノ瀬捜査官がエリオ君を谷底に向かって放り投げてしまったからです。
……え?
「え?」
「えっ?」
「「えぇ~~~!!??」」
な、なんでこの人エリオ君を!? 助けてくれたんじゃないの!? エリオ君空戦じゃないのに!?
「お前が行かないと、死ぬぞ、あいつ」
私が驚いている横で平然と言い放って、一ノ瀬捜査官はガジェットに向かっていってしまいました。
助けてくれないんだ!?
などと、驚いてる暇もありません。
エリオ君はその間もどんどん谷底に落ちていっているから。
とっさの判断でエリオ君を追いかけるように、すぐさま私も列車から飛び降りてしまいました。
落下中、唐突に今までのエリオ君との思い出が蘇ってきました。
初めて会ってから今日までの事が。
優しくって、私に笑いかけてくれる、エリオ君の顔が。
だから私は自然に思いました。
守りたいと。
大切な人を、自分の力で、守りたいと。
先ほど、一ノ瀬査察官に言われた言葉が頭をよぎります。
『貴様が恐れず正しくその力を使う事ができれば、それは仲間助けることもできるという事を忘れるな』
だから、私は使う。
恐れずに、この力を!
「蒼穹を走る白き閃光。我が翼となり、天を駆けよ。来よ、我が竜フリードリヒ。竜魂召喚!!」
詠唱と共に、召喚魔法陣が現れ、フリードの真の姿が現れました。
しかも
「制御、できてる?」
完全に制御ができてます。
やった!
これなら!
「……キャロ?」
と、エリオ君に声をかけられて慌てて浮かれた気持ちを元に戻します。
同時に、いつの間にか抱きしめていたのにも気がついて、そっちの方も慌てて離しました。
いけない、まだ気を緩めていいわけじゃないのに。
そこに一ノ瀬捜査官の指示が飛んできました。
「キャロ・ル・ルシエ! 避けろ!」
見ればフリードにガジェットからの熱戦が伸びてきていました。
「ッ! はいっ!」
その言葉にしたがって、はじけるように体が動きます。
攻撃を指示通り避けると、間髪いれずに次の指示が飛んできました。
「エリオ・モンディアル、スピーアアングリフ!」
「は、はい!」
一ノ瀬捜査官の指示はなぜか有無を言わせず利かせる、そんな不思議な力があるように感じました。
エリオ君は咄嗟に指示に従い、ガジェットに攻撃を繰り出します。
しかし先ほどと同じように、分厚い装甲に阻まれて攻撃は止まってしまいました。
これじゃあ、またさっきと同じになっちゃう。
私がそう思った時、一ノ瀬捜査官はいつの間にかエリオ君の後ろに回り込んでいました。
そのまま流れるようにストラーダの柄を蹴り付けます。
すると、ガシュッという音と共にガジェットにストラーダの切っ先がめり込みます。
続けざまに一ノ瀬捜査官は
「ブラストレイ!」
私に指示を出し、その場をすぐさま離脱しました。
同じく、その指示の意図に気がついたエリオ君も飛びずさります。
私は、二人が安全圏に入ったと確認すると
「フリード、ブラストレイ!」
指示に従って、たった今出来上がったガジェットの装甲の穴に向かい、攻撃を仕掛けます。
その攻撃はAMFを突き破り、ガジェットを内部から破壊することに成功しました。
攻撃に耐えきれなかったガジェットは燃え上がり、爆発してしまいます。
やった! 新型で、なんか固かったけど、撃破できた!
そのことで落ち着いて、周りを見てみれば、そちらの方もほとんど片が付いています。
初任務、いろいろ不安もあったし、助けてもらっちゃったけど、なんとか成功です!
そうやって私が内心ホッとしているところに
「エリオ! キャロ!」
フェイトさんが大急ぎで飛んできました。
そのまま私たちの無事を確認すると抱きついてきます。
そんなフェイトさんの行動にエリオ君はちょっと照れています。
私は抱きついてもらって、うれしい気持ちでいっぱいです。
大切に思われているのがわかって。
でも、ちょっと苦しいです。
でも、ひとしきり抱きしめた後フェイトさんは真剣な表情になって
「……なぜ、エリオを谷底に投げ込んだんですか? 一ノ瀬捜査官?」
一ノ瀬捜査官を睨みつけながら問いただし始めました。
なんだかフェイトさんの表情が、いつもと違ってちょっと怖いです。
でも、そんなフェイトさんに対しても
「AMFの効果範囲から外すためだ。そうしないと、魔法が使えないだろう?」
一ノ瀬捜査官は今破壊したガジェットの残骸を調べながら、淡々と答えていきます。
その態度に、フェイトさんの表情がどんどん険しいものになってしまいます。
「だからって、谷底に投げなくたって……普通に列車後方に下がらせた方が安全だったんじゃないですか?」
「落ちたほうが早い」
「そんな……怪我じゃ済まなかったかもしれないんですよ」
口論も、フェイトさんはどんどんヒートアップしてしまいます。
「していないだろう? 怪我なんて」
「結果論です!」
「俺は結果論で話しているんだ」
「っく、あなたは」
それを見ながら私とエリオ君がオロオロしているところに
「フェイト隊長、落ち着いてや」
八神部隊長からの通信がはいり、二人を仲裁しました。
だけど緊迫した雰囲気はまだ続きます。
「……一ノ瀬捜査官、協力感謝します。しかし、なんであなたはそこに居るんですか?」
通信越しに、八神部隊長が詰問します。
すると初めて一ノ瀬捜査官は言葉に詰まったように、会話に間を開けました。
「……レリックがあるとの情報が入ったので。もっとも、遅かったようですが」
「……そうですか。やはりあなたも、レリックを追っとるんですね」
「申し訳ありませんが極秘任務中ですので詳細は言えません」
ただ、会話に間が空いたのも最初だけで、後は悪びれることもなく、事務的に八神隊長の質問に答えながら残骸を調べ続けます。
「極秘任務、ですか? レリックばかり集めとるように見えますけど」
「さぁ? 変な興味を持たないほうがいいですよ、八神はやて部隊長。好奇心は身を滅ぼす。それに、貴女には守りたいものがたくさんあるでしょう?」
「……脅しですか?」
「まさか、一般論です」
……なんだか、険悪な雰囲気です。
八神部隊長の声はなんだかピリピリしていますし、一ノ瀬捜査官は一ノ瀬捜査官で声の調子は変わっていませんが、なんだか発言が挑発的に聞こえます。
もしかして、一ノ瀬捜査官って六課と仲悪いのかな?
助けてくれたから、てっきり六課の誰かと繋がりがあるのかと思ってたけど。
すると、一ノ瀬捜査官は残骸を調べ終えたのか立ち上がり、空を見ます。
「では、これ以上ここに居ても意味がないので失礼させていただきます。事後処理はそちらに任せますので。では。アハト」
一ノ瀬捜査官が呼ぶと、先ほどのヘリがすぐにこの場に飛んできました。
どうやら、制御用にデバイスが詰み込まれた最新型の無人ヘリのようです。
そのヘリから縄梯子が下りてきて、一ノ瀬捜査官がそれを掴むと
「待って!」
先頭車両の方からツヴァイ曹長が飛んできました。
何やら必死な様子で
だけど、一ノ瀬捜査官はそれを一瞥しただけで、
「アハト、行け」
[Jawohl]
その場を去ってします。
「……なんで、ですか?」
結局、一ノ瀬捜査官は、ツヴァイ曹長に何も言ってはくれませんでした。
【Sideツヴァイ】
結局、あの場で追いかけることもできず、希に逃げられてしまいました。
せっかく希がシグナム達に会って以来、初めて姿を現したのに。
それどころか、私の軽率な行動のせいでフェイトさん達に不審がられてしまいました。
希と何かあったんじゃないかって。
その場はお姉ちゃんのフォローもあってうまくごまかせましたけど。
希が戻ってくると決心するまでは、このことは話せません。
今話したところで、希の気持ちが変わらなければすぐにまた記憶を消されてしまいます。
たぶん、次は私達も。
それだけは避けないといけません。
だから
例えはやてちゃんを騙すようなことになっているとしても、この事だけは、私たちで解決しないといけないのです。
だけど、なんにもいまだに進展しないままなのは辛いです。
せめて、捜査の方が進んでくれればそこから希の狙いが分かるかもしれないのに……
いまだに敵の正体も掴めません。
……はぁ、どうしたらいいんだろう?