【Sideはやて】
アハトの協力を得て、私は動き出した。
表向きは今までと同じようなスカリエッティおよびガジェットの対策、それにレリックの回収を。
そしてもう一方、裏では今回の黒幕たちと戦うための証拠集めを。
表の方は、希君の妨害がなくなったおかげで少しづつだけど動き出す事が出来た。
私が見込んだとおり、みんな最高の働きをしてくれている。
おかげで徐々に正当な評価を受け始める事が出来た。
一部には希君の回収スピードと比べられ、非難を受けることもあったけど。それも今までに比べれば微々たるものだった。
しかし、裏の方は難航した。
こちらは六課のみんなには頼めないし、カリムや三提督の力も借りられない。
これは私たちの問題だから。
私たち家族だけで事を進めるしかなかった。
さすがに、希君が危険視するだけあって、スカリエッティの後ろ盾はとんでもない大物だ。
陸のトップに最高評議会やなんて……どんだけやねん。
おかげで簡単に告発して終わりというわけにもいかなくなった。
そうするには、向こうの権力が強すぎた。
今の、希君が集めた証拠だけでも普通は大丈夫なのだが、今回はそれだけでは足りない。
もっと決定的な証拠がなければ。
いや、例え決定的な証拠があったところで時と場所を選ばなければ、簡単に真実なども見消されてしまうだろう。
だから私はチャンスを待った。
さらなる証拠を集めながら。
だけどそれがとてつもなく困難だった。
さすがに最高幹部たち名だけあって、守りは固い。簡単に証拠が集まるわけがなかった。
更に言えば、向こうに気付かれることなく情報を集めなくてはならないのだ。
これがどんなに難しいことか……
私も今までこういった内部調査をした事がないわけではなかったが、これはレベルが違った。
アハトの力を借りてスレスレでばれていない様なものだ。
その上希君が消えたことで私への内部調査の回数が増えてしまっている。
知っている者たちからしたら、死は偽装で希君と私が裏でつながっているという可能性も捨て切れていないようだった。
あるいは本当に死んだとしても、何か残している可能性は充分に高い、と。
そのせいでアハトを隠すのも一苦労だ。
それでも、向こうが強引な手段を使ってこなかったのは希君のおかげだった。
希君の失踪直後、メールが送られてきたのは私だけじゃなく他の知っている幹部にもだったらしい。
その内容は、契約違反行為、すなわち私に対しての秘密の露見および攻撃があればそれを察知し、報復するすべはあるというものだった。
それに対しては嬉しく思う反面、悔しくもある。
私はまだ、全然希君に認められてないってことが分かってしまったからだ。
だけど、それがなかったらまともに動けたかどうかわからないので何も言い返せない。
こうやって動いてみて、初めて実感できた。
希君が抱える闇の大きさを。
希君はいつも、たった一人でこんな途方もないものと戦っていたなんて……
それでも、諦めずに私たちは辛抱強く頑張った。
だってそれしか方法が残されていなかったから。
最後に残った希望に、しがみつくしかなかったのだ。
そして、9月12日。
ついにチャンスが訪れる。
【Sideオーリス】
私は父と共に公開意見陳述会に向かっていた。
今回の会はとても重要な意味を持っている。
ここでうまくことを進めることができれば、アインヘリアルの運用にまた一歩近づくことができるからだ。
父の夢。
地上の平和。
そのために必要な戦力。
それを手に入れることができる。
正直に言えば、私はそれを過ぎた力だと思う。
身の丈に合わない大きな力は身を滅ぼしともいうので心配も多々ある。
現に、そういった輩も数多く見てきた。
あの、悪魔と呼ばれた管理局員、一ノ瀬希を飼い慣らそうとして逆に身を滅ぼしたものなど何人もいる。
父が同じように、アインヘリアルという力に呑みこまれて潰される危険は充分にある。
しかし、それでも私は父に手を貸そうと思っている。
それが、平和を愛する父が選んだ道だから。
故に、陳述会開始前、控室で最後の打ち合わせをしている時まで私には他の事を考える余裕などなかった。
その、張り詰めた空気の中不意に部屋がノックされる。
「誰だ?」
父はすぐにそう答えたが声はいらいらとしていた。
まだ会が始まるには少し早いはずだったからだ。
すると、その者はこちらの了承を得る前に部屋の扉を開けた。
そこには
「失礼します」
あの、元犯罪者の女、八神はやてがいた。
「古代遺物管理部、機動六課の八神はやて二等陸佐です。レジアス・ゲイズ中将にお話があってきました」
八神二佐は悪びれた様子もなく言う。
今は会議の直前で、忙しいことなど承知のはずなのに、だ。
その様子に、ただでさえ彼女の事をよく思っていない父はいらいらとした様子で
「何だ貴様は! 非常識な奴め! 今は忙しいんだ!」
彼女に怒鳴り返す。
大抵の局員ならこの一喝に怯んでしまうものなのだが
「すみません。でも、早急に話したい事があるので」
と、言いながらひるまず部屋に入ってきて、扉まで勝手に閉めてしまった。
その事に父はさらに激昂する。
私も少し違和感を覚えた。
妙、だ。八神二佐は確かに元犯罪者だが、このような非常識な行動を取るタイプではなかったはずだが?
そう、私が不審がっていると八神二佐はすぐさま用件を切り出す。
単刀直入に
「スカリエッティと、最高評議会について」
私達の、闇の部分を。
何故、彼女がこの事を……?
一瞬にして、私の背中にいやな汗が流れた。
同じように父にも、わずかな動揺が走った様に見えた。
しかしそれもすぐに隠し
「スカリエッティと最高評議会だと? それが私と何の関係がある! 今は陸の将来を決める、大事な会議の直前だぞ! 用があるなら後にしろ!」
再度、出ていくように要求します。
動揺に付け込まれ、話を進められる隙も与えず。
……さすが、長年政治の世界で生きてきただけのことはある。
ここで、少しでも時間を稼げれば、対処はどうとでもできる。
幸い、陳述会まで後わずかだ。
そこまで引き延ばせば、三時間以上の猶予ができる。
その間に、彼女の掴んでいるものを調べることも……
しかし、彼女は引かなかった。
それどころか
「帰ってもええですけど……それやったら」
端末を起動し、自分の掴んでいる情報を、すべてこちらに公開しながら
「この情報、陳述会が始まると同時に大々的に公開させてもらいます」
黒い笑みを浮かべ、堂々と私たちに向けて脅しをかけてきた。
そこには、私達のスカリエッティとの交流、戦闘機人計画、人体実験の証拠、最高評議会との密談の様子がすべて書き出されていた。
これには、さすがの父も絶句していた。
無論、私も。
……バカな? あり得ない。記録には残していない。隠蔽工作もやり過ぎるくらいにやった。なのに、なのに……いったい、どうやってこんなものを……
そのように、私が呆けていると、いつの間にか彼女は父の真正面に立っていた。
「さぁ、時間もない事やし、お話しましょか?」
そしてにこやかに、私たちに告げる。
そんな彼女に忌々しげな目を向けながら彼女に聞く。
「……それで、貴様の要求はなんだ?」
……さすがに、どうしようもなかった。
この段階になるまで、彼女の行動に気付く事ができなかった時点で私たちの敗北は決定していた。
しかし、それでも、わずかな希望はある。
彼女は私たちに何かをやらせたいのだろう。
そうでなければ、わざわざ私たちの前に現れて証拠を見せつけるなんて真似をする意味がない。
「ありがとうございます。なに、簡単な事ですよ」
案の定、彼女は私たちに要求をしてくる。
しかし、それは予想外のものだった。
「最高評議会とスカリエッティ、奴らの持ってるもんを根こそぎもらいたい。その協力をして欲しいんです」
それは、完全に彼女には過ぎたる力だった。
「あぁ、根こそぎゆうても最高評議会とスカリエッティ自身は入らんですよ。あれは邪魔なだけや」
これには父もあっけに取られていました。
私には理解できなかった。
彼女は何がしたい? 何故そこまでの力を……何か裏でもあるのか?
私のその考えとは裏腹に、彼女は真剣な面持ちで言う。
「あいつ等が持ってる物、その中に私の欲しいもんが確実にあるはずやから」
彼女の眼は、本気だった。
私は父に目線を送る。
父もどうも今一つ決心がついていないようだった。
それほどとほうもない要求だ。
いくらこちらの弱みが握られているとはいえ、二つ返事で答えられない。
「まぁ、悩むんは当然やと思いますが……私は即断して欲しいんです」
そう言って八神二佐はもう一つ、別の資料を父に見せる。
それを父は覗きこみ、表情を一変させる。
それは……父の親友、騎士ゼスト・グランガイツの存命を証明するものだった。
「馬鹿な……何故、ゼストが……」
「おそらく、中将に対する首輪でしょうね。自分たちの意にそわない事が出来ないように」
震える手で資料を読みこみ、彼の現状を知った父は頭に手をやり、俯いてしまう。
相当ショックが大きいようだ。
そんな中、八神二佐の交渉は進んでいく。
「協力さえしていただければ、この事実は公表しません。騎士ゼストも、自由の身となります。どうか、協力していただけないでしょうか」
……どの道、私たちに選択肢は残ってなどいない。
父はしばらく考え込むように俯いたままだったが
「わかった」
決心を固め、父が八神二佐の要件に従おうとした時
「協力しよ……!?」
地上本部が、大きく揺れた。
【Sideはやて】
交渉はうまくいった。
後は、向こうの了承を得るだけだった。
なのに……
「っ!? なんだ!? おい! 管制室!」
突然の襲撃。
「グリフィス君! 状況報告!」
しかも、レジアス中将の様子を見る限り、予想外の。
「っく、だめか」
通信も遮断が遮断されている。
さらに、自動防御システムが発動され、各種障壁が閉まっていく。
そこに、濃い濃度のAMFが張られてしまった。
これは……
「閉じ込められた……」
……っく、なんで、なんでこんなタイミングで……もうチョイで届きそうやったのに……
入念な下準備を経て、やっと希君の所まで……
運命を呪いたい気分だった。
それでも、痛いくらいに拳を握りしめながら冷静さを保とうとする。
「一応確認しますけど、これは?」
「……しらん。こんな指示を出した覚えも、こんなことが起こるという報告も受けていない」
やっぱり……となると、このことは最高評議会の独断かもしくは
「スカリエッティの、暴走……」
おそらく、その線の方が可能性は高い。
最高評議会には今レジアス中将を切る理由も、ましてや公開陳述会を台無しにする意味もないはずや。
それに、さっきから中将がスカリエッティに連絡を取ろうとしているけど通信が遮断されてるみたいやし。
でも、だからってこんなタイミングで……あの腐れ狂人が……
思わず呪いの言葉を口にしそうになったが、ここはグッと堪えることにした。
そんな事よりも現状を何とかしなくては。
とりあえず、まずは状況確認だがそれには
「レジアス中将、オーリス副官。まずは、外の様子を確認して、ここから脱出したいと思います。すいませんが、ご同行お願いします」
「確認、ですか? しかし、外との通信はすべて遮断されていますよ。それに、この防壁をどうやって抜けるつもりで? リミッターをつけられた状態ではAMFの作用で魔力は使えないはずですが?」
「えぇ、ですから、このことは他言無用でお願いします」
そう言って私はポケットからカード型の端末を取り出し
「アハト」
[Ja]
アハトを起動させた。
それを見た二人が驚きの声を上げる
「デバイス?」
「何故持っている!? 会場内はデバイスの持ち込みを禁止しているはずだ」
「今のこの子は正確にはデバイスとちゃいますよ。魔力通ってませんし」
まぁ、ちょっと強引ないいわけやけど。ウソやないし。
「それより、アハト。索敵開始」
[Ja。索敵終了。会場外、ガジェットⅠ型300体、Ⅱ型200体、Ⅲ型50体を確認。内半数は会場外部の防壁に張り付き、AMFを展開中。更に戦闘機人と思われる個体の戦闘が観測できます。会場内、侵入者発見できず]
中はとりあえず安全、と。
だとすると、やっぱり向こうの目的はなのはちゃんやフェイトちゃん達主戦力を閉じ込めることか。
なら
「分かった。やっぱりここから出るよ。アハト、ここの扉開けられるか?」
「お、おい、何を言っている。地上本部の防御プログラムは鉄壁だ。そうやすやすと……いや、待て。アハトだと!?」
[Kein Problem]
アハトは答えるとすぐさま防御プログラムにハッキングをかけ始めた。
するとほどなくして
[Missionsvollendung]
私たちを閉じ込めていた防御壁が開いた。
その光景をレジアス中将は茫然した様子で眺めていたけど、逆にオーリス副官は納得がいった様に呟く。
「なるほど、このAIを使用してこちらの情報を探っていたというわけですか」
「えぇ、ほな、行きましょか? それと中将。なにに気付いたかは聞きませんけど、お互いのためにそれは言わんでおきましょう」
私はレジアス中将に釘をさしてから全員で部屋から脱出し、なのはちゃん達の元へと向かった。
道中、アハトは周囲の情報を回収し続けたけど、状況はかなりひどいものだった。
本部周囲の防御陣は通信障害による翻弄とガジェットの量に押されてほぼ全滅。
応援に駆け付けようとした周囲の陸士部隊も、空中で待機していたと思われる戦闘機人によって壊滅させられている。
完全に、してやられた。
レジアス中将もこの事態に顔を青くしている。
っく、このままじゃあ、希君の言った通りになってまう。
それを覆せるようになるために、今までずっと力をつけてきたはずなのに……
[マスターはやて]
その時、アハトがついになのはちゃん達の情報を手に入れた。
[高町一尉とテスタロッサ執務官を発見。新人チームと合流成功。デバイスを手に入れた模様です。マスターはやてと騎士シグナムのデバイスも同時に持ち込み、現在、シスターシャッハが騎士シグナムの待機している会議室へとどけているようです]
それはこの事態に陥ってから初めてと言える吉報だった。
よし! あの二人が外に出られるのなら、いくらか状況が改善できる。
「私達も会議室に急ぎましょう」
オーリス副官がいい、私たちは進路を変え、会議室に急いだ。
その間も、ガジェット達の攻撃は止まらない。
外はヴィータとツヴァイが頑張って、なんとか防げてるみたいやけど……
正直、敵がここまでの戦力を保有しているとは思っていなかった。
だから、希君は私の敵になってまで私がスカリエッティと対峙するのを止めようとしたんやな。
でも、だからこそ希君の安否が心配になる。
こんな強大な敵に、一人は向かって、幽閉されて……本当に、無事でいてくれているのだろうか、と。
そんな不安に押しつぶされそうになっていると、そこへ
「主はやて! 御無事で!」
リインが、こちらに走ってきた。
それを確認した私たちはすぐさま合流し、情報交換を始める。
「リイン、そっちの状況は?」
「はい、こちらは有志の協力により、ようやく防御シェルターを突破できたところです。現在、シスターシャッハが主とシグナムのデバイスの回収に、騎士カリムはガジェットや襲撃者達について現場に説明を」
「うん、分かった。なら、私達も急いでカリム達と合流を」
しようと、続けようとした瞬間、私の中に何かが流れ込んできた。
こ、れは、騎士システムの……シャマルと、ザフィーラが……そんな……
「シャマル……ザフィーラ……」
呆然と、私が立ち止まって呟くとリインが不思議そうに
「? どうしました、主はやて」
と、聞いてくる。
…………え?
「っ!! レジアス中将! オーリス副官! 離れて!」
そう言うや否や、私はリインに蹴りかかった。
「なっ!」
「なにを!?」
それを見たレジアス中将とオーリス副官が驚いたように叫んでいたが、私にはそれを気にする余裕はなかった。
リインが、私の蹴りを防御してしまったから。
「……主はやて、いきなり、何をするんです」
リインは、口ではそう言っていた者の極めて冷静だった。
いや、リインやない。
こいつは……
「あんた、誰や?」
リインの姿をした、偽物や。
私に言及された後も、偽物は特に動揺したそぶりを見せなかった。
「なにを言ってるんですか、主?」
そんな事を言ってとぼけてみせる。
だけど、私がもう騙されないと諦めるや否や
「……ふぅ、あれ? なんでばれちゃったんでしょう?」
仮面を外し、本性を現した。
偽物の変装は見る見る解けていき、その本当の姿を見せる。
戦闘機人。
私は偽物から一定の距離をとり、身構えた。
そんな私のかまえなど眼中にないように、偽物は一人ごちる。
「せっかく、走り出すと同時に後ろから貫いてやろうと思っていたのに……残念」
そして、手に爪状の武器を装備すると
「まぁ、でも、問題ないわ。非魔導師が二人に、AMF下の遠距離砲台型なんて」
真正面から、襲い掛かってくる。
「私の敵じゃない」
さすがに戦闘機人だけあって、攻撃の速度は速い。
だけど
「あら?」
私はそれを何とかかわす事が出来た。
いくらAMF下に居るとはいえ、何重にもかければ身体強化の魔法は使える。
かなり魔力を消費するけど。それを補うくらいの魔力、私にはある。
それでも、偽物の余裕は消えなかった。
「無理して逃げても苦しみが長引くだけですよ。デバイスがない上に、貴女近接は苦手でしょう?」
そう言いながら悠々と、しかし確実に急所を狙って爪を振ってきた。
確かに、私は広域戦闘の遠距離型や。
だけど……
「え?」
私は、攻撃が当たるギリギリまで引きつけると身を引き
「はぁ!」
その攻撃を避けると同時に相手の手を取り、力の流れに任せて偽物を投げ、思いっきり地面にたたきつけた。
「っがはぁ!」
その、予想外の反撃に偽物は受け身が取れず、地面に転がる。
その隙を逃さずに、私は爪のある方の手を捻り、偽物を押さえつける。
「っぐぅ、なぜ、こんなレベルの近接戦闘術を?」
「いつ、いかなる敵が現れても、どんな不利な状況になろうとも対処できるだけの術は得てきた」
この十年で。
強く、強くなるために辛く厳しい訓練にも耐えた。
弱点なんてないように。
どんな状況だろうと、生き残れるように。
だってそうじゃないと希君は納得してくれないから。
誰にも負けないくらい、強くないと。
だから、私は負けない。
いや、負けられない。
すると、偽物が私をキッと睨んでくる。
っまずい! 何かする気や!
とっさの判断で私が手を話し、飛びずさると同時に
「ピアッシングネイル!」
急激に伸びた爪が、私のいた場所を貫いた。
危なかった。一瞬気付くのが遅かったら、やられていた。
偽物は攻撃が外れたことに忌々しげな顔をしている。
だけど、すぐに立ち上がって
「……予想外に、面倒くさそうね。メインの脳みそは終わったし、いったん引こうかしら」
そう言って、私から距離をとる。
だけど、私は動かなかった。
「でも、諦めたわけじゃない。私は、どこにでも潜り込む事が出来る。背中には、気をつけることね」
そのまま偽物が飛び立とうとした時も。
だって。
「そうか、では、主が背中を気にする必要がなくなるよう、貴様はここで捕まえる」
私の頼もしい家族たちが来てくれたから。
「なっ!」
「紫電一閃!」
リインとユニゾンしたシグナムは、飛び込んでくると同時に偽物を斬り伏せてしまった。
偽物が倒れるのを確認すると、ユニゾンを解除し、急いで私に駆け寄る。
「主、ご無事で」
「申し訳ありません、主はやて。遅くなってしまって」
「ううん、大丈夫や。ありがとう、シグナム、リイン」
私は二人にお礼を言いながら、先の事を考えていた。
ここは、なんとか防げた。
だけど……
結果を見れば、こちらの惨敗だった。
地上の守りはほぼ全滅。
更には、機動六課までも、ほぼ全壊にされたしまった。
やっと、尻尾をつかんだと思ったのに……こんなわずかの差で……
悔しかった。それに、悲しかった。
やっぱり、私の力だけじゃどうしようもないのだろうか?
どう頑張っても、届かないんじゃないだろうか?
そんな、弱気な思いがどうしようもなく溢れ始めた時。
スカリエッティからの通信が会場に流れ始めた。
スカリエッティは大胆にも、リアルタイム通信をこちらに仕掛けてきた。
内容は、理解しがたい、狂気にまみれたもの。
しかし
「忌むべき敵を一方的に制圧できる技術、それは充分に証明できたとおもう」
それでも、スカリエッティの言う様にその技術力は充分に証明できてしまった。
地上本部の制圧、機動六課の壊滅。
この二つを同時に、一方的に成し遂げさせてしまったのだから。
……あれだけ、頑張っていたのに……やっぱり……
「予言は……覆らなかった」
カリムの、事実上の敗北宣言にも私はなにも反論できなかった。
そして、スカリエッティの演説が終わる。
「この素晴らしき力と技術が必要ならば、何時でも私に依頼をくれたまえ!」
その時、一通のメールが届いた。
「格別の条件でお譲りしよう!」
差出人名には、一ノ瀬希、と書いてある。
【Sideカリム】
最後の言葉と共に、スカリエッティの通信が途絶えた。
それでも、会場には言葉を発するものなど誰もいなかった。
今、起きた出来事が強烈過ぎて……
このまま放っておいたら、きっと管理局だけではなく次元世界全体が……
暗い考えが頭をよぎりだしたとき、不意にはやてが呟く。
「……まだ、終わってない。終わってなかった」
その表情を見て、私は驚いた。
はやての顔には、先ほどまでの絶望はなく、希望が映っていたから。
いったい、なんで? あんなものを見たというのに?
「終わらせない。機動六課も、私達も絶対に」
私が疑問に感じる中、はやてはもう、しっかりと顔を上げて前を見据えていた。