そんなことがあった数日後、はやてのいる図書館に向かっている途中でジュエルシードらしき宝石を見つけてしまった。
いや、普通に歩いていただけなんだがなぜこんなところに落ちているのだろう? 確か昨日まで何もなかったと思うが。
しかし放っておいてはやてが拾ってしまっては危険だ。どうにかしないと。
とりあえず、高町にでも届ければいいか?
いや、しかしなんて言って渡せばいいのだろう?
そんなことを考えながら宝石を拾い上げて眺めていると後ろから声を掛けられた。
「それを、渡してください」
振り返ると、金髪で漆黒の衣装とマント、鎌のような物を持った少女が切羽詰まった顔をして立っていた。
こいつは確か、高町と争っている魔法少女か。名前はフェイト・テスタロッサだったな。
今日は使い魔と一緒ではないのか。
というか普段からこんな恰好をしているのか? バリアジャケットとか言う防具らしいがかなり目立つしコスプレみたいで恥ずかしくはないのだろうか?
と、一瞬でかなりどうでもいいことまで考えてしまったが、それはおいといて。
「どうぞ」
「えっ?」
俺があっさりとジュエルシードを渡すと彼女は驚いたようだった。
俺が猫ババするとでも思っていたのか? 確かに願いをかなえるというのは魅力的だが暴走するのなら意味がないだろう。
まぁ、向こうは俺がここまで知っているということは知らないが。
「じゃあな」
どちらにせよどうでもいいことだ。
俺はそのまま彼女を置き去りにして図書館に向かおうとした。
が
「ま、待ってください!」
と、呼びとめられてしまった。
なんだ? まだ何か用があるのか?
そう思って振り返ると
「あ、あの、ありがとうございます」
と、言って彼女は深々と頭を下げてきた。
律儀な奴だ。
そこまでしなくても俺は拾ったものを渡しただけなのに。
むしろ厄介なものを引き取ってくれて助かったほどだ。
「あぁ、どういたしまして。それじゃ」
そう言って再び俺は歩きだそうとしたがその脚をまたしても止められてしまった。
いや、今度は呼びとめられたわけでなく自主的に止まったのだが。
なぜなら、彼女の方からぐぅ~とすごいお腹の音が聞こえてきたからだ。
「あっ!」
と、彼女は恥ずかしそうにお腹を押さえた。
が、そんなことに意味はない。
押さえたところで音が抑えられるわけでもないし、そもそも鳴ってしまった後だし。まぁ、反射的に押さえてしまったのか。
……確かこいつ戦闘とかバリバリにやっているはずなのに体調管理も碌にしなくて大丈夫なんだろうか? 腹が減っては戦もできぬというのに。
しかしどうするかな?
俺としては放っておいてもいいのだがそんなことをしたらはやてに怒られてしまいそうだし。
いや、言わなければいいのだろうがそれはそれではやてに隠し事をしているようでなんだか嫌だ。
……仕方ない。
「これもやる」
「え?」
そう言って俺は鞄からクッキーの袋を取り出し彼女に渡した。
はやてと一緒に食べようと思って作ってきたのだが俺の分くらいは分けてやってもいいだろう。
はやての分はさすがにやらないが。
「とりあえずはそれでも食べていろ。それ以外にも帰ったらちゃんと食事をとるように。顔色が悪いぞ。きちっと体調管理くらいしろ。じゃあな」
少々おせっかいだったかな?
まぁ、いいか。はやてもおせっかい上等だと言っていたことだ。
どうせ二度と会うことはないのだろうし。
そう言って俺は今度こそ立ち去ろうとした。
しかし
「あっ! 待って!」
……今度はなんだ。いい加減はやての所に行きたいんだが。
「何かお礼を……」
そう来るか。
しかし慣れないことはするものじゃないな。面倒臭くなってきた。
「そんなものはいらない」
「で、でも」
「どうしてもというのならまたこのくらいの時間にここで待っていれば俺は通りかかるから待ち伏せでもしてくれ。今は急いでいるんだ。じゃあな」
彼女はまだ何か言いたそうにしていたが俺は気にせずその場を去ってしまった。
うん、だってはやてに早く会いに行きたいから。
その日、後はいつもどおりにはやてと図書館で本を読んでおしゃべりをして遊んだ後、はやての家に行き夕飯を御馳走になってから帰宅した。
夕飯中、俺は今日の出来事としてコスプレ少女に会った事を話すことにした。
「はやて、そういえば今日変な奴にあったぞ」
「ん? 変な奴ってなんや? まさかなんか危ない目にでもあったんか?」
はやては心配そうに俺に聞いてきた。
いかん。話始めを間違えてしまったな。
心配してくれるのは嬉しいが心配をかけるのはよくないことだ。
「いや、そうじゃない。コスプレ少女に会った」
「コスプレ少女??」
はやてははてな顔で聞き返してきた。
うむ、しかしどうしてはやてはこうも一々可愛いんだろう?
「あぁ、何か黒いレオタードみたいな服にマントと鎌みたいなものを持っていた」
「ほぇー、マントに鎌か。変な子が居るんやね。希君みたいや」
……どういう意味だろう? 俺はコスプレなんかしてことはないんだが。
まぁ、いいか。話を続けよう。
「しかもなぜか腹ペコでお腹を鳴らしていた」
「腹ペココスプレ少女って……なんやそれ? 何やっとんねん」
はやては呆れたようにいう。
「あぁ、さすがの俺もスルーできなかった」
「まぁ、それ気になるわな」
「だから、とりあえず手持ちのクッキーをあげた」
「クッキーってあれか? 私が食べたんと同じ奴?」
「そうだ。本当は俺の分も作ってきていたんだがその分をその子にあげた」
俺がそういうとはやての顔が若干曇る。
「ふぅ~ん」
……あれ? 反応があまり良くないな。
どちらかと言えば褒めてもらえると思って話したんだが。
「なぁ、その子可愛かった?」
「は? 可愛かったかどうか?」
「美少女か? 美少女やったんか?」
なんかしきりに美少女かどうか聞いてくるな。
それがどうしたというのだろう?
「いや、まぁ世間一般的に言えば美少女の類に入ると思うぞ」
「……そっか」
そういうとはやては若干不機嫌そうに頬を膨らませてしまった。
なんだろう? また何かやってしまったのか、俺は? クッキーあげないほうがよかったのだろうか?
聞いてみよう。
「もしかしてクッキーあげないほうがよかったのか?」
だとしたら今からでも取り返しに行くのだが。
いや、もう食べられてしまっているだろうから新しいのを作った方がいいのか?
「いや、クッキーあげたんはええよ。ちゅーかクッキーはあげたほうがよかった」
「そうか。よかった」
ではなんで不機嫌なんだろうか?
分からない。能力使えば分かるんだろうが……
やはり直接聞こう。
俺は勇気を出してはやてに直接理由を聞くことにした。
「なら、何か拙いこと言ってしまったか?」
「いや、別に何も。希君は悪ないで。うん」
はやての言葉はいつもと違って歯切れが悪かった。しかし嘘をついているようには見えない。
何か言ってしまったわけではないのか。ではなんなのだろう?
「まぁ、気にせんといて。ちゃっちゃと食べようや。これ何か自信作やで」
「おぉ、そうか。確かに凄くおいしそうだ。ありがとう、はやて」
「たんと食べてや」
そうやって考えているうちのはやては早々と話題を変えてしまった。
その後もすぐにいつも通りの雰囲気に戻ってしまったので大したことはなかったのだと思うがあれはいったい何だったのだろう?
翌日、同じ時間に昨日と同じ場所を通るとやはりテスタロッサがいた。
手に何か持って。
「あっ、昨日の」
俺を見つけると彼女は嬉しそうに近寄ってきた。
しかし、相変わらずバリアジャケット姿なのはどうだろう?
俺が言うのもなんだがかなりずれているな。
「昨日はどうもありがとう。クッキー、すごくおいしかった。これ、お返し」
そう言ってぺこりと頭を下げてから彼女はなんだか高そうなステーキ肉を渡してきた。
……なぜに肉なんだ?。
というか、金は持っているってことだよな。
異世界から来たっていうから無一文で腹ペコだったのかもとも思ったのだが。
なら、ジュエルシード集めに集中しすぎて食事をとっていなかっただけか。
しかしその考えも間違っているということを彼女の次の発言を聞いて知った。
「これで大丈夫かな? これが一番ゼロがついていたらしいんだけど」
テスタロッサはそんな事を言いながら不安そうな顔をしている。
……わかった。
こいつは金の使い方とか常識とかをよく知らないのか。
だから買い物するのが怖くて、自分で飯を買っていないのか。
というか、能力使って確かめてみれば案の定これを買ってきたのは使い魔の方じゃないか。
しかもお礼の品だとかは言わずにただ単に高い物を買ってきてと言っただけって……
それは使い魔は犬なんだからこうなるよな。
うん、アホだ。
放っておいてもいいんだが……
俺はノートを取り出し、お金の使い方と買い物の仕方をメモして肉と引き換えに渡した。
「? これは?」
「お前の渡してくれた肉は俺のと比べて量も値段も大きすぎる。だからその分の差し引きお礼だ。それ見てしっかりと買い物をしろ。それと、ちゃんと食事はとるように。じゃあな」
「? ありがとう」
そのまま俺はまたその場を去ってしまった。
今度は引き留められることはなかったがなんだか不思議そうな顔をされてしまった。
そのまま図書館に肉を持っていくとはやてに怪訝な顔をされてしまった。
「なんやその高そうな肉? とゆうかなんで図書館に肉なんか持ってきたん」
「いや、これはだな……」
俺が説明をすると今度ははやても不機嫌にならなかった。
というか呆れていた。
当然だ。俺だって呆れてしまったのだし。
「……とりあえず持って帰って食べよか」
「……そうだな」
ただ、はやての作ってくれた肉料理がとてもおいしかったので良しとしよう。