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No.25220の一覧
[0] サトリのリリカルな日々 (リリカルなのは オリ主)【sts編変更、修正しました】[kaka](2011/08/16 01:01)
[1] 第一話[kaka](2011/08/16 00:25)
[2] 第二話[kaka](2011/08/16 00:26)
[3] 第三話[kaka](2011/08/16 00:27)
[4] 第四話[kaka](2011/08/16 00:28)
[5] 第五話 前編[kaka](2011/08/16 00:32)
[7] 第五話 後編[kaka](2011/08/16 00:34)
[8] 第六話[kaka](2011/08/16 00:35)
[9] 第七話[kaka](2011/08/16 00:36)
[10] 第八話[kaka](2011/08/16 00:37)
[11] 第九話 A’s[kaka](2011/08/16 00:39)
[12] 第十話[kaka](2011/08/16 00:40)
[13] 第十一話[kaka](2011/08/16 00:41)
[14] 第十二話[kaka](2011/08/16 00:41)
[15] 第十三話[kaka](2011/08/16 00:42)
[16] 第十四話[kaka](2011/08/16 00:44)
[17] 第十五話[kaka](2011/08/16 00:45)
[18] 第十六話[kaka](2011/08/16 00:46)
[19] 第十七話[kaka](2011/08/16 00:47)
[20] 第十八話[kaka](2011/08/16 00:48)
[21] 第十九話[kaka](2011/08/16 00:48)
[22] 第二十話[kaka](2011/08/16 00:49)
[23] 第二十一話 A’s終了[kaka](2011/08/16 00:49)
[24] 第二十二話 sts編[kaka](2011/08/16 01:02)
[34] 第二十三話[kaka](2011/08/25 01:16)
[35] 第二十四話[kaka](2011/09/14 02:37)
[36] 第二十五話[kaka](2011/09/14 02:35)
[37] 第二十六話[kaka](2011/09/25 22:56)
[38] 第二十七話[kaka](2011/10/13 02:00)
[39] 第二十八話[kaka](2011/11/12 02:02)
[40] 第二十九話[kaka](2012/09/09 22:02)
[41] 第三十話[kaka](2012/10/15 00:10)
[42] 第三十一話[kaka](2012/10/15 00:09)
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[25220] 第七話
Name: kaka◆0519be8b ID:ee322f37 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/16 00:36

「今日、隣の市でお祭りをやるらしいぜ」

 時は過ぎ、現在8月、夏休み真っ最中である。
 俺は夏休みの間、一日中八神家に居座り続けている。
 早朝、八神家に行きザフィーラとともにランニング、帰ってくるとそのまま朝食を一緒に食べ昼まで家事を手伝う。昼食後は一緒に遊び、夕飯を食べたのち談笑してから帰宅するという、半居候状態だ。
 両親はさみしがっているが夏休みの間だけという縛りを付けて頼みこんだため渋々了承してくれた。
 両親の教育方針は『希の望むがまま』だそうだ。
 わがままを許してくれて本当に感謝している。
 一生頭が上がらないな。
 一応、寂しさが限界を超えないように週一で一緒に夕食を食べることにしている。
 その時ははやてたちも一緒だ。両親ともにはやてたちを大歓迎してくれるので食事会は皆にも好評だ。
 そんなこんなで楽しい夏休みを満喫していると、ヴィータが冒頭のような情報をどこからか仕入れてきた。

「お祭り? なんや、そんなんやっとたんか」

 はやてはヴィータの情報に興味を示したようだ。

「あぁ、毎年この時期になるとやっているな。もっとも、屋台が出ているだけの小規模なものらしいが」

 俺はヴィータの情報に補足する。
 らしいと付けたのは行った事がないからだ。人込みは五月蠅いからな。俺の場合、すべての声を拾ってしまうし。

「なんや小規模なものなんか。もっとお神輿やら花火やら喧嘩やらの派手なもん想像してもうたわ」

 はやてはちょっぴり残念そうに呟いた。
 確かに祭りと言ったら花火やら神輿などを想像するのはわかるが……喧嘩はちょっと違うと思うぞ。きっとテレビやら漫画やらで得た知識なんだろうが。
 あぁ、でもちょっとずれたことを言うはやても可愛いので黙っておこう。
 はやてのつぶやきにヴィータは慌ててフォローを入れる。

「で、でもでも! 屋台は色んな種類があるってばあちゃん達言ってたぞ! かき氷とか! りんご飴とか! チョコバナナとか!!」

 それくらいは定番なんだから祭りなら当然あるだろう。
 そんなに必死になってアピールする必要はないと思うが。
 と、いうより

「なんや、行きたいんか? ヴィータ?」

 ヴィータが行きたがっているようだな。宣伝はそのためか。

「ち、違う! ただあたしはそういう情報があるってことを教えたかっただけだ!」

 必死になって否定しても墓穴を掘っているだけだぞ?
 能力使うまでもなく行きたがっているのはバレバレじゃないか。
 するとはやてはニヤニヤと笑ってヴィータをからかい出した。

「なんやちゃうかったか」

「ああそうだ! あたしとしてはそんな幼稚なところはどうかと思ったんだけど親切に教えてくれたばあちゃん達の気持ちを無駄にするのも悪いから一応はやてに伝えただけなんだからな。決して、すごく楽しみにしているわけじゃないぞ!」

「そうなんか。う~ん、せやったらどうしよっかな~。ヴィータがそこまで乗り気やないんやったら無理に行くんも可愛そうやしなぁ~」

 おぉ、ヴィータの反応が面白い。
 何か言いたそうに口をパクパクさせている。
 行きたいって言いたいけど、プライドが邪魔しているんだな。

「あ、あたしは別に……」

「いやいや、無理せんでええんやで。みんなで行ったら楽しそうやけど、無理強いはあからなぁ」

 はやてはわざと一瞬悲しそうな顔をしてヴィータに言った。
 しかし、ヴィータが困ってあうあう言っているのを見て、一瞬にやっと笑っているのを俺は見逃さなかった。
 あぁ、意地悪して遊んでいるはやても可愛いなぁ。

「……い、行きたい」

「ん、なんやヴィータ?」

 ヴィータの顔は恥ずかしさで真っ赤になっている。目に少し涙まで浮かんできた。
 ……はやて、聞こえていただろう。楽しそうだなぁ。

「あたしもみんなでお祭りに行きたい!!」

 ヴィータは恥ずかしさを紛らわそうと大声で叫んだ。
 するとはやては

「あぁ! かわええなぁ、ヴィータ! そない涙目にならんでも連れて行ったげるから安心しいや!!」

 と、言ってヴィータに抱きつき、頭をなでまくった。
 涙目にまでさせたのははやてだがそこは突っ込まないであげよう。
 しかし、いいなぁ、ヴィータ。俺にも抱きついてくれないかなぁ。

「ホントか? ホントに連れてってくれるのか?」

 ヴィータはヴィータではやての意地悪に気付いてないし。
 しかし、こうして見ると本当の姉妹みたいだな。随分と馴染んだものだ。

「もちろんや! みんなもそれでええやろ?」

「もちろんだ、はやてが行くなら俺はどこにでもついて行くぞ」

「そうですね。人込みは少し心配ですが主が行くと仰るなら、私も何処まででもついて行きますよ」

「楽しそうよねぇ~、私も大賛成よ」

「……決まりだな」

 当然、反対の声をあげる者などいなかった。
 人込みは好きではないがはやてと一緒ならそんなもの苦にならないだろうからな。
 というより俺も楽しみだ。

「そうと決まればさっそく準備や! まずは浴衣を用意せなあかんな。と、その前に……」

 そう言ってはやてはメジャーを用意しはじめた。

「シグナム達のサイズを測らなあかんなぁ」

 実に楽しそうだ。はやて全開だな。

「あ、主!? サイズなら前に一度測ったではないですか!?」

「そうよ! はやてちゃん、それに今測らなくても店員の人が測ってくれると思うわ!」

 シグナムとシャマルは慌てて拒否をしようとする。
 前に測定と言って散々いじくりまわされたからな。
 主に胸を。トラウマなのだろう。

「いやいや、前のはうっかり忘れてもうたんよ。それに、店員さんのお手を煩わせるわけにもいかへんもん」

「し、しかし」

 シグナムは俺に助けを求めようとチラチラとこちらに目で合図をしてきた。
 仕方がないな。

「はやて」

「ん? なんや、希君?」

 俺の呼びかけではやての意識がこっちに向く。シグナムは助かったという表情をしている。
 しかし

「俺、自宅に自分の浴衣あるからザフィーラと一緒に取ってくる。準備ができたら連絡をくれ」

「ん、わかった。ほんなら、ちょっと時間がかかってまうかもしれへんけど、堪忍してな」

「了解。行くぞ、ザフィーラ」

「の、希! 見捨てるのか!!」

 何を言っているんだシグナムは?
 俺がはやての邪魔をするわけないじゃないか。

「……強く生きろよ」

「希ーーーー!!!」

 まったく、シグナムは往生際が悪いな。
 少しはシャマルを見習ったらどうだ。もう、十字を切って諦めているじゃないか。
 俺とザフィーラはそのままリビングを出て玄関へと向かった。

「大丈夫やって。優しくするから」

「いや、主、ちょ、ちょっと待ってくだ……あぁん!!」

 玄関から出る直前、シグナムのやけに艶がかかった叫び声が聞こえたが気にしないでおこう。






 俺がザフィーラとともに自宅に帰り、浴衣が必要だと伝えると、母さんが嬉々して二人分の浴衣を持ってきてくれた。
 ザフィーラの浴衣は父さんのものだ。
 俺は着付けができるので自分で着たが、ザフィーラはできないので母さんにやってもらった。
 ザフィーラは俺に着付けてもらえると思っていたので、母さんがやると言った時焦って俺に助けを求めたが俺は無視して自分の着付けを行った。
 いや、だって時間短縮になるし。
 少し本を読んで時間を潰した後、俺たちは家を出た。
 するとザフィーラは先ほど助けなかったことに文句を言ってきた。

「……なぜ助けてくれない」

「時間短縮のためだ」

「本を読んで時間を潰していたではないか」

「気にするな。母さんは気にしていないのだから」

「私が気にしているのだ」

 そう文句を言うザフィーラは不機嫌そうな顔をしている。
 こいつも変わったものだ。当初のこいつなら何も言わなかっただろうに。

「まぁ、それはどうでもいいからほっとくとして、はやてたちの準備は終わったのか?」

「どうでもいいとは……先ほど、シグナムから念話が入った。もう準備はいいらしい」

「それはよかった」

 はやてもかなりノッていたからな。下手したらまだお楽しみ中かと思っていたが。

「シグナムが恨み事を言っていたぞ。よくも見捨ておって、と」

「仕方がない、はやてが楽しそうにしているのを俺が止めるわけがないだろう。それに見捨てたのは俺だけではないだろう」

「それはそうだが……お前は私も見捨てたではないいか」

 ザフィーラは非難がましい目で俺を睨んできた。
 まったく、まだ根に持っているのか。
 俺が涼しい顔でそれを受け流しているとザフィーラは溜息をつき、

「……少しは主に向ける優しさを我らにも向けて欲しい物だ」

 と、ぼそりと呟いた。
 ……本当に、変われば変わるもんだ。
 ザフィーラは自身の失言に気付いて急いで弁解してきた。

「いや、これは……なんでもない。忘れてくれ」

「ふふっ、あぁ、忘れよう。皆に言いふらしたりもしない。俺は優しいからな」

 俺がニヤニヤと笑っているとザフィーラは憮然とした顔をして歩くスピードを速めていった。

「急ぐぞ。主たちを待たせては悪いからな」

 照れているのだろう。
 顔には出ていないし、能力を使ったわけでもないがそれくらいはわかる。

「あぁ、そうだな」

 俺は特に何も突っ込まずにザフィーラに合わせて歩調を速めた。
 気付いていないのか? 言われなくても俺はお前ら騎士たちを大切に思えるようになっているんだぞ。






「……俺は今まではやては天使だと思っていた。だがそれは勘違いだったらしい。はやては天女だったんだな」

 八神家の玄関を開けると、そこには天女がいた。

「はいはい、おおきに。でも恥ずかしいこと言ったらあかんて」

「まぁ、言うと思ったけどな」

「はやてちゃん、とても似合っているものね」

 はやてには流されてしまったがそんなことはどうでもいいと思えるくらいはやての浴衣姿は似合っていた。
 白地に赤い金魚が描かれた浴衣はまさにはやてのために存在したのではないかと言うほどだ。
 あぁ、これが見れただけでも、祭りに出かけることにしてよかった。

「ボケっとしていないで早く行くぞ。もう始まっている時間だ」

 俺が感慨に耽っている間に皆はもう玄関を出て歩きはじめていた。
 ……はやてよ、俺はスルーなのか? 悲しくなるじゃないか。
 俺は慌てて皆の後を追いかけた。




 俺たちが祭りの場所に着くと、もう辺りは人でいっぱいになっていた。

「うわ~、混んどるな~」

 そういうはやての眼には一抹の不安が感じられた。
 人込みでの車椅子は危ないし、周りに迷惑がかかるんじゃないかと思っているのだろう。

「シャマル、代わろう」

「ええ、お願いね」

 そう言って俺ははやての車椅子を押す役を買って出た。
 この中では俺が一番操作がうまい。
 するとはやては嬉しそうに

「おおきに」

 と、お礼を言ってくれた。その目には不安の色は全く伺えなかった。

「どういたしまして。じゃあ、早く行くとするか。」

「せやね。ほな、しゅっぱーつ」

 俺たちははやての号令とともに祭りの喧騒の中に足を踏み入れた。




「はやてはやて! かき氷だって! あっちには綿あめ! りんご飴も!」

「はいはい、そない急がんでも屋台は逃げへんよ」

 ヴィータは気にいった屋台を見つけるたびにテンションを上げていった。
 はやてが手を繋いでいなかったらきっと走っていただろう。

「欲しいんだったら買ってくればいいじゃないか」

「最初の一週は全部見て何を買うのか決めるんだよ! そうじゃないとお小遣いが足りなくなるだろう?」

 ヴィータは首から掛けた財布を握り締めながら言った。
 ヴィータは今回の祭りに来るにあたってはやてから三千円ほどのお小遣いを預かっている。
 はやてからはこのお金は自由に使っていいが、それ以上はあげないと言われているのだ。でないと、無制限に使ってしまい、それは教育上よくないと考えたらしい。
 ちなみに俺の軍資金もヴィータと同じだ。
 母さんからはもっと渡されそうになったがこれでいいと言ったのだ。三千円もあれば十分遊ぶことができるからな。
 しかし、この誘惑の多い中でヴィータにはキツイ値段設定のようだ。

「かき氷は絶対食べるだろ、それにチョコバナナも。クレープもおいしそうだったし焼きとうもろこしも捨てがたい。りんご飴は欠かせないだろうしできればカルメ焼きも食べたい。あぁ、でもそれだと輪投げとか射的とかの遊びが……」

 と、うんうん唸っている。相当悩んでいるようだ。
 仕方ない、助けてやるか。
 俺はヴィータにある提案をした。

「よかったら、食べ物系は俺と分け合わないか? 一個の量は減るがそうすればいろいろな種類を食べられるぞ」

「えっ! いいのか!?」

 ヴィータは驚いて俺に聞き返してきた。
 その目は爛々と輝いている。
 ここで嘘と言ったらズドンと落ち込んだヴィータを見れて面白いかもしれない。
 ……いや、はやてでもない限りアイゼンで叩き潰されてしまうな。やめておこう。

「あぁ、いいぞ。はやても別にこれなら問題ないだろ?」

「うん、ええよ。それも使い方の一つやからね」

「ありがとう! 希!!」

 ヴィータは飛び上がらんばかりに喜んだ。
 そんな光景を俺たちは微笑ましげに眺めていたがヴィータは気付かなかったようだ。
 そんな目で見ていれば普段ならすぐに気付き、照れて怒りだすのだがな。気付かないほど嬉しいらしい。

「なら一週も待つ必要ねー! 希は何が食べたい!?」

 どうやら、感謝の気持ちを込めて一品目は俺に選ばしてくれるらしい。
 そうだな、俺が欲しい物か。

「はやては何がいい?」

「せやね~、やっぱりたこ焼きかな~」

「ならたこ焼きだな」

 俺の欲しい物=はやてにあげたい物だからな。

「よっしゃ! なら初めはたこ焼きだ! あっちに屋台があるぞ!!」

「おいしそうね~、私も買おうかしら?」

「そうだな、いいにおいがする」

 どうやら、ほかの騎士たちも買うことにしたらしい。

「では私とヴィータで買ってきますので主たちはここで待っていてください」

「うん、わかった。ほな三パックほど買うてきてや」

 そう言うとはやてはシグナムに自分の分のお金を渡した。
 俺達もシグナムにお金を渡すと二人は屋台のほうに歩いて行った。
 いや、ヴィータは走ってしまったが。
 しかし、はやてには俺があげるつもりだったから買わなくてもよかったのに。
 やっぱり理由なく奢られるのは嫌なんだろう。ちょっと残念だ。
 それは皮切りにヴィータはいろいろな物を買い始めた。
 先ほど呟いていた通り、かき氷にチョコバナナ、クレープ、焼きとうもろこし、りんご飴、カルメ焼きさらにはわたあめにかち割りといった具合だ。
 ヴィータは甘党なので必然的に甘い物ばかりになっていった。
 反対に他の騎士たちは途中でビールを買ったのでいか焼きや焼きそば、牛串などのおつまみ系を食べていた。
 はやては半々といった感じだ。
 俺も少しおつまみ系が食べたくなって来てチラチラ見ていたらはやてに気付かれて少し分けてもらった。
 はやてはなんて優しいんだ。ますます好きになりそうだ。
 そう素直に伝えたらまた恥ずかしいセリフ禁止令に引っかかってしまった。
 うむ、なぜ学習できないんだろう?




「射的だって! やってこうぜ!!」

 そろそろお腹も膨れてきた時、ヴィータが射的の屋台を見つけ、俺たちを誘ってきた。

「あぁ、いいぞ。皆はどうする?」

「私はええわ、見てるだけで」

「私も射撃は遠慮しとこう」

「私も遠慮しとくわ」

「今は酒も少々とは言え入っているからな。遠慮しよう」

 俺以外は全員断ったがみんな一緒に射的場まで来てくれた。
 俺とヴィータがやるのを見たいらしい。
 はやてが見るのなら頑張らねば。

「おっちゃん! 銃くれ銃!」

「はいよ、お嬢ちゃん! 一回五発で二百円ね!」

 露店のおっちゃんに俺とヴィータはお金を渡し、五発づつ弾を受け取った。
 ヴィータはすでにターゲットを決めているようだ。
 さて、俺は何を狙うかな。

「はやて、何か取って欲しい物はあるか?」

「ん~、大丈夫やよ。自分で欲しいんを狙ってええよ」

 うむ、表情を見る限りどうやら本当に特に欲しい物はないようだ。
 ならどうするかな。簡単に落ちそうなものでも取るか。
 そう思っていると隣でヴィータが叫び出した。

「おいおっちゃん! いま当たったよな!」

「嬢ちゃん、悪いけど当たっても倒れなきゃ商品はあげられねぇんだ」

「なんでだよ! やっと当たったと思ったのに!!」

 ヴィータが絶望して表情でおっちゃんに喰いついていた。
 ヴィータのターゲットは重量的にこの銃で倒すのはかなり厳しい。
 何発か連続で当てれば取れるかもしれないがヴィータの弾はすでにあと一発となっていたので取るのは絶望的だろう。
 よし、なら……

「諦めるな、ヴィータ。切り込み隊長が弱気になってどうする。俺が活路を開いてやるからよく狙いながら待っていろ」

「希……わかった」

 こう言って俺はターゲットをよく観察しはじめた。
 重心を見極め、どこに当てれば効率よく倒せるかを計算する。
 計算が終わると俺はすべての弾を左手に持ち、右手だけで狙いを定めた。
 そして集中力を高め、一息吸うと一発目の引き金を引く。
 間髪いれずに左手に用意しておいた弾を込め、引き金を引いた。
 連射だ。
 俺はもらった五発の弾を一気に連射した。
 連射された五発は寸分違わず、狙い定めた重心の穴に吸い込まれていく。
 ターゲットが大きく揺れる。

「今だ!」

「おう!」

 俺の合図によって放たれたヴィータのとどめの一発によってターゲットはゆっくりと倒れていく。
 おっちゃんは茫然とした表情でその様子を眺めていた。客寄せ用に置いただけで、まさか倒れるとは思っていなかったようだ。

「これで文句はないだろう?」

「あ、あぁ、もってきな」

 見事に倒れてしまったぬいぐるみを見て、おっちゃんは悔しそうにヴィータに賞品を渡した。
 ヴィータはぬいぐるみを受け取ると恐る恐る俺に聞いてきた。

「いいのか? あたしが貰って」

 どうやら俺のおかげで取れたのに貰ってしまうのを躊躇っているらしい。

「何を言っている? 倒したのはお前じゃないか。俺は手助けしただけだぞ。だから、それはお前のものだ」

 というか俺が持っていてもしょうがないだろう。

「……ありがとう。大切にするからな」

 するとヴィータはとても嬉しそうにゲットしたのろいうさぎのぬいぐるみを抱きしめた。
 そこまで喜んでくれたのなら、こちらも協力した甲斐があったというものだ。




「そろそろ財布が寂しくなってきたな」

「なんや、もうそんなにつこうたんか?」

 なんだかんだで結構まわったからな。
 食べ物系はヴィータと割り勘しているとはいえ、いろいろと買い過ぎた。
 騎士たちももう、お小遣いは少なくなっているようだ。

「楽しくてついな。それに時間も結構たっているみたいだし」

「おお! もうこないな時間か! 楽しい時間は過ぎるんが早いゆうけどほんまなんやね~」

 はやても時計を見て驚いていた。
 気付けば、三時間近く遊んでいたのだ。本当にあっという間に感じたが。

「ほなそろそろ帰らんと」

 そうは言うものの、はやては名残惜しそうだった。
 俺ももう少し遊んで行きたい。
 するとシグナムがこんな提案をしてきた。

「主、その前に神社で御参りをしていきませんか? 元々その神社の神様を崇めるための祭りだったようですし」

 きっと彼女も名残惜しいのだろう。
 いや、彼女だけでなく他の騎士たちもか。

「うん、ほな最後にみんなで御参りしていこうや」

 俺たちに中でこの提案に反対するものなど、誰もいなかった。




 俺たちは屋台の並びの一番奥にある神社を目指して歩き始めた。
 途中、屋台に寄ったりしながらのんびりと歩いていた。
 すると、ある屋台の前で揉めている客がいるのを見つけてしまった。

「おいオヤジ!! いいからさっさと賞金よこせよ!!」

「で、ですからお客さまの方法では賞金はあげられないんです」

「だ・か・ら! ちゃんと渡された道具使ったじゃねーか!!」

「おいおい、あんま舐めたことばっか言ってんじゃねーぞ」

 どうやら、いちゃもんをつけて賞金を奪おうとしているらしい。
 ちなみに屋台はカメ救い。
 割り箸に最中をくっつけた物を使ってカメが取れたらそのままカメを貰えるか、カメを返して千円もらえるかどっちか選べるというものだ。
 これがなかなか難しく、亀を取れる人などめったにいないのだがいちゃもんつけている三人組の手には十匹近いカメが入っていた。
 明らかに何かズルをしたのだろう。
 しかし、俺には関係のないことだな。
 このまま知らんぷりして進むべきか、万が一にも巻き込まれないよう迂回していくか。
 そんなことを考えていると

「ですから……」

「おい、俺らがいつまでもおとなしくしてると思うなよ。黙って金寄越せば良いんだよ」

 と言って、三人組の一人が屋台のおやじの胸倉を掴みだした。
 いや、そんなことしたら強盗と同じだろう。
 いくら祭りで浮かれているからといってやり過ぎだ。
 これは近づくだけでどんなとばっちりが来るかわかったものじゃない。周りの人もあそこに近づかない様にしているし。
 面倒だが迂回するか。
 そう決めた俺が方向転換するためはやてに声をかけようとした瞬間

「こらー! あんたら何やっとんねん!!」

 と、はやてが叫んだ。
 どう見てもあの三人組に向かって言っている。
 しまった、はやての性格ならこのまま見逃すなんてできるわけがないということを忘れていた。
 厄介なことになったな。
 三人組は俺たちに気付くと威嚇しながら近づいてきた。

「なんだガキ! かんけーねーだろ!! すっ込んでろ!!!」

「関係なんかなくてもあんたらが迷惑なんはわかるわ! 祭りでテンション上がってるからゆうても人様に迷惑かけんなや!」

「なんだと!!」

 はぁ、これは収拾付けるのは大変だな。
 まぁ、はやてが首を突っ込んだことだから全力でフォローするつもりだが。
 誰かが警察でも呼んでくれるまでどうやって時間を稼ごうか。
 俺はとりあえずはやてに危険が及ばないようにはやての前に出た。
 騎士たちもはやてを囲むように前に出る。
 すると、ザフィーラを見た三人組が一瞬たじろいだ。
 見た目一番強そうだからな。

「ええか、ルールを守って楽しく遊ぶ。それくらい兄ちゃん達もいい大人なんやからわかるやろ」

 はやての言っていることは正論だ。
 しかしこの場合、正論は火に油を注ぐようなものだ。
 現に三人組の怒りの矛先は完全にはやてに向かっている。
 まぁ、手を出さないだけましか。
 人も大勢見ているしな。
 そう思って俺は楽観していたのだが三人組の一人がとんでもないことを言い出した。

「ガキが調子こいてんじゃねー!! テメーの方が迷惑なんだよ!! 身〇ょうが!!」

 瞬間、辺りの空気が変わる。
 騎士たちの顔付きも変わっていた。
 全員が男に鋭い殺気を向けている。
 皆、はやてを侮辱されたことにキレている。
 しかし、俺は駄目だった。
 男がはやてを侮辱した瞬間、俺は飛びかかっていた。
 咄嗟のことで反応できなかった男はそのまま俺に馬乗りにされてしまった。
 こいつ今何て言った? こいつ今何て言った!?

「くそがき! 何しやが……る」

 俺の顔を見た瞬間、男が固まった。俺の殺気を諸に受けとめてしまったからだ。
 俺はこれ以上ないほどに怒り狂っていた。

「殺す」

 そう小さくつぶやいたのち、俺は男の頭をアイアンクロ―のように掴んだ。
 そのまま万力のように力を込める。
 後は応用能力を使えばこいつは簡単に壊すことができる。
 はやてを侮辱したんだ。楽に死ねると思うなよ?
 俺が能力を使おうと力を込めると

「あかん! 駄目や! 希君!!」

 はやてが叫んで俺を止めた。
 はやてに能力のことを話したことはないが、きっとおれの雰囲気から何かすると分かってしまったのだろう。
 俺ははやてに従って、ゆっくりと男の頭から手を離し立ち上がった。

「て、てめぇ」

 すると残りの二人が俺に殴りかかろうとしたが

「やめろ。これ以上手を出そうとすればただじゃおかない」

 といって割って入ってきたシグナムとザフィーラに止められていた。
 二人はその迫力にたじろいでいる。
 ギャラリーもそんな男たちに非難がましい目を向けていた。

「っけ! やってらんねー、おい! いくぞ!」

 いたたまれなくなったのか、そう言ってこの場を立ち去ってしまった。

「……希君」

 三人組がいなくなった後、はやては心配そうに俺に声をかけてきた。

「……すまん、怖がらせてしまって」

 俺は自分の失敗に気づいた。
 ……やってしまった。我を忘れるとは。もうちょっとやり方というものもあっただろうに。はやてに嫌われてしまったかもしれない。
 そう思って落ち込んでいるとはやてがそっと手を握ってきてくれた。

「怖かったわけやない。でも、急に心配になった。希君がどっか遠くに行ってしまいそうで」

 はやてはうるんだ瞳で俺を見つめていた。
 きっとおれの異常性に少しだけ気付いてしまったのだろう。

「何処にもいかんでや、ずっと傍におって」

 それでもはやては俺に傍にいて欲しいと思ってくれた。

「……いいのか?」

 俺が思わず聞き返すとはやては笑顔で答えてくれる。

「当たり前や。私たちはもう、家族なんやから」

 その言葉を聞いた瞬間、俺の胸は嬉しさでいっぱいになった。
 騎士たちを見ると、皆頷いてくれている。
 不安だった。異常な俺を彼女たちが受け入れてくれるのか。そう悩んだこともあった。
 しかし彼女たちは受け入れてくれるという。
 ならば、いつまでも恐れていないで、いつかきっと全てを話そう。

「ありがとう、みんな」

 その時、俺は初めて家族の一員になれると思うから。




 俺たちはその後、カメ救いのおやじにお礼を言われ、一回だけただでやらせてもらえることとなった。
 そのとき俺はカメを三匹ほど取ってしまったのだがおやじに返してもお金は貰わなかった。
 いや、だっておやじ顔引き攣っていたし。
 ヴィータは貰えばよかったのにとか言っていたがさすがにかわいそうだろう。
 俺の心は今寛大なのだ。
 神社の境内に着くと、俺たちは皆五円玉を持ってお参りをした。
 なぜ五円なのかというと『それがお参りの正式な作法や』と、はやてが言い出したからだ。
 ちなみに、お参りの仕方は滅茶苦茶だったが。
 それはどうでもいいだろう。
 神様なんているかどうかわからないし、こんなもの本人の気持ち次第だ。
 はやては皆に何をお願いしたのか聞いていたのだが誰も教えてはくれなかった。
 そういう俺も教えてはいない。
 言うと効力がなくなってしまう気がしたからだ。
 はやてもしつこくは聞いてこなかったし。それに、何となく、皆が何を願ったのか分かった気がしたのだろう。
 俺も、能力を使ったわけではないが何となくわかる。
 きっと、皆の願いは同じなのだから。






「ほな、今度こそ家に帰らなな。屋台も閉め始めた見たいやし」

 はやての言う通り、屋台を閉め始めているところが結構目立ってきた。
 思えばずいぶん長いこといたものだ。
 こんなに長いこと自ら人込みの中にいたのは初めてだな。さすがに少し疲れた。

「そうだな、帰るとするか」

 それでも少し名残惜しいけどな。するとヴィータがこんな提案をしてきた。

「帰ったら花火しようぜ! さっきくじでゲットした奴!」

「おお! ええやん! やろうやろう!」

 はやても乗り気なようだ。

「希もやるだろ!」

「もちろんだ」

 俺も大乗り気だ。
 ヴィータナイス! と、内心拍手を送っている。

「でも希君お家の方は大丈夫なの?」

「そうだな、ご両親が心配するのではないか?」

 シャマルとザフィーラが心配そうに聞いてきた。
 うちの両親の溺愛ぶりを知っているからな。そういう心配も出てくるだろう。

「あぁ、連絡すれば平気だろう。両親は俺を溺愛しているが信頼もしてくれているから行動に制限なんてめったに付けない」

 すると二人ともホッとした表情になる。一緒に花火ができるのを喜んでくれているようだ。
 しかし、そんな顔されたら少しからかいたくなるな。

「だが……もし二人が俺に来て欲しくないと言うならこのまま帰ることにしよう。悲しいが嫌がっているのに無理やりというのはできないからな」

 俺が悲しそうな顔で言うとはやても俺の意図に気付いてノってくれた。

「ひどいなぁ~、二人がそんな冷酷な人とは知らんかったわ。せっかくみんなで楽しく遊ぼうとおもてたのに」

 そう言ってわざわざハンカチを取り出して目を覆い始めた。
 芸が細かいな。
 二人は俺たちに演技に騙されてすごい慌て始めた。

「そ、そんなこと言ってないわ! 私だって希君と一緒に遊びたいもの!!」

「そうだ! そんなふうに思ってなどいない!!」

 おぉ、思ってより必死に弁解しているな。
 そんなに迫真の演技をしたつもりもなかったのだが。
 特にはやてのなんてすぐわかるだろうに。
 ヴィータとシグナムは気付いているようだし。

「よし、なら早く行くとするか」

「せやね。ヴィータ、その花火何が入ってるん?」

 俺とはやてが速攻で態度を変え、歩き出すと二人はからかわれたことに気付いたようだ。
 シャマルは「ひどいじゃなーい!」と言ってぷんぷん怒っているし、ザフィーラは不機嫌そうに憮然とした顔をしている。
 照れているだけなんだろうがな。
 俺たちは二人に謝って、やっと家に行くことにしたんだが……そのまえに

「はやて、ちょっとトイレに行ってくる」

「ん? ならここで待っとるわ」

「いや、すぐ追いつくから歩いていてくれていいぞ。人込みはつらいだろう。家までは一本道だしな」

「わかった、ほな、先に歩いとるから早よう戻ってきてね」

 こうして、俺ははやてたちと別れ、一人神社まで戻って行った。
 さて、こっちだな。
 俺が神社横の森の中に入ろうとすると

「そっちにはトイレはないぞ。何処へ行くつもりだ?」

 シグナムに止められてしまった。
 ……ついてきたのか。油断した。

「トイレが見当たらないから森でしようと思ってな」

「嘘をつくな」

 俺の嘘をあっさりと見破ったシグナムは真剣な表情で俺を睨んだ。
 ……これは誤魔化すのは無理かな。

「……さっきの不良どもがつけてきているようだから排除しようと思った」

「やはりか」

 シグナムは溜息をついて確認するように俺に聞いてきた。

「主に止められていただろう?」

 確かに、止められている。
 しかし

「俺にとってはやての命令は優先順位が高いだけで絶対じゃない。はやてのためになると思ったら、止められようともやる時はやる」

 そうだ、俺ははやての騎士ではない。だから、命令に拘束力なんてものはないんだ。
 シグナムは俺の意思を確認するともう一度溜息をついた。

「わかった、もう止めまい。だが、私も一緒にだ」

 この発言には俺も少し驚いた。
 てっきり何としてでも止めると言いだすかと思っていた。

「いいのか? はやてに止められているだろう」

「主に直接止められたのはお前だけだ。私自身は戦闘禁止と命じられていない」

 しれっとそんなことまで言い出す始末だ。
 ふぅ、まったく。

「はやてに怒られても知らんぞ」

「その時は助け船を出してくれるとありがたいな。それに……今さらだろう」

「……そうだな、そのときは一緒に怒られるよ」

 俺たちが話しこんでいる間に、先ほどの三人組が仲間を引き連れて俺たちを囲んできた。
 大体十人くらい入るだろう。
 小学生と女性相手にこの人数とは情けない奴らだ。
 しかし奴らはそんなこと微塵も感じていないようだった。
 あるのは、圧倒的な戦力差から来る優越感だけだ。
 胸糞悪い。

「よぉクソがき、さっきはよくもやってくれたな。ちょっとばかしおいたが過ぎたんじゃねーか?」

「…………」

「お兄さんたちちょっと傷ついちゃってなぁ。少し遊んで行ってくれないか?」

「…………」

「ハッ! ビビって声も出ないってか。今のうちに謝っておいたらどうだ? 少しは手心加える気になるかもしれないぞ?」

「そうそう、もしくはそのねぇちゃんが傷ついた俺らを慰めてくれるっていうんならガキは助けてやらないこともないぞ?」

「ハハッ! そいつはいい!」

 男達は下品にバカ笑いしている。ゲスが

「……大切な家族をお前ら屑に売るわけがないだろう」

 俺は怒りを押し殺した声で言った。
 そんな様子を男達は震えているのだと勘違いをしていた。

「ブハハハハッ!! ビビって震えてる癖に良く言うぜ」

「減らず口叩きやがって……その口閉じさせてやんよ!!」

 言うなり、男の一人が俺に殴りかかった。
 そいつはニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべている。
 かわされるなんて、ましてや反撃されるなんて思っていないのだろう。
 しかし、その油断はこいつに大きな代償をはらわせた。
 俺はこいつのパンチをかわし、カウンターで躊躇なくそいつの喉を突いた。
 想定外の反撃に男は一瞬何が起こったのか分からないようだったがすぐに苦しそうに喉を押さえると地面に膝をついた。
 その顔面にひざ蹴りを入れると男は防御などできるはずもなく地面に倒れ伏せてしまった。
 それでも意識は刈り取っていないので苦しそうに転がっている。

「っ!! てめぇ!!」

 それを見た奴らの空気が変わり、全員一気に襲い掛かってきた。
 しかしそいつらは俺にたどりつくことなく地面に倒れ伏す羽目になった。
 シグナムが俺と奴らの間に入り、一瞬にして全員手刀で気絶させてしまったからだ。

「これで、終わったな」

 シグナムは終わった気になって緊張を解いていたが俺は違った。
 リーダー格の男に近づいてそいつをたたき起こす。

「希、何を?」

 シグナムは不思議そうにしていたが次の俺の行動を見た瞬間に顔色を変えた。
 俺はリーダー格の男が目を覚ました瞬間に奴の手を踏みつぶしたのだ。

「ぎゃーーー!!」

 男の悲鳴が辺りに響く。
 俺はそれも気に掛けずにもう一方の手も踏み抜こうとした。

「やめろ! 希!!」

 そんな俺をシグナムは慌てて止め始めた。
 なぜ止める?

「なぜだ? こういう奴らは一度徹底的に叩き潰さなければ必ずまた同じことをする。そうなると、いつはやてに危険が及ぶか分かったものじゃない。その危険性を摘み取らなければならない。それに、こいつは先ほどはやてを侮辱した」

 そうだ。こんな奴に掛ける情けなんてない。

「だからと言ってやり過ぎだ! もう勝負はついている!」

「勝負? 何を言っているんだ? 俺は勝負なんかしたつもりはない。戦力的に、勝負になるなど思っていなかったからな。元々こいつらに制裁を加えるつもりで俺はここに来た」

 こんな奴らが敵になるなんて微塵も思っていない。
 ここに来たのははやての安全確保と自分の憂さ晴らしのためだ。
 シグナムは俺の眼を見ると悲しそうに懇願してきた。

「たのむ、やめてくれ。……そんなことをしているお前を、私は見たくない」

 シグナムの真剣なお願いを聞いた俺は男の方を見た。恐怖し、小さく震えている。
 …………

「わかった」

 しばらく考えたのち、俺はシグナムの願いを受け入れることにした。
 すると不安そうだったシグナムの顔がパッと明るくなる。

「希!」

「シグナムに感謝しろ。そして二度と俺たちの前に姿を見せるな」

 男が無言でこくこくと頷いたのを見ると、俺は首筋に手刀を入れて再び男を気絶させた。

「……わるかった」

「いや、いいんだ。よく止まってくれた」

 シグナムはほっとした表情をしていた。
 ……やりすぎだったな。少なくとも家族に見せるべきではなかった。
 俺が反省しているとシグナムは無理やり明るい調子を出して俺に言ってきた。

「さぁ、用が済んだのだから早く戻ろう。主も待っているし、花火も待っているからな」

「あぁ、そうだな」

 そんなシグナムの優しさに感謝しながら、俺たちはこの場を後にした。






【Sideシグナム】


「おぉ! すげーキレーだな、いろんな色に光ってるぞ!」

「おい、こっち向けるな。熱いぞ」

「ヴィータ、はしゃぎたいんはわかるけどもうちょっと静かになぁ」

「でも、ほんとに綺麗ね。初めて見たわ」

「……今まではそんな暇などなかったからな」

「あぁ、そうだったな」

 私は今こうして穏やかに過ごせている奇跡を噛み締めながらザフィーラに答えた。
 これまで、このように穏やかな時間があっただろうか?
 出現すればすぐさま主のために蒐集を始め、戦いに明け暮れる日々。
 主からは道具として扱われ、そのことに何の疑問もいだいたことはなかった。
 しかし、今回の主は違う。
 私たちを『家族』として扱ってくれる。
 そんなことは初めてだった。
 初めは戸惑ったものの、今ではそれが嬉しい。
 どうやら、私は変わってしまったようだ。

「じゃあ次はこのねずみ花火ってやつをやってみようぜ!」

「それは音がうるさいからまた今度な」

「え~、今日は全部できねーのかよ」

「ええやん、別に今日一遍にやらんでも。また一緒にやれば」

「そうだけどよ~」

 そう言ってヴィータは残念そうにしている。
 ヴィータも変わった。
 以前は常に神経を張ってイライラとしていたのに、今では普通の子供のように無邪気だ。

「ならこっちのドラゴン花火はどうかしら?」

「あぁ、それなら平気だろう」

「やった~♪」

 シャマルは楽しそうにドラゴン花火に火を付けた。
 付けた後も近くに居た為、急に火柱を上げたドラゴン花火を見て驚いてひっくり返ってしまった。
 それを見た私たちに笑われてプリプリと怒っている。
 彼女はだいぶ雰囲気が柔らかくなった。
 参謀というポジションからもっと抜け目なく、表面上は仲良くしていても常に一枚壁を作っていたのだが。
 今では私たちにもすっかり心を開いてくれている。

「……この花火はなんだ?」

「それは蛇花火やね。やってみたらどうや?」

「? これも花火なのか?」

 ザフィーラは蛇花火を見て不思議そうにしている。
 彼はだいぶ話をするようになった。
 以前は彼の声など出現時以外はほとんど聞いたことがなかった。
 話をしても必要最低限だけだ。
 それが最近ではたまに雑談に加わってきたりもする。

「ラストはやっぱ線香花火やな」

 私はこの変化を好ましく思っている。
 この主に出会えたおかげで、私たちは変わることができた。主に出会えた奇跡を、私は神に感謝したい。
 ――――ただ、心配ごとも一つある。

「う~ん。線香花火は綺麗やけど、これで終わりやと思うとなんか寂しくなるな~」

「またやればいい。はやてが望むなら、俺はいつだって一緒に花火をしてあげるさ」

 一ノ瀬希。
 主と深い関係を持つこの少年。
 今までの暮らしで、我々とも近しくなった。
 今はもう、彼が主に危害を加えるとは思えないが、それでも油断ならない。
 彼の能力は高すぎる。とても主と同い年とは思えない。
 特に精神力の方ははっきり言って異常だ。
 初対面の時放った殺気はとても小学生が出せるものではなかったし、先ほども不良ども相手とはいえあのような凶行を平気で行えるなどあり得ない。
 それも、怒りで我を忘れているのでもなく極めて冷静にだ。
 あの、冷え切った眼には戦闘経験の多い私ですら若干の恐怖を感じたほどだった。
 これらはすべて、主のためだった。
 彼の主への愛は深すぎるのだ。
 きっと、主のためだと判断したならばどんなことだろうとやり遂げてしまうだろう。
 必要とあれば、我らを切り捨てるだろう。
 それはいい。
 我らとて、主の害になるくらいなら自分から消えるつもりだ。
 しかし、彼はきっと主のためだと考えれば自分すらも切り捨ててしまう。
 たとえ主が望んでいなくとも。

「そうだよはやて! またやるんだろ!?」

「まだまだ使ってない花火が残っているものね」

「そうだな。それにこれから、いくらでも時間はある」

 それだけは避けなければならない。
 そんなことが起きれば、主の心に深い傷が残ってしまう。
 そして、希の心も。
 双方にとって最悪の事態だ。
 それに何より、私自身すでに希がいないことを想像できない。
 いや、彼がいないことは耐えられないのだろう。
 それほどまでに、我らは近しくなってしまった。
 ……私は弱くなってしまったのだろうか。

「うん、せやね。まだ、いくらでも機会はあるんやったね」

 それでも、私は守りたいと思う。
 この穏やかで楽しい日々を。

「そうです主。我々はいつまでも一緒なんですから」

 『道具』としてではなく主や希の『家族』として。




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