木の実を同封した手紙がシャーリーからなのは経由ではやてやフェイトに届いたその瞬間、3人はすべてを悟った。
時空管理局宛てに加え、ご丁寧に「機動六課御中」と書かれた差出人不明の小包だった。誰が出したかは、内容を
見れば深く考える必要もなかった。管理世界内の郵便システムを使って送ってくるあたり抜け目がない。
そして。そうやって居所を知られないよう工夫している理由を、はやてはなんとなく推測していた。
伝説のポケモンたちを、誰よりも先にかっさらってしまおうというのではないか。
「ゆるさぬ」
午前の授業の間、ちょっとした休み時間。すずかと並んで歩きながら、はやてはそんな物騒なことをつぶやいた。
例の同居人はついに念願のポケモン世界を見つけたらしい。それはまぁいい、というかはやてにとっても非常に
喜ばしかった。10年近くプレイし続けたシリーズだけに愛情も愛着も深い。ぜひ足を運んでみたいと思っていた。
しかしながら、はやてが危惧しているのはその先である。
もし仮に、奴がこのまま伝説のポケモンを見かけた場合どういうことが起きるか。
仮に捕獲用ボールがなかったとしても、何だかんだで仲間にしてしまったりはしないだろうか。
それは困る。捨て置くことなどできはしなかった。ルギアには自分が1番に乗るのだと、生まれた時から決まって
いるのだ。
主にビームの色的な意味で。
「ゆるさぬ」
「は、はやてちゃん、その、大丈夫じゃないかな。そう簡単に捕まるものでも」
「ゆるさぬ(激憤)」
「自分でカッコって言った……」
全部捕まえた後でニヤニヤした顔で報告しに戻ってくる姿を思い浮かべると、はやてはとても耐えられそうになかった。
リイン道場なら1時間生き延びることができても、精神攻撃となると話は別だ。とても直視できるとは思えない。
「全部さらっちゃったりとか、そんなことにはならない気がする」
そんな様子を見て、長年付き合ってきた幼馴染たちの、いまだ冷める気配のないポケモン熱に苦笑しながら、すずかは
そのように言う。
歩きながらぐぬぬとひとり唸っていたはやては、ぱっと顔を上げてきょとんとした表情をした。
「どして?」
「待っててくれてると思うの。そういう所は、公平なんじゃないかなって」
「すずかちゃんも、よく格ゲーのバグ技でべこんぼこんにされとるやん」
「あ、あれは……ずるいと思うけど」
「あと確かに妙なところで公平やけど、ことポケモンについてだけはヤツの自制心がどこまで働くかわからん」
「でも今まで、他のモンスターは積極的に捕まえようとしなかったし」
「……言われてみれば。まぁ勝手についてくるのは多いんやけどな」
そういったことが頻発するドラクエ世界だと、上手くいきやすいということか。逆に言うとポケモンのように、相手が
勝手について来ることのないシステムには向いていないのかもしれない。
そのドラクエにしても、今までラスボス級のモンスターを連れて来たことがないという状況証拠もあった。いつだったか
忘れたが「しんりゅう見かけたからお賽銭置いて拝んで帰って来た」と当の本人が言っていたこともある。どう考えたかは
分からないが、今思えば、仲間にできないことを最初から悟っていたのかもしれない。
「今となっては当人がレアモン扱いやけどな。捕まえても戦闘力ゼロやし……とりあえず張り込みには行くけど」
「あれ。時間外なんじゃ……」
「せやけど、今日が登録期限やしな。……そーいえば、出撃要請が出とったな。新人たちも初陣とかで」
「そうなんだ。大丈夫?」
「いざとなったら、ジョースター家に代々伝わる戦闘の発想法が」
「に、逃げたら駄目なんじゃないかな……」
逃げ足の速さをも極めたはやてと、布教の影響を受けていたすずかだった。
そんな装備で大丈夫かとリイン妹に問われたら、自信たっぷりに大丈夫だ、問題ないとしか答えようがない。せっかく
ヘリから飛び下りるのだからと自ら死亡フラグを立てに行ったヴィータだが、幸いなことに相手は旧式ガジェットドローン。
攻撃で鎧が剥げることはおろか眼前に刃が迫ることも、「神『アナザワンバイツァダスッヘッヘッ!』」的な時間操作が起こって再び
オープニングテロップが流れることもなかった。まだ残っている第二波は手ごたえがあるかも知れないが、合体変形された
ところで真新しさなど何一つない。
「第一波は片付いたぜ。どーするじいさん?」
『吶喊』
「あいよ」
コンテナを引いたまま走る列車の上で、指令部との通信が交わされる。どうやら敵方はその中身が狙いのようで、これを
防ぐのが今回の作戦目標だ。
事前の情報ではコンテナの中に入っているのは通常の郵便物ばかりで、ロストロギアチックな何かが含まれているという
訳ではない。最近ガジェットがよく狙いにくるレリックやオリックはおろか、カインもクーもグーイ様も入っていないはず
なのだが。
ともあれ出現した以上、対処するのは自分たちの仕事である。
ガジェットドローンも結構硬いので出来ればリインに来てほしいところだが、あいにく彼女は道場の方で忙しい。液状
メタルモンスターたちがなかなか戻ってこないため、そちらの利用者がリインの方に殺到していたのである。機動六課に
定期的に顔を出せるのは、実はけっこうありがたいことなのだ。
「……スカ野郎の基地にこの電車を突撃させる、切り替えポイントでもあれば話は早いのにな」
気は抜かないけれど段々面倒臭くなってきた、というような調子でヴィータが言う。今日は例の男の、履修登録の期限
であった。絶対に地球か、そうでなくても連絡の取れる場所にいるはずなのだ。さっさと解決して捜索にあたりたかった。
本音を言うとポケモン世界の土産と行き方が欲しかった。
新人たちは新たなデバイスにもなじんでいたようで、割と慣れた手つきで扱っており戦闘を危なげなくこなしている。
さすがにガジェットが変形した時は驚きこそしたようだが、現在まで確認されている型についてのデータは座学の時間に
叩き込んである。実物を見てびっくりすることはあっても、それで致命的な隙を作ったり失敗をしたりすることはなかった。
「スターフォックスですか」
「お。今のでわかるのか」
などと走りながら喋る余裕さえある。空にもかなりの数の敵がひしめいていたのだが、そちらについてもほとんどが
撃滅されていた。
なにしろリインフォースが相手でも空戦で戦えるSランク魔導師が出張ったうえ、キャロに攻撃・防御を完全に統制された
フリードリヒの援護もある。事前にスクルトをかけていたのも効果的だったようだ。圧倒的な安心感に、ティアナはまたしても
憧れを強めるばかりである。
「アトリエで散々見せられました」
「あそこ電気通ってたのかよ……ところで、どうして頭をおさえてんだ? 攻撃受けたところは見てないぞ」
「……ヘリから飛び下りるときにぶつけました」
「ジャンプするからだ。後でコブになってるかシャマルに診てもらえ」
「これを取れと言うんですか……!」
「お前は帽子にどんなこだわりがあるんだよ」
痛そうに帽子をおさえながら鎖を次々と召喚し、クモの糸のように獲物を捕えてぐるぐる巻いていくキャロ。スバルたちが
3人がかりの集中攻撃で仕留めていく傍らで、平然と一撃でべこんぼこんとぶち壊していくヴィータ。
強い、というのは他のフォワードたちにも一目でわかる。高い戦闘能力を保持する以上に、目を引くのはその、圧倒的な心の
余裕だ。
まるで戦い方がしみついているというか、ルーチンワークが体に馴染んでしまっているというか。
「い、いままで一体、いくつのガジェットを壊してきたんですか……?」
「200から先は覚えてない……ていうかお前ら、考えてもみろ。一体あたしらが何回リイン道場に通ったと思ってんだ」
「あ、そうか」
「あちらさんもリインを見習って色々トライしてきたみてーだけど、今回はあまり成果も見られないな」
そうこうしているうちに、コントロールルームにつながる扉が見つかった。グレアムに通信を取ると、なのはとフリードリヒが
もうすぐ降りてくるとのこと。あちらもあらかた片付いたらしい。
「……あっけなさすぎやしないか、じーさん」
あまりに順調な任務内容に、ヴィータは思わず通信を開いた。
『一杯食わされている可能性はある。かと言って何ができる訳でもないがね』
「ってことになるな。あたしらをこっちにおびき寄せといて、その隙に狙いに来たのか」
グレアムの後ろで、猫姉妹が何やらうにゃうにゃ話している声が聞こえた。
「この展開はどこかで……!」やら「すごい既視感なんだけど……」やら、口々に何かを言い合っている。
「じーさん。経験者としての感想はどうだ」
『……可哀想に。振り回されるだけだというのに』
「ああ。まぁ……どーせ碌な目に遭わないんだろうな……」
敵を同情しはじめる上司たちを、キャロを除く新人メンバーは不思議そうに見るのだった。
履修登録は本日午後5時まで。授業の修正ができるのもそこまでだ。
すずかも登録は済ませてあったが、念のため確認をしたかった。講義のなかには紛らわしい名前のものも、同一名で
講師が違うものもある。考えていたのと違う授業を申請してしまっていたら大変だ。
その後一切修正ができない訳ではないが、懸案事項は出来る限り先に処理してしまいたい。万が一後からごめんなさいを
しに行くことになったら大変である。
「あっ」
そうしてすずかが向かった、聖祥大学情報センター。
最新の設備がそろった教室で、パソコンに向かうはやてを見つけた。別れたばかりだったのを不思議に思ったが、目的地
が同じだっただろうか。
「あれ……? でも、午後は張り込みに行くって……」
しかしはやて自身、登録手続きが終わっていなかったのかも知れない。
そんなことを考えていると、はやてがおどけた様子で手を振った。その様子はどこからどう見てもはやて本人だ。人違い
などではないらしい。
(これから張り込みに行くから、その前に用事を……っていうことなのかな)
実際その通りだったようで、暫くかたかたとキーボードを打った後、はやては「じゃあ、」と口だけを動かして、また
手を振って部屋をあとにした。やはり張り込みに行くようだ。
魔導師は大変だなぁと思いながらその背を見送り、無事に連れて帰ってきたら私も会いに行こうかなと、すずかもこっそり
思うのだった。
血相を変えたはやてが再び部屋に飛び込んできたのは、そのちょうど5分後のこと。
「い、いま、私がここにこーへんかった!?」
「き、来たけど。履修登録しに来た……よね?」
聞いたはやては大きく息を吸い、部屋じゅうに響く声で言った。
「ばっかもーんッ!! そいつがオリーシュや!!!」
「ええっ!?」
ばたばたと出ていく二人だった。
「~~っ!」
今度こそ実験材料にと攫いに来ていたクアットロは、地団太を踏んだ。
(続く)
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*「何か鉄臭いのがいるみたいだから変化の杖使ってスネークごっこしてみた」
クアットロとはトムとジェリーみたいな関係を予定しております。