「けーとくん、ちょっと聞いて」
朝起きてさあ今日は何をしようかな。と六課オフィスを散策していると、いきなりなのはに捕まった。空き部屋に引きずり込まれる。
「俺じゃない! だってゲオルグが勝手に」
「まだ何も言ってないんだけど……」
「だとしたら……ひっぐ……うっぐ……お納めください……」
「な、泣きながら財布差し出さないで! 私が追い剥ぎしてるみたいになってるでしょ!?」
「レッドさんに貢ぎ続けた結果、カツアゲの被害を受ける癖がついたんだ。常時靴下に紙幣を仕込むようになったから。丁度いいから見せてやろう」
「それってあの世界で対策になるのかなぁ……あれ、お金ないよ?」
「ああっ、また盗まれてるうううう!!」
「けーとくん、それ言いたかっただけだよね……?」
うん。
「で、話ってなに? ビーム的な意味でのお話ならちょっと勘弁してもらいたいんですけど」
「それ話って言わないじゃん……あのね。ティアナが昨日、私に言ってきたんだけど」
「Congratulations....! 結婚おめでとう・・・・!」
「言ってきたんだけど」
最近なのはのスルースキルが上がってるようで辛い。
今後はもっとスルーしがたいボケを追究しなければならんと決意しつつ、話を聞く。
「『なのはさん、もしかして……ドーピングしてますか?』って……」
「ドーピング?」
「うん……」
Oh...
「なのはがドーピングしてこの腕力だったとすると、ドーピング抜きではつまようじさえ持てない計算になりますね」
「な、なにその計算、そんなにひどくないよっ! ……そ、そりゃ、標準より下だけど……」
「そうか分かった……今度ナッパボディになのはヘッド乗せたコラ画像作ってあげるね」
「また極端な……じゃなくて。けーとくん、ちょっとその、真面目なお話なんだけど」
「無慈悲な先制ディバインバスターを控えるのなら、我々は対話の席につく用意がある」
「バスターは核兵器じゃないよぉ……それで、ええと。もしかして、ティアナたちにドーピングとか、して……ないよね?」
「してない。けど心当たりはある」
やっぱ俺の見せたアレの影響だよなあ。と思いつつ、その現物を見せる。
「ふしぎなアメをキャロに食わせようとして、でもやめたんだ。ただモノは見られたし、ティアナはなんかそういうの覚えてそうだわ」
「アメ? ……あ! これ、このあいだ拾って来たの? シロガネ山で?」
「ソーダ味のキャンディが溶けていくのをあれほど名残惜しく思ったことはないわ」
「ソーダ味だったんだ! ……って、ええ!? けーとくんそれ食べたの!? 大丈夫!?」
「キャン……ディ……」
「お話の途中でドリアン化しないでよ……」
「精神崩壊はともかく、食べたし体に異常はなかった。でもたぶん俺のレベルは上がってない」
「……? なんで? どうしてわかるの?」
「頭の中に『つかっても こうかがないよ』のテロップが出たんだ。振り切って飲んだけど」
「アメで効果が無いって……あと、たまに思うんだけど、けーとくんの頭の中ってどこに繋がってるの?」
俺にもよく分からん。
「とにかく、使ってないなら安心だよ……けーとくんは飲んじゃって、本当に平気だったの?」
「毒物を前にしたとき特有のビビッとした感覚はなかった」
「良くわからないけど……けーとくん、やっぱりそういうのは、まだティアナたちには使わないであげて欲しいな」
「それはいいけど、あれですか。やっぱドーピングは摘発される方針でしょうか」
「摘発とかじゃないけど……できるだけ、自然な形で強くなったほうがいいかな、って思うから。まだまだ、これから伸び盛りだし」
まだどういう成長をするかわからないし、となのはは付け加えた。
そういう意味ではぐりん道場はどうなのかと一瞬思ったけど、よく考えたらあれは、経験値をもらえるようになるまで自分が吹っ飛ばされ続ける代物だ。
そもそもドーピングとは違うのだろう。そういうことならアイテムを使用するかどうかは、やっぱりなのはに全部委ねるとしよう。
「分かった。みだりに使わない。ダメゼッタイ」
「うん! ……あれ、けーとくん今日はすごい素直だね……あっ」
言ってから、はっとしたような顔になるなのは。
そう言われてしまうとオリ主が廃るというものなので、天の邪鬼をしてやろうではないか。
「みだりには使わない。だがその代わり、みだらに使おう」
「し、しなくていいから! みだらにって何言って……な、ななななんで上脱いでるの!?」
「まず服用する前に服を脱ぎます。服用なのに服が無用とは洒落がきいてると思いませんか?」
「しゃ、しゃ、しゃれがどうとか聞いてないから! 聞いてないから!!」
「Son of Ogre 半裸刃牙」
「い、いいから早く服着てよっ! どこからどう見てもセクハラだよ……こ……れ……」
顔真っ赤のなのはの前で脱衣の波動のダークサイドを垣間見ていたら、鍵のかかってないドアがシュッと開いた。
噂をすれば影というか。天知る。地知る。ティアナ知る。
「『脱衣』なくして解放のカタルシスは有り得ねぇ……」
バキ顔で呟くと、固まっていたティアナ再起動。そのままぎくしゃくした様子で、ドアの前から一歩引く。
「……」
見てはいけないものを見たというような顔のティアナの前で、自動ドアが閉ざされた。
「ま、ま、待ってティアナ待って、戻ってきて! 違うの! この人が勝手に」
「ゲオルグが勝手に」
「もう黙ってよバカぁぁ!」
ゲオルグでは駄目だったようです。
(続く)