結局なのはがティアナをなんとか捕まえて、その場で何があったかを説明する運びになった。
「……つまり、この人がなんの前触れもなく脱ぎだしただけなんですか」
「そうなんだよ……よかった、わかってもらえて」
しかしなんだか、ティアナの中で俺の人物像が大変よろしくないことになってる気がする。
「いきなり脱ぐ」といったら前例がもういらっしゃる。あちら様は必要になるまで紐スーツを貫き、危機が迫るとバンドエイドにスイッチするという変幻自在の痴女である。そんなオーラを感じるのだ。
もし変態と思われるならそれくらいの域には達したいものである。いや違う、そうじゃない。そもそも変態扱いを御免被りたいんだ。
「いや待って、違うんです。なのは大統領が興奮してきた、服を脱げとレイハさんをチラつかせながらですね」
「ちょっと」
「これが世間で話題のなのハラと言うわけか! パワハラの挙句この扱いとかこの職場終わってんな!」
「……今度お店に来たらマイナス10割引きだからね」
「わたしがやりました」
観念した。最近のなのはは成長してきたのか、らしからぬ詰ませ方をするので手ごわい。
「なのは大統領の信頼を失墜させ申し訳ありませんでした」
「どうして汚職した政治家みたいになってるの……」
「……前から思ってましたが、馬鹿なんですか。馬鹿のうえ変態なんですか」
「さるお方ほど脱衣後の戦闘力が変わらないので、昆虫で言うところの不完全変態に分類されると思います」
「……」
「水上ちかん法(意味深)」
「なのはさん……」
「……ふ、普通にしてたら、普通なんだよ? 頭の中はわけわかんないけど……」
フォローになっていないようなフォローを聞いて、ため息を吐くティアナ。ゴミを見るような目で見ていないということは変態扱いはされていないようだが、視線に含まれる「何なんだこいつ」感がすごい。
ただよく考えたらいつものことなので、まあ落ち着いたと捉えていいのだろうか。ありがとうなのは。
「普通か……なかなかどうして、難解なことをおっしゃる……」
「ほらもう、哲学してないで。朝ごはん食べにいくよ?」
「普通とはいったい……うごごご」
「異常じゃないってことだと思うよ」
「そうか……深いな」
「全然深くないよ……」
「ティアナ、普通って」
「人前で服を脱がないことよ」
それもそうだ。
と思ったけど、でもそういえば……
「魔道士ってみんな屋外で公然とバリアジャケットに着替えてるよな……?」
「えっ」
「なっ……!」
ささっ、と体を手で庇うお二方。
特になのはの野郎は顔真っ赤にしてやがる。これは図星だったのではないだろうか!
「なんてことだ! 最初っからこの職場変態しかいねえ!!」
「い、い、今さらそんなコト言う!? それにあれは装着してるだけだって……!」
「魔法少女 法に照らせば 違法痴女 字余り」
「余りまくりだよ! 何気に韻まで踏んでるのが腹立たしいよ!」
「服は足らねど字は余るとは……魔道士ってやつは本当に業が深いな!」
「深くないから! 自分で言って自分でリアクションしないでよ!」
「私の周りには――痴女が多すぎる」
「一瞬でワンピ顔になった!? 涙まで流して器用すぎるよこの人!?」
自慢の顔芸を披露していると、ティアナがなんだかすごく驚いた表情をしているのに気がついた。
どうしたんだと思って内心首をかしげたが、ちょっとしていると思い出した。楽しくてすっかり忘れてた。
「なのは、素が出てる素が」
「あ゛っ……」
ぎぎぎ、と気の毒なくらい緩慢な動きで、なのはが横に顔を向けた。
目を丸くしていたティアナと視線がぶつかる。普段の調子のなのはは見たことないんだっけ。
「……びっくりして、口開くタイミング逃がしました」
「うぅ……」
「ごめんね。ついね」
「……プライベートではこうなんですか」
「いい突っ込み役です。八神家とは違う感じで、一緒にいるととても楽しい」
「楽しいのはいいけど……うぅぅ……けーとくん恨むよ……」
悪いことをしたとは思うが、今のは自爆も半分くらい入っていたのではなかろうか。
「悪かった。後でなんか奢るから……ああそうそう、とりあえず、その前に服を着ろ」
「着てるよ!?」
「ティアナもだからな」
「着てるわよっ!」
「なのはなのは、熊の子みていたかくれんぼ」
「え? ……お尻を出した子一等賞?」
「ほらやっぱり!!」
「ティアナ」
「はい」
使った。魔法を。ティアナが。
そう思った次の瞬間には、俺の両腕が後ろ手に縛られていた。ワザマエ!
「俺に魔法はNGだったんじゃないんです?」
「それは私の話でしょ。魔法かけてるのはティアナだから」
「黙ってキリキリ歩きなさい」
キリキリ歩かされました。
「けーとくん、卵焼きもらうからね」
「覚えてろよなのは」
「美味しそうなコロッケね。食べてあげるわ」
「コロ助を知らない奴がコロッケを語るな」
「えっと……おいしいナリよ?」
「似てねぇ」
「キャベツだけ残してあげるわ。嬉しいでしょ」
「うるせぇ」
魔道士を変態呼ばわりすると、朝食がキャベツと漬物だけになる。
(続く)