新しい行き先(ポケモンワールド)を見つけた結果、探索はもうしばらくお預けだが、管理局からおこづかいをいただいた。やったね!
するとどこから金の臭いを嗅ぎ付けたのか、直後からキャロがちょろちょろと顔を出しはじめた。しょうがないのでここはひとつ、何か奢ってやることにする。さぁ何がいいか。お菓子か飯か小道具か。
「株」
キャロはどこからそういう知識を仕入れているのか。
「できれば優待券つきの飲食店のを。ファミレスとかは大歓迎ですけど、飲み屋さんのは年齢的にちょっと」
「まことに残念ながら、日本ではあまり未成年は株を持ちません。諦めてください」
「世間が想像以上にお子様に冷たいです。じゃあ土地でいいです。特にこれから開発が進みそうな」
「さよならなのだ」
即座に退却を決意する。この娘っ子に買い物の話はダメらしい。
しかしすぐに、背中に衝撃。振り返ったらキャロが背中にしがみついていやがった。コバンザメか。お金だけに。
「買ってください! 買ってくださあい!」
「こんな時だけ子供っぽく振る舞うのやめてください! ああ職員の皆さまの微笑ましい視線を感じる! なんだろう! 確実に!」
「中途半端はやめよう。端から端まで買ってやろうじゃん。はやてさんが止めに入るけど、絶対に流されるなよ」
「俺でさえ懐かしいと感じるコピペをなんでキャロが知ってるの?」
「カバつながりで、この際だから動物とかでもいいです。買って下さい。ライオンとかパンダとかキリンとかを」
「このコアラのマーチで我慢しなさい」
「コアラさん……」
こんな時だけ涙目のふりをするキャロ。これだけ見ると大きなお兄さん方の心が動くこと請け合いだ。
管理局員の皆さまも変わらず、微笑ましいものを見たようなあの表情。しかしよくよく見るとキャロの野郎、コアラのマーチの首だけを器用に食いちぎっていやがった。迂闊に絆されてはいけない。
「最後までチョコたっぷりです……」
「たっぷりじゃないし、そもそも製品違うし、そのくせ会社は同じだしでどこから突っ込めばいいか分からないよ」
「……はっ、違います。危うく誤魔化されるところでした。お金の話をしていたんです。プリッツ、お前じゃない。座ってろ」
「とうとうチョコの部分さえなくなってる件」
「ちなみにプリッツはずんだ味が好きです」
「これっぽっちも聞いてないです」
「……」
「コアラの両耳だけかじるのやめようね。聞か猿って言いたいの?」
「注文が多いです……」
「ふごごご! やめてください! 俺の鼻の穴はコアラのマーチのかけら入れではありません!」
「こんなに入れやすいのに?」
「うるせえ」
「むぐぐ」
キャロの口に残りを詰め込み、その隙に鼻に詰められたものをふんすと噴き出す。
モノが取れた後もビスケットの香りが鼻の中に広がって、ちょっといい匂いだったのが許せぬ。
「わ、コアラの耳がこんなに……これはまさか、お小遣いを耳を揃えて払っていただけるという暗示でしょうか」
「キャロの額にだんだん『び』の字が見えてきたわ」
「……お師さんの腎臓、ぽいっちょ売るねん」
「助けてくれえええ!」
「冗談です。そこまではしません」
「いいい一体どこまでならやる気があるのか、おおおお師さんはとても気になります」
「ところでお師さん、アイバンクという組織をご存じですか」
「やめろォ!! ……というかキャロ、そうまで言うということはお金に困ってるのか? さては給料を使い果たしたな、こいつめ!」
「使ってません。定期組んでるに決まってるじゃないですか」
まったくもう、と言わんばかりの顔をするキャロ。たまにこいつが本当にお子様なのかわからなくなる。
実は中身はどっかから転生してきたおっさんでしたとか言うんじゃないぞ。うっかり信じるからな。
「あとフェイトさんからのお小遣いは、なんだかお菓子とかに使うのが申し訳なくて」
「フェイトは普通に使った方が喜ぶぞ、多分」
「そんな気はしますけど……その点、お金の出所がお師さんとなると気がねなく使えます」
「褒められてるのかどうか微妙なところだ」
しかしまあ、普通のお小遣いなら、あげるのも吝かではない。財布を取り出してやろうではないか!
「ここに三枚の野口英世様がおるじゃろ?」
「お師さんがここからどうやって三方一両損の流れにするのか、とても気になります」
「しません。しませんが、野口様を一枚授けます。大金ではありませんが、小学生とかならこんなもんかと」
「十分です。……ありがとうございます。大事にします。おこづかい帳つけます」
「後でエリオにもあげるか。なんだか自分で使うよりも気分がいいぞ!」
「1日目 指弾の弾丸に使い、粉々に大破。マイナス500円」
「3秒前の自分に土下座してこようか」
「というのは冗談です。……でもせっかくなので、このお金でフリードと食べるお菓子を買います。一緒に食べましょう、お師さん」
「キャロが今日初めて普通のちびっこに見えてきたわ」
「失礼な。いたって普通のちびっこです」
「普通のちびっこは土地を買おうとしないからね」
「なんと」
お小遣いもらってうれしかったのか、ちょっとテンション高めのキャロさんだった。
「むむむ……ち、チョコレートの気分です。でもでも、フリードにあげるなら塩味も……」
「はよ」
「待ってください。私はいま、チョコとクラッカーの二択で揺れ動いているんです」
「さっきから10分も経ってるじゃないか! ええい!」
「ひゃふ……なにひゅるんれすか」
「さっさと選ばないと、このまま学級文庫と言わせる刑だ。わはは」
「がっきゅうぶんこ」
「えっ今どうやったの?」
「教えてもいいですが、その前にお小遣いの定期昇給制を提案します」
「この子供ついに終身雇用獲得に打って出やがった……賢い!」
「二十歳くらいで、退職金がっぽり。あわれお師さんは借金まみれです。……腎臓、売ります」
「ガンダムみたいに言わないでいただきたい! ああ返済チャンスは腎臓以外にないのでしょうか!!」
「では債権を帝愛グループへ……ぱんぱかぱーん、鉄骨渡りへの参加が決まりました。おめでとうございます、遺言をどうぞ」
「押さないっ……賭けないっ……死にたくないっ……!」
お菓子の話だけに、新しいおかしの約束を提唱してやった。
「が、がっきゅう……う、ぅ、うん……む、無理です! できません!」
「まだだエリオ! もっと舌を唇に……ああザッフィー、いいところに。いやいや、これは学級文庫を練習する会であって、小学校でよくあるうんこマン養成講座じゃないんだ。いいね?」
「連行する」
「はい」
しょっ引かれました。
(続く)