== 魔法少女リリカルなのは ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==
ジュエルシードにより、巨大化してしまった子猫。
それをデバイスという杖を持って、封印しようとする少女が二人。
一人は、白い防護服に身を包んだ栗毛の女の子。
一人は、黒い防護服に身を包んだ金毛の女の子。
しかし、彼女達は、協力関係にはない。
今日、会った初対面同士。
お互いの目的のためにぶつかり合わなければならない定め……。
そして、埋めることの出来ない経験の差が如実に表れ始める。
状況は、黒い防護服の女の子が、圧倒的有利で進んだ。
しかし、魔法を覚えて経験の浅い白い防護服の女の子は、諦めることをしなかった。
それが引き金になった……。
白い防護服の女の子の撃った魔法は、強力な砲撃。
未熟な腕で無理をしたために在らぬ方向に飛んで行く。
本来なら、当たることのない攻撃。
しかし、黒い防護服の女の子は、自ら砲撃に当たりに行った。
その方向に居た彼女の使い魔を身を挺して庇ったのだった。
第1話 フェイトさん、やさぐれる
使い魔である十五、六歳の赤毛の少女が、主人である黒い防護服の少女に近づく。
主人は、気を失っている。
直ぐ側に立つ木に付着している血……。
主人の額に流れている血が付着したものだと直ぐに分かった。
使い魔の少女が、白い防護服の少女を睨みつける。
白い防護服の女の子は、一言謝りたかったが鋭い視線に言葉を飲み込む。
「あんた!
絶対に許さない!」
使い魔の少女は、主人を抱きかかえるとその場を後にした。
白い防護服の女の子は、自分のせいで傷ついてしまった黒い防護服の少女に何も言えなかった。
ショックで、ただ立ち尽くす。
そして、暫くして我に返ると自分の仕出かしたことに大声をあげて泣き叫んだ。
…
黒い防護服の少女達の住処であるマンションに、使い魔の少女は、主を連れて戻る。
直ぐに出血箇所を止血し、適切な処置を行なう。
傷は、見た目より浅かったが、ぶつけたところが頭だったので、心配が込み上げる。
「フェイト……。」
力なく主の名を呼び、主の目覚めるのを待つ。
この時点で、気が動転していた彼女の頭には、病院へ連れて行くという考えが抜け落ちてしまっていた。
使い魔の少女は、主の目覚めを待ち続けた……。
…
一時間後……。
黒い防護服の少女が目を覚ます。
ゆっくりと上半身を起こすと頭をガシガシと掻く。
掻いたところの毛が、少しクセを残す。
「フェイト!」
目覚めた少女は、三白眼にクマを作った目で、自分の使い魔を見る。
「…………。」
何も言わない主に使い魔の少女は、声を掛ける。
「私のことが分かるかい?」
主の少女が、ゆっくりと口を開く。
「バ……。」
「……バ?」
「バルス……。」
「違うよ!
私は、そんな滅びの呪いみたいな名前じゃないよ!」
主の少女は、額に手を置き考える。
「ア……。」
「そうだよ!
『ア』から、始まる名前だよ!」
「アルフィ……。」
「おしい!
一文字多い!」
更に主の少女は考える。
「……ルフィ。」
「ゴム人間になっちゃったよ……。
・
・
フェイト……。
本当に私のこと、覚えてないのかい……。」
主の少女は、頷いた。
使い魔の少女は、涙目になる。
主の少女は、そんな使い魔の少女に声を掛ける。
「ごめん……。
アルフ……。」
「しょうがないよ……。
あれだけ、酷く打ちつけたんだから……。」
「痛かったよ……。
アルフ……。」
「傷は、浅かったから平気だと思うよ。
ただ頭だから、少し……。
・
・
ん? アルフ?
フェイト!
私の名前を思い出したんだね!」
使い魔の少女に笑顔が戻る。
「バルスだっけ……。」
「元に戻ってるよ……。」
使い魔の少女は、項垂れると主の少女を見る。
しかし、その目と口元に浮かんでいるのは、邪悪な笑み。
「まさか……。
ワザと間違えていた……。」
主の少女は、『フフフ……』と不気味な笑い声を漏らした。
使い魔の少女は、主の変わり様に言い知れない恐怖を感じた。