== 魔法少女リリカルなのは ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==
フェイトは、泣き濡れていた。
目覚めたマンションの一室は、変わり果てていた。
本棚に有るのは……。
グラップラー刃牙…バキ…範馬刃牙……。
「何で、私の部屋が格闘漫画だらけに……。」
そして、床に散らかるお菓子の食べカス。
「部屋を掃除してる間に、
今日の表に出ていられる時間が終わっちゃうよ……。」
フェイトが溜息を吐くと、後ろから鳴き声が聞こえた。
第11話 やさぐれの休日
目の前には、黒猫。
「ど、どうして?」
そして、斜め向かいに灰猫。
「…………。」
白猫。
三毛猫。
etc...。
「な…に……これ?」
猫達は、フェイトに近づき鳴き続ける。
どうやら、エサを求めているようだ。
「餌付けしたんだ……。
間違いない……。」
フェイトは、部屋を見回す。
「猫のエサの缶詰……とミキサー?
何に使うんだろう?」
フェイトは、目を閉じて記憶を辿る。
思い浮かぶのは、アルフの怒る姿。
『野菜を残すな』と怒られている。
そして、やさぐれフェイトは、アルフが目を放した隙に野菜をビニール袋に入れてフェイトの部屋に放り投げる。
その後、ミキサーで猫の餌と混ぜて……。
「処理させたんだ……。
猫って、野菜食べられるの?」
多大な不安も残るが、目の前の猫達は大丈夫なようだ。
「それより、何処から入って来たんだろう?」
フェイトは、ベランダを見る。
特に変わったところはない。
次に玄関を見る。
力任せに引き裂いて出来た猫用の通り道がある。
「あの子、ドア引き裂いたんだ……。」
(ありえない……。)
フェイトは、手を床について項垂れた。
…
やさぐれフェイトが表に出る。
「部屋が片付いてる……。
これが噂に聞く妖精さんの仕業……。」
そんな訳がない。
フェイトが、しっかりと片付けたのだ。
そして、真面目にジュエルシードを探す気がないのもバレた。
「ん……?」
置き手紙がある。
手紙は、半分濡れている。
「もしかして、涙の跡……?」
やさぐれフェイトは、フェイトからの手紙を読む。
「猫をどうにかしろ……。
部屋を掃除しろ……。
ジュエルシードを探せ……。
規則正しい生活をしろ……。
要約するとこんなところ……。
・
・
小姑か……。」
やさぐれフェイト……反省する気なし。
そして、フェイトの手紙をグシャグシャに丸めて投げ捨てる。
「とりあえず、今日は、出掛けよう……。
歩いていれば、またジュエルシードを拾えるに違いない……。」
やさぐれフェイトは、街へと散歩しに向かった。
…
やさぐれフェイトは、深呼吸する。
「街の空気が新鮮……。
魔王の淀んだ城とは大違いだ……。
胸も少し躍る……。」
街の大きな通りを離れ、裏道へ……。
「何故かここに引かれる……。
ジュエルシードが呼んでいるのか……。」
しかし、見つけたものは別のもの。
男が少女を襲っている。
「……チッ!」
やさぐれフェイトは、舌打ちをすると踵を返す。
「む~! む~!」
男に襲われて口を塞がれている少女は、大声をあげられない。
その代わりに足を振り抜き、靴をやさぐれフェイトにぶつけた。
やさぐれフェイトがゆっくりと振り向くと、クマのある目で睨む。
「何するんだ……?」
「む~! む~!
(あんたこそ! 何してんのよ!)」
「面倒ごとには関わらない……。」
「む~! む~!
(せめて、人を呼んで!)」
「ヤダ……。」
襲っている男が話し掛ける。
「お前ら、何で、それで会話が成り立つんだ?」
「あたしのことは、気にせず続けて……。
少女でいられる賞味期限は極めて短い……。
襲うなら、今……!」
「む~! む~!
(馬鹿か!?)」
「いいことを言うなぁ。
だけど……。
実は、お前の方が好みだ。」
「…………。」
(ターゲットが変わった……。)
やさぐれフェイトは、ガシガシと頭を掻く。
くせ毛が出来ると溜息を吐く。
「面倒ごとになった……。」
「む~! む~!
(あんた、代わりなさいよ!)」
「お断りだ……。」
やさぐれフェイトは、男に顔を向ける。
「あたしは、勇気と正義の使者……。
少女を襲う暴漢を倒すために現れた……。」
「お前、さっきコイツを見捨てようとしたよな?」
「自分に身の危険が及べば別……。
あたしを助けるついでに助けてあげる……。
後で、お礼をして……。」
「む~! む~!
(ふざけんな!)」
「あたしは、ここから脱兎のごとく
走り去ることも出来る……。」
「む~……。
(本当に倒せるんでしょうね?)」
「さあ……。」
(駄目かもしれない……。)
男は、イライラしながら話し出す。
「無視するなよ。
方針を変えた。
お前ら、二人を襲う。」
「へ……?」
男は、襲っていた女の子を壁に叩きつけるとナイフを突きつける。
「逃げたら、お前から殺すからな。」
「…………。」
女の子は、無言で頷いた。
そして、男が、やさぐれフェイトに目を向ける。
「お前も逆らうか?
コイツみたいに躾けてから、
襲ってもいいんだぜ?」
やさぐれフェイトは、女の子を見る。
さっき気丈に振舞っていた女の子は、無理をしていたのが分かる。
目が怯えて、頬には痣がある。
「口を塞いでたから、分からなかったけど……。
叩いたの……?」
「ああ。」
「少し頭に来た……。
元々、助けるつもりだったけど、
三割り増しでぶっ飛ばす……。」
「ほう……。」
やさぐれフェイトが構える。
右足を踏み込む震脚。
地面には皹が入る。
力瘤を作る形で両手を開くとどっしりと突き出して前傾姿勢になる。
「トリケラトプス拳……!」
「…………。」
男と女の子は、沈黙した。
…
女の子は、絶望していた。
(本当に駄目かもしれない……。
よりにもよって、助けに来たのが馬鹿だった……。
暴漢に向かって、トリケラトプス拳って……。
そもそも、トリケラトプス拳って、何?
・
・
私は、死ぬのか……。
なのはやすずかにも会えず、
馬鹿みたいな格好して助けようとする変態のせいで……。)
男も、絶望していた。
(駄目だ……。
俺の趣味じゃない。
天然の女の子なら、兎も角。
馬鹿過ぎる女の子は、許容範囲外だ。
何だ? この構え?
トリケラトプス拳?
馬鹿じゃないの?)
やさぐれフェイトが動く。
「行くよ……。」
地面を蹴ると、一気に男の懐に潜り込む。
((絶対にトリケラトプスは、こんなに早くない……。))
角で、かち上げるイメージで左手を鳩尾に、右手を胸に叩き込む。
男の体が宙に浮く。
衝撃で、男の手からナイフが落ちる。
「刃牙を舐めるな……。」
「技じゃねー……。」
やさぐれフェイトが、女の子に振り返る。
「三割り増しということになってる……。
残りの三割を本当に痛めつけるかは、
君に一任する……。」
女の子は、ギンッと目を吊り上げると、親指を下にひっくり返した。
「オーダー入りました……。」
やさぐれフェイトは、ゆらりと脱力する。
「この技は、体をリラックスさせるのがコツ……。」
体を捻り腕を鞭のようにしならせる。
体より一呼吸遅れて、腕が振り下ろされる。
男の背中に紅葉が出来る。
男は、バタバタともがいている。
「鞭打……。」
正直なところ……。
やさぐれフェイトは、鞭打を再現出来ていない。
鞭打の見よう見真似をしただけ。
鞭打ならぬ、ただのビンタだった。
しかし、そこを補っているのがアホ設定である。
「もう一回……。」
力任せの鞭打もどきが決まると、男は、痛みで気絶した。
やさぐれフェイトは、女の子に近づく。
「悪は滅びた……。」
「あんた、滅茶苦茶するわね?」
「今のあたしは、刃牙になり切っているから……。」
「なり切ると大人の男の人をボコボコに出来るわけ?」
「女の子には秘密があるんだよ……。」
「私は、あんたを女の子と認めないわよ?」
「じゃあ、お姉さんでいい……。」
「もっと、イヤ!」
「我が侭さんめ……。」
やさぐれフェイトは、溜息を吐く。
やさぐれフェイトは、地面に転がる男を壁の方に蹴り飛ばすと歩き始める。
「ちょっと!
待ちなさいよ!」
「何……?」
「その……ありがとう。」
「お礼を言えるんだ……。
あたしは、人格破綻者かと思ってた……。」
「そんなことないわよ!
・
・
あれ?」
「どうしたの……?」
「あんた……。
この前、窓から侵入して来た子よね?」
「あたしにグーを炸裂させた人か……。
奇妙な縁だね……。」
「本当……あ。
私、アリサ・バニングス。」
「あの有名な……?」
「知ってるの?」
「お父さんは、ジム改に乗ってた……。
階級は大尉……。」
アリサのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。
「それは、サウス・バニングよ!
私は、バニングス!」
「痛いけど、ちょっと感動……。
このネタで突っ込んでくれるとは思わなかった……。
これがツンデレの底力か……。」
「失礼極まりないことを並べ立てないで。」
「まあ、いい……。
じゃあ……。」
「待ちなさいよ。」
「ん……?」
「あなたの名前は?」
「なのはは、やさぐれちゃんと呼ぶ……。」
「やさぐれ?
・
・
あははははは!
何? そのなのはにしては、最高のネーミングは!」
「多分、分かってないで呼んでる……。」
「そうよね。
でも、いいわ。
私も、やさぐれって呼んであげるわ。」
「意味知ってる人がそう呼んだら、
虐めじゃない……?」
「いいじゃない。
一人も二人も同じよ。」
「それもそうだね……。
じゃあ、今度こそ……。」
「ええ。
何か困ったことがあったら、
今度は、私が助けるわ。」
「じゃあ、猫を引き取って欲しい……。」
「猫?」
「そう……。
少しベジタリアンな……。」
「どんな猫よ……。
でも、友達に猫好きな子が居るから、
頼んであげるわ。」
「ありがとう……。
住所教えて……。
そこに行くように伝えるから……。」
「猫と話せるの?」
「何となく意思疎通出来る……。
嫌いな野菜を食べて貰ってる……。」
「その猫、危険じゃないでしょうね?」
「どういう意味だ……。」
「まあ、いいわ。」
やさぐれフェイトは、アリサに住所を教えて貰うとその場を後にした。
アリサが呟く。
「変わった子だったわね。
・
・
あ、そうだ。
よくもやってくれたわね!
この痴漢が!」
アリサは、壁の近くでピクピクしている男を蹴り上げる。
「ぐふぅ!」
アリサは、男がダメージを回復出来ないのを確認すると携帯で執事の鮫島を呼び出す。
そして、男は、警察に突き出された。
…
一方……。
「おお……。
また、ジュエルシードが落ちてた……。
きっと、因果応報の法則に違いない……。」
やさぐれフェイトは、またジュエルシードを拾っていた。