== 魔法少女リリカルなのは ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==
やさぐれフェイトが、珍しく溜息を吐く。
「最近、フェイトの活動時間が増えて来た……。
あたしの自由に遊んでいられる時間は、
少なくなって来たのかもしれない……。」
やさぐれフェイトは、拳を握る。
「ここは、そろそろ最後の食い溜めを
するべきなんじゃないだろうか……。」
やさぐれフェイトは、甘食を求めて街に繰り出した。
第13話 フェイトとなのは
喫茶翠屋……。
「あたしの最後の暴飲暴食は、この店に決めた……。」
やさぐれフェイトは、店内に入ると一番奥の隅の席に座った。
「こういうカビの生えそうなポジションが落ち着く……。
さて、メニューは……ん?」
「あ。」
コップに入った水を持って来たのは、あの時の魔法少女。
やさぐれフェイトとなのはの再会だった。
…
やさぐれフェイトが、なのはに話し掛ける。
「いらっしゃいませ……。」
「私のセリフだよ……。」
「なのはのセリフ……?
ここの店員さんなの……?」
「そうだよ。」
「家が貧乏で働かされているんだね……。」
「違うよ!
ここ、私のうちのお店!」
「おお……。
喫茶店の子か……。
新体操で甲子園目指しちゃうの……?」
「新体操もしないし、
新体操で甲子園も目指せないよ……。」
「いい切り返しだ……。
腕を上げたな……。」
「あ、ありがとう。」
「ところで……。
店員さん、ここのお勧めは……?」
「シュークリームがおいしいよ。」
「じゃあ、焼きそば……。」
「おかしいよね!?」
「冗談……。
シュークリームを筆頭にお勧めを沢山……。」
「お金あるの?」
「とりあえず、十万用意した……。」
「どれだけ食べる気なの……。」
「胸焼けして一ヶ月ぐらい
甘いものを見たくなくなるぐらい……。」
「病気になるよ。」
「大丈夫……。
あたしの奢り……。
なのはも一緒に食べて……。」
「うちの店の商品を食べるって、どうなんだろう?」
「これも接客……。
大事なお仕事……。」
「そう?
じゃあ、少しだけ。」
やさぐれフェイトとなのはの妙な会話が始まる。
…
やさぐれフェイトは、テーブルの上に広がる桃源郷にご満悦になる。
そして、お勧めのシュークリームを口に運んでいる。
そんなやさぐれフェイトに、なのはが話し掛けた。
「あのね。
やさぐれちゃんに会いたかったんだ。」
「ん……?
あたしに……?」
「うん。
大事な話を忘れてたの。」
「そうか……。
そんなにあたしとにゃんにゃんしたかったのか……。
いいよ……。
今日一日、あたしは、なのはの恋人……。」
「よく分かんないよ……。
猫と恋人に何の関係があるの?」
「…………。」
(やっぱり、こっちの方は疎いみたい……。
純真な奴め……。)
「愛い奴め……。」
なのはは、首を傾げた。
「あの、それでね。
話したいことは、ジュエルシードのことなの。」
(もぐもぐ……。)
やさぐれフェイトは、頷いた。
「やさぐれちゃん達がジュエルシードを集める理由を知りたいの。
教えてくれないかな?」
(もぐもぐ……。)
(もぐもぐ……。)
(もぐもぐ……。)
(もぐもぐ……。)
(もぐもぐ……。)
やさぐれフェイトは、アイスティーを一気飲みする。
「よく分からない……。」
「え?」
「この前、フェイトの母親に事情を聞いて来た……。」
「じゃあ、知ってるんじゃないの?」
「そうなんだけど……。
ところで、イタチは……?」
「お部屋で寝てる。
ユーノ君も、ジュエルシード探しで疲れてるから。」
「そう……。
見つけるの大変だもんね……。」
「うん。」
「…………。」
なのはが、やさぐれフェイトに聞き返す。
「質問の答えは?」
「今ので誤魔化せると思った……。」
「もう騙されないよ。
今日は、しっかりと聞くつもりだから。」
「面倒臭い……。
でも、いっか……。
どうせ暇だし……。」
(暇じゃなければ教えてくれないんだ……。)
「え~とね……。
フェイトの母親が、フェイトにジュエルシードを集めさせてた……。」
「何で?」
「ジュエルシードを集めて、
次元震を起こそうとしてたから……。」
「次元震?
言葉からするとあまり良くないような……。」
「下手すると異次元に吸い込まれる……。」
「洒落になってないよ!」
「だよね……。」
「何で、そんなことするの!」
「話すから、少し落ち着こう……。」
「う、うん。」
「次元の狭間にアルハザードって言う世界があるらしい……。
そこに行けばどんな願いも叶うらしい……。」
「でも、そんなことしたら、
沢山の人に迷惑掛けちゃうよ。」
「そうだね……。」
なのはは、少し真剣な顔で、やさぐれフェイトを見つめる。
「やさぐれちゃんは、それが分かってて手伝うの?」
「あたしは、どうでもいい……。
時間が来れば居なくなる存在だし、
フェイトが決めればいいと思ってる……。」
「そんなのずるい。」
「何が……?」
「やさぐれちゃん自身の答えを
フェイトちゃんに押し付けてる。」
やさぐれフェイトは、腕を組んで椅子にもたれる。
「ふむ……。
あたしが答えてもいいのか……。
いずれ消える存在だから、
あたしの意見は重要じゃないと思っていた……。
でも、聞いてくれるなら答える……。」
なのはは、頷いた。
「正直、半々……。
迷惑を掛けちゃいけないとは思っている……。
でも、フェイトの母親の願いも叶えてあげたいとも思っている……。
欲張れるなら両方叶えたい……。
・
・
そして、最終的に結論を出すなら時間が欲しい……。
あたしは、やっぱり主人格のフェイトと相談した上で決めたい……。
これは、押し付けじゃなくて、あたし達が二人で一人だから……。」
「難しいね。」
「うん……。
でも、あたしは、次元震には反対の傾向……。
そこを強くフェイトと話すつもりでいる……。
理由は、初めて知った世界は意外と楽しいことだらけだから……。」
(そうだ……。
やさぐれちゃんは、今しか居られないんだ。
フェイトちゃんの頭の修復が終われば消えちゃうって……。
それなのに色々問い詰めて……拙かったかな?)
なのはは、少し俯く。
「……ごめんね。」
「どうしたの……?」
「やさぐれちゃんは、今しか居られないのに……。
私は、やさぐれちゃんの立場も考えないで、
きついことを言って答えを求めて……。」
「分かってる……。
親切の裏返しは厳しさ……。
なのはが、あたしのために
真剣に意見を聞いてくれたのは嬉しい……。
気にしてない……。
ありがとう……。」
「こっちこそ……ありがとう。」
二人は、少し笑みを浮かべる。
しかし、直ぐになのはは悲しそうな顔をした。
「また、ジェルシードを求めて戦わなきゃ駄目なのかな……。」
「フェイトの意見を聞かないと分からない……。
あたしは、ジェルシードを見つけたら回収する……。
なのはにはあげれない……。
フェイトに託す……。」
「でも、こんなにお話出来たのに……。」
「フェイトの中で母親は絶対……。」
「…………。」
暫く会話が止まると涙がテーブルを叩いた。
自分ではない涙に、なのはが目を移す。
「フェイトちゃん?」
「母さんは……。
母さんは、もう直ぐ居なくなっちゃう……。」
やさぐれフェイトは、いつの間にかフェイトに変わっていた。
「もう一人の私の記憶を辿った……。
私に負担を掛けないように色々と記憶に制限を掛けているけど、
分かってしまったこともある……。
母さんが病気なんだ……。」
「お母さんが?」
「時間がない……。
だから、母さんが望むなら、
世界中の人を敵に回してもジュエルシードは集める。
君が私の前に立ちはだかるなら、
私は、君を倒してでも奪って行く。」
「フェイトちゃん……。」
「間違いでも構わない。
恨んでくれてもいい。
でも、私には、たった一人の母さんなんだ。」
(だから、フェイトちゃんの目は寂しそうで……。
それでも優しいんだ……でも。)
「私は、理由を知っても、フェイトちゃんを止めるよ。
やっぱり、間違いだと思うから。
そして、やさぐれちゃんと話したら、
フェイトちゃんが考えを変えてくれるとも信じてる。
・
・
どうしても駄目な時は……。
私の持っているジュエルシードと
フェイトちゃんの持っているジュエルシードを懸けて戦う。」
「君は、失う人がいないから……!」
なのはは、首を振る。
「違うと思う……。
私が同じ立場になって同じことをしようとしたら、
今度は、フェイトちゃんが私を止めるはずだよ。」
「…………。」
「理屈じゃないと思うんだ。
人は、自分だけの気持ちじゃ間違う時もあるから。
だから……友達が必要なんだと思う。」
「……友達?」
「私は、フェイトちゃんと友達になりたいと思ってた。」
「私は……。」
(私は、どうなんだろう……。
確かにずっと気に掛かっていた……。
アルフ以外に、私に気を掛けてくれた子……。
・
・
分からない……。
何が正しいのかなんて……。)
フェイトは、ポケットからお金を取り出すとテーブルの上に置いた。
そして、無言で立ち上がると呟いた。
「ありがとう……。
でも、どうしようもないんだ……。」
フェイトは、振り向かずに翠屋を後にすると行く当てもなく走り出した。