== 魔法少女リリカルなのは ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==
引き続きアルフによるアリシアの看病が続く……。
実は、一番頑張っているのはアルフだったりする……。
そして、地球のフェイトのマンション……。
「これ誰の部屋よ……。」
「フェイトが片付けるのを諦めたあたしの城……。」
刃牙!
バキ!
範馬刃牙!
ジョジョ!
ドラゴンボール!
etc...。
「男の子の部屋じゃない……。」
「こっちの方がまだマシ……。
依然は、まともな家具もない……。
まるでホラー映画の殺される女主人公のような、
何もない虐められっ子の部屋だった……。」
「……本当?」
「本当……。」
やさぐれフェイトの嘘で、プレシアにフェイトへの同情心が膨らんだ。
第16話 そろそろ幕引き……
やさぐれフェイトが、プレシアに話し掛ける。
「最近は、あたしよりもフェイトの時間が多い……。
今は、あたしが出ているけど、
活動時間は、二時間ぐらいしかない……。
フェイトが目覚めたら喫茶翠屋に行って、
高町なのはを訪ねるといい……。」
「分かったわ。」
「そして、街を遠回りで回って、
フェイトと話すといい……。」
「そう。
後、どれぐらい?」
「二十分あるかないかだと思う……。」
プレシアが、やさぐれフェイトの手を取った。
「最後かもしれないから、貴女とも話して置くわ。
途中でフェイトに代わるんでしょう?」
「うん……。」
「じゃあ、行きましょう。」
プレシアとやさぐれフェイトは、海鳴の街を散歩することになった。
…
プレシアは、普通の母親の格好。
やさぐれフェイトは、初日に自分で選んだ服。
手を繋いで歩いている。
「少し考えたんだけど……。
貴女、意外とお節介よね?」
「それはね……。
フェイトは、あたしの宿主だし……。
・
・
あ……。
あっち……。」
「何があるの?」
「あたしが手をつけてない領域……。
プレシアのイベントが減らないで済む……。」
「本当に何したのよ?」
「一つネタバレすれば、あそこの曲がり角の家に住むツンデレの犬に
ごんぶとの眉毛を書いたので襲って来る……。」
「貴女ね……。
善行はしていないの?」
「猫を助けた……。
今は、優しい女の子に飼われている……。
そこで、芸を仕込んだ猫が迷惑を掛けていないかは確認してない……。」
「微妙ね……。」
「でも、子供らしい悪戯……。
フェイトは、そんなこともしない……。
自分が少し皆と違うと分からせるには、
大げさなことをして理解させるのもいい……。」
「へぇ。」
「でも、これからはプレシアが教えてあげて……。
フェイトは、アリシアじゃない……。
アリシアは、アリシア……。
フェイトは、フェイト……。
一つの体には、一つの魂しか宿らない……。」
「……そうよね。
当然だわ……。」
「きっと、楽しい……。
暫く離れていたけど、アリシアとフェイトの居る生活は、
プレシアに大事なことを思い出させる……。
少し活発なアリシア……。
巻き込まれて困るフェイト……。
想像すると楽しくない……?」
「そうね。
・
・
……貴女は、どうなるの?」
「ん……?」
「フェイトが目覚めた後の貴女よ。」
「詳しいことはフェイトに話す……。
でも、漠然としたことを言えば、また眠りにつくだけ……。
フェイトが怪我をすれば出て来るかもしれないし……。
これを最後に出て来ないかもしれない……。」
「そう……。」
「どうした……?
寂しいか……?
あたしが居なくなれば、清々するだろ……?」
「……寂しいわね。」
「え……?」
「寂しいわ。
結果は、どうあれ。
貴女が、切っ掛けだもの。
・
・
それに私に話し掛ける人は居なかったから。」
「あれ、冗談だよ……?」
「そういう生き方をしていたのよ。」
「今度、聞いてあげるよ……。
フェイトが何かの試験を受けて、
落ちたショックで自暴自棄になって、
ガンガン柱に頭を打ちつけて脳に損傷が出来たら……。」
「そんなシチュエーションでは会いたくないわね。」
「そう……?
あの子が本気になったら、凄い勢いで頭を傷つけるよ……。」
「絶対しないわよ。」
「甘い……。
フェイトは、上等な料理にハチミツをブチまけるがごとき思想を持つ……。
このタイトルを格闘少女グラップラーフェイトにするためには、
どんなことでもする恐ろしい子……。」
「さっきの本は、貴女のものだって言ったじゃない。」
「しまった……。
ネタバレした後だった……。」
そして、時間が訪れる。
「プレシア……。
これで、お別れみたいだ……。
アリシア、フェイト、アルフと仲良くね……。」
「ええ……。
貴女も私の娘だったわ……。」
「腹黒いところだけ受け継いだの……。」
「最後なのに……。」
「じゃあ、よろしく……。」
やさぐれフェイトは、ゆっくりと目を閉じる。
そして、クマが取れるとゆっくりとフェイトが目を覚ます。
「あ……。」
「フェイト?」
「これが最後だって……。
後は、私の中でしか話せないって……。」
「……あの子が全部繋いでくれたわね。」
「はい……。」
「あの子は、天使だったのかしら?
悪魔だったのかしら?」
「……きっと、天使だよ。
凄く悪戯好きな。」
「そうね。
行きましょうか?」
プレシアは、あらためて手を差し出した。
「はい、母さん。」
フェイトが手を握り返す。
そこには、やさぐれフェイトの気遣いなど無用だった。
…
しかし、気遣いは、無理に発生した。
『ママ!
あのおねーちゃんが、僕を虐めたんだ!』
『うちの子に何をしたの!?』
「すいません!
すいません!
すいません!」
「ごめんなさい!
ごめんなさい!
ごめんなさい!
・
・
『やさぐれ!
うちの犬に眉毛を書くなって、
何回言えば分かるのよ!』
「すいません!
すいません!
すいません!」
「ごめんなさい!
ごめんなさい!
ごめんなさい!
・
・
『やさぐれ!』
『ちょっと、あなた!』
『そこの君!
・
・
「……フェイト。」
「はい……。」
「逃げるわよ!」
「はい!」
街中を走り抜ける親子。
「何で、こうなるのよ!
健康な体を取り戻したのは、
こういう使い方をするつもりじゃないはずよ!」
「ごめんなさい……。
母さん……。」
「全部、あの子のせいよ!
やっぱり、悪魔だったわ!」
確かに二人には連帯感が生まれた。
そして、どうしようもない状態なのだが、何故か笑いも込み上げて来ていた。
…
少し息を切らせながら、喫茶翠屋に着く。
面識のあるフェイトがなのはを呼び出した。
「フェイトちゃん……。
あの、今日は?」
フェイトが頷く。
「君にお願いがあって……。
君から頼んで、管理局の人に会えないかな?」
「それって……。」
「君のお陰……。
君の後押しで母さんと話すことが出来た。
そして、話せたことで後ろめたさもなくなった。
だから……。
・
・
君が言ってくれた言葉……友達になりたいって。」
「うんうん!」
「私に出来るなら、私でいいならって……。
だけど、私……。
どうしていいか分からない……。
だから、教えて欲しいんだ。
どうしたら、友達になれるのか……。」
「簡単だよ……。
友達になるの凄く簡単。
・
・
……名前を呼んで。
初めは、それだけでいいの。
君とかあなたとかそういうのじゃなくて、
ちゃんと相手の目を見て、はっきり相手の名前を呼ぶの。
私、高町なのは。
なのはだよ。」
「なのは……。」
「うん! そう!」
「ありがとう……なのは。」
「うん……。」
プレシアは、フェイトとなのはの姿を見ると店内に居たフェレット形態のユーノに目を向けると念話を飛ばす。
『貴方も、魔法に関わりを持つ者でしょう?
あの子達を二人にしたいから、
貴方が管理局に連絡を取ってくれる?』
『どうするつもりなんだ!』
『嫌われてるわね……。
まあ、慣れてるけど。
・
・
ジュエルシード……。
それ相応の組織が管理するのがいいんじゃなくて?』
『それじゃあ……。』
『ええ。』
『分かった。
連絡を取るから、話す用意が出来るまで……。』
『ええ。
この店で、あの子達と待たせて貰うわ。』
ユーノは、店内から姿を消す。
そして、プレシアは、カウンターから不思議そうな目を向けるなのはの母に微笑むと近づいて行く。
「すいません。
ちょっと珍しい動物だったもので。」
「なのはが……娘が連れて来たんです。」
「そうですか。
こういう店は初めてで。
メニューをお任せで三人分お願い出来ますか?」
「三人?」
プレシアは、なのはとフェイトに振り返る。
「仲良くなれたみたいなんで……。
少し相手をして貰っても……。」
「ええ、構いませんよ。」
「……ありがとう。」
プレシアは、カウンターの席に腰掛ける。
そして、なのはとフェイトは、店内の席で座って話し始めた。
「人も捨てたもんじゃないわね……。」
プレシアは、ユーノからの連絡があるまで、なのはの母と久しぶりの世間話をするのだった。
…
数時間後……。
場所は、時空管理局の艦船アースラの一室に移動する。
畳や提燈など、何処か日本を思わせる小さな部屋。
そこは、艦長リンディの部屋だった。
中ではリンディと向かい合って、プレシア、フェイト。
そして、ジュエルシードについての会話が始まる。
「まずは、これをお受け取りください。」
プレシアは、『粗品』と書かれた箱をリンディにお辞儀しながら渡す。
「これは、ご丁寧に。」
リンディは、その箱をお辞儀しながら受け取る。
稀代の大魔導師と時空管理局の艦長のこのやり取りは、貴重なのかもしれない。
フェイトは、少し緊張しながら、そのやりとりを見ていた。
リンディから、プレシアに話し掛ける。
「早速ですが、ジュエルシードのことについてお伺いしたいのですが、
お聞かせ願いますでしょうか?」
「こちらとしては、回収したジュエルシードは、
そのまま時空管理局に届け出るつもりです。」
「届け出る?」
「ええ。
あくまで、私達は、ジュエルシードを拾っただけですから。」
「…………。」
リンディは、プレシアの言葉でシナリオを理解した。
つまり、大人しくジュエルシードを返すから、聞くな触るなということだ。
リンディは、少し困った顔をすると決心して話す。
「難しいことを簡単におっしゃいます。
でも、そうなるように善処しますわ。
最初の原因は、輸送船の事故ですから、
非があったのは、こちら側ですからね。」
「……管理局にも話せる人間は居るのね。」
「は?」
「あ、いえ。
一応、管理局に勤めてたこともありまして、
その時の対応から、人間嫌いになったというか……。
まあ、そういった経緯があります。」
「そうですか。
管理局も一枚岩ではないので、
中には強引な手段を取る方もいますから。」
「その様子だと、経験談がありそうですわね?」
「それは……企業秘密ということで。」
「…………。」
「「おほほほほほほほ……。」」
(昔と変わってないみたいね。)
(昔から、そうだったみたいね。)
再度、リンディとプレシアの視線が合うと二人は笑い合う。
(何か怖い……。)
フェイトは、時空管理局の裏事情を見た気がした。
…
話は、滞りなく進み、特に法的な手段も取られることなく、ジュエルシードを返還することだけで話は収まりそうだった。
プレシアが、フェイトに声を掛ける。
「フェイト。
回収したジュエルシードを出してくれる?」
「はい、母さん。
・
・
バルディッシュ……。」
『Yes Sir.』
バルディッシュに封印されていたジュエルシードが、フェイト達の前に姿を現す。
「え?」
「は?」
「うそ?」
バルディッシュが吐き出したジュエルシードの数が三十を超えている。
「あの、ジュエルシードって……こんなに?」
フェイトの質問にリンディが額を押さえる。
「情報だと二十一個……。
そのうち、こちらで海から回収したのが六個。
なのはさんが集めてくれたのが七個。」
「…………。」
「「「数が合わない……。」」」
プレシアは、バルディッシュの周りを回っているジュエルシードを注意深く観察する。
「これ、ジュエルシード以外のロストロギアも混ざってない?
ジュエルシードは、ひし形だけど、
これなんかは、楕円形の形をしてるわよ。」
「そういえば……。」
「あの子、どうやって回収してたのかしら?」
フェイトは、暗い影を落として語り出す。
「もう一人の私は、魔力感知出来ないから……。
主に拾い集めてて……。」
「拾う?」
「信じられないかもしれないけど、
都合よく落ちてるのを拾うだけ……。」
リンディとプレシアが額を押さえる。
「じゃあ、何?
この地球には、ジュエルシード以外のロストロギアも、
散乱して散らばっていたの?」
「多分……。
もしくは、もう一人の私のトラブルを起こす能力が原因かも……。」
「ま、まあ、兎に角……。
予想以上のロストロギアの発見は、
管理局も、願ったり叶ったりですから。」
フェイトとプレシアは、何処か納得いかないと溜息を吐き、リンディは、苦笑いを浮かべた。
こうして、グダグダの展開でジュエルシード事件は、幕を閉じようとしていた。
…
長い一日が終わり、フェイトとプレシアは、地球で一泊してから、時の庭園へと戻ることにした。
そして、刃牙だらけの本棚のある自分の部屋で眠るフェイトは、夢を見ていた。
「もう一人の私……。」
「うん……。
今から眠りにつくから、最後の挨拶に来た……。」
「少し寂しいな……。」
「ありがとう……。
フェイトにそう言って貰えると擬似人格冥利に尽きる……。
そして、最後のお願い……。」
「出来ることなら、何でもするよ。」
「うん……。
とっても、簡単なこと……。
いつも笑っていられる生き方をして欲しい……。」
「え?」
「あたしは、眠るけど……。
フェイトの行動が夢になる……。
フェイトが笑っていれば楽しい夢だし、
泣いていれば詰まらない夢になる……。
だから、今までみたいに俯くことが多いと困る……。」
「……ごめんね。」
「うむ、許してあげる……。
でも、これからは心掛けて……。
あたしの何分の一でもいいから楽しんで……。
・
・
プレシアが居る……。
アルフが居る……。
アリシアが居る……。
そして、友達も出来た……。
もう、大丈夫だよね……?」
フェイトは、静かに頷いた。
「うん……大丈夫。」
「良かった……。
安心して眠れる……。
その棚の本は、フェイトにあげる……。」
「要らないよ……。」
「残念……。
フェイトには魔法少女より、
グラップラーを目指して欲しかった……。」
やさぐれフェイトの冗談に二人は笑い合う。
「じゃあ……。」
「ありがとう。」
フェイトの呼び掛けにやさぐれフェイトは、微笑んで返すと消えていった。
…
数年後……。
管理局に入り、なのはと同じ飛ぶ空で、フェイトに次元犯罪者の魔法弾が直撃した。
「フェイトちゃん!」
心配するなのはの声を余所に、晴れ始める煙から除く邪悪なフェイトの笑み。
「おやおやおやおや……。
ゆっくり寝ていることも出来ない……。」
なのはは、独特のしゃべり方と目の下のクマに戦慄する。
「ま、まさか……。」
「ちゃんとフェイトの説明書を読まなかったみたいだね……。
『頭は狙っちゃいけません』って書いてあるのに……。」
悪魔は、フェイトがピンチになると舞い降りる……。
呼び出さなければ、ただの気絶で済んだのに……。
何年かに一度、次元犯罪者の断末魔が響く……。
そして、それは基礎理論を生み出した人も例外ではなかったりする……。