== 魔法少女リリカルなのは ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==
目の前で、確かにジュエルシードは封印され、バルディッシュに吸い込まれた。
しかし、バルディッシュの発した言葉が耳に残る。
「が、がってんだ?」
「『がってんだ!』って、言った……。」
「何これ?
また、あんたが、何かしたのかい?」
「今回は、冤罪……。
でも、きっと、あたしのせい……。
正直、今回の設定はショック……。」
「だよね……。
私だって、自分の目覚まし時計が、
ある日、ベルを鳴らさずに『がってんだ!』なんて言ったら、
ショックだよ……。」
フェイト → やさぐれフェイト:
バルディッシュが、日本語使用になるらしい。
第5話 やさぐれと白い服の少女①
とりあえず、その日は、それ以上は深く追求しないで終わりにすることにした。
アルフは、ジュエルシード探索の疲労で深い眠りにつき、やさぐれフェイトは、借りて来たDVDを制覇。
そして、アルフが寝ていることをいいことにインターネットの通販を利用して、刃牙のコミックを一揃い注文した。
…
翌日……。
やさぐれフェイトも、アルフも、十時近くまで起きれなかった。
その安眠を破ったのは、宅配業者の人間だった。
眠い目を擦り、やさぐれフェイトは、刃牙のために玄関へと向かう。
代金引換で商品を受け取ると、アルフが起きる前に自分の部屋へと急ぐ。
が……見つかった。
「おはよう……。」
アルフのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。
「朝っぱらから、何をしてるんだい!」
「ううう……。
不可抗力……。
これは、フェイトを立派な魔法少女にするための必需品……。」
「嘘をつくな。」
「嘘じゃない……。
この本を読んで、
フェイトは、新卍や新コブラを駆使して、
悪の魔法少女をやっつけていく……。
そんなサクセスストーリー……。」
「っなわけあるか!」
アルフのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。
「これが大人のやることか……。
アルフ……。」
「大人の躾だよ。」
「そうやって、暴力に訴えるのはよくない……。」
「だったら、まず、理解出来る言葉で説得してごらんよ。」
「世紀末に起きる核戦争のせいで、あらゆる武器が失われる……。
魔法も例外ではなく、力こそ全ての時代がやって来る……。
そんな時代を生き残るため、
魔法少女として目覚めたフェイトは、刃牙を読み込んで技を覚える……。
そう……。
この本は、フェイトが生き残るのに必要な戦い方が詰まっている……。」
「中身は、刃牙のコミックか。」
「誘導尋問とは卑怯な……。」
「いい加減にしなよ。
フェイトが意識を取り戻した時に
自分の本棚が刃牙だらけになってたら驚くよ。」
「嬉しくて……?」
「悲しくて!」
「理解の相違……。
でも、これは譲れない……。」
「明日、捨てるからいいさ。」
「そうしたら、生活費全てを刃牙に注ぎ込む……。」
「その本にどんな魅力があるんだい……。」
「DVDを見れば分かる……。」
(何処かずれてるよね……。
この子……。)
アルフは、家中が刃牙だらけになるのを避けるため、捨てるのだけは我慢した。
そして、二人で朝食を取ると、昨日、先延ばしにしたもう一人の魔法少女に会うために家を出た。
…
私立聖祥大附属小学校:十一時少し過ぎ……。
やさぐれフェイトとアルフは、校門の前に居る。
校舎の中に居る生徒の制服が、あの時の少女を連想させる。
「間違いなさそうだね。」
「うん……。」
「後は、ここら辺で、アイツが出て来るのを待つだけだね。」
「うん……。
・
・
今、立った子……。
似てる……。」
「どれ?」
やさぐれフェイトは、校舎の真ん中を指差す。
「間違いないね。
アイツだ。」
「少し見て来る……。」
「バレないようにね。」
「任せて……。」
やさぐれフェイトは、学校に入ると件の少女の居たクラスの下まで歩いて行く。
そして、壁に張り付いた。
…
アルフの顔が引き攣る。
「ま、まさか……。」
アルフは、嫌な予感がした。
そして、それは現実になる。
やさぐれフェイトは、校舎でロッククライミングを始めた。
アルフが校門に手を着き項垂れる。
「私が馬鹿だった……。
あの子を信じていいわけないじゃないか……。
・
・
何で、命綱なしで登っちゃうのさ……。」
…
やさぐれフェイトは、壁を素手で登ると目的のクラスの窓まで辿り着く。
そして、ビタンッと張り付く。
教室の中では、窓の外から頬を押し付ける金髪の少女のせいで、阿鼻叫喚の叫び声が木霊する。
…
アルフは、頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「もろバレじゃないか……。
何やってんのさ……。」
…
教室の中では、泣き出す子や窓から離れようとして転ぶ子など、大パニックになっている。
そして、やさぐれフェイトと件の少女と目が合った。
やさぐれフェイトは、にやりと笑う。
そして、窓を開けた先生に捕まった……。
「あなた!
何をしているの!」
「…………。」
「何とか言いなさい!」
やさぐれフェイトは、件の少女から視線を先生に移す。
そして、ゆっくりと口を開く。
「ワタシハー ココニキタバカリノー
ガイコクジンダヨー
キノー タスケテモラッター
アノコガミエテ ココマデキタヨー」
外国人による似非外国人だった……。
件の少女の友達のグーが炸裂した。
「分かり易い嘘ついてんじゃないわよ!」
「何故かバレた……。
ボビーより、イケてると思ったのに……。」
「あんた!
教室を恐怖に陥れて、何のつもりよ!」
やさぐれフェイトは、件の少女を指差す。
「あの子に用があるの……。」
友達の少女が振り返る。
「なのはに?」
「そう……。」
やさぐれフェイトは、にやりと邪悪な笑みを浮かべる。
一方の指を差された少女は青ざめる。
念話でパートナーのフェレットと会話をしたからだ。
内容は、次になる……。
…
『ユーノ君、この前の子が来てる……。』
『え?』
『この前のこと謝らないと……。』
『なのは!
それどころじゃない!
彼女がそこに来たということは、
君の友達を全員人質に取られたってことだよ!』
『!』
…
なのはと呼ばれた少女は、緊張で顔を強張らせる。
もしかしたら、ここで魔法少女としての正体を曝さないといけないかもしれない。
最悪は、ここで目の前の少女が暴れて、誰かを傷つける行為に出ることだ。
やさぐれフェイトが語り掛ける。
「少し話しがしたいんだ……。」
なのはが頷く。
「色々とお礼も言いたいし……。」
なのはは、少し考えると先生に声を掛ける。
「昇降口まで、案内します。」
「高町さん。
どういう関係なの?」
「それは……。」
やさぐれフェイトが割り込む。
「悪い人に頭を殴られたところを助けて貰ったんです……。
・
・
ね……。
悪い人に……。」
なのはは、俯く。
「はい……。」
「そうなの?
・
・
でも、勝手に余所の学校に入っちゃいけないのよ。」
「すいません……。
やっと、見つかったもので……。」
なのはは、やさぐれフェイトの遠回しの言い回しに恐怖を覚える。
今の会話は、遠回しに『頭を殴ったお前を見つけた』と言っているからだ。
「じゃあ、案内してくれる……?」
やさぐれフェイトが、なのはの手を握る。
なのはは、その手が酷く熱く感じる。
自分の手が冷たくなっているのだ。
「少し席を外します……。」
なのはは、やさぐれフェイトの手を引いて、教室を後にした。
…
昇降口で、なのはは、やさぐれフェイトから慌てて手を放した。
そして、身構えながら気丈に話し掛ける。
「い、一体、何しに来たの!」
「何しに……。
君に会いに……。」
「み、皆を傷つけるなら、
今、ここで戦うよ!」
やさぐれフェイトは、笑い出す。
「そんなことしないよ……。
ちょっと、からかっただけだよ……。」
「…………。」
やさぐれフェイトは、頭を指差す。
「気になってたんじゃない……?」
「う、うん……。」
「それに何か言いたそうだったし……。」
「聞いてくれるの?」
「うん……。
あたしは、フェイトより真剣じゃないからね……。」
「?」
やさぐれフェイトの言い方に、なのはは、首を傾げた。
「今日の放課後……。
会えないかな……?
何処でもいいよ……。」
「じゃ、じゃあ、公園!」
「分かった……。」
やさぐれフェイトは、踵を返す。
その後姿になのはが叫ぶ。
「あ、あの!
ごめんなさい!」
やさぐれフェイトは、振り返ると頭をガシガシと掻く。
頭には、くせ毛が出来る。
「それ、あたしに言っても、
あまり意味ないんだよね……。」
「え?」
「まあ、それも含めて話すよ……。」
やさぐれフェイトは、私立聖祥大附属小学校を後にした。