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No.25868の一覧
[0] 【インフィニット・ストラトス】織斑一夏は誰の嫁?(全員性別反転:ALL TS)[SSA](2011/02/20 22:40)
[1] 第二話[SSA](2011/02/23 00:21)
[2] 第三話[SSA](2011/02/09 00:27)
[3] 第四話[SSA](2011/02/23 00:21)
[4] 第五話[SSA](2011/02/23 22:31)
[5] 第六話[SSA](2011/02/12 01:32)
[6] 第七話[SSA](2011/02/13 20:45)
[7] 第八話[SSA](2011/02/14 01:05)
[8] 第九話[SSA](2011/02/16 01:06)
[9] 第十話[SSA](2011/02/17 21:54)
[10] 第十一話[SSA](2011/02/21 21:18)
[11] 第十二話[SSA](2011/02/25 01:53)
[12] 第十三話[SSA](2011/03/04 23:54)
[13] 第十四話[SSA](2011/03/19 23:37)
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[25868] 第十一話
Name: SSA◆ceb5881a ID:29b98ec4 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/21 21:18



 時間は前後してしまうが、鈴栄という乱入者が現れた昼休み。

 ちなみに、鈴栄は、セシルに宣戦布告した後、すぐにチャイムが鳴ってしまったので、彼は自分の教室へと戻ってしまった。クラスを引っ掻き回すだけ引っ掻き回して帰るとは、まるで台風のような少年だ、とは箒の感想だ。

 授業で使っていた教科書などを机の中に仕舞っていた一夏の机の周囲に二人の人影が現れた。箒とセシルの二人だ。

「一夏っ! あの小猿は一体誰なんだ?」

 最初に間髪おかずに切り出したのはセシル。おそらく、彼はずっと気になっていたのだろう。授業中も上の空で、何度か真耶か千冬に怒られていた。それでいいのか? と一夏は思う。もっとも、その様子から彼が鈴栄のことを気にしていることは容易に想像できたので、昼休みに聞き出しに来ることも織り込み済みだった。

 もう一人、無言でセシルの隣に立つ箒を見ても、セシルと同様の事が言いたげな様子は、なんとなく分かった。

 セシルは予想していたが、まさか箒まで、とは思ったものの、一人が二人に増えたところで、説明の手間は同じだ。二度手間になるよりも同時に聞きに来てくれたほうが、二度手間の手間は省けたが。

「説明してあげるけど、学食で良いわよね?」

 ここで説明してから行くとなんとなく時間が経ちそうな気がした。それならば、食べながら話したほうが時間の節約になるということだ。

 一夏の提案に彼らとしては話が聞ければいいのだが、否と答えるはずもなく、コクリと肯定すると場所を学食に移すために三人連れたって、教室から移動した。

 さて、三人だけで移動するのだが、一夏が入学してから一ヶ月たとうというのに、一夏に対する視線は一向に減らない。どんな美人でも三日で飽きると聞いた事があるのだが、それは気のせいだろうか。しかも、彼らも彼らで遠巻きに見るのみで害はない。害はないが、気にある。

 しかも、人がごった返すはずの学食へと続く廊下。しかしながら、一夏の前に人は存在しない。モーゼのように人の波が自然と避けてくれるのだ。だから、一夏はまっすぐ歩くだけで、そこに道ができる。セシルと箒もそのおこぼれに預かるように一夏の両サイドを堂々と歩いている。

 彼らにも視線が集まっている―――もちろん、一夏へ向けられるような好奇心、好意的なものではなく、嫉妬的なものである―――のだが、彼らは一切気にする様子はなく、一夏の隣にいるのが当たり前のように一夏の隣を歩いていく。傍から構図だけを見れば、それは、お姫様を守る騎士のようにも見えるのだが、幸いにして一夏本人はそのことに気づいていなかった。

 その状態は、学食に来てからも同様だ。学食の食券を買うために並ばなければならないが、それ以外は、自然と道が開く。

 一夏の今日の食事は、きつねうどんだ。一夏にとってIS学園の定食、ランチメニューは鬼門だった。量が男子用であまりにも多いからだ。だからといって、箒に食べてもらうような荒業は何度も使いたくない。まだ、調理器具などが実家にあるため、弁当を作ることは難しいが、そのうち実家に帰って調理器具を持ってこようと一夏は心に決めていた。

 それまでは、仕方なく食べ切れそうなうどん、そば系を選んでいた。器が同じだから丼物でも大丈夫かな? とは思ったのだが、それは儚い幻想。丼物も他のメニューと勝らず劣らず、量がすごいことになっていた。おそらく、考えなしに食べると一夏の体重は増えてしまうだろう。

 一夏の後に食券を買ったセシルと箒の食券を見てみれば、セシルは洋食ランチ、箒は和食定食だった。ここのところは、大体二人と一緒にご飯を食べているが、彼らのお昼は大体、同じメニューだ。飽きないのだろうか? とは思うのだが、毎日うどんものばかりを食べている一夏がいえる台詞でないことは確かだった。

 一夏が、彼に気づいたのは、食券を出し、うどんを受け取って、席を探すために食堂の席が並ぶエリアに目を向けたときだった。

「あっ! 一夏っ! 待ってたよっ!!」

 IS学園の制服に包まれた小柄な男の子。今朝の一組で疾風のように現れ、クラスをかき乱していった鳳・鈴栄だ。

「あら、鈴。もしかして、待ってたの?」

「そうだよっ! ずっと待ってたんだからねっ!」

 一夏の下へと近づいてきて、そう主張する鈴。待っていてくれたのは、おそらく彼なりに積もる話もあるからだろうが、それならば、それで、なぜ学食なのだろうか。教室に来たほうがよかったのではないか、と思う。それになにより―――

「鈴、あなた、相変わらずラーメンが好きなのは結構だけど、わたしを待ってたら伸びるんじゃない?」

 鈴栄は、一夏たちを待っておきながら両手にお盆を持っており、その上にはラーメンの丼が鎮座していた。

「わ、分かってるよっ! 一夏はもっと早く来ると思ってたんだよっ!」

「はいはい、悪かったわよ。それよりも、早く座って食べましょう。わたしのもうどんだから伸びちゃうわ」

 そういいながら、一夏は適当な席を見つけて座る。本当なら対面の二席しか空いていなかったが、一夏が座った瞬間、周囲の食べ終わっている男子は、そそくさと立ち上がって席を離れる。あと少しで食べ終わるという男子も急いでかっ込んで、無理矢理昼食を終え、そそくさと立ち上がって食堂を後にする。

 結局、一夏の周囲には座っている男子はおらず、混雑しているはずの学食に奇妙な空白スペースができた。

「うっわぁ……」

 そんな光景をどこか残念なものを見るような目で見る鈴栄。一方、一夏はその光景を見ても平然としていた。なぜなら、最初の頃は、驚いていたが、もはや慣れた光景だからだ。こんなことを気にしていたら、IS学園ではやっていられない。

「どうしたの? 座りなさいよ」

「う、うん」

 どこか戸惑いながら、鈴栄は一夏の正面に座る。

「ふむ、やはり一夏がいる場所は分かりやすいな」

「確かに、見つける手間は省けるな」

 そういいながら、一夏の両サイドに座る箒とセシル。手にはそれぞれの昼食がお盆の上に乗っていた。

 全員が座ったのを見たのか、一夏が代表して、「いただきます」と手を合わせ、食べ始める。鈴栄とセシルは日本人ではないのだが、鈴栄は元々が日本に住んでいたこともあり、こういった礼儀作法は知っている。セシルは、本来祈りを捧げていたのだが、郷に入っては郷に従え、というべきなのだろうか、祈りを捧げるには違いないと、一夏の作法に合わせていた。

「それで―――なぜ、小猿がここにいる?」

「小猿言うなっ!」

 食べ初めて早々、セシルが敵でも見るような視線で―――正確にはクラス対抗戦で戦うかもしれないのだが―――本来ならここにいるはずのない鈴栄について尋ねる。鈴栄が、セシルの鈴栄への呼称に腹を立てるが、セシルは治すつもりはないようだ。

「セシル、鈴が嫌がってるから、その呼び方、やめなさい」

「うっ! ………分かった。一夏がそう言うなら……」

 一夏は、人が嫌がることを続けるのが嫌いだ。鈴栄が自分の身長が低いことを気にしていることを知っているだけにセシルに注意する。なにより、彼がコンプレックスになっているであろうことを攻め続けると学食で乱闘が起きかねない。一夏の周囲で起きた乱闘ともなれば、千冬に迷惑をかけるかもしれないで、早いうちに芽を摘んでおく必要があった。

「それで、そろそろ、鳳と一夏の関係を教えてくれないか?」

 ずずずっ、と味噌汁を吸った後、箒が焦れた声で、一夏に尋ねる。周囲もいつもは一夏の周囲には二人しかいないはずの男子が一人増えて関係性が気になっているため、聞き耳を立てていたのだろう。一夏に集まる視線がまた一段と増えたような気がする。見るな、聞くな、とは言わないが、せめてもう少し隠れて聞いてくれないものか、と一夏は思う。その環境に慣れてしまっている自分も嫌だったが。

「幼馴染よ。つい一年前までは同じ学校だったの。箒が引っ越したのが、四年生の終わりだったかしら? その後に入れ違いに転入してきたのが鈴よ。まあ、鈴も一年前に一度、国に帰ったから、一年ぶりの再会ね」

 あぁ、そういえば、二人って面識ないのよね、と説明しながら思った。

「それで、彼もわたしの幼馴染。前に話したことあるでしょう? 剣道場の息子さんよ」

「ふぅん、そうなんだ」

 一夏の説明に鈴栄は、どこか興味深げに箒を上から下まで見た後、にっ、と笑うと箒に向かって右手を差し出した。

「はじめまして、これから、よろしくっ!」

「ああ、こちらこそ」

 箒が、箸をおいて鈴栄の右手を握る。一夏から見て、その二人の間に火花が散ったような緊迫感を感じたが、一夏には理由が分からなかった。そういえば、鈴栄は、昔から身長をコンプレックスに思っていたから、男子の中でも頭一つ高い箒に対してライバル心でも持っているのだろう、と一夏は思った。

「後、こっちがセシルなんだけど……もう、説明はいいわね」

「そうだね」

 一夏としては、朝からあれだけやりあったのだから、十分だろう、という考えから。鈴栄からしてみれば、クラス対抗戦の対戦相手ではあるだろうが、それだけだ。特に興味もなかった。

「おいっ! ちょっと待てっ!」

 そんな一面もあったが、比較的、穏やかに昼食は進む。もっとも、話しているのは一夏と鈴栄の二人だけだが。なにせ、久しぶりの再会なのだ。思い出話に花を咲かせるのは当然のことであり、思い出話にセシルと箒が割って入れるはずもなかった。

 そして、不意に思い出したことがあった。理由は、昼食を食べていたからだが。

「ああ、そういえば、わたし、鈴に約束してたわよね」

「えっと……なにか約束してたっけ?」

「なに、自分で言って忘れてるのよ。ほら、転校する前に『今度会ったら、ずっと僕に酢豚を作ってくださいっ!』って、約束よ」

 えっ!? 覚えていてくれたんだ、と言いたげに驚く鈴栄と不意に一夏が口にした『約束』の意味を理解して、思わず食後に飲んでいたお茶を噴出しそうになって咽る箒とセシル。

 突然の彼らの行動に一夏は、なにしてるのよ、と苦言を言うが、三人には一夏の声は聞こえていなかった。

「い、一夏……もしかして、本当に作ってくれるの……?」

 どこか不安げにおずおずと尋ねてくる鈴栄。なぜ、そんな風に弱気に聞いてくるのだろうか? と思いながらも一夏は答えた。

「ええ、そんなにわたしの酢豚を気に入ってくれたなら、作ってあげるわよ。作り手としては食べてくれる人が、そこまで気に入ってくれるのは嬉しいからね」

 やっぱり、とどこか落胆した様子でがくっ、と肩を落とす鈴栄。そんな彼を先ほどまでの対立はどこへやらセシルと箒が、肩を叩いてなぜか不憫そうな顔で無言のまま慰めていた。もちろん、一夏にはその意味が分からず、なぜだろう? と小首を傾げるのだった。



  ◇  ◇  ◇



 鈴栄の転入から数週間後、ついにクラス対抗戦の当日がやってきた。

 今日もアリーナは満員御礼だ。話題の的であった一夏が出ないのは、クラス対抗戦の客足に影響するかと思われたが、それは杞憂だったようだ。なぜなら、一夏の代わりにセシルが出ている。そして、もう一人、鈴栄も。そもそも、一学年に国家代表候補、しかも、専用機持ちが二人もいる事が珍しいのだ。

 確かに先日の一夏とセシルの模擬戦も専用機同士の戦いだったが、一夏は初心者、セシルは兵装制限というIS同士の模擬戦としては迫力に欠けるものだった。

 しかし、今日は専用機―――しかも、最新鋭の第三世代のガチンコの戦いだ。将来、ISに関わるものとして気にならないわけがないだろう。

 実際、その戦いを意識しているのだろう。セシルと鈴栄の戦いは、トーナメント制になっているとはいえ、決勝戦でなければ、ぶつからないようになっている。運営の学園曰く、厳正なる抽選結果、と言っているが、嘘であることは間違いない。だが、誰も文句は言わなかった。なぜなら、従来のように第一試合で、専用機同士の戦いで終わってしまうなどつまらないからだ。

「……それで、この人の数なのね」

 ややうんざりしたように一夏はアリーナの客席に埋まる人の数を見て言う。だが、隣にいる箒は涼しい顔をしているものだ。ある意味、当然だと思っていたのだろう。箒が入学した理由は、周りのものとは異なるものの、男として、最新鋭のISの戦いと聞いて胸おどろらないわけがなかった。それが、自ら志願した彼らなら尚のことだ。

「二年生の先輩が『指定席』を売りさばこうとして千冬教官にばれたらしい」

「―――結末は聞きたくないわ」

 なんて馬鹿なことを……と一夏は、名前も知らない先輩達の冥福を祈る。しかし、それも少しの間だ。今は、それよりも自分達の席を探すほうが先決だった。もっとも、アリーナの全席を埋め尽くしてしまうのではないだろうか、と思えるほどの人の山なのだ。果たして、一夏たちが座る場所が残っているかどうか、と一夏は心配したのだが、それは杞憂だったようだ。

「問題ない。席は取ってある」

「え? どこに?」

「お~い、しのの~ん」

 心配そうにアリーナの端からどこかに席が空いていないか、と目を凝らす一夏に対して箒はなにも問題はない、と自信ありげに呟いた。まるで、こうなる事が分かってて、先手を打ったように。彼の言葉を証明するように先行してアリーナを歩いていた箒に向かって手を振る一人の人影。

「布仏、すまない」

「いいよぉ~」

 どうやら、席を確保してくれたらしい彼の名前は布仏というらしい。

 彼は一夏よりも若干高い身長で、特徴的な喋り方をしている。そののんびりとした喋り方同様、制服の袖もどこか手が完全に隠れてしまうほどに長く、裾もまた長い。のんわかとした彼の表情は、周囲を和ませ、時間さえものんびりしたものに感じられるだろう。

「挨拶するのは~、はじめてかなぁ~? 布仏本音だよぉ~」

「あ、織斑一夏よ。えっと……布仏君」

「うん、わかった~、おりむ~さん、って呼ばせてもらうねぇ」

 えへへ~、と緩い顔で笑う本音。ゆるきゃらが実在したら、こんな感じかしら? と思い、思わず可愛いっ! と抱きしめたくなるが、それを自重する。さすがにこんなところで抱き付きなどしたら、視線を集めるどころの騒ぎではない。現にアリーナに入っただけで、周囲がざわついたのだから。今も、前後の席では、一夏の姿を見てざわついている。

 もっとも、人気のない場所だと分からなかったが。

「何をしてるんだ? そろそろ、始まるぞ」

「あ、そうね」

 本音の緩い表情にやられた一夏は、呆けてしまったが、それを一夏に指摘されて、正気に戻った一夏は、本音が確保してくれた席のうち、箒の隣に座る。

 一夏が、着席したのが、ちょうど、クラス対抗戦の始まりだったようだ。学園長と思われる男性の短い開会の挨拶と共に今年度のクラス対抗戦は始まりを告げるのだった。



  ◇  ◇  ◇



 最初は、一年生のクラス対抗戦から始まる。しかし、このクラス対抗戦は下馬どおりに進んだ。特に多くの事故もなく、大逆転もなく、淡々と決勝戦まで進んでしまった。だが、周囲の観客はそれでも構わなかった。なぜなら、それこそが彼らの求めた戦いなのだから。

 一時間もたたないうちにほとんどの試合が消化されてしまうという異常事態の中、決勝戦が始まる。

『では、これより、決勝戦を始めます。まずは、Aピットから二組代表―――鳳・鈴栄』

 観客の歓声に応えるように手を振りながらAピットから、とてもISを操縦するような体格とは思えない小柄な男の子と称してもいい男子が出てきた。

 彼は、一呼吸おいて、待機状態のISである腕輪を見せ付けるように右手を掲げると高らかに宣言した。

「『咆哮せよっ! 甲龍(シェンロン)っ!』」

 鈴栄の声と共に展開されるIS。量子化の光が収まった後には、赤みがかった黒い装甲に包まれた鈴栄の姿があった。

 これこそが、中国の第三世代型ISである『甲龍』。一般的なISに見られるような鋭角的なフォルムは変わらないが、その両肩には、不気味に漂う非固定型のユニットが特徴的であり、肩の棘付き装甲が攻撃的な印象を与えるISだった。

 彼はピットの端で装甲を展開すると中央に向かって跳んだ。決闘を約束した相手を待つために。

『続きまして、Bピットから一組代表―――セシル・オルコット』

 こちらは、鈴栄とは異なり、金髪の美男子だ。彼も同様にリストバンドのようになっている蒼いリングを見せ付けるように掲げると鈴栄と同様に宣言する。

「『舞い踊れっ! ブルー・ティアーズっ!』」

 彼の言葉に呼応するように蒼いリストバンドが光り輝き、内包しているISを展開する。光が収まるとセシルは、蒼い装甲に包まれていた。

 これが、イギリスが誇る第三世代ISである『ブルー・ティアーズ』。一夏と模擬戦を行ったときと異なることといえば、ビットを格納した部分とは別に今回は自分の身長ほどもある銃を持っていることだろうか。

「やあ、君が言った決闘をやろうか」

 少し離れた位置から最初に通信を入れたのは甲龍を装着した鈴栄だった。よほど自信があるのか、彼の顔には不敵な笑みが浮かんでいた。

「ふん、小猿ごとき、このブルー・ティアーズで落としてくれるわ」

 自信があるのはセシルも同じことだ。故に浮かべる笑みは自然と鈴栄と同じような笑みになる。

 お互いに一言述べた後は、無言。お互いに分かっているからだ。これ以降の言葉は意味を成さないと。語るべきはISによる腕のみ。それだけがお互いのプライドを証明するものだった。

『それでは、決勝戦。セシル・オルコットVS鳳・鈴栄―――始めっ!!』

 開始を告げるアナウンスと同時に両者は一斉に動き出した。だが、お互いの動きは、それぞれ対照的だった。

 ブルー・ティアーズのビットを切り出すセシルに対して、双天牙月を両手に装備して突っ込んでくる鈴栄。しかしながら、鈴栄の懐に入ろうとする思惑は、切り離されたビットからのビームによって阻まれることとなる。

 ある種、当然の攻防戦だった。中距離主体のセシルに対して、近距離主体の鈴栄。鈴栄の勝利条件は近接戦闘に持ち込むことだろうし、セシルの勝利条件は遠距離からのなぶり殺しだ。

 よって、試合の形は大まかには崩れることはない。懐に入ろうとする鈴栄とそれを阻むセシル。もしも、セシルが動かないまま、鈴栄の突撃を阻むのであれば、何も面白いことはないだろうが、お互いに高速で移動しながら、それを繰り返す。鈴栄が一瞬のタイミングで懐に入ろうとすれば、拒むためのビームが発射される。

 ここで、何人が気づいただろうか。セシルがビットを操りながらも移動できている事実に。

 一夏との模擬戦のときは、ビットに命令を出しながら移動することはできなかった。しかし、今の彼にはそれができていた。鈴栄との模擬戦が決まったときからの特訓が実を結んだ形だ。そして、その成果は、鈴栄が容易に近づけない原因だった。

「……ふ~ん、よくやるね。やっぱり、これだけじゃ無理か」

 何度目かの突撃を繰り返した後、鈴栄が、双天牙月を指しながら、感心したように言う。

「ふっ、小猿が。国家代表候補を舐めるな。それだけで、本当に俺の相手ができると思っているのか」

 セシルの言葉に少しだけ鈴栄が、驚いた表情をする。つまり、セシルはこういっているのだ。

 ―――本気を出せよ。小猿、と。

 よくよく考えてみれば、確かに鈴栄は双天牙月しか使っていない。今まではそれで十分だっただろう。第三世代という機動性が双天牙月の近接戦闘のみという点をカバーしていた。だが、同じ第三世代で、国家代表候補には、それは通用しない。ならば、隠し札を出さざるを得ないはずだ。そう、セシルは言っているのだ。

「そうだね。それじゃ……遠慮なくっ!!」

 鈴栄がそういった瞬間、甲龍に装備されている非固定型のユニットが輝き、次の瞬間、本当に勘としか言いようのない感覚で、セシルが動いた。次の瞬間、セシルがいた場所の背後で、衝撃音が響いた。

「なにっ!?」

 セシルからしてみれば、驚きだ。何も見えなかったのにも関わらず、何かが破裂したような音が聞こえたのだから。

「ふふんっ! どうだっ!? 驚いたかっ! これが中国第三世代型『甲龍』の切り札、『龍咆』だ!」

 得意げに言う鈴栄。しかし、彼が得意になるのも、セシルは理解できた。なぜなら、龍咆は見えない。弾も砲身も。その原理は一発程度見ただけでは分からないが、砲身が見えないということは、どこを狙っているか予測できないということだ。それは、避けることを難しくしていた。

「ほらほらっ! いくよ!」

「ちっ!」

 セシルが驚いている事が分かったのか、鈴栄は、調子に乗ったように次々と龍咆を放ってくる。それをセシルは、小刻みに方向を変えることで何とか避ける。

「へぇ、よく避けられるね。龍咆は、砲身と弾が見えないのが特徴なのに」

 自分でも良く避けられたものだ、とセシルは思う。セシルが龍咆を避けられたのは勘だ。射撃に関して言えば、セシルの方に一日の長があることは間違いない。だから、自分が撃つとして、どこを狙うかを考えて避けているのだ。もしも、セシルが射撃特化でなければ、完璧には避けられなかっただろう。

「調子に乗るなよっ! 小猿がぁっ!」

 セシルが吼えると同時に、今まで動きを止めていたビットが動き始める。四つのビットが幾何学的に動き、鈴栄を狙い始める。

「おっと」

 龍咆を撃つのをやめて避けに専念する。さすがに四つのビットに狙われて避けながら龍咆を撃てるほどの余裕はない。しかし、逆に言えば、集中さえすれば、四つのビームすら避けられるということだ。そう、今までがそうだった。だからこそ、油断した。

 キュンという音共に頬にビームがかする。なんだっ!? と思って、発射された方向を見てみれば、そこには、レーザーライフルを構えたセシルの姿が。そう、切り札を隠していたのは鈴栄だけではない。セシルもまた、隠していたのだ。ブルー・ティアーズの持つ武装を。

「スターライトmkIII。切り札が貴様だけのものだと思うな」

「へぇ、面白いな。でも、お互いにこれで全部札は切ったでしょう?」

 つまり、ここからが本当の勝負だった。

 お互いに距離は取れている。龍咆を撃つ鈴栄。ブルー・ティアーズで狙うセシル。中距離における射撃戦に舞台は移っていた。

 撃つ。避ける。撃たれる。避けられるが、続く試合展開となった。しかも、それがISが誇る高速機動で行われるのだ。観客達の盛り上がりも最高潮に達していた。

 しかしながら、お互いに切り札を切った以上、これ以上、試合が劇的に動かない。撃ち、撃たれ、避けることに精神力を削っていく戦い。観客からしてみれば、動きはあるものの展開に動きはない退屈なものではあるが、戦っている張本人からしてみれば、一歩判断を誤れば直撃してしまう上に負けてしまう。

 ここまで来て負けられるかっ! というお互いの意地だけが、この戦いを支えていた。

 しかし、試合に終わりはいつだって訪れるものである。

「はぁ、はぁ……強いねぇ。セシル」

「はぁ、はぁ……小猿にしてはやるではないか、鈴」

 殴り合いで仲が深まるのは男の性なのだろうか。戦いの中で、ISの腕を認め合った二人はいつの間にか名前で呼んでいた。呼ばれた本人達も、特に悪い気分ではないようだ。

「だけど、そろそろ、終わるでしょう?」

「それは、貴様も同じだろう」

 セシルは自分のシールドエネルギーを見ながら言う。エネルギー残量が残り少ない。残りは、後一回、ビットを操った一斉正射とスターライトmkIIIによる射撃が行えるかどうか、というところである。そして、それは、龍咆をセシルよりもばかすか撃っていた鈴栄も同じだと思っていた。

 だが、現実はセシルの予想を覆した。

「ふふん、残念。甲龍は、燃費と安定性を第一に設計されていてね。まだエネルギーには余裕があるんだよっ!」

 そういうと同時に龍咆を放ち、今度は近接戦闘を狙ったのか、双天牙月を握って突っ込んでくる。

 龍咆を避けることは容易だった。いくら、話している最中だから、といっても警戒を忘れたわけではなかったから。そして、突っ込んでくる鈴栄に対して、ビットによる追撃を―――できなかった。なぜなら、後一回がセシルのエネルギーの限界だからだ。いつものパターンで攻めれば、すべて避けられて、エネルギー切れで、試合終了に成るだろう。

 だから、セシルは、鈴栄を追撃できなかった。しかし、彼には最後の手が残っている。

「なるほど、ブルー・ティアーズは使えないが……これならっ!」

 そういいながら、袖の部分を展開し、残っていた二機のブルーティアーズを分離し、狙いを定めると鈴栄に残ったミサイルを放つ。これが、セシルの残していた最後の最後の切り札だ。ミサイルは、突っ込んでくる鈴英に向かって飛んでいく。セシルには彼の驚いた顔がはっきりと見えた。

 直後―――爆発。ミサイルの爆発により、爆煙がセシルと鈴栄の間に広がる。

 ―――勝ったっ!

 そう思ったのが、そもそもの間違いだったのかもしれない。不意にセシルの目の前の爆煙が盛り上がり、煙を振り払うように飛び出して来たのは、赤みがかった黒い装甲を持つ甲龍だった。甲龍の操縦者である鈴栄は不敵な笑みを浮かべていた。

「一夏の試合を見てなかったら危なかったよっ!」

 そう、鈴栄は、セシルに対して情報収集を怠らなかった。当然、一夏との模擬戦も見ており、セシルが最後まで取っていたミサイルの存在も知っていた。だが、たとえ知っていたとしても鈴栄には、ミサイルを撃墜する手段はない。双天牙月で切れるだろうが、ダメージは受けるだろう。

 だから、鈴栄も最後まで隠していた切り札を切ったのだ。

『龍咆―――近接拡散モード』

 衝撃波を拡散させるモード。これによって、ミサイルを撃墜し、ミサイルと鈴栄の間に衝撃波の膜を作ることでダメージを抑えたのだ。そして、最後は煙をかいくぐってセシルの懐に入ることに成功した。

「セシル―――あんたは確かに強かったよっ!」

 それが別れの言葉。最後の言葉。勝者の言葉だった。

 振り下ろされる双天牙月。両手から放たれる斬撃は、セシルがもはやインターセプターという近接武器を取り出したところで対処できない。セシルが鈴栄に対して射撃に一日の長があるように、鈴栄はセシルに対して近接戦闘に一日の長があるのだから。

 この試合、初めて鈴栄の攻撃がクリーンヒットする。同時に鳴り響く試合終了のブザー。

 瞬間、今まで試合を見ていた観客が一斉に湧いた。

『試合終了。勝者――――鳳・鈴栄っ!』

 勝者の名前が告げられ、試合は終了するのだった。





つづく









今回のNG
『では、これより、決勝戦を始めます。まずは、Aピットから二組代表―――鳳・鈴栄』
「『咆哮せよっ! 甲龍(シェンロン)っ!』」
『続きまして、Bピットから四組組代表―――ライン・サルフィオ』

「って―――えぇ!? セシル・オルコットは!?」
『準決勝でラインくんに負けました』

 もはや、ギャグキャラでしかない。





あとがき
 さすがにNGは酷いかな、と思いました。


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