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No.25868の一覧
[0] 【インフィニット・ストラトス】織斑一夏は誰の嫁?(全員性別反転:ALL TS)[SSA](2011/02/20 22:40)
[1] 第二話[SSA](2011/02/23 00:21)
[2] 第三話[SSA](2011/02/09 00:27)
[3] 第四話[SSA](2011/02/23 00:21)
[4] 第五話[SSA](2011/02/23 22:31)
[5] 第六話[SSA](2011/02/12 01:32)
[6] 第七話[SSA](2011/02/13 20:45)
[7] 第八話[SSA](2011/02/14 01:05)
[8] 第九話[SSA](2011/02/16 01:06)
[9] 第十話[SSA](2011/02/17 21:54)
[10] 第十一話[SSA](2011/02/21 21:18)
[11] 第十二話[SSA](2011/02/25 01:53)
[12] 第十三話[SSA](2011/03/04 23:54)
[13] 第十四話[SSA](2011/03/19 23:37)
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[25868] 第十三話
Name: SSA◆ceb5881a ID:29b98ec4 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/03/04 23:54


「で? どうなのよ?」

「なにがよ?」

 六月初旬。織斑一夏は、久しぶりにIS学園の外にいた。具体的には、彼女の親友である五反田弾(ごたんだ たま)の家に。

 一夏は、テーブルの上に置かれた久しぶりに見る女性ファッション誌を読み、紅い髪の毛をショートカットにし、一夏とは異なり、特徴的な体格を持っていない弾は、親友が来ているにも関わらず『IS/VS(インフィニット・ストラトス/ヴァースト・スカイ)』を一人プレイで遊んでいた。しかし、彼女は、慣れているのだろう。画面から目を離すことなく、一夏に短すぎる質問を投げてきた。

 その質問に一夏は、男子校ゆえに置いていない女性向けファッション誌に目を落としたまま、質問に質問で返していた。

 一夏の反応に対して、弾は、IS/VSのプレイをスタートボタンで一度止めてから、ニタァと意地の悪い笑みと共に振り返りながら、再び口を開く。

「決まってるじゃない。男子の園、IS学園よ。カッコイイ男いた?」

「カッコイイ男ねぇ……」

 弾に言われて、一夏はお茶と一緒に出されたポッキーをカリカリかじりながら、この春からクラスメイトになった面々を思い出す。確かにカッコイイ男といわれれば結構な人数を思い浮かべる事ができる。余裕がなかったからあまり考える余裕などなかったが、クラスメイト―――というか、IS学園が全体的に容姿が整った面々が多いのではないだろうか。まさか、ISに容姿を判別する機能があるとは思えないが。

「そうね、いるわよ。あ、そういえば、写真あるわよ」

「えっ!? うそっ!? 見せてっ!」

 まるで、にんじんを垂らされた馬のように反応する弾。最初から、そうなる事が分かっていた一夏は懐から携帯電話を取り出すと、写真のフォルダーにアクセスして、はい、と自らの携帯電話を投げた。どれどれ、と携帯電話を操作する弾。当然のことながら、写真のフォルダー以外には目を通さないという暗黙の了解があるのは言うまでもない。

 そのフォルダーの中身を見ながら弾は、時々、きゃ~、という奇声を上げていた。おそらく、好みの男でもいたのだろう。彼女が、テレビなどでアイドルに向かって奇声を上げる様を時々見ている一夏としては気にならない。しばらく放置しておけばいいだろう、とペラッと気にせずに夏物の特集が載っているファッション誌を捲る。

「ふぅ、堪能したわ」

 そういいながら、弾は一夏に携帯電話を返す。

「あんた、あの中で一人なの?」

「そうなのよ。おかげで、気苦労が耐えないわ」

 多数の男の中で、女が一人。これが気苦労しないわけがなかった。視線は集める、ひそひそと話される、一挙一動に気が抜けない。もしも、より取り見取りだとはしゃげる奴がいたら交代したいと心の底から一夏は思う。

 はぁ、とため息をつきながらいう一夏を尻目に弾は、からからと笑う。

「そうよね、シチュエーションだけで言うと、どこのアダルトゲームよ、って話よね」

 弾は笑いながら言うが、実は一夏としては洒落になっていない。そうならないように気を張っているのも気苦労の耐えない理由だ。もっとも、幸いにして箒やセシル、鈴といった面々―――特にセシルや鈴は専用機持ちであるため、弾が言うような可能性はないと思っているが。

「あはは、まあ、それは冗談にしても、あんたの我侭ボディで何人か虜にしちゃったんじゃないの?」

「何言ってるのよ」

 まるっきり馬鹿にした感じで一夏は弾の言葉を突き放す。箒曰く、彼らはある種のシャイボーイだ。確かに遠巻きに見られることはあっても、それはパンダのように見られているだけである。物珍しさはあろうとも、そこにはそれ以上の感情はないだろう。

 しかし、中学校時代から一夏の親友をしてきた弾からしてみれば信じられなかったのだろう。なぜなら、弾の記憶が確かなら、百人切りの一夏の名前は有名だったのだから。彼女が誰からも相手にされないというのは信じられないのだ。

「あれ~? だったら、誰からも告白されてないの?」

「告白なんて―――」

 ないわよ、と言いかけたところで一夏の口は止まる。

 思い出したのは、先日の篠々之箒だ。あのアンノウンのISが乱入してきた夜に箒が訪ねてきたときのことである。あの時、箒が口にした「付き合ってください」という言葉。箒への対応は、勘違いしたように見せたが、実際は、箒の言葉はきちんと伝わっていた。

 初めてならまだしも、一夏が男子から告白されることはさほど珍しいことではない。彼女の一番に目に付く胸部に釣られる男性は後を立たないのだ。特に中学生の後半になると一週間に一度は告白されていたような気さえする。いわば、百戦錬磨の一夏が、ある程度覚悟を決めた箒の告白を理解できないわけがなかった。

 しかし、あそこで勘違いした振りをしたのは、要するに怖かったのだ。今までの関係が壊れる事が。一夏にとって、箒とは清涼剤のようなものだ。あの危険極まりない環境にあって箒の隣は唯一安心できる場所だ。しかしながら、そこにあるのは友愛のみであり、幼馴染という感情以上のものはなかった。

 だから、箒の告白への返事をするならば、「ごめんなさい」だ。そして、一夏が恐れたのは、その後のことである。過去にも、告白する前は仲がよかった男子も、告白して振られると急に余所余所しくなった場合が幾度となくあった。一夏は、箒とそんな関係にはなりたくなかったのだ。あの学園で、箒は失いたくない友人なのだ。だから、身勝手ながら、勘違いの振りをした。彼の性格ならば、一度挫ければ、大丈夫だろうと思って。

 もっとも、それでもっ! と言ってきたときには、どうしよう? と内心冷や汗だったが。幸いにして、箒はあっさりと引いてくれたため、一夏としても何も言わず笑顔であの場は終える事ができたが、ドアを閉めた後、顔が赤くなってしまったのは仕方ないだろう。

「おやぁ? 一夏さん、どうかしましたかぁ?」

 しまったっ!? と思いに耽っていた一夏は、親友の声で正気に戻った直後に思うが、時既に遅しである。一夏が途中で言葉を切り、物思いに耽ってしまったことは、目の前のチェシャ猫のような意地の悪い笑みを浮かべる弾に餌を与えたようなものだ。

「ええっと、なんでもないのよ、うん」

「本当にぃ~?」

 弾の目は明らかに、信じてませんよ、という目であり、同時に早く語れ、と訴えていた。しかし、語れない。語れるわけもなかった。なぜなら、一夏にとっては気づかなかったことなのだから。なにより、弾は彼と繋がっている。

「ああ、そういえば、鈴がこっちに帰ってきたの知ってる?」

「鈴? ああ、鈴ねぇ」

 一夏としては話を変えたつもりだったのだが、弾の表情はにやにやというチェシャ猫のような意地の悪い笑みから何も変わらなかった。

「で、鈴が、何かあったの?」

「ううん、前と同じで元気だったわよ」

「前と同じねぇ」

 前と同じく元気だ、という知らせを聞いて、今まで意地悪く笑っていたはずの弾の肩がガクンと落ちた。一夏としては訳が分からない。友人―――少なくとも中学校時代では弾と同じく親友と言っても過言ではなかったはずの鈴栄だ。元気と聞いて喜ぶならまだしも、ガクンと気落ちする意味が分からなかった。

「はぁ、あいつは、まったく進歩がないんだから」

「え? 何か言った?」

 カクンと肩を落としたまま弾が、何か言うが、囁くような声であり、一夏の耳には何か言った程度にしか聞こえなかった。だから、問い返したのだが、弾は答えるつもりはないようだ。

「そんなことより、さっきの続きを教えなさいよ~」

 先ほどは一夏が使った手である。話を変えるという戦法。もっとも、一夏からしてみれば、話を戻されたという感覚なのだが。そこに戻るかっ!? という感じで一夏も驚く。しかも、話を変えるだけならまだしも、弾は、一夏に向かって襲い掛かるように飛び込んでくるのだから堪らない。

 座ってファッション誌を見ていた一夏は飛びかかってきた弾にあっさりと押し倒され、馬乗りの状態になる。

「ほらほら、教えないと、イタズラしちゃうわよ」

「ちょっ、ちょっと弾っ!」

 馬乗りになった彼女が狙うのは、一夏の年不相応に育った胸部だ。一夏の年では珍しいであろう鷲掴みできるほどの胸を弾は、ぐにぐにと揉む。むにむにと形を変えるのが面白いのか、弾は「おおっ!」と驚きの声を上げておもちゃのように一夏の胸を扱う。むろん、一夏からしてみれば、堪らない。

「ちょ、弾っ! やめなさいってば」

「いやいや、これは簡単にやめられないでしょう。ってか、一夏……あんた、また胸大きくなった?」

 弾の言葉にびきっ、と動きが止まる一夏。ああ、図星だったのか、と弾も動きが思わず止まってしまう。

「な、なんで分かるのよ」

「はっはっはっ! 中学生時代、一夏の胸の育成に伊達に貢献してきたわけじゃないのよっ!」

 弾が言うことは事実だ。確かに、彼女は、よく更衣室で一夏の胸を揉んでいたことがあった。しかしながら、それだけで違いが分かるものなのだろうか。いや、あるいは弾だからこそ分かるのだろうか。

 そんなことを考えている間にも弾の攻撃は続いている。

「ほらほら、いい加減、白状しちゃいなさいよ」

 ぐにぐにと弾の指の動きに合わせて一夏の胸が形を変える。本気で戸惑ったような表情をしている一夏に対して、弾の表情は笑顔のままだった。さすがに弾の攻撃に耐えられなくなってきた一夏は、いい加減にして白状してしまおうか、というとき、不意に弾の部屋の扉がバタンという音共に開かれた。

「姉貴~、昼ごはんできたって、婆ちゃんが早く食べに来いって……」

 開かれた扉の向こうにいたのは、赤い髪をショートカットの弾よりも長くした少年だった。一夏は、その少年に見覚えがある。今、目の前で胸を揉んでいる弾の弟の五反田蘭だった。

 蘭は、弾を昼食に呼びにきたのだろう。しかし、その声は最初に比べると段々と細くなっていく。しかも、その表情は非常に気まずいものでも見てしまったように、あるいは信じられないものを見てしまったように驚愕が見て取れた。

 一体どうしたんだろうか? と一夏は考えたが、答えはすぐにわかった。なぜなら、答えは現在の状況そのものであるからだ。

 現在、一夏は、弾に馬乗りにされて、胸を揉まれている。傍から見れば、実に百合の香り漂う妖しい空間であることは間違いないだろう。さらに、中学校時代、一夏がまったく男子と付き合わず―――鈴栄は例外―――弾と仲良くしていたことから、実はそういう趣味なんじゃないか、と噂されたことさえあった。

 一夏からしてみれば、実に迷惑な噂なのだが。そして、蘭の気まずそうな顔から出た次の言葉が決定的だった。

「……姉貴、俺、婆ちゃんには適当に言っておくから……」

「ち、違うのよっ! 蘭く~んっ!!」

 できるだけドアの音を立てないようにして去っていく蘭に、一生懸命手を伸ばし、誤解を解こうとする一夏だった。もっとも、そんな一夏の姿を尻目に弾は、一夏の上でからからと笑うだけだった。



  ◇  ◇  ◇



「はぁ」

 一夏は大きなため息を吐きながら、教室へと向かっていた。

 彼女が疲れている理由は、もちろん、昨日の五反田家での事が関係している。昨日の夜、弾の弟である蘭への誤解を解くために一生懸命に説明した。最後には分かってくれたが、あの笑みは、半分ぐらいまだ疑っているような気がする。

 しかも、その後の話の流れで何故か、蘭が来年、IS学園を受験するという流れになってしまったが。箒、鈴、セシルなどの仲の良い男子について話している最中だったが、やはり男子というのはカッコイイ男子に憧れるものなのだろうか、とそんな風に思ってしまった。

 しかも、一生懸命に蘭に説明した後、弾と一緒に久しぶりに駅前に買い物に繰り出したのが拙かった。女の子の買い物とは非常に疲れるものである。そのときは、楽しいにしても、後でものすごく疲れるのだ。しかも、しばらく洋服など見れなかったものだから、余計に疲れてしまった。

 そんなわけで、一夏は今、休日の後とは思えないほどに疲れているのだ。

 しかし、そうは言っても学校を休めるはずなどない。よって、重い身体を引きずりながら、教室へと向かっているのだ。そもそも、休んだときに、兄である千冬から何を言われるか分かったものではないのだから。

 ガラガラ、と周りはハイテクなのにずっと前から変わらない扉を開けながら、一夏は教室へと入っていった。

「なあ、聞いたか? あの噂」
「ああ、聞いたぜ」
「ん? なんだよ」
「だから、あの織斑さんの噂だよ」
「は? 俺、聞いてないんだけど……」
「遅れてるなぁ。仕方ないから、教えてやるけど、いいか? これは、男子だけの秘密らしいんだが、どうやら今度の学年別トーナメントで優勝したら、織斑さんとデートできるって話だよ」
「はぁ? それ、マジか?」
「マジ、マジ。先輩、それで張り切ってたぜ」
「ちょっと待てよ、それって一年生から三年生までの優勝者とデートするって話か?」
「知るかよ。とりあえず、優勝したらデートできるって話だ」

 一夏が教室に入ると、どこか教室全体が浮ついているような、ざわついているような気配を感じた。しかも、その話の中に自分の名前が出てきたとなれば、気にならないわけがない。とりあえず、一夏は、入口の近くで固まっている男子たちに事情を聴くために話しかけてみる。

「ねえ、わたしの名前が出てたけど、何の話?」

「お、織斑さんっ!?」

 団体になって話していた連中に鞄を持ったまま話しかけてみると彼らは、まるでお化けでも見たような表情をして、一夏の名前を呼ぶ。しかし、こうも驚かれては、いい気分ではない。

「なによ。わたしのことで何か話してたでしょう?」

「い、いや、全然、そんなことはないよ」

「本当に?」

 一夏は、訝しげな視線を男子たちに向ける。しかし、彼女としても決定的な一言を聞いていたわけではないのだ。名前が出てきたかな? と考える程度。その程度で彼らを追い詰めることはできない。しらを切られれば、それで終わってしまう程度のことである。しかも、一夏が昨日のことで疲れていたこともあって、時間ぎりぎりに来たことも彼らにとって幸運だったのだろう。

 結局、彼らは始業を告げるチャイムに救われた形になった。彼らのことだ。もしも、彼らがそのまま一夏に問い詰められるような形になってしまえば、いずれ白状してしまうに違いなかった。すべては、女子に慣れていない彼らを呪うべきである。

 チャイムが鳴ってしまえば、彼らが別れ別れになることにお墨付きを与えるようなものだ。しかも、一夏が散り散りになる彼らを止められるはずもなく、はぁ、とため息を吐いて自分の席に座るしかなかった。

 チャイムからほとんど間をおかずに教室の正面にある扉が開かれる。そこから、出てきたのは、予想に違わずこのクラスの担任である織斑千冬と山田真耶である。千冬は、先日、一夏が家に一時的に帰宅したときに出した夏のスーツを着こなし、真耶は、スーツを着ているというよりも着られているような形で学生達の前に現れた。

 まず最初に千冬による今日からの注意事項が、全員に通達される。内容は、今日から実験機による実習が始まるということだ。それに伴い、ISスーツの申請を済ませること。それまでは学校指定のものを使うこと。忘れたら下着のみで訓練を行うという脅しだった。

 いやいや、最後の一つは拙いだろう。いや、案外、男子だけなら問題ないのかもしれない。しかしながら、今のクラスには女の子―――織斑一夏もいるのだ。罰にしても厳しすぎやしないだろうか。もっとも、よくよく考えてみれば、ISスーツは体の体型をそのままにしているといっても過言ではないためあまり変わらないかもしれないが、やはり肌を晒しているのと布一枚でもあるのでは全然違う。

 おそらく、最後のは千冬なりのジョークなのだろう。たぶん、おそらく、いや、きっと。少なくとも一夏はそう思うことにした。

「では、山田先生、ホームルームを」

「は~い」

 連絡事項を終えた千冬は今度はホームルームのために真耶にバトンタッチする。担任がホームルームをしない理由は分からないが、何かしらの理由があるのだろう。真耶も何も疑問に思っていないようで、今まで千冬が上がっていた教卓の前に入れ替わるように真耶が立つ。

 しかし、悲しいかな。真耶の身長では、教卓のほとんどに隠れてしまう。かろうじて頭が出ているのが幸いというべきだろう。この光景も見慣れたもので、今では誰も何も反応しない。

「えっとですね、なんとっ! 今日は転校生を紹介しますっ!! しかも二名ですっ!」

 真耶がそういった瞬間に教室が全体に少しだけざわついた。

 当たり前の反応といえば、反応なのだろう。新学期が始まってから数ヶ月しか経っていない。この時期に転校とは実に中途半端だ。仮に九月ならば、まだ欧米諸国の学校事情を考えれば分かるのだが。しかも、人数が二名。通常、クラスにばらつきが出ないようにするべきであり、二名も来るというのは異例というのは、学生である彼らでも理解できた。

 そんなことを誰もが考えているうちに、不意に教室のドアが開いた。

「失礼します」

「…………」

 一人は、うなじの辺りで箒のように結ったさらさらの髪の毛を揺らしながら鈴の鳴るような声で入室し、もう一人は片目を眼帯で隠し、もう片方を鋭い目つきで周囲を威嚇しながら無言で入室した。

 教室にいた全員が二人のうちの片方に注目し、先ほどまでのざわつきをすっかり忘れてしまい、どこか呆然としたように声を失い、無言の空間が舞い降りた。しかしながら、それも一瞬。次の瞬間には、おおおおぉぉぉぉぉっ! という教室全体を揺るがすような歓喜に沸いていた。

「静かにせんかっ!!」

 だが、そんな反応をすることは千冬は分かっていたのだろう。男子達が歓声を上げた直後に一喝。その声は、歓声を上げる男子達の声を貫いて全員に冷や水を浴びせるように強制的に冷静さを取り戻させる。そうなれば、誰も彼もが口を閉じていた。しかしながら、その視線は転入生の二人のうちの一人に向いている。

「あ、あははは」

 それが分かるのか、転入生の一人は、明らかに乾いた笑いを浮かべていた。そして、その気持ちが同じ立場である一夏には大変よく理解できた。

「シャルロット・デュノアです。ボクと同じ立場の人がいると知って、フランスから来ました。不慣れなことも多いかと思いますが、どうぞ皆様よろしくお願いします」

 鈴のなるような声で、自己紹介の最後ににっこりと可愛らしい笑みを浮かべるシャルロット。この笑顔に早速、クラスの数人の男子がやられていた。まるで魂を抜かれたように見惚れている。

 そう、転入生のうちの一人は、織斑一夏と同じく女子の制服を身に纏っていたのだ。もっとも、IS学園の制服は個人によるカスタムが認められているため、まったく同じというわけではないが。

 違いを挙げるとすれば、スカートの長さが上げられるだろう。一夏も膝上ぐらいで詰めているスカートだが、もう一人の転入生のスカートは一夏よりも短い。しかし、それは下品というわけではなく、シャルロットの白人特有の白く細い足を惜しみもなく晒しているだけに過ぎない。残念ながら、胸部は一夏と比べると誤差範囲としか言いようがないふくらみしかない。だが、長袖のため予測でしかないが、腕も細く髪の毛の間から見えるうなじも細く、顔立ちは整っており、さらさらの金髪が眩しい。よって、総合的に考えてもシャルロットは、クラスの男子達が湧くもの疑問の挟みようがないようほどに美少女と言える。

 さて、一人は自己紹介をしたもののもう一人が残っている。

 一夏がもう一人に視線を移してみると、シャルロットの横に立っている彼は、腕組をしながら、入ってくるときは鋭い目つきをしていた瞳を今は興味なさげに瞑っているだけだ。先ほどまでそこに見えていたのは赤い瞳。ただし、そこに太陽のような温かみはなく、絶対零度のような冷たさのみがあった。太陽の光で輝いている銀色に近い髪の毛は無造作に飛び跳ねている。最近、流行の無造作にまとめたものではなく、本当に短く切った髪を無造作に放置しているという感じだ。

「挨拶をしろ、ラウル」

「……はい、教官」

 興味なさげにしていたが、なぜか千冬の言うことには従うようだ。今まではけだるそうに腕組をしていただけのラウルと呼ばれる彼だったが、突然、異国の敬礼―――しかも、軍隊式―――をし、まるで上官に従う兵士のように態度を改めた。

 だが、そんなラウルの様子に千冬は、はぁ、と深くため息を吐き、めんどくさそうな表情で口を開く。

「ラウル。ここでは、俺はお前の教官ではなく先生だ。ここでは織斑先生と呼べ」

「了解しました」

 本当に彼は千冬が言ったことを理解しているのだろうか、という言葉だったが、ラウルはそんな疑問を余所に淡々と抑揚の少ない声で実に短い自己紹介を行った。

「ラウル・ボーデヴィッヒだ」

「えっと……それだけですか?」

「それだけだ」

 真耶が戸惑ったように、他にないのか、と促すが、ラウルは取り付く島もなく、あっさりと真耶の要請を蹴ってしまった。さすがに、こんなにすっぱりと拒否されてしまえば、元々気の弱い真耶にそれ以上求めるのは実に酷だ。まるで、負けたボクサーのように項垂れる真耶。だが、それ以上、何もいえない。

「はい、分かりました。それでは、二人とも空いてる席に座ってください」

 気が付けば、いつの間にか席が二つ増えている。おそらく、用意していたのだろう。

 一夏は、ラウルのほうにはあまり興味はなかったが、もう一人のシャルロットには興味津々だった。なにせ、世界に一人しかいないといわれていた女性IS操縦者の仲間だ。興味を持てないほうがおかしい。休み時間になれば、シャルロットの元にも人が押し寄せるかもしれないが、自分も話しかけに行ってみようと思った。なにせ、クラスに、IS学園に二人しかいない女子なのだから。

 そんなことを考えていた一夏の傍に影が落ちる。ふと、見上げてみれば、そこにいたのは先ほど短すぎる自己紹介を行ったラウル・ボーデヴィッヒだった。

 何か用だろうか? そう考え、問いかける暇もなく、不意に一夏の頬に鋭い痛みと同時にパンッという乾いた音が響いた。

「え?」

 痛みは殆どない。叩かれたという感覚も少ない。それほど力が込められていないのだろう。むしろ、痛みよりも、不意に感じた痛みに驚いた、という感情のほうが強い。唖然としている周囲と同様に一夏も、叩かれた頬に手を当てながら、呆然とした表情でラウルを見る。

 彼の表情に浮かんでいるのは間違いなく憤怒。そして、彼は決定的な一言を口にした。

「私は認めない。貴様が、あの人の妹であるなど、認められるか」

 先ほどまで冷たい印象しか与えなかったはずの赤い瞳は、今は熱い意思を感じさせるほどに強く輝いていた。



つづく











あとがき
 アニメ版のラウラさんのデレがやばい……。


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