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No.25868の一覧
[0] 【インフィニット・ストラトス】織斑一夏は誰の嫁?(全員性別反転:ALL TS)[SSA](2011/02/20 22:40)
[1] 第二話[SSA](2011/02/23 00:21)
[2] 第三話[SSA](2011/02/09 00:27)
[3] 第四話[SSA](2011/02/23 00:21)
[4] 第五話[SSA](2011/02/23 22:31)
[5] 第六話[SSA](2011/02/12 01:32)
[6] 第七話[SSA](2011/02/13 20:45)
[7] 第八話[SSA](2011/02/14 01:05)
[8] 第九話[SSA](2011/02/16 01:06)
[9] 第十話[SSA](2011/02/17 21:54)
[10] 第十一話[SSA](2011/02/21 21:18)
[11] 第十二話[SSA](2011/02/25 01:53)
[12] 第十三話[SSA](2011/03/04 23:54)
[13] 第十四話[SSA](2011/03/19 23:37)
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[25868] 第十四話
Name: SSA◆ceb5881a ID:07f93917 前を表示する
Date: 2011/03/19 23:37



 一夏が叩かれたことにクラスメイト全員が呆然とする中,一人だけ教室の机の間を縫うように走り出した影が一つ。一夏が叩かれた直後に椅子から飛び出した人影だ。その影は、一直線に一夏をいまだにきつく睨みつけるラウルへと向かっていた。そして、彼のこぶしの射程圏内に入ったとき、彼―――篠ノ之箒はまっすぐに拳を突き出した。

 普通なら間違いなく彼のこぶしはラウルの右頬を豪快に殴りつけていたはずだ。しかしながら、ラウルは最初からそれが見えていたかのように、自然な動作で右手を挙げると箒のこぶしをパシンという軽い音とともにいとも容易く受け止めた。

 これに驚いたのは箒だ。箒は素人ではない。そこら辺の不良が殴りかかったのはわけが違うはずだ。だが、それでもラウルは一瞥することなく、気配だけでそのこぶしを受け止めていた。

 殴られかけたことで、ようやく意識が箒へと向かったのだろうか。まるで興味のないものを見るような目でラウルは箒を明らかに見下していた。

「ふん、このような攻撃にあたるわけがあるまい。ふん、筋は素人ではなさそうだが。師から学ばなかったのか? 戦うときは相手の力量を見ろ、と」

 体躯だけみれば、箒はラウルよりも相当高い。いや、ラウルの身長が男子の平均身長よりも低いだけというべきだろうか。身長の高さはリーチの広さだ。それだけで箒が有利なはずだが、先ほどの一夏がはたかれて、頭に血が上っていた箒は気付かなかったが、目の前の箒よりも小さな男は、力量を図れば、明らかに箒よりも上だった。

 ラウルの力量が箒よりも上だということはわかった。

 だが、だがしかし、それがどうしたというのだろうか。たとえ、力量が相手より下だとしても、引けない戦いというのはあるのだ。そして、箒にとって今は、その時に値する。惚れている女が叩かれたのに、黙っていることなんてできるはずもない。

「ほぅ、やる気か。ならば、その身に敗北を刻み込んでやろう」

 ラウルがだらんと体から力を抜いて、無構えの体勢をとる。どこからでも対応できるということなのだろう。確かに、箒から見ても、隙だらけに見えるはずのラウルにはどこにも隙など見えなかった。どこに打ち込んでも手をからめ捕られる光景が見える。

 どうしたものか? と悩んだところで、仕方ない。ラウルの力量は箒よりも上なのだ。ならば、悩むことはない。

 ―――ただ、まっすぐ撃ち込むっ!!

 箒が、小細工なしに突っ込むことを決め、いざっ! とラウルに飛び込もうとしたのだが、それは今まで静観していた担任の千冬によって挫かれることとなる。

「こらっ! お前らはなにをやっているっ!!」

 バン、バンと出席簿で叩かれる箒とラウル。音こそ大きいものの紙を丸めたものであるため、痛みはさほどない。ここにきて、ようやく箒は場所と時間を思い出していた。ここは、教室で、時間はホームルームなのだ。思わず決闘のような流れになっていたが、ここでやるべきではない。そのことは、千冬が浮かべている表情で容易に理解できた。

「ボーデヴィッヒ、篠ノ之、おまえらは、放課後、教室の掃除だ。ボーデヴィッヒは、そのあと、俺のところに来い」

 教室の掃除というのは、この騒ぎに対する罰だろう。そのあとの個人的な呼び出しは……教室内のだれもが考えたくなかった。ああ、哀れな、と一夏を叩いた当初は殺意すら湧いたラウルに対して同情の余地すらあるほどの彼の命は風前の灯だと誰もが理解していた。

 もっとも、それで納得いかないものもいる。その最たる例は、殴りかかろうとした篠ノ之箒だろう。掃除と呼び出しだけで済まそうとしている千冬に対して、しかし、と口を開きかけたのだが、千冬に一睨みされただけで、その口を閉じざるを得なかった。それほどの眼力を持っているのだ。彼の視線というのは。

「よしっ! それでは、一時間目は二組と合同で模擬戦闘だ。各人、着替えて第二グラウンドに集合すること。織斑は、頬に痛みを感じるようであれば、医務室によって行くように」

「あ、いえ、大丈夫です」

 千冬の言葉である種正気に戻った言うべきだろうか。一夏は、今まで叩かれた頬に手をやっていたのだが、はっ、となると千冬の提案に対して大丈夫だと返した。

 確かに、箒が見た限りでは、一夏の頬に赤みは残っていない。ラウルは叩いたとはいえ、振りぬいたため、音こそ教室中に響き渡ったが、痛みはあまりなかったのだろう。威力もさほどあるわけではなかったのだろう。ラウルが手加減したと考えるべきだろうか。そうでなければ、一夏のけががこの程度で済んだとは考えにくい。

 しかし、それがどうしたというのだ。問題は、一夏を叩いたというその行いについてだ。箒にとって、とてもじゃないが、その行為は許せたものではない。だが、もはや裁定は下ってしまった。このクラスの担任であり、一夏の兄である千冬の手によって。これ以上の騒ぎは好ましくないだろう。頭に血が上っているとはいえ、その程度は判断できた。

 仕方ないか、と肩の力を抜く。くるりと踵を返して、次の授業に備えてインナースーツに着替えるために自分の席に戻ろうとする。踵を返す直前にラウルの顔が目に入る。彼の顔に浮かんでいたのは、嘲りの表情。まるで、運が良かったな、と言いたげな、その表情。もしも、千冬がクラスを出ていれば、その瞬間にでも再び襲いかかっていただろう。

 だが、まだ教室に千冬が残っている以上、それはできない。仕方なく、箒は、ラウルを睨みつけるだけが、その場でできてる精一杯の抵抗だった。



  ◇  ◇  ◇



 織斑一夏は、目の前の諍いについて呆然としている間に機を失ってしまった。

 叩かれた直後は、なにするのよっ! という気概があったのだが、直後に箒がラウルに殴りかかり、え? と呆けている間に事態は進み、気が付けば、千冬がすべてを片付けてしまっていた。これでは、張本人である一夏がでる幕はない。

 しかも、頬の痛みは最初は、鋭く感じたものの、今となっては本当に叩かれたのか? というほどの感覚しか残っておらず、今までのごたごたの間に、叩かれた直後の怒りさえも霧散してしまっていた。つまり、どうでもよくなったというわけだ。ラウルの様子とあの時の表情を見るに謝るつもりもないらしいし。

 今は、それよりも優先しなければならないことがある。先ほど、解散を告げた千冬は、教室を出て行った。そして、一夏と新しい転入生以外の男子の視線は、彼女たちに集中している。それも少し困ったような、困惑したような表情だ。もっとも、次の時間のことを考えれば、至極当然のことなのだが。

 一夏は、現状を解決するために、まだ教卓の前であたふたしている転入生―――おそらく、一夏以外の初めての女の子として紹介されたシャルロット・デュノアの手を握り、足早に教室を出ていく。

「え? え? お、織斑さん……だよね? ボクら、どこ行くの?」

「次の時間、ISの実習でしょう? 女子は、アリーナの更衣室で着替えなくちゃいけないのよ。だから、急いで移動するわよ。時間ないんだから」

 そう言いながらも、一夏は、シャルロットのほっそりとした白魚のような手を握り、目的地であるアリーナの更衣室へと引っ張っていく。

 彼女たちが目的地へ向かう途中、男子たちの奇異の視線が、相変わらず向けられる。最近は、ようやく一夏の存在に慣れてきたのか、視線の数は少なくなってきたように思えたが、今日からは、また倍増のようだ。理由はわかっている。一夏が手を引っ張っているシャルロットだろう。もともと、一夏だけしかいなかったのに、急にもう一人増えれば、奇異の視線も増えるものだ。

「な、なんで、みんな見てるのかな?」

 彼らの視線に困惑し、おびえ、すがりつくように一夏に近づくシャルロット。おそらく、彼女は、今までこういう視線を向けられたことはないのだろう。一夏とて慣れていなかった当初は、怖かったのだから。今となっては悲しいかな、慣れてしまったのだが。

「それは、わたしたちが珍しいからでしょう」

「え? なんで?」

 一夏にすがりつくように身を寄せて縮こまっているシャルロットは、なぜか意味がわからないというような困惑の表情を強くした。それを、怪訝に思う一夏。一夏が、ISを操縦できると判明した時は、我先にとマスコミが来たものだ。彼女とて、それを知っているはず。しかし、よくよく考えてみると、一夏は、自分以外に女性がISを操縦できるというニュースを聞いていない。

 確かに一夏という実例がある以上、ほかに女性がISを操縦できてもおかしい話ではない。しかしながら、報道が一切ないのは奇妙な話だ。いくら、女性として最初の操縦車の地位は一夏がとったとしても、二人目というのは、まだまだ珍しいはずだ。それなのに、一切、知らされていない……?

 その事実に気づいておかしいな? とシャルロットに視線を向けてみるも、彼女は、一夏が視線を向ける意味が分からない、と言わんばかりにエメラルドグリーンの大きな瞳を返して小首をかしげていた。

 ―――か、かわいい……。

 一夏は、大多数の女子に漏れることなく、可愛いものは大好きだ。自分の部屋に行けば、テディベアのようなぬいぐるみだってもっている。

 そんな一夏の前の前にいるのは、あの時は、自分が叩かれたせいで、混乱しており、よく見ていなかったが、シャルロットという女性は、細い絹糸のような金髪を背中まで伸ばし、首のあたりで結い、大きなエメラルドグリーンの目を持ち、白人らしいシミひとつない白い肌であり、顔のパーツは各々が整っており、一言でまとめるとお人形のようなと称することができる美少女だった。

 しかも、その容姿に今は、怯えるような表情と困惑しながら小首をかしげる仕草が加わり、彼女の可愛さは、さらに際立っていた。もしも、この場が学校ではなくて、時間が迫っていることを自覚していなければ、親友である弾のように彼女に抱き着き、自身がもつ豊満な胸の中に彼女を埋めていただろう。

 ああ、本当に時間がないのが悔やまれる。

「織斑さん? どうしたの?」

「あ、いえ、なんでもないわ」

 シャルロットの可愛さにやられていた一夏だったが、彼女の声で正気に戻る。

「さっきの説明の続きだけど、わたしたちは今、世界で二人しかない女性のIS操縦者よね。だから、この学園ではパンダみたいな扱いなの」

「あっ、そ、そうだよね」

 まるで、今まで気付かなかったことをごまかすように一夏に同意するシャルロット。それがまた、一夏に先ほど浮かんだ疑念を再燃させるのだが、そうこう考えているうちにアリーナの更衣室の前についてしまった。幸いにして、IS学園の男子たちは、見てくるだけでほかに何もしてこない。追いかけることも、付け回すこともしないため、一夏の邪魔になることはあまりない。むろん、視線はうっとおしいことこの上ないが。

「さあ、ついたわよ。早く着替えましょう」

 ぷしゅ~、という圧縮された空気が抜けるような音を立てて扉があいた後、更衣室へと入った一夏は、ロッカーが無数に並ぶ部屋の中、いつも使っている場所のロッカーを開けて着替え始める。

 一夏のISスーツは、人類初の女性用であり、男子と同じく上下に分かれている。ただ、異なる点があるとすれば、肌の露出具合だろうか。男子は、腹部が完全に露出しているのだが、一夏のISスーツは上半身は丈の長いタンクトップのような形だ。一方、下は、スパッツのような形なのだが、なぜか飾りのようにスカートがついている。意味はないのだが、人類初の女性用のISスーツということで意匠にも凝ってくれたのだろうと一夏は考えている。そして、その下はニーソックスのような靴下のようなものを履いて終わりだ。

「う、うわぁっ!!」

「ど、どうしたの?」

 一夏が、早く着替えよう、制服の上を脱いで、下着のブラにまで手をかけた時、なぜかシャルロットの至極驚いたような声が更衣室に響いた。もしかして、ISスーツでも忘れてしまったのだろうか? と思って振り返ってみると、これまたなぜか一夏に背を向けたシャルロットの姿があった。

 これには、一夏も困惑するしかない。しかし、考えるだけの時間が残されていないことも事実だった。

「ど、どうしたのかわからないけど、早く着替えないと時間がないわよ」

「う、うん。わかってるよ」

 そう言いながら、いそいそと着替え始めるシャルロット。後ろ姿を見ただけだが、彼女の肩はほっそりしており、とても華奢に見えた。

「も、もうっ! 見ないでよ」

「ご、ごめんなさい」

 しまった、と一夏は思った。同性だから着替えを見てもいいというわけではない。中には同性であっても着替えを見られるのは恥ずかしいという人はいるのだ。おそらく、シャルロットはその類なのだろう。ちなみに、一夏はあまり気にしないほうだ。いや、弾と着替えていれば自然とそうなる。なぜなら、彼女は自分が下着姿なのも構わず後ろから抱き着いてくるからだ。そのあとの行動は言うまでもないだろう。

 親友の行動を思い出しながら、もうそんなこともないのか、と感慨深げに思いながら、一夏は着替える。スパッツのような下を履いた後、次に上半身。最後にニーソックスのようなものに足を通せば着替え完了だ。上半身は、一夏には大きすぎるものが付属しているため着替えにくいが、何とか時間内に着替え終えることができそうだ。

「織斑さん、着替え終わったんだけど―――ぶはっ!」

 おや、早いわね、と思いながら、声をかけてきたシャルロットに答えるために、まだ上半身を半分しか着ていないにも関わらず、一夏はシャルロットの方向を向くために振り返った。振り返ったのだが、一夏が振り返り終わる直前にシャルロットは、驚いたように表情を変え、目をつむって即座に後ろを振り向いてしまった。彼女の行動に疑問符を浮かべる一夏。

「どうしたの?」

「えっと……もう、着替え終わった?」

「え? まだよ。ちょっと待ってね」

 なぜなのだろう? と怪訝に思いながら、一夏は最後の中途半端に来ていた上半身のスーツを着て、シャルロットに「いいわよ」と声をかける。一夏の声で、彼女はようやく恐る恐るという感じで振り返る。振り返ったシャルロットの視線はある一点で固定されていた。まるで信じられないものを見たような、そんな表情で、だ。一夏からしてみれば、見慣れた反応であり、思わず苦笑してしまう。

「さあ、行きましょう」

 なぜ、シャルロットが自分の胸を凝視しているのか、一夏には痛いほどわかる。なぜなら、それは中学生時代に涙ながらに同級生たちに延々と語られたからだ。しかし、彼女たちにも、半年前に買ったはずの下着が合わなくなってきた、と語ったら、また血の涙とともに怨嗟の声を聴くのだろう。

 この男子ばかりの学園であれば、その怨嗟の声も聴くことはないだろう。なぜなら、その恨みは同性にしかわからないのだから。

 しかしながら、いつまでもこうしているわけにはいかない。時間は刻一刻と無くなっているのだから。だから、呆然としているシャルロットに声をかけて、一夏はロッカーに掛けてある丈の長いジャンバーを手にとる。

「え? 織斑さん―――」

「一夏でいいわよ」

 どうせ二人しかいない同性なのだ。これからは仲良くやっていきたいと思うのは人情だろう。

「だったら、ボクもシャルロットでいいよ。ところで、そのジャンバーは?」

「ああ、わたしのこれって目立つでしょう? だから、せめてもの対策」

 一夏は自分の目の前に双丘となっている胸を困ったように指さしながら、ジャンバーを羽織る。その一夏の仕草を見て、なぜかシャルロットはカーッと顔を赤くしていた。同性ならば、別段気にすることもないだろうに、どうしたというのだろうか?

「シャルロットもいるなら、兄さん―――織斑先生に頼むわよ?」

「えっと……ボクはいらないかな。こんなだし」

 そう言いながら、シャルロットは、自分の一夏と比べるとまるで誤差範囲内に入ってしまいそうな胸を一夏と同じように指さして困ったように言う。確かに、シャルロットの容姿は、美少女のそれだが、胸は洗濯板のようにかわいそうとしか形容できなかった。

 一夏は、シャルロットが納得しているならいいか、と思いながら、もはやISの実習の際には相棒となったジャンパーを羽織りながらシャルロットと一緒に外に出るのだった。



  ◇  ◇  ◇



 セシル・オルコットは、第二グラウンドの真ん中で、今日、転入してきたばかりのラウル・ボーデヴィッヒと対峙していた。

「貴様といい、あの男といい、このクラスには身の程を知らない奴が多すぎる」

 心底うざったそうにつぶやくラウル。事実、彼も千冬に言われなければ、この場に立っていなかっただろう。

 彼らが観客席でクラスメートが見守る中、対峙している理由は今日のISの実習が模擬戦闘だからだ。その手本に選ばれたのが、専用機を持っているセシル、そして、二組と合同ということで鈴栄だった。しかしながら、そこで、セシルが鈴栄よりも、ラウルと戦いたいと千冬に申し出たのだ。それを千冬は許諾。こうして、二人は、第二グラウンドの真ん中で対峙しているのだった。

「はっ! そのような口は、俺の実力を見てから言ってほしいものだな……。ドイツ代表候補生ラウル・ボーデヴィッヒ」

 いつもの態度でセシルがラウルに対して言い返す。

 彼がドイツの代表候補とわかったのは、セシルや鈴栄のようにISスーツが他とは異なったからだ。通常、この時期には、個人用のISスーツは持っていないはずだ。それでこそ、専用機もちでなければ。よって、ラウルが専用機もちでどこかの代表候補ということはわかっていた。もっとも、ドイツとは思わなかったが。おそらく、セシルの整備チームならわかっただろう。欧州連合の一人なのだから。

 しかしながら、同じクラスにイギリスとドイツとフランスの代表候補性+専用機もちが集結しようとは。偶然―――ではないだろうが。その裏の思惑などセシルが知ったことではないだろう。

 一方、ラウルはどうやらセシルの態度に対して、イラつきを感じていたようだ。

「いいだろう。そこまでいうのであれば、私とシュヴァルツェア・レーゲンが、お前を完膚なきまでに敗北を教えてやろう」

 そう言いながら、彼は自らの専用機が量子化されている腕輪に向かって命じる。

「『殲滅せよ。シュヴァルツェア・レーゲン』」

 ラウルの命令によって、量子化されていたIS―――ドイツが誇る第三世代が姿を現す。名の通り黒を基調とした機体。特徴といえるのは、右肩に装着された大型のレールキャノンだろうか。それ以外は、目立った装備は見られない。だが、そうであるがゆえに油断はできないとセシルは判断した。

 観客席も未だにトライアル段階だと噂されていたドイツの第三世代のお目見えとだけあって、ざわついている。

「『舞い踊れっ! ブルー・ティアーズっ!』」

 セシルのブルーティアーズも展開される。機体そのものの名前にもなっている武装、ブルー・ティアーズのビームビットがセシルの周りを舞い踊る。

「それが、イギリス第三世代IS『ブルー・ティアーズ』か。カタログスペックで見たほうが強そうだな」

「ほざけ。すぐに目にもの見せてやる」

 お互いのやる気は十分。一触即発の空気になっていた。お互いの空気も、観客席の空気も十分と感じたのだろう。今回の審判役の千冬がばっ、と掲げた手をそのまま垂直におろし、彼は模擬選の開始を短く告げるのだった。



  ◇  ◇  ◇



 ―――強い。

 文句なしにセシルは、ラウルの強さを実感していた。

「ちっ」

 舌打ちをしながらまた一本と迫ってくるワイヤーブレードをブルーティアーズで撃ち落とす。二機を護衛に、残り二機をラウルへの牽制用に送っている。しかし、高々二機だ。ラウルの腕前をもってすれば、避けることなどたやすい。それどころか、ワイヤーブレードによる追撃すら可能だ。一瞬でも気を抜けば、ブルーティアーズは落とされていただろう。

 戦況は現在、セシルが不利。あれだけ、大言を言っておきながら、と思うかもしれないが、セシルはある程度、このような戦況になることを理解していた。

 そもそも、第三世代ISといいながらも、ラウルのシュヴァルツェア・レーゲンとセシルのブルー・ティアーズでは設計思想が異なる。セシルのブルー・ティアーズは、本来、機体の名前にもなっているブルー・ティアーズというBT兵器の実験機なのだ。そのため、ブルー・ティアーズは、ただそれのみに特化している。

 一方、ラウルの第三世代はというと、軍事国家だったドイツの名残なのか、実践主義というべきだ。今までの総合スペックを大幅に上げ、操縦者の力量を挙げている。つまり、小細工が一切ない王道の強化。近距離には、プラズマブレード。遠距離にはレールカノン。中距離にはワイヤーブレードと距離にも隙がない。

 中・遠距離が主体となってしまうセシルとは大違いだ。

 しかし、そんなことは嘆いていられない。いや、嘆くつもりもない。それを承知でセシルはラウルに喧嘩を売ったのだから。そもそも、今回のセシルの勝利条件は、ラウルにISによる戦闘で勝つことではない。ただ一点のみ。ただ一点のみでいいのだ。それで、セシルの勝ちなのだから。

 そうこう考えている間にも、だんだんとセシルは追いつめられる。今は、ブルーティアーズによる追撃と攪乱で何とかセシルを捕えようとするワイヤーブレードから逃げ切れているが、捕まるのも時間の問題だ。現にラウルは一切慌てた様子は見せず、余裕ともいうべき不敵な笑みを見せている。いや、あれは、いつまで逃げ切れるのか遊んでいるといってもいい。そう考えるとあの不敵な笑みはサディスティックにも見えてくる。

 しかし、そう簡単にとらえられて、エネルギーを切らすわけにはいかないのだ。男の意地にかけても。

 ゆえに、セシルは行動を開始する。たった一つの彼の目的のために。



  ◇  ◇  ◇



 ラウル・ボーデヴィッヒは、淡々とした冷静な思考で、模擬戦を進めていた。いや、もしかしたら、彼には、戦っているという意識すらないのかもしれない。なぜなら、今の現状は、ラウルの一方的な攻撃で、セシルがひたすらに防御に回っている展開なのだから。時折、ラウルに向かってビームビットから、ビームが撃たれるが、それだけだ。

 それらは、確かにラウルの意識を一瞬逸らす程度の役割はあるかもしれないが、それ以上の役割はない。もっとも、ビットからの攻撃がなければ、このようなくだらない模擬戦はとっくに終わらせていただろうが。

 幼いころ――――否、生まれてからずっと軍人だったラウルにとって現状は、牙をもたない子犬がじゃれついてくる程度のものでしかない。いや、子犬に例えるのは、子犬に失礼だろう。ラウルにとってドイツに残した仲間と敬愛する教官以外は、有象無象でしかないのだから。なぜか、あの女を叩いた後は、有象無象からの憎しみともいえる視線がうざったかったが、それらはラウルにとって、意識するほどではなかった。『愛』の反対は、無関心であるとはよく言ったものである。

 まるで、蚊のように飛び回るブルー・ティアーズ。そろそろ、本当にうざったらしく感じてきたラウル。本来であれば、ワイヤーブレードでからめ捕り、近接戦闘でとどめをさすつもりだった。イギリス第三世代『ブルー・ティアーズ』は、装備から見ても中、遠距離専用だ。ならば、近接戦闘に持ち込めば、勝利はゆるぎない。それがラウルのだした戦術だった。

 しかしながら、それもうまくいかない。本当にタイミングよくブルーティアーズからの援護射撃が入るからだ。捕まえらえる一瞬で、それが来るため、ラウルも今まで捕えることができなかった。しかも、ビーム兵器である以上、彼の切り札の一つもあまり効果は期待できない。

 さて、どうしたものか、と考え始めるラウルだったが、それよりも前にセシルのほうが先に動き出した。

 不意に四つのビットを引き上げたかと思うと、射程圏内ぎりぎりからラウルに向けて集中砲火を浴びせる。ただし、狙いはラウルそのものではない。周りの地面だ。ビームが着弾した芝生などで整備されていないグラウンドは、その破壊力と熱を何度も与えられることによって、大きく土煙を巻き上げる。

「ちっ、目隠しのつもりか」

 確かに有効な手段の一つでもあった。確かに、ハイパーセンサーは有効であり、セシルとの戦闘に支障ないだろう。だが、視界が閉じられるというのは、ワイヤーブレードの操作性が落ちることを意味していた。捕えるのがさらに難しくなったというべきだろう。

 早急にこの土煙から脱出を―――そう思っていたラウルだったが、突然、シュヴァルツェア・レーゲンがラウルに警告を発する。その内容は、熱源物体急接近というもの。セシルのブルー・ティアーズのカタログスペックは知っている。主体の武器はBT兵器であることも。その中で、唯一の例外は、近接戦闘用のインターセプターと―――

「ミサイルか」

 ブルー・ティアーズの六つのビットのうち、残り二つから発射されるミサイルぐらいだろう。普通であれば、慌てふためき、回避行動をとるはずだが、ラウルはいたって平然としていた。それは、彼が軍属だからという理由だけではない。彼にとってミサイルとは獲物であり、襲われるものではないからだ。

「停止結界発動」

 ラウルが右手を掲げると、そこにバリアのようなものが張られ、ラウルに向かって飛んできたミサイルをからめ捕る。

 これが、ラウルが持っている切り札の一つであるAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)だった。物体を停止させることができる能力だ。ただし、セシルが使っているようなエネルギー兵器には弱いのだが。

 AICでからめ捕ったミサイルをワイヤーブレードで破砕しようとしたとき、さらにもう一つの警告が発せられる。今度は逆サイドからのミサイル警告だ。ラウルは、それに気づくと今度は、小さく舌打ちし、先にもう一つ飛んできたミサイルを優先して、ワイヤーブレードで破砕する。

 ワイヤーブレードによって真っ二つに破壊されたミサイルは爆発音をあげ、さらに土煙を巻き上げながら、ただの金属片と化した。

 ―――視界を奪ってから、両サイドからのミサイル攻撃。なるほど、戦術的には悪くない。ただし、このラウル・ボーデヴィッヒとシュヴァルツェア・レーゲンの前では小細工でしかない。

 戦術としては正しかろうとも、ラウルの前では小細工としか感じられなかった。

 さて、この後、どうやってうざい蚊を落としてやろうか、と相手の渾身の戦術を小細工と断じて、余裕で交わした直後だったからか。あるいは、有象無象だと歯牙にもかけなかったからだろうか。あるいは、ここにいる連中はしょせん、お遊びだと断じていたせいだろうか。本来のラウルではありえないことに彼は、戦闘中だというのに一瞬だけ気を抜いてしまった。もしも、彼が、学生を、セシルだけでも認めていれば、戦闘中に気を抜くことなど、ありえなかっただろう。

 そして、その一瞬が、ラウルにとっては命とりであり、セシルにとっては望んだ一瞬だった。

「うおおおおぉぉぉぉぉぉ」

「なっ!? セシル・オルコットっ!? どうして、貴様が――――!!」

 ここにいるっ!? という言葉は続かなかった。なぜならば、ミサイルとブルー・ティアーズによって巻き上げられた土煙を割って、セシルが飛び出してきて、気合の声とともに渾身の拳をラウルの頬に殴りつけたからだ。一瞬だけでも気を抜いていたラウルは、さらにセシルのありえない行動によって完全に虚を突かれた形になり、戦場で気を抜いた報いをセシルの渾身の拳によって受けるはめになっていた。

「ぐっ!」

「ふっ、クリーンヒットというところか」

 ラウルの頬を貫いた感触をかみしめるように拳を開いたり閉じたりするセシル。

 殴られたラウルは、少しだけ吹き飛ばされた形になるが、しょせん殴られただけ。確かに絶対防御が働き大きくエネルギーを削られたが、それだけであまり痛みはなく、戦闘行動に支障は一切なかった。

「ぐっ……セシル・オルコット―――なぜだ?」

 もはや近接戦闘の間合いの中、ラウルは、セシルに戦闘中にも関わらず、困惑の表情で彼に尋ねた。

 そう、ラウルにとって、セシルが近接戦闘を挑んでくることなどありえなかった。ありえるはずがなかった。なぜなら、セシルの装備は中、遠距離専用であり、近距離に対しては脆弱としかいえない。ラウルに対して、近接戦闘を挑むことは、自殺行為に他ならなかったからだ。セシルが、とりうる戦術は先ほどのように中、遠距離からの小細工以外にはありえないはずだからだ。

「ふっ、決まっているだろう。女性を殴るようなやつを見て、黙っているわけにはいかなかっただけだ。英国紳士の誇りにかけて」

 ラウルに対して誇らしげに言いながら、不敵な笑みを浮かべるセシル。しかし、ラウルにはセシルの言葉の意味が微塵も理解できなかった。殴られた女性というのは、おそらく、織斑一夏のことだろう。しかし、ラウルにとっては、彼女は殴られて当然だった。だから、なぜそれが理由で殴られるかわからない。

 だから、今のラウルの中にあるのは、訳のわからないことを言うセシルへの困惑と戦場にもかかわらず一瞬でも油断してしまった自分への怒りだ。

「……セシル・オルコット、貴様を侮っていたことを謝罪し、感謝しよう。ここが戦場もまた戦場だということを教えてくれた貴様に」

 セシルにこれ以上ないぐらい完璧に殴られたラウルは、体勢を整え、今度こそ完全に立ち上がる。そこに油断の二文字は微塵も見えない。『ドイツの冷水』と言われたラウル・ボーデヴィッヒがそこには顕現していた。

「誇るがいい。私のすべてをもって、完膚なきまでに潰してやろう。セシル・オルコットっ!!」

 再びぶつかるシュヴァルツェア・レーゲンとブルー・ティアーズ。

 ―――この日、セシル・オルコットは、勝負に勝ち、試合に負けたのだった。


つづく


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