「というわけでっ! 織斑さん、クラス代表決定おめでとうございますっ!!」
「おめでとうございまっ!!」
「へ?」
パンパンと火薬が爆発するような音がして、次に複数の「おめでとうございますっ!」の声。さらに、大量に舞う紙吹雪。誰も手加減というものを考えなかったのだろう。多ければ多いほどいいというような考えに基づいたかのような量だった。
一方、その大音量と大量の紙吹雪に迎え入れられた一夏は、まったく状況がつかめていない様子で、呆けた顔をしており、おそらく事情を知っているであろう隣に立つ箒に視線を移す。
しかし、箒は一夏を騙して連れてきたという意識があるのか、そっぽ向いてそ知らぬ顔をしていた。もしも、箒がもう少し茶目っ気があったならば、吹けもしない口笛を吹いているような仕草をして見せたかもしれない。
ここに来る経緯は、いつものように箒から剣道の稽古をつけてもらい、稽古が終わった後に箒が珍しく、食堂で一緒に食事を取ろうというから、シャワーを浴びた後に制服に着替えた一夏は、こうして寮の食堂へ来たのだが、どうやら、箒に担がれたらしい。珍しいことをするものだ、と思っていたのだが、まさか、こんな裏があろうとは一夏も予想ができなかった。
「ささっ、主役は中心へ」
呆けて、箒を睨んでいる間に気づけば、人の波に押されて、食堂の中心へ連れて行かれる。さらに、食堂の中心についた一夏に紙コップが渡され、さらには、コップにはジュースが注がれる。ここまでの一動作は、すべて別人が行っている。もしも、クラスによる団結力を測るならば、一組は断トツだろう、と目まぐるしく変わる状況に思考がついていけない一夏は、冷静な一部分を使ってそう思っていた。
「それではぁっ! 改めまして、織斑一夏さんのクラス代表決定を祝しまして、かんぱ~いっ!」
誰かが音頭を取っているのだろう。残念ながら、男子に埋もれている一夏は、誰が音頭を取っているか分からないが。その音頭を取った男子に続いて、多数の男子が先ほどと同じように「かんぱいっ!」と唱和する。一夏は、まだ状況がすべて把握する事ができず、思わず乗せられたように一テンポ遅れて、一人、「かんぱい……?」と口にしていた。
それで、とりあえずの段取りは終わったのだろう。まるでパーティーのフリータイムに入ったように一同がガヤガヤと騒がしくなった。
―――い、一体、なんなのかしら?
ここまできて、全容を把握できない一夏。しかし、天井からかかっていた横断幕を見て、ようやく事態が飲み込めた。
『織斑一夏さん、クラス代表決定祝賀パーティー』
そう、パーティだ。パーティらしい。しかも、主役は自分で。クラス代表になったことに対してのサプライズパーティーらしい。主催は誰だろうか。見覚えのある男子ばかりなので一組だとは思うが、それにしては、寮の食堂が大半埋まるほどの人数なのだ。この場にいるのは一組だけではないだろう。
少し耳を澄ませてみれば、色々な声が聞こえる。
「いや~、これでクラス対抗戦が盛り上がるな」
「やっぱり、せっかく女の子がいるんだから華があるほうがいいよなぁ~」
「俺らラッキーだよな。学園で一人の女の子と一緒のクラスになれるなんて」
「ISを操縦しているところも見られるしな」
「というか、織斑さんのインナースーツ姿を思い返すと俺は……はぁはぁ」
「ば、バカ野郎っ! 織斑教官に聞かれたらお前死ぬぞっ!」
一部、不穏な話が聞こえてきたような気がするが、一夏は、それを気のせいということにして、気にしないことにした。今までも、似たような体験はあったので、気にしないことは慣れている。
「あ、あの、織斑さん」
今から、飲み物でも飲んで、パーティーが始まる直前で分かれた箒か、あるいはこの場にいるであろうセシルと合流しようと場所を動こうとした一夏は、自分の名前が呼ばれたような気がして、振り返る。すると、そこにはIS学園の男子の制服に包まれたクラスメイトが立っていた。残念なことに一夏は、彼の名前を知らなかった。顔は見たことあるのだが。
「えっと……なにかしら?」
名前を覚えていない気まずさを感じながらも、一夏は、微笑を浮かべたまま、彼に先を促した。
「そ、そ、その……く、クラス代表おめでとうございますっ! お、俺、応援しますからっ!」
「あ、ありがとう」
彼が余りに緊張しすぎているのか、どもる声と固い表情に若干引きながらも、一夏はお礼を言う。彼の態度が気になるが、それでも、応援してくれているのは分かる。ならば、お礼を言うのが筋というものだろう。単に礼儀としてお礼を言っただけ、だが、彼は、喜びを隠すことなく、笑顔になり、「失礼しますっ!」と頭を下げた後、友人達がいるであろう男子達の集団に駆け足で戻っていった。
―――な、なんだったんだろう?
ただ、お礼を言っただけで、あそこまで喜ばれるのは、奇妙な感覚だった。一体、何が嬉しいのか一夏には分からなかった。
その後、似たようなことに何度か襲われながらも、一夏は、先ほどと同じようにお礼と一言をつけて、彼らに対応するのだった。
似たような集団を対応し続けて、30分程度経っただろうか。ようやく、一夏に声をかけてくる人はいなくなった。誰も彼もが、友人と一緒に話に花を咲かせている。しかし、おそらく、主役であろう自分が、最初だけで放置されると彼らは、自分を出汁にして騒ぎたいだけなのでは? とも思ってしまう。
「人気者だな」
「……わたしを見捨てて、何所にいたのよ?」
誰も話しかけてこなくなったタイミングを計っていたのだろう。いつの間にか隣には箒が立っており、右手には紙コップ、左手には料理が乗せられた紙皿を持っていた。紙皿の上には、肉、野菜、ご飯が均等に乗っていた。おそらく、一夏からは男子の壁に隔てられて見えないが、向こう側には、バイキング形式で料理がおいてあるのだろう。箒はそれを取ってきてくれたのだ。
「これで足りるか?」
一夏の質問に苦笑しながら、箒は質問に答えず、誤魔化すように左手に持っていた紙皿を差し出した。
「……ありがとう」
納得できないが、剣道の稽古でお腹が減っているのも事実。これで、誤魔化されてやろうと一夏は、箒から料理を受け取る。
「わたしは、夜はあんまり食べないから十分よ」
夜は、寝るだけなので、一夏は、あまり晩御飯は量を食べないようにしていた。スタイルが崩れるのも怖かったが、健康に気を使う、という意識もあったからだろう。親友には、若いのに……、といわれた事があったが、料理を趣味にしていると食事に関する健康法は嫌でも耳に入るのだから仕方ない。そして、体に毒になると分かっていて、実行する気になれなかった。
「……許してやってくれ」
「何を?」
いきなり箒が何かを言い出して、一夏は思わず聞き返す。箒の言葉が足りないのは慣れているが、このタイミングで、許してやってくれ、といわれても訳が分からない。
「彼らの態度だ。女の子に慣れてないらしくてな。一夏とどう話していいか分からないらしい」
箒が運んでくれた料理を口にしながら、一夏は、なるほど、と思った。
IS学園に入学してくる男子というのは、優秀だ。当然といえば、当然だ。彼らは将来、国防を担う軍人になるのだから。よって、優秀な人間の囲い込みは早い時期から行われる。早い人で小学校のうちから、遅い人でも中学校に上がる前には、IS学園の予備校のような国の専門学校に入学させられる。もちろん、本人の意思つきではあるが。
一夏は知らないが、セシルも両親の遺産を守るために比較的早いうちから政府によって囲い込まれ、専用機が与えられるほどになっている。
そして、IS学園に入学するための学園だ。男子校になるのは言うまでもない。早い奴で小学校の低学年から男子だけの世界で生きてきたのだ。IS学園に入学して、急に女子が現れれば、戸惑うのも無理はない。
なるほどね、と一夏はもう一度、このIS学園に入学してからどこか余所余所しい男子の態度にようやく納得した。
「はいは~いっ! 新聞部で~すっ! 話題の新入生、織斑一夏さんに突撃インタビューに来ましたっ!!」
場が少し落ち着きかけたというのに、それをかき乱すように騒がしい乱入者が姿を現したようだ。いきなり食堂の入り口から現れると男子の波を「はいはい、通してね」と言いながら無理やって割ってくる。しかも、周りは囃し立てるようにオーッと声を上げていた。
「初めまして、織斑さん。俺、二年の黛薫。よろしくね。新聞部の副部長やってる。はい、これ名刺」
「あ、ありがとうございます」
男子の波を割って出てきた先輩は、どこか嘘くさい笑みを浮かべた二年生の先輩だった。肩からかけた一眼レフのカメラがいかにも新聞部と主張しているようにも見える。
黛薫と名乗った彼は、最初は、一方的に挨拶するだけだったが、最後は、丁寧に企業の人が名刺を差し出すように両手で名刺を差し出してきた。
彼のテンションの高さに圧倒された一夏だったが、丁寧に名刺を差し出されては、受け取らないわけにはいかない。持っていた紙コップと料理を隣に立っていた箒に渡すと一夏も両手で名刺を受け取った。
名刺には、実に画数の多い文字で名前が書かれており、肩書きなのか『IS学園新聞部副部長』の文字。それと自前の写真と連絡先が書かれていた。至って普通の名刺だが、一介の学生が持っている可能性は低いだろう。
「では、織斑さん、早速ですが、クラス代表候補になった感想をどうぞっ!!」
まるでテレビの中でしか見たことないようなボイスレコーダを差し出して、無邪気な笑みを浮かべて、瞳を輝かせている。そこには、一夏が勝手な偏見で思い描いている芸能レポーターが浮かべているような下種びた笑みはなかった。
しかし、急に感想をどうぞっ! と言われても困る。しかし、わざわざ一年生の中を掻き分けて自分をインタビューに来てくれた先輩の期待を裏切るのも忍びない一夏は、何とか言葉をひねり出した。
「わたしみたいな初心者がクラス代表になって良いのか分かりませんが、代表になった以上、やれる限り頑張ります」
「あ~、普通。普通だな。もっと、こうネタになるコメントくれよ。例えば、『わたしがIS学園の女王様になるっ!』とかさ!」
「いやいや、ありませんから」
茶目っ気たっぷりで言う薫がよほど癪に障ったのだろうか、一夏は間髪いれずにツッコミを入れていた。これがセシル辺りであれば、拳の一つでも飛んでいたかもしれないが、相手は先輩だ。言葉だけにしていた。
「そっか。じゃあ、まあ、適当に捏造しておくか」
「捏造しないでくださいよ」
それは、新聞とは言わず、ゴシップというんじゃないだろうか、と一夏は思ったが、先輩はどうやら聞く耳を持っていないらしい。一夏の要求を聞かない振りをして、次のターゲットに狙いを定めたようだ。
「お~い、セシル君も、なんかコメントくれよ」
「ふっ、仕方ない。こういったコメントはあまり好きではないのだが」
いつの間にか一夏の近くにいたセシルが、薫に呼び出されるようにして一夏の前に現れた。箒が隣にいたため、セシルのことはすっかり忘れいていた一夏からしてみれば、セシルってば、そんなところにいたんだ、ぐらいの扱いである。
しかも、彼は最初から新聞部が来ることを知っていたのだろうか、いつもよりも豪華な金髪が綺麗に整えられているような気がする。
一夏も知っていれば、髪をもう少し綺麗に整えてきたのに、とは思いながら、ポニーテイルの先を弄るが、後悔先に立たずとはよく言ったものである。
「コホン、まず、俺が一夏にクラス代表を譲ったかというとだ―――」
「あ、やっぱりいいや。男の話なんて誰も聞きたくないだろうし。写真だけくれ」
自分から言い出した割には、セシルの話が長くなりそうだ、というのを新聞部副部長の勘が告げたのだろう。面倒くさそうにセシルの話を途中できった。しかし、仕方ないといった割には、饒舌に話しかけたセシルからしてみれば、たまらない。
「最後まで聞けっ!」
「はいはい、読者が求める声を届けるのが俺の役目。とりあえず、そこに二人並んでよ。写真取るからさ」
「なに?」
セシルの怒りの声を軽くいなして、薫は首から下げていたカメラを弄りながら調整を行っていた。しかも、どうやら二人というのは、一夏とセシルのことらしく、右手で弄りながら左手で一夏にセシルの方に行くように指示していた。
「わたしとセシルを撮るの?」
「二人とも学園の中でも珍しい専用機持ちだからね。ツーショットが欲しいんだ。一応、前回の模擬戦の解説とか織斑教官に頼んで特集号だから、健闘を称えて握手って感じでお願い。あ、セシル君も織斑さんも待機状態のISが見えるように」
実に細かい指示を飛ばす薫。従う理由もないのだが、従わない理由もない。一夏は、ここまで来てくれたのだから、仕方ないか、と思い、セシルに近づく。しかし、遠くからは分からなかったが、近づくとどこかセシルの様子がおかしいことに気づいた。なんというか、そわそわしているような気がする。何か気が気じゃないことがあるのだろうか。
少し考えてみて、一夏には彼が落ち着かない理由がすぐに分かった。
「セシル、そんなに緊張しなくてもいいじゃない。ただ握手するだけなんだから」
「ば、馬鹿なっ! 俺は緊張などしていないっ!」
誤魔化すようで、誤魔化しきれていない。その様子がなんだか、子どもっぽくて、セシルから見えないようにくすっ、と苦笑した。
セシルが、国家代表候補になったのは、入学する前だ。つまり、その前からIS開発に携わっていたことになる。つまり、セシルも他の男子達と同じように女子になれていないと一夏は思ったのだ。話すのは大丈夫だが、話すのと触れるのは異なる。だから、緊張している、と一夏は思っていた。
「はいは~いっ! それじゃ、撮るよ」
「ほら」
薫に急かされ、一夏は、右手を差し出す。セシルが一夏の手を取るだけだ。
「ふんっ」
一夏の手を握るのが照れくさいのか、セシルは、ややそっぽを向きながら仕方ない、と言いたげに鼻を鳴らすと一夏の手をとる。一夏も、さすがに男子の手に触れるのはずいぶんと久しい。
―――やっぱり男子の手って大きいなぁ。
思わず、そんなことを考えてしまう一夏。しかし、その一方で、セシルの男の子らしい手の大きさとは逆に一年ほど前に引越しのために遠くへ行ってしまった幼馴染を思い出す。彼の手を直接握ったことはないが、それでも大きさは自分達とほとんど変わらなかったような気がした。
「はい、それじゃ、撮るよ。はい、チーズ」
お決まりの台詞で、薫のシャッターがかしゃかしゃと切られる。普通に終わっていれば、これで終わりだったはずだ。しかし、撮られた写真は普通に終わっていなかった。なぜなら、一夏とセシルの周りにはいつの間に近づいたのか、一組のクラスメイトたちが集まっていたからだ。しかも、箒まで気づけば、一夏の隣にいる。
「き、き、貴様らぁぁぁっ」
せっかく、一夏とのツーショットが撮れると思っていたセシルからしてみれば、怒り心頭だ。余計な水を指したクラスメイトに吼えるセシル。彼の怒りを受けてか、クラスメイト達は一斉に蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
その光景を見ながら、一夏はやれやれ、と肩を落とす。なんとも、グダグダになってしまったからだ。
しかしながら、このパーティーにおける一枚の思い出になったことは間違いなかった。
◇ ◇ ◇
「一夏、中国の代表候補が転入して来るそうだ」
昨日のクラス代表就任パーティーから一夜明けた次の日の朝。席に座った一夏に箒が近づいてきて、転入生の話を始めた。一夏からしてみれば、転入生が来る、という情報自体は、ふ~ん、と流す程度だ。それがたとえ、中国の代表候補生としても。むしろ、気になるのは、箒がそんな話を振ってきたことだ。
「箒が、気にするなんて珍しいわね」
言外に、どうして、そんなことをわたしに言うの? という意味を込めてみる。
「もしかしたら、そいつがクラス代表戦にでてくるかもしれないからな。情報としては持っていたほうがいい」
どうやら、一夏を心配してのことらしい。確かに、現状の情報では、せいぜい国家代表候補になるような生徒は四人しかおらず、また専用機持ちは、四組の一人のみだ。もっとも、その四人は、セシルを除いてクラス代表になっているというのは間違いない。専用機を持っていないとはいえ、代表候補というのは、量産機でも十二分な腕前を持っている。舐めてかかれば負けてしまうだろう。
だからこその情報収拾だ。前もって対戦相手が国家代表候補と知っているのと知らないのでは、心構えが異なる。
「稽古をつけている身としては、優勝して欲しいからな」
優勝は無理にしても、それに近いところまでは行ってほしいと思うのは、師匠という立場からしてみれば、当然のことだ。だからこそ、箒は、一夏のために苦手な情報収集も行っていた。むろん、惚れた相手が負けるところを見たくないというのもあるだろうが。
「なに、このセシル・オルコットが訓練をつけているのだ。一夏が優勝することなど容易いことだ」
いつの間にか、セシルが一夏の席に近づいていた。しかも、箒との会話を聞いていたのだろう。自らの訓練を持ち出して容易いことだと豪語して見せた。戦うのは、セシルではなく一夏のだが。
もっとも、そうはいうものの、一夏はセシルにも確かに感謝していた。セシルにISを、箒に剣道を見てもらうことで、確かに操縦は上手くなっているからだ。昨日できなかった事が、今日はできる。それが確かに実感できた。一人では、おそらく不可能だっただろう。
「―――うん、やれるだけやってみましょう」
師匠ともいえる二人が望んでいるのだ。それなりに頑張ればいい、と思っていた一夏だったが、本気で狙えるところまで狙ってみようと思いなおした。
「織斑さん頑張れ~」
「もしも、織斑さん優勝してくれたら、俺ら学食半額だよな?」
「なにっ! それは、是非とも織斑さんに優勝してもらわなければ」
彼らが言っているのは、クラス代表戦における優勝組への商品のことだ。半年間、学食を使用した場合、すべての商品が半額となるのだ。男子からしてみれば、いつもの料金で倍の量が食べられるため、どのクラスも狙っていると聞く。しかし、通常のメニューですら、男子用で多いと感じているのに、さらに食べるができず、あまり魅力を感じなかったが。
「でもよ、今のところ専用機を持っているのって四組だけだから、優勝できる確率高いんじゃねぇか?」
本気で議論しているところで、誰かが不意に口にした。
確かに専用機は、個人専用となり、適応化が進むため、量産機とは異なり、時間が経てば経つほどに強くなっていくが、それでも一夏の腕前が国家代表候補に選ばれる連中に追いついているか、と問われれば、甚だ疑問だ。油断していれば、量産機でもやられてしまうだろう。
よって、楽観視はできない、そうクラスメイトに伝えようと思ったところで、不意に入り口がガラガラと開いた。
「―――その情報古いねっ!!」
勢い良く言葉を発したのは、入り口に立っている誰か。一夏は、その声に酷く懐かしい気分にさせられた。
「二組も専用機持ちがクラス代表になったから、そう簡単に優勝なんてできないもんねっ!」
入り口に立っていたのは、背の低い男子。黒髪は、日本人であれば誰でも持っている髪であろうが、鋭角の目は、彼が日本人ではなく、中国人であることを示している。そして、一夏は、そのような容姿と先ほどの声に心当たりがあった。
「鈴? 鈴なの?」
思わず思いついた懐かしい名前を一夏は口にしてしまう。一夏が彼の名前を口にしたのを聞いたのだろう。彼は、どこか子どもっぽい笑みをにっ、と浮かべると腕を組んだまま嬉しそうな声で言う。
「やっほ! 一夏、久しぶりっ! 鳳・鈴栄、中国代表候補および専用機持ちになって戻ってきたよっ!」
一夏からしてみれば、約一年ぶりの再会となるもう一人の幼馴染である鳳・鈴栄との再会だった。
つづく