「やっほ! 一夏、久しぶりっ! 鳳・鈴栄、中国代表候補および専用機持ちになって戻ってきたよっ!」
一夏の呼びかけに応えるように鈴栄が手を挙げて、嬉しそうに笑いながら、一夏の下へ近寄ってくる。
「わぁ、一年ぶりぐらいね。元気だったっ!?」
「もちろんだよ。一夏は?」
久しぶりに再会した友人がよほど嬉しかったのだろう。先ほどまで話していた箒もセシルの存在も忘れたように一夏も鈴栄に近寄って、わいわいきゃあきゃあ、話し始める。まるで、女の子同士が再会したように。
もっとも、男二人からしてみれば、鈴栄の身長は一夏と同じか、少し低いくらいなので、もしも、制服でなければ、鈴栄が男だとは思わなかっただろう。
久しぶりの再会で、積もる話もあるだろうから、しばらく静かにしておこう、と腕を組んでふぅ、とため息を吐く箒。一方、セシルは、一夏と話している最中に突然割り込んできた鈴栄に腹を立てていた。
「おいっ! 貴様、二組の人間が何をしに来たっ!!」
まるで、一夏と鈴栄の二人の会話を邪魔するように今度はセシルが割り込む。誰もが、一夏に会うために来たんだろう、とは思った。しかし、セシルに割り込まれた鈴栄は、あっ! と何かを思い出したように声を上げた。
「そうだっ! 忘れてたっ! 今日は宣戦布告に来たんだっ!」
トテトテと一夏の正面で話していた位置から少しだけ移動し、今度は、割り込んできたセシルの正面に立つ。欧米の血が入っているためか分からないが、セシルの身長は高い。箒の180センチには届かないものの170センチはある。よって、セシルの真正面に鈴栄が立つとまるで大人と子どもの身長差があるようにも見える。
そんなセシルに対して鈴栄は臆することなく、びしっ! と人差し指をセシルに向けると高らかに宣戦布告を行った。
「イギリス代表候補生、セシル・オルコット! 来月のクラス代表戦で勝負だっ!」
高らかに成された宣言。しかしながら、周りの反応は、無言だった。全員が何を言っていいのか分からないのだ。何を言ってもどうしようもないような気がして。だからこその無言。しかし、気まずげな雰囲気やセシルへ向けられた哀れみの表情は存在した。
「ん? なんか、僕間違えた?」
鈴栄も何か不穏な空気を感じたのだろう。米神に冷や汗を流しながら、何か失敗しただろうか、と考える。しかし、違う。確かに間違っている。しかし、それを指摘することは、セシルにさらに追い討ちをかけるようで誰も何もいえないのだ。
鈴栄が昨日の今日転入して来たなら、彼もあの一夏とセシルの戦闘の結末を知らないはずだ。もしも、それをセシルの『イギリス国家代表候補』という肩書きのみで判断したならば、クラス代表をセシルと思うのも間違いではない。いくら一夏が、女性初のIS搭乗者と言っても、クラス代表になるのは無理だろうから。
誰もが納得できる勘違い。故に、誰も指摘できなかった。しかし、誰かが正してやらなければならない。だから、動いたのは、このクラスで鈴栄の唯一の知り合いである一夏であった。
「鈴……あの、クラス代表はわたしなんだけど……」
「え?」
驚いた表情をしているのは鈴栄だ。そもそも、二組の連中は一組の内容を教えなかったのだろうか、と考えたが、今は、朝のHRの前だ。転入生として紹介されるのはその時であろう。つまり、二組にも知り合いはいないのだ。もしも、鈴栄が、このような真似をするのを知っていれば、誰か止めただろう。
「う、うそっ!?」
「ほんと」
一夏から告げられた真相を真実を否定したかった鈴栄だが、真面目に一夏に答えられては信じないわけがなかった。
真実のあまりの重さにがくっ、と膝を床に着く鈴栄。
「そ、そんな……ティオにまで確認したのに……」
昨日の夜、アリーナで二人を見かけて、その後、事務室でおじさんからセシルと一夏との戦闘を聞いて―――この時、おじさんは、あまり興味がなかったのか、国家代表候補のほうがクラス代表になったんじゃないか、と一般的な回答を鈴栄にした―――さらには同室のティオにイギリス代表候補だと確認までした。もっとも、同室の彼は、セシルがクラス代表になったとは一言も言っていない。
「どうして、こいつがクラス代表じゃないんだよっ! こいつ国家代表候補なんだろっ!?」
「そうなんだけど……」
これまでの経緯を説明するのは面倒だったが、一夏は最初からセシルと一夏のクラス長を決める模擬戦からクラス長が決まるまでの経緯を話し始めた。
「……つまり、こいつは、初期設定のままISを動かしてる一夏に当てられなくて、さらに、あっさりやられちゃった、と」
鈴栄に質問に一夏は、どう答えたものか、と逡巡する。鈴栄の背後に見えるセシルが見えたからだ。あははは、と呆けているセシルを見るに、うん、と素直に答えられない。もう、彼のライフはゼロよ、と言いたいくらいにセシルは打ちのめされていた。しかし、鈴栄の質問に否、と答えることもできない。なぜなら、鈴栄が言ったことも事実だからだ。
「……まあ、そんなものね」
だから、少しだけぼやかして答えるのが精一杯だった。もちろん、それでもセシルにとどめになったのは事実だが。
「そうなんだ。それで、一夏がクラス代表に……。あ~あ、一夏がクラス代表って知ってたら、二組のクラス代表になんてならなかったのにな」
鈴栄がターゲットにしていたのは、あくまでもあの夜、一夏の隣で仲良さげに話していた金髪の男性―――セシルだけだ。一夏ではない。よって、鈴栄がクラス代表になって、一夏と戦うことは不本意だった。
「そうだっ! 今から、変更してもらうっと」
昨日の夜に半ば無理矢理、脅し取ったに近いクラス代表の権利だが、相手がセシルではないなら、鈴栄にとっては無用の長物だった。何より、昨日の夜、元クラス代表は、ざめざめと泣きながら、鈴栄にクラス代表の権利を譲っていたから、今更でも、返すといえば、喜びこそすれ、拒否することはないだろう、と鈴栄は思っていた。
「ねえ、一夏。僕がISの操縦教えてあげるよ。僕が教えれば、きっと優勝なんて簡単だからさっ!」
そう、それがいい、と鈴栄は、何気なく言ったことだが、名案のように思えていた。
一夏にISの操縦を教えるということは、少なくともISの操縦を教えている間は一緒にいられるということだ。クラスが別々になってしまったのだから、こういうところで、関係を作っておくべきだ、と鈴栄は思った。
「ちょっと待てっ! 一夏に操縦を教えるのは俺だ」
鈴栄の提案に反対するのは、現在、ISの操縦を教えているセシルだろう。彼からしてみれば、鈴栄は、突然、現れて、自分の教師役を取っていこうとしているのだから当然だ。
しかし、そのセシルを鈴栄は胡散臭そうな目で見ていた。
「え~、あんたが?」
その声には、不満げな色がありありと見て取れた。
「一夏みたいな初期設定も終わっていない機体に負けちゃうような君が教えてたら、上手くなんないよ。それよりも、僕が教えたほうが絶対、上手くなるからっ!」
ねっ! と一夏に同意を求めるように笑顔を向ける鈴栄。しかし、一夏には、鈴栄にどうやって答えていいのか分からない。
少なくとも、セシルのこれまでの操縦技術を教える時間が無駄だったとは思えない。確かに教えるには向いていない性格かもしれないが、それでも、教えようという気概はあった。彼の指導によってできるようになった基本動作も多々ある。だから、ここで、急に鈴栄に乗り換えるような真似はしたくなかった。
「ちょっと待て、貴様。先ほどから、俺のことを馬鹿にしているのか?」
「え? 今更、気づいたの? おっそいな~」
セシルの怒気の篭った声色に驚く一夏を余所に、鈴栄は、その怒りを受け流すように相手にしない。
その様子を一歩はなれて見ていた箒からしてみれば、どこかデジャビュを感じる光景。いつかの焼き直しだった。
「決闘だっ!」
「いいよ」
ああ、やっぱり、と周囲の誰もが思った。決闘しか物事の決着をつけられないのか、とも思ったが、この場合は、正しいことに少し遅れて気づいた。なぜなら、この場を収めるためには、どうやってもISの戦闘は避けられないだろうから。
しかし、喧嘩っ早いにもほどがある。もう少し、何とかならないものか、と一夏は思うものの、男の子とはそういうものだろうか、と逆に納得したくもなる。
「でも、どうするの? 君が望んでるような決闘はできそうにないよ」
「ぐっ」
ニヤニヤと笑う鈴栄と鈴栄が言っていることの意味が分かるのか、図星を指されたように言葉に詰まるセシル。
彼らが望んでいるのはISによる模擬戦だ。だが、IS同士―――しかも、専用機同士の模擬戦ともなれば、簡単にできるものではない。アリーナを貸しきったり、日程の調整などをしなければならないのだから。しかし、クラス対抗戦の準備期間に入っている今にそれが行えるとは思えない。おそらく、彼らが望む決闘ができるとすれば、クラス対抗戦が終わった後だろう。しかし、それでは遅すぎるのだ。
「まあ、唯一、できそうな機会は、誰かさんが負けた所為でできないしね~」
「ぐぅ……」
ぐうの音も出ないとはこのことだろうか。当然、鈴栄が揶揄しているのは、クラス対抗戦のことだ。お前が一夏に負けなければ、クラス対抗戦で決闘の約束もできただろうに、と鈴栄はそういいたいのだ。しかし、現実は一夏がクラス代表で、セシルは、ただの観客。鈴栄は、二組のクラス代表だが、セシルは一般生徒だ。
鈴栄の明らかに馬鹿にしたような言い方にセシルは何も言い返せない。負けたのは事実だ。それは、セシルの中で認めているため、言い返すことは、己の決定を覆すことになる。それは、セシルのプライドにかけて許せなかった。
また、ここまで言われれば暴力に物を言わせてもおかしくはないのだが、それでは意味がない。腕力で勝ったところで意味がないのだ。相手が馬鹿にしているのはISの腕についてだ。ならば、暴力を片をつけても仕方ない。むしろ、ISの操縦に自信がないから、暴力に訴えた、といわれるだけだ。
結局、この諍いを収めるためにはISの模擬戦で白黒はっきりつける必要がある。
怒ってはいても、そこまで考えられるほどにはセシルは冷静だった。
ならば、セシルがやらねばならないことは一つだけだった。
「――― 一夏」
「え、なに?」
半ば、二人の言い争いに置いてきぼりだった一夏は、自分の名前を呼ばれたことでようやく意識が追いついた。もっとも、直後のセシルの行動で、またしても意識は置いてきぼりにあってしまうのだが。
「頼む、クラス代表の権利を譲ってくれ」
直立になって、セシルはばっと九十度に近い形で頭を下げる。この行動にはクラスの誰もが度肝を抜かれた。セシルの態度といえば、一番最初に来るのは『偉そう』という評価。そのセシルが、一夏に対してだが、頭を下げたのだ。驚かないわけがない。一夏との関係で、周りの人間よりも少しだけ関わりの深い箒でさえも目を丸くして驚いていた。
そして、一番驚いていたのは、一番最初にセシルの態度によって厄介ごとに巻き込まれ、現在は、セシルに頭を下げられている張本人である一夏であろう。
―――頭を下げてる? あのセシルが?
そして、現状に頭の処理が追いつかない一夏は思わず言葉を口にしていた。
「うん」
「そ、そうかっ! ありがたいっ!」
ばっ、と頭を上げて、欲しいおもちゃが手に入った子どものように無邪気な笑みを浮かべるセシル。本当は、現状に処理が追いつかなくて呆けていただけだが、今更、撤回するのは難しそうだった。
しかし、昨日は、パーティーを開いてくれるほどに喜んでくれたのだ。今更、一夏が勝手にセシルを代表にしていいものか? とも思ったが、周りの反応は悪いものではない。「面白くなった」とか「専用機同士の決闘か」「しかも、国家代表候補同士だろう?」「織斑さんか、国家代表候補の決闘か。悩むな」という感じだ。
それに、よくよく考えてみれば、一夏はセシルのようにどうしてもクラス対抗戦に出たかったわけではない。クラス長に選ばれ、皆が望み、そして、師匠である二人が期待してくれるので頑張ろうと思っただけだ。ならば、セシルのように出たいと望んでいる人に譲ってもいいのではないか、と、そう思うことにした。
「聞いたなっ! 小猿っ! クラス対抗戦で決闘だっ!」
びしっ! と先ほどの殊勝な態度はどこへやら、いつものセシルの態度が復活し、びしぃっ! と人差し指を鈴栄に突きつけていた。
一方の鈴栄も心穏やかではない。それは、セシルが鈴栄のことを『小猿』と読んだことに起因する。彼は、小さく見られる事が嫌いだ。先ほどまではからかう意味で、セシルを馬鹿にしていたが、自分を小猿などと呼ぶのであれば、容赦はしない。
「ふんっ! いいよ。せめて、一夏の前で無様に負けないようにするんだね」
「貴様こそ、俺を馬鹿にしたことを後悔させてやる」
バチバチ、とセシルと鈴栄の間にバチバチと火花が散ったような気がした。おそらく、一夏の気のせいだろうが。
何はともあれ、二人の『一夏にIS操縦を指導する権利』をかけた決闘は、幕を開ける。
ちなみに、この二人の騒動は、瞬く間に学校中に広がり、最初は前述のような理由だったのだが、いつの間にか、『一夏をかけて二人が決闘する』という内容に摩り替わるのだった。
◇ ◇ ◇
「織斑せんせ~い。困ったことになりました」
「どうした? 山田くん」
放課後の職員室。夕日が差し込む中、千冬が仕事をやっているとかなり困った顔をして、真耶が近づいてきた。IS学園というのは、国際色豊かな学校だ。よって、文化や考えの違いによる諍いは常日頃だ。特に男子ばかりなので、喧嘩が起こることも珍しいことではない。
困ったこととはなんだろうか、と思っていると近づいてきた真耶が持っていた一枚の紙を差し出した。
「来月のクラス対抗戦の出場者名簿なんですけど……」
困ったように真耶によって差し出された紙には、一年生のクラス代表の名前がかかれていた。そこに並ぶ名前。もしも、クラスの横に書いてある名前に空白があるのであれば、困った事態にもなるだろうが、すべての欄に名前は埋まっている。
彼らが困っているのは、その紙に書かれた一番上の名前だ。
『セシル・オルコット』
一組の代表は、一夏じゃないのか、と千冬が思ったのも無理はない。彼は、今朝の出来事を知らないのだから。もっとも、噂としては、今は寮の中で尾ひれ背びれつきながら段々と広がっているが。教職員である彼らの耳に届くのは早くても今夜だろう。
「確かに、これは困ったことになりましたね」
千冬もこの事態は想像していなかっただけに、困ってしまった。もしも、クラスの模擬戦で一夏が負け、セシルが勝って、クラス代表になっていたなら、何か対処していただろうが、一夏が代表になった時点で、彼女がクラス対抗戦に出るのだろう、と思い、何も対応していなかった。
「どうしましょうか?」
「う~む」
セシルが、無理矢理、一夏と交代したとは思えない。彼は負けた、と言っていた。セシルのプライドの高さは千冬も知っている。故に、無理矢理変わるわけもなく、一夏が嫌がって、セシルに押し付けようとしても拒否するのは分かっている。
それに、無理矢理セシルが出るととは到底考えにくい。確かにクラス対抗戦に出るのは、内申点などで考慮され、卒業後の進路にも影響を与えるだろうが、専用機を持った国家代表候補が今更、クラス対抗戦に出場した、程度の小さな内申点を稼ごうとは思えないからだ。
ならば、何らかの事情があると見るべきである。
これが普通の交代ならばいい。クラス代表には権利を譲るという権限もあるのだから。しかし、織斑一夏だけは例外だった。彼女には絶対にクラス対抗戦に出てもらわなければならない事情があった。
クラス対抗戦というのは、三年生にしてみれば集大成。進路にも直結する大事な行事だ。当然、多くの関係者が見に来る。しかも、お偉いさんといわれるクラスの人間が、多数だ。そんな人たちが集まる行事で、世界で唯一ISに搭乗できる『織斑一夏』という存在を出さないわけにはいかない。
現に、織斑一夏のお披露目をするように各国の軍関係者、および国際IS委員会、日本政府からも要請が来ている。
まるでパンダのような扱いだが、仕方ないだろう。なにせこれまでいくら探しても見つからなかった女性搭乗者なのだから。もっとも、真相を大体の域で知っている千冬からしてみれば、面倒なことこの上ないが。
もしも、千冬に権力があれば、そんな要請は突っぱねていただろう。しかし、ここでは、千冬は一介の教師だ。篠々之束の友人であるとか、元日本代表だとか、国際大会優勝者だとか、そういった肩書きは一切通用しない。国際IS委員会の元に運営されている以上、教師である織斑千冬は、要請には従わなければならない。
特に日本政府からは再三の要請が来ている。
なぜなら、織斑一夏という存在は日本政府にとって金の卵だからだ。
そもそも、日本政府が欧米諸国から圧倒的に不利な条件―――学園の運営費を日本政府が出すなど―――でIS学園を受け入れたか、というと、簡単に言うと企業誘致の一環と言っていいだろう。IS学園ができるということは、その周辺には間違いなく研究所ができる。
なぜなら、そうなるように交渉したからだ。特に『学園がどこの国にも団体にも所属しない』という文言はそのためだ。この文言を入れることで、『国はISに関する技術を公開すること』という文言の抜け道を作ったのだから。この文言のためにIS学園は、ISのパイロットを育てるという表向きの存在理由と公開したくない技術のテストとデータ収集を行うという裏の存在理由ができた。
さて、裏の存在理由だが、学園で収拾したデータはどうするのだろうか。彼らの祖国に送るのは勿論だろう。ならば、次に行うのは改修と改良。その際に、一度、彼らの祖国に送るのは非常に手間がかかる。なにしろ、ISはある種の兵器なのだ。税関などは厄介なことこの上ない。
ならば、近くに作ってしまったほうがよっぽとど手間が少ない、と考えてもおかしくはないだろう。故に、IS学園の周囲は、各国の研究所がたくさん存在していた。それに釣られるようにISの関連企業の支社も。
IS学園を受け入れることで、日本は、そのような恩恵を受けていた。
さらに、ここで長年見つからなかった女性搭乗者の登場だ。『唯一の』という枕詞は客を呼ぶには十分すぎる枕詞だ。今回のクラス対抗戦の観戦を希望したお偉い方は、いつもの約三倍はいたことがそれを物語っている。そのため、客を喜ばせるためにも、面子を保つためにも日本政府としては、織斑一夏のお披露目をしなければならないのだ。
「ふぅ……どうしたものか」
一夏にクラス対抗戦の前に模擬戦を経験させることは成功していた。何かしらの形でISの戦闘をクラス対抗戦でやってもらわなければならないのだから。決して、一夏の料理をあいつらに食べさせたくなかった、という理由ではない。
もっとも、彼女がセシルと引き分けて、クラス長になるとは予想していなかったが。彼にとって都合がよかったのは事実だ。だが、その事実のために今、頭を悩ませているのも事実だ。
「やっぱり、オルコット君に言って、織斑さんと交代してもらいますか?」
「―――いや、それには及ばない」
先ほど考えたように、一夏が交代するほどのことなのだ。こちらの教師という立場で無理矢理交代させたくはなかった。それで、一夏のクラス内の立ち位置に影響を与えることにもなりかねない。それを心配していた。
それに―――
「そんなことをしなくても、一応、案はある」
そう、一応考えていた。セシルに一夏が負けると予想していたからだ。セシルがクラス長になり、一夏がクラス代表戦に出られない。今と同じような状況だ。そのときに備えて、用意はしていたのだ。
千冬が目の前にある自分の端末をいくつか叩いて、フォルダを探し出し、目的のファイルを開く。
その文章ファイルには、『織斑一夏、エキシビションマッチ』と銘打たれていた。
つづく
あとがき
セシルVS鈴栄のクラス対抗戦。たぶん、男子なら、本編のように戦ったりしないだろう。