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No.26265の一覧
[0] 東方終年記(東方Project×終わりのクロニクル)[may](2011/04/06 04:33)
[1] 序章「異世界への招き手」[may](2011/04/06 04:00)
[2] 始章「幻想への誘い手」[may](2011/04/06 04:31)
[3] 第一章「草原の迷い人」[may](2011/04/06 04:59)
[4] 第二章「蒼天の断迷者」[may](2011/04/06 05:40)
[5] 第三章「冥府の鎌操者」[may](2011/04/07 03:26)
[6] 第四章「冥界屋敷の当主」[may](2011/04/07 03:40)
[7] 第五章「炬燵部屋の雪見人」[may](2011/04/07 03:52)
[8] 第六章「妖々夢の花見人」[may](2011/04/07 04:07)
[9] 第七章「通り雨の散歩者」[may](2011/04/07 04:27)
[10] 第八章「竹林の案内人」[may](2011/03/09 23:54)
[11] 第九章「迷宮の開拓者」[may](2011/03/09 23:54)
[12] 第十章「熱風の激昂者」[may](2011/03/09 23:55)
[13] 第十一章「月光の射手」[may](2011/03/10 01:18)
[14] 第十二章「炎翼の再生者」[may](2011/03/11 08:01)
[15] 第十三章「慧涙の理解者」[may](2011/03/11 08:21)
[16] 第十四章「風炎の理解者」[may](2011/03/20 14:18)
[17] 第十五章「馬乗りの説法者」[may](2011/04/08 04:54)
[18] 第十六章「幻月の出題者」[may](2011/03/24 13:23)
[19] 第十七章「永夜抄の詩詠み人」[may](2011/03/24 00:50)
[20] 第十八章「街道の情報屋」[may](2011/03/30 03:37)
[21] 第十九章「花畑の管理人」[may](2011/03/30 05:53)
[22] 第二十章「花罠の仕掛人」[may](2011/04/03 11:29)
[23] 第二十一章「弾幕の修得者」[may](2011/04/05 01:18)
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[26265] 第十二章「炎翼の再生者」
Name: may◆8184c12d ID:fb444860 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/03/11 08:01
 スペルカードを発動させた妹紅は今、風炎の概念が作り出す怒りの熱波と同時に、


「火の鳥……具現化された神鳥、鳳凰か!?」
「我が炎で塵となれ、熱田!!」
 
 
 眼前の敵を焼き尽くす、焼尽の意志を持つ炎をその身に纏っていた。

 鳳凰を象る燃え盛る二枚翼が妹紅の肩口から生え、熱田を威嚇するようにして空に伸びている。
 月光を受けた炎翼を上下に動かした妹紅は、その場で軽く跳躍し、
 
 鳳凰の力をもって概念が作り出す熱風を支配し、跳躍をそのまま飛翔へと昇華させた。

「はぁっ!!」

 繊細かつ大胆に竹林の戦闘空間を低空で旋回した妹紅はそのまま熱田へと突進し、その両手に燃え盛る炎を出現させて練り上げる。
 朱色の炎は妹紅の意志でその密度を上げ、徐々にその形を変えていった。
 
 火の粉を舞い上げながら練成された炎が作り出すのは、妹紅の手刀の延長直線状に伸びる高熱の双刀。
 鳳凰の爪として具現した二本のブレードを振りかざし、妹紅は空中から熱田に強襲を仕掛ける。

「剣神相手に接近戦とは、良い度胸だなクソガキ!!」
 
 熱田はクサナギを腰溜めに構え、高速で襲い掛かる妹紅のブレードに刃を合わせた。


 熱田は、熱田と言う2nd-Gの剣神の最高位であるその名が持つ加護として、低級の刀剣類から傷をつけられないと言う力を持っている。
 その為大量生産の市販品等の、名前の加護を持たない武器で熱田に対して攻撃を仕掛けると言う行為自体が、不毛の極みとでも言えるものだった。


 しかし現在妹紅が扱う炎のブレードは、それ自体に名前は無くとも、

「中国神話の四霊が一つ、神鳥・鳳凰の爪……それ自体が既に剣神と同格って訳だ!!」

 妹紅の連撃を受けるクサナギからは打ち合う度に火花が散り、その飛び火は熱田の皮膚を蝕み、焦がす。
 手の甲に走る熱痛を振り払うようにして、熱田は両手に持つクサナギを袈裟斬りして妹紅を押し返す。
 概念の熱風とぶつかり合ったクサナギの剣風はその中心で暴風を生み出し、妹紅の炎翼が乗る気流を乱した。
 身体をよろけさせながら空中で体勢を立て直した妹紅はすかさず、距離の離れた熱田にクサナギを振る隙を与えないように追撃を仕掛ける。

「火鳥の嘴に貫かれるがいい!!」

 妹紅は叫びながら両手のブレードを頭上に振りかぶりその刃を交差させ、一気に大上段から振り下ろす。
 周囲を包む熱波を擦りながら空間を裂く×字の刃は、空気の層が作り出す悲鳴を合図に、あるものを生み出した。

 クロスされたブレードの中心点から弾ける火花を火種にして生まれたそれは、熱田の倍ほどの大きさを持つ巨大な火の鳥だった。
 
 ブレードが奏でる熱波との鳴音に共鳴するかの様に啼く火の鳥は、妹紅の眼前から一直線に熱田の元へと飛来する。
 
 加速を重ねる火の鳥の身体は橙色から朱色へと
 朱色から紅色へと
 紅色から金色へと己の格を上げ、その存在に神性を帯びていく。

「……やれやれだぜ」

 その嘴を頂点に高速の吶喊を仕掛ける火の鳥を目の前にしてもなお、熱田は表情一つ変えずにぶっきらぼうに言い切った。

 今、クサナギの刃は妹紅の初撃を打ち払った反動で地面へと向いている。
 大剣というカテゴリ相応の重量を持ち、なおかつ剣神である熱田でさえその制御に時間を割いたクサナギを再度振り上げ火の鳥を迎撃する時間は、熱田には無い。
 その事を理解し、火の鳥の嘴が熱田の胴体を貫く事を確実のものとしていた妹紅だったが、

「……な!?」

 衝突までのわずかな時間で行った熱田の取った行動に、絶句する。
 熱田は地に刃をつけるクサナギを持っていた両の手首を返し、大剣の持ち方を逆手持ちへとシフトする。
 
 そしてそのままクサナギを受ける地面を鞘に見立てて力の限り擦り上げ、地摺りの居合いを行って火の鳥に一閃を叩き込んだ。
 
 熱田の足元から引き抜かれるようにして振り上げられたクサナギは、激突寸前の火の鳥の顎を巻き込む形で剣線が作り出す道に、己を体現させる。
 剣線によって威圧された空間にクサナギの刃が走り、一撃を叩き込まれた火の鳥は甲高い悲鳴を上げて霧散した。
 
 火の鳥を作り上げていた圧縮された炎が弾け爆発を起こし、妹紅は爆風から守るようにして目を瞑る。
 風が止み妹紅が再び目を開けると、クサナギを振り上げたままの格好の熱田が笑っていた。

「名付けて必殺・ヴォルカニックヴァイパーver.俺。
 旅先で入ったしなびた温泉宿にあったゲームコーナーで、イカした男が使ってた技だ」

 妹紅は熱田の言っている意味を理解出来なかったが、目の前の現実は理解せざるを得ない。
 渾身の一撃で放った火の鳥の天翔が熱田に防がれ、妹紅の動きが無防備の言葉をもって一瞬、止まる。

 そして、その隙を逃す熱田では無かった。



「痛みもそうだが……怒りってのも自分自身を不用意にさらけ出すんだぜ?
 沸点低いテメェの足りない脳味噌を恨んで……ワケわかんねぇままやられちまえ」



 言って、熱田はゆらりとその身体を陽炎のように揺らす。
 妹紅がハッとして意識を熱田に戻すが、その瞬間に信じられない事が起きる。

 
 熱田の姿が、一瞬の知覚の切り替えをトリガーとして、妹紅の知覚から消えた。


---

 今、熱田は妹紅の意識からその姿を完全に消し去っていた。

 しかしその事実は、妹紅の視覚から来る情報が自身に伝える信号が発する警鐘であり、
 現実には、熱田は先程の位置から半歩身を引いただけで依然として妹紅の視界の延長上に立っている。

 熱田は別段に急がず、ゆっくりとした歩調で空中の妹紅に近づいて行く。
 それに対し妹紅は、熱田という存在と、歩行してこちらに近づいて来るという認識が出来ないでいる。

 目の前の空間に熱田はいるし、その足で地を踏み均しながら歩いているし、熱田の歩行が生む微弱な風が妹紅の翼を押している。
 しかし、妹紅はその視覚でも、聴覚でも、触覚でも、その他全ての感覚でも、熱田の存在を知覚出来ない。
 妹紅から己の存在を奪い去った熱田の行動は、概念でも能力でもない、純粋な体術だった。

 
 2nd-Gが生み出した、対異G用戦闘体術――歩法。
 
 
 そのメカニズムは、相手が無意識に持つ全知覚と相手が無意識に仕掛ける全タイミングから己の気づかれない程度に『ズラす』事にあった。
 一つ一つは小さくても、全てが重なればそれは大きなズレとなって認識に対するノイズへと姿を変え、襲ってくる。
 相手の集中力や感情の変化を逆手に取り隠れ蓑にするその体術は、誰でも誰に対してでも簡単に行える訳ではない。
 
 仕掛ける相手を理解しその上でその知覚から逃げる歩法はその性質上、いくつかの問題点がある。

 まず、対象となる人物の知覚とタイミングを理解しなくてはならない事。
 次に、多人数に対して仕掛けるには相応の技術が必要となる事。
 
 そして、自ら相手の知覚から身を隠すこの技は、他者の全てから逃げる哀しい技だと言う事だ。

「……へっ」

 だが、熱田は常人が使う歩法とは比べ物にならない精度で軽々と行い、妹紅を不知覚の世界へと誘った。
 漏らす笑いも、妹紅の耳には届かない。
 否。届いてはいるが、それが何なのか理解出来ていない。

「結局キーキー怒ってただけだったが……まぁ、痛い目あって反省しろや」

 たっぷりと時間をかけて低空に浮く妹紅の足元まで来た熱田は、クサナギの先端で妹紅の腹部に狙いをつけ、両手持ちで引き絞った。

「刺突――突きと月をかけた俺様のセンスを崇めながら……墜ちやがれ」

 熱田は冗談を言いつつクサナギの突きを妹紅に当てる直前で、歩法を解いた。
 
 
 そのタイミングは、突きを完全に避けるには余りにも少なく、しかし致命傷から己を避けるには十分過ぎる瞬間であり、
 熱田が珍しく妹紅にかけた、憐れみとしての情けでもあった。


 歩法の呪縛から解かれた妹紅は、熱田の台詞と同時にクサナギを構えるその姿を一気に情報として取得する。
 瞳孔が動き、いきなり眼下にその姿を現した熱田に焦点が合う。
 
 歩法の終わりから刺突の始まりまでのその限られた時間で、常人が取る行動は致命の一撃からの回避であり、
 そして同時に、腹部を引き裂く大剣が作る裂傷が生む、戦いの閉幕でもあった。

 次の瞬間、終わりを告げる熱田の突きが風を纏って妹紅へと伸びた。
 剣神の一撃は、先刻火の鳥を霧散させた一撃を打ち上げから刺突へと置き換えただけであり、
 同時にその対象を火の鳥から妹紅へと置き換えただけで結果は何も変わらない


――はずだった。

 
 身を穿つ突きに対して、妹紅は用意された時間を回避には当てず、



「言ったはずだぞ熱田、私を殺してみろと!!
 それでもおまえは……何も断ち切ることは出来ないと!!」



 熱田とクサナギに対して叫ぶと同時に、自らの身体を弾く様に急降下させてクサナギへと吶喊させた。


「何!?」


 自殺行為とも言うべき行動を取った妹紅に、熱田は相対後初とも言える、感情を含めた声色で叫んだ。

 不理解と、結果が生む結末に対する動揺だ。

 風炎の概念が熱田の感情を比熱として生成する。
 己の内に生まれた動揺が低温となって熱田の内部から生まれ、その身体を冷やしていった。
 冷えた身体はクサナギの突きを鈍化させるが、威圧された直線状に生まれたクサナギの剣圧は止まらない。
 
 
 
 そしてその結果、クサナギの刃が妹紅の腹部をその中心から削り取った。


 
 鈍化された分だけ速度を落としながら、妹紅は腹からクサナギの刃を生やしつつゆっくりと降下していく。
 肩口の炎翼と鳳凰爪のブレードが火の粉を振りまいて消滅すると同時に、妹紅は口から大量の鮮血を吐き出した。
 霧散する血が熱田の白服に付着し、不気味な紋様を描く。
 ずるずるとクサナギの刃に沿って力なく下がる妹紅の身体は、やがてその柄まで到達して動きを止めた。

「な、何やってんだこの馬鹿野郎!! 自分から死にに来てどうすんだ!?」

 熱田に抱きかかえられる様にしてもたれかかる妹紅からは、返事が生まれない。
 クサナギが穿つ腹部からは大量の血が流れ出し、妹紅の身体を急速に冷やしていく。
 
 熱田は未だ不理解の脳が発する警報を振り払い、妹紅の身体からクサナギを引き抜くべく両手に力を込める。
 もはや微弱にも動かない妹紅が崩れ落ち、血に濡れるクサナギの刀身が月光を受け妖しく光る、

 その瞬間。



「――つか      まえ    た」



 力を入れた熱田の両手から伸びる腕。
 その腕にさらに繋がる、己の肩。

 その肩に突然、刺す様な痛みが走った。

「!?」

 熱田は激痛に顔を歪めながらも、反射的に痛みが告げた右肩に顔を向ける。

 そこでは、寄りかかる妹紅の手が抱きしめるように熱田の両肩を掴んでおり、
 その掌から音も無く伸びていた炎のブレードが、熱田の右肩を貫いていた。

「よくも、よくもまぁ盛大に殺してくれたわね熱田・雪人。
 だけどそれでも、それでも何も変わらないよ熱田・雪人!!」

 血の混じる喉から声を出したのは、数秒前まで冷たい身体となっていた妹紅であり、その後半を叫びと変えて、己の力を解放するキーワードとした。
 妹紅の身体に力が戻り、概念の影響を受けて己の身体を含めたその周囲に熱を戻していく。
 消えた炎翼が倍以上の熱量をもって再び生えると同時に、撒き散らした自らの血液を燃料として、その全てから炎を巻き上げた。

「うぉっ!?」

 それは熱田の服に付着していた血液も例外ではなく、熱田は熱に押されるようにしてクサナギを妹紅の身体から慌てて引き抜く。
 同時に、その反動を活かして妹紅を蹴り飛ばした熱田はバックステップで距離を取り、肩の痛みを無視して眼前を睨んだ。

 支えの無くなった妹紅は、しかしその身体を自らの両足で地に立たせている。
 燃え盛る炎の中心に存在している妹紅は、上半身を曲げて前屈の姿勢を取りその左手を地に当てた。

「おおおおおおおおお!!」

 妹紅が左手に灯した炎の火力を上げると、その炎に導かれるようにして妹紅の血火が周囲に集まり、炎の壁を形成していく。
 そしてその火が集まりきった瞬間、炎壁が瞬間の上昇をもって金色に燃え上がり、頭上に生い茂る竹々を飲み込んだ。


 炎が収まり、息荒く肩を抱く熱田の視界に展開されたのは、もはや遮るものが無くなった竹林に姿を見せた満月と、
 


 月光を全身に受け、傷一つ無くなった身体に陽炎揺らめく金色の炎を纏う、儚く哀しげな表情の妹紅だった。





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