<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.26265の一覧
[0] 東方終年記(東方Project×終わりのクロニクル)[may](2011/04/06 04:33)
[1] 序章「異世界への招き手」[may](2011/04/06 04:00)
[2] 始章「幻想への誘い手」[may](2011/04/06 04:31)
[3] 第一章「草原の迷い人」[may](2011/04/06 04:59)
[4] 第二章「蒼天の断迷者」[may](2011/04/06 05:40)
[5] 第三章「冥府の鎌操者」[may](2011/04/07 03:26)
[6] 第四章「冥界屋敷の当主」[may](2011/04/07 03:40)
[7] 第五章「炬燵部屋の雪見人」[may](2011/04/07 03:52)
[8] 第六章「妖々夢の花見人」[may](2011/04/07 04:07)
[9] 第七章「通り雨の散歩者」[may](2011/04/07 04:27)
[10] 第八章「竹林の案内人」[may](2011/03/09 23:54)
[11] 第九章「迷宮の開拓者」[may](2011/03/09 23:54)
[12] 第十章「熱風の激昂者」[may](2011/03/09 23:55)
[13] 第十一章「月光の射手」[may](2011/03/10 01:18)
[14] 第十二章「炎翼の再生者」[may](2011/03/11 08:01)
[15] 第十三章「慧涙の理解者」[may](2011/03/11 08:21)
[16] 第十四章「風炎の理解者」[may](2011/03/20 14:18)
[17] 第十五章「馬乗りの説法者」[may](2011/04/08 04:54)
[18] 第十六章「幻月の出題者」[may](2011/03/24 13:23)
[19] 第十七章「永夜抄の詩詠み人」[may](2011/03/24 00:50)
[20] 第十八章「街道の情報屋」[may](2011/03/30 03:37)
[21] 第十九章「花畑の管理人」[may](2011/03/30 05:53)
[22] 第二十章「花罠の仕掛人」[may](2011/04/03 11:29)
[23] 第二十一章「弾幕の修得者」[may](2011/04/05 01:18)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[26265] 第十九章「花畑の管理人」
Name: may◆8184c12d ID:fb444860 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/03/30 05:53
「文の新聞の記事に書いてある通り……貴方がお探しの新庄氏は今、ある場所で裁判を受ける立場に立たされていますわ」

 文の差し出した『文々。新聞』の一面を掌で軽く叩きながら、紫は佐山にそう告げる。
 
「書いた私が言うのもなんですけど……あの人のアレを裁判と呼べるのか、疑問が残る所ではありますけどねぇ」
「……そうね。彼女が行うのは一方的な罪状の通達と一方的な説法と……一方的な判決だけ。
 全てが彼女から相対者へと単一のベクトルを経て与えられる過程と結果に、控訴や上告を挟む余地などは微塵たりとも存在しない」

 文の言葉に続いた紫はそこで一度口を閉ざし、佐山を見る。
 
 佐山は先程、新聞の見出しを口にした後から大きな動きを見せてはいなかった。
 ただ静かに目を見開き、一面記事に添えつけられたモノクロの写真を食い入るようにして見つめている。
 新聞を持つ手はかすかに震えており、時が経つにつれて佐山の目と紙面との距離がゆっくりと、しかし確実に狭まっていった。

 文と紫が無言で視界に映す佐山のその姿は、二人に対して全く同じ印象を与えていた。

(明らかに動揺していますわね)

 紫は口には出さずに心中で、佐山のその姿を評価する。
 良い意味でも悪い意味でも、ここまで一切自分のペースを崩さなかった佐山が棒立ちで紙面を眺める姿を見て、
 紫は自らの仕掛けたアプローチから生まれた結果に軽い驚きを得た。


(……ここまで明確に態度が変わるとは。
 新庄・運切はこの男にとってアキレスの踵となりうるか。……それとも……)



「……この写真を撮影したのは……射命丸君かね?」



 紫が思案を巡らせていると、それまで黙っていた佐山がふいに言葉を発した。
 一切の予備動作無く作られた言葉に紫はおろか、事態を観察していた文までもが、

「え? あ、はい。そうですが……」

 若干の狼狽をもって返答を返す。

 佐山の前に新庄の存在を吊り下げた事に対する言及を、佐山は紫では無く文に対して先行した。
 食って掛かるならまず自分だろうと踏んでいた紫はその事に疑問を持ったが、
 当の佐山は紫を無視し、言葉を発するやいなや皺の付いた新聞を片手に、大股で歩いて文に近づく。

 数歩で己の眼前まで詰め寄った佐山に、文は首を上に向けて視線を合わせる。
 身長差から生まれる高低と、佐山本人から生まれる謎の重圧に文は気圧されながらも、

「な、なんでしょうか? 私の記事に何か、ご不満な点でも……?」

 営業スマイルを欠かさずに、眼前の佐山に聞いた。

「……まず聞くが、この記事に虚構は無いね?」
「ええ、事実です。私がちゃんと現地まで赴いて撮影したその写真も含めて、嘘偽りはありません」
 
 返答を質問をもって返してきた佐山に、文は真実のみを告げた。

 
 射命丸文は、幻想郷の天狗である。
 その天狗の一部が作成する新聞は製作者の数だけ種類が存在するが、どれも製作者の持つ性格が色濃く出る物であった。
 
 文の作る『文々。新聞』が持つ最大の特徴は、写真を付ける事である。
 単純な文章だけでは表現しきれない真実が持つ説得力があるとして、新聞の中でも一際異彩を放ちながらも異才があるとして人気を博していた。


「つまり、この写真は射命丸君が撮影したもので間違いないのだね」 

 そんな『文々。新聞』の特徴たる写真を佐山は指差しながら、文に確認を取った。
 不思議なプレッシャーを纏いながら問う佐山に、文が無言でコクコクと頷くと、

「……そうか……」

 佐山は呟き、大げさにかぶりを振って首を下に向け、



 瞬速と言える速度で己の手を動かして、虚空に浮く文の手を強く握った。



「………………へ?」



 突然の握手に事態が掴めず、素の声を出す文だったが、



「――素晴らしい!! これは見事な手腕と評価せざるを得ないよ射命丸君……職人芸だね!?
 新庄君のガードの固さは私もよく知る所ではあるが、これ程まで至近距離かつローアングルからの一枚を苦も無く収めるとは!!
 隠し撮りにおける被写体の条件として『視線がカメラに向かっていない』があるのだが、これは完璧だ。
 見たまえよこの新庄君の危機迫る表情を……嬉々迫るものがあるだろう!?
 今時珍しい白黒写真と言うのも評価が高い。新庄君の肌の色とか、爪の健康状態とか、色々想像力をシェイクされるね。
 
 ……ともかく素晴らしい一枚をありがとう。この一面は然るべき加工を加えた後に日々の日課に活用させてもらうとしよう。
 
 ああ、目を閉じ……やがて開ければ、そこに新庄君がいるような感覚だ。こうして、こうして、こうすると…………ああ、ああ!!」



「えっ? ……ちょっ、待っ、止め……ああー!?」
「な、何をやっているんですか貴方は!?」



 
 恍惚の表情を浮かべて身体をくねらせながら文に襲い掛かる佐山に、必死な文と困惑の紫がそれぞれ相応の言葉と一緒に静止をかけた。

---

「失礼。私とした事が取り乱してしまった。すまなかったね射命丸君」
「………………いえ、別に」

 佐山の抱擁から脱出した文は初期位置から三歩ほど身を引きながら、咳払いをして謝罪する佐山に引きつった営業スマイルで返答を返した。
 新聞の皺を伸ばして小さく畳んでスーツの内ポケットに仕舞う佐山を、紫は信じられないと言った表情で眺めていた。

「む? どうしたのかね八雲君……そんな狐につままれたような顔をして」
「どうしたのか じゃありません!!
 あ、貴方……新庄氏が心配なのでは無いのですか!?」

 平然と聞いてくる佐山に、紫は語気を高めて問いただす。
 が、佐山は特に気にした様子も無くいつもの調子で、

「心配だとも。新庄君の安否を思うと胸が張り裂けそうな気持ちでいっぱいだよ。
 だが、窮地に立たされた新庄君が当社比三割増しで美しい事とは別の話だ。故に、片方ずつ処理していったまでだよ」
「……当社、比……?」
「知らないのかね? ㈱新庄君への AIが止まらない コーポレーション。略してS.A.Cだよ。
 社員は私一人の完全スタンドアローン企業だが、そこにはコンプレックスなど一切無い。ついでに言うと面接の予定も無い。残念な事だが……」
「な、何を勝手に人を哀れんでますの!? しかも㈱って何ですか!!」
「今の所100%を私が保有しているので必然的に私が筆頭株主だ。新庄君にはいくら投資しても惜しくは無い……私の世界の、有望株だからね」

 虚偽の年が一切感じられない瞳で言い切る佐山に、紫も己の身体を三歩引かせながら、

「……貴方の新庄氏に対する愛は、とてもよくわかりました」
「それは何より。……では、もう一つの懸念事項を処理するとしようか」

 佐山は緩んだネクタイを締めなおし、
 
 花が見守る月下の空間。その全体に響かせる様にして、聞いた。



「新庄君の所へ案内したまえ」

「……お断りしますわ」



――問われ、しかし否定を返す紫の表情には、
 いつの間にか、真意の底が見えぬ微笑が戻っていた。

---

「……断る、だと?」
「ええ。貴方を今、新庄氏と会わせる事は出来ません」
「何故かね?」
「新庄氏が現在直面している状況を含めて……彼女自身が相対し、解決へと導く物語だからです。……貴方の出る幕では、無い」

 紫は最後の言葉を強調し、事態に介入しようとする佐山の前に拒絶の壁を作り出した。
 かつて一度行った問答の再現ともなったその展開に、しかし佐山は言を続ける。

「新庄君の動向を、指を咥えて見てろと言うか」
「事態に対して吠えるのも、彼女を信頼するのも貴方の勝手です。
 どうしてもと言うなら写真の場所を目指して当ても無く迷走するのもまた、勝手ですが……無駄ですから、止めておきなさい」
「……それは忠告か?」
「警告ですわ。写真の場所はとてもとても近く……しかし、とてもとても遠い所。何も知らない貴方が目指すには荷が重過ぎる」

 紫の『警告』を耳に入れ、佐山は一度口を噤む。
 だが一瞬の間を置くだけで、佐山は次に言うべき言葉をあらかじめ用意していたかのようにして口にする。

「八雲君は、あの場所に行こうと思えば行けるのかね?」
「……私なら、可能ですわ」

「そう、君なら可能だろうね。……そしてそれは、射命丸君にも出来る事だ」

 言って、佐山は視線を文に向ける。
 自前の手帳に高速の動きで文字を書き連ねていた文は佐山に呼ばれると顔を上げ、にっこりと微笑んだ。

「ええ、私も行けますよ。でなきゃ号外なんて作れません」

「そう。射命丸君はあの場所に行き、写真を入手し、私に見せた。
 つまりその場所は一方通行では無く、私が今立っているこの場所と相互に何らかの形で繋がっていると言う事だ」

 淡々と論じる佐山に、文は今まで一心不乱に向かっていた顔を手帳から佐山へと固定する。
 手は相変わらずの動きで文字を作り出しているが、視線の持つ興味が議論の場へと向けられていた。

「私は辿り付く事すら出来ず、しかし君達は自由に行き来する事が出来る……この違いは何だろうね?
 例えば新庄君がいる場所へと向かう道程の途中に聳え立つ壁を打ち崩す為の、一定以上の力が必要だと言う仮説はどうだろうか?」

 佐山は紫では無く、文に聞いた。

「私如きが往来出来る場所ですから、それ程力を望む必要も無いとは思いますがねぇ」

「……射命丸君が現れた際に巻き起こった風は八雲君の天気雨と同じ、気質の持つ概念だ。……だがあの時、概念空間は展開してはいなかった。
 自らの気質を空間展開しない程度に抑え、コントロール出来る事自体が、一定以上の……いや、このEx-Gでも上位の存在だと言う証だと言う仮説は……どうかね?」

 佐山は文を真っ直ぐに見つめながら己の仮説を披露した。
 自らを強者と呼ぶその仮説を聞き、文は手帳に走らせる筆の動きを停止させた。

「私の仮説が正しく、写真の場所への往来の難易度が個人の力量に左右されるとしたら……紫君の警告の意味もわかるという物だ」

 言葉と共に顔を紫に向け直して言う佐山に、紫は思う。



(この男……新庄・運切への道のチケットを賭けて、手持ちのカードで私に勝負を挑んできた!!)



「どうだろう。識者である八雲君に採点を頂きたいのだが……私の仮説は、間違っているかね?」

 悠然と聞く佐山に対し、紫は心中を悟らせまいとしながら言葉を作るが、

「……ええ、確かに。知識とそれに見合う力を備えていれば……その場所の持つ危険性も、いくらか緩和出来る事でしょう」
「その言葉、裏を返せば新庄君が危険と言う事になるのだがね。私も新庄君も、君達から見れば個人の力量としてはそう変わらん」
「貴方には私がついていますし、新庄氏が心配でしたら……そうですね、文を新庄氏の護衛に向かわせましょう。
 彼女の力は貴方の仮説に則るなら私と同帯域ですし。それで安心してくださらない?」

「確かに八雲君も射命丸君も強い。君達がそれぞれ私と新庄君に付いていれば、例え相対の結果がどうであれ最悪の事態は回避出来るかもしれん。
 
 ――が」

「……が?」



「そこに、愛は無いね?」



 佐山の言葉を聞いて、紫はその思考を完全に停止させた。

「? どうしたのかね八雲君、口が半開きだよ?」

 怪訝な顔で覗いてくる佐山だったが、ふざけてる様子は一切無い。
 紫は何とか平静を保ちながら、いきなりな事を言い出した佐山の真意を確かめるべく口を開く。

「いえ、その、ええと……愛?」
「そう、愛だとも。……先程、八雲君はこう言ったはずだ。
 『貴方の新庄氏へ対する愛は、とてもよくわかりました』と。……あの言葉は嘘かね?」
「あれは……」
「愛と言う言葉が気に入らないのなら、絆、友情、……信頼とでも好きに置き換えてくれればいい」

 佐山はいいかね? と前置きをして、

「私は君達に、新庄君への護衛や救出を求めている訳では無いのだよ。
 新庄君が置かれている状況が世界の理解を得る為の相対の場だと言うのならば、私は何も言わん。それは新庄君が解決するべき事だ。
 
 だが……新庄君はああ見えて寂しがり屋でね。交渉中だろうがなんだろうが、私の抱擁を無意識に求めてしまう難病を患っている。治す必要は全く無いのだが」

(……それは貴方の事では?)

 口には出さず、紫は思った。
 佐山は半目で見てくる紫の視線を意にも介さず、続ける。

「新庄君が顔を上気させて身体を不自然にくねらせているその時、私がいち早く気づき然るべき療法を処置するとだ、
 新庄君は元気百倍となって完全回復し、相対を十全の結果をもって終わらせる事が出来るのだよ」
「…………」
「八雲君は私が出る幕では無いとも言ったが……とんでもない勘違いだ。
 今、私が行かなくて一体誰が行くというのかね?」

 佐山はそこで言葉を区切り、



「今一度聞こう。
 想い人を裁こうとする幻想世界の法廷に、私と言う傍聴者を案内しては貰えないだろうか」
 


 声のトーンを上げて、花々が見守る空間へと問うた。

 答えはすぐには生まれず、辺りが数秒、静寂に包まれる。
 
 そして、



「わかりました」

 

 紫が了承の意を口にすると同時、
 己の横の空間に縦になぞり、佐山の体格に合わせた大きさのスキマを作り出した。

「スキマで、新庄氏の下へと繋がる連絡通路を作りました。
 貴方がここを通れば望み通り、新庄氏と対面する事が出来るでしょう。……ただし」

 紫はそこで目を伏せ、

「その場合、私は同行しません。勝手に行って……勝手に帰ってきなさいな。
 私の警告を聞き入れずしての行動なのですから、それくらいのリスクは背負っていただきます」

 突き放すように佐山に告げた。

 佐山は道を用意した紫の行動を見据え、しかし動かない。

「身の危険を押してまで届けようとする貴方の覚悟……私に見せて御覧なさいな」

 目を伏せた紫の代わりに佐山を見るのは、スキマの奥に蠢く無数の眼球。
 視線に込めた誘いの意思を受け、佐山はその身体に動きを見せる。

 
 
 己の身体の前方に直線状に伸びる、スキマを通して繋がれた新庄への道を踏みしめた佐山は、



「――私を試すか、八雲紫」




 半身をズラして己をスキマへ続く道の軸から外し、その身体を真後ろの花畑へと向けた。

---

「……何故……」

 自ら用意した想い人へと続く扉に、しかし背を向け拒絶の意思を示す佐山の背中を、紫は伏せていた目を開けて見た。

「そのスキマに入れば私は新庄君と会う事が出来るだろう。……しかしそれは、答えが合っているだけの不完全な回答だ。
 問いへの解法過程が根本的に間違っている場合、そこには理解など微塵も存在しない」

 佐山は答え、背を向けた紫に見せるようにして後ろ手に持っていたあるものを展開した。

 それは、文が佐山に手渡した『文々。新聞』の一面。

「八雲君は、この新聞が私の進むべき道を指し示すと言った。
 そしてこの新聞に添えつけられている写真だが……花が、咲いているね?」

 写真に写る新庄達の足下には、色の無い、単一種類の花が一帯を覆い隠すように群生している。

「色が無いのは当然、写真がモノクロだからだが……例え色が無かったとしても、こんな特徴的な花弁を持つ花は二つとして存在せん」
「……それは……」

「そう、写真に写るこの花は……彼岸花だよ」

「……彼岸花が、どうかしたのですか?
 毒性があると言うだけで、別段珍しい花でも無いと思うのですが」
 
 佐山の言葉に疑問を投げかけたのは、文だ。
 しかし佐山は予測していたとばかりに即答を披露した。

「そう、別に珍しい花ではない。写真のような群生はそうそう見られるものではないが……彼岸花それ自体は極普通の、ありふれた花だ」 

 そう言った佐山は、眼前に展開されている彩色兼備の無数の種類の花が咲く花畑を見渡して、



「……その彼岸花が、この花畑には一本たりとも存在していない。
 これだけ四季折々の花が咲く異常な空間に、彼岸花が姿を見せない……その理由は何か?」



「唯の……偶然では?」

 佐山の言葉に、文はきょろきょろと花畑に目を飛ばしながら言った。
 言われて気づき彼岸花の姿を探しているようだったが、目に留まっている様子は無かった。

「赤を基調とした彼岸花はとても美しく、それが故に別名として様々な異名を持つ。
 そのほとんどに共通するのが……魂を誘い、かどわかす魔性の魅力を持つ花としての意なのだよ」

 佐山はそこで言葉を切り、文では無く紫へと言葉を飛ばす。

「八雲君は、この花畑は妖怪の手によって作られた物だと言った。
 ……その妖怪の真意は定かではないが、不特定多数に対する罠として作られたものだとしたら、狙いはどうであれ彼岸花を咲かせない理由は、無い」



「……ならばその妖怪が、あえて彼岸花を『咲かせなかった』理由は、何か?」



 問う紫の声は、佐山のすぐ横で生まれた。

 新庄へと続くスキマを消し、佐山の傍へとその能力で無音の瞬間移動を行った紫が、佐山に聞く。

 突然の出現にしかし驚くそぶりも見せず、佐山は新聞の再び内ポケットにしまって薄く笑い、



「あるべき花が存在しない……その違和感に気づく事が私に向けられたメッセージだった。
 私は、新庄君の下へと案内してくれと二度聞いた。
 そしてその言葉は、まやかしの道を私に作った八雲君『だけに』放った訳では無い。

 ……この花畑の主を含む、二人に聞いたのだよ」



 言って、



「――答えを頂こうか、花畑の管理者よ」

 佐山はその足を前に出し、花畑の土を踏む。



――その瞬間、



「……!!」 

 

 周辺一帯に咲く全ての花々が、その花弁を眼球として、一斉の動きをもって佐山を『視た』。

 

 葉のこすれる音を響かせ、花畑の侵入者たる佐山を花々が捉えるその異様な光景に、佐山は内心で息を呑む。
 紫と文が見守る中、佐山はゆっくりと足を動かし、一歩づつ静かに花畑を進んでいく。
 歩みを作るたびに全ての花々が顔を動かし、前へと進む佐山を逃すまいと視界に収め続ける。

 佐山が土を踏みしめ、十歩目を数えた
 
 その時だった。



「――ストップ」



 佐山の耳に聞きなれる女性の声が響くと同時、
 眼前の空間に、無数の色を持つ花弁が作り出す竜巻が巻き起こった。

 花びらの壁を伴って局地的に発生した竜巻は、豪風の中に花の匂いを混ぜて佐山の視界を強引に奪う。

 香りに嗅覚を、
 風に視覚を遮られた佐山だったが、程なくして風が収まり、佐山は閉じていた目をゆっくりと開く。

 


 竜巻が起こっていたその空間に咲いていた花々は、しかし死んではいなかった。
 原型を保ったままその身を茎から折れ下げて、低頭するようにして謁見の姿勢を保ち、円形の空間を作成している。

 

 そしてその空間に、日傘を差す一人の女性が優雅に佇んでいた。



 彼岸花の如く赤いベストとスカートに白いシャツで身を包んだ、その女性は、



「初めまして、全竜交渉の担い手よ。
 
 ……私の名前は風見幽香。
 
 彼岸に行きたいのは、あなた?」


 
 優しい口調で自己紹介すると同時に、暴力的な殺意を込めた視線で佐山を見た。



 佐山はその女性――幽香の持つ明確な敵意に背筋を凍らすと同時、
 幽香の持つ、『あるもの』の存在を視界に収め、二重の意味で驚愕した。

 

 幽香の持つ日傘とは逆の手。
 
 幽香の右腕に抱えられるようにして収まっていた、それは、



『――さやま!!』

「……!? 何故、君がここに!?」



 細長い緑色の身体を幽香に預けながら佐山を見て歓喜の声を上げるそれは、
 
 4th-Gの世界を支える動化植物、草の獣だった。




前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.022401809692383