※この作品は、歌姫様が執筆中の架橋のエトランジュの番外編です。
勿論、歌姫様からの許可はいただいております。
※内容に関する注意
タイトルの通りルルとエディのキャラ崩壊が特にひどいです。キャラ崩壊が許せる方向けです。
騎士団もなんでもぶっ壊せ! という方はどうぞ、本編へ。
ExtraNumber.1「エトランジュ女王覚醒!」
ルルーシュ・ランペルージ。黒の騎士団の指導者ゼロである青年。
彼はブリタニア帝国打倒の為、ときに非道とも取れる手段を用いてきた。
そんな彼はあるとき、エリア11―すなわち日本で作られたアニメのDVDを見せられた。
悪の帝国に立ち向かう者はどうあるべきか、という資料との名目で。
「宇宙に必要なのは俺たちの熱い勇気だ! それをマイナス思念と呼ぶのなら、滅ぶべきはZ-マスター、お前の方だ!」
「俺のこの手が真っ赤に燃える! お前を倒せと、とどろき叫ぶ!」
「我が名はゼンガー、ゼンガー・ゾンボルト。我こそは、悪を絶つ剣なり!」
等等。彼にとってはまぎれもなく未知の世界である。
なにせ彼は復讐のために素顔を覆い隠している男であり、叫ぶよりはまだ高笑いの方が似合う男であるのだから。
(これは、なんだ!)
声をあげたくなるが、一応、資料という名目なので無碍にも出来ない。
ひたすら彼は見続けた。そう、8時間ほど。
「こんなもの、俺のキャラじゃ……ない」
見終わった彼は疲れ果てた様子でそう漏らした。
8時間ノンストップの鑑賞会ともなれば無理も無い。
さすがに、彼に資料を送った協力者や、彼の指導する黒の騎士団のメンバー達も、「確かにそうだな」とうなずいた。
「お疲れ様です、ルルーシュ様」
彼を労るように、エトランジュ・ポンティキュラスは言った。
彼女はルルーシュの協力者であり、また、ブリタニア帝国に支配されている国―マグヌスファミリアの女王である。
僅か15歳という彼女だが、戦争という惨禍に巻き込まれ、背負わなくともいい重圧を背負わされた悲劇の少女でもある。
もっとも、気丈な彼女は普段、そのような態度は見せない。
「はあ、エトランジュ様。お気遣いなく」
ルルーシュはぐったりした様子のまま、エトランジュの労いを受ける。
と、彼は奇妙な事に気がついた。
「エトランジュ様」
「なんでしょう」
「お顔が、なぜかいきいきとされていらっしゃるようなのですが」
「日本のアニメというものは、非常にクオリティーが高いものですから」
エトランジュは、最初からこの鑑賞会に参加していた。
だというのに、なぜか目がキラキラ輝いているのである。
いや、ルルーシュはそれ以上に重要な事に気がついた。
(登場人物は皆、異様に士気が高かったな。そうか!)
彼は気がついた。彼らのような態度で指揮に臨めば、自軍の士気高揚に大いに役立つと。
人生、何がアイディアの着想点になるか分かったものではない。
「フ……フフ、フハハハハハハハハ!」
素晴らしい思いつきに笑いがこみ上げるルルーシュ。
無論、周りの人間はそんなルルーシュの胸中など分かるはずも無い。
「ゼ、ゼロ、頭、おかしくなっちまったのか!?」
そんな風に心配される有様である。
「いや、名案を思いついたのでな」
「は、はあ」
「誰か、他にこのような映像を所持していないか?」
唐突なルルーシュの質問に、やはり全員頭がおかしくなったのか、と思わざるを得なかった。
いや、たった一人だけ、とても嬉しそうな表情の人物がいる。
しかも少女である。
誰あろう、マグヌスファミリア女王、エトランジュ・アイリス・ポンティキュラスである。
彼女は目を輝かせながらルルーシュに「ルルーシュ様、ルルーシュ様も、良さが分かるのですね!」と叫んだ。
周囲の人間は非常に驚かされる。普段の彼女は物静かで、本心すら見せないようなことが多々あるのだ。
その彼女が、年相応に目を輝かせながらルルーシュの手をとっている。ブンブン振っている。
「エ、エトランジュ様?」
「ルルーシュ様もジャパニメーションの良さがわかったのでありましょう!?」
ジャパニメーションとは、ブリタニア帝国により日本がエリア11となる前の時代、日本で作成されたアニメーションのクオリティーの高さを賞賛して、各国で使用されていた造語である。
ともかく、鎖国していたはずのマグヌスファミリアで育った彼女がなぜそれを知っているのか。
「ま、まさか」
「なんでしょう?」
「エトランジュ様は、日本のアニメがお好きなのでございましょうか」
「勿論です、勿論ですよ! 私、語学教育の一環で、様々な映像作品を見せて頂きました」
「その中にアニメがあった、と」
「ええ、そうです! 私、とても感動しました! あらゆる分野で自由な表現をしているジャパニメーションに!」
ルルーシュは、なぜエトランジュが難解な日本語を話す事が出来るか、その理由を理解した。
確かに、映像作品を言語学習に用いるのは、一般的な方法である。
しかし、それにしてもである。
なんだか影響されすぎてやいないだろうか。
「そうですね、ルルーシュ様は黒の騎士団の指導者でありますし、司令官が出てくる『勇者王ガオガイガー』の全話視聴でもしていただきましょう!」
一人ではしゃぎまくるエトランジュ。その様子を呆然としてみている騎士団やマグヌスの人々。そして腕を振られ続けているルルーシュ。
中々にシュールな光景である。
「エトランジュ様、全話視聴、とは?」
「ですから、『勇者王ガオガイガー』の1話から49話まで、全てご覧になっていただきます!」
「あの、エトランジュ様がお持ちで?」
アニメのDVDでさえ、旧時代のものは入手しがたい。ほぼ全てがブリタニアによって接収、或いは破壊されてしまったからである。
たかがアニメと侮るなかれ。日本はアニメでさえ、容赦なく体制側に反旗を翻すものが多かったのだ。
その映像に影響を受けないものがいないと言い切れようか。つまりは、反乱を芽吹かせる花粉そのものを摘み取っていったのだ。
そんなものを一作品丸々所持している人間など、この地上に現在、どれだけいよう。
まして、ブリタニア人でなければ尚更である。
「ええ、持っています。OVAであるFINALも全巻」
「OVA?」
「番外編とか続編のようなものですよ」
「ならそちらのほうが」
「いいえ、駄目です! 続編だけ見るなど邪道です! 製作者に対する冒涜です! 第一、『勇者王ガオガイガー』はテレビアニメ版の方が面白いのです!」
物凄い勢いで力説するエトランジュの迫力に押されるルルーシュ。
普段彼女は物静かで通っているため、この姿にはこの場の全員が驚いている。
だが、彼女は芯が通った少女なのである。確固たる自分の意見がある。
言い換えれば、頑固なのであった。
普段の彼女が物静かに見えるのは、つまらぬことで波風が立たないようにするための処世術であるのだが、国や平和など、譲れないものに関しては彼女はこのような態度を見せる。
つまり、彼女にとってのジャパニメーションとは、祖国と同じく、譲る事の出来ない事柄なのだ。
ともかく、ハイテンションで目を輝かせまくるエトランジュの姿など知らない面々は、あっけに取られるだけである。
「あ、あの……エトランジュ様。作品の、そう、全話視聴はさせて頂きます」
「本当ですね!?」
「で、ですから、どうか落ち着いていただきたい」
ルルーシュがやっとのことでそれだけの声を絞り出すと、エトランジュは、恥ずかしさがこみあげてきたのだろう。
顔を真っ赤にしてしまう。マグヌスの人々でさえ、このように歳相応なエトランジュを最後に見たのはいつだろうか、そう思うほど珍しい姿である。
「わ、私としたことが……。見苦しい姿をお見せてしまいました」
「構いませんよ。貴女の歳であれば、今のように目を輝かせているのが本来の姿なのでしょうから」
そう言ってフォローするルルーシュ。
普通ならば、言われた方の女性は多少なりともクラリと来るであろうが、相手が悪かった。
「フラグを立てようとしても無駄ですよ」
「は?」
「いえ、こちらの話です」
よく分からない顔をするルルーシュにエトランジュは上機嫌で「では、また明日」と告げるとスキップをしながら退室していった。
「まさか、エトランジュ様にあのような趣味があるとは……」
さすがの彼も予想外だったようで、珍しく呆気にとられた表情をしている。
騎士団の面々も同じ気持ちだったのだが、マグヌスの人々は、「と、とうとうエトランジュ様にスイッチが入ったか……」と諦観していた。
彼女の趣味は平和だった頃は国民に有名だったのである。最近はブリタニアへの独立戦争という事態のためにアニメに触れることが出来ず、その分もあるかもしれない。
黒の騎士団の方も、指導者のゼロが認めてしまった以上、自分達でとやかく言うことも出来なかった。
「ルルーシュ。良かったではないか。お前の求めていた映像が容易く入手できるぞ」
いつもの如くピザを頬張りながら他人事のようにのたまうC.C.に、悪態をつく力すらルルーシュには残っておらず、「そうだな……」とだけ答えると、ゲッソリした表情でそのまま寝室に向かってしまった。
「なんだ、張り合いの無い。――しかし、フフ。面白そうだな、明日の鑑賞会とやら、私も参加するか」
次回予告
君達に、最新情報を公開しよう!
遂にアニメオタクとしての姿を見せたエトランジュ。
彼女はルルーシュを勇気あるものにしようと画策する。
ルルーシュは「勇者王ガオガイガー」鑑賞会の果てにどうなるのか――?
暴走のエトランジュNEXT「昼の囁き、夜の映像」
これが勝利の鍵だ!
「アニメDVD」