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No.26376の一覧
[0] けいおん モブSS[名無し](2011/05/27 23:56)
[1] けいおん モブSS (2)[名無し](2011/05/27 23:44)
[2] けいおん モブSS (3)[名無し](2011/05/27 23:45)
[3] けいおん モブSS (4)[名無し](2011/05/27 23:45)
[4] けいおん モブSS (5)[名無し](2011/05/27 23:46)
[5] けいおん モブSS (6)[名無し](2011/06/13 23:30)
[7] けいおん モブSS (7)[名無し](2011/05/27 23:47)
[8] けいおん モブSS (8)[名無し](2011/05/27 23:47)
[9] けいおん モブSS (9)[名無し](2011/05/27 23:54)
[10] けいおん モブSS (10)[名無し](2011/05/30 23:18)
[11] けいおん モブSS (11)[名無し](2011/06/12 16:34)
[12] けいおん モブSS (12)[名無し](2011/06/12 15:43)
[13] けいおん モブSS (13)[名無し](2011/09/17 00:49)
[14] けいおん モブSS (14)[名無し](2012/02/24 04:27)
[15] けいおん モブSS (15)[名無し](2012/02/24 04:27)
[16] けいおん モブSS (16)[名無し](2012/02/24 04:27)
[17] けいおん モブSS (17)[名無し](2012/02/24 04:28)
[18] けいおん モブSS (18)[名無し](2012/02/24 04:42)
[19] けいおん モブSS (19)[名無し](2012/04/10 01:58)
[20] けいおん モブSS (21)[名無し](2012/05/11 22:54)
[21] けいおん モブSS (22)[名無し](2012/05/13 21:19)
[22] けいおん モブSS (23)[名無し](2012/08/03 00:32)
[23] けいおん モブSS (24)[名無し](2013/03/18 00:55)
[24] けいおん モブSS (25)[名無し](2018/02/11 22:48)
[25] けいおん モブSS (26)[名無し](2018/02/12 01:43)
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[26376] けいおん モブSS (14)
Name: 名無し◆432fae0f ID:ac8148ba 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/02/24 04:27
2-(4)




「クロノグラフっていうのは、元々はレーサーやパイロットが時間を正確に計るために作られた腕時計で、ストップウォッチ機能を持っていることが最大の特徴なんだ」

最後の見学地の神社での騒動の後。
騒ぎを聞きつけてやってきた巫女さんや神主さんに七人そろってお詫びをし(そのタイミングがあまりにそろっていたものだから変にウケをとってしまった…恥ずかしい)。
旅館へ戻るべく、大通りへと出る道を歩いている。

「文字盤の中に小さな時計があるだろ?」

よしみちゃん以外の全員が私の腕時計を覗きこんでくる。
…額をつつきあわせるくらいの距離なので、歩きにくいことこの上ない。

「順番に時、分、秒のそれぞれを刻んでいて…そして、この時間を刻む時計の秒針部分がストップウォッチになっていて、普段は止まっているけど、この」

かち

「ここを押すと動き出すんだ」

おお~

どよめく一同。
おそらく買い物帰りと思われる近所の方々が何事かと注目している。
正直言って恥ずかしい。
それでも。
よしみちゃんの解説は続く。

「これはシンプルなクロノグラフだけど、ラップタイムを記録できるデジタルエンジンも入っている最新式のやつだから、スプリントスタイルのしずかには合ってるかもって思って買ったやつなんだ」
「ということは、」時計から顔をあげて姫子ちゃん。

「よっしーがしずかに買ってあげたってこと?」
「…うん、まあ、そうなる、かな」
「あれあれ?よっしー歯切れわるーい…って、顔真っ赤じゃんっ」
「やだよっしー、耳たぶまで赤いよ」
「よしみが照゛れた」
「でれてないっ」

変な所に濁点を入れるなっどんなレトリックテクだよっ

あさってのほうを向いて頬をかくよしみちゃんに、やいのやいのと茶々入れするエリちゃんたち。
ぼそっとつぶやかれたいちごちゃんの一言に、ものすごい勢いで反論(?)している姿が、なんだか…、

「可愛いね、よしみちゃん」
「~!」
「…しずか」
「…しずちゃん」

ぼんっ
と蒸気を吹き出しそうなよしみちゃんを尻目に、私の肩にぽんっと手を置くふみちゃんと姫子ちゃん。
あ、この流れは、もしかして…、

「お幸せに」

二人同時に言われてしまった。
…まあなんにせよしみちゃんは男前だし。
天才だし。
美人だし。
うん。
私としても異論はない。

「いやっ、そこは全力で異論しろよっ」

いつものよしみちゃんからは想像できないほどの狼狽ぶりが、ちょっとおかしくて。
“いつもと違う友達の一面を見ることができるのも、修学旅行の醍醐味よっ”
握りこぶしを作って力説していたさわこ先生の言葉どおり。

「修学旅行って楽しいね~」
「…前からそうじゃないかって思ってたけど」
「…それ、間違ってないと思うよ、姫ちゃん…」
「間違いどころか大当たりでしょっ」
「っていうか、しずかの場合はデフォルトって感じはするけどね」

え?え?

「天然」

そんなふうにいちごちゃんにばっさりと切られた頃。
車一台でやっとの広さの路地はいつの間にか開けていて。
いく台かのタクシーが停まっている大きな通りにたどりついていた。

「へい、タクシー…」と、よろよろと手を挙げるよしみちゃんの姿に、皆して笑ったのだった。



あとから思えば。
そんなふうな話出だしというか語りだしがまさにぴったりだと自分でも思う。
そう、あとから思えば、だ―よくあんな入り組んだ路地から出てこられたものだと。
その回想にたどりつくのは、修学旅行の最終夜、つまり今日の寝る前のおふとんの中だったのだけれど。
もちろんそのおふとんにたどりつくまでにも、そこには、ドラマがあったのだ。
それは。
誰にも語られることのなかった、とある少女たちの記憶。
そして、

「とある少女たちの、友情の物語…」
「…いきなりモノローグ入れるの禁止」
「いだっ」
「…シリアスな流れに持っていこうとして、逆に恥ずかしい感じになっちゃった感じ、かな…?」
「か、辛口だねふみちゃん」
「文恵はエリに辛口」
「ふみもいちごには言われたくないだろうさ…」

三者三様に好き勝手言いいながら通りを歩いていく。
帰りのタクシーを拾える目処が立ったところで、それでも旅館の“門限”にはまだ余裕があることを確認した私たちは。
たまたま近くにあったお土産物屋さんでちょっとしたお買いものタイム。
部活動の後輩たちへのお土産を選ぶ運動部組であるところのエリちゃんやアカネちゃん、いちごちゃんに混じって、私とふみちゃんは、今夜のお菓子を物色中。
夕食の後の甘いものは、女の子の嗜みというやつで。
決して寝る前の間食なんかじゃないです。
必要悪なんですっ。

「それでも寝る前のお菓子は女子の敵だと思うけどね…」
「…そんなこと言う姫子ちゃんには酢昆布の刑だからね?」
「うそ嘘っ、酢昆布だけはやめてっ、っていうか刑って怖っ」
「ずっと酢昆布のターンですっ」
「酢昆布の刑ってターン制だったのっ?っていうか必要悪って言ってたのはしずかでしょっ」
「あはは」

姫子ちゃんとそんなお話し。
まあ、旅館のご飯はおいしいし、量も多かったけれど(前日の夕食は覚えている限りで十五品近くもあったのだっ。流石の私もおなかいっぱいになった。ご飯を五杯くらいおかわりしたからかも知れないけれど)、それでも。
夜、寝る前に皆とお話しするときに、お菓子の存在は欠かせない。
あ、やっぱりポッキーは“極細”だよねっ。

「それで?」
「え?」

ポッキーよりトッポの方がチョコがぎっしり?

「そうそう、サクサクで香ばしいプレッツェルの中にはマイルドなチョコレートがたーっぷりっ…って違うでしょっ」

ノリ突っ込みである。
立花さんのノリ突っ込みであるっ。

「もう…ほら、それ」

姫子ちゃんの指先が差す、それ。

「クロノグラフ。それの由来、聞いてたところでしょ?」
「あ、うん…えへへ、そうだね」

そっ、となでる。
はずしているときは何とも思わないけれど。
こうして、左手首に巻いているときには、いつも身につけているわけでもないのに、とてもしっくりくる、感覚。
違和感とも違う。
いわゆるフィットしている…そういう感じとも違う、なんだろう、うまく、言えないけれど…、

「―大切、なんだね」

姫子ちゃんの声。
優しい、穏やかな声。
時計から顔をあげて見やる、姫子ちゃんの優しい顔。
大切なものを見る、それはきっと、姫子ちゃんへ抱くイメージそのものの、見ているこっちも優しくなれる、アルカイックスマイル。
こんなふうに見つめられると。
だから、ぽつり、と言葉がこぼれてしまうんだ。

「…プレゼントなんだ」

誕生日でも、クリスマスでもない、ただのプレゼント。
よっしー―砂原よしみちゃんが私に買ってくれた贈り物。


桜高に入学する前の三月の終わり。

中学生を卒業して、高校生になるまでの、“何者”でもない時間。
木下しずかが、ただ木下しずかだった短い春休み。
そんなことに特に思い入れがあったわけではないけれど。
中学三年間の修了という一つの区切りとして。
卒業という区切りとして。
私と同級生の人たちが迎えていたであろういろいろな区切りの内で。
私のそれのひとつには、“走ること”が含まれていた。
…いや、ひとつにはだなんて言うと、いかにもたくさんの区切りがあって、節目があって、「この歳で人生経験豊富そう」なんて言われかねないので。
訂正しなければなるまい。
私の場合には、走ることそのものが、私がつけた区切りのすべてといってよかったと思う、と。
一区切り。
走ることへの、一区切り。

「全国トップのスプリンター、電撃引退っ、って感じだね」
「あはは…それは、でも、なんだか悪いよ。恥ずかしいっていうか、情けないっていうか…」
「でも、本当のことは、本当のことでしょ?そんなの、あたしたちが分かっていればいいことだよ」
「…うん…そうだね。ありがとう、姫子ちゃん」
「どういたしまして」
「でも、でもね…」

やっぱり、私は走っていたんだ。

それが三月末のいつのことだったかは、正確な日にちは、実のところ良く覚えていない。
もしかしたらその日は、四月の初めだったのかもしれない。
こんなに素敵な贈り物をもらっておいて、その日がいつだったかを思い出せないなんて、本当に、情けないにもほどがあるよね。
それでも、よく覚えている。
その日は、風がちょっぴり強い日で。
陸上部の送別会の帰り道で。
独りきりで。
いつものランニングコースの公園を歩いていて。
もちろん、お供のとめさんだっていなくて。
一瞬吹いた強い風に、舞い散った桜の花びら。
目で追っているだけなら、いつか視界から消えてしまうのに。
それでも私の目に映り続けるその一枚。
走っていた。
桜の花びらを追いかけていたんだ。

「それで気がついたらその時計の置いてあるお店の前にいたと」
「うん」
「…よく交通事故とかさ、段差とかにつまづいたり電信柱にぶつかったりしなかったよね、あのしずかが」
「そ、そんなにいつも何かにぶつかったりしてないよっ」
「そう?だってこの前のお花見の帰り、歩きながらゴミ捨て場のゴミに突っ込んだって、ふみが…」
「…酢昆布の刑」
「わ、わっーうそ、嘘ですっ。どうかこの通り、お許しくださいしずか大明神っ」
「もうっ」
「ごめんごめんって」

わしゃわしゃわしゃ

「いいなーこの髪質、うらやましいっ」
「あ、あの、姫子ちゃん…」
「うん?」
「く、くすぐったいよぉ」
「まあまあ良いではないか良いではないか~」
「あうぅ~」

閑話休題。

「―はぁ、堪能したー」
「もう…」
「あはは。いいじゃん、減るものじゃないし」
「そうだけど」
「それでそれで、ほら、そのお店にいたんでしょ?若き日のよっしーがさ」
「若き日のって、本人が聞いてたら怒られるよぉ」

でも。
確かに、その日会ったよしみちゃんは今から数えれば三年前のよしみちゃんで。
私たちのようなイマドキの女子高生(…やはり、自分で言うのもなんだけれど)から言わせれば、三年という時間は老い若いで表現するのに十分な時間だ。
もっとも。
あの日出会った砂原よしみちゃんという女の子は、私からしてみたら、高校生のお姉さん―いや、大学生のお姉さんくらい年上に見えた。
大人びて、見えた。
桜高に入学してからもう一度知り合った時の、同い年だったんだっていうあの衝撃は今でも鮮明に覚えているくらいだから。
―よしみちゃんは、そのお店でアルバイトをしていた。
お店といっても、腕時計が置いてあるくらいだから、そのまま時計屋さんかと思っていたのだけれど。
店先のショーケースに飾られているそれらは、私が今しているクロノグラフのほかにも、素人目にも一目で年代物だとわかるカメラやら、英語とも違うでもどこかヨーロッパ調の言語でメッセージがつづられた絵葉書やら。
とにかくそういう、古めかしいもの、いわゆる、骨董のようなものたちだ。
お店の中は、それらの骨董の品々の種類を、さらに広げた世界で。
それはもう所せましだった。
そして。
お店の中に入るきっかけになったのが、

「そのクロノグラフだった、と」
「うん」

そんなに気になるんだったら、してみるか、そのクロノグラフ

琴線を張ったような、凛とした声だった。
降ってきたその声に、ショーケースの腕時計に縫いとめられていた私の視線はあっさりほどけ、その声の主へとスライドする。

くろのぐらふ…?

きっと、間抜け面をしていたんだろう。
目を合わせた私に、ふっと一息ついたよしみちゃんは、「ま、入んなよ」と気安い調子で私を店内へと招き入れたのだった。

「昔っからキザっぽいからねーよっしーは」
「き、キザっぽい?」
「ほら、なんかさ…よっしーはよくあたしのことを男前だっていうけど、あたしから言わせればよっしーのほうがよっぽど、だよ。この前なんかさ、あたしの部屋に出た家蜘蛛を素手でつかんだと思いきや、いきなり蜘蛛類のウンチクを言い出して、わきわきと恐怖におびえる蜘蛛ちゃんをそれはもう実験モルモットを扱うかのような手つきで…」
「あ、あの、姫子ちゃん?」
「もうどこの世界のマッドサイエンティストだよって感じで…え?どしたの、しずか」
「あの…」

指差したその先。
姫子ちゃんの後ろからにゅっと伸びた手は、次の瞬間。

わしぃ

「ひゃんっ?」
「言うにことかいて、人のことをマッドサイエンティスト呼ばわりとは、姫のここもたわわに実ったもんだなー、うんうん?」
「ひゃっ、やんっ、ちょ、よっしーっ、どどこ触ってるのよっ」
「胸だね」
「どこからどう見ても胸だねーっ」
「きゃんっ、ちょ、アカネっ、エリっ、見てないで止めてっ、助けてっ、揉ませないでっ」
「…交通標語みたいだね…」
「ふみちゃん、冷静だね…」
「Gプラス。仏像娘の二まわり上どころじゃないね」
「…いっちごちゃーん、なに、それ…もしかして、ケンカ売ってる?」
「安売りはしない主義」
「へんっだ。あんただっておんなじようなもんじゃないっ。豊胸ぶったってそうはいかないんだからねっ」
「成長期をなめないほうがいい。私は成長している。それをしずかが証明している」
「な、なん、だとっ?し、しししずかっ、ど、どういことっ?えっ、そ、そういうことなのっ?そうなのねっ?」
「えっ?えっ?」
「…大丈夫よエリ、落ち着きなさい」
「あ、アカネっ?」
「…女の魅力は、胸だけじゃないわ」
「うわーーんっっ」

だだだだだっ…

「い、行っちゃったよっ?」
「別に、お腹がすけば戻ってくるんじゃない」

そんな野良犬みたいなっ。

「―まったく。これに懲りたら二度と人のことを悪く言うもんじゃないぞ?」
「はぁはぁはぁ…は、い…すいませんでした…」

満足げなよしみちゃんと息も絶え絶えの姫子ちゃん。
…姫子ちゃんの顔が真っ赤で色っぽ過ぎて直視できませんっ。

「まあ、一区切りついたところで」とよしみちゃんが仕切りなおす。
…全然区切れてない気がするのは私だけじゃない、よね…?

「クロノグラフの話は寝る前にでもしてやるから」
「ほ、ほんと?」
「いいねいいねー。実は私も気になってたんだよね、さっきのその話」
「…私も…聞きたい…」
「いいはなしだなーで終わる流れは寸断されたけど、聞くのはやぶさかじゃない」

よしみちゃんの言葉に期待を寄せるアカネちゃん、ふみちゃん、いちごちゃんの御三方。
エリちゃんは夕飯までに帰ってくるだろうか?

「それじゃそろそろ時間だし、タクシー乗ろっか」

アカネちゃんの仕切りで二台に分かれて乗るころ、いつの間にやら戻ってきたエリちゃんをどうにかなだめて。
ちょっぴり恥ずかしい、けれどとっても優しくて、大切な思い出話が語られるイベントが寝る前に設定されてしまったけれど。
私たち七人は、無事に門限を守って旅館に帰ることができたのだった。

―無事に帰りつけていない、とある友達たちを、京の迷路に残して。


(続く)


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