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No.26376の一覧
[0] けいおん モブSS[名無し](2011/05/27 23:56)
[1] けいおん モブSS (2)[名無し](2011/05/27 23:44)
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[11] けいおん モブSS (11)[名無し](2011/06/12 16:34)
[12] けいおん モブSS (12)[名無し](2011/06/12 15:43)
[13] けいおん モブSS (13)[名無し](2011/09/17 00:49)
[14] けいおん モブSS (14)[名無し](2012/02/24 04:27)
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[16] けいおん モブSS (16)[名無し](2012/02/24 04:27)
[17] けいおん モブSS (17)[名無し](2012/02/24 04:28)
[18] けいおん モブSS (18)[名無し](2012/02/24 04:42)
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[23] けいおん モブSS (24)[名無し](2013/03/18 00:55)
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[25] けいおん モブSS (26)[名無し](2018/02/12 01:43)
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[26376] けいおん モブSS (17)
Name: 名無し◆432fae0f ID:b0be7351 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/02/24 04:28
2-(7)




ありがとう
私の隣にいてくれた、あなたへ





木下しずかのお風呂は女子にしては短いほうである。
…いや、別に自宅にある浴槽のサイズの話をしているわけではない。
いくら私でも、自身の体躯の指標として自宅の浴槽を持ちだしたりはしない。
我が家には長女の私以外にも、父母、そして弟だっているのだから、私ぴったりの浴槽があってたまるかとも思う。
なんだったら弟の身長は既に私を、お母さんを、そしてお父さんをも追い越して、もはや我が家で一番高いし。
そういえばお父さんだってそんなに身長の高いほうではないのに(クラスで言えば、そう、まめちゃんこと遠藤未知子ちゃんとちょうど同じくらいだ)。
あの弟ときたら、まぁ、育ち盛りの男子という時期的な要素があるにしても、それでも高い部類に入るだろう。
なにせ身長百七十オーバーの弟である。
現在中学二年生。
木下家の例にもれず、食べても太らない体質。
私と同じで身体を動かすことが好きで、学校では部活にも精を出しているから、身体も程良く締まっている(元・陸上部の私が言うのだからまぁそれなりだ)。
幼馴染であるところの圭ちゃんに言わせれば“顔立ちも姉弟で似ている”とのことで。
二人並んで歩くと、その身長差が手伝って、私の方が年下、つまりは妹に見られてしまうこともままあることだ。
そんなことを経験するたびに思う。
切実に思う。
私にもまだ成長期が残っていてくれと―そう言えば弟には私と同じくらいの身長の友達がいるらしい。会ったことはないけれど、その子の将来が心配である。
…何がって身長が。

「あれ?りっつんたちもう出るの?」
「唯のやつがのぼせそうだからさ。エリたちは今から入るのか?」

とにかく、長さやサイズの話なのではない。

「うん。あたしたちが一番最後のグループだからねー」
「あーそうだっけ。あ、けど、まだ澪とムギが入ってるぞ?あいつら髪の毛長いから時間かかるんだよなー」

そう。
お風呂にかける時間が女子にしては短いと、私は言いたいのだ。

「―二人とも綺麗な髪してるもんね」

姫子ちゃんの言うとおり。
二組の中でも、いや、三年生の中でもとりわけロングヘアー組であるところのムギと澪ちゃんである。
腰まで届く長さ、なんて、漫画か何かでしか目にしたことが無かった私だったから(それこそ陸上部ではまずありえなかったヘアスタイルだ)。
一年生の頃に二人の姿を初めて目にした時などは、その長さと綺麗さに、同じ女の子として羨望のまなざしを送ったものだ。
陽光にきらめく澪ちゃんの艶やかでまっすぐな黒髪。
色素の薄いムギの髪はそよ風くらいで波打って、真後ろに座る私にふうわりと届く、春の花のようなどこかやさしい香り。
服を脱ぐ私の隣で水泳体操で準備体操しているよしみちゃんやなっちゃんでいうところの私たち―いわゆるショートヘア組にしてみれば、どうしてそんなに艶があるのか、どうしてそんなにいい匂いがするのか、甚だ不思議だった。
…お風呂に入るのに水泳体操第一を全て行う必要があるのかという疑問は、この際水に流すとしよう。
ちょうどお風呂場だし。

「おっ」
「なに?」
「いや、髪の毛まとめてる姫子ひさびさに見たなーって。…うんうん、うなじが綺麗でよろしおすな~」
「ちょ、京言葉でなにおやじ臭いこと言ってるの…」

自分の髪の毛をそんなふうにするには、どれほどの手間がかかるのだろう?
どれほど手入れすればよいのだろう?
ましてやお風呂などは?
ムギの後頭部を四六時中愛でている―否、眺めている私にとって。
ショートヘア組の中でも短いほうである私にとって。
お風呂が短い私にとって。
それはここ最近抱いている、小さな不思議の一つで。
お風呂上がりで前髪をおろしているりっちゃんと、日に焼けて色素の薄れたゆるふわヘアーをタオルでまとめあげている姫子ちゃんのやりとりを見て、そんなことを思う。

「ところで」
「ん?」
「…どちらさま?」
「あたしだあたしっ」

ばばっ

「なんだ、律か」
「なんだとはなんだっ」
「てっきり前髪お化けかと」

確かに。
長い前髪で目元全部まで隠れてしまったりっちゃんは、正面から見ると誰だかわからない。
こうして前髪をあげてもらって。
トレードマークであるところの、形のいいおでこがあらわになって。
田井中律は、初めて田井中律たりえるのだ。
やっぱりりっちゃんはこうでなくっちゃ。

「ちょっ、言うにことかいて姫子までそれを言うかっ」

私のそんな思いをよそに、姫子ちゃんに食ってかかるりっちゃんは案の定だったけれど。

「ふふ、ごめんごめん」

姫子ちゃん十八番のアルカイックスマイルを向けられては、

「むぅ」

さすがのりっちゃんもこう唸るにとどめるほかないみたい。
それにしても。
“姫子まで”というのを聞くにつけ、“前髪お化け”というのは過去に誰かに言われたことがあるのかもしれない。
それは他でもない、軽音部の誰か、それも唯あたりじゃないだろうかと。
予想をつける、そんなことをするのもちょっと楽しくて。
拗ねた子供のように唇をとがらせるりっちゃんの隣でふらふらと揺れている、顔を真っ赤にした唯はぐっと親指を立ててグーサイン。
明らかにお風呂にのぼせたふうである唯の、えもいわれぬ達成感に満ちた表情には、なにかこみ上げるものがあった。

「…コーヒー牛乳、飲む…?」
「わ~い。ありがと~ふみちゃ~ん」

どうやら正解。
唯の様子からそう合点がいく頃には、ふみちゃんの粋な差し入れによってまたたく間に復活を遂げた唯の姿があった。

「でもりっつんてほんとに前髪長いよねー。切らないの?」

腰に手を当ててラッパ飲みをする唯の隣から覗きこむようにしてエリちゃんが。

「私はむしろ切らないでおろしたほうがいいと思うな。そしたら物凄いイケメンなんだよ律って」

言いながら件の前髪を手櫛で流し整えていくアカネちゃん。
その手つきは滑らかで、「―うん、できた」とつぶやいたアカネちゃんの満足そうな横顔を見て。


―私、美容師になりたいんだ


いつの日かに聞いた、アカネちゃんのそんな声が、ふと脳裏によみがえった。
あれは、あの日は、いつのことだっただろう―脱いだ服をおざなりに畳みながら、少しの間の追憶に意識が向いたその瞬間、

おお~

というどよめきに意識を奪われた。
声のほうに目を向けると、

「あはは、まあ、こういうのにも需要あるかもしんないしな。…放課後ティータイムがデビューするときは、メンバーの分もアカネにお願いしよっかなー」
「それって放課後ティータイム専属ってこと?…ちゃんと食べていけるかな…」
「なんだとーっ」
「あははっ」

脱衣所の大きな鏡に映る、今をときめくアイドルユニット顔負けのイケメンとその専属ヘアメイクアシスタントがそこにはいた。

「ほんとだ、イケメン」

目を丸くして驚く姫子ちゃんの隣で、

「もういっそそれで売り出していきなよー」

意地の悪い口調でりっちゃんの肩に手をまわすエリちゃんの向こうで、

「―あれで男子の制服でも着せて一年生の廊下を歩かせようもんなら、ファンクラブの一つや二つすぐにできるな」

未だ水泳体操を続けるなっちゃんの隣で、

「ついでに澪ちゃんと腕を組ませたら最高のカップリングだねっ」

いつの間にやってきていたのか、同じく水泳体操をしながらのちかちゃんの隣で、

「…写真部との取引、早めに動いたほうがよさそうね」

絶対何か企んでいる表情なのだけれど顔から下は水泳体操をしているというちぐはぐな美冬ちゃんの隣で、

「イケメン田井中さんとツーショットで歩くお嬢様然の秋山さん、すてき…」

その光景を想像しながら水泳体操をしている曜子ちゃんの、恐るべきはそれが水泳体操第四であるというところ。
分かってしまう私もどうかと思うけど、さすがに面食らうよ…。

「でもでもっ。かわいいのほうがうれしいかにゃー、なんて」

この期に及んでわがままを言い出すイケメンりっちゃんだった。

「…なあ、そろそろ風呂、入らないか…?」

よしみちゃん、もっと言ってあげて!
そもそもどれだけ広いのこの脱衣所!
そして男子の制服って!
桜高って女子校だったよね!
え、まさか、さわこ先生がっ

「二兎を追うものは一兎を得ず」

ぽん、と。
突っ込みどころにすら混乱している私の肩におかれた手の主は、冷ややかな声でそう告げると。
鏡を前にその巻き髪をタオルでまとめ始めた。

「ちぇっ。いいよなーいちごは。そのキューティクルをあたしにも分けろぉーっ」
「え、やだ」
「ですわよねー」
「あらあら二人とも。仲が良いのはいいけれど、素っ裸でやっていたら風邪をひくわよ~。そこのみんなもね~」

―はいすいませんお母さん

脱衣所の人間すべてが英子ちゃんに頭を下げる様は、滑稽以外のなにものでもなくって。
決して広くはない、どこにでもある脱衣所でも。
私たちの修学旅行は、こんなにも楽しくておもしろい。

「さて、それじゃ行きますか」
「お風呂は命のすすぎ洗濯脱水機、って言うしねっ」
「いや、そこはさすがに洗濯だけでいいだろ…」
「あたしもこの際、髪の毛切ろうかなー」
「はいはい有料ね、カットオンリーで五千円」
「たかっ」
「最近の美容院はどこも高いわよねー」
「あ。あれいいらしいよ、炭酸スパ」
「私このまえそれやった」
「秋山さんに髪の毛の洗い方、教えてもらおう…っ」

騒がしくかしましく。
浴場へ向かう皆の背中を見送りながら。
お風呂セットの中に何故か入っていた小さなアヒルのおもちゃを手にとる。

「…私たちも行こう、しずちゃん…」
「うんっ」

ふみちゃんと二人。
浴場へ向かう私の足は、さっき走ったばかりとは思えないほどに軽かった。





ありがとう
私の隣にいてくれた、あなたへ


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