2-(8)
涙
頬を伝って ただ 一筋に流れる感情の雫
ごめんね
なんだかうまくいえないよ
明るい―
淡い、真綿のような光に包まれている。
そんな感覚をまぶたに感じて。
ゆるゆると開いた目に映りこんできたのは、
「…つき…?」
月。
月明かりが一筋、差し込んでいる。
「…あ」
もう、二時だ―
そう、独りごちて。
次いで、枕元に目をやると。
月光に照らされて鈍く光る腕時計―よしみちゃんプレゼンツのクロノグラフの示すところ、ずいぶんと珍しい時間に目が覚めたみたい。
「…」
毎朝のランニングを習慣にする木下しずかにとって、これはとても珍しいことだった。
自慢というわけではないけれど、睡眠というのは、私が得意とする数少ない事柄のひとつだ。
それも、いつでもどこでも、というふうに時間にも場所にも制約を受けないというオプションつきで。
もちろん、早朝ランニングとか、そういう“体内時計にインプットされた習慣”には正確な身体なのだけれど。
一度寝たら、余程のことがない限り、(程度はさまざまであれど)ちゃんと起こしてもらわない限り、起きない。
I can sleep everywhere, every time !
起きぬけなのにそんなふうに英語でアピールできるほど、なぜか頭が冴えている。
英語であることに意味なんてない。
ただ私が言いたいのは、だ。
寝る子は育つ、だなんて。
昔の人、ぜんぜんうまく言えてないよっ…。
あたりはとても静かだった。
…いや、耳を澄ますと、みんなの寝息が聞こえてくる…って、寝息?
「―あ、ごめん。起こしちゃった?」
かたん、と引き戸の閉まる小さい音がして。
「アカネちゃん?」
身体を起こした私を見て、その責任の所在を自分の所作に求めたのだろう。
アカネちゃんはささやき声で謝りながら、目の前で仰向けになって寝ているエリちゃんを一瞥するや、「しょうがないなぁ」とため息混じりに呟いて、豪快にずれている掛け布団を直してあげている。
なんだか、弟の寝相を直すお姉ちゃんみたい。
…私も昔よくやってあげたな。
「どうしたの?」
月明かりを背にする私は、アカネちゃんからは逆光だったけれど。
小さい頃の弟の布団を直す、そんな昔の自分を思い出して笑んだ気配は、暗闇を伝ってアカネちゃんに届いてしまったようで。
とりあえず首をふっておく。
「ううん。なんでもない」
「えー。なに、気になるじゃない」
「ほんとになんでもないよ」
ふるふるふる
「むぅ。…まぁいいや。いいにしとこ」
「ありがたき幸せー。…おトイレ行ってたの?」
「うん。…まったくエリのやつ、明日起きたらただじゃおかないんだから」
「あはは。まぁ、あれだけコーラ飲めばね」
「笑い事じゃないよもう。付き合わされる身にもなってよね」
「そうは言ってもほら、エリちゃんのコーラ好きはアカネちゃんが原因なわけだし」
「それこそそうは言っても、だよ。だいたいあれだけの種類のコーラ、いったい今日のどのタイミングで買ってたっていうのよ」
「あ、あはは…」
それはきっと、私たちが旅館に帰ってくるときに使ったあのタクシーに乗る前だろう。
とある事情で泣き喚きながら(その事情というのがこの“コーラ事件”の発端なのだろうけれど)、おみやげ物の売店から走り去っていったエリちゃん。
よしみちゃんがタクシーをつかまえた直後にどこからともなく戻ってきた彼女のショルダーバックには、今部屋の隅っこでまとめられているさまざまな様相のコーラの缶が、中身満タンの状態でこれでもかと詰め込まれていたのだろう。
―アカネにはぜっっったいに内緒ねっ
閉まりきらないチャックからその様を覗いた私に。
エリちゃんは片目をつぶる千手観音よろしく、邪気の無い顔で人差し指を唇に当てたのだった。
…絶対あれだよね…。
「うー、口の中が甘ったるい…」言いながら抜き足差し足で姫子ちゃん、ふみちゃん、いちごちゃん、よしみちゃんをまたいで来たアカネちゃんはそのまま私の枕元までやってくると、
「お月様でてるね」
「うん」
月明かりの差し込むふすまを静かに開けて、次の間の椅子にちょこんと腰掛ける。
片方の膝を抱きかかえて、その形のいいあごを乗せた姿を、月明かりが照らすと。
桜高三年生カラーの青色ジャージが淡く蛍光して、なんだかちょっぴり、幻想的。
「…しずか?」
「…え?」
「寝ないの?」
布団から見上げる格好の私を見るアカネちゃん。
ささやく声は優しいのに。
その瞳がなんだか少し。
ほんの少し、寂しそうに見えて。
「…うん。アカネちゃんとお話してたら、なんだか目が覚めちゃったみたい」
私にしては珍しく、そんな意地悪を言ってみたりして。
「よく言うよ。よっしーのいい話、主役のくせに聞いてるうちにすぐ寝てたくせに」
「あはは」
どうやらそういうことみたいです。
「…寝る前に、ちょっとだけお話、しよ?」
誘われるままに布団から立ち上がった私は。
寝ているみんなを起こさないよう、静かにふすまを閉めたのだった。
***
「まま、いっぱいどうぞ」
かしゅっ
「これはご丁寧に…って、こ、コーラ?」
いつの間に冷蔵庫から取り出していたのだろう。
オーソドックスなカラーリングのコーラの蓋が小気味よい音を立てて開けられていた。
断る間もなく、これもまたいつの間にかに置いてあった湯のみ茶碗に注がれてしまう。
しゅわーっと気持ちのいい音とともに淵ぎりぎりで止まる泡。
コーラを注がせたらアカネちゃんの右に出る者はそうはいないだろう。
「それじゃ、かんぱーい」
かつん、と硬い音を立てて茶碗で乾杯。
月明かりを鈍く照り返す琥珀色の炭酸飲料・コーラ。
私は一口含むくらいを、アカネちゃんはくいっと一息で飲んでしまう。
「っくぅぅ」と、控えめながらこみ上げる何かをこらえるようなアカネちゃんは、「やっぱりコーラはこの味でなくっちゃね」と満足そうな表情。
そのままコーラのCMにでも起用できそうないい顔だ。
空になった茶碗に、今度は私が注いであげることにする。
「あ、どうもすいませ、って、おっととと」
「あ、ごめんねっ」
底の浅いこのお茶碗ではすぐにいっぱいになってしまって。
加減のわからない私のお酌(コーラだけど…)のせいで、泡があふれてこぼれてしまった。
時間も時間だったから、声を抑えて謝る私に、アカネちゃんは気にしたふうもなく「だいじょうぶだいじょうぶ」と言ってくれる。
「この泡がおいしいんだから」と、まるでコーラ専門家と言わんばかりの講釈を述べて、ぺろりとコーラのかかってしまった指を舐めた。
そんなお茶目な仕草を見るにつけ、こんなことを思う。
「…アカネちゃんの指って、きれいだよね」
「え?」
思うだけでなく声に出てしまっていたりした!
なにゆってるの私っ?
すると案の定、アカネちゃんは素早く人差し指をかばって、怯えた様な視線を私に向けると、
「ま、まさか、しずかにそういう趣味が…?」
「あ、アカネちゃん、違うのっ」
「そ、そうだよねっ。しずかは普通の女の子だよねっ」
「うんっ。そうだよ、普通の女の子だよっ」
「普通の指フェチの女の子だよねっ」
「お願いそこは普通の女の子でいさせてーっ」
しかも普通の指フェチってどんなのかなっ?
そんな余計な思考の海に漕ぎ出そうとする私をアカネちゃんは、「あはは。ごめんごめん」と言いながらいつものようにくしゃくしゃと私の頭を撫ぜる。
「もぅ」
「だから、ごめんって」
私のふくれっ面に気を良くしたのか、おとなしくてもノリのいいアカネちゃんのことである、そのまま私の頭をかき回しつつ、いつもの“鬼太郎お父さん探し”が始まるのかと思いきや、
「…しずかの髪、相変わらずさらさらだね」
こういうときのアカネちゃんには珍しく、真剣な声音でそう言うものだから、私としてはちょっと驚き。
「あ、アカネちゃん?」
「エリも姫子もムギもいちごも、澪ちゃんだって…。うちのクラスはきれいな髪の毛の子が多いよねー」
これもさわ子先生の職権乱用のなせるワザなのかな?
と、なにやら穏やかではない口ぶりでそんなことを言うアカネちゃんである。
…アカネちゃんの髪だってきれいなのに。
「アカネちゃんの髪だってきれいだよ。指だって」
「…しずか、ほんとのところやっぱり、指好きなんじゃないの?」
またもや口に出してしまいましたよっ?
夜だからっ?
頭が冴えてるなんて思った私がいけませんでしたーっ。
怪訝な表情で問うアカネちゃんに、必死に弁解(?)する。
「だ、だってっ」
「だって?」
「その、えと」
「うん?」
「あ、ぅ」
小首を傾げられてもっ。
こんなとき、やっぱり口下手だなって思う…。
…それでも下手は下手なりに、言わなくっちゃ。
こんな私を待ってくれている、優しいお友達に。
「えと、その…。…さ、さっきね、お風呂のとき」
「え、お風呂?」
「う、うん…。ほら、りっちゃんの髪、とかしてあげてたでしょ?」
「律の、髪…?…ああ」
ぽむ、とぐーの手を打つアカネちゃん。
「律がイケメンになった数少ない瞬間ね。あれがどうかしたの?」
「どうかしたっていう、大げさなことでもないんだけど…」
そう。
りっちゃんの髪の毛を手櫛で整えるアカネちゃんの姿に。
その指の、動きに。
きれいさに。
「…美容師になりたいんだ」
「え?」
ふと思い出したのだ。
いつか聞いた、アカネちゃんのそんな言葉を。
夢を語る、私にとってはうらやましい声の響き。
目の前できょとんとしているアカネちゃんに言葉を重ねる。
「アカネちゃんがね、言ってたんだ。美容師になりたいって。確か、一年生のときのお正月だったかな。ほら、みんなで初詣行ったとき」
「あー、行ったよねー、寒かったよねー。エリが寒死するーとか言ってたっけ」
年が明けたばかりの、寒くて、真っ暗な夜空。
満天の星空だったことをよく覚えている。
みんなで手を握り合った。
あの温かさも。
「―うん。そのときだよ」
「そっか」あの頃を思い出すように、月を見上げながらアカネちゃん。
「あのときみんなで絵馬を書くことになって…。そうだね、私、美容師になりたいって書いたよ。しずかには、これが私の夢なんだって話、した気がする」
「うんっ」
二人とも覚えてた。
そんな、なんでもないことなのに。
なんだか、すごく、うれしい。
だからかもしれない。
知らず、私の口は勝手に動いていて。
「前からね、不思議に思ってたんだ」
「なにが?」
「アカネちゃんは美容師さんになりたいんでしょ?美容師さんて、はさみとか使ったり、シャンプーしてあげたりするから、まさに指が命ってお仕事じゃない」
なんといっても、最近の美容師さんはマッサージだってできてしまうのだから、すごい。
なにがすごいって。
マッサージの気持ちよさで、またたく間に眠りに落とされてしまうところが…。
…私だけじゃ、ないよね?
「でも、アカネちゃんは小学校からずっとバレー部でしょ?」
「…エリのお母さんのママさんバレーに入ってやってたから、まさにずっと、だね」
「うん。だからほら、バレーもスパイクとかトスとかレシーブとか、とにかく手とか指とか激しく使うでしょ?怖くないのかなって」
「なにが?」
「あ、えと、その、怪我、とか…」
「あー。うん。そうだね。確かにそう言われてみれば」
私に今こうして指摘されるまで気にも留めていなかった。
そんなふうな口ぶりのアカネちゃんは、「ふふ」と小さく笑うと。
もう一度私の髪に触れてくる。
優しく。
慈しむように。
「…アカネちゃん…?」
「…昔話、してあげよっか」
***
昔って言っても、私とエリが小学校の二年生だか三年生の頃の話だけどね
…喧嘩したんだ
―え?言っても小学生の喧嘩だからね、今思えばほんと、他愛も無いことでよく喧嘩してたよ
去年みたいな大喧嘩、じゃなくってね
あのときほど三花がうちの部のキャプテンでよかったと思ったときはなかったよ
もちろん、しずかもね、大活躍だったし
―その辺の話は恥ずかしいから先に進めって?
あはは、そうだね、確かにその辺の話は、番外編でこそふさわしい話だね
―うん、とにかく、喧嘩したんだよ、そのとき
何が原因だったかはいまいち覚えてないんだけど、でも
私、すっごく泣いたから
だからよく覚えているのかな
私の家の近くにある美容院、わかるでしょ?
―そう、しずかに紹介して、今やしずかを始め、私たち御用達のあそこのこと
私、物心ついた頃からずっとあそこで髪の毛切ってもらっててね
髪を切りに行く以外にも、ことあるごとに遊びに行ってたの
店長さん、美人でしょ?
ほかの店員さんも、古い人が辞めたり、新しい人が入ってきたりもしたけど、きれいで可愛い人たちばっかりで
だから、私も小さいながらに、こんな大人になりたいなあって思ったりしてたんだ
―うん、憧れてたって言うのかな
その喧嘩したときにね、店長さんいわく、わんわん泣きながら店の中に入ってきたと思ったら
『わたしの髪の毛切ってくださいっ』って、ものすごい剣幕で言ったらしくて
そのときの私は髪の毛伸ばしてて、そうだなー、今の澪ちゃんくらいあったかな
だから、そんなに伸ばしててきれいなんだから、切ったらもったいないよって、店長さんたちは言ってくれたみたいなんだけど
―うん、そう
聞く耳もたずだった私は、とにかく切って切ってって
店長さんが代表で、お母さんに連絡して確認した上で、切ることになったの
そのときかな
店長さんに切ってもらったことはそのときまでに何度もあったんだけど
そのときのカットは、シャンプーした後から、はさみの入れ方から、髪の毛のとり方から、切り方から
とにかく私の髪を切るその一挙手一投足に目が釘付けで
子供ながらに、思ったんだよね
『すごいな、かっこいいな、わたしもこうなりたいな』って
それが、きっとこの“思い”のスタート
美容師になりたいっていう、私の夢のきっかけ
***
「まぁ要するに、憧れなの、私の夢はね」
残りのコーラを飲み干して、そんなふうにまとめるアカネちゃん。
空になった茶碗を、大事な宝物のように包んでいるアカネちゃんの、しなやかできれいな指先。
「バレーもね、店長さんからもすすめられたんだよ?」
「え、そうなの?」
「『美容師の仕事は指が命。だから今のうちに指を鍛えておきなさい』って」
「な、なるほど」
スパルタなんだね…。
「最近はカットだけじゃなくて、頭皮のマッサージとかそういう新しいことも美容に取り入れられてるからね。確かに指は大事だけど、指が丈夫で強いっていうことも必要なんだよ」
「そうは言っても、骨折とかしないように注意はしてるけどね」笑顔でそう言うアカネちゃんは、月明かりの中で優しく輝いていて。
美容のことも少しずつ勉強していると言う、夢に向かって地に足をつけて進んでいる親友。
その輝きにあてられた私は。
立ち止まったままの、私は。
どんな顔で、アカネちゃんの指を見つめているのだろう―
「―しずか」
さら、と。
アカネちゃんの指が、私の髪の毛に触れて。
す、と、いろいろな方向へその毛先を手櫛で梳いていく。
ちょっぴりくすぐったくって。
とても、優しい。
言葉が、ぽつりと、こぼれる。
「…私たち、三年生なんだよね」
「…うん」
「来年は、もう、高校生じゃないんだよね」
「うん」
「桜高、卒業、するんだよね」
「うん」
「…みんな、自分の道に進むんだよね」
「しずか」
ふうわりと、石鹸の香り。
柔らかい温もりに包まれて。
頭ごと、アカネちゃんに抱きしめられている。
「止まってなんかいないよ」
「…」
「それはね、準備をしているの」
「…準備?」
「クラウチングスタート」
足と重心との位置の差によって加速への突入を促し、両手の指で体重を支える短距離種目のスタート方法。
私の最も得意とする距離のスターティングポジション。
「しずかは今、ぐぐっと力をためてる」
「力を…ためて」
「身体を支えるその指に。先を目指すその足に」
「…」
「力がたまらなければ、どんな加速も生み出せない。どんな距離も走りきれない。その覚悟を持つことができないから」
「…うん」
「あとはスタートするだけ。その合図はいつかやってくる。だけどね」
「え?」
「練習すればいいんだよ」
「れん、しゅう」
「練習して、自分のタイミングをつかんで、ベストコンディションに持っていって」
しずかにしかできない、ほかの誰にもまねできない、しずかが一番得意なんだよ?
私の小さな胸の中へすっと入ってくる、温かくて強いアカネちゃんの言葉。
お腹の底が温かい。
指先に、足先に、全身に血がめぐるのを感じる。
走り出す、決意。
走りきる、覚悟。
どくん、と跳ねる、心。
そうだ、私は、ベストコンディションなんだ…っ。
「―ふふ」
ぽん、と私の頭に置かれた手のひら。
優しく、慈しむようになでられる。
「しずか、今すぐ走りたいって顔、してるよ」
「そ、そう、かな」
「朝練、もう始めちゃう?」
「え、ええっ?」
「―のった」
がらっ
「わっ?い、いちごちゃんっ?」
「話は聞かせてもらったよーっ」
「エ、エリちゃんもっ?」
「まったくもう…そろそろ朝練の時間よ」
「姫子ちゃんまでっ?」
そんなに話し込んでいたとはっ?
「あれ?もうそんな時間?」
「そんな時間もこんな時間も、すでに朝練は始まっているのだよアカネくんっ。我々がこの布団に入ったときからなっ」
「いや、そこはむしろちゃんと寝ておきなさいよ…」
「むむっ?キャプテン姫子ともあろうものがなに甘いこといってるんだっ」
「甘いのはしずかとアカネの話で十分」
「そうだっ。よく言ったいちごっ」
「あ、そういえばその甘い話で気になったんだけど。ねえ、アカネ」
「なに?」
「その髪をばっさり切ったときの、エリとの喧嘩の原因って、結局なんだったの?」
「っえっ、そ、それはっ」
「あー聞いちゃう?聞いちゃうその話聞いちゃいますかーっ?」
「ちょ、エリっ」
「いやー思い出すなー。あのときのあたしってば髪の毛短くって、見た目は泣く子も黙る美少年って感じみたいでね。そこへ来て当時は乙女パワー全開だったアカネが思い余ってあたしに愛の告白をっていだぁっ」
「さーさー朝練朝練いきましょねー」
「あ、ああアカネ、アガネさん゛っ、絞まってる、絞まってるから゛っー」
い、行っちゃった…。
「…結局、いつものパターンだったね」
「…ふみちゃん、起こしてごめんね」
「…ううん、大丈夫だよ。…それより、しずちゃん」
「え?」
「…行ってらっしゃい、しずちゃん」
起き抜けの、ちょっぴり寝癖がチャームポイントなふみちゃんの笑顔に。
大好きな友達みんなの元気に送り出されて。
「うんっ。行ってきますっ」
だから私は、走り出すことができるんだ。
涙
頬を伝って ただ 一筋に流れる感情の雫
ごめんね
なんだかうまくいえないよ