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No.26376の一覧
[0] けいおん モブSS[名無し](2011/05/27 23:56)
[1] けいおん モブSS (2)[名無し](2011/05/27 23:44)
[2] けいおん モブSS (3)[名無し](2011/05/27 23:45)
[3] けいおん モブSS (4)[名無し](2011/05/27 23:45)
[4] けいおん モブSS (5)[名無し](2011/05/27 23:46)
[5] けいおん モブSS (6)[名無し](2011/06/13 23:30)
[7] けいおん モブSS (7)[名無し](2011/05/27 23:47)
[8] けいおん モブSS (8)[名無し](2011/05/27 23:47)
[9] けいおん モブSS (9)[名無し](2011/05/27 23:54)
[10] けいおん モブSS (10)[名無し](2011/05/30 23:18)
[11] けいおん モブSS (11)[名無し](2011/06/12 16:34)
[12] けいおん モブSS (12)[名無し](2011/06/12 15:43)
[13] けいおん モブSS (13)[名無し](2011/09/17 00:49)
[14] けいおん モブSS (14)[名無し](2012/02/24 04:27)
[15] けいおん モブSS (15)[名無し](2012/02/24 04:27)
[16] けいおん モブSS (16)[名無し](2012/02/24 04:27)
[17] けいおん モブSS (17)[名無し](2012/02/24 04:28)
[18] けいおん モブSS (18)[名無し](2012/02/24 04:42)
[19] けいおん モブSS (19)[名無し](2012/04/10 01:58)
[20] けいおん モブSS (21)[名無し](2012/05/11 22:54)
[21] けいおん モブSS (22)[名無し](2012/05/13 21:19)
[22] けいおん モブSS (23)[名無し](2012/08/03 00:32)
[23] けいおん モブSS (24)[名無し](2013/03/18 00:55)
[24] けいおん モブSS (25)[名無し](2018/02/11 22:48)
[25] けいおん モブSS (26)[名無し](2018/02/12 01:43)
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[26376] けいおん モブSS (22)
Name: 名無し◆432fae0f ID:f98ba2a0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/13 21:19
3-(2)




ねぇ 次の夏休みは どこへ出かけようか?
ねぇ 次の冬休みは 何をして遊ぼうか?
ねぇ 
もしも 次の春休みがあったなら
高校四年生があったなら
私は 何を望むだろう?









「おはよー」
「はよー」
「にしてもよく降るねー」
「今日の練習もまた筋トレかー」

いつものパン屋さんの軒先から眺める朝の光景。
通学や通勤の途を歩む人々の喧騒が、昨晩から続く雨の音を縫って聞こえてくる。
ざー…、と。
未だやむ気配を見せない雨音は強くて。
屋根から落ちる大粒の滴と、その向こう側にはいく筋もの透明な雨の線が絶え間なく注ぎ、遠くの景色をぼかしたものにしている。
私の目前に広がるのは、さながら雨のカーテンといったところだ。

「…ほんと、よく降るな」

そう、ひとりごちて。
肩に掛けた制鞄を背負いなおす。
次いで、今朝のランニング時から装着しているクロノグラフを、ちらり。

「………」
…待ち人、未だ来ず。

どうしたんだろう―と思いながら。
パン屋さんのおばちゃんからもらったばかりのメロンパンを一口頬張る。
焼きたてのそれから染み出す芳醇なメロンの甘さと。
外はかりっと、中はしっとりとした食感との絶妙なコンビネーションにほっぺが落ちそうになっていると。
雨にけぶる曲がり角の向こうから、ご近所では見かけたことのない、白い大型犬が散歩されてやってくるのが見えた。
その隣を歩いているのは私と同じ制服だったけれど、桜が丘女子高等学校へ至るこの通りではさして珍しいものではない。
しかしながらその人が差している傘にはどこか、見覚えがあったので。
なんとか思い出そうとしているうちに、メロンパンをもう一口。
その傘の人物は散歩している人とやや手前でお別れの一言を交わしている様子で。
やがてこちらに近づいてきた傘の下から、三年生であることを示す青色のリボンと。
見慣れた花柄の髪留がのぞいた。

「ほひはんっ」
「…おはよう、しずちゃん」

閉じた傘の向こうから現れた表情は、物を食べながらの私の呼び声にちょっぴり苦笑気味。
それでも、私の隣にそっと立つ彼女の全景はあたかも。
こんな雨の世界に端然と花開いた紫陽花のような上品さと、ほんの少しの憂いを醸し出していて。
思わず、食べながら見惚れてしまう。

「…しずちゃん?」
「…むぐむぐ…んく…。どうしたのふみちゃん」
「…ううん。…なんでもない」

くすっと小さく笑うクラスメイト。
木村文恵ちゃん。
待ち人きたれり、である。

「…それ、朝ご飯?」
「うん。お母さんがね、おばちゃんに頼んでくれてたみたいで」
「…おばさんとおじさん、今日から出発だっけ、旅行」
「そ。今度はアンコールワットだって。さっきメール来てた」

ほら、と携帯電話の画面を見せる。
まじまじと見つめたふみちゃんは、形のいい眉を笑みの形に変えて、一言。

「…相変わらずらぶらぶ夫婦だね」

待合室の一角で、外で待機している飛行機を背景にして腕を組んで写るアベックを見れば、誰もが抱く感想だろう。
実の娘であるところの私にとっては、ふみちゃんの言う“らぶらぶ”という部分には正直、辟易としているのだけれど。

「まぁ、それはね、そうなんだけど…。自分で言うのもなんだけど、年頃の娘と息子をほっぽっといて、自分たちは遺跡ハントだよ?この梅雨の時期に留守番する身にもなってほしいよ」

洗濯ものが乾かないうえに、溜まる一方なのだ。
あの弟が家事を手伝うわけもなし。
もちろんその辺のところは、たとえ不満をのたまったところで事態が好転するわけでもないということを、それこそ実の娘だからこそわかっている。
例えば将来するかもしれない独り暮らしとか、花嫁修業とか…まぁそんなところで手を打つしかないだろう。
とりわけふみちゃんには、そう遠くはない以前に同じようなことがあった時、よくお弁当やらお菓子やら、作ってきてもらっていたし。

「…この時期はどうしても、お洗濯しても、部屋干しになっちゃうよね」

今でさえ、愚痴、聞いてもらっているし。
感謝はしても、間違ってもこれ以上、新たに愚痴をこぼしていい相手ではないはずだ。
…そんな訳で。

「―それじゃぁおばちゃん、私たち行くねーっ」気を取り直すように、両親が不在の間、木下家の朝ご飯(というか朝パンか)を担当してくれるパン屋さんのおばちゃんに声をかけて。
いくつかの言葉と、メロンパンを咀嚼しながら、通学の途へと復帰することにした。
店内から手を振るおばちゃんに応えて、小さく手を振り返したふみちゃんをひとしきり眺めて。
もう元のサイズの半分以上が欠けてしまったメロンパンを咥えた私は、ビニル傘を差しながら土砂降りのただ中へと歩み出た。

ざーっ…

途端、傘を叩く雨の強さに思わず顔をしかめる。

「―はむはむ…うわっ、雨すごい強いし」
「―…食べるか驚くか、どっちかにしないと、しずちゃん」
「―う、すぃません」
「―…ふふ」

隣に並んで歩くふみちゃんとそんなやりとりをしていて、ふと。
「―あれ?」と気がついたことがあった。
それというのも、

「―ねぇふみちゃん。もしかしてその傘」
ふみちゃんの差しているその傘に、ようやく思い当たるところがあったのだ。

「―…うん、修学旅行で買ったやつなの」と、私の思い当たりに先回りしてふみちゃんが答えを寄越してくれたので。
まだ記憶に新しい、修学旅行でのとあるひとこまを一瞬のうちに思い起こすことができた。

「―蛇の目傘、だっけ、たしか」
「―…うん。でもね、私のはちょっとだけ違うの」
「―というと?」

「―…ここのね、骨の数がね…」と気持ち傘を持ちあげながらのふみちゃんの解説によれば。
ふみちゃんのそれは、傘の布部分を通る親骨の数が世間一般に言われるところの蛇の目傘よりも幾本、少ないのだそうで。
一見、骨ばってごつごつとしたふうに見える傘の全体。
けれどその柄は、淡い青系統で統一された布地に、濃い青や紫で描かれた小さな花模様が可愛らしくて、なんともふみちゃんらしい。

「―それでも結構丈夫なんだよね。柄もふみちゃんに合っててすごく可愛いし」
「―………うん…」

あ、あれ?
こんなときだからこそ拝める、照れ照れふみちゃんじゃないよ…?

返ってきた声の調子が予想に反して沈んでいたので。
思わず訝しんでしまった私の視線が、図らずも彼女のそれと交差すると。

「―…おじいちゃんがね…」と、傘を打つ雨音にかき消されてしまうくらい小さな声が、間近で見る、彼女の艶やかな唇を割って漏れた。

…照れた様に定評のある親友へ叩いた私の軽口はどうやら。
なにやら重量感のある湿っぽい話を引き出してしまったことが、うつむき加減の彼女の表情から知ることができた。

「―ふみちゃん…」
「―…」
「―…」
「―…」

彼女を呼ぶ私の声は続かなくて。
それでも、登校するための足は、止まることはない。

「―…」
「―…」

…こういうときは、待っているのが一番。
そんなふうに自分に言い聞かせて。
歩くこと、しばらく。

「―…」
「―…」

ざー…
ぱしゃ ぱしゃ ぱしゃ

「―…」
「―…」

待てども聞こえてくるのは、傘を叩く雨の音と、雨の道を行く足音ばかり。

「―…」
「―…」

…ふみちゃん…。
もう一度彼女を呼ぶ声はしかし、声にはならなくて。

「―…」
「―…」

次の角を曲がれば、校門まであと少しというところで。
…私は、意を決した。

「―ね、ねぇ、ふみちゃんっ」
ど、どもってしまったっ。

「―…なに、しずちゃん」
やっぱりちょっと元気ない…。
だったら私が、なんとかしてあげなくちゃ…っ。

「―おじいちゃんが、どうしたの?」

瞬間。

「―…っ!」

かぁーっ
という音が聞こえてきそうなほど上気した彼女の頬を見るにつけ。

「―ふ、ふみちゃん?」

どうやら、そんなにまずいお話じゃ、ない、みたい…?
ふみちゃんのそんな様子に戸惑っていると、

「―…もう、しずちゃんたら」と、なにやら熱っぽい溜息をひとつつくと。
今度は困ったような視線と共に私との距離を近づけて、

「―…女の子が黙して語らないときは、むやみに詮索しちゃいけません」

め、と。
人差し指を私の鼻先にきゅっと押しつけて。
どこか芝居じみたことを言うふみちゃんだった。

「―あ、う」

と反応に困る私はと言うと。
すぐ鼻先に見えるふみちゃんの指先を見て。

「―えと…ふみちゃんの爪、相変わらずきれいだね」
「―…え?」

いつぞやのアカネちゃんとおしゃべりしたときのように、思ったことを口に出してしまっていたりしたっ。
するとふみちゃんは一瞬、何を言われたのか分からないといったふうにぽかんとしていると、

「―…っ。…やだ、しずちゃんっ…」

押しつけた指先をさっと引っ込めて。
さっき頬を上気させた時とは別種の、
ぽっ
という擬音と共に朱が差した頬を両の手で挟むと、

「―…しずちゃんが指ふぇちのちっちゃい女の子だなんてこと、私、ずっと前から知ってるよ?」
「重ねてお願いだから、そこはちっちゃくてもいいからただの女の子でいさせてっ。ねっ?」

っていうかずっと前からっていつから―っ?
思わず彼女の両手をがしっと取って懇願する。

「―しずか、やっぱり指ふぇちだったんだ」
「―朝から決定的瞬間、げっと、ってね」かしゃっ
「―ちがうの~っ」

じたばしゃじたばしゃ
と地団太を踏む私だったけれど。

「―…しずちゃん、濡れちゃうよ」

笑いを含んだふみちゃんの言葉でなんとか自分を落ち着けると(いつまでも駄々をこねていたら、二人の足元はずぶ濡れだ。そんなことくらいはいくら私でもわかる。わかるけどっ。こうまで言われたら暴れたくなるのが筋というものではないだろうかっ)。

おや、と思うところがあった。

何せ私たちは、校門を通ったところまでは二人で歩いていたのに。
確かに今、ふみちゃん以外の人の声が、聞こえたような…?
振り返る。

「―はよー、しずか」
「―多恵ちゃん?」
「―おはよしずか。文恵もおはよ」
「―…おはよう、未知子ちゃん」

ふわっとしたくせ毛を揺らして片手を挙げる多恵ちゃんと。
にかっと人懐っこい笑みを浮かべて携帯電話を片手に朝の挨拶をする未知子ちゃん。
二人のクラスメイトが仲良く相合傘してそこにいた。
…なにゆえに相合傘?

「―あー、しずか、今なんであたしたちが相合傘してるんだろ、って思ったでしょ」
「―あ、うん…。すごいね多恵ちゃん、どうしてわかったの?」
「―しずかは考えてることがすぐ顔に出るからね。あたしじゃなくっても分かるよ。ねーふみちゃん」
「―…うん。そこがしずちゃんの可愛いところなんだけど…ね?」
「―確かに…可愛く写ってるよ、ほらっ」
「―っ!ちょっ、まめちゃん、いつの間に撮ったのそれっ?」
「―えーっと、いつだっけお多恵さん?」
「―『ふみちゃんの爪、相変わらずきれいだね』」
「―はうっ」
「―『おしゃぶりしてもいい?』」
「―言ってないっ。そこまでは言ってないよっ」
「―観念しろいっ。証拠はこの写メにあがってんでいっ」
「―いつの間にか警察沙汰っ?っていうかそのキャラ付けは勢い余りすぎじゃないですか遠藤さんっ?」
「―てやんでぇいっ」

ふみちゃんのおじいちゃんエピソードを聞こうとしていたはずなのに。
ど、どうしてこうなったっ?

「―…そろそろ行かないと、濡れちゃうよ?」

昇降口で件の傘をたたむふみちゃんの、苦笑の滲むそんな声に。

「「「はっ、今すぐまいりますっ」」」

私たち三人、声をそろえて敬礼しつつ、昇降口へと走りこんだのだった。



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