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No.26376の一覧
[0] けいおん モブSS[名無し](2011/05/27 23:56)
[1] けいおん モブSS (2)[名無し](2011/05/27 23:44)
[2] けいおん モブSS (3)[名無し](2011/05/27 23:45)
[3] けいおん モブSS (4)[名無し](2011/05/27 23:45)
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[5] けいおん モブSS (6)[名無し](2011/06/13 23:30)
[7] けいおん モブSS (7)[名無し](2011/05/27 23:47)
[8] けいおん モブSS (8)[名無し](2011/05/27 23:47)
[9] けいおん モブSS (9)[名無し](2011/05/27 23:54)
[10] けいおん モブSS (10)[名無し](2011/05/30 23:18)
[11] けいおん モブSS (11)[名無し](2011/06/12 16:34)
[12] けいおん モブSS (12)[名無し](2011/06/12 15:43)
[13] けいおん モブSS (13)[名無し](2011/09/17 00:49)
[14] けいおん モブSS (14)[名無し](2012/02/24 04:27)
[15] けいおん モブSS (15)[名無し](2012/02/24 04:27)
[16] けいおん モブSS (16)[名無し](2012/02/24 04:27)
[17] けいおん モブSS (17)[名無し](2012/02/24 04:28)
[18] けいおん モブSS (18)[名無し](2012/02/24 04:42)
[19] けいおん モブSS (19)[名無し](2012/04/10 01:58)
[20] けいおん モブSS (21)[名無し](2012/05/11 22:54)
[21] けいおん モブSS (22)[名無し](2012/05/13 21:19)
[22] けいおん モブSS (23)[名無し](2012/08/03 00:32)
[23] けいおん モブSS (24)[名無し](2013/03/18 00:55)
[24] けいおん モブSS (25)[名無し](2018/02/11 22:48)
[25] けいおん モブSS (26)[名無し](2018/02/12 01:43)
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[26376] けいおん モブSS (23)
Name: 名無し◆432fae0f ID:f98ba2a0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/03 00:32
君はここにいない
君はここにもういない

君がここにいてくれたらいいのに









登校する生徒で賑やかな桜高の昇降口。
各々の傘から滴り落ちた雨粒で濡れたタイル敷きの床を踏みしめるたびにきゅ、きゅっという音が響く。
弱まる気配を微塵も見せない雨線との境界線となる出入り口は、始業前の予鈴二十分前でまさしく登校ラッシュの時間帯だった。
傘をたたむ生徒やひと時の談笑に憩う生徒たちの間を苦もなくくぐり抜ける。
一年生や、混雑時を避けて登校する子たちには容易に真似できないであろうこの器用さは、二年かける登校日数分の時間、昇降を繰り返してきた故に得られるものである。
“それに費やしてきた時間は、決して自分に嘘をつかない”。
陸上と一緒だ。
…などと、格好をつけてはみたものの。
真実、昇降口において重要なポイントは、言うまでもなくそこにはない。
では、どこにあるのか?
学校に来て、昇降口に入ってまずやるべきことがる。
それはすぐ左手のところ。
学年別に靴箱が並ぶこの玄関の特徴と言えば、校内の警備や施錠を管理する守衛所があることが挙げられる。

「―守衛さん、おはようございますっ」
「はよーございます」
「…おはようございます」
「今朝もお勤めご苦労様でありますっ」

銘々がそれぞれの挨拶をする中で、あたりに立ち込めた湿気を吹き飛ばすほどからっと元気なまめちゃんの、

びしぃっ

とした敬礼に相好を崩し、樫の木作りの枠口の向こうから朝の挨拶と共にこちらは柔らかい敬礼を返す守衛さん。
私たちの学び舎を守ってくれていることへの感謝と。
この人たちも私たちと同じ桜高の一員であることへの親愛を込めて。
下駄箱へと向かう前のこの挨拶が、私たち―桜高生の習慣になっていた。

「まめちゃんの敬礼って、なんだか気持ちいいよね」
「え、そう?」

ありがたきお言葉っ
びしぃっ

と。
思ったままの感想を漏らした私に嬉々として敬礼するまめちゃんこと遠藤未知子ちゃん。
クラスでは佐藤アカネちゃんと並ぶ長身。
おさげでまとめられた髪は艶のある黒で、左目じりのほくろがチャームポイント。
肩から下げた臙脂色の竹刀袋を見るにつけ、今朝も剣道部の乱取り稽古(この時期のうちの剣道部では創部以来からの伝統と言われている、一人に対して複数の人間が五分間、間をおかずに次々に打込みを入れるというそれはもう荒々しい練習である)に付き合ってきたのだろう。
その腕は正しく一流であるらしく、その道の大会では老若男女とにかく腕に覚えのある者を問わず打倒し、幾度も頂点に上り詰めるほど比類なき剣の使い手である、とは、自称・桜高一の情報通こと飯田慶子ちゃんの弁。
曰く、毎回大きな大会でいいところまで進むうちの剣道部などは彼女を入部させるのにやっきなのだとか。
曰く、実家も剣道の道場を営んでいて、年の頃は幼稚園生から中学生の門下生達に文字通りびしばしと稽古をつける容赦のなさと、その清廉な容姿もあり、界隈のおじいちゃんおばあちゃん達からは“剣術小町”などとも呼ばれているのだとか。
そのうちどこかの流浪人が住みついた挙句にスリで捕まった少年を刃止め刃渡りしそうである…いや、特に深い意味はないけれども。
っていうか慶子ちゃんの情報網は桜高内限定ではなかったのだろうか…。

「…今朝も剣道部の乱取り相手?」
「ん、まぁね。そういうしずかも走ってきたんっしょ?雨の中お疲れさんっ」

びしぃっ

「うん。でも、私のはなんていうか、染みついちゃった習慣みたいなものだし…。その辺まめちゃんは部員さんじゃないのに練習相手を買ってでてるんだもん。私よりまめちゃんのほうがよっぽどお疲れ様、だよ」

口下手な私にしては珍しく長い台詞。
同じ朝練習をする者同士、どこか通じ合うものがあるのだろうか。
感嘆すべきはまめちゃんのその体力だ。
ランニングに置き換えたとしても、私だったらあんな練習をした朝にはもう、本日の営業は終了しました状態、である。

…それにしても、とも思う。

慶子ちゃんの情報が話し半分としても、まめちゃんの剣道の腕前のほどは、私も実際にこの目で乱取り稽古を目にしたことがあるので、素人感覚的にも“そうとう強い”ことが分かる。
それに、同じクラスになって日は浅いけれど、クラスでのやりとりや球技大会を通して知った、頑張り屋さんな一面を持つ彼女ほどの人が、部活という場でその剣を振るわないのはどうしてなのだろう?
もっと言えば、まめちゃんが剣道部に加入することで、それこそいちごちゃんのバトン部並みのパフォーマンスを発揮するのではないか?
私の中に突如としてふってわいた疑問を知ってか知らずか。
お互いに労いの言葉を掛け合う間にたどり着いた靴箱の割と高い位置から自身の上履きを取り出したまめちゃんは、「剣は振るってこそ剣、だかんね」と格言めいたことを言ってにかっと笑みを浮かべると、

「―剣道部、今年はもっといいとこまでいけそうだよ」
「そうなんだ…まめちゃんが言うんだから、間違いないねっ」

同じくにかっと笑みを返して今度は割と低めの位置にある自分の上履きを取り出す。
卒業アルバムに掲載する写真撮影を一任されているというちずるには期せずして良いお土産話になったのかもしれない。
彼女なら喜び勇んで試合会場まで駆け付けて、アルバムを飾るのにふさわしい雄姿を一眼レフにおさめてくれるだろう。

「―前から思ってたんだけどさ」
「…どうしたの、多恵ちゃん」
「未知子のこと、“まめ”って呼んでるの、しずかだけだよね」
「「えっ?」」

後ろから聞こえてきた多恵ちゃんとふみちゃんのそんなやりとりに。
上履きに履き替えていた途中の私とまめちゃんが同時に振り返る。
勢い、反動のついたまめちゃんの竹刀が下駄箱にがつんっ、とあたり。
その軌道が私の頭上すれすれを回っていったことが、耳元で鳴った風切り音からうかがい知れた。
こんなときは己の低身長という境遇に感謝せねばなるまい…って、

「どうしてまめちゃんまで驚いてるの?」

この場合、驚くのは私だけでいいんじゃないかな…。
「大丈夫かっ相棒っ」と、物言わぬ竹刀に心配の声をかけているまめちゃんが、私の声にきょとんとした目を向けてくると、

「…ま、分からないでもないけどね、未知子の考えてること」

と、まめちゃんを支えにして上履きのつま先をとんとんと床に打ちながら言う彼女は、今度は逆の手で(竹刀が下駄箱にぶつかった音にびっくりしていたのであろう)ぽかんとしているふみちゃんの手を取ると。
湿気でいつもよりもボリューム感のあるくせ毛をふわりと揺らして板張りの廊下へと歩み出る。
菊池多恵ちゃん。
元気突進型のまめちゃんとブレーキ役である彼女は私から見ても良いコンビで。
六月にして既にアクの強いことで関係各所に有名な我が三年二組の中でも限られた常識人であることころの彼女を常識人たらしめている所以は、ひとえに、何事をも泰然と受け止めてくれるその器の大きさにあると私は思っている。
自分で言うのもなんだけど、私と同じく小さくて細身な多恵ちゃんのどこにそんなに入るのか。
と言うくらいに騒動の絶えない二組をただ平然と、そして整然に受け入れて。
かつ過酷に冷酷に一言のもとに切って捨てるその思い切りの良さは、授業中に堂々と居眠りする様にも表れている。
もちろん居眠りはいけないのだけれども。
視界に入る多恵ちゃんの(ある意味では)雄姿を見ていると、“あ、この授業は寝てもいいんだ”と素直に思えるから不思議だ。
そうやって居眠りこんでしまった授業を数えるには進級三カ月にしてもはや両手では足りないくらいなのだ。
…私たち、ちゃんと卒業できるよね…?

「―無許可で失礼なことを考えている子には酢昆布の刑」
「―っな、なななっ、なんのことかな多恵ちゃんっ?」
「訂正。無許可で失礼なことを考えているしずかには酢昆布の刑」
「訂正どころか名指しになっちゃってるよっ?」
「そもそもあれは寝てるんじゃなくて、目を閉じてるだけであって」
「で、でも、多恵ちゃんのあれはもう完全に机に突っ伏しているよね…?」
「ほう。誰が堂々と居眠りしてるって?」
「はぅっ?」

ゆ、ゆうどうじんもんっ?
すると多恵ちゃんは“ベイビィ”が口癖の清水のとある花輪家のお坊ちゃまがするように、「まったく」と両手を広げると、

「許可の無い上に己の失態をもあたしの居眠りに転嫁しようとはなんと不埒な」
「み、認めてるよっ?居眠りしてるって認めちゃってるよっ?」
「―しずか」
「ま、まめちゃんっ?」

がしっと私の肩をつかんだまめちゃんの手は毎日竹刀を握っているとは思えないほど滑らかに見えて。
私しか使っていないというまめちゃんという呼び名で呼ばれている彼女の目は固く閉じられ。
次の瞬間、

くわっ

と見開かれた…っ。

「―居眠りに、許可など関係ないっ」
「そりゃそうだよっ」

思わず天を仰ぐ。
もちろん、見えたのは天ではなくて板張りの天井なのだけれども。
コンマ何秒かで繰り出された私の突っ込みは、その道のプロ(?)であるところの姫子ちゃんとよしみちゃんにならきっと一定程度の評価を頂けたことだろう。
視界の隅でまめちゃんの言葉に我が意を得たりとばかりにうなずいている多恵ちゃんの姿をとらえながら、そんなどうでもいいことを思った。
…えっと。
何のお話をしていたんだっけ…。
と思い返しているところへ、

とんとん

と、まめちゃんが握っている方とは逆の肩をつついていくる、そんな控え目ではたからみれば可愛らしいであろう所作に振り返れば、

「…しずちゃん」
「ふみちゃん…?」

小首をかしげることで一緒に揺れたおさげは、今日は紫陽花を象った髪留めで結われている。
いつも小さな機転を利かせるふみちゃんの口をついて出た次の言葉に。
私が天井を拝むのは登校してから早二回目となったのだった。

「…もう、お漫才、終わり?」

そんな残念そうに見つめられてもっ。
しかもお漫才ってっ。

「「ぷ、くっくくくくっ」」

私の背後から噛み殺したような二つの笑い声が聞こえてきたのは、言うまでもない。
も、もうっ。
こうなったらっ。
まめちゃんの呼び方のことも、ふみちゃんの傘のこともせーんぶぜんぶまとめてっ。

「聞いてやるんだからぁっ」

うなーっ

と。
天を衝く勢いで両手を上げてまめちゃんの手を振り払う私の剣幕にくすくすと笑いながら通り過ぎていく他の組の生徒たちや下級生たち。
…三年二組のアクの強さに既に一役買っている私がそこにはいた。






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