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No.26376の一覧
[0] けいおん モブSS[名無し](2011/05/27 23:56)
[1] けいおん モブSS (2)[名無し](2011/05/27 23:44)
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[7] けいおん モブSS (7)[名無し](2011/05/27 23:47)
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[9] けいおん モブSS (9)[名無し](2011/05/27 23:54)
[10] けいおん モブSS (10)[名無し](2011/05/30 23:18)
[11] けいおん モブSS (11)[名無し](2011/06/12 16:34)
[12] けいおん モブSS (12)[名無し](2011/06/12 15:43)
[13] けいおん モブSS (13)[名無し](2011/09/17 00:49)
[14] けいおん モブSS (14)[名無し](2012/02/24 04:27)
[15] けいおん モブSS (15)[名無し](2012/02/24 04:27)
[16] けいおん モブSS (16)[名無し](2012/02/24 04:27)
[17] けいおん モブSS (17)[名無し](2012/02/24 04:28)
[18] けいおん モブSS (18)[名無し](2012/02/24 04:42)
[19] けいおん モブSS (19)[名無し](2012/04/10 01:58)
[20] けいおん モブSS (21)[名無し](2012/05/11 22:54)
[21] けいおん モブSS (22)[名無し](2012/05/13 21:19)
[22] けいおん モブSS (23)[名無し](2012/08/03 00:32)
[23] けいおん モブSS (24)[名無し](2013/03/18 00:55)
[24] けいおん モブSS (25)[名無し](2018/02/11 22:48)
[25] けいおん モブSS (26)[名無し](2018/02/12 01:43)
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[26376] けいおん モブSS (24)
Name: 名無し◆432fae0f ID:4daad748 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/03/18 00:55
思うんだ
ただ 私たちがいる
それだけで十分だったって
そんなことが大切だったって
それが一番の宝物だったんだって








板張りの廊下を進むほど、ついさっきまで聴覚の大半を占めていた雨音が遠ざかる。
木は、コンクリートよりも音を吸収しやすい素材だという。
吸音率、という言葉として世間に認知されている―
いや、少なくとも私の頭の中のどこをつっついたってそんな数学的な匂いのする単語は出てきはしないのだけれど…とにかく吸音率だ。
字が体を表している通り、音を吸う率。
音をどれだけ吸収するかを推し量るその指数が高いのが木材である。
桜高の校舎に使われているそれらは殊更にその比率が群を抜いて高いということを、桜高始まって以来の才媛と誉れ高いよっしーこと砂原よしみちゃんのいつだったかに聞いた講釈で知っていた。
よしみちゃんはこういったお話を世間話をするかのようにふってくるので、知的レベルが一般人であるところの私は気の利いた相槌を打ってあげることもできず…。
ふーん、とか、そうなんだー、とか。
そのあたりで反応してあげるのがせいぜいの私だった。
日頃からその隣を占める姫子ちゃんはそのあたり、どうしているんだろうか。
ちょっと素朴な疑問かも。

「だいたいねー」

と降ってくる声は板張りの階段に吸いこまれることなく耳に届いてきた。
呆れの色が滲む、こんなふうに多恵ちゃんが何かにつけてうんちく的な下りを述べるときに特有の、間延びした調子につられて上向けた視線の先。
こちらはぴょんこぴょんこと、階段の一段ずつを飛び跳ねるように上るまめちゃんの姿がある。
その動きがリズミカルではなくって、どことなく不規則なのは…。
きっと、ふわふわと揺れる多恵ちゃんの毛先を追いかけているからなのかもしれない。
さらにその後ろから歩を進める私とふみちゃんにしてみれば、まめちゃんの足がいつ気まぐれに踏み外されるか気が気ではないのだけれど。

「苗字が遠藤だから、まめ、だなんて…短絡的じゃん?名前がかぶるところ、ひとつもないし」

「遠い藤原氏の美を知る子、読ませてまめっ」

「や、読まないし」

歌うように言うまめちゃんにとりつく島もない多恵ちゃんである。
頭上のそんなやり取りに、ふみちゃんと二人で小さく吹き出してしまう。

「そもそもなんでまめなの?」

階段の踊り場でくるりと振り返った多恵ちゃんがもっともな疑問を投げかけてくる。
桜高を形作る木々は私たちの笑い声をしっかりと吸収してくれたようだ。
吸音率はちゃんと仕事をしてくれている。
木造の手すりに鎮座するブロンズ製の亀の甲羅のひんやり感。
手のひらに感じたそれをなぞり歩を進めた私は。
踊り場への最後の一段を飛びぬかして多恵ちゃんの隣に着地したまめちゃんの、「こりゃぁ明日まで止みそうにないなー」と感心したような声を聞きながら。
私が未知子ちゃんのことをまめちゃんと呼ぶ、その発端となったいつかのことに思いを巡らせる。
それはつい昨日のことのようで―。
あれからほんの、二カ月しか経っていないんだね。
それとも、もう二カ月、かな。
そんな感慨を言葉に添えて言ってみる。

「…まめちゃんが、そう言ったんだもん」

「…未知子が?」

「うん…」

説明になってない私の言葉に怪訝そうにする多恵ちゃんは、なんていうかさすがだ。
私の口調に滲んだ、小さなしみのような不満を、点のようなそれを。
ひとつとして見逃さない。
もふっとした毛先が湿気でさらにもふもふっとなっている所をひとつまみしてくるりと指先に巻きつける所作は、何か考え事をする時の彼女の癖で。
何か、といえば、つまるところが私と共通しているはずである、いつかの思い出であるのだろうけれど…。
伊達にこの二ヶ月、後ろの席からクラスを俯瞰していた私ではない。
ムギの頭だけじゃなくって。
あの席で過ごしていると、クラスのいろんなことが見えてくるのだ。
…ただ。
あんなふうに言ったのも、意識してそうしたわけでは、もちろんなくって。
なんとなく言い訳がましい言い方になってしまうのは、私にとってはむしろ仕方のないことだと思うのだ。

「…しずちゃん、あのとき大変だったもんね…」

私の隣を占めるふみちゃんが苦笑をもらす。
どうやらあの日のことに思い当ってくれたらしい。
せっかく同情してくれる友達がいるのだ。
ここは素直に甘えておいて損はないだろう。
「なんかあったっけ?」「…さぁ?」顔を見合わせるまめちゃんと多恵ちゃんにほんの少し申し訳ないなと思いながら。
多恵ちゃんの横に並んだ私は、踊り場の窓からのぞく濃い灰色の空に目を向ける。
雨が止む気配は、一向にない。

「顔合わせのときのこと、覚えてる?」

「顔合わせって、四月の?」

「姫がしずかをおんぶしてあやしてたときのことっしょ?ばっちり覚えてるさっ」

怪訝そうにする多恵ちゃんの横で、あんときの写真はたまに壁紙にしてたりするんだよねー、と何やら携帯電話をかちかち操作するまめちゃん。

「…まめちゃん、あとで携帯電話の待ち受け、見せてもらってもいいかな…?」

「いいけど、今は別のしずかのやつだよ?」

「別の私のも確認しておきたいなっ?」

そう念を押しながら、事も無げに階段を行く黒髪お下げに追いすがる。
携帯の待ち受けにしている、などというのを聞くにつけ、嫌な予感しかしない。
具体的には、私にとっては恥ずかしい写真でしかないだろう。
特定の嗜好を持つ者には“眼福”なのだとか…それはそれで役に立っているからいいのだろうか…いやないっ。

「…ふみは覚えてるの?その顔合わせのときのこと」

「…うん…。…ふふ…」

「なに?」

「…ううん…。…ほら、私としずちゃんにとっては、二人とは初対面だったから…すごい印象的だったの…。…だから…」

「ふーん。そんな思い出し笑いするほどおもしろいことあったかなー」

「…とにかくね…そのときの未知子ちゃんが自己紹介で言ったの…。…さっき多恵ちゃんが言ってた下りで、自分のことはまめって呼んでください、って…」

「…んー、だめだっ。全然思い出せない…あたしちゃんと教室にいた?」

「…全校集会からのホームルームだったからね…、…いたにはいたけど…ふふ…」

「あ、ちょっと、なにその笑い方。さては何か隠してるわね木村さんっ?」

「…ふふ、そんなことないよぉ…」

ふみちゃんの頭を抱え込んで何やら絡んでいる多恵ちゃんである。
なにせふみちゃんのふうわりいい匂いのする頭だ、抱え込みたくなるのは女子として仕方のない、性分というやつなのかもしれない。
きっとあの花柄の髪留めが、そのいい匂いの発生源なのだ。
仮説でしかない、中学から数えて六年間の歳月を費やしてきた私の疑問に答えを出す瞬間ではもちろん、今はなくって。
階段を上り終えた二人の楽しげなやり取りに振り向いた私は、しかし嬉々としてこの一言を送りつけてやるのだった…っ。

「ふふふー、それはね、多恵ちゃんがね、寝」「多恵爆睡してたからねー、あたしのせんせーしょなるな自己紹介を聞き逃すとは大損もいいところさっ」

送りつけてやるのだったのにっ?
無い胸をせっかく張ったのにっ?
待ち受けすら確認できていないのにっ?
あんまりだよまめちゃん…。

「ん?どったの、しずか?」

「…なんでもないもん」

しょぼん

「んん?」

「あーらら、しょんぼりしちゃって。未知子もそういうとこ、もうちょい気を使ってあげないとね」

「気は使うものではなく、当てるものだがっ?」

「…未知子ちゃん、普段どんなお稽古してるの…?」

「剣を抜かずして、物事の端を断つようなことをっ」

びしぃっ

「断たれたのは、私の文脈だったんだけどね…」

「しずか、誰がうまいことを言えと…?」

「諸悪を断ちて多生と成すっ。是即ち―」

「…活人剣なり…?」

「おおっ。流石は木村嬢、博識だねっ。どうだい、今度うちの道場の門下生にその料理の腕の程を振るってくれないかいっ?」

「…機会があれば、喜んで…」

「んふふー。これで稽古にも一層身が入るってもんよっ。かっかっかっかーっ」「…ふふふ…」そんなふうにして手と手を取り合って二組の教室へと入っていく二人だった。

あとに感じるのはそこはかとない置いて行かれた感と。
ぽむ、と頭の上に乗る温かい重み。

「まぁ、そーいうことで」「…ことで?」

そのまま私の小さい肩に腕を回した多恵ちゃんと、この二カ月、何度交わしてきたか分からない苦笑をお互いに交換して。

「今日も一日、いっちょがんばりますか」

ふんわりもふもふの毛先に頬をくすぐられながら。

「ふふ…そぉですなぁ。でも、居眠りはしちゃだめですぞ?」

「あ、言ったなこいつー」

湿気ていてもすぐに元に戻る髪の毛をくしゃくしゃにされた私は多恵ちゃんと二人、梅雨入りの今日も何かと騒動の雨を降らせるだろう私たちの教室へと入っていくのだった。

―雨は。
降り続ける雨は、私たちの楽しい喧騒のように、未だやむ気配はない―。






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