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No.26376の一覧
[0] けいおん モブSS[名無し](2011/05/27 23:56)
[1] けいおん モブSS (2)[名無し](2011/05/27 23:44)
[2] けいおん モブSS (3)[名無し](2011/05/27 23:45)
[3] けいおん モブSS (4)[名無し](2011/05/27 23:45)
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[5] けいおん モブSS (6)[名無し](2011/06/13 23:30)
[7] けいおん モブSS (7)[名無し](2011/05/27 23:47)
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[9] けいおん モブSS (9)[名無し](2011/05/27 23:54)
[10] けいおん モブSS (10)[名無し](2011/05/30 23:18)
[11] けいおん モブSS (11)[名無し](2011/06/12 16:34)
[12] けいおん モブSS (12)[名無し](2011/06/12 15:43)
[13] けいおん モブSS (13)[名無し](2011/09/17 00:49)
[14] けいおん モブSS (14)[名無し](2012/02/24 04:27)
[15] けいおん モブSS (15)[名無し](2012/02/24 04:27)
[16] けいおん モブSS (16)[名無し](2012/02/24 04:27)
[17] けいおん モブSS (17)[名無し](2012/02/24 04:28)
[18] けいおん モブSS (18)[名無し](2012/02/24 04:42)
[19] けいおん モブSS (19)[名無し](2012/04/10 01:58)
[20] けいおん モブSS (21)[名無し](2012/05/11 22:54)
[21] けいおん モブSS (22)[名無し](2012/05/13 21:19)
[22] けいおん モブSS (23)[名無し](2012/08/03 00:32)
[23] けいおん モブSS (24)[名無し](2013/03/18 00:55)
[24] けいおん モブSS (25)[名無し](2018/02/11 22:48)
[25] けいおん モブSS (26)[名無し](2018/02/12 01:43)
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[26376] けいおん モブSS (26)
Name: 名無し◆432fae0f ID:5cd5b5fe 前を表示する
Date: 2018/02/12 01:43
誰よりも深く
君を知っていたはずなのに





勝負して、と夏香ちゃんは言った。
陸上部ではよくあることである。
何せ、ひと勝負するのに特別な準備など必要ない。
適度な距離とゴールを決めて。
競い合う者同士が二人いれば成り立つ。
見届け人すら必要ない。
どちらが早かったのか。
ただそれだけが、勝敗を決めるのだ。
それを。
陸上部に所属する学生なら誰もが経験するであろう、日常的で、気軽で、手軽な勝負を。
競技の舞台から退場しておよそ四年の私に、現役バリバリの陸上部員であるところの夏香ちゃんが挑んできた。

「…四百で、だよね」

確認する相手はもうおらず、そう独りごちる。
言われずとも、そうであることは分かっている。
彼女は言ったのだ。
友達の仇討ちだ、と。

「…まさか、友達だったなんて」
思わず呟いてみて、しかし込み上げてくる感情に罪悪感の類いは無い。
不思議だ。
あるいは、予感していたのだろうか。
いつかこんな日が来ることを。
あの雨の日の贖罪の機会が訪れることを。

…いや、違う。

「あたしと勝負して、しずか」
勝負しようよ、という誘いを言い直す形で。
ただ静かに放たれた夏香ちゃんの言葉に、一切の感情は無かった。
少なくとも仇討ちだなんて憎しみめいたものは、何も。
部室の窓から吹き込む土砂降りを見て、何故だかそう思える。
あれからずっと、雨の日ほど走りこんできた。
雨脚が強ければ強いほど、踏み込む一歩一歩に力が入った。
視界が雨粒で滲むほど、もっと先へと追いすがった。
ひどい雨の中を走ることで、自分を追い込んだ。
それは、自虐でも贖罪でもない。
焦燥。
あの雨の日への焦燥が、私を雨の中へ駆り出していった。

立ち止まったままだと思っていたのに。
うずくまったままだと思っていたのに。
走ることさえできればいいと思っていたのに。
なんだろう、私。
夏香ちゃんに勝負を挑まれて。
私、うれしい―――。

願ってやまなかったあの日の再戦。
それが。
こんな形で目の前に現れるなんて。

窓を閉めて、出口へ向かう。
薄暗くなった室内に無造作に転がるテーピングやボトルが、部員たちの生活感をにじませている。
視界に映る、出口の扉にかかった桜高陸上部のユニフォーム。
桜色の生地に白抜きで書かれた「一走入魂」の達筆を見上げながら。
「勝てるかな」という不安を胸に抱く。
同時に、勝ち負けにどんな意味があるのかと思い当たったところで。
部室の外へ出た私の頭を、何か柔らかくて温かい物が包み込んだ。

「―きっと、勝てるよ」

降ってくる穏やかな声を聞くだけで、どんな表情をしているか分かるほど、私たちの付き合いは長い物となっていた。
豊かなふくらみの間から上向けた視線の先。

「しずかなら大丈夫」
できの悪い妹を心配する、困ったように眉根を寄せた姫子ちゃんの微苦笑に迎えられ。
だんだんと気恥ずかしくなった私は、再びそのクッションに顔を埋めることにした。
応じて、私の頭を包み込む両腕に少し、力がこもる。

「後は宜しく」
平坦な声に顔を向ければ。
「って、なっつーが言ってた」
珍しく物憂げな感情を瞳に写したいちごちゃんがいる。

「…心配、させちゃった?」

「別に。私は関係ないし」

「あ、うん」

「…しずかは、なっつーが何であんなこと言ってきたのか、何となく分かってるんでしょ」

「…まあ、なんとなくは」

「それなら、やっぱり私の心配は関係しない」

「そう、なの?」

「うん。だってしずか、気づいてる?」

何に、と聞く前に寄せられたいちごちゃんの顔は近くて。
でも、あまりにも綺麗なその双眸から目が離せなくて。

「…あんなに楽しそうに、勝てるかな、って言うしずか、私、初めてみたよ」
そう言って微笑んだいちごちゃんに。
私はぽかんと口を開けることしかできなかった。

「まったくこっちの気も知らないで…」

「…姫子ちゃん?」

「ムギなんてどうしよう、どうしようってずっとあたふたしてて…。きっと夏香としずかが喧嘩してるって思ったんだろね」

「ええっ、ムギがっ?」

「せっかく沸かしたお湯が冷めちゃうと唯が風邪ひくから、アカネに軽音部まで引っ張っていってもらったけど…」

ほわほわしているほうがムギには似合うのに。
余計な心配掛けちゃったな…。

「あとでちゃーんと、フォローしとくんだよ?」

「…はい」

抱擁から解放した私に向けて、姫子ちゃんのめっポーズが炸裂する。
これは割と、ちゃんと言いつけに従わないとだめなやつだ。
もちろん。
従わなくったって、ムギをフォローすることに変わりはない。

慌てふためく琴吹家の令嬢めしうまだった
そんな感想を抱くのはあんただけだよ、いちご…

前を歩きながらそんなやりとりをする二人を追いながら。
どんなふうにムギをフォローしようか、考える。

「勝算は?」
振り返って、いちごちゃん。

「ブランク四年の元全国トップスプリンターさん?」
こちらも振り返って、姫子ちゃん。

「…わかんない」
振り返った拍子に香ってきた二人の髪の花のようないい匂いに鼻をくすぐられて、私。
ふるふると、頭をかぶる。
部室の前で見た、予選会のタイム。
今の私でも、夏香ちゃんと同じ領域にいることは判断がつく。
でも、それはあくまで予選会での話で。
恐らく、中学からずっと陸上部を続けている夏香ちゃんの本気の走りがどれほどのものなのか。
想像する材料はあまりにも少ない。
加えて私は、タータンで四百メートルを走ったのは中三の七月が最後だ。
スパイクを履いて。
ユニフォームを着て。
クロノグラフを巻いて。
クラウチングスタートを決めて。
これまでの私が、どこまで通用するだろうか。

それでも。
勝てるかどうか、わからないけど。

「わかんない、けど」

この勝ち負けに、どんな意味があるのか、わからないけど。

「「けど?」」

両手を後ろに組んで前かがみ。
上目遣いで覗きこんでくる親友二人に返す言葉は決まっている。

「…けど、私、めっちゃわくわくしてるっ」

ふっ、と笑んだ美人二人の真ん中に割り込むようにして並び立つ。

「On your mark」
せっかくのお膳だてを無碍にするほど、私と姫子ちゃんの付き合いは浅くない。

「Get set」
クラウチングスタートに重心を落とした私に始まりの音を告げるいちごちゃんの冷声が心地いい。

「「Go!」」

それにしても、やけに発音がいいな二人とも。
と思ったのを置き去りにして。
夏香ちゃんとの勝負に向けて、私はスタートを切った。





こらーっ廊下をはしるなーっ
ご、ごめんなさいぃぃぃぃっ

「…次、古文だったっけ?」

「…ん、ティーチャー堀込」

「とりあえず、私たちもいこっか」

「いわんやしずおかをや」

「何それ?」

「別に。特に意味はなし」


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