== 魔法少女リリカルなのは A's ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==
時空管理局の一室……。
クロノは、両手で顔を覆ったまま、椅子からピクリとも動かない。
リンディの代わりにユーノが隣で付き添っている。
そして、誰もが精神的に疲れ切った中で、リンディが話を続ける。
「それで、これからどうすれば……。」
「休憩挟む?」
「大丈夫です……。」
リンディが、プレシアの提案を拒否する。
「じゃあ、続けるわよ?
幾ら安定していると言っても、試せないこともある。
『主の死という鍵』『闇の書本体の破壊という鍵』により、
闇の書が再生するかは試せない。
これを阻止するために闇の書を解析して直すなり、更に改竄するなりする必要がある。」
「ここからが本題ですね?」
「ええ、管理局の技術を借りたいわ。」
話は、ようやく本題へ。
第15話 そろそろ幕引き……
闇の書の解析……。
現物を解析出来るという機会は、今回を措いてチャンスはない。
幸いなことに管制人格のリインフォースが目覚めている。
そして、約束の取り付けは上手くいった。
約束を取り付けられた理由としては、安定しているとはいえ、危険なロストロギアであることに変わりはないこと。
リンディ、クロノ、グレアムには深い因縁があったこと……。
そして、その因縁を自分達で断ち切ることが出来るからである。
私情は挟まれるが、それでも方向は一つに向きつつあった。
その後、管理局は闇の書を預かり、リインフォースの力を借りて解析をすることになった。
その間、はやてと守護騎士達は、再び地球の生活に戻ることになる。
また、なのはとはやては、フェイトを通して友達になり、なのはは、はやてと守護騎士達から謝罪も受けた。
そして、やさぐれフェイトの時間は、残り僅かになっていた……。
…
八神家……。
夕飯の支度をしていたはやての後ろに、そっと誰かが立つ。
「やさぐれちゃんやろ?」
「よく分かったね……。」
「その悪戯も何回目や?」
「さすが、はやて……。
修行の成果だね……。」
「よく言いよるなぁ。」
はやては、クスリと笑う。
「あのね……。
はやて……。」
「ん?」
「はやてのご飯が凄く美味しかったんだ……。」
「ほんま?
嬉しいわぁ。」
「だから、ありがとうを言いに来た……。」
「どうしたん?」
「そろそろ眠りに着く……。」
「眠り?」
「フェイトに聞いたでしょ……?」
「頭の修復の話?」
「うん……。
実は、フェイトは無理してた……。
今回、こんなに長く出ているはずなかった……。
・
・
一つは、あたしのため……。
少し自由な時間をくれた……。
もう一つは、はやてのため……。
AMFの力で呪いを打ち消すために、頭を治すのを遅らせた……。」
「フェイトちゃん……。」
「そして、時間が来た……。
はやてに最後のお別れを言おうと思った……。」
「他の皆は?」
「はやてから伝えてあげて……。
久々に楽しかった……。
フェイトの役に立ててよかった……。
はやては、元気になるっぽい……。」
「……やさぐれちゃんは?」
「さっき、言った通り……。
眠るだけ……。
フェイトを通して夢を見る……。」
はやてが振り返り、強く言葉を発する。
「私、やさぐれちゃんのお陰で、今があると思う!」
「そんなことない……。
シグナム達が何とかした……。
あたしは、少しお節介しただけ……。
きっと、何も変わらなかった……。
・
・
変わったとしたら、ヴィータのボケレベルとシグナムの突っ込みレベルが……。」
「真面目な話をしてたんやけどね!」
「あ……。
時間だ……。」
「嘘やろ!?」
「嘘……。」
はやてのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。
「はやて……。
君の突っ込みが一番変わった……。
八神家で、一番鋭い……。」
「嬉しくないわ!」
「冗談……。
ほら、去り行くやさぐれさんに、
優しい言葉を掛けて……。
・
・
もう、いっそ愛の告白でもいいよ……。」
「何で、女の子に愛の告白せなあかんのよ……。」
「あたしへの告白は、フェイトが夜のサブミッションで返すから……。」
「怒るで?」
「じゃあ、あたしから……。」
「へ?」
やさぐれフェイトが、艶かしくはやての顎に手を当てる。
はやては、少し上気する。
「あたしの全てを……。」
「…………。」
「あたしの刃牙を全て君にあげる……。」
「そんなことやと思ったわ!」
再び、はやてのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。
「普通にお礼を言いたいんよ!」
「愛を込めて蝶をつけて、『蝶最高だった』とか……?」
「ありがとうや!」
「やさぐれさんの照れ隠しなのに……。」
「一体、誰がこんな性格に育てたんや……。」
「育てたんじゃなくて、
基礎理論を考えた人の設定……。」
「誰?」
やさぐれフェイトは、邪悪な笑みを浮かべるだけだった。
「まあ、ええ。
・
・
本当にありがとうな。」
「うん……。
確かに受け取った……。
・
・
もう、行くね……。
ご飯、美味しかった……。
ありがとう……。
じゃあね……。」
「うん……。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「六秒余った……。」
はやてがこけた瞬間、やさぐれフェイトは、目を閉じた。
クマが消えて目が開いた時、三白眼の目から綺麗な目に戻っていた。
「ごめんね、はやて。
本当に照れ隠しみたいだから。」
「どっからが本当で、どっからが嘘なんだか……。
・
・
もう、会えへんの?」
「私が怪我しない限り……。」
「じゃあ、これで最後やね。」
「うん……。」
「結局、お礼を言えたのかな?」
「笑って居ればいいと思うよ。
私の見ているものが、もう一人の私の夢になるから……。」
「……うん。
そうする……。」
「じゃあ、私は帰るね。」
「夕飯、食べていかないの?」
「母さんが待ってるから。」
「そう?」
「じゃあね……。」
フェイトの言葉は、はやての中で最後のやさぐれフェイトの言葉と重なった。
そして、次の日から、やさぐれフェイトの姿は見えなくなった。
…
一ヶ月後……。
フェイトは、自分の部屋で夢を見ていた。
目の前には、姿を消したもう一人の自分。
「少し気になって出て来た……。」
「……唐突だね?」
「闇の書……。
どうなったの……?」
「聞いてないし……。
私の質問なんて無視だね……。」
「で……?」
「……何とかなりそうだって。」
「よかったね……。」
「信じられないけど、君のお陰だって……。」
「ん……?」
「闇の書……。
完全に壊れてしまって、周りに魔力干渉がなかったんだって。
だから、安全に改竄出来るって。」
「凄い偶然だね……。」
「偶然なのかな?
君だからじゃないの?」
「あたしは、どういう存在だ……。
・
・
で……。
どう、何とかなるの……?」
「新しい防御プログラムを作るんだ。
皆の心に残る姿を形にして、
忘れていたと思った防御プログラムを作る……。
姿も決まってる……。」
「あたし……?」
「それはないから。」
「…………。」
(フェイト……。
少し寂しい……。
ボケるか突っ込んで……。)
「?」
(天然か……。
この子が、将来、突っ込み殺しの天然ボケを極めないことを祈ろう……。)
「で……?」
「あ、うん……。
女の子……。
融合騎って言うんだって……。」
「融合騎なんてゴツイ名前だね……?
ロボット……?」
「違うよ!
防御プログラムの能力!」
「知ってて、からかっただけ……。」
「悪質だよ!」
「さっき、名前の突っ込みが返って来なかったということは、
名前は、まだないんだよね……?
ここは、あたしが実力を発揮するしかない……。」
(流れを無視した……。
そして、もう、変な名前を付けるのが分かる……。)
「キングベヒーモス……。」
(やっぱり……。
・
・
ん?)
フェイトは、目を覚ました。
「あの名前って、このための伏線だったの!?」
額に手を当てる。
なのは達に話すか話すまいか……。
そんな葛藤の生まれた朝の目覚めだった。
フェイトは、溜息を吐く。
今回、やさぐれフェイトは、何を残したのかと……。
頭の中に渦巻くのは、八神家での大暴走による大混乱……。
あの行動に意味があったとは思えない。
それでも……。
「みんなが笑っていられるのは、もう一人の私のお陰かもしれない……。」
そんな気持ちだけが強く残ったのだった。