== 魔法少女リリカルなのは ??? ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==
今日も始まる喫茶店会議……。
場所は、昨日と同じ喫茶T。
なのはとはやてが、窓際の席でフェイトを待つ。
そのフェイトが、お店に入る前に年上と思われる男子生徒に呼び止められるのが見える。
「これは……。」
「告白されてる?」
なのはとはやての視線が釘付けになる。
フェイトは、困ったようにオロオロしている。
男子生徒は、必死に何かをフェイトに訴えている。
「フェイトちゃんのピンチやな。」
「あの男の子。
はやてちゃん的には、どうなの?」
「美形でスポーツマンタイプか……。」
(あんなに離れてて、そこまで読み取れるんだ……。)
「性格に裏がありそうやから、パスやね。」
「そうなんだ。」
「なのはちゃんには、身につかん能力やろうねぇ。
愛しの旦那様が居るんだし……。」
「……はやてちゃんの馬鹿。」
赤くなるなのはを見ながら、はやては笑う。
そして、そうこうしているうちに、男子生徒が地面に手を着いた。
その男子生徒を置いて、フェイトが店に向かって来る。
「玉砕したみたいやね。
いいものを見せて貰った。」
「少し可哀そう……。」
喫茶店に入って来たフェイトが、なのはとはやてを見つけて駆け寄る。
「何て、断わったん?」
「見てたの?」
「うん……で?」
「烈 海王ぐらい強い人じゃないとダメって。」
「少しじゃなくて、凄く可哀そうだよ!」
なのはが吼えた。
後日談・第3話 喫茶店会議②
男子生徒の幻想を砕いたのは、何だったのか?
フェイトにふられたこと? 違う。
フェイトの言い方がきつかった? 違う。
フェイトが、烈 海王を知っていた? 正解。
清楚で奥ゆかしいイメージの少女の口から出て来た『烈 海王』の言葉。
彼の頭の中で、何かが砕け散ったのだった。
はやてが取調べをする刑事のように、テーブルに片腕を置く。
そして、向かいに座るフェイトを尋問する。
「シャキシャキ答えて貰おうか?
一体、何を言ったんや?」
「な、何って……。
別に……。」
「純情な乙女は、告白中に烈 海王なんて言わん。
どういう過程で、烈 海王が出て来たのか?
そこを説明して貰いたいだけや。」
「え、えっと……。
いきなり『好きです』って言われて……。
困ってたら、『困らせてしまったようだね?』とか言われて……。」
「好きって言われたんだ……。」
「後半ムカツクこと言っとるよ?」
「……そうかも。」
「「で?」」
「あ、うん。
『好きなタイプを聞こうか?』って。
『僕がそうなるように努力するから』って。」
「それで答えのが……。」
「烈 海王。」
「おかしい!
なのはちゃん!
フェイトちゃん、おかしい!」
「はやてちゃん!
声、大きいよ!」
なのはは、わたわたと慌てて、はやてを止める。
はやては、席に座り直し、咳払いをする。
そして、フェイトを睨む。
「で、ほんまに烈 海王好きなん?」
「嫌いじゃないけど、そんな人存在しないよ。」
「じゃあ、嘘?」
「うん。
断わる言い訳を思いつかなかったから。」
「どうして、烈 海王なん?」
「多分、もう一人の私の趣味を享受出来る人は、
この世に一人も居ないと思ったから。」
「…………。」
凄く納得出来る。
「私、まだ恋愛とか分からないから……。
言い訳には効果覿面なんだ。」
「他に何を言ったか怖くなって来たよ。」
なのはは、少し怖いものを想像する。
「そんなに変なこと言ってないよ。」
「本当?」
「『打岩が出来るようになってからね』とか。」
「へ?」
「『站椿からやり直してね』とか。」
「はい?」
「『貴様は中国拳法を嘗めた!』って怒ったフリして逃げたりとか。」
「…………。」
「『貴様等の居る場所は、既に私が二千年前に通過した場所だ!』って言って逃げたり……。」
なのはの想像通りだった。
はやてが、ポンとフェイトの肩を叩く。
「確かに効果覿面だけど、男が二度と寄り付かなくなる……。」
「?」
フェイトは、分からないと首を傾げる。
「やさぐれちゃんの真似だけはしたらあかん。
人として、何かを失くすから……。」
「そう?」
(もう、取り返しがつかないかもしれないけど……。)
刃牙を読んでないのに、やさぐれフェイトと知識を共有するが故に蓄積した知識。
大いなる誤解は、海鳴に刃牙女を降臨させ掛けていた。
今のところ、回収可能なセーフティゾーン。
親友により、辛くも救出された。
「ねえねえ、本題に入ろうよ。」
「そやそや。
プレシアさんに聞いたんやろ?」
「伝えた瞬間に廃人みたいに、真っ白になっちゃったけど……。」
「…………。」
思いの他、ショックが大きかったらしい。
「最初、絶対に認めなかった……。
そして、諦めて暫くして、管理局のせいにしてた……。」
「子供みたい……。」
「可愛い……」
「最後は、訳の分からないものを実現した自分の才能が怖いって、
自己完結の自画自賛で、話は終わったよ……。
それで……。
母さんは、あくまでプロジェクトF.A.T.Eを完成させたつもりだったんだって。」
「じゃあ、ジェイル・スカリエッティの技術だけ?」
「うん。
ジョイル・スカリエッティは、余計だったって。」
「ややこしいなぁ……。
ジョイル・スカリエッティは、その後、どうなったん?」
「消息不明。」
「ジェイルの方は?」
「現役の犯罪者をしてるみたい。」
「結局、やさぐれちゃんの秘密は訳が分からんなぁ。」
「そうだね。」
「…………。」
三人は、『う~ん』と悩む。
「ところで……。」
「「ん?」」
「やさぐれちゃんの秘密が少し解き明かされたんやけど、何か起きたんやろか?」
「……すっきりしたかな?」
「寧ろ、余計なモヤモヤが増えた気しかしないけど……。」
最初の疑問って、何だったっけ?
結局、掘り返して分かった事実に納得出来るものはなく、妙な気分だけが心に残った。
しかし、これもやさぐれがやさぐれであるが故の結果。
フェイト達の脱力感は約束されたものだったのかもしれない。
こうして、世界には知らなくてもいい、どうでもいいことが一つ増えた。