== 魔法少女リリカルなのは A's ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==
本来なら、学校に行く時間……。
しかし、プレシアは、学校に暫く家の都合で休むと連絡を入れていた。
理由は簡単だ。
人格の入れ替わったフェイトを学校に行かせるわけには行かないからだ。
故に忠告が入る。
「貴女、学校に行くんじゃないわよ。」
「命令形の会話から始まるとは……。
まあ、いい……。
あんな面倒臭いもの……。」
「家も出るんじゃないわよ。」
「何で……?」
「変な噂が立つからよ。」
「ああ……。
結局、フェイトは、あたしのサプライズをどう処理したの……?」
「別人として処理したのよ。」
「あたし凄い……。
遂に別の人間を召喚したことに……。
・
・
じゃあ、別に出掛けても平気じゃないか……。」
「よくないわよ!
フェイト、可哀そうだったのよ!
性格の違いが認知されるまで大変だったんだから!」
「ちょっと、待った……。
だったら、ちゃんと別人が居ることも認知させないと拙い……。
あれは、フェイトの嘘だったのかということになる……。」
「……一理あるわね。」
プレシアが顎に手を当て考え出した瞬間、やさぐれフェイトは家を出た。
服装は前回と同じく、黒のシャツと白のパンツ。
しかし、それだけでは寒いのでジャンバーを引っ掛けた。
第4話 やさぐれと守護騎士
やさぐれフェイトは、少し早いが約束のレストランへ向かう。
『早朝メニューはじめました。』という看板が下がる。
「日頃の行いのお陰……。
朝早くからやっている……。」
早朝八時半……。
約束の一時間前にやさぐれフェイトは、レストランに突撃した。
…
十時……。
シグナム、ヴィータ、シャマル、そして、別のサポートに回っていたザフィーラという逞しい亜人が、やさぐれフェイトの待つレストランに現われた。
シグナムが、レストランの一番隅の席でドリアを食べているやさぐれフェイトを発見する。
シグナム達は、やさぐれフェイトの居る席に向かう。
「来てやったぞ。」
「うむ……。
座るといい……。」
「その前にテーブルの上は、どうにかならんのか?」
テーブルの上は、食べ終わった皿が盛大に並んでいた。
やさぐれフェイトは紙ナプキンで口を拭くと、備え付けのボタンで店員さんを呼ぶ。
「この人達が片付けろって……。」
「申し訳ありません。」
「お前、私らのせいにすんなよな。」
「あと、そろそろデザート食べたい……。
パフェを持って来て……。」
「種類は、どれにしますか?」
「全部……。」
「全部?」
「そう、全部……。」
「……かしこまりました。」
店員さんが引き攣った顔で、大量の皿をさげた。
そして、テーブルの上をシグナムが拭く。
シグナム、ヴィータ、ザフィーラが、やさぐれフェイトの向かいに座り、やさぐれフェイトの隣にシャマルが座った。
やさぐれフェイトが、ドリアを食べるのを再開する。
「お前、食うのをやめて話せよ。」
「あたしは、聞く立場……。
お前達が話す立場だ……。
軽く自己紹介でもして、あたし達を襲った理由を話して……。」
ヴィータは、舌打ちする。
しかし、シグナムが話をしようと名乗る。
「シグナムだ。」
「ヴィータ……。」
「ザフィーラ。」
「シャマルです。」
「やさぐれと呼ぶがいい……。」
「「「「やさぐれ?」」」」
妙にしっくり来る……。
名前だかあだ名だか分からない呼び方……。
「で……?
あたし達を襲った理由は……?」
「シグナム!
本当にコイツに話さなきゃいけないのかよ!」
「デバイスを渡したままでは蒐集に影響する。」
「あ~!」
ヴィータは、不満げに椅子に持たれ掛かった。
その間にやさぐれフェイトは、ドリアを食べ終える。
シグナムが話し出す。
「我々は、主のために魔力の源であるリンカーコアを持つ者を探している。
その者のリンカーコアから魔力を蒐集するのだ。」
「主のため……。
蒐集……。
主って、はやてって言う人……?」
「そうだ。
主はやては、闇の書の呪いにより、体を悪くしている。」
「闇の書……?」
「蒐集することで、覚醒を果たし願いを叶えることの出来るロストロギアだ。
主はやては、闇の書に主として選ばれた。
そして、我等は、闇の書の主を守る守護騎士だ。」
「闇の書の主……。
その主を守る守護騎士……。
ちょっと、カッコイイ……。
・
・
でも、願いを叶えるのに、何で、呪いが掛かっているの……?」
「闇の書は、密接に主はやてに絡み付き、
抑圧された魔力が未熟なリンカーコアを蝕んでいるからだ。」
シャマルが付け足す。
「それで、はやてちゃんが闇の書の主として、真の覚醒を得れば……。
はやてちゃんの病は消える。
少なくとも進みは止まるんです。」
「ふ~ん……。
それさ……。
フェイトとなのはに正直に話せば、
魔力を提供してくれたと思う……。」
「え?」
「あたしが言うのもなんだけど……。
なのはもフェイトも、かなりのお人好し……。
ちゃんと話せば、献血する気持ちで協力してくれたはず……。」
「……そうだったんですか。」
やさぐれフェイトが頷く。
ザフィーラが、やさぐれフェイトに話し掛ける。
「では、我等に直ぐにでも協力してくれないか?」
「少し遅いかもしれない……。
昨日の戦闘でデバイスが壊されたから、
なのはがデバイスの修理を時空管理局に頼んだ……。
レイジングハートのデータから、
時空管理局が動き出したかもしれない……。」
「え~っと……。
それは、既にダメだ。」
「ん?」
ヴィータの言葉に、やさぐれフェイトは首を傾げる。
「私達、既に局員を襲ってリンカーコアを蒐集しちまった……。」
「何してんだ馬鹿……。」
「仕方ねーだろ!
一刻も早く、蒐集しないといけないんだから!」
「いっそ、時空管理局に頼んだら……?」
「それは出来ねー!」
「何で……?」
「はやてに知られちゃうからだ!」
「知られてもいいじゃん……。」
「主はやては、他人を傷つけて蒐集することを望んでいない。
これは、我等があくまで秘密裏に行なっていることだ。」
「面倒臭い……。」
「兎に角!
はやてを助けるために蒐集しなくちゃいけないんだ!」
テーブルに大量のパフェが運ばれて来る。
やさぐれフェイトは、一個取ると食べ出す。
「あ~! くそ!」
ヴィータも、一個取ると食べ出す。
「あたしの……。」
「一つぐらい寄こせ!」
「仕方ない……。
・
・
話を戻すと……。
そのはやてと言う人を助けるためには、
蒐集をこれからもしなければいけない……。
でも、蒐集は、人を傷つけるからしたくない……。
でもでも、蒐集しないと、はやてって子の未熟なリンカーコアを
抑圧された魔力が蝕み続ける……。
体に影響が出てるから時間もない……。」
「その通りだ。」
シグナムの視線が、やさぐれフェイトを射抜いた。
やさぐれフェイトは、スプーンを口に加えたまま頭を掻いてクセ毛を作る。
「仕方なくだったのか……。
あのさ……。」
「何だ?」
「一つ試したいことがある……。」
「試す?」
「変な話、一番は現状維持でしょ……。
蒐集しないで人を傷つけない……。」
「出来ることならな。」
「で、影響を受けているのは抑圧された魔力なんだよね……?」
「……ああ。」
「あたしが側に居れば、呪いを打ち消せるかもしれないよ……。」
「「「「!」」」」
守護騎士達の目が、一斉にやさぐれフェイトに集まった。
「あたしの体は、AMFを発生させている……。
これは、半径5mの範囲で広がっていて、
あたしに近づくほど強力になる……。
そして、AMFというのは魔力を結合させない魔力無効化の能力……。
つまり、あたしが、そのはやてって子の近くに居れば、
魔力の抑圧なんて起きない……。
結合しないで打ち消されるんだから……。」
「本当か?」
「うん……。
・
・
シャモル……。」
「シャマルです……。」
「この前の腕って、シャマルのでしょ……?」
「……ええ。」
「抜けなくなったよね……?
それって、守護騎士に有効なら、主にも有効なんじゃないの……?」
「あ……。」
シャマルが口を押さえる。
ヴィータがパフェを倒して、やさぐれフェイトに顔を近づける。
「じゃあ!
はやての人生をこれ以上汚さずに何とかなるのか!」
「試してみないと分からない……。
それに問題もある……。」
「何だよ? 問題って?」
「あたしは、お前達の襲ったフェイトの擬似人格……。
脳の修復が終わってフェイトが目覚めれば、
眠りについてAMFも発動しなくなる……。
つまり、それまでに、はやてって子のリンカーコアを成長させて、
闇の書の魔力の抑圧に耐えられるようにしないといけない……。」
「そっか……。」
「でも!
あなたが居れば、今以上にはやてちゃんの病気が進まないんですよね!」
「試してみないと分からない……。」
「膳は急げだ。」
シグナムが立ち上がる。
「やさぐれを連れて行くぞ。」
守護騎士達は頷いた。
「待て……。
パフェを食べ終わってない……。」
「そんなものは諦めろ!」
「え……?」
ザフィーラが、やさぐれフェイトを小脇に抱きかかえた。
「ちょっと……!」
シャマルが会計の書かれた紙を取る。
「随分と食べましたね……。
これ、おごりです!」
「そんなものは要らない……。
ゆっくり食べさせて……。」
「行くぞ!」
やさぐれフェイトは、守護騎士達に拉致された。