== 魔法少女リリカルなのは A's ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==
守護騎士の住処……。
また、守護騎士の主の家でもある。
かなり立派なバリアフリー住宅。
その扉を勢いよく、シグナムが開けた。
「うわっ!」
主の少女は、車椅子の上で、手を上にあげる。
その主の前に簀巻きにされた金髪の少女が、ザフィーラの手でドカッと置かれた。
主の少女とやさぐれフェイトの目が合う。
「な、何やこれ?」
「何なんだろうね……。」
三白眼の下にクマのある目に、主の少女は少し怯えていた。
第5話 やさぐれと守護騎士の主
最近、お出掛けの多い守護騎士達に寂しく思っていた主の少女。
そして、今日は、朝から四人とも出掛けると聞いていた。
しかし、帰って来たと思えば、簀巻きの少女を担いで来た……。
「これは、誘拐と言うんやないか?」
「そうではありません。
これは……。」
説明しようとしたシグナムが止まった。
何と言えばいいのか?
思考中のシグナムに、やさぐれフェイトが口を挟む。
「簀巻きにした時点で、誤解を生んだんじゃないの……?」
「何で、簀巻きなんよ?」
「ここに連れて来るのに暴れたので。」
「やっぱり、誘拐やないの!」
「そうではなく……。
コイツは、主の病を治せるかもしれない生き物なのです。」
「コラ……。
あたしを人間じゃないように言うな……。」
「?」
主の少女が首を傾げる。
そして、目の前で、簀巻きがバリバリと引き千切られる。
やさぐれフェイトが、主の少女に近づく。
「お願い、靴脱いで。」
「ごめん……。」
靴を脱いで、玄関に置くと再び近づく。
やさぐれフェイトは、クマのある三白眼の目で主の少女を見下ろす。
「どう……?」
「どうって……。」
「楽にならない……?」
「そんなこと言われても……。
・
・
ん?」
主の少女は、車椅子に腰掛けたまま、手で腰の下辺りを擦る。
「気のせいか……。
何や、圧迫感が消えたような……。」
「効いてるんじゃないの……?」
やさぐれフェイトは、主の少女を指差して守護騎士に振り返る。
シャマルが心配そうに、主の少女に話し掛ける。
「はやてちゃん。
どんな感じですか?」
「どんな言われても……。
言い難いわぁ……。
・
・
何かが中和してるみたい……って、言うて分かる?」
シャマルが嬉しそうに手を口に持って行く。
ヴィータが、やさぐれフェイトを突っつく。
「今度、離れてみろよ。
そうすれば、分かるから。」
「いいよ……。」
やさぐれフェイトは、主の少女の車椅子持つ。
そして、力強く玄関の反対方向に押した。
主の少女が悲鳴を上げて離れていく。
ヴィータのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。
「はやてに、何してんだよ!
お前が離れろよ!」
「だって……。
車椅子なんて初めてで……。
テンションが上がった……。」
「馬鹿か! お前は!
はやてが怪我でもしたら、どうすんだよ!」
「大丈夫……。
シャモルが治す……。」
「シャマルです!
そして、何で、私の能力を知ってんですか!」
「簡単……。
RPGで僧侶は、必須……。
このパーティで、癒し系の性格は一人しか居ない……。」
「「どういう意味だ。」」
シグナムとヴィータから、何故か突っ込みが入った。
ザフィーラは、呆れて忘れられている主の少女に確認を取りに向かっていた。
「主、気分は?」
「前に戻った感じ……。
確かにあの子の近くに居る方が楽みたいや。」
「そうですか。」
ザフィーラが、車椅子を押して玄関に戻る。
「どうやら、効果があるのは確かなようだ。」
「じゃあ、コイツをはやての側に置いとけばいいんだな?」
「そうなるな。」
主の少女が質問する。
「ところで。
この人、どういう人なんや?」
「…………。」
守護騎士達は、説明に困った。
やさぐれフェイトのことを説明するということは、自分達のしていたことを話さなければならない。
それは、主の少女を悲しませることになる。
なのに……やさぐれフェイトが話し出した。
「あたしが説明してあげる……。」
「「勝手に話すな!」」
「何で? ええやない?」
「いや、しかし……。」
「はやて、それは……。」
「安心しろ……。
あたしは、こう見えて説明の達人だ……。」
((((嘘だ……。))))
主の少女は、やさぐれフェイトの話に耳を傾ける。
「まず、自己紹介を……。
やさぐれと呼ぶといい……。」
「やさぐれ? やさぐれちゃん?」
「うむ……。
君は……?」
「八神はやて、言います。」
「了解……。
じゃあ、説明する……。
実は、あたしには癒しの力がある……。」
「どんな?」
「近くに居ると、病気が少し良くなる……。」
「少しだけ?」
「少しだけ……。」
(微妙やな……。)
「シグナム達は、あたしを探して全国津々浦々と飛び回ってた……。」
「そうなん?」
「うむ……。
あたしは、ある金持ちに監禁されて、
汚い取り引きの材料にされていた……。
そこに正義の使者の守護騎士達が乗り込み、
あたしを助けてくれた……。
あたしは、恩返しに八神家に来たというわけだ……。」
「ふ~ん……。
明らかに嘘やよね?」
「…………。」
やさぐれフェイトが守護騎士達を見る。
「失敗した……。」
「「「「当たり前だ!」」」」
やさぐれフェイトは、頭を掻いてクセ毛を作る。
「もう、ぶっちゃけ……。
拉致された……。」
「始めに戻ったんやけど……。」
「もう、いい……。
誘拐されたことで……。
何か知らない力で、はやての体に干渉して治ってる……。」
「何で、投げやりやの!」
はやてがシグナムを見た。
「理由は分かりませんが、
彼女の力が主の病に有効なのは確かです。」
「誘拐は?」
「…………。」
「何で、黙るんよ?」
シグナムは、はやてから離れてやさぐれフェイトを呼ぶ。
「何……?」
「お前、ここに滞在可能なのか?」
「うちは、放任主義だから大丈夫……。」
嘘である。
「そうか……。
では、お前に頼っていいのだな?」
「構わない……。
あるものさえ、用意してくれれば……。」
「何だ?」
「刃牙のコミック……。
全部、揃えて……。」
「コミック?
いいだろう。」
「交渉成立……。」
シグナムとやさぐれフェイトが握手する。
シグナムとやさぐれフェイトが戻る。
シグナムがはやてに話し掛ける。
「主はやて、大丈夫です。」
「……何が?」
「彼女は、ここに滞在してくれます。
誘拐ではありません。」
「さっき話してた裏取り引きみたいの、何?」
「気のせいです。」
「…………。」
(シグナムが少しおかしくなった……。)
はやては、残りの守護騎士に振り返る。
守護騎士達は、笑って誤魔化している。
はやては、額を押さえる。
「何や、よく分からんけど……。
居候が一人増えたってことで、いいんやろか?」
「これからよろしく……。
あたしから、5m以上離れないでね……。」
「お前が、はやてから離れるなよ。」
ヴィータの言葉に他の者は頷いた。
やさぐれフェイトは、舌打ちするとポケットを漁る。
「仕方ない……。
極力努力してやる……。
・
・
あと、これ……。
悪さしないみたいだから、返す……。」
やさぐれフェイトが、ヴィータに奪ったデバイスを見せる。
「お前……。」
「約束して……。
なのはに謝ること……。
あたしが居る間に別の方法を探すこと……。」
「分かった。
約束する。」
「うむ……。」
やさぐれフェイトは、ヴィータにデバイスを返す。
(ニチャ……。)
「…………。」
ヴィータの手の中で、アイゼンとレヴァンティンが粘ついている……。
「ごめん……。
ポケットのキャラメルが溶けた……。」
ヴィータとシグナムのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。