== 魔法少女リリカルなのは A's ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==
フェイトの住んでいたマンションをなのはが訪れる。
インターホンを押すと、暫くしてプレシアがドアを開けた。
「いらっしゃい。
フェイトかしら?」
「はい。
デバイスの修理は、まだなんですけど、
この前、襲って来た人達について分かったので。」
「報告に来てくれたのね。
ありがとう。
でも……。
やさぐれて帰って来て、
その後、出掛けてから帰ってないのよ……。」
「ゆ、行方不明ですか!?」
「多分、違うわ……。
アルフの話だと、やさぐれた時には無断で歩き回っていたそうよ。
連絡も取らない、探したくても魔力探知出来ない、
挙げ句の果てに自分から姿をくらましていたみたいだし……。」
「すごく分かります……。
やさぐれちゃん、自由過ぎるというか……。
掴みどころがないっていうか……。」
「そうなのよ。
放っとくしかないのよ。
だから、フェイトに戻った時に慰めることを考えて置かないと。」
(また、あの日々が続くんだ……。
フェイトちゃん、大丈夫かな……。)
「でも、少し困ったの……。
リンディさんから、戦った人達が闇の書っていう
ロストロギアに関わっているって。」
「ロストロギア?」
「レイジングハートのデータに、
闇の書って言われるものが映っていたんです。
赤いバリアジャケットの子の腰の後ろに。」
「それなのに……!
あの馬鹿は、ほっつき歩いているのね……!」
プレシアは、拳を握った。
なのはは、プレシアの気持ちが少し分かった。
自分も拳を握りたい気分だったからだ。
第7話 やさぐれとの生活②
やさぐれフェイトは、だらけていた。
よそ様の家で堂々と……。
ある意味、この生活は最高だった。
自分のAMFのお陰で、やりたい放題出来る。
三食昼寝付き。
「あたしが居ないと、はやては病気になる……。
諂って敬え……。」
「お前な……。」
やさぐれフェイトは、刃牙のコミックを片手にジュース。
「もう、家に帰りたくない……。」
「お前にAMFがなければ、
直ぐにでも追い出すのだがな。」
「帰ってもいいよ……。」
「弱みに付け込んで……!」
拳を握るシグナムを見て、やさぐれフェイトは、邪悪な笑みを浮かべる。
そして、はやてに振り返る。
「で……。
はやての体調の方は……?」
「凄く調子ええよ。
検査の方も、いい結果だって言うてたよ。」
「足は動くの……?」
「さすがに直ぐには……。
でも、感覚は戻って来てるんよ。」
「一応の効果はあったんだ……。
あたしの癒し効果……。」
「毒がひっくり返ったんやろか?」
「なら、果糖を溶かした水をバケツ一杯……。」
「八神はやて復活!
八神はやて復活!
八神はやて復活!」
ヴィータが復活コールを叫ぶ。
やさぐれフェイト→はやて→ヴィータ 経由で、刃牙を読み回しした結果であった。
「やらんから!」
「え~!」
「ノリの悪い……。」
シグナムがヴィータに話し掛ける。
「ヴィータ……。
いつのまに、やさぐれと打ち解けたんだ?」
「コイツ、結構、ネタを持っててよ。
意外と面白いんだよ。
はやてに頼んで、私も古本屋の全巻セットを買って貰っちゃったぜ。
えへへ……。」
「馬鹿か!
と、いうか、お前か! あれは!」
シグナムの指差す先には、新たに増えたドラゴンボール。
「今度は、幽遊白書を揃えるといい……。」
「それ以上、漫画を増やすな!」
「そう言うな……。
シグナムにも買って来た……。
『るろうに剣心』全巻セット……。」
「要るか!」
「シグナム……。
要らないんか……。」
はやてが悲しそうに俯いた。
「主はやてが買ったのですか!?」
「喜んでくれるかと思ったんやけど……。」
はやてが口に手を当て、目を伏せる。
「泣かした……。」
「泣かしたな。」
「え、いや、これは……。」
「…………。」
シグナムは、『るろうに剣心』全巻セットを手に取る。
「……読ませて頂きます。」
「ほんま?」
「はい。」
はやては、笑顔を浮かべる。
ヴィータとやさぐれフェイトが親指を立てる。
「ナイス演技……。」
「ナイス演技!」
「何?」
シグナムが、はやてに振り返ると、はやてが口に指を立ててた。
「どうやら……。
主はやても一緒に、お説教が必要なようですね……。」
「…………。」
シグナムのお説教タイムが始まった。
…
台所のテーブルで、シャマルとザフィーラがシグナム達を見ている。
「随分と打ち解けたわね。」
「打ち解けたのか?
悪影響が出ていないか?」
「……許容範囲ということで。」
「まだ、解決法が見つかっていないというのに……。」
「でも、元気は出たみたいですよ? 皆……。」
「まあ、やる気がなければ何も出来ぬからな。
それに今までの主に気を遣った行動よりも、心に躊躇いがない……。」
「そうね。」
シャマルは、生活が少し前に戻ったような気がしていた。
そして、視線の先のシグナムが、少し活き活きとして見える。
やさぐれフェイトに、盛大なグーを炸裂させるシグナム。
(この光景が増えたせいかもしれない……。)
もの静かだったシグナムに、新たな属性が芽生えようとしていた。
…
次の日……。
八神家の庭では、シグナムとヴィータの模擬戦が行なわれていた。
一日の中で、少しだけ感覚を養う短い時間である。
縁側の直ぐ側では、車椅子に座ったはやてと窓から足を投げ出しているやさぐれフェイトが観戦していた。
「しっかりと訓練してるんだね……。」
「皆は、騎士やからね。」
「広い庭があってよかった……。」
「こういう使い方をするとは思えへんかったけどね。」
シグナムの剣とヴィータの鉄槌が激しくぶつかる。
「やっぱり、デバイスに差があるみたい……。
バルディッシュは、シグナムの剣で切断されたのに、
ヴィータのデバイスは、しっかりと受け止めてる……。」
「戦ったの?」
「フェイトがね……。」
「フェイト?」
「近いうちに会わせてあげる……。」
「ほんま?
楽しみやわぁ。」
はやてが嬉しそうに微笑む。
そして、鍔迫り合いの音がすると、はやてとやさぐれフェイトは、視線を戻す。
視線の先で、シグナムが深く沈みこんだ。
「飛天御剣流! 龍翔閃!」
シグナムは、地面を力強く踏み込む。
レヴァンティンの峰を片手で支え斬り上げると、ヴィータのアイゼンを弾き飛ばした。
アイゼンが音を立てて転がる。
ヴィータは、無言でシグナムを見る。
「…………。」
「何だ?」
「シグナム、しっかり嵌ってんじゃないかよ!」
「え?」
「『え?』じゃねーよ!
『るろうに剣心』読まなきゃ、技の名前なんて出ないだろうが!」
シグナムは、頬を少し掻く。
「あれは……。
その……。
良かった……。」
「は?」
「今、龍巻閃も練習してる……。」
「…………。」
はやては、可笑しそうに笑っている。
「結局、同じ穴の狢か……。」
やさぐれフェイトは、やれやれと両手をあげた。
「シグナム……。」
「な、何だ!?」
(コイツも、馬鹿にする気か?)
「その剣で、抜刀術は難しいんじゃない……?」
「?」
シグナムがレヴァンティンを見る。
「騎士剣には反りがない……。
抜刀術を使うには、鞘と日本刀特有の反りが必要なはず……。
つまり、天翔ける龍の閃きを習得出来ないよ……。」
「……そうか。
・
・
レバンティンの第四の型を作るか……。」
シグナムがレヴァンティンを両手で見据えて考え始めると、やさぐれフェイトは、にやりと笑う。
そして、はやてに顔を近づける。
「聞きました……?
八神さんの奥様……。
シグナムさんったら、すっかり嵌ってしまって……。」
「何て言えばいいんや……。」
「ヴィータ……。
手本……。」
「出来ねーよ。」
「仕方ない……。
・
・
馬鹿丸出しですわね……。
お~ほっほっほっ……。」
シグナムのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。
「明らかにお前が誘導しただろう!」
「だって、漫画の技を習得した人なんて初めて見たし……。」
「っ!
……仕方ないだろう。
使ってみたら、柄を持った時よりも間合いが近い接近戦型だったのだから……。」
やさぐれフェイトは、持ち方を試してみる。
「本当だ……。
柄を握る位置に刀身が来る……。」
「私にない攻撃の間合いだった。
この事実をどう解釈すればいい?」
「それで、習得……?」
「……不本意ながら。」
「そっか……。
でもさ……。」
「何だ?」
「技の名前は、叫ばなくていいんじゃない……?」
「…………。」
シグナムは、そのことに気付くと頭を抱えて蹲った。
ヴィータとはやては、また可笑しそうに笑っていた。
…
八神家の人間は、段々とやさぐれフェイトを受け入れ始めた……。
いや、やさぐれフェイトに汚染され始めていた……。
グーの炸裂音が増え続けていく……。
そして、そんなある日の夜……。
事件が起きようとしていた。
はやてのベッドでは、はやてとヴィータが眠っている。
そのベッドの下では、やさぐれフェイトが布団で眠っている。
そして、やさぐれフェイトは、もぞもぞと目を覚ました。
「枕が柔らかい……。
眠れない……。」
辺りを見回すと丁度いいもの。
「闇の書があった……。」
柔らかい枕をポイッと投げ捨て、闇の書を枕にする。
「この固さだ……。」
そして、一時間後……。
エラーコードを吐き続けていた闇の書に異変が起きた。