== 魔法少女リリカルなのは A's ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==
八神家で闇の書が壊れたことなど知らず、時空管理局では闇の書の調査が進んでいた。
そして、その情報は襲われたなのはにも知らされ、それを知らせに今日も訪れたテスタロッサ家……。
「貴女も大変ねぇ……。」
「本当は、やさぐれちゃんに知らせないといけないんですけど……。」
「帰って来てないのよね……。」
プレシアを前に、なのはは、お茶を啜る。
最近、なのはとプレシアの距離は、妙に近づいている。
被害者意識の共有だろうか……。
「プレシアさん。
やさぐれちゃんが帰って来た時に伝言して貰いたいので、
聞いて貰っていいですか?」
「聞かせて貰うわ。
そして、本当にごめんなさい……。
ちゃんとシメとくから。」
「にゃはは……。」
(やさぐれちゃん……。
怒られるんだろうな……。)
プレシアの笑顔に浮かぶ青筋を見て、なのはは、そう判断した。
第9話 闇の書の秘密
なのはの説明には、プレシア以外にアルフとアリシアも参加していた。
なのはが話し出す。
「上手く説明出来なかったら、ごめんなさい。
なるべく頑張ります。」
「大丈夫よ。
分からないところは、知識で補うから。」
「お願いします。
・
・
えっと、ですね。
リンディさんのお子さんで、クロノ君っていう執務官の男の子と、
一緒にジュエルシードを集めてたユーノ君の調査の結果です。
まず、クロノ君のお話から……。」
「ええ、分かったわ。」
「クロノ君の話ですと、闇の書は、凄く危ないものみたいなんです。
魔力蓄積型のロストロギアで、
真の力を発揮すると次元干渉レベルの巨大な力が働いてしまうみたいなんです。」
「また、厄介なロストロギアね……。
発動の条件は?」
「全ページである666ページが埋まったらです。」
「ページを埋めるの?」
「はい。
魔導師の魔力の根元となるリンカーコアを食べて、
ページを増やしていく……みたいです。
それで、私とフェイトちゃんが襲われることになりました。」
プレシアは、顎に手を当てる。
「そうか……。
リンカーコアの純粋な魔力量なら、貴女達は……。」
「はい。
だから、プレシアさんもアルフさんも気をつけてください。」
「わたしは?」
アリシアが自分を指差す。
「ごめんね。
アリシアちゃんも。」
「うん。」
(アリシアの魔法資質は低いから、
襲われることはないでしょうね……。)
プレシアは、なのはが省略した理由を自己解釈する。
「忠告、承ったわ。
じゃあ、貴女達を襲った魔導師に気をつければいいのね?」
「はい。
でも、大丈夫ですか?
リンディさんは、時空管理局で保護することも提案してくれていますよ?」
「確かに……。
アリシアを庇いながら戦うというのも……。」
アルフは、少し困った顔になる。
「私は、ここを離れられないよ。
フェイトは、私のご主人様だから。」
「そうですよね……。
正直言うと、私もフェイトちゃんが気になって……。」
(この子、本当にいい子だね……。)
アルフは、入れ替わってしまっている擬似人格と比較した。
プレシアが話を続ける。
「貴女達を襲った魔導師が闇の書を完成させようとしているということは、
その魔導師達が次元干渉レベルの何かをしようとしているのかしら?」
「それが少し違うみたいで、私達を襲ったのは、
闇の書を起動した時に現れた、主を守る守護騎士さん達みたいなんです。」
「闇の書の機能?」
「はい。
・
・
『本体が破壊されるか所有者が死ぬかすると、
白紙に戻って別の世界で再生する。
様々な世界を渡り歩き、自らが生み出した守護者に護られ、
魔力を喰って永遠を生きる……。
破壊しても、何度でも再生する。
停止させることの出来ない危険な魔導書……。』
だそうです。」
「本当に厄介ね……。」
「でも……。」
「?」
「その守護騎士さん達をやさぐれちゃんが撃退して……。
二人からデバイスを取り上げて……。」
「何をしたのよ……。
あの子は……。」
「そのせいで、あれ以来、闇の書の蒐集は行なわれていないみたいです。」
「役には立っているのね……。」
「はい……。」
役に立っているのか役に立っていないのか分からない、やさぐれフェイト……。
微妙に空気が緩んだ場を仕切り直すため、全員がお茶を啜った。
…
お茶菓子に煎餅が出され、少し休憩を入れる……。
そして、休憩が終わり、説明が再開される。
「後は、ユーノ君の話だったわね?」
「はい。
ユーノ君は、時空管理局の無限……書庫?」
「合っているわよ。」
「すいません。
その無限書庫で、闇の書の経歴を調べてくれたんです。
元々は、
『各地の偉大な魔導師の技術を収集し、
研究するために作られた収集蓄積型の魔導書』
夜天の魔導書というのが本来の名前です。
さっき、少し話したように宿主を変えて旅する魔導書なんですけど、
歴代の主の誰かが夜天の魔導書を改竄してしまって、
収集蓄積型の魔導書が危険なものになってしまったみたいです。
・
・
それに、他に心配なことも……。」
「心配?」
「その闇の書……。
一定期間、頁の蒐集がないと持ち主自身のリンカーコアを侵食しちゃうって……。」
「随分と悪質な改竄ね。
頁の蒐集をしないとリンカーコアを侵食するんじゃ、
持ち主は、蒐集せざるを得ないじゃない。
しかも、蒐集が完成すれば、次元干渉レベルの力の発揮……。
・
・
そして、貴女の心配は、蒐集のない状況で、
苦しんでいるかもしれないリンカーコアを侵食されている持ち主さん?」
「あの、その……はい。」
(少し前なら、『甘いことを言って』と笑ったところだけど……。
今は、その甘さも受け入れられる……。)
プレシアは、微笑む。
「私は、アリシアとフェイトのお母さんだから、
ここを離れられないわ。
そして、娘もその友達も傷つけると言うなら、
再び戦うことになるでしょうね。」
「プレシアさん……。」
「無理をする気はないけど、協力はしてあげるわ。
だから、時空管理局に言って置いて……。
『次に戦闘が起きた時、私が時間を稼いであげるから、
さっさとサポートしに来なさい』って。」
アルフがプレシアを不思議そうな顔で見る。
「いつになく、やる気じゃないか?」
「大事な娘を”馬鹿にされた”ツケは大きいのよ。」
「やさぐれのことを言ってんのかい……。」
「そうよ。
あんないい子が馬鹿になったのよ……。」
アルフは、なのはに向かって両手を軽くあげる。
なのはは、それを見て可笑しそうに笑った。
…
一方の八神家……。
闇の書とか管制人格とかが呼び難いと管制人格に名前を付けることになっていた。
はやてが管制人格に新たな名前を与えていた。
「強く支えるもの 幸運の追い風 祝福のエール……。
・
・
リインフォース……。」
「マジで……。」
「変やった?」
「あたしは、なのはにやさぐれと名付けられたのに……。
不公平だ……。
贔屓だ贔屓だ……。」
(恐ろしいほど、しっくり来る名前だと思う……。)
新しい名前に管制人格は、嬉しそうに微笑む。
とりあえず、これで名前を呼ぶ時に困ることはない。
そして、名前を付け終わり一段落すると、シャマルがはやてに話し掛ける。
「はやてちゃん。
少し早いですけど、お風呂入っちゃいませんか?」
「うん、ええよ。」
「あたし、脱衣所の前に居るから……。」
「ありがとな。」
はやてがシャマルと風呂に入ると、直ぐにシグナムがやさぐれフェイトに話し掛けた。
「実は、お前にお願いがあってな。」
「ん……?」
「闇の書が完全に壊れたか確認をしたいのだ。
主はやてと闇の書から5m以上離れて、
魔力の接続がないかを確認したい。」
「それで、急にお風呂に誘ったのか……。
じゃあ、リインフォースにも事情を話して、
確認するのを手伝って貰う……。」
リインフォースがシグナム達に近づく。
「話は聞いていました。
闇の書との接続の確認は、私が行ないます。」
「分かった……。
じゃあ、あたしはテレビのところまで行く……。」
やさぐれフェイトがヴィータの見ているテレビの前に仁王立ちした。
ヴィータとやさぐれフェイトの取っ組み合いが始まった。
魔力キャンセルされて、通常の攻撃しか出来ないヴィータにやさぐれフェイトのパロスペシャルが極まる。
「完全に壊れてしまったようです。
主と守護騎士からの接続を受け付けたはずなのに、
一向にエラーの無限ループから復帰しません。」
「どうするべきか……。」
「このままですと、次のことが考えられます。
主の情報すら受け付けませんので、
持ち主の死に転生するという機能が発動しません。」
「今回の主の願いを考えると、
このままで問題ないのだがな。」
「一緒に仲良く暮らすこと……ですか?」
「ああ。
一番の問題は、主に掛かっていた呪いだったのだが、その心配もなくなった。
主の願いを叶えるだけなら出来るということだ。」
「そうですね……。
しかし、我々は、主亡き後、どうなるか……。」
「問題は、そこだな。
今のままで、守護騎士システムは動作している。
そして、お前も闇の書から抜け出している。
・
・
このままという訳にはいかないだろうか?」
「このまま……。」
ヴィータの逆襲。
やさぐれフェイトが技を解いた瞬間、ドロップキックを炸裂させる。
続いて、ギロチンドロップを炸裂させた。
「それは、我々の目的の放棄ではありませんか?」
「それなのだが……。
我々の本来の目的とは、何なのだろうか?
闇の書の蒐集だけが目的だったのだろうか?」
「シグナム……。」
「すまない。
詰まらないことを聞いた。
私は、主はやてが健康な体を取り戻して、
望む生活が出来ればそれでいい……。」
「そうですね……。
戦い続けて来た旅を、
ここで終わりにしてもいいのかもしれません。」
「主はやての願いは、我々の願いでもあるのかもしれない……。」
「ええ……。」
やさぐれフェイトは、トリケラトプス拳の構えを取る。
ヴィータも、トリケラトプス拳の構えを取る。
お互い床を蹴る。
交差する両手、激突する頭。
やさぐれフェイトとヴィータは、床に突っ伏した。
「私達の旅の終わりか……。」
シグナムとリインフォースがリビングに目を移す。
視線の先には、でっかいコブを作って倒れる二人……。
「……締まらんな。」
「ええ……。」