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No.26956の一覧
[0] 【ネタ】とある騎士(ナイト)の七罪装備(グラットン)【習作】[オニオンソード](2011/05/18 23:19)
[1] BA・仕様変更・近況報告 [オニオンソード](2011/05/19 01:13)
[2] 第1話 上 #1改~#10[オニオンソード](2011/05/18 23:05)
[3] 第1話 中 #11~#14[オニオンソード](2011/05/23 22:39)
[4] 第1話 #15 New! [オニオンソード](2011/06/05 20:43)
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[26956] 第1話 #15 New!
Name: オニオンソード◆3440ee45 ID:fb0bbf73 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/06/05 20:43
「ほむ……」


明りの落とされた風紀委員活動第一七七支部には、今はブロントさんしかおらず、
ブロントさんはあてがわれた部屋の布団で横になり、窓から夜空を眺めていた。
今は鎧を脱いで楽な格好をしている。
用意されているのがベッドじゃなくて良かったなベッドだったらお前小さくて寝れにいぞ。

ブロントさんは犯罪者ではないのだが、固法が言っていたように、
外部の人間を支部にそのまま置いておく訳にはいかないので、
ブロントさんが宿泊する部屋のカギはきっちり外側から掛けられている。

こればっかりは黒子や初春が温情を掛けて外すなどということは出来ない。

それでも、水や食料は風紀委員の非常食から提供してくれたし、トイレは備え付けられている。
軟禁状態とはいえ、通常この部屋を利用し縄に繋がれていなければならない人間に比べれば、良い待遇と言えよう。


「そろそそ食事の時間だな……」


初春から暇つぶし用にと与えられた情報端末で時間を確認する。
だが、ブロントさんは食事をする気にはなれなかった。
食事効果が得られそうにないとか、そういう効率的な問題ではなく、食欲がないのだ。


「………………」


寝返りを打った際に、手の中にある情報端末が床に転がる。
ブロントさんは先ほどまで、ネットに繋いでいた。
初春が帰る前に、黒子にしていたある報告を、自分の目で確かめるために。

…ブロントさんの名誉のために言うが、決して盗み聞きをした訳ではない。
ブロントイヤーは地獄耳、聞きたくてきくんじゃない聞こえてしまうのがブロントイヤーだ。


「ヴァナ・ディール、ジュノ大公国という場所はこの世界には存在しません。
 少なくとも、ネットの海をさらってもそれらしき場所の情報はどこにもありませんでした。
「ブロントさんが持っていたギルという通貨、写真を撮って情報を募ったりしてみたのですけれど……
 今のところ、誰も見たことも聞いたこともないみたいです。
「ブロントさんが話してくれたことは、ブロントさんがいた世界は……この世界にはどこにもないんです」

コノセカイノドコニモソンザイシナインデス。


…その通りだった。
ネットのどこにも、ヴァナに関する情報はない。

口では裏世界に来てしまったのかよと言ってはいたものの、ヴァナと学園都市は地続きで同じ空の下にあると、
そう、心の底では思っていたのに……
この部屋の鉄格子がはめ込まれた窓から見える月も、星も、ヴァナのそれとはまるで違う――

リアルが、最強のプレッシャーとなって、圧し掛かってくる。
ダイヤモンド・パワーの精神力の持ち主でなければ耐えられない程の、プレシャーだ。


「おれは、【かえれ】るん、ですかねぇ……」


黒子と初春は、それでもブロントさんを決して嘘つきだと言わなかった。
本音では多少疑いはしているだろう、が、ブロントさんにはそれでも嬉しかった。
それでも、それでも……
見ず知らずの地で親切にしてくれる人間がいる、そんな幸せがあったとしても――


「………………」


こんなにも幸せなのに、ブロントさんは、こんなにも1りだった。

ただでさえネガり易い状態なのにこのまま起きていると、
「あのおかしいヒュム♂♀にカカッ割らなければ良かったんですかねぇ」とか、
「なんでおれがこんな目に会うのあk理解不能状態」とか、
ネガが更に加速してしまいそうだったので、ブロントさんは掛け布団を引っ被って寝てしまうことにした。

心身ともに疲れていたのか、布団の中の優しい暗闇の中だと、どんどん、瞼が落ちてくる。

ブロントさんの意識は、ゆるやかにシャッタアウトされていった――




――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――


―――――――――


―――


……トさん

おいィ・・・おいィ・・・

……ロントさん!

おいィ・・・おいィ・・・?

「ブロントさん!」

「おいィ!?」


名前を呼ばれて、ブロントさんは飛び起きる。
視界がぼやけるので、目を擦ろうと顔に手をやると、なぜか手には籠手が着けられていた。
否、籠手だけではない。
外したはずの装備はきっちり装備しているし、というかブロントさんは布団で横になっていたはずなのだが、
いつの間にかテーブルに突っ伏して眠っていたらしい。

そこは、見知らぬ天井のある一七七支部の一室ではなかった。
船乗りや商人、そして冒険者で賑わう、見慣れたはずの酒場なのだが、さっきまでの状況を踏まえると、
とてもではないが自分が此処に居るという実感を、ブロントさんは持つことが出来ない。


「…こ、此処は、どこなんですかねぇ?」


おずおずと、ブロントさんがは自分が突っ伏していたテーブルに同席している紫プラモと目線付けた黒装束に――
旧知の仲間に、自分がどこにいるかを尋ねた。

呆れが鬼なっていた竜騎士は、妙な質問をするブロントさんを心配し、
同じく呆れが鬼なっていた忍者は、その呆れの色をますます深くさせた。


「え? ただの寝落ちだと思ったんだが、大丈夫かい?
 体調が悪いなら無理をしない方がいい^^;」

「はっ…!
 そいつはバカだから体調なんて崩さねえよ。 おおかた――
 「ナイトは引っ張りだこだからこう誘いがあっては一人の時間も作れない(リアル話)(キリッ」
 とかなんとか妄想じみた夢でも見てたんだろうさ。
 ナイトは玉ねぎマラソンでもやってるのがお似合いだぜ」


紳士的な振る舞いをする竜騎士に、憎まれ口を叩く忍者。
間違えようもない、ブロントさんの大切なフレだ。

此処は、そう、バストゥーク港にある《蒸気の羊亭》。
ブロントさんがフレ達に声を掛けて夕食を一緒に取ろうと誘ったのだった。


「リューサン、忍者……なんでもにいぞ。
 忍者の言うとおりちょとリアルな悪夢(ユメ)をジャスト1分間見てただけからよ英語で言うとデイドリーム」

「夜なのに白昼夢とか聞いたことないんで抜けますね^^;
 ったく、人を呼びつけといて寝落ちとは良い根性してやがる。
 夢もキボーもなくしてやろうか」

「まあまあ、良いじゃないか、こうして起きてくれたんだし。
 俺はブロントさんがこうして夕食に誘ってくれるのはありがたいと思っているよ。
 皆で食事をするのは賑やかで楽しいからな」

「あめえ、リューサンはブロントに甘すぎんだよ。
 ガツンと言ってやらねえとこの馬鹿が永遠に調子に乗り続けるだろうが。
 だいたい、賑やかってレベルじゃねえぞこの集まり。 やかましいだけだ」

「そう言う割には、忍者は毎回参加してるじゃないか」

「ばっ……! そりゃあ、あれだよ、参加しねえとコイツがうるせえからな。
 顔出した方が効率が良いんだよ!」

「そうか、じゃあそういうことにしておくのである^^」

「………………」

「……なんだよ、黙りこくっちまってきもちわりいな。
 ブロント、いつもはテメエが騒音の源だっつーのによ」

「本当に大丈夫かい、ブロントさん?
 どうにも様子がおかしいぞ?」

「…いや、本とウニなんにもにいだよ」


一度はあきらめ顔になったがブロントさんだが、バストゥークにいることが証明された以上ヴァナに帰ってこれたのは一目瞭然で、
そこには悲しみとかが残らなかった。
ブロントさんは今、帰るべき場所にいる、こんなに嬉しいことはないだろう。

そしてその嬉しさを加速させるように、ぽこじゃかとフレが集まってくる。


「あらあら^^^^♪♪
 なんだったら^^♪私がケアルしてあげましょうか?^^^^^♪♪♪」


^^♪を振りまきながら、白魔道士のヒュム♀がブロントさんへにこやかに治療を申し出てきた。
ありがたい申し出のはずなのだが、ブロントさん3りは一気に戦慄した表情になる。


「お前にケアルさせたらなに要求されるかわかんねえだろうが!」

「ヴァナのブラックジャックといったところだろうか;」

「【ケアル】【せっかくだけど遠慮します】。
 おもえの治療を受けるまでもにいから心肺すんな、いやしないでくだちい;;」


それもそのはず。
彼女―臼姫は、初心者には優しいのだが、廃人相手には容赦なし。
回復でも頼もうものなら、莫大な報酬を要求され、支払いを渋れば命ロストは必至。
かくも恐ろしい臼魔道士なのである。


「あら残念^^^^♪♪♪♪
 でもそうね^^♪♪とりあえずお腹が膨れたら治るんじゃない?^^^♪♪♪」


彼女がそう言うと、両手剣を背負ったナイトのヒュム♂が、カカッwwとトレイを持って現れた。


「今ここにwwww西京モテ期のwww俺様wwwww後輪wwwwww
 きたwww料理きたwwメイン料理キタ━━━━(゜∀゜)━━━━wwwww
 こwwれwwでww勝つるwwwwww」


見た目は金髪イケメンだというのに、喋ると残念な草植系男子・内藤がいつもどうり草を生やしていると、
後ろから同じようにトレイで料理を運んできたシーフのエル♂が軽く内藤に蹴りを入れた。


「wwオウフwwwwww」

「いいからwwwお前は黙って運べよwwww」


更に同じく料理を運ぶ黒魔道士のタル♂が、それを見てゲラゲラ笑う。


「つーかwwお前の運んでんの《蒸留水》だろがwwwww
 まあww水がねえとwwパンなんてww食えたもんじゃねえからwwwwwある意味メインだけどよwwww
 ・えちょ 水が主食とかないわーwwwどんだけ赤貧だよwwww修正されてwwwwww
 ミスwwwwwティックアークwwwって良ゲーだよねwwww」

「あんたたちもさっさと運びなさいよ~^^♪♪♪♪」

「wwww……はい」
「wwww……はい」

「うはwwwwwwwwwwwwおkwwwwwwwwwwwwww」


ナイトの内藤、白魔の臼姫、シーフの通風、黒魔の墨樽――
彼らは、戦死がリーダーを務める、《LS「Boooooooomerang」(ブーメラン)》というグループの一員である。
内藤、通風、墨樽たちがつるんで馬鹿をやり、臼姫はその暴走を抑えてまとめ上げるという間柄にある。
内藤は常にTP上昇中の暴走状態であるため気にもしないが、痛風や墨樽たちは臼姫に頭が上がらず、
今もこうして彼女に良いようにこき使われてしまっている。


「お、料理が来たな。
 これからはいただきますを言わずに料理に手を漬けるやつが悪者でFA!」

「なんもしてねえのに仕切るのだけは立派だなwww
 流石ランク⑩だぜwwwww」


「さっきまでグースカ寝てた癖によwww」と、ブロントさんに呆れる通風に、汚い忍者が賛同する。


「調子が戻ったらこれだからな。
 コイツにゃあ心配するだけ無駄なんだよ」

「ははは、なんともないようならそれでいいじゃないか。
 皆元気が一番なのである^^」


リューサンがフォローを入れると、墨樽が口を挟んできた。


「おいww元気はいいがなwwwテメエら誰か《マトンのロースト》早く取れよwww
 タルにテーブルの上まで運べとかwwwおにちく過ぎんだろwwwww」


タルタルは非常に身体の小さな種族である為、大柄の個体でもその身長は1mにも満たない。
平均身長約170cmのヒュームが多く暮らすバストゥークのテーブルは、タルタルには椅子にでも座らない限り、かなり高いのだ。

「ああ、すまないな」と、
リューサンが料理を墨樽から受け取ろうと手を伸ばしたら、


「では、拙者に任されよwwww」


別の方向から伸びた手が《マトンのロースト》をひょいと持ち上げた。

墨樽から料理を受け取ったのはヒゲをたくわえた壮年の侍。
その姿を見て、蒸留水を置いていた内藤が草を生やしてはしゃぐ。


「遅いwwwやっと来たのかwwwww
 カイエン殿wwww重役ww出勤wwwズルいザマスwwwwwwww
 遅刻はwwwww幻獣注意www幻獣注意ですwwwよwwwww」

「やや、相済まんでござるよwwww」


カイエン殿、と呼ばれた侍は、料理を置きながら謝り、遅刻の理由を話した。


「道中にて魔物の凶刃に倒れそうになっている御仁がいたものでなwww
 つい助太刀をしちゃったのでござるよwwwwww
 慣れないうちは焦って前に出過ぎるものでござるからなぁwww拙者も昔はそうであった……www」


「まあやんごとない事情があった訳でござるwwwww」と、説明を締めるカイエン。
これは広大な心を持って許してやるべきだと、ブロントさんは思った。


「ほう、経験が生きたな。
 ちゃんと無実を証明したことで充実した食生活が認可されるぞ。
 見事な仕事だと関心はするがどこもおかしくはない」


初心者に(は)優しい臼姫もこれに賛同する。


「人助けしてたならしょうがないわね^^♪♪
 そうじゃなかったら《トゥルーストライク》の刑だけど^^^^♪♪♪」

「なんと、それは危ういところでござったwww
 いやあカイエン殿も大変でござるなwwww」

「「「「「「「お前がカイエンだろ!」」」」」」」

「かたじけのうござるwwwwかたじけのうござるwwwwww」


…なお、FFⅥにて同名のキャラが存在するが、きっとこのござるとは関係ないんじゃないかな。
グラフィックとかそっくりだけど、ううん、知らないけど絶対そう。

いつものお約束をしたところで、ブロントさんが音頭を取る。


「メンチも揃ったな…じゃああそろそろ「いただきます」すっかー」

「おー^^」
「おーwwwwww」
「おー^^^♪♪」

「わぁいww」
「わぁいwww」
「わぁい^^でござるwww」

「わ、わぁい……」


各々がそれにのり、いざ食事を始めようというその時、バーン!!と、扉が勢いよく吹き飛ばされた。


「通風???こかにゃ!? ここにいるはずにゃ!><」


扉の向こうから、狩人のミスラが飛び込んでくる。


「内藤しゃんたちはブロントしゃんたちと一緒でしゅたか(=´∇`=)」


遅れて、獣使いのタル♂がとことこと入店してきた。

ダイナミック入店したと思ったらにわかに伏字を叫ぶミスラを見て、通風がまるで孔明の人形を見た司馬懿のような声を上げる。


「げーっ 猫狩!
 ちっwww聞いた声だと思ったらwwwww糞ネカマじゃねーかwwww
 …なんでwww教えてもないのに来てんだよwwww」

「ネカマじゃないにゃ><
 ウチが通風ちんの居場所を分からないはずなんてないんだにゃ!
 通風ち~~ん><」


通風の姿を目にしたとたんにガバッと通風にすり寄るミスラ、猫狩。
そんな2りの様子を見て、内藤と墨樽が囃し立て歌う。


「ヒューッ!wwww通風熱すぎwww修正されてwwwwww
 ㍍⊃wwww蕩れてしまいそーwwwww好きだなーんてwww絶対にwwwww
 いぇーいwwwwwなぁーいwwwwwwww」

「ネカマに夢中の糞シーフwwwww発見wwww
 その愛に触れたならwwwwwwwもう後戻りなど出来ないwwwwwww
 初めての衝動に戸惑うだwwwwwけwwwwwww」

「馬鹿言ってんじゃねえ!www」


内藤と墨樽の煽りに少しむきになった通風は、猫狩を引き剥がした。


「にゃぁ~通風ち~ん><;」


通風に拒否されてしょぼくれる猫狩。
するとブロントさんが、


「気にするでにいぞネコ、あいつはちょと照り臭いだけだべ」


と、猫狩を慰め、


「うにゃ!? ブロントちん…じゃあ……」

「俺が許すぞ。
 痛風はお前にもんだからよ、好きにすろッ!」

「さっすが~、ブロントちんは話がわかるッ!
「あ、にゃー><」


そして背中を押しけしかける。


「痛風ち~~~~~~~~~~~ん!!><」ガバァ

「テメェwwwブロントwwwwwwふざけんなぁ!wwwwww」

「モテモテ凄いですね。
 モテランク⑩の人すごいなーあこがれちゃうなー」


ブロントさんなりの応援とささやかな仕返しだった。


「アホか、寝てたお前がわりいだろうが」


…まったくもって忍者のツッコミは正しかった。


「ふう…あれじゃああの2人の先行きが不安でしゅ(´・ω・`)
 ブロントしゃんの言うとおりに、通風しゃんがもう少し素直になってくれると良いのでしゅが……(´∀`;)」

「獣様殿、もう一杯いかがですかな?wwww」

「ああ、ありがとうございましゅ、カイエンしゃん(=´∇`=)」


猫狩と共に入店した獣タル、獣様は、カイエンと共に騒ぎに巻き込まれる一歩手前でカイエンの煎れた茶を一緒に啜っていた。
代わりを貰って、また一口啜る。


「だけど、急に走り出した時はまさかと思ったけど、ホントにいたのは驚きでしゅ(´・ω・`)」

「猫狩の通風を探す能力はww
 素で臼姫や獣様のシステム超越に近いものがあるよなwwww」


獣様の言葉に、暗黒騎士のヒュム♂が乗っかる。


「あ、餡刻しゃんもいたんでしゅね(´∀`)」

「ああwwwずっとwwww」


餡黒、と呼ばれたヒュム♂はいつから居たのか知らないが、どうやらずっとこの店に居たらしい。
あまりに存在感が希薄すぎて「そこにいたのにいなかった」という表情になる。
現に今も、獣様の隣に座っているカイエンは、どうやら餡黒を認識していないようだ。

というか、餡黒をそこに居ると認識できるのは獣様ともう一人ぐらいなもので、
久々に自身が認識された餡黒は大いに喜びはしゃぎだした。


「/sh ていうか久々に認知キタ―――(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)―――!!!
 なんだかな人によってはこのログだってどうせ空白にしか見えないんだろうけどさもう二度と話せないかと思ったよ!
 ちくしょう! 俺別にキャラ薄くないよなぁ!?
 一般人どころかLSメンまで俺のこと忘れたふりはするわバグ扱――」

赤魔子は餡刻に《サイレス》を唱えた。

「ちょwwwおまwwwww」
「あ。(´・ω・`)」


はしゃぐ餡黒に《サイレス》を唱えて黙らせたのは、餡黒を認識出来るもう一人、おさげのエル♀赤魔道士、赤魔子。
餡黒と一緒にこの店に来ていたのかもしれない。


赤魔子は獣様にうんざりした表情を見せた。


彼女は基本的に喋らない。
感情表現コマンドのみで、自らの意思を他者に伝える。
今のはたぶん、「まただよ(笑)」とでも言いたいのかもしれない。

餡黒は一度はしゃぎだすと聞かされる方が引くぐらいのマシンガントークで話しだす為、
彼女が先手を打って《サイレス》を掛けたのは実に賢い選択なのだが……


「おおww赤魔子殿、久しくでござるなwwww
 いきなりこんなところで魔法を放つなど、あまり褒められぬぞ?wwwwww」

赤魔子はカイエンに丁寧におじぎした。
赤魔子はひどく落ち込んだ。

「よいよい、分かってくれれば良いのだwwww幸い誰にも被害は出ておらぬようだしなwww
 赤魔子殿、赤魔子殿も宜しければご一緒に夕食は如何かな?wwwww」

赤魔子はカイエンにうなずいた。
赤魔子は喜んだ。


赤魔子は喋らないが、決して認識されないということはない。
感情コマンド/mutedを使っているわけでもないのに押し黙っていなければならなくなった餡黒は、
もう獣様と赤魔子以外には認識されないが。


「は、ははは…まただよ……(笑)」

「あ、餡黒しゃん……(´;ω;`)ウッ」


《サイレス》によってかかるステータス異常《静寂》は、《やまびこ草》という薬品で治療することが出来る。
《やまびこ草》は別段さして珍しい薬品ではなく、冒険者の必携薬と言っても良い薬品だ。
現に獣様も餡黒も、《やまびこ草》を持っている。

だが、赤魔子が餡黒に掛ける《サイレス》は、まるで《静寂》ではなく上位状態異常《沈黙》でもかかるというのか、
《やまびこ草》や《サイレナ》、《万能膏》や《万能薬》だってなぜか治療することが出来ない。
つまり、2りではお手上げなのだ。
時間が解決するのを待つ以外、手立てが無いのだ。

餡黒がアワレ過ぎて、獣様にはもう見ていられない。
餡黒を観測できる人間は、誰も居なくなった。


――――――――――――――――――――――


…しかし、フレがぽこじゃか集まってくるとは言ったがちょと集まり過ぎではないか?
登場人物がシェイハシェイハと出てくるからちっとも食事(展開)が進まないし、
キャラの濃すぎる人間が一点集中し過ぎて、各々が勝手に動くからもう集まりはしっちゃかめっちゃかだ。

此処は一つ、ブロントさんにビシッとまとめて貰おう。


「お前らいい下限食事をする気はないのか?;
 何か草原がいつまで立っても鬼の首みたいに草生やしてるが時代は進んでる。
 このままでは俺の胃が空腹でマッハなんだが?」


ブロントさんは空腹を訴えて、愉快な仲間達に食事の開始を促した。


「いや、ブロントさんはしっかり流れに乗っていたと思うんだが……」


リューサンの言うとおり、狩猫の背中を押したのはブロントさんだった。


「…俺のログにはなにもないな。
 おまえら馬鹿みたいにはしゃぎまわってるとギガトンパンチ食らったら即死で瞬殺されるぞ。
 このパンチで北海道の多くの不良を殺してきた。
 分かったらさっさと席に着くべき死にたくないならそうすべき」

「「「「「「「「hai!(www)(^^^♪♪)(でござるwww)」」」」」」」」
赤魔子はブロントさんに敬礼した。


大いに強引なところはあるのだが、やはりまぁブロントさんの統率力は鬼の力と言ったところかな。
汚い忍者以外の全員が思わず「hai!」と言ってしまっていた。

だが、まとまったところで問題がある。
汚い忍者とリューサンがそれを指摘した。


「数を増やそうがどうでもいいけどよ、席が足りねえぞ」

「確かに、料理も明らかに人数分足りてないな」


元々は8りの予定が、いつの間にやらなんの因果か11り。
行くぜ野郎どもォ!レッツパーリィ!!といくにはちょっと席も料理も謙虚すぎる。


「まあまあ、今から新しく注文すれば良いではござらんかwwww
 座席も空いておるテーブルをくっつければ良いwwww」

「それじゃあ^^♪♪♪また内藤たちに働いてもらいましょうかしら^^^^♪♪♪」

「まwwたwwwだwwwwよwwwww」


さらりと再び内藤たちをこき使おうとする臼姫。
しかし大丈夫だ、問題ない。


「でもwwみんなで力を合わせればwwwwナニもww問題wwナッシングwwww」


そうとも、彼には心強い仲間たちが居るのだから!
振り返れば、ほら――!


パーティメンバーがいません。

「うはwwwwwwおkkkkwwwwwwwwwwwwww」


通風、墨樽、猫狩、餡黒、赤魔子……
心強い仲間たち(爆笑)は陰も形もなくなっていた。


「あの、内藤しゃん、後から参加した立場でしゅし、ボクがお手伝いしましゅよ(`・ω・´)」


先ほど助けてあげられなかった友人と内藤がダブったのか、カイエンの隣で茶を啜っていた獣様が、
むん(`・ω・´)と胸を張って内藤の前に出た。


「マジで?wwww
 うはwwwwww獣様ボスケテwwwwwwwww」

「^^^^^^♪♪♪」


Usuhimeは、《スカルブレイカー》の構え。
内藤の脳天に片手棍の一撃が炸裂し、内藤は目を回した。


「うほっwwwイタイwwwwwお星さまキラキラいっぱいだずwwwwwwww
 /sh 美星ちゃんと一緒に艶体観測wwwwwww俺様の望遠鏡でwwwwww美星ちゃんの中を観測したいなwwwww
 /sh なんちゃってwwwwwwwww」

「やあねぇ、獣様はなにもしなくて良いのよ?^^♪♪♪」


廃人には厳しい臼姫も、獣様には非常に甘い。 可愛くて優しいは正義だ。
目の前で―いつものことだけど―いきなり内藤がぶっ叩かれてビビる獣様。


「あの、でも、一人じゃきついでしゅし……(・ω・`)」


一応食い下がってみるものの、


「いや、獣様は音無く茶を飲んでいれば良いぞ。
 内藤は内藤だが雁にもナイトだからよ、ナイトならソロでもこれぐらいチョロイ事(この辺の心配りが人気の秘訣)」


ブロントさんも獣様には甘かった。


「うはwwwwwwおこここkwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」


それを聞いて、未だに頭上に星を浮かべながら、内藤はふらふらと店員の元へ向かっていった。
内藤がなにを考えているかなど推して測る事も出来ないが、とりあえず本当に自分だけで料理を追加しに行ったようだ。

獣様は、「本当に手伝わなくていいんでしゅか?(´・ω・`)」と、ブロントさんに尋ねようと思った。
しかし――


「じゃあお前も行ってこいよ、ブロント」

「は? なんで俺が手伝うのか理解不能状態」

「《レジストスリープ》出来ずにグースカ寝てたナイトなんて内藤に決まってんだろ」

「ちょっとわずかにシエスタしただけで揚げ足取りかよ……
 また忍者の汚い工作活動がはじまったな、あもりにもひきょう過ぎる――」


ブロントさんと汚い忍者はいつも通りディスりあい宇宙の真っ最中。
獣様は、黙って席に着き、自らの無力さにしょぼくれた。

一部始終を見ていたリューサンが、そっと獣様の肩を叩く。


「獣様、俺は内藤を手伝いに行くつもりだけど……一緒に来るかな?」

「え、でも……(´・ω・`)」

「自分がどうしてもしたいことなら、反対されてもやってみた方が良い。
 獣様はどうしたいんだい?」

「や、やりましゅ!(・ω・´;) ボクも手伝いたいでしゅ!(=´∇`=)」

「そうか」


獣様の返事に、リューサンはその顔に笑みを浮かべる。


「そういうことなんだ、構わないだろう、臼姫?」

「別に^^♪♪好きにしたらいいんじゃないかしら^^^^♪♪♪
 …運ぶ途中で落としたりしたらおしおきさせて貰うけどね^^^^^♪♪♪♪」

「が、頑張りましゅ……((´Д`;)))」

「ははは、頑張らないとな、獣様」

「^^♪」
(私は別に獣様を、とは言ってないわよ^^^♪♪リューサン^^^^♪♪)


その一見微笑ましい気のする光景を見てカイエンは、「若いでござるなぁ……wwwwww」、と独りごちるのだった。

――あれ?
ブロントさんが本能的に主役タイプだったと思ったらいつの間にかリューサンが主役だった……
どういうことなの……
主役とそのライバル的立ち位置のはずの2りは未だにディスりあい宇宙だしもう『とある科学の超電磁槍(グングニル)』でいいんじゃ――


「うん?」
「あれ?(・ω・`)」
「あら?^^^♪♪」
「やや?wwww」


ブロントさんと忍者を除く4りが、ある一点を見て疑問の声を上げた。
その視線の先では、数人の冒険者が、なにやら揉め事を起こしているようだが――


――――――――――――――――――――――


内藤が臼姫に《スカルブレイカー》をくらった時ぐらい――

ブロントさんたちが陣取っているテーブル群から少し離れた座席にて、一組の男女が食事をしていた。


「あの一帯なんなんですかー?
 さっきから、sayやらshoutで騒がし過ぎるじゃないですかー?」


どうやら、片割れのヒュム♀忍者・ちるちゃんは、ブロントさんたちが騒がしいのがお気に召さないようで、


「よしくん、ちょっと文句いってきてくださいよ」


同席しているヒュム♂侍に、そんなことを言う。


「アタッカーとして誘われたからにはしょうがありませんねww」


なにもしょうがなくない気がするのだが、しょうがない、のだろうか。

Yoshihiroの《黙想》!
よしくんはリゲイン効果を得た。


「/sh 【はああああああああああああああああ《黙想》!】
 /sh どこの誰かは知りませんけど、【天に帰る時が来たようだな!】」


《黙想》マクロを叫び、長弓・《重藤弓》を取り出すヒュム侍♂・よしくん。
騒がしくしたって理由でいきなり刃傷沙汰とかちょとsYレならんしょこれは……
誰か男の人呼んでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!


「ファイナルそこまでだ」


地の文の祈りが天に届いたのか、よしくんが矢に手を伸ばしたところで流石に見かねたのか、
一人静かに飲んでいたエル♂ナイトが2りを止めに入った。
ああヒーローは本当に偶然常に近くを通りかかるもんだなと納得してしまう。


「酒場とは、冒険者がファイナル疲れを癒すファイナル憩いの場所だ。
 彼らはファイナル少しいき過ぎだがファイナル正しい使い方をしている。
 ファイナル静かに飲みたいならば《音楽の森レストラン》あたりをファイナルおススメしよう。
 此処でファイナル無粋な真似をするのは止してもらえないか?」

「はー?
 あなた初対面に向かっていきなりファイナル無粋とかなにさまのつもりなんですか?
 ハラスメント行為とかんじました」

「ファイナル違う。
 注意と忠告であって、キミたちにファイナルハラスメント行為をしようとした訳ではないんだ。
 すまない、オレの言い方がファイナル悪かったのなら謝ろう」

「謝って済むなら警察はいらないっていうwwwww
 ハラスメント行為と感じてしまったのですから、慰謝料を私たちにくださいね^^;」


ファイナル真摯な対応をするファイナル紳士なエル♂ナイト、ファイナルタツヤさん。

だが、ちるちゃんとよしくんはファイタツさんにご立腹のようだ。
このままなぜか慰謝料を請求されてしまうのだろうか?


『そんなヤツらには千の言葉より残酷な俺という説得力』


ファイタツさんのピンチに、突然何者かが蝶のように舞いながら割り込んできた。
それは《フォースアーメット》という鉄仮面で顔を隠し、《エルヴジレ》に《ピスケースサブリガ》という露出度溢れる装備を着こなす、
セクスィーでいかにも伊達ワルそうなエル♂だった。

…ちなみに上記にセリフらしきものが書いてあるが、伊達ワル男は語らない。
ただその美しき舞いが観る者にそう訴えてくるのだ。


「キミは……?」


ファイタツさんが突然の闖入者に驚いていると、


赤魔子はファイナルタツヤをつんつんつついた。


背中をつんつんと突かれた。
振り向けば、そこにいるのは内藤の前から姿を消した赤魔子だった。


赤魔子は楽しげにステップを踏んだ。
赤魔子はファイナルタツヤを賞賛した。

「…キミたちはオレにファイナル賛同してくれるのか?
 ……そうだな、ファイナル正義の心を失わなければ説得を出来ないはずはない!
 見知らぬ賛同者よ、ありがとう。 ファイナル感謝する」

「…なんでそれで意思の流通ができるんですかー?」


おそらくファイタツさんの彼らの意思に対する解釈は正しいのだろうが、第三者から見れば、
ひたすら踊る人間や感情表現コマンドを連発するだけの人間と意思疎通するという奇妙な光景しか見えない。

ちるちゃんがジト目でファイタツさんたちを見る気持ちも分からなくはなかった。


「間違えなくへんなひとたちとかんじますし。
 よしくん、やっぱりこの人たちの撲滅しますからよろしくですしおすし」

『大人の淫靡な夏果実はガキのクチには合わねぇ。 
 来いよ。 俺の吐息は子守唄。 黒に抱かれて、クレバーに眠りな』


変人駆逐のために、片手刀・《千手院力王》と《不動》を取り出すちるちゃん。
伊達ワル男・ヴぁーんさんは蜂のように踊りながら、腰に提げた2本の片手棍・《チャームステッキ+1》を抜くことでそれに応える。


赤魔子は気合いをいれた!!


赤魔子もやる気まんまんだ。


「いや、ファイナルちょっと待ってくれ、オレはファイナル肉体言語で話をしたいわけでは――」

「ザ子供が数を増やすなんてひどいじゃないかおい!」


ちるちゃんとヴぁーんさん、それに赤魔子へ待ったを掛けようとしたファイタツさんの声をよしくんの怒号が遮った。
改めて《重藤弓》を構え直すよしくん、誰に狙いを定めようかと考えて、ふと、自分と相手の戦力を比べてみる。

純粋な戦力の数もそうだが、相手方は装備もしっかりしているし、ナ踊―いや、ナイト?―赤という、
まあ悪いというほどの構成じゃない、というか火力はあっても回復役のいないこちらより明らかに――


「……急用ができたので帰りますね^^;」

「はー!? こんな時間に用事ってありえるんですかー!?」


急用が出来てしまったのでちるちゃんを置いて戦略的撤退をしようとするよしくん。
ちるちゃんの非難も省みず長弓をしまって走り出すが、


「そうはい神埼wwwwwなんてなwwwwww」


しかし まわりこまれて しまった!
だがそれはファイタツさんでもヴぁーんさんでも赤魔子でもない。
よしくんの前に立ち塞がったのは通風だった。


「ヴぁーんさんの舞いを見ないで帰ろうなんて、そうは問屋が卸さねえよwwwww
 絶やしちゃあならねえのさwwwこの美しき流れをなwwwww」

「なにお前加わっちゃってんの?wwwバカなの?www氏ぬの?wwww
 めんどくせえことしてんじゃねーよwwwwww」

「にゃにゃにゃ。 ヴぁーんちんだにゃ、ひさしぶり~><」

『世代を超えて受け継いだ黒騎士スピリッツ。
 お前ら、自分という「トレジャー」は見失わないでいるか?』

「はいww心に抱いたブラックダイヤモンドは砕けませんwwwwww」

「まっくろく○すけにゃ!><」

「…wwwwなにこれwww全然ついてけねえんだけどwwwwwwww
 ・えちょ キャッチコピーでwwwww会話してんじゃwwwwねえよwwwww
 あとジ○リはwwwwwやめテ!wwwwwwwうぇwwwww
 ミスwwwwwティークってwwww劇場版だとなんでwwww裸なのかな?wwwww」


ヴぁーんさんと通風は、通風がサポ踊時代に師弟関係だったりする。
扱き使われるのが嫌で逃げていた通風だっが、師匠が居てはこそこそしている訳にはいかなかった。

同じく逃げていたのに通風の事情に巻き込まれた墨樽。
ひたすら通風に付いていく猫狩。
なんとなくフラフラしてたらファイタツさんとヴぁーんさんが面白そうだった赤魔子。

これで計8りの冒険者がこの揉め事の中にいる訳だが、こんな大人数の揉め事に、
他の利用客の目に留まらない訳がない。

リューサンたちが彼らを発見したのは、ちょうどこれぐらいの時だった。


「おいwwwwwww臼がwwこっち見てwww笑ってるぞwwwwおいwww
 あーあww糞シーフのせいでwww撲殺確定だよwwwwバカ野郎wwwww
 もうどうにでもなーれwwwwよしwwwお前らwwwwケンカしろwwwww」

「通風ちんの敵はウチの敵! やーってやるにゃー!><」


墨樽はやけっぱちになってロッドを構え、猫狩は事情を聞かずに敵対姿勢に入った。


「って訳だからよwwwww手ぇ貸してやるよパラ忍wwwwwwww」

「どういう訳だかファイナル分からん。 分からないがオレは別に――」

赤魔子はファイナルタツヤと共に気合いをいれた!!

「!? ファイナル捏造だ! オレにやる気は――」

「なにをいつまでぺらぺらくっちゃべってるんですかー?」


Chiluhaは、《烈》の構え。
ちるちゃんの二刀による攻撃が右、左、右、とファイタツさんに放たれる。


「ぐっ!?」

赤魔子はビックリした。
赤魔子はファイナルタツヤを見て慌てた。

「あちゃ、声をかけなければ良かったですかね?
 避けられたせいでダメージは浅いですし《麻痺》もしてないじゃないですかー」


WS(ウェポンスキル)が完全に決まらなかったので、ちるちゃんは唇をとがらせた。


「あなたたちを撲滅したら次はよしくんを撲滅するんですし、やる気がないならさっさとプリケツさらしてくださいよ」


そして、今度こそはと刀を振るい、もう一度ファイタツさんに斬りかかる。


『疾風をまとった男こそ夏の女神に愛される!』


Vaanは、《ヴぁーんコプター》の構え。
ステッキを持った両腕を広げてきりもみしながらちるちゃんに突っ込んだ。


「おとと、あぶないじゃないですかー」


攻撃を中断して、ちるちゃんはファイタツさんから距離を取り、
赤魔子とヴぁーんさんはファイタツさんを庇うように立つ。


「…随分とファイナル好戦的なんだな、キミは」

「えー、冒険者ってそういうもんじゃないですかー」


ファイタツさんが浅いとはいえ傷を庇ったりせず、懲りることなく話しかけてきたので、
ちるちゃんは右手の《千手院力王》を弄びながら答えた。


「腕前と効率がものをゆう世界なんですよ?
 話し合いでゆうこときかそうとかやっぱりあなたへんなひとだってかんじますし。
 力づくでやるつもりがないなら、始めから首をいれなきゃいいんですよー」

「そんなファイナル世界だからこそ、ファイナル憩いの場所がファイナル必要なんだ。
 オレは此処で事をファイナル荒げたくはない」

「そうですかー。
 でも力のない正義は正義にならないってえらい人がいってたような気がしますし、
 そんなことじゃあなたの意志ってなんにもなりませんよね?」

「力ならファイナルあるさ、だからおm――」

『だから俺が此処にいる。
 磨き続けた己に伊達ワルの神は裏切らない』

赤魔子はうなづいた。


ちるちゃんの刀を弄ぶ手が、止まった。


「つまり、そこのファイナルうるさい人の代わりにあなたたちが戦うんですか。
 いいですよ、どうせみんな撲滅するつもりですしおすし」

赤魔子は自分の顔をバシッとたたいた。
赤魔子はちるちゃんに指差して見せた。

『漲る自信が勝負をいつもヴィクトリーに導く。
 シーンの最前線に立ち続ける覚悟はあるか?』


一気に闘争の空気が満ちる酒場の一角。
ファイタツさんは、自分の為に戦おうとしてくれている彼らに、こう言った。


「いや、キミたちが此処で戦っては結局ファイナル騒ぎになるんだが……
 本当にオレにファイナル賛同してくれたなら表でやる気はファイナルないのか?;;」


皆性格尖ってるし話を聞かないのがデフォルトですからね、仕方ないね……
エル♂パラ忍の子かわいそう;;


「あっちはバチバチ火花飛ばしてやがるがwwwどうすんだ、侍の兄ちゃんwwww」

「用事があるんだろwwwめんどくせえからwwwwwいっちまえよwwwww
 「Q(急に)Y(用事が)K(来た)なので抜けますね^^;」とかいう侍が居るって晒し確定だけどなwwwwww」

「弱虫毛虫はきらいにゃ、どっかいけ~」


ファイタツさんが苦悩する一方、通風たち3りはひたすらによしくんを煽りまくっていた。
そもそも3りによしくんと戦う理由はない。

通風からすれば、ヴぁーんさんがちるちゃんを相手する以上よしくんはもうどうでもいい。
墨樽は少しでも時間があるならほとぼりが冷めるまで自分だけでも臼姫から逃げたいし、
猫狩はそもそも通風に付いてきただけだ。

さて、よしくんはどうするのか?


「大した用事ではありませんでしたから、もういいんですw」


どうやら撤退する気はもうないらしい。
しまった長弓をゆっくり取り出して――


「それに、そこまでコケにされたらやるっきゃないですよね^^;
 粘着質のごムイどもが集まってくるから掃除中なうっと(ピピピ」


落ち着いた口調とは裏腹に、慣れた動作で素早く矢立てから矢を取り出し、弦に添えてぎゅっと引き絞った。

それを見て通風たちも臨戦態勢に――


「通風とwww墨樽wwwやっとハケーンwwwwww
 二人でwwwwサボり系の仕事とかwwwwwマジ勘弁wwwww」ブンwシャカwwブンww


入ろうとしたら、内藤がのこのこやってきた。


「おまwwwなんでこのタイミングでwwwwwwww」

「くwwwうwwwきwwwよwwwめwwwよwwwwww」

「な、内藤ちん、今はそれどころじゃないんだにゃ><;」

「俺様だけwwww仲魔ハズレにしちゃwwwwwイヤンwwwwww
 bokuのwwwwwお腹の小人さんがwwwwwwピィピィwww泣くんだよねぇwwwwww
 遊びも良いけどwwwwwご飯買いにwwwwい か な――」


Yoshihiroは、《サイドワインダー》の構え。
よしくんの弓から放たれた強烈な矢は内藤に命中した。


「アワビューwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」ガンッwガガガガンッwww

「なっ、内藤ちーーーーーーんっ!!><」


猫狩は叫んだ。


「肉盾乙wwww」ゲラゲラゲラ
「肉盾乙wwww」ゲラゲラゲラ


通風と墨樽は腹を抱えて笑った。


「…その人ってあなたたちの仲間だと思ったんですけど、違うんですか?^^;」

「wwwwwあ?wwwwいや、否定してえところだがよwwwwwww
 こんなんでも残念なことに同じLSのメンバーだぜ?wwwwww」

「仲間がやられたってのに爆笑するなんて、随分と薄情なんですね^^;
 やはりごムイはごムイということですかw」

「は?wwwwバカみてえなやられ方しやがったら笑い飛ばしてやる方がいいじゃねえかwwwww
 ・えちょ 空気読まずにwwwwやられにくるとかwwwwwバカ以前にwwwwwありえねえーwwwwwwwwww
 ミスwwwwマル・ユリカがwwwwww当初はウザキャラだと思っていた時期がwwww
 俺にもありましたwwwwwwww」

「薄情だなんてことはないにゃん、だって――」


今度こそ、通風たちは武器を構える。


「今からボコして仇とりゃそれでいいだろwwwww」

「やき入れてやんよwwwwwよし逃げ野郎wwww」

「でも逃げようたってもう遅いにゃ!」

「…ごムイってのは訂正させてもらいますねw」


長弓から両手刀《ソボロ助広》に持ち替えるよしくん。
今、廃人たちの戦いの火蓋が切られた。


「ちょwwwみんなカッコヨスwwwwwwww
 俺様もwwwww俺様もwwwwww目立ちたゐwwwwwwwwww」

「うっせwwwww死体役は寝てろwwwwwww」

「うはwwwwwwおkwwwwwwwwwww」


――――――――――――――――――――――


「あらあら^^♪♪あいつらあんなところで遊んでるわね^^^♪♪♪」

「う、臼姫……?」


臼姫から漂うどす黒いオーラに、リューサンを初めとしたその場にいる全員が冷や汗を流す。
ブロントさんと忍者がディスりあいを止めるほどである。


「おしおき…いいえ^^♪」


「処刑しなくっちゃ^^^^^^^^^♪♪♪♪♪」


片手棍をかついで通風たちのもとへゆっくり歩いてゆく臼姫。
全員が酒場に血の雨が降るのを幻視した。


「た、大変だ! み、みんな! あの騒ぎを止めに行こう!」

「あんな恐ろしいい敵を作りたくないので僕はやめときますごめんなさい」


ブロントさんはビビっていた。


「はっ、ははは! や、やはりナイトはビビりでござるな^^;
 ゆ、唯一無二の盾ならあいつらの盾でもしてこいよ!」

「そ、そういうおもえは蝉であいつらを守らなくていいのかよっ!」

「た、他人の喧嘩の仲裁なんて効率が悪いこと出来るかっ!」


忍者もビビっていた。


「いやいや、酒場に冒険者のケンカは付きものでござるよwwww
 はぁ~、他人のケンカで茶が美味いでござるwwwww」


カイエンは……良く分からない。


「…し、仕方にいな! 盾がなくてはHNMが倒せるはずもないからよ!
 俺がいってやれば汚い蝉盾も草侍も必要ないべ!」

「て、テメエ……! 
 ――俺が行ってやるよ、ナイトじゃ心もとねえだろからな!」

「ふむ、たまには騒ぎに加わるのも一興でござるかなwwww
 拙者の《月光》が火を噴くでござるよ!wwwww」

「「《月光》乱発はやめろ(といっているゴザル)!」」

「…手伝ってくれるならもうなんでもいいよ;」


リューサンは呆れが鬼なって嘆息した。


「みなしゃん、僕も仲裁する側に周りましゅよ(`・ω・´)」

「うむ、助かるぞ、獣様。
 相手はあの臼だからよ、一人でも多いPTなら経験値ロストしないで済むぞ」

「えへへ…(*´・ω・`*)」

「…しょうがねえなwwww俺の背負った業を魅せつけてやるかwwwww」

餡黒しゃんも仲裁する方に助太刀してくれるみたいでしゅ(=´∇`=)」

餡黒…? それは誰だい? もう一人知り合いが来てくれるのかな?」

「ですよねー……www」

「あ、餡黒しゃん……(´;ω;`)」

「………………」
(比較的まともな奴だと思ってたんだが、やっぱこいつも内藤の仲間だな。
 なにもないところ見て涙ぐんでやがる……)


全会一致で止めに行くことが決定したところで、
争う集団の中から「/sh (((((;゚Д゚)))))ピギャァァァァァァァァァァァアァアアアァ」という断末魔が響いた。


「/sh 糞樽しゃ~~~~ん!!!!!!」

「はっはっはっwwwwもう臼姫殿は暴れておるなwwwww
 早く行かねば手遅れになってしまうでござるよwwwwww」


確かにぐずぐずしていては、臼姫に全滅させられてしまうかもしれない。


「…いろんな山脈があるとそれをまとえmるのも楽じゃないなやはり中心人物でヌードメーカーのナイトが不在ではやはりダメ。
 俺はヴァナに居てやらなければならないと思った(確信)。
 行くぞ、お前ら!」


今までちょっと周りが濃すぎて目立てなかったのを挽回するかのように、ブロントさんが号令を出す。
即席5りPT+1りは臼姫を止めに向かった。




―――

―――――――――


「…だから、そのように急いて何処へ行こうというのだ、《大極の騎士》よ」

「……e?」


どこかで、聞いた声がする。

その声が聞こえた途端、《蒸気の羊亭》からはブロントさん以外誰も居なくなった。
汚い忍者も、リューサンも、カイエンも、内藤も、通風も、墨樽も、臼姫も、猫狩も、獣様も、餡黒も、赤魔子も、ファイナルタツヤも、ヴぁーんも、ちるはも、よしひろも、店員たちも、自分たち以外の他の客たちも、誰も、誰も、誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も、居なくなった。

声は、背後からする。
ブロントさんが意を決して振り向けば、そこにあるのは《禁断の口》だ。
ブロントさんをオ¬コ都に送り込んだ例の《禁ケ莖ハカ・


「おい、馬鹿、やめろ……」

『汝が向かう先は友の元に非ず』


ア童uケ莖ハカ罰ヒ鳴動し、全てを飲み込み始めた。


「やめろ……!」

『この門の向こう、だ』


全てが壊れて、崩れて、全てが飲みキ=アレア雎ツアアォアa
ヴァナ・ディールに還ってこれたのに、ブロントさんはまたア瞳¬コ都ア罰ヌコフアアア雎邀ハアシアa


「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

『我が復活と死への礎となれ…ブロント……!』


身体が浮く、サアシ<アシア`カ罰螻、アニアアa
アレアサエロキ=アレア雎邀`アレアサシeアハアアニアクオテアヌコフアアア雎邀a
クワアソエチアテオア゙カァア、アニア闇の中に落ちる時に、


「キ導ァアΤニアアテアΤΥ夢,イ擺uイ`アΤ・」


誰かが、泣いているような、気がした。


――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――




「うおああああああああああっ!?」

「うわぁ!?」
「きゃあ!?」


再び《禁断の口》に飲まれ、ブロントさんは飛び起きる。
嫌な汗が流れる額に手をやると、なぜか手には籠手が着けられていなかった。
否、籠手だけではない。
着けていたはずの装備はきっちり外しているし、というかブロントさんは酒場に居たはずなのだが、
いつの間にか布団で横になっていたらしい。

そこは、見慣れた酒場である《蒸気の羊亭》ではなかった。
調度品も家具も置いておらず、仕切りも何もないトイレが部屋の隅に設置され、窓には鉄格子が嵌まっている、
見知らぬ天井のある薄汚れた一室なのだが、さっきまでの状況を踏まえると、
とてもではないが自分が此処に居るという実感を、ブロントさんは持つことが出来ない。
否、持ちたくない。


「…此処は、どこなんですかねぇ?」


なぜ彼女らが此処にいるのか理由が分からないが、
灰色のプリーツスカートと半袖のブラウスの上にサマーセーターを着た、
目を丸くしてブロントさんを見ている少女たちに――
昨日知り合ったばかりのフレに、此処がどこだか分かっていながら、自分がどこにいるかを尋ねた。

驚きが鬼なっていたツーテールの少女は、妙な質問をするブロントさんを心配し、
同じく驚きが鬼なっていたセミショートの少女は、少し笑って手に持っていたペットボトルをブロントさんに差し出した。


「え? 此処は学園都市の風紀委員活動第一七七支部の一室ですの。
 アナタには、昨日は此処に泊まって頂いたのですが、お忘れですの?」

「忘れてるってよりは、寝ぼけてるんじゃない?
 ほら、これ、ミネラルウォーター。
 飲めば少しは頭も冴えるでしょ?」


丁寧な言葉遣いのツーテールに、冒険者のような凛々しさを持つ短髪。
間違えようもない、ブロントさんの新たなフレだ。

此処は、そう、学園都市の――
学園都市……ヴァナ・ディールでは、ない。


「黒子、美琴……なんでもにいぞ。
 幹人の言うとおりちょっとわずかに眠り過ぎちぇしまっただけからよ童話で言うと三年寝太郎」


おれがヴァナに帰れたのは夢だったのかよ、と、ブロントさんは心の中でひどく落胆した。
昨晩見た悪夢は、結末を除けばとても素晴らしい夢だったから、とても落胆した。
自分が居るべき場所に居ることと、居るべき場所に居ないことは、こんなにも差があるものかと、
痛感してしまったから。

だが、そんなことは目の前の少女らには関係ないことだ。
ブロントさんは心中を悟られまいと、なんでもないように美琴から水を受け取った。


「ちょっとわずかはどこ行ったのよ。
 しかしまあ、用途が用途とはいえ――」


美琴はブロントさんが一晩過ごした場所を見渡す。


「長居はしたくない環境ね。
 アンタ、こんな所でちゃんと休めたの?」

「一応定期的に掃除をしたりはしていますが、本来風紀を乱した学生が勾留される場所ですので……仕方ありませんの」

「しらにいのかどんな所でもアミバ都古のKOS-MOS荘だった。
 世の中には押入れとか棺桶だけがHPのやつもいるからそれに比べたら男ならコレくらいチョロイ事」

「その、ホームポイント? たぶん住み家ってことなんでしょうけど、
 アンタは良くても、いつまでも支部に居てもらうって訳にもいかないのは、分かるわよね?」


副音声としては「つまり出てけってことよ、言わせないでよ恥ずかしい」といったところか。
……まあ、そこまで強い意味はないだろうが。


「グラットン持ってる人は廃人だから頭が良い人が多いんだよ。
 俺はINT500ぐらいある思考の騎士だからお前に言われるでもなく羨望を把握済み。
 そももも冒険者はニシエヒガシエ名無し草なんですわ。
 HPロストしても生きていけるからよ、まあ見てなw」


美琴に言われるまでもなく、ブロントさんは此処に長居するつもりはなかった。


「その日のうちに風紀委員支部に逆戻りでしょうからやめてくださいまし。
 もちろん今度は、客人としてではありませんのよ?」


けど、そんなの黒子が許さない。


「【むむむ】」

「なにがむむむよ!」

「奈良、おもえらはおれにどうしろって言うんですかねえ?」

「…ふっふっふっ……」


仏頂面の巨漢が少し拗ねたような目で、自信満々で不敵に笑うガイナ立ちの少女を見上げている。
黒子にはこの図がどうにもシュールに見えた。


(お姉様…昨晩はああ仰っていましたが、いったいどうするおつもりなんでしょう?)


黒子は寮で働くメイドに文句を言われるまで食堂に残り、
美琴の使ったフォークを大人しく返すか懐にしまうか延々考えていた為、
美琴がなにを画策しているかをまだ知らない。

ちなみに美琴の食器は、尊大な態度のメイド見習いにちゃんと回収されましたとさ。


「聞いて驚きなさいブロント…さん!
 この学園都市第3位のレベル5・御坂美琴が!
 アンタが衣・職・住、全てを手に入れられる方法を考えてきてやったわ!」


自信満々に胸を張り―張るほど胸がな――ウボァー!―高らかに秘策の存在を宣言する美琴。
自信満々の割には「ブロント…さん」と呼ぶ辺り、まだ昨日のこともあって、
呼び捨てにするのがちょっと怖いのかもしれない。


「……はー?
 「衣・職・住」とかあまりにも文章力が結核しているバカは見たことない。
 おまえの幹事力のなさにおれは呆れが鬼なる」

「アンタが言うな!
 だいたい、食料は別だからこれで合ってるのよ!」

「お姉様…常盤台の学生がダジャレというのは、わたくし、どうかと思いますの……」

「う…うるさいうるさいうるさい! と・に・か・く、どうなのよ!?
 私のこの良い考えに乗るの!? 乗らないの!?」

「ひょとするとおもえらはそれを教える為に麻っぱらからこんなところに奇譚ですかねぇ?」

「そうよ。
 わざわざ学校行く前に寄ってやったんだからありがたく思いなさいよね」


それは本当にありがたいことだ。
行く場所もないブロントさんには、どんな条件の場所であっても、
留まれる場所が出来るなら、それは一つ返事で教えて貰うべきだ。

だが、ブロントさんは――


「良い考え【いりません】」

「そうよね。
 アンタには行く場所もないみたいだし、そのなりじゃ下手に街を歩き廻れないもんね。
 まあでも遠慮することはないわよ、自分の意思で来たって訳じゃないなら仕方ないんだしさ――
 ってえ、いらんのかい!」


美琴、渾身のノリツッコミ。


「……え? 本当にいらないの?」


なにやらブロントさんの反応が芳しくないとは思っていたが、まさか断られるとは思わなかった。


「さっき冒険者は名無し草って言ってたべ。
 俺はヴァナに帰る方法をいっこきゅもはやく探さなくてはならないからな。
 この街でおさまるわけにいかぬだろうとおれは旅支度を始める」


そう言ってブロントさんは布団から立ち上がり、カカッと武器防具を装備し始めた。


「ちょ、ちょっと!」

「ブロントさん! まさか、本当に今すぐ出ていくおつもりなんですの?」

「おもえらはヴァナのことを分からないなら俺に此処にトドまる理由はないのだよ。
 それにおまえらにはもう十分に助けられたからよこのままでは罪悪感に営まれて俺の胃がストレスでマッハなんだが?」


今ブロントさんは、落ち着く場所を手に入れてからゆっくり帰る方法を探そうという気になれなかった。
昨晩見た故郷(ヴァナ)の夢に背中を押されているというのもあるかもしれない。

でもそれ以上に、これ以上美琴たちの手を焼かせたくなかった。

善意を振り切るというのは、いささかブロントさんの胸が痛む。
だが、彼女たちは学生――自分のような根なし草とは違った彼女たちの生活があるのだ。
自分のような人間が近くに居ては、そう遠くないうちに不和が生じるはず。

まさか見ず知らずの人間が落ち着ける場所を探してくれているとまでは思わなかっただけに、
ブロントさんは、既に自分は引き際を誤ったとすら思っていた。

しかし、素早いな流石一級廃人すばやい。
ブロントさんはあっという間に準備を整えた。
そして部屋から出て行こうとする。


「ちょっと待ちなさいよ!」

「そうです!
 出て行ったところで、どこへ向かうというのですか!?」

「この街に手カガリがないなら他の街に行く。
 心肺しなくても邪魔するやつは親のダイヤの結婚指輪のネックレスを指にはめてぶん殴るからダウンする。
 多分奥歯が揺れるくらいの威力はあるはずだしね」

「力ずくで行く気ですの……?
 そんな無茶を宣言されて風紀委員が黙っ――」

「ちょっと待てって……言ってんでしょうがぁ!!」


Mikotoは、《お嬢ヤクザキック》(6c)の構え。


「おうわぁ!?」


ブロントさんは美琴に背中を蹴られてバランスを崩し、壁に顔面をぶつけた。


「お、お姉様……!?」

「なっ!何をするだァーーーーーッ」


黒子は美琴の突然の蛮行に仰天し、ブロントさんは顔を痛そうに抑えながら美琴に抗議する。


「あ、アンタが人の話を聞かないから悪いんでしょうがっ!
(ちょっと足止め程度に蹴るつもりだったんだけど、力加減間違えちゃった……)
 だいたいねえ…黙って聞いてりゃなんなのよ!?」

「いえ、お姉様はぜんえzん黙って聞いてませんの」

「(∩゚Д゚) アーアー キコエナーイ 。
 アンタが謙虚さをかもそうとしてようが私の知ったこっちゃないのよ!
 こういうのは断った方が気まずくなるって分っかんないかなぁ」

「む、むう……駄菓子菓子――」

「和菓子も洋菓子もない!
 アンタこの街じゃ、私たち以外に頼れる人間居ないんでしょ?
 私たちは、アンタの友達なんでしょ?」

「ソレは、そうなんだが――」

「だったら!」


ブロントさんの言葉をひたすら封殺する美琴。
ブロントさんがなにを考えてるか、なにを思ってるかなんて美琴には分からない。
あの気に食わない女王蜂(メンタルアウト)ならともかく、だ。

でも、それでも汲み取れるものだってある。
美琴は、ブロントさんが遠慮して妙な壁を設けようとしているのが気に入らない。

互いに友達と、認めあったのだから――


「……だったら、私たちに頼りなさいよ。
 友達ってのはさ、そうゆうもんでしょ?」

「…お姉様の言うとおりですの。
 お友達をお助けするのは当たり前ではなくて?
 風紀を乱さない限り、ですけれど」


黒子も、美琴に追従した。


「巫女子……グロ子……」


フレが自分を助けようと手を差し伸べているのに、焦っていたとはいえ、
それを余計な御世話と言わんばかりに伸ばされた手を払ってしまったことを、
ブロントさんは心の中で少し恥じた。

勿論、彼女らの言葉で180度改心したという訳ではない。

自分が彼女らの手を借り過ぎるのは間違っていると思うし、
彼女らが昨日今日出会った友人に多少善良過ぎるのも、少し心配になるぐらいだ。

だが、2りは、しっかりとブロントさんの目を見て、心を込めて、説得してくれている。


(毒を食らわばサラマンダーだな……)


言葉も使い方も違います。


「すまにいな、その通りだと見事なカウンターで返されてしまった感。
 言い返そうと必死に回転させたが言い返す言葉が必要なかった」

「…わたくしの名前の間違え方だけ悪意がありませんこと?
 シリアスが壊れるって言われたばかりなのにまるで成長していませんの……」

「コイツは名前間違えるのがデフォだから気にしちゃダメよ、黒子。
 ていうかブロント…さん、アンタ、学園都市から出られないわよ?」

「【えっ!?】」

「IDがないと出入り出来ないのよ、この街は。
 ……あったって簡単には出来ないけどね。
 だからアンタは、必然的にこの街に当分は居ないといけないわけ」

「マジで?」


満足に出入りも出来ぬえとかロープレのダンジョンかよ、と、ブロントさんは驚きが鬼なる。


「マジですの。
 でも、わたくしはこの街に留まるのは悪いことではないと思います。
 ブロントさんが他の者の意思でこの街に来させられたということは、帰る手掛かりもきっとこの街にあるはず……
 ですから、お姉様の提案に、騙されたと思って乗ってみませんか?」


黒子の問いの後、しばし一同無言の沈黙状態。

黙っていても、ブロントさんは迷っている訳じゃない。

昨日だって彼女たちを信じたのだ。
もう少しだけ、力を借りようと、決断してある。


「乗るぞ」


ブロントさんは美琴に手を差し出す。


「お前の良い考えと屋良に乗る。
 やはりソロよりやはりPTだな…今回のでそれが良く分かったよ>>350 >>965感謝。
 俺だけではミギーもヒ・ダリも分からず裏世界でひっそりと幕を閉じてしまう可能性があった」
   
「ふん……わかりゃいいのよ」


美琴はそれに応えて軽く握手を交わした。


(イイハナシダナー……ですの)


黒子は少し熱くなった目頭に軽くハンカチをあてた。


「でも、ただ教えるってわけにはいかないわ」


美琴のこの一言で、2りの感動が一気に醒める。

ブロントさんと黒子は、まるで《バインド》がかかったような気分になった。
急に美琴の笑顔が、怖くなったような気がして。


「……【えーっと・・・】」

(すごく…嫌な予感ですの……)

「昨日の食事代と同じよ、等価交換――
 英語で言うとアルケミー、だっけ?」

「…おれがお前にしてやれることなどあんまりナイト思うんですがねぇ?」

「だったら身体で払いなさい」


ブロントさんは不良だからよバイクはノーヘルだし握手は左手でする。
左手での握手は、相手を嫌うとか、つまりはケンカを売るという意味合いがあるとかないとか。


「私と勝負しなさい、それが交換条件よ」


「ああ、やっぱり……」、黒子は目眩がしそうになった。


――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――


―――――――――


―――



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