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※この話は第六話の途中に入ります。
原作の時系列としては鈴が転入してくる前で……あれ? マジで? そんな早いの?
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「サプラーイズパーティー!」
「は?」
「………。」
「……何やってんだ、源兄ぃ」
夕飯食って整備室の様子を見に来たら変な目で見られたでゴザル。ノマッキッ! やべぇ死にてぇ。
と言うか一年の専用機持ち(と掃除用具)が全員集合していた。何、お前ら暇なの?
「まあ見回りついでにどんな様子かな、と。どうだ?」
『正直作り直した方が早いのでは、と皆様考えていたけど口にできなかった状況です』
「ちょ、六花っ!」
「うぅ……」
六花の辛辣な表現に倒れこむ簪。フロートユニットの前後ぉぉぉぉん!に着いたジェットブースターが床にぶつかってちょっとへこんだ。
「まあ中途半端に直すよりはそっちの方が良いと思うがね。どーせ完成してからも弄るんだし」
「そう……ですけど……」
「まーちょっと見せてみ」
何も出来ないくせにメインコンソールを占領していた一夏をどける。代表候補生の二人ならともかく何故お前が座る。
まー本格的な整備実習は夏休み終わってからだから、今の時期なら出来ない事は何もおかしくはないんだがね。
「えーっと……駆動部の反応がコンマ下1桁で遅い!? コア適正値13.64%!? 何だこりゃ!?
火器管制は打鉄のまんまだし、シールドエネルギー出力も高すぎるぞこれ。主機はリミッターかかってるし……」
「そ。もうどこから手をつければ良いのか解んないくらいチグハグなのよ」
「流石に私もこんな状態のISはどうすれば良いのかサッパリでして……」
だろうな。こりゃもう整備科でもかなり上位の連中じゃないと何して良いか解らないレベルだ。
それにこの面子の中で一番ISに詳しい代表候補生組がお手上げなんだ、他の連中もそうだろう。
「この調子なら全部ガッツリ作り直した方が早いな……あ、B案使うなら装甲形状も変えないといけないぞ」
「あの、システムの最適化とかは……」
「ロクなモン積んでねーのに最適化とか意味ねーから。あと特性制御……速度重視だからスラスター類だな」
この分だと機体制御もドノーマルの打鉄だろうし、メインスラスターの出力と姿勢保持スラスターのチェックも必要か。
高速用のシールドバリアーも搭載してないかもしれないし、バリアーの展開ポイントも弄らないとな。PICの緩衝領域からずらしとかないと反転しちまう。
「えーっとそうなると偏向重力推進角錐を……前に五か六かな? 後はメインの反応次第で脚部弄って……反重力制御も危ない気がする」
「……箒、解るか?」
「わ、私に聞くな!」
はいはいハーレム作って腎虚で死ね。ハイパーセンサーは基本的に独立した物だから弄らなくて良し、と。
ウイングスカートは少し削っとくか。腰溜めに撃つ形になるから……ヴェスバーだな。あとはまあ六花の余りパーツで良いだろ。
「スラスターと各部ブースター、装甲に量子展開装備、内蔵火器も見直しだな。殆ど全部じゃねーか」
『残りはハイパーセンサーと競技用リミッター程度ですか』
「コ、コアとか通信系は大丈夫だから! 簪、そんなに虚ろにならないで!」
次々と修正点が明らかになり、まとめに入った所で簪の色素が完全に抜けた。真っ白に燃え尽きた感じだ。
けどねお嬢ちゃん、まだ終わってないんだよ。
「マルチロックオンは……後回し。推進ユニットコントロールシステムは最優先で直さんといかんな、機動性重視だし。
エネルギーバイパスオペレーティングシステムをシミュっとく必要があるし、シールドバリアーの制御システムも弄らないと駄目か」
「か、簪! 大丈夫か!? 傷は浅いぞしっかりしろ!」
「……う、うん。大丈夫、織斑君……」
途端に険しくなる女性陣(-千春)の視線。まあ役得の代償って事で。等価交換ですよ。
「参ったな……データチェックとパーツの新造も必要か。流石に手が足りんぞこれは」
「そんな……」
「ああいや、今日中に済ませるなら、って意味でな。俺一人でも週末には完成するぞ」
それくらい時間あればこのレベルの機体なら1から作れるがな。あ、でもコアの習熟時間が必要か。
「じゃあそれで良いんじゃないの?」
「いや、男に二言は無い。今日中と言ったからには今日中に終わらせてやる」
「どうやってだ? 手が足りないって言われても俺達じゃ邪魔になるだけだと思うけど」
フッフッフ、俺を舐めるでない。不摂生してるからマズいぞ。
「簪は一旦コイツ仕舞って第一多目的工作室に移動。あと千春はこの連中呼んでくれ。一人か二人来ればいい」
「っ! ちょっと源ちゃん、いきなり六花に表示しないでよ。ビックリするじゃない」
「だって空間投射やるより楽なんだもんよ。んじゃ頼むぞー」
そう言って俺は第二整備室を後にした。早足で第二アリーナの横を通り、『注文の多い整備室』の電源を入れる。
と、ゾロゾロと鴨のように一夏達が追いかけてきた。どーした、もう用はないぞ?
「あ、源兄ぃ、俺達はどうしたら良いんだ?」
「別にどうも。見学するなり帰って寝るなり、好きにしろ」
「わかった。じゃあ見学してるな」
ほほう? 女性陣の帰りたいオーラをガン無視してまでメカが見たいのか。良い傾向だ。
果たして女性陣が帰りたそうにしてるのはIS開発に興味が無いからなのか、新たなライバルの誕生を危ぶんでいるのか。多分後者だな。
「それで源蔵さん、さっき千春に見せていたのは何のリストだったんですか?」
「ん? ああ、二年と三年の成績上位者リスト。あいつらなら助手に丁度良いからな」
「そんな理由でこんな時間に生徒を呼びつけるんですか……」
大丈夫だ。アイツは間違いなく来るだろうし、他二名ほど乗りそうな連中も居る。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン! 二年整備科黛薫子、ただいま参上!」
「お、早速来たか。流石に早いな」
「そりゃーもうジャーナリストはスピードが命ですから! それで先生、報酬は頂けるんですか!?」
「交渉次第だ。好きにしろ」
早速眼鏡を光らせたパパラッチがカッ飛んで来た。こんなんが整備科の総合成績一位なんだから世も末だよね。
……おい、誰だ今お前が整備科のトップなんだから下につくのもそんな連中ばっかりなんだろって言った奴。その通りだよ。
「あ、佐倉先生。京子とフィー呼んどきました。私達居れば充分ですよね?」
「ああ、お前呼べばあの二人も来るだろうと思ってな。どうせ担当機も無いし暇だろ?」
「暇ってほど暇じゃないですけどねー。まあこういう事に参加できるくらいには」
黛が総合成績の一位なら高梨京子は実技の一位でソフィー・カークランドは座学の一位だ。とは言え転科時のテストの成績なんだが。
この三人は成績は優秀だが、本来持つべき担当機が存在しない。中にはグループを掛け持ちしてる連中が居る中で、だ。
聞く気が無いんで聞いてないが、多分黛は部活をやる時間が欲しいんだろう。他二人も似たようなものの筈だ。
「源ちゃん、先輩が他は呼ばなくていいって言ってたから呼ばなかったけど……大丈夫なの?」
「おお、ちゃんとこっちに来たか。確かにあいつらが来れば問題は無いぞ。二年整備科の3トップだからな」
「……先輩、そんな凄いんだ」
「あーやって一夏に突撃インタビューしてるの見る限りじゃそんな面影は一切無いがな」
人手を呼びに行った千春が戻って来た。こういう時に無駄に広い千春の交友関係は便利だな。一度会っただけでコネ作れるって相当だぞお前。
話の続きだが、二年のトップ3人は担当機を持たない代わりにフリーで動いているのだ。今回みたく3人で組む事もあれば、バラバラに担当する事もある。
「ずっちーん、メガゲーン、お待たせー」
「ふにぃ。お待たせしましたぁ」
「お、来たな二人とも。そんじゃ俺も準備しますか」
黛が高梨とカークランドに説明している間に俺は工作室の壁の前に立つ。そこには人間の腕サイズの穴がぽつんと空いていた。
「ツゥゥゥゥルコネクトォッ!」
バチンと左腕の義手を外し、その穴に思い切り腕をぶちこむ。ガチリガチリと二段階の接続が完了したのを確認し、俺はゆっくりと腕を抜いた。
「メガッ! アァァァァムッ!」
俺の声と共に、某勇者王に繋がるアイツよろしくサイズが合っていない腕がその姿を現す。さあ驚け! 突っ込め!
「……誰ももう突っ込む気無いっぽいよ?」
「……ローテンションなんて大嫌いだ。あ、簪。そこで展開してくれ」
「は、はい」
最後の情けとばかりに突っ込んでくれた千春の優しさが逆に悲しい。
だがとりあえずこれで必要なものは全て揃った。後はサクサク進めるだけだ。
「そんじゃ始めるぞ。メガアーム、展開っ!」
ジャキンバリンバシャン! と音を立てて巨大な左腕がバラバラになる。
いや、正確には細い副腕の集まりであった本来の姿を現しただけなのだが。
「き、気持ち悪っ! 何それ!?」
「何を言うか。コイツは精密作業用多目的工作腕『メガアーム』、見ての通り工具の塊だ」
ほれ、と気持ち悪いとか言ってきた鈴の目の前に腕を出してやる。この副腕一つ一つには工具が備え付けられているのだ。
モンキーレンチにマルチクランク、高周波カッターとレーザーアームは勿論、オシロスコープとマルチテスターも付いている。
他にも超音波検査装置やプラズマバーナー、火炎放射器にデータスキャナーと半田ごてまである。あと細かい物を持つためのサブアームもバッチリ。完璧だ。
「いや気持ち悪い物は気持ち悪いから」
「……フン。学園内で使える工作機械の七割がこの中に納まってる、と聞いたら凄さが解るか?」
「残り三割は?」
「サイズが俺よりでかいものばかりだ。三次元工作機とかな」
とと、いかんいかん。ついムキになっちまった。
もう遅いしさっさと終わらせてしまおう。総員、整備体制に移れ!
「よし、黛はエネルギーケーブルもってこい。一番から四番までと七番八番。三本ずつ」
「わかりました!」
「高梨は……よしできた。この図面通りに新規パーツ作って来い」
「了解っす」
「カークランド、装甲のロック全部外してケーブル全部見えるようにしとけ」
「ふゆぅ。お安い御用ですよぉ」
テキパキと俺の指示の下で三人が動く。俺が次に何をしようとしているのかを予想し、行動を先読みしているからできるスピードだ。
これは俺が整備のイロハを教えたからできる事であり、作業スピードが基本的にクソ早い束とでさえ同じ事はできない。
「……先生、キーボードはノーマルなんですね」
「ん? ああ。配置を変える奴は二流だろ。ボイコン、アイコン、ボディコンに頼ってる内は三流」
「……そう、ですか?」
手持ち無沙汰なのか簪が尋ねてくる。そう言えばさっきもカスタムしてたの使ってたな。
「タイプ速度くらい普通にキーボード触ってりゃ速くなるっつーの。まあ一番早いのは義手からの直接入力なんだが」
「先生、ケーブル持ってきました!」
「あふぅ。せんせぇ、ロック解除完了しましたぁ」
「オッケー……見えた、そこだぁっ! この指戯を受けてみよ!」
メガアームの工具を限界まで使ってケーブルの交換をする。だから鈴、キモイとか言うな。
全身の換装は普通ならどんなに早くても十分はかかるが、今の俺なら七分前後で終わる。
「わはぁ。せんせぇ、私システムやりますねぇ」
「あ、それじゃ私も。ここって投射ディスプレイ多くて良いですよねー」
「応、それじゃそっち頼んだぞ。終わり次第俺も合流するな」
さぁて、まだまだ行くぜぇ!
◇
「主機リミッター解除、左メインスラスターの二番から五番ポート全開放! オルコット! 下から順に二番七番三番四番でケーブル繋げ!」
「は、はいですわっ!」
「エネルギーライン確認……右脚部の姿勢制御用が安定しねーぞ! 鈴! ネジの締まり具合チェック!」
「解ったからその腕近づけないで!」
「簪! 火器管制のオートとマニュアルの設定変更できたか!?」
「あ、あと五分……!」
「遅い! 六花、簪のカバー! 千春は六花用のジョイントパーツの予備持って来い!」
『了解しました』
「はいっ!」
「一夏と箒は高梨が戻り次第新造パーツにヤスリかけてバリ取り!」
「わ、わかった!」
「か、角を削れば良いのだったな……」
フハハハハ乗ってきたぜぇぇぇっ! YEAAAAAAAAAAAAAAAAH!
「黛! 姿勢制御できたか!?」
「できてます! 現在メインスラスターとの出力の見直し中!」
「なら終わり次第スラスターの稼動域チェック、それも終わったら関節やれ!」
「はい!」
「カークランドはPICの調整終わったか!?」
「にやぅ。現在重力制御系とバリアー系と同時に進行中ですぅ」
「解った。なら全部終わったらバイパスやれ!」
「みゆぅ。解りましたぁ」
「新造終わり! ここ置いときますよ!」
「よし一夏と箒はバリ取り! 高梨はこっち来てガワ弄るの手伝え!」
「解りました! レーザーアームどこっすか!?」
「俺の腕の使え! 実習のより出力高いから気をつけろよ!」
「はい!」
えーっとアレ終わり、ソレこれから、ドレ手ぇつけてない? コレ今終わった!
「関節チェック終了! ケーブル接続終わりましたか!?」
「終わってる! バイパスチェックは!?」
「ひにぅ。今終わりましたぁ」
「メガゲン! ジョイント来ましたしパーツ搭載始めますよ!?」
「解った、やれ! よし、推進系も終わったしあとは最終チェックか。簪、火器管制良いか!?」
「はい……チェックおねがいします……!」
『とりあえず内蔵火器と現在登録されている量子展開用武装分は終了しました』
「えーっと……よし、足りない分は勇気で補え! 各員接続してるもん全部外して機体から離れろ!」
わらわらと機体に張り付いていた連中が離れ、最終拘束具も解除される。
「……主機点火、副機起動……PIC正常動作確認。シールドバリアー展開……干渉なし、偏向重力・反重力制御共に問題無し……」
『コア・ネットワークへの復帰を確認。通常モードでの初期起動を確認』
「火器管制システムオールグリーン……ハードウェアの正常動作を確認中……完了」
『チェック項目の外部参照を開始します……終了しました。異常なしと判断します』
ガチン、と何かが嵌ったような音と共にゆっくりと打鉄弐式が浮かび上がる。
「セルフチェック全て正常……全チェック項目パス……打鉄弐式、起動……!」
ドン、と不可視の衝撃が弐式の全身から迸る。車で言えばセルキーを回しきり、エンジンがかかった状態だ。
「よっしゃぁ! 成功っ!」
「あたりめーだよ、幾らテンション任せの突貫とは言え俺が関わってるんだ。問題なんざある訳ねーっての」
ひゃっほー! と全員で成功を喜ぶ。これこそモノ作りの醍醐味だな。
「よーしお前ら寝ろ寝ろもう寝ろ。俺も眠いから寝る」
「はーい。簪、一緒にお風呂入ろ」
「……うん。あの……佐倉先生」
「応」
ゾロゾロと生徒達が寮へ戻っていく。その最後尾に千春と簪が居た。
「ありがとう……ございます……」
「何、諦めなかった奴の背中をちょいと強めに押しただけだ。それにこれからが大変だぞ、調整とかな」
「……はい!」
最後に一際強く頷き、二人は手を取って駆け出していく。うん、青春だねぇ。百合の花が似合いそうだねぇ。
「ま、コアの適合率は少しずつしか上がらんし……んぁ?」
俺も風呂入って寝るか、と踵を返すとなにやら足の裏に硬い感触が。
ネジ。
「………。」
………。
「……知ーらねっ」
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書いてみて分かった事。整備シーンって迫力出し辛くてムズイでゴザル。
とりあえずマッドらしくニタニタ笑いながらやらせてみました。
さぁて次はラウラ戦だぁ!
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