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第八話「ご迷惑でしたか?」
「………。」
「………。」
気まずいよ……初っ端からコレかよ……。
結構前(クラス対抗戦時)に箒に禁句を思いっきり言っていた事を思い出し、こりゃ謝らなアカンと箒を探して12分。
寮から少し離れた空き地で真剣片手に顔をダルンダルンに緩ませている阿呆を見つけた。危ないってお前。色んな意味で。
「……それで、話と言うのは?」
「あー、いや……こないだのクラス対抗戦の時にさ。俺、お前の気にしてる事言っちまったじゃん? だから、謝っとこうと思ってな」
「あ……」
何故か居合いの練習をしていた(顔が緩んでいたのはどうせ一夏絡みだろう)箒に話がある、と切り出して数分。
いつも通りにすぐ切り出さない俺を不審に思ったのか、疑問と言うよりは警戒色を強めて箒が口火を切った。
だが、どちらかと言えば精神的な物で切り出し辛かっただけの俺には渡りに船だったのだが。
「何を今更って思うだろうけど……やっぱりけじめはつけとこうと思ってな」
「……そう、ですか」
「それとさ、どーも俺達の間には認識の齟齬があると見た。それをハッキリさせたくてな」
自分の事ながら相変わらずの軽薄な口調に反吐が出そうだが、こればかりはもうどうしようもない。
それに、今言った事は事実だ。チート頭脳をフル回転させて出した答えだしな。
「齟齬……ですか?」
「ああ。篠ノ之束って個人の捕らえ方について、な」
「っ―――聞かせて下さい」
ありがたい。これで拒否されてたら今後一生微妙な距離感で接する事になってたかもしれないからな。
「俺から見ればさ、篠ノ之束ってのはタレ目で乳がデカくて何故か運動神経が良くて俺の事ナチュラルに罵倒してくる幼馴染なんだよ」
「………。」
お前は何を言っているんだ、と某格闘家のようにジト目で睨まれる。そりゃ身内のこんな妙な評価を聞いたらそう思ってしまうだろう。
それに、もしかしたら『こんな評価』は一度も聞いた事が無いのかもしれない。こと束に関しては特に、な。
「だからさ、アイツが世界的にどう思われているのかってのをたまに忘れちまうんだ」
「……それは流石にありえないと思いますが」
「マジなんだって。もしISを作らずに束が失踪していなかったとしても、多分俺から束に対する全ては変わらない。考え方から、この想いまで。全部」
「………。」
自分の中の冷静な部分が「んな訳ねーだろ」とツッコミを入れる。ああ、お前は正しいよ。
確かに、本来言葉一つ違うだけで変わるもんが変わらないってのがおかしいのは解ってるが、ちょっと黙ってろ。
「まあ所詮はIFな訳だが……つまり俺から見れば束の頭が良かろうが悪かろうが関係無いんだよ。俺から見た『篠ノ之束』って人間は変わらない」
「……それで、何が言いたいんですか?」
「お前が束をどう思っていて、アイツの妹だと言われる事をどう思っているか。それを考えた。
……こないだは、悪かったな。教師として触っちゃいけない部分だった」
「―――まあ、もう過ぎた事です。謝罪も頂けましたし、今後はあまり気にしないようにします。無理でしょうけど」
それに、と箒は言葉を続ける。
「あの件に関しては、少し感謝もしているんです。その……一夏の優しさを感じる事ができましたから」
……あ、ありのまま今あった事を話すぜ! 失言の挽回をしようと思っていたら一夏の好感度上げに使われていた。
何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのか解らなかった。フラグだとかニコポだとかそんなチャチなもんじゃ断じてねぇ。
新種の恋愛原子核の恐ろしさの片鱗を味わったぜ……。
「……そうか。じゃ、この話はここで終わりだな。ぶはー、疲れた」
「はぁ……少しは罪悪感を持って下さい。これでも色々と気にしているんです」
しかしあそこまでガッツリトラウマ刺激してよく邪険に扱わないな、俺の事。
信頼されてるって事なのかもしれんが、その信頼に応えられるかどうかは解らない。それに、
「んー、多分無理だなー。正直な所、俺がお前達の兄貴分やってるのも束の身内だからだし、鈴達は一夏の身内だからだしな。俺個人としては束一人が居ればそれで良いんだ。
だから俺は束を守るし、束が笑っていてくれればそれで良い。けど、束はお前達が居ないと駄目だって言う。だからお前達が笑ってられるようにする。それだけだ」
「……案外、一番『外れている』のは貴方なのかもしれませんね」
狂っている自覚はある。もう殆ど思い出す事もない『前世』の自分の常識と照らし合わせると、俺は狂っている。
こうして謝りに来たのも『教師』だからで、『佐倉源蔵』という個人の視点だと何も謝る理由は無い。円滑な関係の構築という面では有効かもしれない、と思う程度だ。
多分、俺みたいな人間を『人でなし』とか言うんだろう。まあ面と向かって言われた所で「それがどうした」と一笑に付すがね。
「だろうな。それで束の身内が笑っていられるよう、2メートルに届かないこの目の届く範囲までを守る。そこが限界だな」
「……全く、姉さんが少し羨ましいです。ここまで想われているとは」
はぁ、と箒はため息をつく。まあお前ら完全に追う側だしな。
「ま、男ってのは追いかける生き物だからな。ありゃ追い甲斐のあるウサギだ。
だが、一夏の兄貴分って観点から言わせてもらえば……もう少し勇気出して素直になってみな」
「……はい」
「ただまあ、勇気を出した結果が学年全体に広まってたら世話無いけど」
どうも一夏の部屋から引っ越すイベントは終わったらしい。でもお前ら、ちょっと単純すぎやしないか? むしろ誰か狙って噂流したろ。
何故か俺の所に裏を取りに来た連中まで居るくらいだからな。信じられるか? こんな連中が将来的に国防の要を担ったりするんだぜ?
「……すいません、殴って良いですか?」
「駄目だっつの」
やれやれ。相変わらずシリアスが似合わんね、俺は。まあ、シリアルな位が丁度良いさ。
◆
「……どったの? ロードローラーにでも轢かれた?」
「違うわよ……ったく、崩山があれば熱殻拡散衝撃砲でとかちつくしてやるのに」
「……織斑千春、か」
新しいパックが完成したので訓練ついでに試験をと思って簪と第三アリーナへ足を向けると、そこにはヤムチャよろしく倒れ伏した友人二人が居た。
……正直、こうやって客観的に事態を見据えていないと何時爆発するか解らないくらい怒っている。ここまでトサカに来たのは久しぶりだ。
「ええ。昨日は居なかったし、初めましてって事で良いかしら?」
「ああ……アリーナを使うなら好きにしろ。興が削がれた、私はもう戻ろう」
「それはちょーっと困るのよねぇ……それとも、負けるのが怖いのかしら?」
「……何?」
私達に背を向けたロリータが再度こちらへ向き直る。因みにロリコンって本来別の意味なんだよね。
……それはともかく、私自身無理矢理だと思う煽りをする。若干恥ずかしいが、こうする理由はちゃんとある。
「生憎と私は家族愛に満ち満ちた人間なの。で、目の前には最愛の弟を張り倒した女が一人……ここでハイそうですか、って見逃す訳には行かないのよね」
「……成程。私としては無駄な争いはしたくないが……その目から逃げられるとも思えんな」
「そう。じゃあ決まりね……簪、下がってて」
「……嫌」
「へ?」
簪を庇うように前に出るが、それに合わせるように簪も前に出る。
「……織斑君を殴った人を、見過ごすなんて……無理」
「へぇ……こういう非生産的な事は……ああ、そっか。そうよね」
ここで退いたら、ヒーローじゃないもんね。助けられたいって願望だけじゃない、確かな願いを持ってるんだもんね。
簪にとって一夏は白馬に乗った王子様だし……IS白いし。それを貶されて黙ってられるならヒーローなんか憧れないよね。
「って事で二対一になるけど良い?」
「そっちは日本の代表候補生だったな……面白い。刺激的にやろうか!」
そう、と応えて両の足でアリーナの大地を踏みしめる。
……ここまで立派な悪役やってくれたんだし、それ相応の台詞は必要よね。
「憎悪の空より来たりて」
『正しき怒りを胸に』
「『我等は魔を断つ剣を執る!』」
「『汝、無垢なる刃! 六花・スパイダーガール!』」
「汝は勝利を誓う刃金、汝は禍風に挑む翼……!」
「蒼穹の空を超え、星々の海を渡り……翔けよ! 刃金の翼!」
「舞い降りよ――打鉄弐式!」
打ち合わせも一切無いのに簪がバッチリ合わせてくれる。微妙な改変まで入れるとは流石ね。
……でもアイオーンじゃなくてアンブロシウスなんだ。速度特化だから合ってるけど。
「ククク……面白い。お前達を分類A以上の操縦者と認識する」
「そりゃ光栄ね……それとも余裕かしら?」
「フン! 正々堂々となぶり殺しにしてやろう! さあ、ショータイムだ!」
何が気に入ったのか知らないけど、どうも強敵に認定されたっぽい。ふざけんじゃないわよ。
私と簪は左右に分かれて飛ぶとボーデヴィッヒの【シュヴァルツィア・レーゲン】へ十字砲火を仕掛ける。
……参ったわね。変換容量全部試作品にしてきちゃったから普段通りには出来そうに無いわ。
「王の巨腕よ、打ち砕け!」
「突進だと? ふざけるなっ!」
『敵IS右腕より特殊フィールドの発生を確認、現在データ照合中』
右腕装備用ブースター付き巨大ナックル『ポルシオン』で殴りかかるが、六花からの妙な情報に慌てて針路を変える。
あの機体は第三世代、って事はまず間違いなく特殊な武装がある!
『ヒット。PICと同質の反応から【アクティブ・イナーシャル・キャンセラー】と推測されました。
特定力場内の物質の慣性を停止及び操作する技術です。接近戦は危険と判断します』
「それじゃあ左の『ビゴー』も使えないじゃない……六花、両手の二つを量子化、『メガスマッシャー』を出して!」
『了解。胸部粒子砲、展開します』
両腕のナックルを解除し、量子化していた胸部粒子砲『メガスマッシャー』を出す。
スペック通りなら威力は充分だけど、燃費の悪さも折り紙つきらしい。主兵装はこれで良いけど、もう一つ欲しい。
「六花、他に使えそうなの何か持ってたっけ!?」
『検索します。巨大格闘用クロー『アウトロー』、アウト。物理巨大刀『鬼丸』、アウト。
……ヒット。全身装甲型多連粒子砲『ボルテッカ』、手部可変粒子砲『レイガン』、使用可能。
ただし使用されるエネルギーからシールドパック『フォートレス』への換装を提案します』
「何でどれもこれも燃費悪いのばっかなのよぉっ!?」
私と六花が漫才をしている間も打鉄弐式から放たれるミサイルと迎撃の砲弾が飛び交っていく。
砲弾はドカンドカンと放たれるシュヴァルツィア・レーゲンからレールカノンだ。ああいうの無いの!?
『折角だしデカいの撃ちまくりたい、とマスターが仰った筈ですが』
「……そうだったわね。やっぱり『コレ』使うしかないのかしら」
『賛成。恐らくワイヤードパックの切り札ならばAICに防がれる事はありません』
撃ち出されるワイヤーブレードが地味にシールドエネルギーを削っていく。迷ってる暇は無いわね。
と、六花から警告音が鳴る。この音は警告じゃなくて注意喚起だっけ?
『注意。打鉄弐式より高エネルギー反応、荷電粒子砲『GENO』を使用する模様』
「させるかっ!」
「それはこっちの台詞よ!」
『背部コンテナ開放、拘束用ネットミサイル『ダンディライオン』一番から四番、発射』
……ワイヤードパック『スパイダーガール』には他のパックにない特殊な装備がある。それは『相手を拘束する為の武装』。
その一つが背部コンテナに収まる六連装拘束用ネットミサイル『ダンディライオン』だ。それを二基装備している。
そして発射された弾頭が弾け、GENOを撃つ為に足を止めた弐式目掛けて飛んでいたレーゲンの針路を阻む。が、それはあっさりと切断されてしまった。
「この程度っ!」
『高エネルギーのトンファーブレードにより切断されました。粘着効果は期待できません』
「でも良いわ! 『ワイヤーガン』発射!」
『進路クリア。ワイヤースタンガン『ワイヤーガン』一番二番、発射』
私達に背を向けたレーゲンに対し、腰部ジョイントに一門ずつ搭載しているワイヤーガンを放つ。
見た目はレーゲンのワイヤーブレードとそっくりだが、こちらのは二股になっている。更に電撃機能付きだ。
が、流石に同種の武器を持っているだけあるのか、背後からの奇襲はあっさりと避けられた。ついでに弐式の荷電粒子砲も。
「まずはお前からだっ! 停止結界の餌食となれ!」
「機体が……!?」
「簪っ!」
命中精度を上げるために空中に停止していた弐式にレーゲンが接近し、AICを使う。その瞬間、弐式はピクリとも動かなくなってしまった。
「落ちろっ!」
「きゃぁぁっ!」
そこに容赦なく撃ち込まれるレールカノン。更にトドメとばかりにプラズマ手刀がお腹に突き立てられた。
「こんのぉっ!」
「かかったな!」
「っ!? しまった!」
瞬時加速を使ってレーゲンに接近した瞬間、ガクンと機体の動きが止まる。
その視線の先にはレーゲンの無骨な右腕が翳されており、私もAICに捕まってしまったのだと即座に理解できた。
「さて……先の二人は大人しく出て行ったようだし、これで援軍も期待はできんぞ。王手だ」
「……そうね。それと知らないみたいだから教えてあげるわ」
「ほう? 何だ、言ってみろ」
獲物を前に舌なめずりは三流……じゃなかった。こっちだった。
「私はね、一人じゃないの―――六花ぁっ!」
『肩部独立粒子砲『インコム』一番二番、目標補足完了』
「なっ―――遠隔操作ユニットだと!? 馬鹿な!」
AICに補足される直前、真後ろへ向けて射出されていた二基のインコムが地上スレスレを通ってレーゲンの後ろへ現れる。
と、何故か急にAICを維持できなくなったのか、私の体も動くようになった。よし、これなら!
「メガスマッシャー!」
『インコム、ファイア』
「くぉぁああああっ!」
三方向からの高出力粒子砲を受け、レーゲンが大きく揺れる。十秒も受ければシールドエネルギーが尽きかねない大火力コンビネーションだ。これで勝つる!
が、ボーデヴィッヒは被弾しながらも機体を飛ばし、レーザーの連続照射から逃れてしまった。
『報告。今までのデータと照合し、AICはレーザー兵器の防御には不適である事が予測されます。
また、使用に極度の集中を必要とする為、複数の展開等の使用は不可能な模様』
「六花、アンタ戦いながらそんな事考えてたの?」
『ご迷惑でしたか?』
「まさか。最高よ」
下がるレーゲンを追わずにインコムを巻き戻し、その間に六花の報告を聞く。
「流石は教官の妹と言う事か……いや、ドクトル謹製の機体性能故か?」
『お褒めに預かり感謝の極み―――マスター』
「あら……仕切り直しと行きたい所だけど、邪魔が入っちゃったわね」
「うおおおおおおっ!」
ハイパーセンサーが示すのは闖入者。今一つ空気の読めない我が愛しの弟であった。パリンと割れるアリーナのバリアー。
「大丈夫か、千春!」
「まーね。でも何でここに?」
「アリーナの外で鈴とセシリアに会ってな。千春達がアイツと戦ってるって聞いたんだ」
その意気やよし。でもアリーナのシールド切り裂いてくるのはどうよ。
「一夏、簪は無事だよ」
「織斑、君……」
「そっか、良かった。シャルルもありがとうな」
推進系がやられたらしい簪がデュノア君に支えられてこっちに来る。んー、ちょっと強度が足りないかな?
「さて……散々やってくれたな」
「フン、貴様か。丁度いい、ここでお前から血祭りにあげてくれるわ!」
「こっちのセリフだっ!」
ポーヒー、とどこか気の抜けるブースト音を響かせてレーゲンが白式へと斬りかかる。
一夏も雪片弐型を展開し、手刀と鍔迫り合いをしようと振りかぶった。どっちも鍔無いけど。
……が、
「何をしているか貴様らっ!」
デデーン! とどこかから聞こえてきそうな御大将……もとい我らが姉君の登場である。うん、そこまでは問題ない。
けど姉さん、そのレーゲンの方を止めた『ISの全長よりも大きいブースター付きの肉厚な剣』は何?
……確かそれ、源ちゃんが作った『斬艦刀』シリーズの一つよね? 取り回し重視の鬼丸よりずっと大きいじゃない。
「教官……!」
「千冬姉!」
「お前ら、力が有り余っているようだな。ならばそれは今度のトーナメントで発揮して見せろ。
以後、トーナメントまで一切の私闘を禁じる! 解ったな?」
二人が剣を収めたのを確認し、姉さんは巨大な実体剣を肩に担ぐ。だからそれもう重量の単位、トンだよね? ね?
◆
キンクリ食らったような気がするが気のせいだろう。無事にトーナメントは中断された。うん、それ無事じゃないよね。
何かタッグ決めのドサクサで一夏の次回のタッグの相手は簪になったらしい。こりゃ千春の差し金だな、抜け目がない。
が、問題はそこではない。
「………。」
「………。」
俺の目の前には箒さん。今日も今日とて良い所が無かったお嬢さんである。こないだとは尋ねる側が逆だ。
「……専用機、か?」
「……はい」
まあチート頭脳のお陰で劣化しない原作知識から考えれば当然だな。でも言う相手が違うだろうが。
「アレだな、一夏達とつるんでると感覚が狂ってくるよな」
「は……?」
「箒よ、世の中には代表候補生なのに専用機を持てない人間が山ほどいるのを知っているか?」
「―――っ」
もう自然とSEKKYOU臭くなってしまうのは諦めよう。元々こいつらより年食ってるんだし、それをするのに相応しい立場に居るんだ。
……本当なら千冬かやまやの仕事の筈なんだけどなぁ。ま、こういう相談を持ちかけられるぐらいには信頼されてるのかね。
「一夏と千春は別として、他の連中には専用機を受領するだけの理由がある。解るか?」
「……優秀だから、でしょうか」
「一言でいえばな。細かく言えばセシリアはBT適正が高かったからだし、鈴は俺がアイツ経由で空間圧作用兵器の論文を中国に渡したからだ。
シャルロ…シャルルはデュノア社のテストパイロットだからだし、ラウラはあんなナリだが少佐階級だ。あ、簪は純粋に優秀だからだな」
姉のちょっかいも多分にあるんだろうが、簪は単体でも充分優秀な奴だ。
ネガティブも最近は克服できてるみたいだし、あと一歩かな。
「で、特に誇れるものは胸くらいしかないお前さんは前例を作った俺を頼りにきた、と」
「むっ、胸は関係ないでしょう! 胸は!」
「はっはっは。だが無理だぞ? 理由は幾つかある。聞くか?」
「……はい」
どうしてコイツは一々俺の相手をまともにやると疲れるって事を学習しないんだろうか?
こちとら持ち味はテンションのギャップとセクハラだ。箒にとっては束とは違った意味でやり辛い相手だろう。
「まず一つ、現在専用機のネタがない。お前自身どんな機体が欲しいって希望は無いだろ?」
「ええ、まあ……」
「次に時間がない。今度の臨海学校に備えて色々と準備が必要でな、時間が空いてないんだ」
「各種装備の試験……ですよね?」
そーそー。狙撃用セットとかね。
「そんで表向きはこれが一番の理由。コアが無い」
「……ん? では、六花のコアは……?」
「IS条約締結前に束に一つ貰っといた。だから実はコアの総数って467じゃないんだよね」
「……本当にお似合いですね」
はっはっは、そう褒めるな。照れるじゃないか。俺に嫌味は無駄だぞ?
「実はこっちが最大の理由なんだが人には言えない大事な秘密。
……お前に勝手に作ると束が怒るだろ」
「そう……でしょうか?」
「アイツお前の事大好きだからなー。後でちょっと電話してみろよ、喜んでコアごと作るぞ」
「………。」
……本当なら箒は専用機の一つや二つ、既に持っていてもおかしくはない。身柄を狙われた事も一度や二度じゃきかないんだし。
だが、何故か未だに持っていない。束が満足できる性能の機体ができない、とかならまだ良いが……箒の精神性を考慮した上で、なのだとしたらちょいとばかし問題だ。
「子に親は選べん、とは言うが兄弟姉妹も同じ事だ。折角のコネだ、存分に使え」
「……良いんでしょうか?」
「世の中、何一つ平等であった試しなんざねーよ。お前だって立派な乳持ってんじゃねーか」
「だ、だから胸は関係ないでしょう!」
はっはっは。危ないから真剣出すのやめて。
「確かアイツ人によって着信音変えてるらしいし、自分のケータイからかけてやりな。喜びのあまりテンションぶっちぎるかもしれんが」
「……解りました。失礼します」
「ほんじゃなー、おっやすみー」
箒は一礼して踵を返す。今回の束の挨拶はやっぱりもすもす終日なんだろうか?
なんて考えて約二分。疲れたしそろそろ寝ようかと思ったら来客です。
「入るぞ」
「……ノックぐらいせぇや」
何でちーちゃんは勝手に入ってくるのか。と言うかお前、今まで出待ちしてたのか?
「知るか。ほれ、束だ」
「ん? 噂をすればなんとやら、お前の左斜め16度後ろに俺ガイル?」
『裏拳で鼻っ柱叩き折るよー。やっほーおひさー』
おひさー。と返しながら千冬のケータイと空間投射ディスプレイを接続する。
ヴン、と低い稼動音を立てて束の顔が現れた。っつーかお前そこ暗くね? 赤とか目に悪くね?
「源蔵、今日のあのシステムの事だが……」
「あー、それか。ああ、ありゃ俺達がドイツに居た頃に作った演習用プログラムが元になってるな」
『ふーん……あ、アレ作った所は謎のキノコ雲と共に塵になったからね』
「よくやった。褒美として俺の嫁になる権利をやろう」
『オプーナ買う権利の方が良いなー』
それはともかくVTシステムだ。シュヴァルツィア・レーゲンに原作通り搭載されていた代物だったが……正直最初に見た時は驚いたね。
どこであんなモーションパターンとか入手したのかと思ったら、あれ俺が入れたやつだったわ。
「元々はその場に居ない奴の代わりをするためのシステムだったが……不完全極まりないが一応第五世代技術ではあるぞ」
『んー、束さん的にはあんな不細工な代物を認める訳には行かないんだけどねー』
「技術の蛭子は何時の時代も生まれるもんさ。エルカセットとか」
「何か果てしなく間違った例えな気がするのは私だけか」
気にしない気にしない。あの時代は何か色々とアレな感じだったし。文化的にも。
『あれ? そーいえば見慣れない所だけど……ゲンゾー、そこどこ?』
「え、俺の部屋だけど?」
『……ふぅーん』
キョトン、と可愛らしい擬音から一転、ジト目でこっちを見下ろしてくる束さん。何かあったか?
『そっかそっか。そっちで一つだけセキュリティが破れない所があったけど、そこがゲンゾーの所だったんだ』
「何やってんのお前。っつーか何でいきなり機嫌悪くなったよ」
『別にぃー。ゲンゾーってそういう所は昔から気にしないよね』
「?」
駄目だチート頭脳使っても解らん。ええい一夏を呼べぃ! あ、やっぱいらね。戦力にならなそうだ。
『ちーちゃん』
「解った解った。源蔵、これを外してくれ」
「はいはい。ポチっとな」
最後までどこか不機嫌そうな束の顔がディスプレイごと消える。千冬は苦笑してるし……何なんだ?
『――――。』
「ああ、解っている。心配するな」
『――――。』
「全く、相変わらずだな……源蔵、お前ももう寝ろよ」
千冬はケータイを片手に部屋から出て行く。どうも束は何か言ってるようだが距離があって聞こえない。
「ああ、おやすみ」
……だがまあ、久々に三人揃っての会話は楽しかったな。
俺と束がグダグダと駄弁ってたまに千冬が突っ込む……なんか小中の頃思い出しちまった。
箒に発破はかけといたし、まず間違いなく臨海学校に束は来るだろう。ははっ、やべぇ。今からスゲー楽しみなんだけど。
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束さんちょろっとだけ出て来るの巻。次回以降束さんの出番がガンガン増えていきます。
そして束さん久々の登場記念って事で遂にその他板へ移動しました。初の移動なのでドキドキです。
地味に箒をちゃん付けしなくなりました。本人と向き合い始めた証拠。束と源蔵の身内判定の違いはFateのライダーとセイバーの違いに似てたりします。
……そして自然と厨二病を患うラウラ。あれぇ? おっかしぃなぁ……。
次回、臨海学校一日目まで行く予定ですがその前にあるキャラが登場します。ヒントは「大抵のSSでクズ」。乞うご期待。
◆