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第十話「これはISですか?」
臨海学校の(公的な)最大の目的、装備試験の時間がやって参りました。ここは臨海学校名物大自然アリーナである。あと多分束はその辺で出待ちしてる。
っつーかついさっきまで一緒に飯食ってたしね。ああもう束可愛い束マジ可愛いあとヘタレっつったやつ誰だ表出ろってここ外だよ。
「よーし、そんじゃそろそろ説明すんぞー。黙れメスガキ共ー」
一応ここに来ている人間の中では一番偉いので俺が進行をする事になる。それだけなら誰かに任せたい所だが、こちとら技術部の長である。俺以上の適任は存在しない。
「これから装備試験を始める。訓練機は学園から打鉄とラファール・リヴァイブを五体ずつ持ってきたから、一班につき十一から十二人だな。
良いか? お前らひよっこの為だけに2年3年の精鋭達が機体を使った訓練ができなくなってるんだ、ぶっ壊しなんざしたら承知しねーぞ」
「「「はいっ!」」」
うむ、良い返事だ。整備科の人間としては今回の作業を通じてそっちに進む人間が出てきてくれるとありがたいんだが……。
まあ、俺謹製のネタ装備を嬉々として眺めていた連中も居たので来年も問題は無いだろう。整備科の三割は大体そんな連中だし。
「さて、そんじゃ次は専用機持ち連中か。あ、訓練機組はもう始めてて良いぞー」
「「「はーい!」」」
「はい良いお返事で、って事でおはよう諸君。下らん種馬を取り合う雌(笑)君は遅刻したようだが、良く眠れたか?」
「……全面的に言い返せない自分が憎い」
かっこわらい、まで発音しておくのがポイントである。はっはっは、相変わらず弄りやすい眼帯娘だ。
専用機組は俺、千冬、一夏、千春、箒、鈴、セシリア、シャルロット、ラウラ、簪だ。やまやは訓練機組の面倒を見ている。
「で、早速だが何故ここに篠ノ之君が居るのかを説明しよう。おーい、良いぞー」
「呼ばれて飛び出ておーぷんささみ! とぉっ!」
工工工エエエェェェェ(´Д`)ェェェェエエエ工工工、とどこぞのメタトロンのように回転して束が崖から飛び降りてくる。その着地点には世界最強の羅刹が一人。
所で束よ、ササミを開く……つまり胸を開く、と言う事か? これは言い換えれば乳を出すと言う事であり要するにメガスマッシャーですね期待します。
「ちーちゃー……」
「ふんっ」
インパクトの瞬間にガシッと頭を掴んでアイアンクロー。ホント人間業じゃないよね、アレ。
「やぁやぁ会いたかったよちーちゃん。さあハグハグしよう! 愛を確かめ合おう!」
「五月蝿いぞ束。第一、お前はもう少し周りへの影響と言う物をだな……」
「はいはい民のため民のため。相変わらず容赦の無いアイアンクローだねって痛い痛い痛いよちーちゃん!?」
普段の一割り増しぐらいでギリギリとアレな音が聞こえる。やめてお前が力入れると脳から色々出ちゃうからやめて。
と、相手をするのが面倒になったのかアイアンクローからぽいっと束が投げ飛ばされる。ホント腕力半端ねぇなお前。
「源蔵、やれ」
「あい解った……勝手気ままなお前の所業、俺が許さん! 我が掌に、嫁を貫く雷を! 行くぞ!」
左腕のスタンガン機能を解放し、空中放電を起こす。某パンツを脱がないあの人の技だ。
流れているのは千キロボルトほどの高圧電流だが、この程度なら問題なく防げるだろう。
「紫雷掌!」
「ぐほぁっ!?」
っつーかカウンター喰らいました。だからお前どうしてそんな身体能力高いの? 親譲り?
とか考えてる間に今度は左の掌打が入る。レバーやめて破裂しちゃう中身出ちゃう。
「ごふっ……それ、どっちかっつーと焔螺子じゃね……? っつーかマジ痛いんですが」
「六塵散魂無縫剣の方が良かった?」
「……スンマセン」
死ぬから、それ。とか何とかやってる間に訓練機組含めて全員がこっちを見ていた。手を休めるな馬鹿者共。
束は束でさっきから頭を抱えてしゃがみこんでいた箒の方へと駆けて行く。
「やぁ! にぱー」
「……どうも」
「いっひひー、久しぶりだねー。こうして会うのは何年ぶりかなー」
うむうむ、久方ぶりの姉妹の再会、実に良い絵だ。特に胸部装甲とか。やっぱ姉妹だよねこいつら。
「………。」
「簪、まだ大丈夫よ。本来乳房は二十歳を越えた辺りで成長してくるものなのよ」
「……うん。ありがとう、千春」
あ、そーいやこいつらは……うん、まあ。
あと鈴、お前はもう無理だ。諦めろ。
「大きくなったね、箒ちゃん! 凄く嫌いじゃないよ、特におっぱいがぐべっ!」
「天剣絶刀ぉっ!」
「ノームを侍にするのは無理があると思うが。大人しく後衛にしようぜ」
あと2以降はリストr……げふんげふん。
「いつまで漫才をやっている。束、自己紹介ぐらいしろ」
「えー、めんどくさいなー。高町教導官一等空尉だよー、はろー。終わりー」
「……そうかそんなに血を見たいか。源蔵の」
千冬も久々の対応のせいか沸点が下がってきてるね。やれやれ、怒りっぽいと皺が増えるぞ?
そしてどうして血を流すのが俺なのかな。これは暗にお前が何とかしろって言ってるのかな?
「はい傾注。コイツが篠ノ之束、もとい俺の嫁だ。いいかラウラ、正しくはこう使うんだ。覚えとけ」
「実演感謝します、ドクトル」
「……それで、頼んだ物は」
あ、無視しやがった箒の奴。ええい一夏、奴の乳を揉んでやるのだ! お前のラッキースケベ力なら行ける!
「んっふっふー、勿論できてるよ。さぁ、大空をご覧あれ!」
「親方! 空から女の子……いや、ラミエルが!」
どごーん、と猛スピードで落下してきたにも関わらず、一切先端が埋まっていない八面体が姿を現す。
その外枠が量子化によって姿を消すと、そこには初期待機状態で固定された真紅の機体が収まっていた。
これぞ最高に極悪燃費な最強機体、国際IS委員会の実務担当の胃に幾つ穴を開けるか楽しみなお嬢さんである。
……実は六花も同レベルにアレな機体ではあるのだが。むしろコア二つ積んでるのバレたらもっと酷いかもしれん。
「じゃじゃーん! これぞ箒ちゃん専用機こと【紅椿】! 全スペックが現行ISを上回る束さんお手製だよ!」
「ほほう。ならばカタログスペックを見せるか俺に乳を揉まれるか二つに一つだ、選ぶが良い」
「ん、しょっと。はいこれ」
そしてナチュラルに胸の谷間から記憶媒体を取り出す束。ええいそこを代われメモリースティック!
「どっこいしょっと。どれどれ……おお、やっぱ第四世代型か。そろそろ来る頃だとは思ってたが」
「第四、世代……!? 各国で第三世代機の実動が始まった段階なのに……!?」
「ゲンゾー、膝貸してー。それでそこはホラ、天才束さんだから」
俺が適当な場所に腰を下ろすと、またナチュラルに膝の上に束が乗ってくる。この体勢も懐かしいな。
あと束さん、胸が腕にちょこちょこ当たってくるんですが。当ててるんですか? 当ててるんですか。
「さぁ箒ちゃん、今から最適化と専用機化を始めようか! スペック見る代わりにゲンゾーも手伝ってね」
「任された。おーい箒ー、さっさと乗れー」
「……はいっ!」
おーおー力んでる力んでる。しかしこの二人は何だかんだで似た者姉妹だよな。
箒は意外と天才肌だし、二人とも後先考えないし。あとコミュニケーション能力も箒は若干足りてないし。
「箒ちゃんのデータはある程度入れてあるから、あとは最新データに更新するだけだね」
「あー、やっぱ春先の身体測定のデータ盗んでたのお前か。言えば送ってやったのによ」
「駄目だよゲンゾー。女の子の体重その他のデータはトップシークレットなんだから」
鼻歌交じりに必要なデータを紅椿にぶちこんでいく。ここで俺が堂々と見てるのは良いのか姉よ。
と、訓練機組の方から何やら剣呑な空気が漂ってくる。だからお前らは見てないで動けっつーの。
「何よ、身内だからって最新鋭機を……!」
「おやおや、不平等だって言いたいのかな? 世界が平等であった事なんて一度も無かったって言うのに」
「そーそー、それにその論理だと千春も同罪だぁね。それに前から言ってるだろ、えこ贔屓されたかったら気に入られてみせろってな」
それに最新鋭機も良い事ばかりじゃないぞ。白式とか後付装備一切できないんだし。多分紅椿も。
「はい、入力終了ー。超早いね流石私、っと。箒ちゃん、変化が終わるまでちょっとだけ待っててね」
「解りました」
「……俺の時と大分反応が違うな。六花」
『常日頃の言動の影響かと思われます』
どうして癒しを求めてトドメを刺されなければならんのか。最近六花が冷たい。雪だけに。
「下らない事考えてないで白式と……六花、だっけ? データ見せて。あといっくんとはるちゃんはIS出してー」
「あ、はい。来い、白式!」
「解りました。虚数展開カタパルト作動! 機神招喚!」
『汝、気高き刃。六花・ハミングバード!』
一夏に比べてネタ濃度300%くらいの千春と六花が新たな姿を現す。今回の為に俺が用意した新装備、ファストパックだ。
六つのジョイントに一基ずつ1メートルを超えるサイズのブースターが搭載されたその姿は見るからに高速型である。
でも千春さんや、流石に二回連続でデモベネタはちょっとアレだと思うぞ。
「ハミングバード……? ねぇ、ゲンゾー」
「ああ、気付いたか? その通り。このパックは超高速機動型で、大気圏離脱用ブースター『ハミングバード』の進化系である【ハミングバードMk-Ⅱ】を六基搭載している」
「そっか……ふふっ、なんだか懐かしいねー」
元々一基だけでも第一宇宙速度を超えられるブースターを二基搭載していた第零世代IS『ハミングバード』。そいつを今の技術で再設計したのがコイツだ。
一基当たりの出力その他は下げてあるが、全リミッターを解除した時の総合的な性能は倍以上だ。今の状態でも燃費を無視すれば最高時速は四千キロオーバーである。
因みに第零世代ISは他に【白騎士】を含め数機が存在する。【暮桜】も第零世代機を改造した物だ。
「ふむふむ……二機とも面白いフラグメントマップになってるね。白式はともかくとして、六花はAIの影響かな?」
『私の事も六花、とお呼び下さい。ビッグ・マム』
「ゲンゾー、この機体って第五世代の概念実証機なんだっけ?」
「ああ。とは言え無人機も遠隔操作もまだだから分類自体は第三世代機だがな」
ヒロインズの方から「五!?」とか聞こえてくる。そーいや言ってなかったっけ?
「まあ白式も第四世代の概念実証機と言えなくも無いし、ある意味お揃いだな」
「白式が!?」
「うん。雪片弐型は紅椿に使われている第四世代技術【展開装甲】の試作品なんだよー。
零落白夜を使う時に変形するでしょ? それが展開装甲。紅椿は全身をそれにしてみました、ぶいぶい!」
さっき貰ったデータを再度表示する。展開状況はマニュアルで変更する必要があるから簪の方が向いてるだろうな。
「流石に触れただけで零落白夜相当、なんて事にはならんが十二分に高い威力が期待できるな。だが束さんや、燃費はどーなんよ?」
「えっとー……か、解決策は用意してあるよ?」
「あれもこれもと手を出すからそうなるんだ。即時対応万能機と言えば聞こえは良いが、今の箒の腕で使いこなせるのか?」
「「うっ……」」
やっぱ姉妹だよなこいつら、リアクションそっくり。お、装甲形状の変化終わった。
「そんじゃ箒、試運転も兼ねて飛んでみな。最高にハイになれるぜ」
「ええ。それでは試してみます」
「ゲンゾー、それ私の台詞ー!」
騒ぐ束を尻目に、紅椿は箒の思い描く通りにPICを起動させて空へとカッ飛んで行く。
カタログスペックよりかなり遅いが、初回はまあこんなもんだろう。それでも充分早いが。
「何これ、早い!」
「これが第四世代の加速、ということ……?」
『技術的に寄り道をしている第三世代機は信頼性、スペックにおいて不安定な点が多々あります。単純比較は不適切かと』
いつの間にか待機状態に戻っていた六花が冷静にツッコミを入れる。
因みに第四世代は第二世代と、第五世代は第三世代と同系列の発展の仕方と言える。
「どうどう? 箒ちゃんが思った以上に動くでしょ?」
『ええ、まあ』
「じゃ、刀使ってみてよ。右のが雨月で、左のが空裂ね。武器特性のデータ送るよーん!」
束が自作した特殊な形のキーボードを弄った数秒後、雲の一つが吹き飛ばされる。
「良いね良いねぇ! 次はこれ撃ち落としてみてね。ナイトメア・ハードレイン……名付けて、シェルブールの雨!」
急に声のトーンを変えた束は展開式ミサイルポッドを量子展開する。レーザー砲もあるのか?
そこから打ち出されるミサイルミサイルミサイルまたミサイル。16発どころじゃないぞコレ。
が、それも紅椿の性能からすれば大した事は無かったらしい。ホント燃費以外は最高級だな。
「うんうん、良いね良いねぇ。あ、それじゃゲンゾー、また後でね」
「はいはい。んじゃ俺もそろそろ仕事……って早いなオイ」
千冬にバレながらもこっそり束がログアウトしていく。それと同時に現れる『緊急事態発生』のウィンドウ。
あーめんどくさい。
◇
「これよりブリーフィングを始める。佐倉先生、説明を」
「あいよ。ハワイ沖で試験起動してた第三世代型【銀の福音】、コイツが暴走した。そんでここの近くをカッ飛ぶから横から殴って止めろって話」
「……おおまかにはそんな所だ。ただし銀の福音――以後福音と呼称する――は時速2450キロを超える速度で移動中だ。
これを止めるには学園の訓練機ではいささか力不足であり、お前達専用機持ちが直接相手をする事になる……何か質問は?」
和室に機材を持ち込んで無理矢理作った作戦室に俺達教員と専用機持ちの八人が集う。説明楽しようったってそうはいかんぞ。
日本人組は大なり小なり緊張しているが、他の代表候補生達は何かしらの覚悟を決めた顔をしていた。
「布陣はどのようになるのでしょうか?」
「五十分後にここより二キロ離れた海上を通過する事が予想されている。よって教員が海域の封鎖を行い、その間にお前達が戦闘をする事になるだろう」
「対象の性能把握は可能ですか?」
「軍事機密である為、この情報が漏洩した場合は最低二年の……おい」
その『説明している途中でいきなり表示するんじゃない死にたいのかお前は』って目はやめて。まだ死にたくないの俺。
「俺が自分で作った物の性能を見て何が悪い。小さいウィンドウだと見辛いからメインモニターに回した、それだけだ」
「全く……ついでだ、説明しろ」
「アメリカとイスラエルが共同開発した特殊射撃型。高機動性を活かした強襲からの広域殲滅が目的だな」
これは俺が『一人で大画面で性能の確認をしているだけ』であり、聞こえるのは全て独り言だ。だから機密漏洩の罪には問われない……筈である。
何とも苦しい言い訳だが、これも作戦の成功率を上げる為だ。下っ端は難しい事考えないで突っ込んだ方が強いんだよ。
「福音は超音速で移動しているので現実的なアプローチは一回。それで決めなければいけないな」
「「「(じー)」」」
「……って、俺!?」
「零落白夜でバッサリやれば済む話だからな。そりゃそーだろ」
無論、話はそこまで簡単ではない。一夏の技量じゃ暴走状態の福音に勝てるとは到底思えないし、エネルギー残量の関係もある。
「随伴機が欲しいな……この速度に着いて来れるってなると二人だけか。千春、オルコット、お前らもだ」
「私は強襲用高機動パッケージ【ストライク・ガンナー】を使用する、と言う事でよろしいでしょうか?」
「ああ。それに超音速訓練経験がある奴は必須だし、千春は万が一に備えてのバックアップをしてもらう」
「ちょぉっと待ったぁっ! とぉっ!」
一夏が二人に牽引されて行くのか、と他の連中が思いついたであろう時に天井の板が外れてウサミミが現れる。
ただ床置きモニターの上からではなく、何故か俺の真上だ。そのままぽすんと胡坐をかいていた上に束が落ちてくる。
「それなら断っ然っ! 紅椿の出番なんだよー! パッケージなんか使わなくても展開装甲をちょちょっと弄れば高速戦闘に対応できるんだから!」
「……源蔵、つまみ出せ」
「俺の部屋にお持ち帰りしても良いんなら。束、データ見せて」
はいはー、とメインモニターに紅椿の展開装甲を変形させたデータが表示される。
比較用にストライク・ガンナーのデータが表示されてるのは嫌がらせなんだろうか。
「データ蓄積がちょっと足りないからこっちで展開状況を変えてあげる必要があるけど、七分くらいで準備完了だよー」
「……佐倉先生、パッケージのインストールにかかる時間は?」
「十分もかからん。それと束、『全性能が現行ISを上回る』って看板は下げた方が良いぜ?」
ほぇ? ともう襲いたいくらい可愛らしく小首を傾げる束の表情が固まる。その視線の先にはメインモニターに表示された三機目の情報だった。
「ハミングバードに高機動射撃装備【ガンナーズ・ブルーム】を持たせた状態だ。最高速、加速力、旋回能力はこっちの勝ちだな」
「えぇ~!? そ、そんなぁ~!」
「燃費は当然だし『各種能力の特化』に特化したISである六花なら、万能型でしかない紅椿には負けやしないぜ」
ふはははは、と笑う俺と悔しいのかぽかぽかと殴ってくる束。傍から見れば微笑ましいがやっている事は最先端の技術競争である。
あと少しずつ打撃が正確になってきてるんだがって痛ぇ! 今メコッて、メコッて!
「……ならば紅椿も作戦に加える。織斑弟・篠ノ之の攻撃分隊と織斑姉・オルコットの随伴分隊で一個小隊を形成する。異議のある者は?」
「「「………。」」」
「ならば各員、迅速に行動を開始しろ。作戦開始は三十分後だ!」
千冬がビシッと決めるが、その表情はひどく疲れているように見えた。おかしいな、昨日一夏のマッサージを受けた筈だが……。
「んー……まあいっか。じゃあ箒ちゃん、外で展開装甲の形状を変えよっか」
「オルコット、お前もインストール始めるから表出ろ。あと誰か三番のパッケージコンテナと五番の武装コンテナ持って来い」
まあ俺達がやる事はどんな時でも機械弄りだ。俺が居る事で戦力も増えたし、もしかしたら勝てるかもしれないからな。
人目につかないように移動し、ISとコンテナを展開させる。そして束の周りにはメカニカルなパーツが現れた。
「これはISですか?」
「いいえ、作業用アームです……もといこれが束さんの移動用ラボ『吾輩は猫である』だよ」
「精密作業用のアームが四本、ねぇ……まあ俺には要らん物だな」
駄弁りながらガチャガチャとISを弄る俺達。アームは作業速度を上げるための装備のようだが、生憎と俺の左腕一本の方が早い。
と、少し離れた所でガンナーズ・ブルームの量子化を行っていた千春達がやって来る。流石に早いな。
『装備のインストール終わったよ、ダディ』
「今度はセラエノか。で、お前らから見てどうだ? ガンナーズ・ブルームは」
「射撃ユニットとブースターをくっつけただけの簡単仕様。でもその分信頼性は高いかな」
俺作の数々のネタ装備をテストしていたせいか千春と簪は結構武装関連の造詣が深い。刀一本の一夏とは当然ながら比べ物にならないほどに。
ただ、その影響なのか六花は俺が作った装備以外は一切受け入れないし、打鉄弐式もロマン度が低い装備は相性が悪い。お陰で倉持ん所に怒られました。
「よっし、終わり! ゲンゾー、そっち終わった?」
「ああ、後は馴染むのを待つだけだ。もうやれる事はねーな」
そう、前線に出れない俺にできるのはここまでだ。競技用機能制限の解放も学校の敷地外だから使えないしな。
……できる事なら、無事に終わってくれると良いんだが。
◇
無理でした。クソァ!
俺は現在、一夏が寝かせられている部屋の窓際の椅子に腰かけ、ある作業をしている。すると襖が開き、千春が顔を出した。
「……源ちゃん、一夏の様子は?」
「バイタルは安定してるから心配すんな……密漁船を発見できなかった俺達の落ち度だ、そう気に病むな」
原作通りに密漁船が発見され、千春とセシリアが退去勧告をしている最中に福音が二機に反応。
注意を逸らす為に一夏達が無茶してエネルギー切れからの流れは殆ど一緒だ。強いて言えば帰還が若干早かった程度か。
作戦行動中である事を理由に排除していれば各国からの学園に対するバッシングは避けられないし、何より緊急作戦だから超法規行為規則が適用されん。
箒、千春、セシリアの三人はそれぞれ思い詰めているが、ここは原作よりも軽減されている事を祈るばかりだ。
「……作戦はどうなるの?」
「一応継続中。日付が変わるまではこっちの受け持ちだからな」
「……そっか」
ただ俺を除く学園側は福音の現在位置を把握しきれていないだろう。俺だって各国の軍事衛星ハッキングしてようやく見つけたんだし。
外はすっかり夕暮れに染まっており、そろそろ事態が動くであろう事を予感させる。と、スパンと襖が開いて鈴が姿を見せた。
「千春、箒連れて来て」
「……オッケー。先行ってて」
そう言えばすっかり忘れてたが、ずっとこの部屋に箒居たんだったな。流石空気さん。
……じゃあ、俺もそろそろ行きますか。
◆
「福音はここから30キロ離れた地点、上空200メートルで停止している。一番良い装備を頼むぞ」
「大丈夫、問題無いよ」
ラウラがドイツ軍から福音の位置を入手し、私達に教えてくれる。それにしてもすっかり変わったわね。
私としてはラウラに思う所もまだあるんだけど……まあ、一夏にも仲良くしろって言われたしね。
「私が砲戦パッケージ【パンツァー・カノニーア】を使い初撃を担当する」
「私はストライク・ガンナーで撹乱と機動防御を担当しますわ」
「僕はセシリアに牽引してもらって奇襲。その後は防御パッケージ【ガーデン・カーテン】で防御だね」
「機能増幅パッケージ【崩山】を装備したアタシと機能を調節した紅椿の箒は水中から、と」
「展開装甲は極力使わずにエネルギー切れを防ぐ。シャルロット、防御は任せたぞ」
「私は……一撃の重さを重視して、背面装備を近接装備で固める……!」
「後は私がスパイダーガールと射撃ユニット替えたガンナーズ・ブルームで全体のサポートと火力支援かな」
『現状ではこれが最適でしょう。機能制限があるのが気掛かりですが、勝率は八割を超えるかと』
六花が全員の意見をまとめる。七対一という圧倒的に有利な状況でありながら勝率が低めなのは、福音の能力もあるけど単純に六花が辛口なだけだ。
「待ちな」
さあ行くぞ、と全員がISを展開しようとした所で後ろから声がかかる。
あっちゃぁ……見逃してくれると思ったんだけどなぁ……。
「腐っても教師なんでな。生徒が勝手に危険な事しようってのを見逃す訳にはいかん」
「……言って聞かせるだけで、止まると?」
「思わん。むしろ逆だよ、なあ? お前らもそう思うだろ?」
源ちゃんの声に合わせて森の中や岩の陰からISが姿を現す。
それらは全て打鉄とラファールであり、それを纏っているのは―――、
「あ、相川さん!? 四十院さんに布仏さんまで!」
「田嶋、夜竹……岸原とリアーデも居るのか」
「ナギに静寐も? バレたらタダじゃ済まないわよ?」
「私も居るよぉー!? 何で真っ先に出てきたのにスルーされるの!?」
一年一組の面々である。因みに名前を呼ばれていないのは谷本さんだ。
「生憎と俺はお前らみたいに前線には立てないんでな。戦力の増強ぐらいしかしてやれん」
『それで共犯者を増やそう、と言う事ですか。軍機に関わる情報もありましたが?』
「確認は取ったから良いんだよ。それに使えそうな武装も幾つか用意してあるしな」
五機ずつの打鉄とラファールは全てがバラバラの武装を持っている。恐らくそれらは今日試験される予定だった装備だ。
……その殆どがネタ装備であるのは言うまでも無い。中には二人羽織のようになっている機体すらある。
「見た目は不揃いだが性能は俺のお墨付きだ。砲撃支援なら充分行けるだろ」
「全く……姉さんに殺されても知らないよ?」
「お前らが生きて帰れば大丈夫さ……取れる責任は俺が取る。勝って来い」
やれやれ、と私は肩を竦めた。源ちゃんの事だ、何かしら理由をつけて問題ないようにしているんだろう。
向こうの方では一組の面々が一夏の敵討ちだと盛り上がっている。死んでないっての。
「ここまでお膳立てされて、負けたら悔しすぎるよね……行くわよ六花!」
『イレギュラーが発生しない限り負ける事はまず無いでしょう。IS展開、起動します』
「……さあ、諸君。反撃の時間だ!」
◇
『初弾命中っ! 撃て撃て撃て撃てぇっ!』
『ピサリス0186……待ちに待った時が来たのよ! 多くのモブが、無駄キャラでなかったことの証のためにっ!』
『早めに片付けてあげるわ! ティロ・フィナーレ!』
『対IS狙撃砲コルヴァズ……イア、クトゥグアッ!』
始まった。何か色々とアレな名前も聞こえてくるけど、それでも源ちゃんのお手製だ。威力だけは折り紙つきだろう。
『貴女に、力を……!』
『粒子加速プレート展開、エネルギー充填完了っ! マイクロウェーブキャノン、発射ぁっ!』
『機動性が高い! 避けられてるぞっ! 敵機なおも接近中、距離残り七千っ!』
光が闇夜へと走っては消えていく。中にはグレネード等もあり、離れている筈の私達ですら熱気を感じるほどだった。
『くっ……本音ちゃん、計って!』
『えっとね~、距離四千五百~』
『今度は外さない……!』
今頃はシャルロットが悔しがってるかな、と意味の無い思考が浮かんで消える。私も割と緊張しているらしい。
『距離残り三千っ! 各員接近戦準備!』
『迎撃します! せぇのっ……ギガスマッシャー!』
『皆! 今の内に抜剣しといて! キール、モードロワイヤルッ!』
『これでも喰らいなさい! アイアンカッターッ!』
『私は癒子……癒子”ザ・ウィザード”よ。故あってこの狩りに参加したわ。福音、貴女に恨みはないけど―――あっ』
ありとあらゆるネタ兵装が使われるが、それでも福音の足は止まらない。軍用ISは伊達じゃない、って事かしら。
あと谷本さんがやられた。
『グロウスバイルと電磁抜刀で前に出るわ! サポートよろしく!』
『オッケー! ビゴー、ジオインパクト展開っ! 行っけぇぇぇっ!』
『行くわよ、合わせて! 言霊転送!』
『光り射す世界に、汝ら騒乱住まう場所無し! 渇かず飢えず止まりなさい! レムリア・インパクト!』
『昇華!』
流石にここまでやると通信を聞いているだけで『やったか!?』と失敗フラグを立てそうになる。
そろそろ作戦も第二段階に移る頃だし、そう気を抜いてもいられないわね。
『ビッグシャチ祭りで吹っ飛ばすよ! リバウンドお願い!』
『無茶しないで! ヴィーマックス、発動!』
『よし、規定ポイントに到達! 総員散開っ!』
―――来た。ここからは私達の時間だ。
『参りますわよ、福音っ! 先刻の借り、返させて頂きますっ!』
『取られた台詞の分は活躍させてもらうよっ!』
『よし、訓練機組は前衛と後衛でエレメントを組んで退避! 支援砲撃に徹しろ!』
セシリアとその背に乗っていたシャルロットが最初に仕掛ける。その間にラウラは距離を取って皆に指示を出していた。
幾らオールレンジで戦える広域殲滅型と言っても所詮は一機。二機以上で組めば戦い方は幾らでもある。
『ガーデン・カーテンを破るには間合いが甘いよ!』
『踏み込みが足りませんわっ! そこっ!』
『反撃が減った……逃げる気だ! 出番だぞ!』
予想通り福音は退避行動を取ろうとする。でも甘い。こっちの戦力は出てる分だけでISが13機。そう簡単に逃げれる相手じゃない。
『はぁぁぁぁっ!』
『さあ、思いっ切りとかちつくしてあげるわっ!』
逃走を始めた福音の進行方向に紅椿とその背に掴まった甲龍が姿を現す。
さて、それじゃあ私達の出番ね。
『予定段階へと事態が移行しました。行動を開始します』
「行くわよ、簪」
「うん……!」
隠れていた岩礁から外へ飛び出す。福音との距離はおよそ千三百、機動型からすればあるようで無いような微妙な距離だ。
けど今は四方八方から砲弾が飛び、敵味方が縦横無尽に飛び回る戦場という名の地獄絵図だ。もう初めても良いだろう。
「六花、インコムとダンディライオン全弾発射!」
『了解。インコム一番二番射出、ダンディライオン一番から十二番発射』
「コロッサル、抜刀……!」
爆音が渦巻く戦場へインコムが駆けていき、ダンディライオンが空中でネットの花を開いていく。
私と簪はその間に距離を詰め、逃げ場をなくした福音へと攻撃を開始する。簪の武装は以前姉さんが生身で使った超巨大物理刀だ。
『Laaaaaaaaaahhhhhhhhhhhhhhh!』
『福音よりロックオン反応。迎撃、来ます』
「バラ撒くだけの弾幕なんかっ! 簪っ!」
「山嵐、発射……!」
福音に搭載されている唯一の兵装がこっちにも撒かれ始める。ダンディライオンの殆どがこれで撃ち落とされた。
けど弐式に搭載されている高性能爆薬より一発ごとの威力は低く、少し密集している所へ一発撃ち込めば活路は開ける。
『弾道支配領域予測を開始します。予測ルートに従って行動して下さい』
「六花、ワイヤーガンの制御権こっちに回して! 簪、私のお尻の匂いが嗅げる位置に着いて来なさいっ!」
「……下品だよ、千春」
顔の半分を隠すバイザーに映るのは菱形の歪んだ柱。それがこっちを狙ってガンガン伸びてくる。
私はそれを時に掠め、時に大きく避けながら進み、度重なる攻撃でロクに動けていない福音の真下へと飛び出した。
皆の度重なる攻撃に福音は対応しきれず、私達がこの距離まで迫っている事に気が付かない。これで終わりよ!
「ブースター点火、最大出力……!」
「こっちも行くわよ! ガンナーズ・ブルーム『要塞殺し』!」
『―――!?』
ワイヤーガンで左右の逃げ道を塞ぎ、私達は装備に搭載されているブースターを一斉に点火する。狙うは左右の巨大な翼、ウイングスラスター。
「ぶち抜けぇぇぇぇぇっ!」
『黒の棘尾、インパクト!』
接触する瞬間に引き金を引き、左の羽を根元から打ち壊す。六花の正確なサポートがあるからできる技だ。
「私に断てぬ物、無し……!」
私に一拍遅れて巨大な刀が振り上げられ、簪の決め台詞がウイングスラスターを切り落とした事を教えてくれる。
残心をとっている間に福音が海中へ落ちる音が聞こえ、撃墜した事をハイパーセンサーを通じて確認した。
「やった……のか……?」
「油断は禁物よ。皆の支援砲撃が無かったらどれだけ苦戦してたか……」
『海中より高エネルギー反応―――異常事態発生! 異常事態発生! 退避勧告! 退避勧告!』
「六花!? どうしたの!?」
数ヶ月前に初めて会った時から今の今まで、六花のこんなに慌てた声は聞いた事が無い。
私は六花に語りかけて異常を探るが、それよりも早く巨大な水柱を上げる水面が異常の原因を教えてくれた。
空中放電を繰り返すフィールドに包まれ、胎児のように空中に静止する福音。その膨大な熱量が海水を蒸発させていく。
福音は私達の攻撃で罅割れた装甲をそのままに、今までとは比べ物にならない程のエネルギーを迸らせた。
そのままゆっくりと空中に直立すると、私達が切り落としたウイングスラスターの代わりとも言うべき『エネルギーの翼』が現れる。
『銀の福音のコア・ネットワークからの断絶を確認! 強制的に第二形態移行を実行した模様!
危険危険危険! 退避を提案! 撤退を提案! 逃走を提案! 離脱を提案! 避難を提案!』
「提案を却下! どうしたのよ六花! 幾ら何でもこの戦力差で―――」
「うわぁっ!?」
「ラウラッ!?」
ドン、と巨大な熱量が空を切り裂いていく。その音に反応してそっちを向くと、そこには海上へ落下していくシュヴァルツィア・レーゲンの姿。
……まさか、一撃で……!?
『警告! 警告! 敵性戦力の増大を確認! 戦闘空域からの離脱を提案する!』
「こんのぉっ!」
「鈴、落ち着いてっ!」
『■■■■――――ッ!』
鈴とシャルロットが福音へ向かうが、今までとは比べ物にならない密度のエネルギー弾が弾幕を形成する。
データには砲門は三十六って書いてあったけど、今の攻撃はどう見ても百を超えている。
高速切替と衝撃砲でそれに対応していた二人はやがて弾幕へ飲み込まれ、先のレーゲンと同じように夜の水面へと消えていく。
『支援部隊へ通達! 緊急事態発生、早急な撤退を指示! 繰り返す、早急な撤退を指示する!』
『は、はるる~ん! どうしたのいきなり~!? それに福音は~!?』
「ごめん皆! 六花の指示に従って! 訓練機じゃ勝てそうに無いわ!」
六花の通信を皮切りに訓練機部隊へ指示を出す間に、直撃を受けて箒とセシリアが落とされる。
私はその光景に慌てて六花からインコムの制御権を奪い、PICによって空中に静止している中継ユニットを全て回収した。
回収が終わり、私が福音の現在位置を再確認しようと顔を上げると、そこには私を飲み込みかねない大きさの青白い光が―――、
「くぅ……っ!」
『直撃判定! 敵機攻撃力尚も増大! 退避を勧告する!』
「簪!? どうして!」
「友達は守らないと……それに、弐式が言ってる……今勝てるのは、千春達だけだって……!」
エネルギー砲、とでも言うべき福音の攻撃を零式斬艦刀で簪が防ぐ。その刀身が焼き切れるのと奔流が収まるのはほぼ同時だった。
簪が斬艦刀を投げ捨て、1メートル程度の出刃包丁『鬼丸』を右腰から取り出す。純粋な物理兵装で耐久力は斬艦刀より上らしいけど……。
「弐式が……?」
『否定。ネットワークより断絶され自己判断で第二形態移行まで行った福音に対抗し得る戦力も覚悟も存在しません!』
「……六花。初めて会った時より、ずっと……人間らしくなったよね」
「簪……?」
様子見をするように留まる福音を警戒しつつ、簪は空いた右手に夢現を展開する。近接戦闘をするつもりなんだろうか。
……他の機体の穴を埋めるように装備を選択したせいで、今の簪はこの上ない火力不足に陥っている。山嵐も全弾発射はあと一回が限度だろう。
それでも、簪は口の端に笑みを浮かべている。
「私……『二人』に出会えて、良かった……」
「だ、駄目よ簪……そんな台詞、死亡フラグど真ん中じゃない……!」
「大丈夫……弐式が守ってくれる」
『危険! 危険! 敵性ISより高エネルギー反応! 攻撃、来ます!』
そう言うと簪は『私達』に背を向ける。口元が僅かに震えているのは恐怖からか、ボイスインターフェイスを使っているからか。
「それじゃあ、行ってきます」
不意に、簪は、笑って―――、
『■■■■―――ッ!』
ドボン、と水面を揺らした。
「……六花」
『危険危険危険! 予想危険度最大! 撤退要請! 撤退要請!』
「……アンタ、悔しくないの?」
『入力情報が不適切と判断します! 不適切でない場合は具体的な入力をお願い致します!』
……ああ、確かに六花は人間らしくなっている。小憎たらしい位。目の前に居たらぶん殴ってるわね。
さっきから福音が『私』に攻撃を仕掛けてこないのも、攻撃する価値も無いと思われているからだろうか。
―――第一コア稼働率54%
―――第二コア稼働率11%
「あそこまで大法螺吹いといて、途中までノリノリだった癖にさ……たかが第二形態移行しただけじゃない」
『第一形態移行と第二形態移行では戦力の変化率が違いすぎる! 敗北の危険性、極大!』
「それでも……ここまで仲間をやられて、アンタは黙って見過ごせるの?」
『……入力情報が不適切と判断します。不適切でない場合は具体的な入力をお願い致します』
うっわムカつく。小憎たらしいなんて評価は不適切ね。ただただ憎たらしいわ。
―――第一コア稼働率63%
―――第二コア稼働率14%
「答えなさい、糞AI! アンタは誰でどんな奴!? そして今は何をする時間!?」
『……私は、六花。佐倉博士により生み出され、貴女に仕え貴女に従い貴女の力となるAI。そして今は―――』
『あの敵を、倒す時間ですっ!』
―――第一コア稼働率76%
―――第二コア稼働率29%
―――合計100%オーバーを確認
―――【インフィニット・ドライブ】スタート
ドン、と『私達』から力が溢れ出る。それは可視化するほどのエネルギーの奔流であるとハイパーセンサーは示していた。
「これは……!?」
『インフィニット・ドライブ……私に搭載された二つのコアを励起・共鳴させ、擬似的に稼働率上限を引き上げる技術です。
現在私は擬似的に第二形態移行した状態にあり、全能力の上昇、被物理ダメージの回復等の発動が確認されています』
「ははっ……とっておき、って事ね?」
『それだけではありません』
一つ目のコアの頂点から走るラインが二つ目のコアの反対側の頂点へと走る。
それはコアの外周を経由し反対側から離れて一つ目のコアへとラインが交差する。
その光は一つ目のコアの外周を経由し、最初にラインが現れた場所へと戻った。
その形は、『∞』。故に常識を超えた力を手にする事を可能にする。
「何よ、もったいぶらずに言いなさい。まさか……」
『単一仕様能力【虚像実影】の使用が可能になりました。説明を行いますか?』
「やっぱりね。使いながらで良いわ、一番気をつけないといけない事は?」
『制限時間が一分しかありません、ご注意下さい』
上等。ここまで引っ張っといて使えなかったらスクラップにするわよ?
『単一使用能力『虚像実影』、起動します。レインダンサー、メテオストライク、レーザービーム、スタンダード、グラップラー、展開』
六花の声と共に私の周りに変化が訪れる。右下に二機、左下に二機、真下に一機、『ISが現れた』。
私を一番上の頂点として六角形―――雪の結晶のように布陣したISは非常に見慣れた機体、と言うか六花そのものだ。
違うのは全身装甲で覆われた操縦者と装備しているパック。右下がレインダンサーとメテオストライク、左下がレーザービームとスタンダード、真下がグラップラーだ。
ここまでお膳立てされれば私だって解る。
「無人機と遠隔操作……第五世代技術、か」
『はい。五機の操作は私が行いますのでスパイダーガールの全操作をお願い致します』
「言ってくれるじゃない。やってやるわよ……行けっ!」
私の号令に合わせて六花が舞う。全機が手にGAU-ISを持ち、上から下から右から左から正面から福音へと突っ込んでいく。
レインダンサーが高密度の弾幕を形成し、レーザービームの攻撃を本命として撃ち込む。
メテオストライクが54発全てを一斉に発射し、先の二機も合わせてスタンダードがその援護をする。
正面からグラップラーが突っ込み、その後ろに私が続いた。
『しまった、グラップラーよりもフォートレスの方が適任でした。申し訳ありません、マスター』
「特攻にはアレが一番だからね……ダンディライオン、全弾持ってけぇっ!」
既にスタンダードの分を合わせて72発のミサイルが飛び交う戦場へ更に12発、最後のネットミサイルを射出する。
私はグラップラーより若干下から福音へ進み、ワイヤーガンを福音めがけて発射した。
「できればインコムを使いたいけど、やっぱ私じゃ操作しきれない……!」
『残り三十秒。間も無くグラップラーのダメージが危険域へ到達します』
「突っ込ませなさい! どうせ修理は源ちゃんが勝手にやるわよ!」
『了解。他の機体も残弾が無くなり次第、全機吶喊します』
その報告を皮切りにグラップラー、メテオストライク、レインダンサーの順に福音へと突っ込んでいく。
残った武器はGAU-ISとそれに付いている銃剣だけ。銃剣ぶっ刺して撃ち続けるつもりなんだろう。
『全機残弾零。吶喊します』
「オッケー、合わせるわ!」
福音は罅割れから小さな羽根を生やし、全身にひっついた六花達へと攻撃する。私もそれに混ざると更に迎撃は強くなった。
―――熱い。痛い。苦しい。けど、仲間は皆やられてしまった。訓練機組は無事だろうけど、あの子達が敵う相手じゃない。
「……なら、ここで決めないとね」
『残り十秒、全GAU-IS残弾零! 全機ナイフ展開―――アタァック!』
「だらぁぁぁぁぁぁっ!」
遂にGAU-ISの弾も無くなり、本当に最後の武器である内蔵ナイフ12振りでの攻撃を開始する。
斬り、突き、断ち、裂く。この5機が消えるまでに倒せるか、福音が耐えきるかの勝負だ。
「うぉあああああああああああああああっ!」
『残り五秒、展開機の量子化の開始を確認!』
「止まれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
……零。散らす火花が消え、全方向からの力が消えて福音ごと前につんのめる。
『報告。エネルギーエンプティ、搭乗者保護機能の発動許可を』
「却下よ……どの道これで倒せなきゃ……」
『―――報告。敵機健在。敵ISはエネルギーを全身より放出し、防御に成功した模様』
「なっ―――」
最悪なんて言葉じゃきかない。絶望、としか言いようのない展開。与えたダメージはゼロじゃないけど、倒すには至らない。
……PICも最低出力まで低下した六花はゆっくりと落下を始め、私は福音に頭を掴まれた。
「ガッ―――!」
『敵ISより高エネルギー反応……シールドバリアーを頭部へ収束! 搭乗者保護を最優先っ!』
『■■■―――、』
ギリ、と頭蓋が軋む。痛い。バイザーが歪んで割れる。痛い。指の隙間から光が漏れる。痛い。
……熱い、痛い。怖い、痛い。嫌だ、痛い。助けて、痛い。誰か、助けて、嫌だ怖いよ、痛いよやめて、誰か誰か誰か誰か―――、
「い、ち……」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
ズン、と頭から響く衝撃。この場に居る筈のないアイツの声。けど、この匂いは間違いない。
「馬鹿……遅いわよ……」
……ああ、せめてこんな時くらいは素直に褒めてあげるべきだったかな。
「源兄ぃに増設ブースター借りて駆け付けたんだぜ? これ以上は無理だよ。
……大丈夫か? 千春」
どうしてコイツはこういう歯の浮くような言葉とシチュエーションが似合うんだろうか。確かに皆が惚れるのも解らなくもないわ。
「まあ、助かったから良しとしますか……ありがとう、一夏」
「何がだよ……大丈夫そうだな、良かった」
バイザーが砕けたせいで通常のハイパーセンサーのみになった私の視界一杯に映る愚弟の顔。
……まあ、顔だけは悪くないわよね。あとそろそろ下してくれない?
「一夏っ!」「一夏さん!」「一夏っ!」「一夏ぁっ!」「一夏っ!」「織斑君……!」
ダメージがある程度回復したらしい皆が寄って来る。
はて、何かおかしい点があるような……? まあいいや。
「皆、心配掛けてごめん。もう大丈夫だ」
「本当……? 凄い怪我だったのに……」
「ああ。源兄ぃが言うには搭乗者の生体再生機能らしいけど……まあ細かい事は俺にもよく解らないんだよ」
……相変わらず適当に生きてるわね、アンタ。まあ源ちゃんもそれを解ってて詳しく説明しなかったんだろうけど。
一夏に支えられながら六花のPICで体を起こす。と、その姿が変わっている事に気がついた。
フロートユニットは大型化し、全体的に鋭角な印象を受ける。あ、顔のパーツも変わってるわね。
それに左腕が肥大化し、何かしらの武器が搭載されている事が解る。微かに放熱しているって事は私を助けたのはこれなのかな?
それと背中からX字型のブースターが生えてるけど、これは確か源ちゃんが作った装備だったわね。『クロスボーン』だっけ?
「それじゃあ皆……一気に決めるぞ!」
「あ、ゴメン。私もうエネルギー切れで動けそうにないや」
「っと……まあ、それならしょうがないか。降りれるか?」
さあ行くぞ、って時にいきなり腰を折ったせいで一夏が軽くこける。ところで皆、何か視線が冷たいのはなんで?
「うん、それなら大丈夫……頑張ってね」
「ああ―――行くぞ!」
一夏が私を離し、吹っ飛んでった福音の方へスラスターを吹かす。皆も私に一言ずつかけてからその後を追って行った。
「……ありがとう、六花」
『はて、何のことでしょう? 私は機体の姿勢維持をしつつ、貴女に微小な痛覚情報を与えていただけですが?』
皆が福音へ向かった後、地上スレスレになってから私は六花に礼を言う。足元には丁度いい島が見えた。
……恐らく六花が居なければ皆との会話の途中に気絶していただろう。余計な心配はかけたくない。
「……はいはい、っと。ここ、満潮になって沈んだりしないわよね?」
『大丈夫でしょう……ゆっくりお休み下さい、マスター』
おやすみ、と言う直前、空が金色の光に包まれた気がした。ああ、これは……勝ったわね。
◆
「ふっ、ふふっ、ふふふふっ……凄いね、素敵だよ。まさか二つのコアをあんな風につかうなんて……流石の私でも思いつかなかったなぁ」
「ホントは副産物なんだがな。しかしマジで発動させちまうとは……」
束は断崖絶壁の柵に腰かけ、俺はその後ろの木の枝に座っている。やめろよお前、こっちが怖いからさぁ。
―――緊急作戦『誰がために鐘は鳴る』は佐倉源蔵立案の作戦主導の下、訓練機を含めた18機のISによる攻撃で成功。と言う事になった。
まあ、俺は生徒の暴走の責任を引き受けた形になるので即時処罰は無し。でも多分帰ってから何か言われそう。せめて期末テスト終わってからにしてくれない?
「ま、俺としちゃ装備の試験データが取れたから良いよ。紅椿の方はどうだ?」
「絢爛舞踏含めても42%……初めてにしては上出来かな。それよりゲンゾー、あれって結局どういう能力なの?」
「ん? ああ、虚像実影か? あれは予め登録しておいた予備機を量子展開して、それを六花が操作してるだけだ。
駆動とシールドのエネルギーは本体から取ってるから、六機展開したら一分しか持たないがな。それにレギュレーション違反だ」
「ほう? 中々興味深い話をしているな、貴様ら」
ギャーチフユサーン。
「やぁ、ちーちゃん。良い夜だね」
「そうだな。そうだ源蔵、お前は戻り次第学内査問委員会にかけられる事になったからな。覚悟しておけ」
「げぇ……りょーかい。当面の目標は一機だけの展開が可能かどうか、だな。流石に変換容量は騙せねーしなー……」
微妙に噛み合っているようで噛み合っていないこの会話。ああ懐かしい。
「あ、そーだ。千春、大丈夫だったか? 一応バイタルはリアルタイムで監視してるが、何かあるとまずいからさ」
「それは問題ないだろう。極度の疲労だそうだ」
「頑張ってたもんねー、はるちゃん」
そしてまた話題が一つに戻る。遠くに鳴る潮騒のような会話のリズムが心地良い。
「それにしても、零落白夜どころか生体再生まで可能とは……束、お前は一体何をしたんだ?」
「何って言われてもなぁ……私は単に作りかけの機体に新しい技術を入れて完成させただけだよ。細工って言うならゲンゾーの方が怪しいよ」
「生憎と六花にかかりっきりなんでな、そんな暇は無かったぞ。可能性があるなら自己進化がミソだな」
やっぱりそうか、と三人の間で微妙な空気が流れる。二人とも見当はついてたんだな。
「コアナンバー001……白式に使われているのは白騎士のコアらしいが、本当か? 束」
「そーだよ。でも不思議だよね、零落白夜はともかく生体再生は完全に初期化した機能の筈なんだけどなぁ」
「大方コア・ネットワークに情報が残ってたんだろ。零落白夜を暮桜から入手したのと同じ方法だと見るね、俺は」
―――コアナンバー001。インフィニット・ストラトスという名前がついた後で最初に作られたこのコアは、実は元々俺用に作られたコアだったりする。
体力的な面から見てハミングバードの操縦者には千冬が相応しかったが、その後各種技術を搭載した白騎士は『誰でも使える兵器』であるはずだった。
だが、生体認証絡みのデータをハミングバードから丸写ししたのがまずかったのか、最初は千冬しか操縦者として認めなかった。
白騎士事件後の調整で束は認識できたものの、結局俺は無理だった。そいつを元に作ったせいでご覧の有様だよ! まあこんな女尊男卑が顕著なのも日本ぐらいなんだが。
で、話を戻すとこのコアは元々俺用……つまり白騎士は俺が使う事を想定して作られていた。だから生体再生なんてモンが搭載されているのである。
その頃には俺の左腕も今と変わらない状況になっていたが、束はそれでも納得できなかったんだろう。ありがたいとは思うが、やはり重荷になっていたのかとも思う。
っつーか、千冬が使う機体にそんなもん要らんしな。だって当たらんし、当たってもシールドバリアーあるし。保険としては使えるけどさ。
「あ、そっか。そう言う方法もあるんだね。それなら初期化しても残ってる理由にはなるね」
「もしかしたら俺用だった名残なのかもな、一夏が白式を使えてるのは」
「……一応、筋は通っているな」
千冬はどこか納得し難いと言った感じだ。まあ、結局推論でしかないんだけどさ。
「ただ、多分きっかけはどっかの天才さんが一夏を認識できるプログラムぶち込んだからだろうな。それがネットワークで全部のコアに流れて、アイツが反応したと」
「……片棒を担いだ奴がよく言うな。あれはお前がちゃんとしていれば防げた事だろうに」
「それにその推論、結構穴だらけだよ?」
やかましいわ。んな事は解ってるし、一夏が入学してこないと詰まらんだろうが。あとそろそろケツ痛いから降りるか。
「それで、どこかの天才は今回の件にどれくらい関わっているんだろうな? なあ、束」
「そうだねー、解決の立役者を作ったくらいかなー」
「よっこいせっと……何と言うマッチポンプ臭。何がとは言わんが」
白々しいにも程があるが、流石に今回の事を公にすると束が国際指名手配されてしまう。それに証拠は見つからないだろうしね。
「……ねぇ、ちーちゃん、ゲンゾー」
「何だ?」
「どーした?」
白式の情報を確認していた束はディスプレイをかき消す。その声色はどこか震えているような、そんな気がした。
「―――今の世界は、楽しい?」
「そこそこにな」
「後はお前が横に居てくれれば完璧かねー。それと束」
ん? と肩越しに束がこっちを向く。そこに俺は一言、
「そろそろケツ上げないと痛くなるぞ、その柵ゴツゴツしてっから」
「……ちーちゃん」
「心得た」
あれ? なんでそんな冷ややかな目へぶぅっ!?
◆
アニメ分まで全部終わった……だと……!? 最初はここまで来るとは思ってませんでした(オイ
っつー事で六花が単一仕様能力を使えるようになりました。ただし容量制限を軽く越えてしまうので、今のまま使うと反則負け。
この能力は機体名から来ています。雪片→雪関連の単語→六花→六角形→六体同時展開とかかっこよくね? みたいな感じで。
4巻分はずっと束さんのターンです。つっても一話で終わる可能性もありますが。あと番外で夏コミ編もやります。
そんで5巻分は文化祭の分しかやんないと思います。もっかしたら会長登場で千春視点の話一本やるかも。
そう言えばスパロボの第二次OGが発表されましたね。OGは主人公も新規キャラだったらやってたんだけどなぁ……。
◆
「全く……ゲンゾーはもう少しムードってものを理解するべきだと思うよ。ねぇちーちゃん?」
「お前にまでそう言わせるとは……本当に相変わらずだな、コイツは」
千冬の裏拳で源蔵は膝から崩れ落ち、気絶してうつ伏せに倒れている。空気の読まない者の末路である。
「だって、昨日だって結局何にもしてこなかったし……」
「……お前もお前で相変わらずだな。で、正直な所はどうなんだ?」
「ど、どうって?」
ため息をついた千冬の目に悪戯っぽい光が宿る。これは千冬が束に口で確実に勝てる数少ない話題である。
「コイツだコイツ。お前と箒の仲も何とかしようとしているようだし、好意を示されるのは嫌なものでもないだろう?」
「……そりゃ、好きって言われるのは嬉しいけど、その……は、恥ずかしいもん」
「全く、本当に相変わらずだなお前は……中学生か」
この二人は世界的権威である筈なのに、こういう事になると途端に初心になる。それが可笑しくない筈が無い。
「ちーちゃんこそ相変わらずブラコンのくせに」
そして世界を操るトリックスターは、こういう時に限って最悪のカードを引いてしまうのだった。
「……ほう? そうかそうか。貰い手が居なさそうな親友に遠慮していたが、それも余計なお世話だったか……。
それなら、コイツは貰ってしまっても構わんな? 一夏にも彼氏を作れと言われているし丁度良い」
「だ、駄目ーっ! いくらちーちゃんでもそれは駄目ーっ!」
ババッ、と無駄に良い運動神経を使って柵から地面の側へ飛び降り、束は千冬と相対する。
その目は何時にない真剣味を帯びており、対する千冬はと言えば―――、
「(ニヤニヤ)」
悪戯が成功した子供のように口元を歪めている。
「あ……う……え、えと……ば、バーカ! ちーちゃんのバーカ! おぼえてろー!」
それを見て束は恥ずかしいやら悔しいやら、一昔以上前の悪役のような台詞を残して崖の向こうへと飛び降りていった。
「やれやれ……おい、いい加減起きたらどうだ」
悪戯っぽい笑みは苦笑へと変わり、軌跡を残すニンジンロケットを少しの間だけ目で追っていく。本当は颯爽と去るつもりだったんだろうか、と考えもする。
それもやがて終わり、隣でずっと伸びている幼馴染の腹を蹴り上げた。どうせ起きているが恥ずかしくて動けないんだろう、と考えて。
「ゲボァッ」
「……何だ、本当に気絶していたのか」
奇怪な声をあげて更なる気絶の極地へと進む親友に千冬はため息を一つつき、その巨体を肩に担いで旅館へと戻っていった……。
◆