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第十一話「篠ノ之束の憂鬱」
篠ノ之束は悩んでいた。例の赤い光が光源の部屋の中で。何度見ても目に悪そうだが大丈夫なのだろうか?
……実は彼女が『悩む』というのは珍しい事だったりする。彼女の頭脳は思考そのものの非凡さもあるが、普段は選択そのものに殆ど時間をかけない。
で、何をそんなに彼女が悩んでいるかと言うと、
「むぅ……ちーちゃんは安牌だと思ってたのに……」
先の臨海学校についてのやりとりであった。
「私を焚きつけるためのブラフって事はあるかもしれないけど、万が一本気になっちゃったりしたら……」
そして無駄に高性能な彼女の頭はシミュレーションを開始する。本当に何をしているのかこの娘(今年で25歳)は。
―――織斑千冬。
付き合いの長さ:自分とほぼ同程度。かれこれ二十年以上の付き合い。
実際に接している時間:失踪やら何やらのせいで自分よりも上の可能性あり。
相性の良さ:良い。ボケとツッコミはかなりのレベル。ただし肉体言語多め。
周囲の環境:弟が何かしら言う可能性はあるが、同時に認めても居る。
互いの感情:お互い嫌いではない。源蔵はともかく千冬はもしかすると……。
結論:難敵。千冬が本気を出した場合、勝率は五分五分。
「……まずいよ。まさかここまでだなんて」
源蔵の意識がずっとこっちを向いているからと言って、それが何時まで続くかは解らない。もしかすると明日、いや、今この瞬間にだって変わってしまうかもしれない。
……そんな当たり前の事でさえ、彼女は今の今まで気が付かなかった。だが幸運な事に、彼女は持ち前の聡明さで何かを失う前にそれを知る事が出来た。
だが、どうすれば良いのかは解らなかったが。
「う、うぅ~……どうしよう……」
如何に天才と言えど、それは基本的に一人で積み上げてきた物だ。
故に『誰かと何かをする』事を最優先で考えた経験は殆ど無い。
源蔵も条件自体は同じである筈だが、彼は一応転生オリ主である。その辺の知識ぐらいはある。
「うぅ……」
へちゃぁ、と彼女は椅子に崩れ落ちる。思考の場こそが彼女の領域であったが、公式も何も無い物を導き出すには今一つ経験が足りなかった。
が、それは着信を知らせる電話によって遮られた。この着信音は、彼だ。
「へっ、へぅ!? げ、ゲンゾー!? どーしたの!?」
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「いや、どーしたもこーしたも……遊びに行かないか、と思ってな。折角なんで誘ってみた」
何でコイツは声が裏返ってるんだろうか。また変な遊びでも思いついたか?
『あ、遊びにって……仕事とか良いの?』
「世の中には夏休みってもんがあってな、こっちも例に漏れないんだよ。福音の仕込みも査問委員会も終わったしな」
期末テストと査問委員会がブッキングしまくってたのは引いたが。仕事させろよ。
お陰で学会だの何だの終わらせてたらいつの間にか八月だよ。夏コミの用意はしてあるから良いけど。
『そっか……で、どこに行くの?』
「ああ、ウォーターワールドっつープールだよ。オーナーと知り合いでな、無料チケット貰ったんだ」
『ふ、ふぅーん……』
「ああ、嫌なら別に良いぞ? 一夏達にやって騒動起こすの見てるから」
その場合、明日から全世界の衛星放送を見れるようにアンテナをつける作業が始まります。ああ、千春達にアレのテストもして貰わんとな。
『い、嫌じゃないよ! うん、せっかくだし束さんが付き合ってあげましょう! うん!』
「そっか。じゃあ何時にする? 出来れば早い方が良いんだが……」
『あ、明日! 色々と用意しないといけないから!』
「お、おお……それじゃあ明日十時に駅前で良いか?」
『うん! それじゃあね!』
切れたし。しかし用意が必要なら普通はもう少し間を空けるんじゃないのか?
などと考えていると玄関のインターホンが鳴る。ああ、もうこんな時間か。
「おーっす。そんじゃ源兄ぃ、風呂借りるな」
「ああ。俺は今日はもう入ったから、上がったら温水器下げといてくれ」
「りょーかい」
今日も今日とて一夏が風呂に入りにやってくる。こんな微妙な所でも原作との乖離が起きているのはどうかと思うな、一夏との入浴目当てにヒロインズが突撃してきたりするし。
原作ならたまに大欲情……もとい大浴場が使える程度だが、俺がここに居を構えているせいで「そんじゃお前の所に入れば良いじゃん」って学園の偉い人達に言われてしまったのだ。
俺は入学した当初に気が付いていたが、学園側はそんな事はすっかり頭から抜け落ちていたらしく、結局タッグトーナメントの後に俺の所に話が来た。いいなー大浴場使えて。
「ん? セシリアか。帰って来てたんだな」
また作業に戻ると、監視カメラに人影ありとウィンドウが拡大される。そこには金色のドリルが映っていた。
専用機持ちのスケジュールは把握してるので今日まで本国に戻っていたのは知っている。格好から察するに散歩か?
「……ふむ。本来なら全員揃った所で見せようかと思ったが、まあコイツなら良いリアクションが見れそうだしな」
それに場所も良い。この位置ならギリギリのラインで楽しめる事だろう。
「ぽちっとな、っと」
『うぉ!? な、何だぁ!?』
『あら? あれは……』
スイッチに反応し、二階にあるオーシャンビューが自慢の浴室が外へせり出していく。正確には壁が倒れ、それを足場に浴槽が外へ移動している。
ゴンゴンゴンゴン、と重低音を響かせながら浴槽は完全に露出し、気持ちよく入浴していただろう一夏は状況把握のために立ち上がって周囲を確認する。
まあ、当然ながら裸な訳で。
『あ』
『へ?』
俺は即座に監視カメラのボリュームを絞ると、小さくイチカサンノエッチーとか聞こえてくる。うむ、大成功だな。
「……ん? 今日アイツ帰ってきたって事はもしかして……」
◇
翌日、手早く荷物をまとめてモノレールへと乗り込む。と、そこにはシャルロットとラウラが乗っていた。
因みにこのモノレール、島内だけで4駅あったりする。それがぐるっと島を回って対岸へと渡っていくのだ。
「そう言えばレーゲンってトロンベカラーだよな。はよーっす」
「おはようございます……竜巻?」
「おはようございます。もしかして一夏がやってたアレかな……?」
きっとソレです。でも赤がちょっと違うし、あと変形機構はやっぱり欲しいか。
そして刀一本って事で一夏がレーゲンにまたがるんですね。なんて卑猥。
「おめーらは買い物か?」
「ええ。ラウラの服を買いに」
「その後は色々と見て回ろう、と」
成程。って事は@クルーズには近寄らない方が良いな。あっちは元々行かないが。
「ドクトアはどちらまで?」
「溜まってた仕事が片付いたんでお出かけだ。学会だのなんだので夏休みは忙しくて敵わん」
「お疲れ様です。ああ、そう言えばクラリッサが夏の祭典について連絡が欲しいと言っていました」
「ああ、そーいやそーだな。りょーかい。後で連絡しとくわ」
などと駄弁っているとあっという間に対岸の駅に着く。因みにここが俺達の地元だったりもするのは……多分俺と千冬が絡んでるんだろうなぁ。
だがその分だけ里帰りは楽だし、近郊の都市開発でこの辺も栄えてるから良しとしよう。などと湘南のと同型のモノレールから降りてしみじみ思う。
「しかしドクトル、夏の祭典とは……?」
「アイツの日本知識の源の祭典だ。細かい事はクラリスに聞け」
「ねえラウラ、クラリッサさんって?」
「ああ、名前はクラリッサ・ハルフォーフ。私の部隊の副官だが私よりも年上でな、色々と相談に乗って貰っている」
部隊についてそんなベラベラ喋って良いのかと思うが、よく考えたら【シュバルツィア・ツヴァイク】の操縦者として全世界に公開されてるんだったな。
俺も二人も駅前に移動するのでバスに乗る。よく考えたらここって電車駅とモノレール駅があるから『駅前』って二つあるんだよな。どうでも良いけど。
「そっか、仲が良いんだね。ドクトアはドイツに居た頃に?」
「ああ、自慢の部下だ。ドクトルとは日本の文化を通じて親交を深めたとか」
「まーな。最初は休憩時間中も整備やら何やら聞いてきてな……正直言うとウザかった」
シャルロットはたまに町内のガイドブックに目を通しつつ、ラウラは周囲の地形や建物を確認しながら、俺はぼへーっと会話をする。
あの頃はアイツも軍学校出たばっかりだったからなー。千冬が教官やってたせいか、俺も少し熱が入っていたかもしれん。
「そん時に読んでた漫画に興味持って、今でもたまに連絡取ったりするな。通販やってない商品とか送ってやらんといかんし」
「クラリッサも感謝しているようでした。そう言えば、ドクトルが記事を書いている雑誌の切り抜きもしていましたね」
「……んー?」
どうしたシャルロット。ああ、近所の女子高生の目が気になるのか。地方都市だと外人って珍しいしな。
この辺の連中も学園のせいで国際色豊かになってきたんだし、そろそろ慣れろと言いたいんだがね。
因みに俺は学会誌以外だと『インフィニット・ストライプス』って雑誌でゆるーいコラムを書いている。こないだは何故かグラビア撮りました。何故だ。
「あー、そーいや来月のコラムそろそろ書かないとなー。白式は情報規制解除されてねーし、どれにすっかなー」
「それならばクラリッサとツヴァイクにしては? もう少しコミュニケーションを取りたい、と言っていましたし」
「そーだな。そろそろ第三世代機についても色々と書くか」
「もしかして、クラリッサさんって……」
ワールドワイドOTAKUですが何か? どっちかっつーとタダの漫画好きのような気もするが。それも若干歪んだタイプの。
俺が読んでたのがそもそも王道から少し外れた月刊誌とかの漫画だしなー。少女漫画よりそっちの方が好きな気がするぞアイツ。
「しかしアイツもそろそろいい歳だし、男の一人でも見つけたら良いだろうに」
「確かこう言っていた時は……猫の糞を踏め、とクラリッサが伝えて欲しいと言っていましたよ」
「ああ、やっぱり……言葉の意味は良く解らないけど」
俺も良く解らん。いや、元ネタは知ってるが。などと漫才をやっている間にバスは駅前に着き、二人はてこてこと歩いていった。
そして現在時刻は十時二十分。着いてからもうすぐ一時間が経とうとしております。遅れた秒数の分だけ乳を揉み倒してやろうか。
「なあ、そこんとこどう思うよ。束」
「うぇっ!? そんな、完全に死角から近付いたのに!?」
「ふっ、ハイパーセンサーのちょっとした応よ―――」
誰だコイツ。
いや、束だ。
何この格好。
赤を基調に大胆にも肩と胸元を露出させ、フロントは以前と同じエセエプロンドレス風。スカートはウェーブがかかっており、どことなく涼しさを感じさせる。
日差し避けに被った鍔広の帽子は赤地で、白い大きなリボンが眩しい。手に持ったバッグは取っ手が籐で出来ており、デフォルメされた狼と猟銃が描かれている。
……察するに、一人赤ずきんと言った所だろうか。婆さんどこ行った。
「え、えと、遅れてごめんね? 寝坊しちゃって……」
「……あ、いや、お前が遅刻すんのはいつもの事だしな。別に良いさ」
「そ、そっか……似合う、かな?」
「あ、ああ。てっきり前のと同じ格好で来ると思ってたから、ちょっとビックリしたけど……似合ってる。可愛いと思うぞ」
あーもー何やってんだ俺は。こーゆー時は真っ先に褒めてやる所だろうが。
……正直な所、どこかズレてる束がこういうガチな格好してくると、参る。もう何か色々とすっとばして襲いたくなる。
「えへへ……ちょっとは頑張った甲斐もあった、かな」
「そ、そうか。そりゃ良かった」
「うん……」
「………。」
「………。」
ってうぉーい! 何故ここで黙る俺! そして束! 二人で出かける経験無いって訳じゃないだろ俺ら!
いやまあその理由が電気部品買いに行くとかハミングバード開発用の資材盗みに行くとかそんなんばっかだったけどさ!
……ゴメン。やっぱ無理。滅茶苦茶緊張してるわ、俺。
「あー、えと、それじゃあそろそろ行くか!」
「そ、そうだね! 行こっか!」
俺は先導するために踵を返す。が、その途中で体が止まってしまった。
どうも左手が誰かに掴まれている。確認しなくても解る、これは束だ。引っこ抜けるからやめれ。
「……あ、えと、手……繋いで、良い?」
「……喜んで。何なら腕組んだって良いぞ? まあ暑いだろうが―――」
「じゃ、じゃあ遠慮なくっ!」
「―――手首にクーラーのスイッチがある。暑かったら使うと良い」
ぽ、ぽよんって! ぽよんってーーーーーーっ! う、腕に! 腕にむにゅぁってーーーーーーーーっ!
……拝啓、今は確か雫石温泉の親父殿、お袋様。僕、生きてて良かったです。
◇
さて、やって来ましたウォーターワールド! オーナーの名前は向島光一郎! 皆覚えて帰ってね!
「……ねぇ、セシリア」
「……何ですの、鈴さん」
「……あれ、当て付けかしら」
「……お似合いではありませんか、狂人同士」
一学期の成績赤点にすんぞテメーら。あと目に光無いの怖いからやめて。
「ん? ゲンゾー、あれ何?」
「何、と来たか。教え子だよ、箒のライバルでもある。一夏的な意味で」
「むむ、そうなるとここで排除しておいた方が良いかな? 篠ノ之家の辞書に敗北という文字は不要だからね!」
「無い、と言わない辺りがお前らしいな。けどやめとけ、今度こそ犯罪者として指名手配されるから」
はーい、と束が肩に頭を預けてくる。やっぱこのままホテル行かない? もしくは市役所。
「あ、そうだ源さん。楊候補生管理官がよろしくって言ってたわよ……可哀想に」
「何がだ? そんで、お前らは一夏に予定すっぽかされでもしたか?」
「……そういうドクターの気遣いの足りない所、本当に一夏さんの兄貴分らしいですわね」
褒めるな恥ずかしい。
「……ゲンゾー、楊って?」
「中国の代表候補生管理してる人間。見事なツンデレだな」
誰にデレるのかは知らんが。ツンオンリーのツンデレってそれツンデレじゃないよね。
「……はやく行こ、ゲンゾー」
「はいはい解ったって腕バラすなテメェ!」
「「……はぁ」」
どーせあの二人も今日のイベント目当てに来るんだろうが。巻き込まれないようにコース確認しとかないとな。
束と更衣室の前で別れ、さっさと着替えを済ませる。どーせ男の着替えなんざ脱いで着直すだけだ。
因みに今日つけている左腕は見た目は生身と変わらない夏用防水タイプだ。臨海学校の時も海ではこれでした。
「しかし束の水着か……どんなんだろうな」
妄想するだけで愚息がおっきしそうになるが、一秒間に10回呼吸して心と体を落ち着かせる。何か別の物が出そうだ。
さて問題です、束の水着は次の内どれでしょうか?
1、ハンサムの俺は突如プロポーズの度胸が―――ってこれ違う三択だよ。っつーか度胸無しで悪かったなボケ。
1、ネタ
2、ガチ
3、意表をついて男物
答え―――3、答え3、答え3。現実は非情である。
「そんな訳無いってば……折角頑張って選んだのに」
「へ?」
何か後ろからゴニョゴニョと聞こえてきたと思ったらそこには巨大なスイカが二つ。じゃなかった。束だった。
……いや、あながち間違っちゃいねぇ。そのやまや連峰に迫らんとする束山脈を包んでいるのは、緑地に黒のラインが入ったスイカ柄のビキニ。
一方、下は下で赤地に黒のドット入り。縁は緑色(漢字だと紛らわしいな)で切り分けたスイカのようだ。それが肉感的な尻を隠し……むしろ強調している。
デザインは決して露出が多い方ではない。正直、こないだの千冬の方が多いくらいだ。だが、それでも隠し切れない色香があるのはもう素晴らしいとしか言えん。
まあ何が言いたいかっつーと今この場で子作りしたい。ゴメン下品だった。いつもの事だが。
「ある意味ネタでありガチであり、か……良く似合ってる。ウチに来て俺をファックして良いぞ」
「考えとくー。で、どーしよっか?」
「まあ端から回ってくか。見取り図は……と、コレか」
また何とも傍迷惑な事にスペシャルレースだか何だかのコースが園内全体に通っている。
安全な回避策が無い事が解ったので仕方なくレンタルの浮き輪を借りて流れるプールに乗る事にした。
「ふへぇ~……」
「いや、あの……束さん? その……」
「ふにゃぁ~?」
現在、俺達は浮き輪に乗って流れるプールを流れている。それは別に良い。が、その体勢が若干まずい。
輪の中にケツを入れ、仰向けに浮き輪に体を預ける俺。その『上』に同じように重なる束。某仏像好きの漫画家はこう言うだろう、「これ絶対入ってるよね」と。
「……本当に入れてやろうか?」
「やれるもんならやってみれば~?」
「……ほぅ?」
よーし許可出た。許可出たよコレ。まず手始めに浮き輪に預けていた手を束の腹に回す。
「え……げ、ゲンゾー?」
「どーした? やれって言ったのはお前だろ?」
「や、あの、えと……」
首筋に鼻先を埋め、ふにふにと腹を指で押す。成程、運動してないから筋肉はあんまついてないのか。それで見た目良いって反則だなコイツ。
「や、ぅ……」
「すーっ……はぁー……」
「ん、くすぐったいよ……」
少し弄ってると束も受け入れ始め、吐息が徐々に熱を帯びてくる。ならばと俺は両手を上へとずらし始める。
「ひぅっ!?」
「………。(ゴクリ)」
「や……見られちゃう……」
人目? んなもん気にすんな馬鹿。俺は気にしない、と言う代わりにずっしりとした重量感のある双丘を手の甲で軽く押し上げる。
ほよん、ふるん。ふにん、はよん。むにん、もよん。ういん、によん。もうずっとこれを繰り返したくなる柔らかさが手の甲を通じて伝わってくる。
「あ、あうぅ……」
「はっはっは、どうした? 顔が真っ赤だぞ?」
「う、うぅ~!」
束は反撃しようとするが、生憎と腕ごと俺に抱きすくめられてる形だ。せいぜい出来る事と言えば蹴りと頭突き程度である。
「よ、っと」
「ひゃ!?」
ズボッと水着と胸の間に右手を突っ込む。男は怒張、じゃなくて度胸! こうなったらこのまんま最後までいったらぁ!
因みに左手は束の腕を拘束したままだ。反撃が怖いのもあるが、左手は水温のせいで若干冷たいのである。この手では刺激が少し強すぎるだろう。
「この圧倒的な質量感……むぅ、ガキの頃一緒に風呂入った時から何センチ増えた?」
「い、言わないよ!? 第一、子供の頃なんて計ってな―――ひゃぅぅっ!? も、揉っ!?」
み、が言えてないぞお前。いや、む、か? それはさておき右手に収まりきらない物体に関してだが……最高です。究極です。至高です。この乳を作ったのは誰だ!
掌の中心でガッチガチに硬くなった突起を捉えつつ、右に回すように左に掬い上げるように揉む。時に押し込んだりもしてみる。あーやべ、勃ってきた。
「あ、あた、当たってる! 何かお尻に硬いのっ!」
「愚息がお世話になってます。何、いずれ受け入れるモンだ、今から慣れておいて損は無いだろう?」
「で、でもこれ、ちょっと大きすぎ……」
ふしゅぅぅぅ、と束が顔から湯気を出し始める。因みに俺はさっきからガンガン出てる。もう誰か止めて。
と、俺がそう考えたのがまずかったのか、それとも板的にこれ以上はアウトだったのか。
「ひゃぁぁぁ~! り、鈴さぁぁぁ~ん! わ、私を踏み台にしましたわねぇ~!」
「悲しいけどこれ、真剣勝負なのよねっ!」
「この……あ、ドクター! 丁度良い所に! 失礼しますわっ!」
え、ちょっと待て、そのコースで足出したら顔踏まれんへぶぅっ!?
「お待ちなさぁ~い!」
「あぁ~ばよぉ~、とっつぁ~ん。ってね!」
……束弄りに夢中になりすぎて、いつの間にかゴールの近くまで流されていたようだ。
その結果、俺は踏み台としてセシリアに有効活用され、あのアホ二人は原作同様IS使ってドンパチやり始めやがった。
「た……助かったぁ……」
……悪かったな。
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っつー訳で以上夏休み編その1でした。んでもって10話超えたんでタイトルの台詞縛りやめます。
短いですね解ります。でもここで一回切らないと次の話の長さが中途半端になりそうなんでここまでです。
信じられるか? これだけで4巻半分なんだぜ? つまり次は夏祭りと千春視点の夏休みなんだぜ。
因みにこの後、二人は普通にデートして帰ってます。シャボン玉飛ばしたりスープレックスかましたり。
それと本命束、対抗千冬の他数名エントリーしてます。ただしゲンゾーが気付かないので始まらない。死ね。
あと次は番外の夏コミ編です。全編ネタまみれの実験作になる予定です。大失敗の予感!
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