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第十三話「姉の屍を越えていけ」
「あぁ? 実弾兵装だぁ?」
新学期も始まって9月も4日。全校集会で睡眠時間をガッツリ削られた俺は若干不機嫌だったりする。
で、俺の前にはちょろドリル。もう言い直さない。だって眠いし。
「は、はい」
「ブルー・ティアーズはBT兵器の試験機だぞ? 本当ならスターライトですら余計な武装なんだ、そこんとこ解ってるか?」
「それは解っていますわ! ですが、その……」
キャンキャンと吠えたと思ったら言葉尻が弱くなっていく。やめろ頭に響く。
「ま、どーせ一夏に負け続きなのが悔しいとかそんな所だろ?」
「うっ……」
「はい図星、と。まあ相性最悪になっちまったからなぁ? インターセプターで勝てる相手でも無いしぃ?」
「うぅ……」
しおしおと見事なドリルがしおれていく。スゲーなお前、それどーなってんだ?
「本国には?」
「同じ事を言われましたわ……」
「ふむ……普通ならスターブレイカーの一丁でも寄越す所だけどな」
「あ……確かサイレント・ゼフィルスの武装ですわよね? 実弾とレーザーの撃ち分けができると言う」
そうそれ、と頷くとまたドリルに張りツヤが戻ってくる。だからマジどーなってんのお前。
「ならばそれを送って貰えば!」
「いやそれ無理」
「な、何故ですの? やはりブルー・ティアーズの稼働率が……」
「いや、そーじゃねぇ……ちょいと耳貸せ」
耳は貸せませんわよ? ベタなボケしてんじゃねぇ。と一通りの漫才をしてからちょろーんはしゃがみ込む。シャルロットだったら中身御開帳のポーズである。
「……奪われたんだよ」
「なっ!?」
「犯人の目星はついてるんだが……尻尾が掴めんらしい。お陰で向こうはピリピリしてるらしいぞ」
「そんな……」
その言葉は代表候補生たる自分が知らなかった事か、それともISの強奪そのものに向けられた物か。まあそれはどうでもいい。
犯人はモロチ―――げふん。もちろん某神様になった魔法少女と同じ名前のあの娘だ。後ろには当然ながら亡国機業。
「そんな訳で輸送中に何かあるかもしれんし、向こうとしても慎重にならざるを得んだろうよ」
「確かに……装備を奪われて補給物資にでもされたらたまったものではありませんわ」
「そーゆーこった。だが、ブルー・ティアーズは第三世代機だし、既存の兵器とのコアの相性も良くは無いだろ?」
「ええ。学園側で使用されている実弾兵器は全滅でしたわ……」
はぁ、とアンニュイにため息をつくのと同時にまたドリルが動く。ちょっとお前解剖して良い? こう、輪切りに。
「そうだな、それじゃあ装備側が合わせてやるのが一番手っ取り早いか」
「……お願い、できますの?」
「案だけは一杯あんでね。えーっと……あ、あったあった」
その辺にあった椅子にセシリアを座らせ、俺は空間投射ディスプレイに目当てのフォルダを表示する。
その名も「ゆかなフォルダ」、まあ要するにまたしても声優ネタである。天丼どころの話ではない。
「えーっとまず一つ目、デビライザー」
「ハンドガン……ですの?」
「ああ、だが撃ち出すのは弾丸じゃねぇ、量子変換した物だ。量子化した物ならありとあらゆる物を撃ち出せるぜ」
「……凄いとは思いますが、容量不足に悩まされそうですわね」
むぅ、流石は代表候補生。一発でコイツの弱点を見抜くとは。
「いーじゃん、お前そんな容量使ってる訳じゃねーんだし。それに神操機よか銃っぽいだけマシだろ?」
「……嫌な予感がしますので詳しくは聞きませんわ」
「チッ」
はいじゃあ次。まあこれも量子化武装なんだが。
「死鏡。相手の攻撃を量子化して受け止め、再物質化して相手にぶつけるカウンター用の武器だ」
「……それ、一夏さんにはあまり意味ありませんわよね?」
「荷電粒子砲なんざ受けたら溶けっぞ」
「全くの無意味ではありませんか!」
だって試作品だし。火力馬鹿の相手なんざまともにできるか。
「じゃあコイツは……パッケージだな。水中用ユニット『トゥアハー・デ・ダナン』、ミサイル系の武装コンテナとしても使えるぞ」
「ミサイルは既に二基ありますし……」
「まあミサイルって初速遅いしな。弾幕もメテオストライクとか山嵐レベルじゃないと張れないし」
「あれは反則ですわよ……」
お前、あいつらとも相性悪いしな。因みに勝率だと千春はラウラと同率、簪は鈴のやや下なんだとか。
簪の順位には納得だが、千春ちょっとチート過ぎね? と思ったら六花無しだと一夏よりちょい上なんだと。なーんだ。
「じゃあこれはどうだ? キュアシロ、投げ技用サポートシステム付きの腕部武装だ」
「……何故、投げ技なんですの?」
「白だから、としか言えんな」
「相変わらず訳が解りませんわ……」
解らなくてよろしい。因みに黒を装備した奴とドッキングさせる事により粒子砲へと変形するぞ。マックスハートはまだ設計中だが。
「次は……これもミサイルだな。名前が思いつかなかったんで純粋にミサイルシールドにしてある」
「ピンクなら鈴さんの出番ですわよ」
「チッ……えっと、こっちはBT兵器用の追加演算ユニットだな。六花とインコムのデータが取れたんで作ってみた」
「蒼天の書……後で頂きますわ。他には何かありませんの?」
貰うもんは貰うんだな。まあ本当に簡易的なユニットでしかないんだが。動きも単調になりそうだし。
「デスサイズシリーズのY、狙撃弓『梓』とかどうだ? 残ってるのの中ではこれが一番かな」
「弓矢ですか……確かに良さそうですが、他のも見てから決めさせて頂きますわ」
「つっても後は格闘用の武器しかねーぞ? 斬魄刀シリーズの『凍雲』、斬艦刀シリーズの『護式・斬冠刀』の二本だ」
凍雲は三叉の実体剣、護式は簡易的にBT技術が使われた剣だ。インターセプターの代わりとしては使えると思うが、当然ながら射程は短い。
「そうですわね……可能であれば機関銃が欲しかった所ですが、弓でお願いしますわ」
「んじゃ折角だし、BT対応型で実弾とエネルギー弾の撃ち分けができるようにしとくか?」
「できますの?」
「楽勝、と言いたい所だがここんとこ忙しくてな。学祭終わるまでは我慢してくれ」
お忙しいですものね、と納得したセシリアは立ち上がる。と、それとほぼ同時に千冬の笑い声が聞こえてきた。
……そう言えば、今ってHRの時間じゃないのか? 何故居るオルコット嬢。
「細かい事を気にしてはいけませんわ」
「……あーそーかい」
「それでは失礼いたしますわ」
「はいはい」
さて、一夏がここに居るって事は職員室の外にアイツが居る筈だ。あとアイツが廊下で出待ちしてる筈。
そして俺に近づいてくるアクニャ先生と簪。あの話ですね解ります。
「佐倉先生、四組の出し物なんですが……本当に良いんですか?」
「ええ。二人には既に試作品を渡してありますし、当日までには誰でも使える物を作るつもりです」
「……先生、良いですか?」
「まあ、皆も乗り気だしね。じゃあ一年四組の出し物は『IS/VS新作体験コーナー』で決定、と」
一歩間違えば企業の回し者と言われても仕方の無い出し物である。まあ商標は俺が買い取ったから特に問題はないんだけどね。良い買い物でした。
さて、簪も外にアイツが居るのに気付いているのか、いつも以上にソワソワと挙動不審である。いや、一夏に話しかけるタイミング計ってんのか?
だが残念。一夏は職員室入口で生徒会長とエンカウント!
「―――ッ!」
反射的なのか俺の影に隠れる簪。やめて。アイツに狙われるとか俺まだ死にたくない。
なんてアホな事を考えていると、二人は連れ立って廊下へと歩いて行く。確かこの後は……襲撃だったな。
「疾風怒濤、必殺のラァンスアタァァァック!」
「偽・螺旋剣ッ!」
「八咫雷天流・散華ッ!」
……疲れてんのかな、俺。あとブロークンはやめろ。職員室壊れる。
そして簪は廊下が騒がしくなっている隙に逆方向へと走り去って行った。
あいつって案外足早いよね。お、のんびり歩いてたセシリア追い越した。
◆
第三アリーナでは、セシリアとシャルロットが射撃の精密性を競うように的を撃ち抜いていく。
二人ともほぼ中心を正確に撃ち抜いていくが、心ここにあらずと言った表情だった。それも怒りや苛立ちと言った類の。
「セシリア……それ、本当?」
「ええ……ほぼ間違いなく、原因は一夏さんですわ」
話題になっているのは日本の代表候補生……簪である。本来ならば彼女と同室の千春も居る筈だったが、諸事情によりここには居ない。
それもそうだろう。武装の心配が一応無くなったセシリアを追い越すように、泣きそうな顔で簪が走って行ったのだから。何かがあったのは明白だ。
彼女があれほどの強い感情を見せるのは一人しかいない。彼女達の懸想の相手でもある織斑一夏だ。
「はぁ……本人に悪気は無いんだろうけどねぇ……」
「全くですわ……これが切っ掛けになって直れば良いのですが」
「それで直るようならとっくに直ってるんじゃないかな?」
「ですわよねぇ……」
はぁ、と二人同時にため息をつき、また同時に最後の標的を撃ち抜く。レーザーと実弾と言う違いこそあれ、二人とも実に器用なものである。
「さ、一夏君。こっちこっち」
「ちょ、ま、待って下さいよ会長!」
「むぅ……」
はて、と二人は声のした方を向く。そこには噂の人物、一夏が巨乳生徒会長に腕を引かれて居た。その後ろには不満げなラウラが歩いている。
これはまた何かあったか、また新しい女でもひっかけたなと二人は直感する。それと同時にアリーナの反対側で近接戦闘をしていた鈴と箒に通信を入れた。
彼女達は既に千春からある伝言を託されており、大体何があったのかは察しているのである。
「一夏、千春から伝言だよ」
「え、あ、ああ。何だって?」
「死ね、だってさ……それでどうしたの? 今日は第四アリーナじゃなかったっけ?」
……この後の展開は原作を読んで頂くのが一番分かりやすいので割愛する。べ、別に面倒になった訳じゃないんだからねっ!
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織斑千春は苛立っていた。
理由は簡単。あの乳狸……もとい更識楯無の存在である。簪から一通りは聞いていたものの、どうも聞いていた以上の曲者だったらしい。
先日から一夏に猛烈なアタックを仕掛けており、年上とエロスに弱いあの男がどうなっているかは簡単に想像ができる。まあこれは別にどうでも良い。
問題はあの女が一夏の近くに居るせいで簪のテンションが底値を割り続けている事だ。元々高い方ではないが、ここ数日はお通夜のようだった。
「むぅ……」
で、今は箒がお稲荷さんを持ってたのでご相伴に預かろうと一夏の部屋に向かっている途中だったりする。
……何故あんな面白い物好きの人間がこんな中途半端な時期に一夏に接触してきたのか。これは疑問だったけど、源ちゃんに聞いたら一発で教えてくれた。
「全く、そろそろ機嫌を直したらどうだ?」
「……じゃあ聞くけど、あの女を束さんに置き換えて考えてみてよ」
「む、それは……ど、どうせ源蔵さんでも無い限りそんな事はしない! 大丈夫だ!」
逃げやがったこのアマ。
「はい到着ー……ん? 六花」
「どうした、千春」
『スキャン完了。織斑一夏のほかに生体反応あり、女性です』
「ほぅ……?」
六花にスキャンさせたら箒が怒ったでゴザル。でも幾らなんでも雨月出すのはどうよ?
にしても、女性……あの女かしら? だったらいっその事ぶった切ってくれないかしら。
「一夏ぁぁぁっ!」
『救援に向かわなくてもよろしいのですか?』
「へーきよ。流石に箒に敵う相手じゃないわ」
ギャリン! と金属同士が擦れ合う音が響き、部屋の中が静かになる。終わったかな?
三つ数えてから部屋に入ると、見事に天井に突き刺さってる雨月があった。また部屋直さないとねー。
「お邪魔ー……こりゃまた酷いわね」
「あ、ち、千春か……良かった、また誰か暴れるのかと思った……」
「それ皆に言いふらして良い?」
「やめろォ!」
部屋には肩で息をしてる箒、今にも漏らしそうな一夏、あとクソアマが居た。
「あら酷い」
「ハッ、アンタなんかクソアマで充分よ」
「んー……随分嫌われちゃったわねぇ」
「その無駄にデカい乳に一夏の手でも当てて考えなさい」
あら良いの? と一夏の手を取って自分の胸に持っていく会長。慌ててそれを阻止しようとし、自分の谷間に突っ込んでしまう箒。殴られる一夏。
うん、いつも通りね。
「私としては、簪ちゃんと仲良くしてる貴女とは仲良くしたいんだけど……」
「どの口でそんな事ほざけるのかしら。今あの子がどうなってるか、知らない訳じゃないんでしょ?」
「それは、その……」
しおしおと覇気が薄れていく。ついでに開きっぱなしの扇子の文字も『………。』になってる。
「……まあ良いわ、大体の事情は察したから。お稲荷さんでも食べましょ」
「あら、良いの?」
「大勢で食べた方が楽しい、の一夏理論って事で」
「……ありがとう」
ところで箒、そろそろエリアルやめたら?
◇
「それにしても凄いわよね、貴方達の機体。流石は篠ノ之博士謹製、と言った所かしら」
「そう……でしょうか?」
「ええ。勝率が低いのは単純に貴方達が弱いからよ」
「うっ……」
もぐもぐと稲荷寿司を食べながら駄弁る。話題はいつの間にか私達の機体の事になっていた。
……いや、正確には白式と紅椿だけね。六花は源ちゃんのだし。
「私も自分の機体の何割かは自分で作ったけど、それも佐倉先生の助けが無ければ無理だったでしょうね……やっぱり天才って言われる人達は違うわね」
「ああ、そう言えば簪も言ってましたね。機体、自分で作ったんですよね?」
「ついこの間まで調整繰り返してけどね……そう言えば紅椿の単一仕様能力、使えないって聞いたけど?」
「え、ええ……源蔵さんが言うにはコアと私の意志が一つになれば使えると言っていましたが……」
もしくは大型幻獣三百体倒せば良いとか……良く解んないけど。
その点だと六花は凄い楽よね。条件付きではあるけど好きな時に使えるし。意思疎通も言葉を使えば良いしね。
「一対零のエネルギー消滅能力『零落白夜』、一対百のエネルギー増幅能力『絢爛舞踏』……もう科学と言うよりはファンタジーの世界ね。どんな理論なのか想像もつかないわ」
「流石は第四世代機、って所でひゃぁっ!?」
「お、おい千春!? どうした!?」
最後に残った稲荷寿司を取ろうとした瞬間、目の前がテレビの砂嵐みたいになる。お陰で最後の一個は会長に取られてしまった。
「わ、解んないけど……六花、どうしたの? 故障?」
『………。』
「おーい、六花ー?」
『………。』
おっかしいわねぇ……普段なら絶対に何か返してくるのに。やっぱり故障かしら?
「もしかして、千春さんが他の機体を褒めたから嫉妬してるんじゃない?」
「……そうなの? 六花」
『……私と白式達は言わば従姉妹。彼女達ばかり褒められれば拗ねもします』
いや、それは解ったけどいきなり視覚テロとかやめて。酔うから。
『第一、勝率は私が居れば95%を超えているのです。マスターも私が居なければ弱い方なのですよ?』
「あはは、ゴメンゴメン……感謝してるわよ、六花」
『……解れば良いのです。それにミステリアス・レイディもドクターの作と言えます、彼女にも感謝して頂きたい』
「ええ、そうね……ふふっ、貴女達も面白いわね」
クスリ、と会長は笑みを零す。くぅ……こ、こーなったら嫌がらせしてやる!
◇
「………。」
「………。」
向かい合うのは二人の少女。一方は困惑を漂わせながらも堂々と、他方は恐怖に怯えながらも勇敢に。
その二人の姓は更識―――楯無と簪が、第三アリーナのピットで向かい合っていた。
「……と言う訳で、会長。心の闇と戦う準備はOK?」
「お、おい千春? 一体どうして……」
「一夏は黙ってて。これは姉と妹の問題よ」
私は次の日の放課後、一夏の面倒を見ている会長の所に簪と二人で突撃していた。一夏は放っておく。
フッフッフ、これぞ現状を打破しつつ会長が恐れる最大の事態! さあ、派手に行くわよ!
「……私と、戦って」
「っ……良いわ。私はIS学園生徒会長、故に最強でなければいけないもの。挑戦を受けるわ」
光の粒子を散らして打鉄弐式とミステリアス・レイディが姿を現す。それに合わせて私も六花を展開した。今日の装備はメテオストライクだ。
「流石に……一人だけじゃ、勝てない。だから……」
「私も戦うわよ? まさか更識楯無ともあろう人が拒んだりはしないわよね?」
「ええ……良いわよ。纏めてかかってらっしゃい」
PICを使い、フワリと私達は規定の位置へ移動する。二対一の変則マッチだけど、これでも勝てる気がしないのは何でかしら。
それにしても、何だかんだ言って簪も乗り気じゃない。説得した甲斐があったわね。
「ISファイト、スタンバイ!」
「レディ―――」
「『ゴォッ!』」
開幕一番、私と簪は全ミサイルハッチを開く。ミステリアス・レイディの最大の特徴は攻防に使えるナノマシン入りの水、それを打ち砕くにはこれが一番手っ取り早い。
「マルチロックシステム起動……標的、ミステリアス・レイディ……!」
「機能・悪鬼喰、顕現っ! 狙いなさい!」
『それは私の台詞では……? ロック完了、撃てます』
「細かい事気にしないっ! 撃て撃て撃てぇっ!」
轟、と合計百二発のミサイルが空を切り裂く。それに対し、蛇腹剣で全て切り落とそうとする会長。
普通ならかかったな阿呆が! とか言う所だけど、そうも行かないのよねぇ……もう半分迎撃されてるし。
「右手のペイン、左手のプレジャー……どっちを選ぶ!?」
『どちらにしても同じ。アンサー、デッドですね』
「アクセス、我がシン……! レスト・イン・ピース……!」
私はGAU-ISを、簪は春雷を撃ちながら会長を挟むように回り込む。って言うか簪、そのネタは……私も大概だけどさ。
「簪っ! 手ぇ休めちゃ駄目よ!」
「解ってる……!」
『ッ! 来ます!』
会長は雨霰の弾幕を迎撃ではなく一点突破で脱出し、私の方へと突っ込んでくる。
「貴女達がそれをお望みなら……光射す世界に汝ら闇黒、棲まう場所無し!」
「ゲッ!」
『敵機右腕に高熱源反応有り。水分子を凝縮した上での高振動兵器と推測』
生憎と渇いてるし飢えてるし、無には還りたくないのよ!
「レムリア・インパクトッ!」
「チッ!」
ミサイルの爆風を受けて加速した会長にGAU-ISを放って盾にする。GAU-ISが会長の手に触れた瞬間、物凄い音を立てて銃身が爆発した。とんでもない威力ね。
『罪人の剣の展開を確認。攻撃、来ます』
「マカパインじゃないわよ!」
「おわっとと! むしろアレ知ってるのね、会長……」
続きまだかなー、と考えながらシュランゲフォルム―――これじゃドイツ語ね――の攻撃を避ける。
その隙に簪が後ろへ回り、春雷で会長をロックした。今よ、やっちゃえ!
「エーテルを、ぶち撒けろ……!」
「私のエーテルはこの色よ!」
右手で私にラスティー・ネイルを振り回しながら、左手で蒼流旋を簪に向けてガトリングで牽制する。ホント化け物じみてるわね、この女。
私はもう一度メテオストライクを一斉射し、パッケージをレーザービームに変える。
「悪神セト、蹂躙しなさい!」
『犯せ、侵せ、冒せ―――三回ですね、了解しました』
「どういう意思疎通よ……っと!」
六閃の光が三回空へ走り、その全てを会長は巧みな操作でかわしていく。当たらない、か……なら接近戦よ!
「顕現せよ、退魔刀・雷光!」
『輝きは陽の如し、光、成れ。小雷招来、行きます』
「まさかスライム責め!? しないわよ!?」
だから何で知ってるんですか会長。アレか、やっぱり源ちゃんか。
「武装展開『神と悪魔』……!」
「げっ! やばっ!」
『効果範囲外までの退避完了、安全です』
私の攻撃を易々と防いだ会長に対し、簪は源ちゃんの新作を展開する。危ない危ない、アレ範囲攻撃だから巻き込まれるのよねー。
「成程、だから私にこれを……『天国と地獄』!」
『検索……ヒット、腕部フィールド発生兵器の一号機です』
「なっ、同じやつ!? 何考えてんのよ源ちゃん!?」
まああの人の事だから、特に何も考えてないんだろうけど……。
「アン・パン・マン・ゴー・ウホッ……」
「マム・オル・トン・スー・ウホォ……」
「って、そっちかい!」
『それにしてもこの姉妹、ノリノリである……モレスティングフィールドの形成を確認しました。衝撃、来ます』
さっきのミサイルの爆風に負けない衝撃が私達を襲う。ホント何考えてんのよあのスケベノッポはー!
「はぁぁぁぁっ!」
「くぅ……!」
「チッ、あの中じゃ手が出せないわ……六花、何か手無い!?」
『検索中……っ! フィールド内に変化発生!』
六花が自動でハイパーセンサーを操作し、私にフィールドの中を見せてくれる。と、それとほぼ同時にフィールド自体が弾け飛んだ。
そこには同じ体勢で息をする姉妹。どうも決着がつかなかったらしい。
「なら……」
「これね! 『本気』で行くわよ!」
『モードの変更を確認、手数で攻める模様です』
「え、でも同時って事は……」
ガキン、とミステリアス・レイディと打鉄弐式の腕部装甲が変形する。ああ、アレか。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!」
「……やっぱりそれか」
何だかんだでこの姉妹、仲良いわよね。二人ともいつの間にか笑ってるし……でもこれじゃ決着はつかなそうね。悪いけど、これで終わらせてもらうわよ。
「こいつの封印を解く時が来たわね……六花!」
『巨大ドリル『ロックンロール』展開……世界の未来を貴方に託します』
ラッシュの応酬を続ける二人を他所に、私は全長5メートルを超えるブースター付きのドリルを展開する。
「みんなの祈りがロックンロールに集まっていくわ……燃え上がれ、私の宇宙!」
『GO! ロックンロール!』
「……あれ? 千春?」
「何かしら……この嫌な予感……」
PICではなく純粋なロケットの推力で宙を舞い、急転換してドリルの先端を会長へ向ける。
何か二人が驚いてる気がするけど気のせいって事にしておこう。うん。
「さようなら、バーバラ……愛しているわ」
『魂は次の世代へと受け継がれていきます……ロボ』
「え、ちょ、待っ……」
「冗談でしょ……!?」
ぶっ飛べぇええええええええええええええええええええええええええええええええっ!
◆
その姉妹は夕日を前に並んでいた。その表情に今までのような翳りはなく、その本来の美しさを取り戻している。
「……私ね、貴女に嫌われてるんじゃないかって思ってたの」
「……私も、お姉ちゃんに追いつけないからって……自分が要らない人間なんだって、思ってた」
その噛み合っていない筈の会話は、その本心をぶつけ合う事こそが本来の姿だった。
「でも、そんな事は無かった……そう思いたい」
「うん。そんな事は無かった……そうだよね?」
それを教えてくれたのは、一人の少女。とっくの昔に今の二人が居る場所を通過していた、お節介な女の子。
「簪、貴女は貴女で居なさい。そうすれば……ううん、例えそうでなくても、私には貴女が必要なの」
「お姉ちゃん……私は、貴女が大好き。私は私のまま……大好きなお姉ちゃんと、一緒に居たい」
ぎゅう、と二人はどちらからともなく抱き合う。それは美しい姉妹愛の形だった。
……後ろで地面に突き刺さったままの千春と、暇を持て余している一夏は無視されていたが。
◆
あっさり和解したでゴザルの巻。次回は束分たっぷりの学園祭編です。
で、既に書いてある通り、諸事情により次回更新予定は未定です。むしろ今回更新できてラッキー。
もう少ししたらネットブックが手に入ると思うので、ひょっとしたら以前より更新速度が上がる可能性もあったり。
◆
「それじゃあ、今晩一夏君の部屋にいらっしゃいな。裸エプロンで」
「―――え」
……モゲロ。
◆