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第十四話「鉄鍋のヴァン」
たーばたばたばたばたばたばねっ!
たーばたばたばたばたばたばねっ!
地球にうごめく 雑草共
ケミカルボルトで 支配する
科学の国から 自分のために
陥れて こにゃにゃちわ ウサミミ博士束
レイジングハート そうレイジングハート
あなたの胸に 飛び込んで行くの
トラックよりも キラッ☆
巨大なパワーで ニヤッ☆
あなたのハートを握り潰すの
だ・か・ら 私の全力全開ラリアット(往年のスタン・ハンセンスタイル)逃げずに
ちゃんと受け止めてよね
たーばたばたばたばたばたばねっ!
たーばたばたばたばたばたばねっ!
「という夢を見たんだ」
「知るか」
◆
何だかんだで文化祭の当日である。この程度のキンクリはいつもの事なので気にしないのが吉。
で、俺はと言えば「IS学園正面ゲート前」のモノレール駅のホームに仁王立ちしている。朝一番から。
「マジめんどくさいんですけど。これなら何作ってもカレーになるインドの料理番組見てた方が良いんだけど」
「そう言わないでください。学園長が表に出る訳にはいきませんし……」
「そうは言うがね虚君、こちとらスーツもロクに着て無いんだぜ? そんなんが出迎えってどーよ」
「自覚してるなら着て下さい……」
やだ。毎週のように教頭から着ろって言われてるけど嫌だ。こちとらフリーダムが売りなんでね。
なんてやってると校内放送で学園祭の開始を告げるアナウンスが鳴る。そしてその直後にやってくるモノレール。
「お、来た来た。さぁーて最初のお客様は、と?」
「五反田弾が、IS学園に、キタ―――――――――――ッ!」
「うっさい馬鹿兄っ!」
赤毛ズでした。蘭ちゃんにボコられないようにチケット送ってやったのに結局ボコられてやんの。
「おーい。だーん、蘭ちゃーん」
「あ、源蔵さん! おはようございます!」
「ん、おはよう。そして女の子として兄を片手で引きずるのはやめた方がいいぞ」
この兄妹は世論とか関係なしにこういう力関係な気がする。七代目が居ない限り。
「あいててて……で、何で源蔵さんはここに?」
「ホラ、俺これでもそこそこ偉いさんだから。政府とか企業の人のお出迎えにね」
「はぁ……あ、チケットありがとうございます! でも良かったんですか? これって一人一枚って聞いたんですけど……」
「いや、俺教員だし何枚でも出せるのよ。だから無問題」
ちなみに出迎えしてるのは束が来るまでです。教頭から逃げてるとも言う。
「佐倉先生、お知り合いですか?」
「ん、ああ。一夏のダチとその妹さん。二人とも、チケット渡して」
「あ、は、はい!」
蘭ちゃんは恐らく緊張から、弾は下心からガッチガチに固まっている。虚君はそれを見てクスクスと笑う。案外黒いな、君。
「そんでどーする? 一夏と待ち合わせでもしてんのか?」
「あ、はい。迎えに行くからここで待ってろって言ってましたけど……」
「そうか。なら虚君、話し相手になってやってくれ」
「……仕事の妨げにならない程度でしたら」
やれやれ、と言わんばかりに虚君は微笑む。んー、一夏だけじゃなく弾も年上に弱い気がする。
「お仕事……えっと、学生さんですよね?」
「ええ、生徒会の会計をしているんです。その関係で今回はここの対応を」
「あ、そ、そうなんですか! あ、そう言えば自己紹介まだでしたよね! 俺、五反田弾です!」
「ああ、そう言えばまだでしたね。布仏虚と申します」
んー、何か少しずつ砂糖吐きたくなってきた。蘭ちゃんも蘭ちゃんで何か感じ取ってるっぽいし。
「蘭ちゃん蘭ちゃん、君のお兄さんが逆玉狙ってるけど良いの?」
「逆玉って……そんなに凄い人なんですか?」
「三年整備科の首席。つまり学生としては最もISに詳しい人間だ」
「……お兄ちゃん、釣り合いませんよね」
まーね。でも何か会話弾んでるんですが。『だんんでる』ではない。
なんて漫才ものってきた所で次の電車が現れる。はい次だーれだ?
「お、お久しぶりです。佐倉博士」
「意外と早かった各国の方々でした。ん、久しぶりだね楊さん」
中国人なのにチャイナドレスと語尾のアルを装備していない楊候補生管理官が現れた!
「今までのデータとかはいつもの所に置いてあるから」
「あ、は、はいっ。それで、ですね……その……」
「お、他にも何人か来てるな。んじゃ俺はこれで」
「……うぅ」
同じ電車に各国の偉いさんがそこそこ乗ってたので挨拶をしに離れる。割と忙しいなこの仕事。
あと戻ってきたら何故か楊さんが居なくなってました。蘭ちゃんに少し睨まれました。弾は虚君とずーっと話してました。モゲロ。
「ドクトル! お久しぶりです!」
「おー、夏以来だな。どうだクラリス、ツヴァイクの調子は」
「はい、上々です。出来れば今度フルメンテナンスをお願いしたいのですが……」
「んー、ここんとこ忙しいからなー。暇ができたら連絡するわ」
次の電車にはクラリスことクラリッサが乗っていた。良いのかドイツ特殊部隊、専用機持ちの半数以上が国を離れてるぞ。
「その……い、一緒に回りませんか?」
「あー、すまん。仕事その他諸々があるんでな。あ、ラウラは一年一組だぞ」
「そうでしたか……隊長に関しては確認済みです。それでは失礼致します!」
「あいよー」
カメラを片手にクラリスは学園へと突撃していく。今のラウラをあいつが見たら鼻から忠誠心が迸るだろう。掃除のおばちゃんゴメン。
お、ねーくすととれいんずお客ー?
「よう」
「ん、ああ。ヴァンか。頭フッサフサだから気付かんかった」
「ヅラじゃないぞ? あれ以来毛根が強くなってな」
「嘘だっ!」
全世界のオッサンに喧嘩を売るデュノア社の長。もっかして重役にいびられてんのってそれが原因なんじゃねーの?
と、ヴァンの後ろには不自然な空白の空間。これはまさか、
「おーい、佐倉さん! こっちこっち! ここですよー!」
「お、やっぱりワカか。そーれ高い高ーい」
「って、きゃー! 何でいきなり投げるんですかー!?」
視界の下にすっぽり収まっていた顔見知りの脇を掴み、そのままぽーんと上に投げる。ゲストに対してこの扱いはどうよ。
……はて、何か今電波が紛れ込んだ気がする。
「で、何でまたここに? 握手会とかやってねーぞ?」
「何言ってるか相変わらずよく解らないですけど……企業側の人間としては一年生の人材も気になるのですよ」
「そんなもんか。それなら国とか企業向けデータ置いてるブースが管理棟にあるから、そこ行っときな」
「そうなんですか。じゃあ後で行ってみますね!」
しかしアイツのお眼鏡に叶う奴は居るんだろうか? 非実在少年騒動の時に「じゃあ私グレネードと結婚します」ってスレ立てた最大の容疑者だしなぁ……。
「お、あれは確か……そうそう、グレン君だったな」
「チェルシー・ブランケットです……いきなり何ですかドクター」
「いや、ドリルの相棒的な意味で」
友情合体オルコブランみたいな……あれ? 意外と強そう。
「確かオルコット君の所のメイドだったな。今一年一組に行けば面白い物が見れる筈だぞ」
「そうですか、それは楽しみです……それと後ろの彼は?」
「ただの煩悩の塊だ、気にするでない。それじゃあ楽しんでくると良い」
「ええ、失礼します」
後ろで妹と眼鏡にコンボ食らってる男は無視。いくらメイドだからって口説いてる途中にガン見は無いわ。
で、そろそろ一時間経ちそうなんですがね。いい加減待ち草臥れてきたんですが……と未だ永久コンボの効果音が響くホームに新たなモノレールがやってくる。
それには正体を隠した彼女が乗っていた。
「おーい!」
「ああ、やっと着―――」
何アレ。
「えへへー、どう?」
何コレ。
「ぐぅっ……!」
「や、やだなー。オーバーだよー」
ガクリと膝から崩れ落ちた俺に見当違いなリアクションを見せる束。違う、違うんだよ。
「25歳で、高校生の制服は無いだろう……っ!」
木を隠すなら森の中、人を隠すなら人の中。その理論に基づいて束は解り辛い格好でやって来ていた。
まあつまり回りくどい言い方やめてバッサリ言うとIS学園の制服着て来てるんですよ。
に じ ゅ う ご さ い な の に 。
「な、なにぃー!? ほらほら、可愛いでしょ! 嬉しくないの!?」
「いや嬉しいし怖いくらい似合ってるけどさぁ……歳考えろよ25歳児」
もうどっからどー見てもイメクラです本当にありがとうございました。
……いや、可愛いよ? 胸元が妙にキツそうだけどそれもまた良し。
でもさぁ……。
「……ま、変装って考えれば良いか。んじゃ行こうぜ」
「わっかりましたー、佐倉せんせー!」
ぴょん、と飛びついてきた束は自然に俺の腕を取って体を絡ませる。んー、グレイトな感触だ。
「じゃあ俺らは行くな。もう少ししたら一夏も来るだろ」
「あ、はい! 今日は本当にありがとうございました! お兄! これでトドメよ!」
「んー。あと勝手に『ディグ・ミー・ノー・グレイブ』使うのやめれ」
ギターケース型暴徒鎮圧用装備『デスペラード』と対を成す装備なのだが何故ここにあるんだ。
◇
とりあえず一年一組に向かった俺達を待っていたのは更なるカオスであった。っつーか何で俺がツッコミ役になってるんだ?
「お帰りなさいませご主人様」
「ぶふぉぉぉ……」
「カカカカカッ!」
「……っ!(ビクンビクン)」
えーっと、何これ。
……まず一つ一つ見ていこう。うん。
「お帰りなさいませご主人様」
やたら堂に入ったメイドが居るかと思ったらブランケット君でした。そりゃ本職だもんな。
オーケー、次。
「ぶふぉぉぉ……」
席の一つではクラリスが鼻血ダクダク流しながら恍惚とした表情で死にかけている。
まあこれはラウラのせいだろう。はい次。
「カカカカカッ!」
うん、ここだ。どうして厨房にヴァンが居て鉄鍋を振り回してるんだ。
おーい、誰か説明頼むわ。
「事の始まりは今朝の衣装合わせの時でした……」
「ああ、谷本君か……っつーかそっからかよ」
どうも鈴にチャイナドレスを着せたい一団が居たらしく、それなら他の連中もメイド服じゃなくて良くね? となったらしい。
箒は巫女、まあ本職だしこれは良いな。本人も動きやすそうで何より。
セシリアはネタが無かったのでメイドのまま。まあこれも良い。
ラウラが何故かメイド服に猫耳としっぽを装着しているのは……まあ許容範囲内だ。
……シャルロットが執事服になってから妙に機嫌が悪いのが始まりだったらしい。
あー、そりゃしょーがねーな。
「社長さんが入ってくるなりスライディング土下座をかましたんですが、それを容赦なく足蹴にし始めまして……」
「黒シャルロット爆誕、と。頭の打ち所でも悪かったのか?」
「あ、いえ、社長さんが何かをしてあげたかったらしくって……それで厨房をお願いしたんです」
どーもヴァンは珍しい『料理をすると性格が豹変する人間』だったらしい。普通スピード出してる時とかじゃねーのか?
……まあ、仲も良さそうだし別に良いか。保健所から苦情が来ることも無いしな、この学校。
「……っ!(ビクンビクン)」
それよりもさっきからずーっと「悔しい、でもっ……!」ってなってる千冬が最大の問題である。
どーも表情を見る限り、笑い過ぎて痙攣をおこしてるらしい。原因を探して周囲を見渡すとそこには揺れる尻尾が一つ。
「……ラウラの猫耳メイドを見て笑い過ぎたのか」
「おーい、ちーちゃーん。そろそろ戻ってこーい」
よく痙攣し続けて窒息しないな、と感心していると笑いも収まったのか千冬は深呼吸をする。その目の前には束。
そう、『学園の制服を着た状態』の束である。
「ぶいっ!」
「……源蔵、私は疲れているらしい。25歳がしてはいけない格好をしている幼馴染が見える」
目から光が無くなった状態の千冬がこっちを見る。やめろ、シアーハートアタックなんざ使ってねーぞ。
まあ、とりあえず千冬には現実に戻って来て貰いますか。
「俺は言っている―――これは現実だと―――」
「束ぇぇぇぇっ!」
……修羅と化した千冬から逃げ出し、水泳部のドリンク屋で木村ごっこをしたり、セクシーコマンドー部やら囲碁サッカー部やらを覗く。
片手間で作ったSDキャラのISレースゲームで遊んでたりしていると時間も過ぎ、ついにあのイベントが始まる時間になった。
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『では一つ、皆様学生諸君の歌劇をご観覧あれ。その筋書きはありきたりだが、役者が良い。至高と信ずる。故に、面白くなると思うよ』
お姉ちゃんがどこかニートっぽい語りを入れると、舞台の幕が上がる。あまりのウザさにイラッとしたのは内緒。
「おー、おりむーは大人気だねー」
「……むぅ」
隣の本音がもう解りきっている事を言う。本当なら私も混じりたかったけど、更識の人間として頼まれた事があるから出ていく事はできない。
……そう言えば、さっきから虚さんがぼーっとしてるけど何でだろう?
「本音……虚さん、どうしたの……?」
「んー、よく解んないけど先越された気がするー」
「……?」
結局よく解らなかったのでステージに視線を戻すと、真・流星胡蝶拳とかシュトゥルム・ウント・ドランクとかローゼス・ビットとか聞こえてきた。
……あれってBT兵器じゃないの? あとセシリアさんは霧に偽物紛れさせるのはやめようよ。メイドさんの仕業なんだろうけど。
『さあ、これよりフリーエントリー組の登場です! それでは皆さん声を合わせて!』
「「「我ら名前を血風連! 振るう刃は相手を選ばず、退かねば血潮の海となる!」」」
……佐倉先生なら「何というロングホーントレイン」とか言うんだろうなぁ……ロングホーン?
「かーんちゃーん、たっちゃんが呼んでるよー」
「あ……うん、解った……」
現実逃避してる場合じゃないよね。お仕事お仕事。
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んー、ボロボロ。
一週間で合計四時間ぐらいしか使えて無いのでたったこれっぽっちでもかなり時間かかってます。
次は戦闘話。伏線一個回収します、お楽しみに。
やはり移動時間が惜しい……。
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