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第十七話「F99(やまやのバストサイズではない)」
どうも! ゲンゾー&バニーの一日三度の束ニーは欠かさない方、佐倉源蔵です!
え、あの、千冬さん? そのポン刀は一体どこから? え、あのちょギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
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暇を持て余していたのをアクニャ先生に見咎められ、何故か全力仕様の先生と戦う事になってトラウマを増やしたりしながら遂にやってきましたキャノンボール・ファスト当日!
あ、あと今日私誕生日だよ! 皆さあ、私と一夏が双子って事忘れてない? 忘れてないよね、大丈夫だよね!? とりあえず一夏には包丁をプレゼントしておきます。
「千春……居る?」
「あれ? どったの簪。まだもーちょい時間無いっけ?」
「あ、うん……今二年生の貸与機組が終わった所だから、これから二年生の一般レースだって……」
新パックの調整をしていると隣に簪がやってきた。他の専用機組の皆もISこそ展開していないものの、準備体操や調整を繰り返している。
まあそれは良いんだけど箒、ISスーツで座禅組むのはどうかと思うよ? 一夏だって居るんだし。
「それにしてもとうとう作っちゃったのね、源ちゃん」
「『紅椿は束の手製だから弄り易い』って言ってたっけ……輻射波動?」
「あるわね。アレは間違いなく」
だって地上移動用にランドスピナー作る人だもん。ただ輻射波動は操縦者へのダメージが大きいだろうし、ほぼ間違いなく禁止装備になってる筈。
「それで簪、『二号機』の調子はどう? カラーリングが気に入らないとか言ってたけど」
「調子は良いよ……黒ベースに金と紫ってのは、ちょっとアレだけど……」
「お前は死んでなきゃなぁ、とか言いそうなカラーね」
「黒、金って来たらやっぱり赤が良いと思う……」
ラウラと丸被りじゃない、それ。
「ブーストユニットに展開装甲使ってるせいで燃費は一号機……ガンナーズ・ブルームより大分悪いのよね?」
「その分性能は良いけど……元々、六花くらいの演算性能が無いと扱い切れないって……」
「データ蓄積に時間がかかったんだっけ……で、確か名前違うのよね? 何だっけ?」
「ジーバード……これの元、何だろう……?」
えーっと、確か……あ、アレだ!
「ネオよネオ! シルエットフォーミュラの! これで両方できるようになったとか言ってたし!」
「またニッチなネタ……」
でも源ちゃんの事だからその内変形機構とかやり始めそうよね。プロンプトとかプルトニウスとか。
「千春は……? 新しいパックだよね……」
「ええ。ジョイントにそれぞれ展開装甲を装備、燃費ガン無視で性能を突き詰めたパック。その名も『レコードブレイカー』だってさ」
「でも四枚羽じゃなく六枚羽……」
「そりゃジョイントの数だからしょうがないわよ」
紅椿に使われている物のコピー品だから性能は若干落ちるらしいけど、その分燃費は良いとか何とか。どういう理屈よ。
「でも攻撃転用はできないみたいね。パラメータが移動と防御に全振りしてあって変更できないわ」
「じゃあ攻撃は手持ちの分だけ……?」
「最悪ぶつければ良いらしいけど」
「何と言う光の翼……」
それだけは言っちゃ駄目よ。ただでさえ六花がノリノリで『ちゃべーです』とか言い出してるんだから。
ビームシールド(っぽいの)は雪羅にあるし、多分ビームローターとか作ろうと思えば作れそうね……。
「あ……そう言えば、佐倉先生がこの間一万年と二千年前からって……」
「今度はそっちか……!」
私は新世界の神さんみたいに頭を抱え始める。量子化技術使えばほぼ無限に伸びるだろうけどさぁ……もしくは三体合体?
あの人相手に悩むのは時間と労力の無駄だって解ってはいるけど、それでも頭を抱えずにはいられない。
「みなさーん、そろそろ時間でーす。準備を始めて下さーい」
と、私がうんうんと唸っていたら山田先生が胸部のレコードブレイカーを揺らしながらやってきた。Fどころじゃないわねアレは。
と、そう言えば先に私達なんだっけ。今やってる二年生用を一年生用に変えないといけないから忙しいって源ちゃん言ってたわね。
私達が各々のISを展開していると一夏が箒に引き摺られてきた。何してんのアンタ。
「お、皆もう準備できてるのか」
「できてないのはアンタだけよ。で、結局セッティングはどうしたの?」
「スラスター全振り。攻撃は体当たりだ」
何この猪。
「まあ白式は装備持てないから仕方ないけど……頭悪い仕様ね」
「千春も良い勝負だけど……」
「フン、私のは展開装甲だから自動で防御されるのよ。それにガンナーズ・ブルーム使うしね」
ずりーとか後ろで愚弟が言ってるけど気にしない。恨むならそんな機体にした束さんを恨みなさい。
「さあ! それじゃあ移動しますよー! 準備は良いですねー? 返事は聞いてませんけどー」
「……山田先生も逞しくなったわね」
縦二列でジグザグに並び、シグナルが変わるのを待つ。因みに順番は前の左から一夏、ラウラ、鈴、箒、セシリア、簪、シャルロット、私だ。こればっかりは籤運がモノを言う。
会場のテンションは既にトップに入っており、今か今かとコース上の私達と正面の大型スクリーンに見入っている。間違いなくこの中の何割かは賭けやってるわね。
『ここでIGPX! とか言っちゃ駄目かnイテテテテ! 解った、解ったからそれやめろってギャァー!』
何やってんのあの人。っつーか仕事は?
『ったく……じゃあ行くぞテメエら! ゲットセット!』
っとと。エネルギーはほぼマックス、出力臨界……オッケーね。
『レディ……ゴォッ!』
ゴン、と全身を叩きつけられるような感触と共に空気にぶつかって行く。今の装備は最初から全開で飛ばすと当然のようにエネルギー切れを起こすので、今の私は必然的に追い上げだ。
『ですが、攻撃をする分には問題ありません』
「そうね。じゃなきゃ何の為にガンナーズ・ブルームを銃に戻したのって話よ」
『ではケツからぶち抜いて差し上げましょうか』
下品ねぇ、とターゲットサイトに映る箒に狙いを定める。よく鍛えられたお尻が装甲とISスーツに圧迫されてプリプリと動いていた。
『幼馴染の尻をガン見する人に言われたくはありません』
「うっさいわね……っと!」
エネルギー節約のために普通の実弾銃だが、それでも歩兵用の対物狙撃銃よりは強力だ。見事に装甲の隙間を縫って生身の部分に着弾、絶対防御を発動させていた。
『むっ、千春か!? 何をする!』
「一夏のお尻追っかけたいのは解るけど、後ろがお留守よ? ああ、オカマ掘られたいってんなら歓迎するわよ。私はノンケでも構わず食べちゃうんだから」
『なっ、何の話だ!? と言うか誰が一夏の尻なぞ―――』
『つまりシールドエネルギーをゼロにしてリタイアさせよう、と言う話です。そのルールは健在ですよ?』
通信の向こうの箒はハッとした顔になり、牽制の攻撃を何度か撃ってきた。良いわね、真っ直ぐ過ぎて狙い通り動いてるわ。計画通りよ。
「エネルギー兵装しかない紅椿は攻撃すればするほど加速のチャンスが減っていく……っと」
『何だかんだで最大の脅威は彼女ですからね』
「ホントよ。IS/BSのパラメータで燃費以外ほぼマックスってバカなの? アホなの? 何なの? 死ぬの?」
『やかましいっ!』
びしゅーん、と赤いレーザーが私の隣を走っていく。箒の最大の弱点はこの怒り易さね。エネルギー調整が必要な機体には常に冷静さが求められる、って授業でやんなかったっけ?
「とりあえず2週目が終わるまでは箒と遊んでましょ。六花、状況が変わったら教えてね」
『了解。確率計算を平行して行います』
そいつは結構、と私は箒の相手に専念する事にする。びゅんびゅんと飛び交うレーザーやらミサイルやらをやり過ごしつつ、先頭集団が二週目に入ってきた時だった。
『マスター! アリーナ外にIS反応です!』
「まぁたトラブルね! まあ薄々来るかなとは思ってたけど!」
『パターン照合……完了! サイレント・ゼフィルスです!』
「またアイツ!?」
なんて驚いている間に先頭集団がレーザーに串刺しにされる。それとほぼ同時に緊急避難警報がアリーナ内に鳴り響いた。流石に上もこれは予想してたのね。
「で、どうしよっか? このまま私だけレース続ける?」
『それはそれで有りですね。どの道マスターは狙われるでしょうし、トップスピードに乗ったままでいるのは射撃に対して有効かと』
「じゃあそれで決まり! 一夏、おっ先!」
「あ、おい千春っ!」
六花との話し合いが終わるのとほぼ同時に一夏の隣を駆け抜けていく。ゼフィルスは私の後を追うようにレーザーを降らせてきた。
「おっとと……一発一発の精度はセシリアの方が上ね」
『肯定。偏向制御にばかり目が行きがちですが、彼女のような『追い』の強かさは有りません』
「よっ、ほっ、はっ! ほーらほら、鬼さんこちら手の鳴る方へっと!」
『他の機体の再起動が終了した模様。全機迎撃に回るようです』
相変わらず正義感の強いこと……相手の目的もハッキリしない内に突っ込むのはやめなさいって。あー、ホラ言わんこっちゃない。
『甲龍の撃墜を確認。操縦者のバイタルは安定しています』
「なら大丈夫ね。で、どう? 行ける?」
『もう少々データ蓄積が完了すれば確実に。今の段階では勝率が90%を超えるパターンが存在しません』
「そう、ならもう少し様子を……あれ?」
飛んでっちゃった……って、だからセシリア追っちゃ駄目だって。第一そっちは市街地だから始末書かく羽目になるよー。
「参ったわね……どうしよっか?」
『大人しくレースの続行を―――マスター! 敵機の武装解析が終了しました! 追撃を進言します!』
「何よ、何かまずいもんでも……って、何このグラフ。シールドバリアーの波形っぽいけど」
『銃剣より発生していたエネルギーフィールドです! シールドバリアーと同程度以上の出力で発振させた場合、シールドを無効化する効果があると予想されます!』
六花から伝えられた衝撃的な事実に私は思わず足を止めてしまう。と言うかどの道レースは中止だろうし、ゼフィルス――エムとか言ったっけ、あの操縦者――も居ない。足を止めても問題は無い筈。
「まさかゼフィルスの開発って、源ちゃんが……?」
『何らかの形で関与しているのは間違い有りません。また、今までの開発履歴にバリアー中和用装置が確認されています。そのデータを不正に入手し小型化した物かと』
「チッ……流石にセシリアと一夏じゃ分が悪過ぎるわ……追うわよ、六花!」
『了解』
私はパックをレインダンサーに切り替え、始末書組への参入を決定した。全く、散々な誕生日ね!
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一方その頃、ピットに隣接されている格納庫って言うか俺はと言うと、結構どうしようもない状況に陥っていた。
「参ったな……」
「あら? 私ではダンスの相手としては不足かしら?」
「過剰なまでの評価どーも、っと!」
爆ぜる床から逃げるように転がり、その勢いを利用して立ち上がる。焼け爛れた床の欠片がそこらじゅうに散乱していた。
「生身の人間にIS用の装備ってのはどーかと思うけど!?」
「ご高名な佐倉博士ですもの、この程度なら問題は無いでしょう?」
「俺は千冬じゃねぇ!」
当人に聞かれたら殺されそうな台詞を吐きつつ、またしても俺の足元で床が熱量に耐え切れなくなって爆発した。
畜生、学園内だったら『アレ』も使えるしどうとでも出来るってのによ……。
「しっかし、『レーザーボム』なんざ持って来やがって……懐かしいじゃねーかこの野郎」
「お褒めに預かり光栄ね。この程度しか用意できなかったけど、楽しんで貰っているようで何よりだわ」
「一歩間違えば俺が爆散するような状況を楽しめるかよ……」
対象物中の水分を超高速振動させて一気に水蒸気爆発まで持っていく頭の悪い兵器こと『レーザーボム』。
まあ当然ながら俺の作品であり、発表した直後に国際IS委員会から使用禁止令が出た欠陥品だ。
で、そんなもんを向けられてるって事は今現在俺は命を狙われてるって事でそろそろ誰か助けてぇー!
「ふふっ、ここは電子的にも物理的にも厳重なロックをかけてあるのよ? 誰も助けになんて来れないわ」
「それはどうかな? 俺の予想ではそろそろ馬鹿笑いと共にアイツが来る頃なんだが……」
………。
「来ないわよ?」
「アルェー?」
口を『3』の形にしながらもう一回攻撃を避けると、狙っていたかのように馬鹿笑い、もとい高笑いがピットに響いた。
「だ、誰っ!?」
「野生の妹とキノコ狩りをするカメラマンの母親との友情にむせび泣く男と摩り替えておいた鉄十字キラー!」
「滅茶苦茶だなオイ」
声の方を見ると、さっきまで何も無かったコンテナの上に人影が一つ。お前結構高い所好きだよね。
「あ、貴女は……」
「貴様に名乗る名などないっ!」
「キャータッチャーン」
タテ姉さんこと楯無はコンテナから飛び降りながらミステリアス・レイディを展開し、そのままの勢いで蛇腹剣で攻撃を加えた。
俺ごと。
「うおぉぉぉぉぉぉっ!?」
「なっ、彼ごと!?」
「この程度なら佐倉先生は避けられるわよ!」
「覚えてろ馬鹿野郎ぉぉぉぉぉっ!」
俺が逃げた先には何食わぬ顔で立ってる虚君と開いてるドア。畜生お前らなんか嫌いだー!
◆
「それにしても散々な一日だったわ……」
ぷひー、とテーブルに突っ伏す。結局ゼフィルスを取り逃がして学校に戻ってきた私達は、当然のように始末書を書かされた。
何でも源ちゃんが亡国機業の人間に襲われていたらしく、その事でも少しばかしお叱りを受けた。私関係無いのにー。
で、今は家に戻って誕生日パーティーの真っ最中。宴も酣、って時間である。
「ありゃ、ジュース無くなっちまったな……ちょっと買ってくるよ」
「アンタ主賓でしょうが……私が行くわよ」
「千春だってそうだろ、俺が行くから良いよ」
「……ちょっと歩きたい気分なのよ。二人で行きましょ」
まあそういう事なら、と最寄の自販機まで一夏と二人で歩く。そう言えば最近一夏と二人って無かったなー、とどうでも良い事を考えていた。
「なんか久しぶりだな、二人きりになるのって」
「そうねー。私は大抵簪と一緒だし、アンタの方は誰かしら居るもんね」
「あと源兄ぃも千春の近くに居るよな」
「白式が装備追加できればアンタの方にも行くわよ」
あの人はやりたい事やってるだけだしね、周りの迷惑なんて一切考えないし。でも、あの唯我独尊が服着て歩いてるような源ちゃんでも束さんだけはホント別なのよねー。
「白式もなぁ……良い機体ではあるんだけど、追加装備一切無しってのはキツいよ」
「六花はシャルロットのリヴァイブ並みに容量あるけど……源ちゃん、白式の仕様の事知ってたのかしら?」
「束さん経由で知ってたんじゃないか?」
「なるへそ」
数分歩いて最寄の自販機に札をぶち込み、ぺこぺことボタンを押していく。そして最後に私のSASUKEを取り出し口から出した時、私達の背後で一つの足音が響いた。
「見つけた……」
たった一言に籠められた憎悪と悪意は、まるで物理的な衝撃を伴うかのように私達に襲い掛かる。そしてその声は、私がこの世で一番聞いている声だった。
「な―――!?」
「六花」
『スキャン完了。99.9998%の確率でサイレント・ゼフィルスの操縦者です』
スニーカーがコンクリートを踏む音が静かに私達の間に響き、目の前の『ソレ』はオートマチックの銃を私に向けた。
「だっ、誰だお前はっ!?」
「……織斑、マドカ」
マドカのミステリー、なんて悠長な事は言ってられる状況じゃないわね。さっきから銃口が私の眉間にピッタリ合わさって微動だにしないし。
「な―――そんな、でもどうして……!?」
「喧しい……私は貴様には興味が無い。どこへなりとも消え失せろ」
「でっ、出来る訳無いだろそんな事! さっさとその銃を下ろせ!」
一夏はうろたえながらも気丈に叫ぶが、自称マドカさんは鼻息で返事をして一夏を完全に意識の外に向ける。よし、今よ一夏! 切り捨ててやりなさい!
「『姉さん』の前に、まずは貴様からだ! ドッペルゲンガー!」
どっちがよ、と反射的に突っ込む前に視界が強烈な光に包まれる。あ、こりゃ死んだわね。
『死んでません』
「へ?」
よくサボる巨乳死神と山田先生のどっちの乳が上かを確かめようと体から力を抜くが、どうも体中がふんわりと何かに包まれている。この寄せて上げつつも体にフィットする感覚って……。
「あら、六花……自力で展開したの?」
『肯定。ついでにGAU-ISを展開しておきました』
「いや生身にやったら跡形も残らないから……って、逃げられた?」
『肯定。愚弟様はボーっと突っ立っているようですが』
全身で「おでれえた!」とでも言いそうなポーズで一夏が固まっている。いや、驚いたのは解ったからせめて何かしなさいよ……。
「追跡、できる?」
『ロストしました、申し訳有りません』
「ん、まあ良いわ。とりあえず帰りましょうか」
『了解。武装を解除します』
ISスーツの再量子化と共に普段着が展開され、私は数十センチ下の地面に降り立つ。ホントは街中で展開したら大目玉だけど、まあ緊急回避って事で一つ。
「ホラ、何ボーっとしてんのよ。さっさとジュース拾って帰るわよ」
「え、あ、おう……って、大丈夫か千春!」
「遅いわよ……無傷。流石は六花、どっかの愚弟さんとは一味違うわ」
「わ、悪い……今度は間に合うようにするからな!」
んな二回も三回も襲撃されてたまるもんですか。
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以上キャノンボール編でした。
やっぱ本格的なバトルが無いとネタが入れ辛い……最近は入れ過ぎって声があったのでこれ位で良いのかも知れませんが。
でも束さんが出ないとついネタを入れちゃうんですよね……転生チートオリ主(笑)なんで、クオリティその他諸々は「お察し下さい」レベルですし。
所でBD特典の小説とか設定資料集ってまとめて別売りとかしないんですかね? チラホラと噂を聞いてから見てみたいんですがBD買う余裕は無いし……BD自体は別に要らないし。
次回、ゴーレムⅢ編。最序盤から考えてたネタが遂に現れます。
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